IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第七十九話
「キラの地力」
キラと束による一夏たちのIS強化が進んでいるある日、キラと千冬は道場の中央で向かい合っていた。千冬は木刀を一本の一刀流、キラは木刀を二本持った二刀流で相対する。
そんな二人の様子を一夏たちお馴染みのメンバーが道場の片隅で心配そうに窺っていたのだが、そもそも何故こんな事になったのか、それは前日の夜に話は遡る。
「なぁ、キラってIS使わないで戦うと、どれくらい強いんだ?」
いつも通り、皆揃っての夕飯の席で、一夏が何となく聞いたこの言葉が事の発端だった。
「僕の地力って事? まぁ・・・それなり、かな?」
まだキラがスーパーコーディネイターだという事を話していない盾無と簪が居たので、言葉を濁したが、この場にはキラの実力に興味を示す者が一人居るのを忘れてはいけない。
「ほう? それなりか・・・私も興味がある。如何だ? 一つ手合わせするか? キラ」
「えと・・・千冬さん?」
千冬がキラの実力に興味を示した。
今まで、キラと千冬は生身でも、ISでも戦った事が無い。だからだろうか、千冬はキラの実力に興味があったのだ。
ISでは確実に敵わないのは見ていれば理解出来るが、生身の戦いなら如何なのか、それが気になるのもあるし、スーパーコーディネイターの身体能力にも興味がある。
「明日の放課後、空けておけ。道場でお前の生身の実力を確かめさせてもらう」
「え〜と・・・一夏」
「諦めろ、千冬姉がこう言った以上、もう止められねぇんだ」
「え〜・・・・・・」
諦めるしか無かった。そもそも、千冬に目を付けられて逃げられる筈が無いのは彼女を知る者なら悟って当然で、彼女の性格上、逃げれば地の果てまで追いかけてくるのは間違いない。
「キラ、ファイトですわ」
「頑張ってね、お兄ちゃん」
「キラさん、怪我だけはしないでくださいね」
ラクスとシャルロット、簪の言葉が、妙にプレッシャーとなってキラの背中に重く圧し掛かってきて、キラは引き攣った笑みを浮かべる事しか出来ないのであった。
道場の中央で相対するキラと千冬。
千冬は勿論、始めから気合充分で既に全身からは剣気を放っており、対するキラはというと、道場に来るまでは乗り気ではなかったのに、こうして千冬と対峙してからは表情が一気に引き締まり、普段の儚げな微笑は消え、全身から歴戦の戦士のみが放つオーラを身に纏っていた。
「では・・・」
審判を務める事になった真耶が、二人とも準備は整ったことを確認して、右腕を上げ・・・。
「始め!」
振り下ろすのと同時に二人が動いた。
千冬の振り下ろした木刀が鋭い軌跡を描きながらキラの脳天目掛けて迫り、それをキラが身体を捻りながら避け、その流れから両手の木刀を一閃、二閃と振るう。
「むん!!」
だが、キラが放った二本の木刀の斬撃は、容易く流され、弾かれた。だが、キラもそれは予想済みで、キラの木刀を弾いた千冬が鋭い突きを打ってきても左手の木刀で逸らし、右手の木刀を振るというフェイントを掛けると千冬の足元を自身の足で払った。
「っ! しまっ!?」
「はぁっ!!」
キラのフェイントに引っ掛かったのは油断か、それともキラが木刀のみしか使わないとでも思っていたのか、それは定かではない。
しかし、このチャンスを逃す筈も無く、キラは腰まで下げていた木刀を一気に振り上げ千冬の木刀の破壊、或いは彼女の手から木刀を弾こうとする。
「くっ! 嘗めるな!!」
「グゥッ!?」
アンバランスな体勢から千冬はキラの木刀目掛けて己が木刀を渾身の力でもって振るい、互いに腕を大きく弾かれる結果となった。
互いに弾かれて距離を取る。まだ二人とも息切れをしているという事も無く、まだまだ戦えそうだ。
「キラ、お前の剣技はザフトの軍隊式剣術か?」
「いえ、剣技の方はザフトではなくオーブです。刀はザフトよりオーブの方が栄えていたので」
剣と言えばオーブは刀が主流で、大西洋連邦や地球連合軍は西洋剣が主流、ザフトは剣ではなくどちらかと言えばナイフの方が盛んだった。
「特に、僕に剣を教えてくれた人が凄かったですから」
思い出すのは刀の扱い方、刀での戦い方を教えてくれたキサカだ。カガリの護衛も兼任しているオーブ軍一佐で、オーブ軍一の刀の使い手とも言われている。
普段は重火器を扱っているイメージがあるが、刀の腕が超一流だと知った時には驚いたものだ。
「そうか・・・では、いくぞ!!」
「っ!」
先ほどよりも速く、鋭く、重くなった千冬の一撃、受け止めた木刀を持つ腕が一気に痺れてしまった。
「まだだ!!」
「クッ・・・はあ!!」
両腕が痺れてしまったキラだが、まだ戦えると判断して受けの姿勢から避けの姿勢に入り、速過ぎて切っ先が見えない木刀を避けつつも自身の姿勢を低くして一気に千冬の懐へと飛び込んだ。
「はあっ!!」
「グゥッ!?」
すれ違い様に放ったキラの斬撃が千冬の木刀を破壊し、腹部にめり込んだ。同時にキラの左の木刀が粉砕し、千冬の左拳がキラの右脇腹に入っていた。
「ゴホッ、ゴホッ! ・・・僕の、勝ちですね」
「グッ・・・ああ、今のが真剣なら、私は胴体を断ち切られて真っ二つだっただろうな」
結果としてキラが勝った。しかし千冬はナチュラルの身で軍人として鍛え上げたスーパーコーディネイターであるキラと生身で互角に戦ったのだ。
正直、千冬の白兵戦能力はザフトでも通用するであろう。並のコーディネイターの上を行っているのだから。
「良い勝負だった。キラ、また今度、相手を頼めるか? お前となら昔の勘を取り戻すのも容易そうだ」
「・・・そう、ですね。千冬さんはそれもありましたっけ」
最初は乗り気ではなかったキラも、これが千冬の為であり、今後の為だと思えば吝かではない。手を差し出してきた千冬の手をを握り、確りと握手をしてからキラは男子用シャワー室に向った。
「・・・ふぅ」
頭から冷水を浴びて、その後で熱い湯を浴びると、いつの間にか全身に流れていた汗が一気に洗い流されていく。
シャワーの心地よさを楽しんでいたキラだったが、ふとシャワー室に入ってくる人の気配を感じた。ここは男子用に指定されたシャワー室なので、入ってきたのは間違いなく一夏だ。
「一夏、如何かしたの?」
「あ、いや・・・サンキューなキラ、千冬姉の相手をしてくれて」
「?」
「その、さ・・・千冬姉って最近、少し焦ってたんだよな。隠してたみたいだけど、弟の俺から見れば一目瞭然でさ、早く昔の勘を取り戻そうと少し焦ってたんだ。でもさ、そこにキラとの手合わせで先が見えたみたいで、千冬姉、すげぇ喜んでた」
「そっか・・・」
ならば良かった。
キラは一夏が改めて頭を下げたのを気配で感じながら、もう一度シャワーのお湯を頭から被り、今度こそ気持ちの良い汗を流した。
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