第8話
私、桜咲刹那は酷く不機嫌だった。
なぜなら、私の前で化け物が、このちゃんと楽しそうに話しているからだ。
化け物の名は、月野光。
こいつは正体を隠し、このちゃんに近づいた危険な異形だ。
先生達はこいつを信じたらしいが、私は信用しない。
こいつは怪物だ。
それなのに……どうして……おまえだけが!
許せない! 私と一緒の異形の癖に……人間の真似事か!
必ず本性を暴く!
「龍宮、協力しろ!」
「刹那……私は反対だ。私の遺伝子が言っている。月野光には勝てないとな。それに彼は悪人じゃない」
「ちぃ! おまえなら……同じハーフなら……分かってくれると思ったのに! もういい!」
私はまた、ひとりになった。
このちゃん……寂しいよ。
ホントは、一緒にいたい。
けれど、私は……化け物で異形やから……
すると、とぼとぼ歩く私の前に、子供と月野光が一緒にいた。
子供達は笑顔だ。
許せない! 子供を騙して……異形の癖に……私と一緒の癖に……なんでおまえは!
1週間が過ぎる。
もう私の心は限界だった。
夜の警備、いつもは龍宮と一緒だったが、今夜はとにかくひとりでいたかった。
侵攻してきた、妖怪を切る、斬る。
斬るたびに私が化け物だと再認識する。
悲しいけど、私が化け物なのは事実であって……
そしてその気持ちは八つ当たり気味に妖怪の召喚者に炸裂しようとしていた。
「死ね」
「ま、待ってくれ! もう、こんなことはしないから!」
「黙れ!」
ダメだ。感情が制御できない。
殺したくないのに……私は……やっぱり異形や。
目をつぶって刀を振り下ろす。
手応えが……ない?
目を開ける。
すると……
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう」
「貴方を学園に引き渡します。そこで罰を受けてください」
頭が……イタイ。
なんで……貴様は……
「月野光! あぁーーーー!」
私は獣のように奴を斬りつけた。
こいつの性能はいい。
必ず躱し、反撃をしてくる。
それにそなえ……え?
――ザシュ――
そんな音が響いた。
月野光の胸から夥しい血が飛び散る。
「な、なぜ?」
「桜咲刹那。真名が心配していたぞ。オレのせいで苦しんでいるとも聞いた。だから、好きなだけオレにぶつけろ。ただし、他の人を傷つけるな。自分で自分が許せなくなるぞ。そして木乃香も悲しむ」
「き、さまが! このちゃんを知ったようにいうな――ッ!」
私はこいつが……ホントは……
斬る切る断つ!
「わぁーーーーーッ! 倒れろ! 倒れて……私は……私は……化け物や……ない……助けて……私を……見て……誰か……私を認めて!」
私は、無様に……感情を、こいつにぶちまけていた。
ああ、なんて滑稽……なんて……弱いんや。
「それがおまえの本音か……おまえは……人間だよ」
「嘘や! これ見ても同じこと言えるんか!」
私は、汚れた証しで禁忌の白い翼を出現させる。
「私は化け物だ! 見ろ……見ろ!」
「オレはおまえの羽は綺麗だと思うがな……それにオレの人間の定義は見た目ではない。誰かの為に戦える勇気を持つモノのことを言う」
「え?」
どういうこと?
「オレの目指す人たちは……身体を無理やり異形に改造されたり、人間じゃなくなっても……人の為に戦った。その人たちは……力を愛と平和のために使ったんだ」
「私は……」
「まだ、スッキリしないだろ? 変身」
月野光は銀色の異形に変化した。
「さあ、ひとっ走り付き合えよ!」
「は、はい!」
それから……ずっと刀を振るった。
彼はそれを、炎をまとった剣で受け止めてくれた。
私の心は……この月光に優しく包まれて、不思議な気分だった。
そうだ。このちゃん……龍宮……私には大切な人がいる。
異形でも……私のことをきっと……
ああ、今夜は月が綺麗だ。
そして……
私は、汗だくだった。
汗と共にナニカも流れてしまったようだ。
すると……
「刹那。スッキリしたか?」
「龍宮……ありがとう。おまえが月野さんを?」
「まあな、月野さん。ありがとう」
「いや、オレもこの前までずっと悩んでいた。気持ちは分かるつもりだ。こんなことした出来ないがな……」
「龍宮……おまえは辛くないのか?」
「辛くないと言えば嘘になるが……私には刹那……おまえがいるし、今は月野さんもいる。同じ異形でも、仲間がいると思うと随分と楽だよ」
「だな……」
そこで、月野さんがある話をしてくれた。
オルフェノクという種族のモノが人の為に戦う作り話。
「それで、乾巧は――」
作り話だというのに――胸が……可笑しい。
なんだこれは?
「オレ達が異形だという事実は変えられない。けど、魂……魂ぐらいは……人でありたいと思わないか?」
「はい……」
「そうだな……」
「それで、誰かの笑顔を守れた時……オレ達は……」
月野さん……貴方は……
瞬間――
「よう。感動的だな」
30代前半と思われる男がゆっくりと闇の中から出てきた。
なんだこいつは?
「なんだおまえは!?」
まるで今までのやりとりを茶番だというような、こいつの態度に私は腹がたったのだ。
龍宮も同様のようで、戦闘態勢に入る。
刹那――
「下等種族が、控えろ」
「ひぃ!」
「あ、あ……」
私達は蛇に睨まれた蛙のように動きが止まる。
すると、月野さんが震えながら前に出る。
「や、やめろ」
「おうおう。ルナからもらった石の調子はどうだ? アイツは生意気にも別次元の魂を呼び寄せやがったようだが……はっきり言って、期待外れだぜ」
「な、んの……ことだ」
「うん? ルナの野郎……説明してないのか? まあいいか。石の使い方を少し教えてやるよ」
奴はベルトを腰に装着し、ボトルのようなモノを差し込んだ。
月野さんは驚愕している。
「え、エボル?」
「うん? なんで昔のオレの名前をしってんだ? ふむ。別次元になにかあるな。だが、ひとまず……オラッ!」
「ぐォ!?」
『月野さん!?』
月野さんは膝蹴りをくらったようで、地面に沈んでいる。
「可笑しいな。あの石は、最高ランクのモノだ。もう少し、戦えると思ったんだがな」
月野さんは変身が解けており、意識がないようだ。
なのにこいつは執拗に足で蹴りつける。
「オラ、起きろ……うーん……あ! そういえば……ルナの奴……仲間を傷つけてやると、爆発的に強くなってたな……よし」
奴が私達を見る。
まるで虫けらでも見るように……
真名と一緒に頭を地面に叩きつけられる。
いたい……怖い。
シニタクナイ。
やっと……前に……いけそうだったのに……
声が漏れる。
「た、すけて」
真名すらも……
「いや……だ……こんなの」
「ははは! いいぞ! もっと泣け! 苦しめ! さて、月野光。意識があるんだろ? いいのか? 泣いてるぞ。この雌たち……後10秒で殺す……10……9――」
数が残り1秒に……
「まて」
「よーし。思った通りだ。さあ……さあ、さあ!」
「変身! あぁぁ――ッ!」
月野さんは戦った。
けれど、まったく叶わない。
ボロボロだ。
けれども――
「負けない……」
「いいぞ! 速度や力が緩やかだが上がっている! その調子だ! 気張れよ! フッハッハッハッハッハッハ!」
くそ……なぜ、助けが来ない!
このままでは……月野さんが死んでしまう!
「うーん。今回はここまでだ。ルナみたいに失敗したら、また何万年か待たないといけなくなるし……つーわけだ……」
奴は月野さんの顔に向かいナニカを行う。
恐らく……蹴り。
私の目には、映らなかった。
月野さんは倒れる。
「チャオ」
奴は消える。
私達は月野さんの元に……
息はあるが……顔色は悪い。
すると――
「光! 何があった!? 起きろ! ずっと一緒にいるとこの前、約束したばかりだろ! 起きろ……起きろ!」
エヴァンジェリンさん……
「マスター。急いで超の元に、あそこには回復用のカプセルがあります」
「茶々丸、光を運ぶぞ! おまえらも来い! 何があったか説明しろ」
エヴァンジェリンさんに説明をする。
すると、エヴァンジェリンさんは、ダーナと叫んでいたが……誰も出てこなかった。
月野さんは目を覚まさない。
学校には交通事故ということになっている。
裏の関係者の病院に入院中……沢山の人がお見舞いに来ている。
このちゃんもだ。
このちゃんは泣きそうだった。
私は……弱い。
なんで……こんなに……弱いんだ!
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