第5話
オレの名は、大和飛輪。
中学2年の運動万能野郎だ。
主に格闘技が好きで、さまざまな武術を研究している。
部活には入っていないため師というモノは存在しないが、オレは敵なしだった。
この日までは……
「そこまで」
体育の空手の試合でオレは完膚なきまでにやられた。
相手はオレより体格が小さい、もやし野郎……月野光。
こいつは、初めて見たときから気に食わなかった。
物静かで、人と距離をとって、上から目線でモノを見ているようで……
そのくせ、オレより運動神経がいい。
あと絶対に許せないのが女性にモテることだ。
なぜこんなもやしに?
こいつは絶対にずるをしている!
オレは月野を調べ始めた。
そして、秘密を暴いてオレが勝つ!
奴は、学校が終わると、リュックを背負い、走り出した。
ハ、ハェー!
オレは自転車で月野を追跡する。
そして、奴はやたらと子供の声がする敷地に入っていく。
うん? なんだここ?
オレはどうしようか迷っていると……
「あら? 貴方は?」
「うぇ!? いい奥さんになりそうランキング中学生の部……第1位の那波千鶴さん!?」
オレのような格闘マニアでも、知っている超弩級の美少女が現れた。
緊張して、変なことも口走ってしまったぞ!
「まあまあ、そのようなランキングが? 光栄のような気もしますが、私はまだ中学生ですよ」
「ですよね〜。これは失敬。それでなんですが、ここに月野光って奴はいませんか?」
「え!? 光さんの友達ですか!? ああ、良かった! あの人にもちゃんと友達がいたんですね。安心しました」
あ、那波さん、顔……真っ赤じゃん。
これ確実に惚れている。
おのれ……月野光!
それと、オレは友達ではない!
でも、彼女の顔をくもらせる訳にはいかず……結局……
「オレは親友ですよ! あははのは!」
「まあ! でしたら、中にどうぞ! 光さんのショーを見ていってください」
ショー? なんじゃそりゃ?
オレは案内されるまま中の砂場に。
そこには一見変人とも取れるスーツを着た奇天烈な人物がオーバーなアクションで縦横無尽に動いていた。
不覚にも感動してしまった。
それほどまでに、華麗で苛烈……そして子供のことをしっかりと考えた演技のようだった。
ショーが終わると、月野がオレに気づく。
「大和? なんでここに?」
「いや、その……おまえいつもこんなことしてるの?」
「毎日じゃない。修行もあるからな。週2回だ」
「修行? 何してるんだ」
「まあ、独学だが、色々節操なく手を出しているよ」
なんだか、少しこいつに興味が出てきたぞ。
オレは、それからこいつのトレーニングに付き合い始めた。
こいつは運動量が明らかに可笑しい。
だがやめない。朝5時から朝練、ボランティアのない日は、友達のジム的な所に行っているらしい。こいつは基礎や型を徹底的にやりこみ、それを工夫して自分でアレンジして使っている。
オレもこいつから、色々教わって前よりかなり強くなった。
オレは、いつしかこいつといるのが好きになっていた。
そんな日……オレは、夜中のトレーニングが遅くなり急いで寮に帰っていた。
あたりに急な寒気が走り、目の前には、オレの3倍はある鬼のようなモノが立っていた。
オレの警報は最大限に鳴り響き、急いで駆け出すも、瞬時にオレは棍棒で弾き飛ばされる。
内臓破裂をしたようで、中身がグチャグチャにかき乱される。
あ、死んだ。
刹那――
「そこまでだ。なぜ、人を襲うのだ。召喚者の命令か?」
そこには幼稚園で見た、月野のスーツと酷似したモノを身にまとった人物がオレの前に大きな背中で立っていた。
鬼は不気味に笑う。
「はぁ? そんなの楽しいからだ。そりゃ召喚者の命令もあるが、人間の苦しむ顔なんて最高だ。笑えるぞ」
「そうか……」
次に見たのは、鬼が数十メートルも吹き飛んだ姿だった。
「オレの友達に手を出すなよ。怪人が!」
まさか……おまえは!?
そのままそいつは、疾走して大きく跳び蹴りを炸裂させた。
鬼は爆発して消滅したようだ。
オレは、悲しそうに去るこいつ……月野に声をかける。
「おい。オレたちダチだろ。ひとりで抱え込むな! オレが力になるし、おまえもオレの力になってくれよ」
月野はスーツ姿だったから表情は分からないが、手が震えていた。
そして……かぼそい声で答える。
「あ、ありがとう」
「飛輪でいい。そのかわりおまえも光と呼ぶぜ」
「オレは……」
「あー! ぐだぐだうぜってぇーよ! おまえはやれることをやればいい! このことも秘密にするから!」
それから、オレは光の紹介で超とかいう天才児のパワードスーツのテストパイロットになった。
その名もsolシリーズと言われるモノで、なかなか操作が難しかったが、なんとかsolシリーズで鬼を退治することに成功する。
このsolシリーズは光の動きや細胞を研究して作られているらしいが、詳しいことは頭が悪いオレにはさっぱり分からん。
あと、超が重火器を使えというがオレには合わんから、戦闘はもっぱら素手やら近接武器だ。中距離や遠距離は使っても槍や弓など。
光と共に戦うこともある。
戦いが終わると決まって光は、泣きそうだった。
その顔を見るたびにオレはこいつが好きになっていった。
オレは格闘マニアだが、無意味な暴力は嫌いだ。
そして光は、それを理解して戦っている。
だから、辛くて、泣きそうなのだ。
精神が弱いのではなく、優しい。
ホント、損な性格だぜ。
昼休み光と屋上で飯を食う。
光は、極力、人と距離を置く。
いつ自分が死ぬか分からないからだ。
親しい人を少なくしているようだ。
でもそれは……とっても寂しいだろ?
オレは知っている。
こいつには、幼馴染みがいた。
少し調べればすぐに分かるほど有名な話だった。
いつも一緒で仲が良く、恋人みたいで、親友のようだったと……
だが、今、光はその子……長谷川千雨ちゃんと一緒にいない。
オレは勇気を出して踏み込む。
このままでいいはずがない。
「なあ、光。おまえの幼馴染みの千雨ちゃん……元気ないらしいぞ」
「え!? なんで……どうしてだ!」
あ――
こいつ、絶対、長谷川千雨ちゃんのこと好きじゃん。
まったくしょうがない奴だ。
「そんなのおまえが側にいないからに決まってるだろ」
「で、でも……オレは――」
「力のことか? なあ……光。おまえ、自分が傷つくのと千雨ちゃんが傷つくの……どっちがいいよ?」
「そ、れ、は……」
「分かったらさっさと仲直りしろよ。このヘタレ!」
「飛輪……おまえな!」
「はははは! おまえのそんな表情レアだぜ? あ、写真撮っていい? 高く売れるぜ?」
そのまま、オレは光と肩を組む。
力があろうがなかろうが……おまえはな――
「光。おまえは人間だよ。誰かを思って泣いて苦しんで……それでいいんだ」
「う、うう……」
「オレより強いくせに泣くなよな」
声を殺して泣く光の肩を強く抱きしめる。
その後、ある喫茶店で。
「なあ、エヴァンジェリンさん。なんで、光をストーキングしてるの? しかもぞろぞろ大人数で。ばれるぞ」
「黙ってろ、大和。そりゃ、光が元気になるのは嬉しいぞ。でも……」
「あん? まさか……ここにいる人たち……光が千雨ちゃんと付き合うのを邪魔しにきたのか? おいおい。野暮なことはよせよ」
しかし、多数の女性達はオレを無視して光を見ている。
すると……
「光……電話にも出ないで心配してたんだぞ。おまけにおまえはずっと無視をしていたし」
「千雨……すまない。怖がらせるつもりはなかった。ただ――」
瞬間――
長谷川千雨ちゃんが深々と頭を下げた。
「ごめん! ホントは、ずっと……ずっと後悔していた! なんで私は、ああなんだ! 守ってくれたのに、頑張ってくれたのに……私は!」
長谷川千雨ちゃんは、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣く。
ぐしゃぐしゃだが、美しいと思ってしまうのはなぜだろうか?
オレは胸が熱くなった。理由などは知らない。
横で女の子達も泣いている。
「千雨。オレは……おまえの側にいてもいいのかな?」
「ばか、やろうが! おまえがいなくてどれだけ寂しかったか……悲しかったか……胸が可笑しかったか……ずっといろよ。側にいてくれよ」
「オレが……化け物で……異形……でもか?」
「光は……光だ! それはずっとこの先も変わらない! あの時は、助けてくれてありがとう」
「ああ、あぁぁぁぁ! ずっとその言葉が聞きたかっただけなんだ! だから頑張った! オレは、仮面ライダーにはなれない! でも、大切な人の為に戦う人間でありたい!」
「ばかが。おまえが幼稚園でボランティアをしてるのは知っているよ。幼稚園のガキに聞いた。自慢のヒーローだってよ。おまえはあいつらのヒーローなんだ。笑顔で行こうぜ。昔みたいに……」
おわぁ!? 光と長谷川千雨ちゃんの顔が急接近!?
キス? キスか!?
瞬間――
『まてやごら!』
あら? 女の子達が一瞬で、光達のテーブルに!?
「おい眼鏡。もう遅いぞ。光は私のモノだ! もう一緒にお風呂も入ったんだぞ!」
えーーーーーーーーーーーー!?
エヴァンジェリンさんとお風呂?
相手は子供……子供?
ともかく幼児体型だぞ!
あの変態が!
「ちょっとまつよろシ。光の隅から隅まで知っているのは私ヨ」
えせチャイナまで!?
そのあとも女の子達がギャーギャー店内で騒ぐ。
オレ達は店から追い出されてしまった。
結局、麻帆良学園都市の大きい公園でどんちゃん騒ぎに……
よく見たことない奴らまで増えている。
光の野郎……モテモテだな。
まあ、顔はいい、頭もいい、運動神経もいい、おまけに優しい……おい! 欠点ないぞ!
そこで……
「いや〜光くん。大人気だね」
「うん? ウォ!? パパラッチ朝倉!?」
「よろしく〜。私としては、光くんの本命は、飛輪くんだと思ってるんだ。そのすじでは有名だよ」
「え……なんていったの?」
「パルがいってたんだ。ぐふふふーってさ。そんで本当はどこまでイってるの?」
「ふ、ふざけんな! 光とオレは純粋に親友でだな――」
「分かってるから……パル〜!」
パパラッチ朝倉が早乙女に向かって親指をぐっとする。
なにそれ?
すると、なぜか歓声が起こる。
『きゃーーーーーー! キタコレ!』
いや……なにが?
オレに生暖かい視線が刺さる。
な、なんだよ。こいつらは!
光は光で女の子達に囲まれているし……あ、長谷川千雨ちゃんはちゃっかり隣をキープしている。
よしよしいいぞ。ふたりは笑顔だった。
なら、今日はコレでいいか。
オレはオレの出来ることをやればいいのだ。
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