IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第七十一話
「全学年合同タッグマッチ」
全学年合同タッグマッチ当日の朝、キラとラクスは朝の5時には既に起床しており、ブリリアントフリーダムとオルタナティヴの最終チェックを行っていた。
「そう言えば、今日の対戦組み合わせは開会式の時に発表されるのでしたわね」
「うん、今回のタッグマッチで盛り上がるのは間違いなく専用機持ちだと思う。注目は必至かな」
現在、IS学園の専用機持ちの人数は12人、キラとラクス、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、楯無、それから二年のフォルテ・サファイア、三年のダリル・ケイシーだ。
「この中で、私とキラがペア、一夏さんと箒さん、セシリアさんと鈴さん、シャルさんと簪さん、フォルテ・サファイアさんとダリル・ケイシーさんがペアでしたか・・・」
「そう、それでラウラと本音さん、会長と虚さんだよね」
注目すべきカードは合計7組、専用機持ちの組は確かに強力だが、元々整備課である筈の虚や来年度より整備課へ行く予定である本音も実力は非常に高いので、面白い試合になるのは間違いないだろう。
「・・・よし、ブリリアントフリーダム、システムオールグリーン。チェック完了」
「オルタナティヴ、システムオールグリーン。チェック完了ですわ」
チェックを終えたのは良いのだが、まだ時間は6時を過ぎたばかり。特にする事も無くなったので、ラクスは紅茶を、キラは珈琲を淹れて、のんびりと雑談をしながら時間を潰すのだった。
開会式が始まった。壇上には虚が立っており、司会進行を行っている。
「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます」
虚が後ろに下がると、今度は楯無が前に出てきて、マイクの前に立った。こうして見ると、ちゃんとした生徒会長に見えるのだから不思議である。
「どうも、皆さん。今日は専用機持ちと、その専用機持ちのパートナーになった生徒のタッグマッチトーナメントですが、試合内容は皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてください」
専用機持ちのパートナーになったのは本音と虚の布仏姉妹のみ、後の生徒は皆、観客として試合を見て、それで今後の勉強に役立てる。それがこの大会の趣向でもある。
「まあ、それはそれとして!」
おもむろに楯無は持っていた扇子を開いた。その扇子には何故か『博徒』の文字が書かれている。
「今日は生徒全員に楽しんでもらう為に生徒会である企画を考えました。名づけて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」
その瞬間、全生徒が歓喜に包まれた。明らかなギャンブルなのだが、楯無が根回しをしていたのだろう。
何故なら、頭を抱える千冬と、オロオロしている真耶以外の教師は全員、黙って何も言わないのだから。
「まぁ、学生の内は騒げる時に騒ぐのが一番だけど」
「少し、騒ぎすぎですわ」
苦笑しているキラとラクスは、楯無に文句を言っている一夏の様子を眺めていた。同じく生徒会に所属する彼は、何も聞いていないみたいだ。
「では、対戦表を発表します!」
楯無の後ろに現れた空中投影ディスプレイに対戦表が掲示される。一回戦、第一試合はキラとラクスのペアVS一夏と箒のペアとなった。
「げぇ!? キラとラクスが一回戦の相手!?」
「……終わった」
物凄い勢いで一夏と箒が落ち込んだ。一回戦から優勝確実のペアに当たれば、落ち込むのは当然だろう。
他のメンバーも二人に不憫な・・・なんて言いたげな視線を向けている。唯一例外なのはフォルテとダリルの二人、二人はキラの実力を噂でしか知らないので、実際に戦ってみたいと思っていたらしく、一回戦で当たらなかった事が少々残念なご様子だ。
「ハロハロ〜、キー君、ラーちゃん」
「束さん・・・」
試合会場になる第4アリーナに向っている途中で、キラとラクスの所に束が来た。何か嫌な予感がするのは、気のせいではないのだろう。
「もしかして、何かするんですか?」
「うん! 実はもう、くーちゃんにお願いしてゴーレムV全5機をこっちに向かわせてるんだよ〜」
「ゴーレムVを!?」
学園を襲撃すると、本人の口から言われた二人はどんな反応をすれば良いのやら。
「大丈夫、死なない様にしてるから。ゴーレムTの時はキー君がやっちゃったけど、今回は・・・ね?」
「一夏の成長の為にも、手出しはしないで欲しい・・・そういう事ですか?」
「せいか〜い! だって、いくらゴーレムVでも、キー君が相手だと唯の鉄の塊に過ぎないもん」
ゴーレムVは、一夏と箒の所に一機、シャルロットと簪、フォルテとダリルの所に二機、ラウラと本音、鈴音とセシリアの所に一機、楯無と虚の所に一機が向っている。
あと数分もすればゴーレムVが襲撃してくる手筈になっているのだ。
「それで、僕とラクスは何を?」
「学園の外の警戒、かなぁ? 亡国機業がもしも混乱の中で侵入してきたら大変だし、ゴーレムVのコアを奪われるわけにはいかないもん」
「確かに・・・」
未登録のコアが5個、それを奪われるのは不味い。出来る事なら学園の方で回収してくれれば、後で束がコッソリと回収出来るのだから。
「という事は、ゴーレムTのコアは・・・」
「ラーちゃん鋭いねぇ。もち! 束さんが既に回収してました〜」
そう言って束が見せたのはゴーレムTのコアだ。
「実はね、これを使って束さんの専用機を造ろうかと思ってるんだよね〜」
「束さんの・・・?」
「そう! これでもちーちゃんやキー君と同じ、IS適正ランクSだからねぇ。無問題だよ〜」
束の専用機、どんな機体になるのかはまだ判らないが、間違いなく第五世代の高性能機になるだろう。
「さて、そろそろかな〜?」
不意に、束が時計を確認すると、四箇所のアリーナから五つの爆音が聞こえてきた。
「ゴーレムV、ご到着♪」
ゴーレムVが襲撃してきた。全校放送で真耶が避難を呼びかけている声が聞こえてきているから間違いないだろう。
こうなっては仕方が無いとキラとラクスは学園外の警戒をしようと思ったのだが、如何やらこちらから何もしなくとも、向こうから来たみたいだ。
キラとラクス、束の周囲には誰も居ない。だからこそ、三人の前に堂々と現れた二人の女性、一人は前にも見たアラクネの操縦者である巻紙礼子、もう一人は金髪の女性だった。
「篠ノ之束博士、我々と共に来てもらいます」
「は? 何言ってんの? そう言われて素直に従うとでも思ってるなら、随分と頭が悪いんだね」
「てめぇ! スコールが来いっつってんだから大人しく来やがれ!」
巻紙礼子の口から出てきた名前、金髪の女性はスコールと言うらしい。
「まぁ、大人しく来るとは思ってませんよ。だから力づくでお連れしますから・・・そちらのお二人のISも、ついでですから頂いていきますけど」
「亡国機業・・・、随分と大胆だね。こんな時に堂々と出てくるなんて」
「ええ、こんな時だからこそです」
束を下がらせ、オルタナティヴを展開したラクスに預けると、キラはブリリアントフリーダムを展開した。
それを見て、巻紙礼子もアラクネを展開して、スコールの前に出る。
「今度は前みたいにはいかねぇぜ? 前は運良くてめぇが勝ったが、今回は負けない。クルーゼと互角の実力とか言われてるが、男なんかに負ける訳がないんだからな」
「・・・相手との実力差も見抜けないなら、貴女は3流以下ですね」
「っ! 調子に乗るなよ小僧が!!」
突っ込んできたアラクネを余裕で避ける。その避ける際に抜刀したビームサーベルで8本の足を全て切り落とすと、巻紙礼子は無様に地面に転がる姿を晒してしまった。
「なっ!?」
「遅すぎる、貴女、クルーゼよりも自分の方が女性だから強いって思っているみたいですけど、全然ですよ」
「て、めぇ!?」
ビームライフルに持ち代えると、アラクネの両腕を破壊する。これで巻紙礼子に出来る事は何も無くなった。
「こ、こんな・・・こんな事、あってたまるか!? この私が・・・このオータム様が、男なんかに二度も負けるなんて、ありえるか!!」
達磨状態で転がって叫ぶ巻紙礼子・・・オータムを余所に、キラはスコールに向き合った。
キラにとってオータムは相手にすらならない程度の実力だが、このスコールという女性は別だ。クルーゼよりは弱いだろうが、それでもその微笑からは油断の出来ない不気味な威圧を感じられる。
「仕方が無いですね・・・オータムは役に立たなかったみたいだから、私がお相手するしかありませんか」
そう言って、スコールは左手首に巻いた金のブレスレットに触れる。
「私の第五世代型IS、インフェルノが!!」
スコールを包む黄金の光、それがまるで炎の様に揺らめきながら、その身体を装甲が包んでいく。
紅蓮の炎を彩った紅い装甲が目立つIS、見た目はキラが知るガンダムタイプの形に似ているが、全身装甲(フルスキン)ではない。
左右の非固定浮遊部位(アンロックユニット)は機械で出来た翼のような見た目で、右手には装甲と同色のライフルが握られている。
「第五世代・・・!?」
「そうよ・・・これはラウのレジェンドプロヴィデンスのデータから造り出した亡国機業製の第五世代型ISの試作機であり、私の専用機ゴールデン・ドーンに変わる新たな翼、インフェルノ」
「・・・・・・」
「さあ、キラ・ヤマトくん・・・お相手、願えるかしら?」
翼を羽ばたかせ、スコールはキラと向き合った。
キラも両手のビームライフルを構えて向き合うと、感じられる威圧感に全神経を研ぎ澄ませると、脳裏で種が弾ける衝動・・・SEEDを発動させる。
「わかりました・・・ここで、貴女を捕らえさせてもらいます」
「ええ、良いわよ・・・出来るのならね!!」
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