第9話
光……
早く目を覚ませ。
私、エヴァンジェリンはいつからこんなに弱くなった?
魔王と呼ばれ恐れられた、この……私が……
今、光の病室には私だけ……
当然だ。今の時間は、午後23時50分。
病院は裏とつながっているため、この時間でも、光の側にいる許可が出ている。
手を握る。
冷たい。まるで死んでいるようだ。
超によると、いつ機能が停止しても不思議ではないようで……
なんで……こうなる。
カリンの時もそうだった。
私が大切なモノを見つけるといつもこうだ。
そういえば……獅子巳はカリンを助けられたのだろうか?
会いたい、カリン。
支えて欲しい。
誰か……側にいて……
もう……ひとりは……
父様……母様……死なない身体?
いやだ……そんなのいらない……ッ
いやッ……!
目責めの来ない悪夢……
いやだ……いやだ……光……お願いだ!
私を……呼んで……
「なんてざまだい。キティ」
「え? ダーナ? ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ……」
「おうともさ。懐かしいね。何百年ぶりかい?」
こいつなら……きっと……
「たのむ! 光を助けてくれ! おまえが昔会わせた、異形は光だ!」
「あん? うーん……どういうことだい? 詳しく話しな……私は、生憎とそのことは知らない。ただ、あの剣がここに導いたんだ」
「剣? まあいい。アレは――」
私はダーナにすべてを話す。
どういうことだ?
ダーナが会わせたんじゃないのか?
「なるほどね……つまり今がその時だということだね。しかし、肝心のぼーやはこの有様……キティ……このぼーやが目を覚ますんなら、なんでもするかい?」
「と、当然だ!」
「それで、このぼーやに恨まれても?」
「え? そ、それは……」
「決心がついたらまた呼びな。しかし、こちらも時間がない。明日までだ。それを過ぎれば私は、このぼーやを強引につれて行かせてもらうよ」
「な、に?」
「まあ、キティがやらなくてもいい。恨みは私がすべて引き受けようじゃないか……その代わり、ぼーやと二度と会うことはないだろうね」
そう言ってダーナは、去った。
時間は24時……
その後、朝になり、学校に行く。
ナギの子供達が授業をする。
明日はテストだ。
全員が真剣な顔で勉強している。
先生も生徒も……
光のおかげだ。
勉強嫌いの生徒にも将来必ず役に立つからと、必死に勉強を教えていたっけ……
光が目を覚ました時にダサいところは見せられないよな?
長谷川……なにを泣いている?
笑え……おまえらもだ。
私が……なんとかするから……
夜……ダーナを呼ぶ。
恨まれてもいい。
私は……月野光が……
「いいんだね? キティ?」
「ああ。何をすればいい?」
「この本を読みな。神に戻る術式が書いてある」
「神に戻る?」
「ああ、少し説明がいるね――」
なんでも、古代、ナニカが地球に降り立ち、神を作ったそうだ。
その神が地球人の祖であると……
地球人は知恵をつける一方で、神のごとき力を失っていったらしい。
今は神の力は、ほとんど発現しないようだ。
ふと……水無瀬の顔が浮かんだ。
あいつの力は……
しかし、もしこの術式が成功すれば……光は、完全に人間から……
光が……どれだけ、苦悩したか……
私は、歯がガチガチと震え出す。
一緒にいたいよ……けど……それで……
光が……私を……見てくれなくなったら……
でも……
「ダーナ。やる。私が……私がやる! 背負う! ずっと……恨まれてもいい! 光が……生きていてくれれば……何もいらない!」
「いい女になったね……キティ……じゃ……狭間に行こうか。恐らく……狭間は程なく奴らのモノになる」
「たのむ」
ダーナに連れられ、真っ赤な剣の前に……なんだこの剣は……荘厳……神秘……
言葉が見つからないが……
ダーナと魔方陣を描く。
古代文字……日本の神代文字に似ている。
曼荼羅のように、図形も描き……
「できた」
「キティ。アレンジを加えよう。あんたの想いをいれな」
「想い……なら……血だ。私の血を光に……光……どうか、生きてくれ。そして……」
私は光の肩に牙を突き立て、自分の血液を注入する。
光の身体が痙攣し……床が輝き始める。
瞬間――
それに反応して真っ赤な剣が光の心臓に突き刺さる。
真っ赤な剣は、生きているようにドクドクと脈を打っている。
すると、光が目を開ける……しかし……
『人の子よ。なにゆえ、神を欲するか』
「光?」
『ふむ……このメモリーは……なるほど……スサノオたちめ……まだ、諦めていないようだ……』
「おまえは……なんだ! 光を返せ!」
『我は、人の子の語源で答えるなら、造化三神の集合体という表現が正しいか……ふむ……この人の子は……どうやら起源が違う次元の魂……いいだろう……しばし、この器に時間をやろう。しかし、この器が可能性を見せなければ、我はこの身体を使い――』
何を言っている?
なぜ……なぜ?
今は考えてもしょうがない。
徐々に輝きは収まり、真っ赤な剣も消えていく。
『この器の名は……ツクヨミ』
そう言って……完全に光が消える。
瞬間――
「オレは……」
「光! 良かった……よかった……」
私は……どんな顔をすればいい?
光を助けた! と、笑顔か?
それとも……
「エヴァンジェリン。泣くな」
「え……なんで?」
「全部分かっている。オレが……完全に人でなくなったことも……おまえが、それで苦しんでいることも……全部……」
「なら、なぜだ!? 私は……自分の勝手で……おまえを……ひっぐ、ああ、えっぐ……」
「大丈夫。おまえのおかげで、オレは、また人を守れる。そしてもっと人が好きになった。だから……ありがとう」
「あ、ああ……あぁぁぁ――っ!」
光の胸に飛び込む。
ありがとう……て、こんな……簡単に……許すな!
「おーと、ぼーやそこまでだ。こっちも時間がない。このまま、ぼーやには、やってもらいたいことがある。キティに会ってあげて欲しい」
「ぼーやはやめてください。恐らく貴方がダーナさんですね? 光と呼んでください。キティと言うのは?」
「そこの泣き虫の昔のころさね。ようやくつながったよ。じゃあ、いっといで……光」
「エヴァンジェリン。行ってくる。オレには予感がする。これは必要なことだ」
「あ、あの……光……その……昔の私をよろしくな」
「なるほど……分かった」
光はダーナと消える。
光が消えたことで病院は大騒ぎになったが、私が説明をした。
光は起きた。すぐに帰ってくると……
納得していないようだが、それでも真実なのだから、納得してもらはないといけない。
私は、学校に……
テストを受け……
時が経つ。
テスト発表。
なんと学年一位だ。
だと言うのに……
どいつもこいつも……暗い顔。
当然だな。光が行方不明ではな……
学年が変わり……3年生になる。
何度目だ? まあ、どうでもいいか……
そう言えば今日は、水無瀬が修行に来る日だったな。
水無瀬も強くなった。もういじめにも負けない女だ。
そして心も強い。
「水無瀬。光のことが心配じゃないのか?」
すると水無瀬は、ひまわりのような笑顔で答えた。
「私、光くんのことが好き。だから、信じるんだ。私のヒーローはかっこよくて、優しいから、きっと帰って来るってね!」
「まったく……出会った頃とは大違いだな……おまえは……強いよ……小夜子」
「え、今名前で?」
「ああ。私はとっくにおまえを認めているよ。魔法とか超能力じゃない。おまえの心をだ」
「エヴァンジェリンちゃん!」
「ウォ!? だ、抱きつくな! 私の身体は――」
「光くんのモノ?」
「ぴゃあ!? ち、ちちち違う! 何をいってる!?」
「いや、ばれないわけないじゃん」
「あ、あう――」
私って……そんなに分かりやすいか?
これでもクールに決めていたのに……
瞬間――
小夜子が走り出す。
「エヴァンジェリンちゃん! ごめん! 多分敵!」
「待て。私も行くぞ。茶々丸!」
「光は、マスターの制止も聞かずにその手をマスターの――」
「ぶーーー!? 何言っている!?」
「え? マスターの想像ですが?」
「この……ボロ! 早く小夜子を追うぞ!」
「はい。エロマスター」
「こ、の……」
私は、怒りを我慢してその場に……
小さな園児達の前に小夜子がいる
目の前には豹の怪人が5体。
小夜子は――
「お姉ちゃんが守るからね……大丈夫」
小夜子はそう言うと、腰にバックルを出現させる。
そのまま、豹の怪人に拳をたたき込み、もう一体に蹴りを放つ。
瞬間――
「変身!」
その姿は金色の龍を思わせる。
昆虫のような真っ赤な複眼、頭には金色に輝く二本の角を持っている。
『ア、アギト!?』
「私は進む! 月光に手が届くまで!」
豹の怪人達に向かい、攻撃を開始した。
状況は、小夜子の優勢……次々に撃破する。
流石の私も予想外だ。
小夜子……あそこまで強く……
しかし――
「ふむ……これは珍しい。まさかここまでアギトの力を使える人の子がいようとはな……」
「誰!?」
現れたのは、一言で表すならば……火。
こいつがいるだけで、気温が何十度も上がったような気がする。
いや、確実に上がっている。
私の顔から汗がしたたり落ち、地面に落ちる前に蒸発する。
「エヴァンジェリンちゃん! 子供たちも連れて早く逃げて!」
小夜子が大声を上げる。
私は……いやだ。
逃げない……逃げてなんて……やるもんか!
「ウォ……魔力が少ないからって逃げたら……あいつに……光の前に笑って立てないだろうが! 茶々丸!」
「マスター……了解! 誰も……誰も人の未来を奪うことはできない!」
私は少ない魔力を氷の刃にして射出する。
当然、役には立たないが……
「マスター! 子供たちを連れていきます!」
時間は……稼げたぞ。
「小夜子! 行くぞ!」
「うん。あぁぁ――っ!」
小夜子は強烈な連打を繰り出す。
拳、蹴り、肘、膝……流れるように……
私は、糸だ。
こんなこともあろうかと、超に頼んでいた、特殊繊維だ。
火でも簡単に燃やせない。
だが、力が違い過ぎる。
強引に私の糸は引きちぎられる。
私を覗く、炎眼――
「貴様――接触したな? あの方の気配が残っている……あの方は……どこだ!」
「う、がぁ……」
首が、焼ける……
苦しい……でも……負けない、ぞ……
光……
「エヴァンジェリンちゃんを離せ!」
「アギト……今は邪魔だ」
「あ、ぐ……」
「さ、よこ」
ク……ソ……また守れない、のか?
カリン……私が……弱いから……私が!
その時――
不思議なことが起こった。
剛……剛と音がする。
なんだ?
バイク?
「おい、光! 合わせろ!」
「ああ!」
瞬間――
火の怪人は2台の大型のバイクに吹き飛ばされる。
「遅くなった。キティ。小夜子」
そこには光がいた。
髪の色が変わっていて、銀髪に……でも、光だと分かる。
そして……キティ……と……
記憶が――
『すまない。恐らく、何百年か先、月野光と言う少年が現れる。彼にはおまえが必要だ。その時、支えてやって欲しい。オレは……おまえが――』
『キティ……好きだ』
「ひ、光!」
「後は、任せろ。変身」
前と同じ銀色だった……でも……前とどこか違う。
前よりずっと綺麗で……
「飛輪、援護を……今のオレではきつい」
「あいよ。男の仕事の8割は決断だ、そっから先はおまけみたいなもんだってな。オレはたとえ無謀でも、おまえを守って勝負すると決めた。だから結果がどうなろうと興味はねぇ。おまえは……オレの大事な相棒だから……」
「ふっ。ありがとう」
そこからは……
まるで、舞……
飛輪が大型の盾で火の怪人の攻撃をすべてとめる。
その隙に、光が攻撃する。
単純な戦法だったが……目が離せない。
ふたりは咆哮を上げる
『ウォ――っ!』
飛輪が盾で火の怪人を空中に吹き飛ばす。
「決めろ、光!」
「ああ――サタンサーベル!」
光は、あの真っ赤な剣をバックルから引き抜いた。
そして、空中で――
「電キック!」
「ぎゃーーー!?」
火の怪人を地面に叩きつけ……
瞬間――
火の怪人はバラバラになる。
光の真っ赤な剣が怪しく光っていた。
「光……私は、おまえを……」
「キティ。何度でも言う。ありがとう。君のおかげでオレは子供達の夢を守り、希望の光を照らし続けることができる。仮面ライダーになることが……できた」
「あ、あぁ……お、おかえり」
「ただいま」
私は……ひとりではない。
カリン……迎えに行くよ。
そして、紹介する。
私の――
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