第12話
「ルーナお姉ちゃん! 今日からの修学旅行の京都、奈良、楽しみだね! お父さんの別荘もあるようだし……」
「そうだね」
元気なネギに向かって、ルーナは、複雑そうな表情だった。
エヴァンジェリンと光との戦闘後、彼女たちは、光達との情報交換を行ったのだ。
ルーナ達からは、父、ナギ・スプリングフィールドの生存の情報。
エヴァンジェリンからは、ナギの別荘の情報。
嬉しいはずの情報……当然ネギは、修学旅行で京都に行けることも重なり、上機嫌だ。
しかしルーナは、違った。
ルーナは、ナギの情報をある程度知っていたので、別荘の情報もどうでも良かったのだ。
ルーナの最初の記憶は、ナギに肩車をしてもらっている所まで遡る。
この時、ルーナはナギと2人で旅をしていたのだ。
ルーナの記憶に、よく分からない、複数の同じ顔の人物達が襲撃してきたが、ナギはルーナをかばいながら悠々と片手で倒す。
ルーナはその頃からナギの適当さを知っていた。
そのため、今更、ナギを知りたいとは思わなかった。
それに、ナギは、ルーナとの約束を破っている。
ナギは、ルーナとネギを村に預けるときに、こう言ったのだ。
――おまえが10歳になるまでに必ず、父さんと母さんが揃って迎えに来るからな――
しかし……それは守られなかった。
訪れたのは、雪の日の悪夢のみ。
そのため、ルーナは、ナギがあまり好きではない。
完全に嫌いと言うわけではないが……今は、それより心を占めることがある。
「はぁ……光さん」
「ルーナお姉ちゃん、どうしたの? 光さんに用事なら呼んでこようか?」
「ネギ……あんた、少しは女心とか分かりなさいよ」
「アンナちゃん、それは無理じゃないかしら……この年齢の男の子は大体こんな感じだと思うわよ」
「女心? ルーナお姉ちゃんは光さんのことが好きなだけなんでしょ? ねえ、カモ君?」
「ネギの兄貴には、まだ早いぜ。それよりルーナの姉御、ブチューと行けばいいじゃねーか。光の旦那なら、最高のパートナーになるってもんだぜ」
「カモ……断れたの知ってる癖に……」
「1回だけでしょ!? 押して押して押す! 光の旦那は、押しに弱い! いけるってマジいける! おこじょ妖精嘘つかない!」
「ほ、ホントか?」
「マジマジマジ!」
「そう……だよな。光さん、まんざらでもなさそうだったし……」
その時、カモは思った。
――チョロい――
と、カモの懐が暖かくなる作戦が進行中だったのだ。
車両が変わり……
「光。おまえ、本命、誰なわけ?」
「オレは、誰とも付き合わないし、結婚も考えていない。飛輪、話しただろ。オレは最後は自我も残らない」
「それでも……オレは諦めねえよ。おまえがオレにだけ話してくれた、アノ秘密。すっげぇことだったよ。時がきたら、オレに殺して欲しいと頼んだこともな……けどさ、そうじゃねえだろ? なあ、おまえはオレの……オレたちのヒーローなんだぜ? 諦めるなよ。ヒーローって奴は、最後は自分も救ってハッピーエンドだろ?」
「オレも……そうありたいと……思っている……」
「なら、やれよ。オレは、おまえを信じる。だから、オレに殺されるようなアホになるな……で、話は戻るけど、本命、誰? 幼馴染み? ロリババア? それとも年上のお姉さん? いや、まだいるぞ。エセチャイナにオッドアイに本屋に、奥さん――」
「い、いや。飛輪……あのな……あ! おまえこそ、菲とはどうなんだよ、あっちは結婚を前提にしてるんだろ?」
「え、あ、アレは……勝負に勝っただけで……」
「まあ、おまえは最近、格闘能力が凄いからな。気、もう完璧だろ?」
「まあな。赤心少林拳が効いたな……だけど、まだまだ光には勝てないけどな」
「オレは、細胞レベルで人間じゃないからな……仕方ない。だが、鈴音が何やら色々と開発しているらしい。それらが完成すれば、おまえの方が強くなるかもな……」
「ひとまず、気だけでも極めるとするかな」
話をそらすことに成功した光は、心で汗を拭った。
今は、修学旅行で京都に向かう電車の中だ。
ルーナ達のクラスは、外国人の留学生が多いことと、ネギ達の為に、選択式の中から京都と奈良行きに決定していた。
光達の方は、学園長、近衛近右衛門の独断である。
孫の木乃香とネギ達の護衛にと光と飛輪を動向させる作戦である。
更には、京都に詳しい、葛葉刀子も引率できており、安全対策は万全である。
現に、光が、殺気をまき散らして、関西呪術協会は、何も出来ない。
刺客の天ヶ崎千草は、ビビっていたのだ。
――アレ、なんなん? なんであないな……化け物がおるん? ――
目があう。
光の眼光にて千草はトイレに逃げ込む。
――こ、こわっ。でも……おとん、おかん……ウチは――
恐怖で容易く覆るほどの想いではなく……
しかし、実行も出来ずに……
電車が京都に着いて直ぐのこと。
「やめてください。無駄に戦いたくないし、せっかくの修学旅行なんです」
「そういうことだ。姉さん。オレたちがいる限り妨害はさせねえよ」
「千草。貴方、まだ、おじさんとおばさんのことを……」
「刀子はん……当たり前や。ウチの恨みや想い。そう簡単に消せるか!」
そこで、飛びかかりそうな飛輪を羽交い締めして、光は言葉を告げる。
「は〜な〜せーーー!」
「貴方に何があったのか知りませんし、知っていたからと、ナニカを言う権利もありません。貴方の想いは貴方だけモノだ。しかし……ですね。それはこちらも一緒です。中学校の大切な思い出を楽しいモノにしたい。それは……たとえ、何があろうと、奪ってはいけないモノだ。だから、今一度考えてください。それでも……我慢が出来ない時には……オレが相手になります」
「ふ、ふん。今はウチだけやからひいたる」
しかし、千草にナニカを与えるには十分な言葉だった。
千草は、悩んで悩んで……
「計画……中止や。ウチにはできへん。おとん、おかん……ごめんな……」
その時……
千草の胸に強引にナニカが埋め込まれる。
その側にいた、犬上小太郎、月読、フェイトにも同時である。
フェイトすら、認識出来ない速度でそれは行われた。
意識があるのはフェイトのみ。
すると綺麗で高い声が響いた。
「動かない方がいいんじゃないかな? ボクの特製品なんだ。ヘタに抵抗すると、身体……壊れちゃうよ……お人形さん。ふふふ」
「貴様は……まさか――」
「はい。そうだよ……て、ことで……今から君もボクのお人形だ」
「く……そ――」
そしてフェイトすらも意識を失ったのだ。
「さあて……サタンサーベルは使えるようになったようだけど……まだまだだ。早く……完成してね。そしてその時こそ――」
見た目は、ネギとそう変わらないほどの年齢……
しかし、その実態は、極大の化け物。
金髪の髪に青い瞳。
道行く人は、目を奪われるだろうはずの容姿が邪悪に歪む。
けらけらと笑い声が木霊していたのだ。
夜中……
光の頭に警報が鳴り響く。
光はそれで飛び起きる。
自分のパワーに匹敵する、複数の気配が、旅館に接近している。
光は、瞬時に行動を開始する。
1人は論外。
負けて死ぬ。
ならばと、飛輪を起こし、刀子の元に……
刀子は直ぐさま、魔法先生の瀬流彦に連絡する。
光達は外に……
幽鬼のように佇む、4人。
光は混乱を隠せない。
4人全員が、瞳から感情が抜け落ちているように見えた。
「なんの真似ですか……」
光は様子をうかがうためにそう問う。
しかし……
「コロス……」
「な、何を――」
千草の声から漏れたのは、憤怒を混ぜたようなモノ。
「オトン、オカン……コロス……コロス」
「何があったの……何をすれば……あそこまで……」
「おい。光。やべーぞ……。オレは装備がないから、フルに戦えねぇ……」
「飛輪、刀子さん……援護を――」
『へん……しん』
4人を不気味な音色と闇が包みこむ。
全員が同じ姿だ。
そして光は、その姿を知っている。
死の鎧……その名は……
「ダークキバ……く、そ……変身!」
激突が始まる。
光は、石の力と魔力を全開にして、一体のダークキバに必殺の蹴りをたたき込んだ。
数を減らすのが最優先ですべきことである。
しかし、必殺の蹴りを受けた一体は、その蹴りを胸で受け止め、光を腕で強引に地面に叩きつけた。
「が、は、あっ……や、ばい――」
それを見て、頭に血が上る人物がいる。
飛輪だ。
彼は、即座に気を全開にして、小型のナイフを抜刀する。
そのまま、疾走し、光に連続で拳を打ち付けている個体に攻撃する。
一閃――
しかし……
飛輪の攻撃を受けた個体は傷を高速で回復する。
飛輪は、二回目の攻撃に……
瞬間――
「ぐ、お……あっ……あ……」
「飛輪!」
「大和くん!」
飛輪の腹に大きな穴が開いている。
一体のダークキバが手刀を炸裂させていたのだ。
光は……
「うわぁ――っ! サタンサーベル!」
サタンサーベルをぶんぶんと振り回して、飛輪のそばに移動をする。
飛輪が動かないのだ。
「刀子さん! 早く、飛輪を連れて逃げてください!」
「で、でも……それでは――」
「早くいけ!」
光はそう言うと、4体のダークキバに突撃を開始する。
刀子は、飛輪を担いで急いで駆け出す。
もうひとりの魔法先生、瀬流彦の所に……
瀬流彦は回復魔法が得意である。
今は彼しかいないのだ。
「瀬流彦先生! 早く!」
「こ、これは……早くしないと!」
瀬流彦は、高速で魔法を展開しはじめる。
しだいに異変に気づき、起き始める、裏の関係者達……
全員の顔が蒼白だ。
その時、ルーナ、刹那、鈴音、真名が飛び出す。
ルーナ達がその場に付いた時には、銀色の異形がボロ屑のように、ズタズタにされる光景が目に入った。
一体のダークキバが拳を打ち付け……
一体のダークキバが光の足に蹴りを放ち……
一体のダークキバが光の腕を折り……
一体のダークキバが空を舞っている。
そして……
空を舞う、ダークキバの必殺技。
キングスバーストエンドが炸裂する。
遥か上空から強力な両足蹴り。破壊力は180tもあり……そんなモノを受ければ当然……
光は……
大きく吹っ飛び、地面をなめることになる。
そして光の変身が解ける。
裸体は傷だらけで、見ていられないほどだ。
しかし……
光は立ち上がる。
「く、るな……皆を起こして逃げろ! コイツラの目的はオレだけのはず……早く避難しろ!」
「い、嫌だ! 私は……光さんと一緒に戦う!」
「そうネ! もう、歴史とか……どうでもいいヨ! 貴方と一緒に!」
「光さんは恩人です。だから……」
「ああ、そうだとも……」
光の前に4人が立ち塞がる。
4体が近づく……
刹那――
4人の身体が……空中に蹴り上げられる。
それを見た光の瞳の色が……消える。
『やれ、器からの呼びかけにて久方ぶりの遊びだ』
空から強制的に羽虫を押しつぶすがごとく、声が響いた。
ソレは、虚空を見ている。
ナニカを見ている。
ナニカは震えた。
歓喜した。
眼を見開き、大声を上げる。
「おお! キターーーー! お会いしたかったですよ!」
虚空の中から、ナニカはソレに向かい、告げるも……
『我は、貴様達に欠片も興味がない。今は器の先が見てみたいのだ。ここで壊れるのは少々もったいない。ルナの先を見れるかもしれない……』
ソレは、腰のバックルに腕を持ってくると……
すると、不思議な光があたりを包みこむ。
『黄泉比良坂』
そう唱えると、ダークキバの外装はみるみる剥げ落ちる。
『あまり、面倒をかけるな。存在を抹消するぞ』
「ひひ、いひひひ! その力を次に手に入れるのはボクだ!」
『貴様は器ではないと、すでに言ったはずだがな……』
ソレは、ナニカの空間に大きな手を出現させて握り潰す。
『消えろ』
ルーナ達は、消える意識の中、光の無事を確認できずに、その目を閉じた。
覚えているのは……
光の色のない瞳……
ソレが頭から離れなかったのだ。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m