IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第八十話
「強くなる為に」
キラとラクスの指導の下、SEED覚醒の為の訓練を続ける一夏と箒だが、中々芳しくない状況が続いていた。
確かに訓練を始める前よりも強くなったという自覚はある。今なら一夏も箒も、一年の専用機持ちの中で最も強くなったという自信だってある。だが、それでもSEEDに目覚める兆しが見えてこない。
そしてこの日、一夏と箒はキラとラクスが専用機の世代アップの為の作業という事で訓練が休みになったのにも関わらず、二人で第4アリーナを借りて自主訓練を続けていたのだ。
【単一使用能力:零落白夜、発動】
【単一使用能力:絢爛舞踏、発動】
「ぉおおおおおあああああああ!!!」
「はぁああああああああああああ!!!」
互いに黄金の光に包まれながら雪片・弐型を振るう一夏と、雨月と空割を奔らせる箒、消滅の力と増幅の力、相反する矛盾の力がぶつかり合って激しくスパークし、弾ける様に白と紅が大きく距離を取った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・そろそろ、止めにしないか?」
「う、うむ・・・そう、だな」
結局、この模擬戦でもSEEDを覚醒させる事が出来なかった。
確かに今までの模擬戦と比べればレベルが桁違いで、既にIS学園の生徒というレベル所か、代表候補・・・否、国家代表クラスの戦闘を行っていたのだが、それでも駄目だった。
「なぁ箒、本当に俺達にSEEDがあるのかな・・・?」
「・・・如何いう事だ?」
ISを解除してアリーナの中央に座り込む一夏と箒だったが、突然一夏が問いかけてきた内容に、箒は若干だが困惑しながら聞き返す。
「いやさ、俺達がSEED覚醒の為の特別訓練を受け初めて2週間が経つだろ? 確かに実力に関しては上がったっていう実感があるけどさ、正直なことを言うとSEEDが目覚める気配が一向に無いってのはな」
「だから、キラとラクスが私たちにSEEDの因子があると思ったのは勘違いだったのではないかという事か?」
「まぁな」
確かに、一夏と同じ疑問を箒も持ち始めていたのは確かだ。一向に目覚める気配の無いSEEDの因子、それが本当に自分たちにあるのだろうか、そんな考えがここ最近になって芽生えてきている。
「まぁ、もしもSEEDに目覚めなくても訓練のおかげで前より断然強くなったから、全くの無意味だとは思わないけどな」
「そうだな」
今の一夏と箒なら学園最強の楯無とも良い勝負が出来る。いや、戦い方によっては勝てる可能性だってあるだろう。
「さて、と! そろそろシャワー浴びて飯食いに行こうぜ? みんなも待ってるだろうし」
「う、うむ・・・あ、その一夏」
「ん?」
「ゆ、夕飯は一夏の部屋で・・・ふ、二人っきりで食べないか!?」
「・・・・・・へ!?」
顔を真っ赤にして誘ってきた箒に、一夏もまた同じように真っ赤になった。
現在、一夏の部屋は一夏一人で使っている。その部屋に付き合いたてとは言え、恋人と二人っきりというのは、色々と想像してしまうのも無理は無い。一夏も思春期の男の子なのだ。
「だ、駄目…か?」
「え!? あ、いや……駄目じゃ、ない。むしろその…来てくれると、すっげぇ嬉しい」
「そ、そうか…そうかそうか、嬉しい、か…」
これ以上は会話が続かなくなり、二人は顔を真っ赤にしながらそれぞれのロッカールームへ向かい、シャワーを浴びると寮への帰路に着く。
寮の一夏の部屋に着くまで、お互いに会話が無かったのは、言うまでも無い。
一夏の部屋に着いて、夕飯には箒の手料理が振舞われ、食事中は何とか会話が弾むまで持ち直したのだが、食事も終わり、食後のお茶を飲み始めると再び会話が途切れてしまった。
時間的にはそろそろ女子が大浴場を利用し始める時間で、一夏も後2〜3時間もしたら大浴場が使える時間になる。
「ほ、箒は行かないのか? その…風呂]
「あ、ああ……そうだな。あ、いや今日はシャワーだけにしようと思って」
「そ、そっか」
どうしたものか、会話が続かない。何とか話題を見つけようとは思うのだが、一夏も箒も緊張がピークに達していて上手く思考が働いてくれないのだ。
「……あ」
そのとき、一夏の脳裏に閃いた。この空気を打開出来て、尚且つ二人の共通の話題となるたった一つの話。
「あのさ箒、キラに改造してもらう紅椿の第五世代、何かリクエストしたか?」
「む・・・? まぁ、いくつか」
「へぇ、因みに何をリクエストしたんだ?」
「キラのブリリアントフリーダムに搭載されているグリフォンとかいうビームブレイドとフラッシュエッジというビームブーメランを搭載してもらう事になった」
「ああ! あれかぁ・・・」
両手両足で相手に切りかかる箒を想像して、何となくえげつないものをイメージしてしまった。
「一夏は何をリクエストしたんだ?」
「俺はパルマフィオキーナっていう掌部ビーム砲と予備としてビームサーベルにアーマーシュナイダーとかいうナイフ。この二つは格納領域が無いから装甲の中に収納出来る様にするってさ。後は近接防御機関砲かな」
一夏がキラに注文して搭載する事になったアーマーシュナイダーはキラが乗っていたストライクの標準装備であるナイフだ。キラはこれをISサイズで再現して、更に少々改造を加えてスイッチ一つで刃にビームを纏わせる事が可能になった。
「なんていうか・・・俺達ってとことん近接戦闘型だよな」
「だな」
お互いに雪羅の荷電粒子砲、穿千といった射撃兵装を手に入れたというのに、あくまで近接戦闘に拘る。似たものカップルといいう言葉が浮かぶが、正にその通りだろう。
「「……」」
二人とも同じことを考えていたのか、再び真っ赤になって沈黙してしまった。
「あの、さ…」
「一夏、その…」
「「……」」
第三者がこの場に居たら、間違いなくイライラしているだろう。雰囲気は甘いのに、お互いに何も言わない、何もしない。付き合いたてなのだから仕方が無いとは言え、じれった過ぎる。
「一夏…今日、泊まっても良いだろうか」
「っ! い、良いのか?」
「ああ……勿論だ」
箒が言った言葉の意味を理解し、本当に良いのか尋ねた一夏に対して、箒も覚悟を決めたという表情で、それでも真っ赤な顔で、肯定する。
この日、一組の幼馴染兼恋人のカップルは、また一つ大人の階段を登り、より一層互いの絆を深め合うのだった。
そして、遂に待ちに待った日が訪れる。
一夏と箒は未だにSEEDを覚醒させてはいないものの、漸く完成したのだ。一夏たちの専用機の、バージョンアップが。
第三世代は第四世代に、第四世代は第五世代に生まれ変わり、それぞれの主の下に戻って、その進化した性能が明かされる。
「みんな、よく聴いてね」
一夏たちの前にキラが立ち、隣にラクスと束、後ろに千冬と真耶が控えて人払いをした整備室のモニターを開く。
遂に、亡国機業と戦う為の性能が明らかになるのだった。
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