Muv-Luv Alternative The end of the idle

【伏竜編】

〜 PHASE 1 :小さな魔王と幼い迷子 〜






―― 西暦一九八七年 夏 帝都・枢木邸 ――

 新緑が映えるよく手入れされた庭で、二つの人影が相対していた。

 一つは巌の如き巨躯を筋肉の鎧で覆った偉丈夫。
 いま一つは、その半ばにも達さぬ身長の十歳そこそこと見える少年。

 一方は、その体格に相応しい櫂と見間違えそうな巨大な木刀を持ち、もう一方は、小太刀を模した二振りの木刀を構えていた。
 両者の距離はおよそ五メートル。
 しばしの間、互いに相手を伺いつつ、ゆっくりと弧を描きながら動くが、その間合いが縮まる事は無かった。

「ハァァァッ!」

 幼い声で放たれる裂帛の気合が、その均衡を一気に打ち破る。
 放たれた矢の如きスピードで、一瞬の内に互いの距離を踏み越えた少年は、巨漢の胴を薙ぐ一撃を放つがそれはアッサリと防がれた。
 巨大な木刀を、まるで小枝でも振るう様に速くしなやかに操って小太刀を弾いた男は、留まる事無くそれを振るう。
 再び、木と木がぶつかり合う音が、男の足元で響いた。

「甘い」
「グッ!」

 本命の足を薙ぐ一撃を、軽々と凌いだ男――紅蓮醍三郎は、そのまま木刀を振り抜く。
 体重の無さ故か、諸共に弾き飛ばされた少年は、数メートルほど吹き飛ばされた後、最初の位置に近い場所に辛うじて着地した。
 それでも、すぐさま体勢を立って直し己を睨みつける少年を、犬歯を剥き出した獰猛な顔で嘲笑う。

「どうしたルルーシュ。もう終わりか?」
「……冗談は、顔だけにしておくべきでは?」

 紅蓮の挑発を受け、少年――枢木ルルーシュの口元が皮肉げに歪む。
 全く闘志の翳りも見えぬ相手に、紅蓮は愉快そうに笑った。

「口の減らぬ奴よ。さすがはアレの息子――グォッ!?」
「聞こえてますわよ閣下」
「真理亜、貴様!」

 横合いから頭部を直撃してのけた湯飲み茶碗に、目の前で火花を飛び散らされた紅蓮は、さすがに怒り狂って本来不干渉である筈の乱入者を睨む。
 当然と言うべきか、その視線と注意は完全にルルーシュから外れた。

「ハッ!」
「むんっ!」

 短い気合と共に、再び、一足で間合いを削ったルルーシュの放つ一撃を、こんどはギリギリのタイミングで防ぐ。
 下段から放たれた金的狙いの一撃のエゲツなさに、紅蓮のこめかみを一筋の汗が伝う。

「……はっ、こちらの気が逸れた処を狙うとは、少々卑怯では無いか?」
「勝負の最中に気を逸らす方が悪いのでは?」

 母親譲りの黒髪の下で、長ずれば女性の視線を釘付けにするであろう秀麗な顔が、冷ややかな笑みを描いた。
 紅蓮の眼がスゥッと細まる。 

「全く。本当に屁理屈の上手い奴よ」
「論理的思考の持ち主と言っていただきたい。
 そもそも、貴方が隙を見せたから打ち込んだまで。
 何処に非難される理由がありますか?」

 可愛げなくうそぶくルルーシュを前にして、紅蓮の声のトーンが一段下がった。

「ああ、全く無い。だが――」
「ムッ」

 背筋を貫く悪寒に、自身が地雷を踏み抜いた事を悟ったルルーシュの顔色が変わる。
 目の前の巨漢は、いい歳をして実に大人気ないというか子供っぽい面がある事を、今更ながらに思い出すが、時既に遅しであった。

「相手を仕留め損なえば、逆に怒りを買う事まで計算すべきであったな!」
「なっ!
 本気ですか!?」

 紅蓮の構えから、何をする気かを悟ったルルーシュは、全身全霊の力を振り絞って後ろへと跳ぶ。
 だが、それすらも無駄な抵抗であった事を、次の瞬間、少年は思い知った。

「喰らえ!
 反重力乃嵐ィイイイッ!」

 ルルーシュの身体が、重力の鎖を切られたかの如く、高々と宙を舞った。

「……あらあら、良い所までは行ったんだけど。詰めが甘かったわね」

 紅蓮必殺の一撃を喰らい、塀の向こうへと吹き飛ばされる息子の姿を、ヤレヤレといった表情で見送った真理亜は、脇に置いてあった盆の上のグラスを一つ手に取りポットから麦茶を注ぐと、肩や首を回しながらやってきた紅蓮へと手渡した。
 グッと一息に良く冷えた麦茶を飲み干した紅蓮は、愉快そうに笑いながら縁側に腰掛ける。

「フ〜ム、いや良い汗をかいたわ」
「子供相手に本気を出すとは………相変わらず大人気ないですわね」

 対して、先ほどから稽古を眺めていた真理亜は、半ば呆れた様子で呟きながら、空になったグラスにおかわりの麦茶を注いでやった。
 それに軽く頭を下げて礼と為すと、再び、麦茶をあおった紅蓮は、片頬を歪めつつ反論する。

「ワシを責めるより、本気を出させた息子を褒めよ。
 あの年齢で、あそこまで達するとはな。
 一体、どういう修練を積ませれば、ああなるのだ?」

 まだまだ荒削り、年齢故に力も無く、体重が無い故に重さも無い。
 だがそれでも、速さと鋭さだけは別格であった。
 かつての真理亜の二つ名『閃光』には、到底届かぬものの『疾風』程度は名乗って恥じぬ速さが。

 だからこそ疑問にも思う。
 どうすれば、あの歳で、あそこまで行けるのかと。

 そんな紅蓮の問いに、当の本人はと言えば、心当たりなさそうな素振りで首を捻った。

「さぁ?
 特に特別な事はしていませんわ。
 強いて言うなら、私と同じ鍛錬をさせている位でしょうか?」

 グラスを持つ紅蓮の手が、ビクリッと止まった。
 そのまま信じられぬモノを見るような目つきで、眼前の美女を注視する。

「………試みに問うが、お前の鍛錬とは、斯衛軍に居た頃のままか?」
「はい、特に変える必要もありませんから」
「そうか………苦労しておるのだな。ルルーシュは」

 どこか遠くを見つめる眼差しで、そう呟く元上官を前に、訳が分からぬ風情で首を傾げる母親が一人。
 それを横目にしながら、ごつい指先で、ソッと目尻を拭う。

 勇猛をもって鳴る斯衛軍衛士でも、裸足で逃げ出すと言われた枢木真理亜の鍛錬。
 それに曲りなりにも耐えているという時点で、何となくルルーシュの歳に似合わぬ技量と落ち着きが理解できた紅蓮だった。



■□■□■□■□■□



「ツッ……あの人型宇宙怪獣が!
 何でオレの周りには、あの手の脳筋イレギュラーが集まってくるんだ?」

 これ以上やられてはかなわないとばかりに、吹き飛ばされた事を奇貨として早々に逃げ出してきたルルーシュだったが、痛む身体を摩りつつ、彼らしくない考えに囚われる。

 ――もしかして、呪われているのか?

 正直、今の境遇を思えば、それも否定しきれない。
 何より、己自身に呪われても仕方の無い理由がある事を、彼は『自覚』していた。

『悪逆皇帝を演じて世界を制し、しかる後、ゼロレクイエムをもって悪の象徴たる自分を消し去り、世界に満ちた憎悪を昇華する。
 その計画自体は上手く行ったが、これは完全な計算外、イレギュラー過ぎるにも程があるぞ!』

 かつて、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと呼ばれていた少年――枢木ルルーシュは、そう言って胸の内で慨嘆した。

『Cの世界』を知る身としては、死後の世界について否定する気はサラサラ無かったが、転生となると毛色が違う話。
 しかも前世の記憶付きとなれば、尚更である。
 赤子の頃、己が境遇を認識した時は、頭を抱えてのた打ち回ったものだ。

 これは、もう一度人生をやり直し、更に罪を償えとでも言いたいのかと不貞腐れた時期もあったが、成長するに従い世界の情報に触れる事で、本気でそう疑わざるを得なくなった。

『日本帝国、政威大将軍、異星起源種……極めつけは、マリアンヌにそっくりな母上、そして枢木!
 スザクはどうしたスザクは、これはアイツの役どころだろうが、何故オレが枢木の嫡子なんだ!?』

 将来、自分も、ああいった体力バカな歩くイレギュラーになるのではないかと思うと気が気でない。
 やはり知性派を自認する身としては、力任せに戦闘技能だけで戦略を引っくり返すような真似には、微妙な拒否感を感じるルルーシュだった。

 もっとも、そんな彼の密かな願望を裏切るように、枢木の血故か、或いは母の愛という名の修練の賜物か、彼自身は彼の望まぬ方向へとスクスクと成長中である。
 九歳の子供が箸でハエを捕らえるわ、壁を平気で走るわ、もはや前世の親友が通った道を加速装置付きで着々と驀進している彼だった。

 自身の未来に納得できない物を感じ、身体の痛みとは別の痛みを頭部に自覚しつつ、ルルーシュはフラフラと当てどなく街を彷徨い、無意味に思考を巡らせる。

『転生、そして並行世界……オカルトとSFがごちゃごちゃだぞ、全く』

 記憶を持ったまま、生まれ変わっただけでも仰天モノであったが、そこはかつて生きた世界とは別の世界。
 ユーラシア大陸に巣食ったBETA(Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race)により、人類は斜陽を迎えつつある世界。

『本当に、呪われているのかもしれんな』

 正直そう思う。

 未だ、この国――日本帝国――は、BETAの侵略を受けてはいない。
 だからこそ、大半の日本人は未だまどろみの中にある。
 だが、それが仮初の平和であり、残り少ない秋の残照でしかない事を、明敏過ぎる彼は見抜いていた。
 その遥か彼方を見据える瞳には、大陸を蹂躙し、半島を抜き、やがて帝国本土をも奪うべく海を越えてやって来る化け物達が映っている。

『三十年………いや、いいとこ二十年というところか。
 滅び行く世界に、記憶つきで生まれ変るという喜劇………余程、あの世界に疎まれたか』

 世界から弾き出された――そう罵られた経験のある身としては、苦笑するしかない境遇である。

 だがそれでも、彼は諦める気などサラサラなかった。
 押し付けられた理不尽に抗い続けるのは、もはや彼にとっては第二の本能と化しているのだから。

『ギアスも失い、大した基盤も無く、この身は未だ年端もいかぬ子供の身……状況は極めて劣悪と言えるな』

 ブツブツと呟きながら、現状の手駒を分析する。

 転生の影響か絶対尊守のギアスは失われ、実家は山吹を纏う事を許された譜代武家ではあっても、英国人との間に私生児を設けた母は化石化している武家社会では浮きまくった存在で、まともな知己と言えば以前の上官である紅蓮少将のみ。
 更にダメ押しと言うべきか、自身も未だ幼少の身の上、母以外には、まともに話も聞いてもらえない年齢である。

 これでは何も出来はしない。
 そして、何か出来る年齢に達した頃には、既にこの国はチェックメイトをかけられている可能性が高かった。

 ――何とかして状況の改善を、叶うなら自身で状況を作り出せるだけの手立てを得る必要がある。

 結局の処、ルルーシュの思考はそこに帰結せざるを得なかった。

『やはりアレを、母上に見せるべきか?
 今のままではどうにもならない以上、全体的な戦力の底上げと枢木の発言力の強化は必須だ』

 以前より伏せていた手札の一枚を、世に出すべきかと考える。
 現時点での効果は、さほど望めないが、それでも今は兎に角、時間が欲しかった。
 その為にも、最も有意義でかつメリットの多い手段を模索する。

『軍の方には紅蓮少将から……いや、出来れば技術廠関連のツテがあった方が、よりインパクトが………んっ?』

 その類稀なる頭脳の中で、数十通りの試案を産み出し、消し去り、取捨選択を繰り返していたルルーシュの意識が、不意にこちら側へと戻ってきた。

 気が付けば、自宅の近場にある公園の傍。
 物思いに耽りつつ無意識に歩を進めていた彼だったが、辿り着いたその場において、やや距離を置いて眼に映った光景に秀麗な眉をしかめた。

「どけよっ!」
「どきません!」

 まだ幼い少女と彼と同年あるいはやや上と見える数人の少年達が言い合っている。

『何だ?』

 年端もいかぬ小さな女の子を、数人で取り囲む光景に不快感を覚えつつ、ルルーシュは事の原因を知るべく耳をそばだて眼を凝らす。

 よく見れば少女の周りを取り囲む少年等は、この近くに住む武家の子弟達。
 とはいえ、ルルーシュにしてみれば顔は知っているという程度の認識の相手に過ぎず、以前、群れ成して絡んで来た時、少しばかり礼儀を教えてやったら、それ以降は、彼の姿を見る度にそそくさと逃げ出すだけの連中だった。

 対して、たった一人で彼らと対峙している少女の方には、彼も見覚えが無い。
 抜群どころか異常といってもいい記憶力を誇るルルーシュの記憶に無い以上、この近所の子とも思えなかったが、身に付ける山吹色の着物は遠目にも良い仕立てである事が分かり、相応の家の娘である事が伺えた。

 そこまで見取った所で、ルルーシュの視界の端、手を広げて少年達と対峙する少女の足元に茶色い何かが見えた。

『ああ、成る程……』

 その一事で、おおまかな理由を察したルルーシュは、軽く頭を掻く。

 それは、小さな犬だった。
 まだ子犬というよりも、幼犬とでも呼んだ方が良さそうな雑種の子犬。
 それが、山吹色の着物を着た少女の足元で、うずくまりブルブルと震えている。

「それは俺たちの獲物だ。とっとと寄越せよ!」

 少年達の中で、一番年嵩で身体も大きいリーダー格が、甲高い声で叫びながら威圧する様に前に出た。
 仲間の少年達も、習うように一歩前へ出る。

 彼等は不愉快だった。
 折角の遊びを、武家の嗜みと称しての『狩り』を邪魔された事に。

 とは言え、彼らも全くの馬鹿という訳ではない。
 明らかに自分達の家よりも、格上と思われる出自の少女に手を出せば、後で親兄弟からきつく叱責される程度の事は理解していた。
 ルルーシュに絡んだのも、枢木が武家社会での立場を無くした後の事であり、それまでは陰口を叩く程度に留まっていたのだ。

 だからこそ、衆を頼んで威圧する。
 自分達より頭二つ三つ小さい少女なら、取り囲んで睨みつければ、それだけで怯えて逃げ出すか、或いは泣き出すかすると思ったから。
 そうすれば、格上の相手を手を出す事無く屈服させたという満足感を得た上で、楽しい遊びを続けられる。
 そんな子供らしくない、或いは、らし過ぎる残酷さと小狡さを混ぜ合わせた行動は、予想外の反応によって報われた。

「こんな小さな仔をイジメて喜ぶなど、武家として恥ずかしくないのですか!」

 山吹の少女の鋭く激しい叱責が、彼らの自尊心を痛撃する。
 怒りか、それとも羞恥か。
 一瞬にして顔を真っ赤に染めたリーダー格の少年は、粗雑な打算を完全に忘れ、自分を睨みつける少女へと殴りかかろうとする。

「この!――なっ?」

 振り上げた拳が、背後から伸ばされた手に捕らえられた。
 何事かと振り返った少年の顔が瞬時に青褪め、周りの仲間達も猛獣でも見たかのように悲鳴を上げて飛び退く。

 結果、その場には二名の子供達――訳が分からず唖然として固まる少女とリーダー格の少年――と、空気読まないというか読む気の無い闖入者(ルルーシュ)のみが残された。

「この娘の意見に、オレも賛成だ。
 正直、見苦し過ぎるぞ、貴様等」
「く、枢木……」

 軽蔑し切った目線と声が、捕らわれた少年とその仲間達の自尊心を、グッサリとばかりに抉る。
 人を挑発する才にも長けたルルーシュの言動と態度は、それだけで未熟な彼らの理性を沸騰・蒸発させるには充分過ぎた。
 かくして哀れな少年は、憤りのままに伏竜の尾を踏む事となる。

「はっ、やっぱり『混じり物』は、雑種の方ガッ――!」

 背後を振り向き罵声を上げかけた少年の顔が、再度、赤から蒼へと一気に変わった。
 顔全体にびっしりと脂汗が滲ませ苦悶する様を、つまらなそうに眺めながらルルーシュが吐き捨てる。

「喚くな。唾が飛ぶだろうが」
「がッ!……ギィ…・・・あア!……ゲェ!……」

 少年の腰椎をわずかにズラした二本の指が軽く揺れる度、彼の口から獣じみた呻き声が迸った。
 その悲痛な叫びに周囲を囲む他の子供達が恐怖に震えて後退る中、事態の急変に着いていけなくなった少女のみが、ポカンとした表情でその場に残される。

 少年の腰の辺りで、骨の軋む音が鳴った。
 ルルーシュの指が無造作に引き抜かれるや、少年はその場に崩れ落ちる。
 その尻の辺りの地面の色が異臭と共に変わっていくのを、冷ややかな眼差しで見下ろしていたルルーシュは、右足を上げ、そして下ろした。

 地を打つ音が鳴る。

 同時に、尻餅を着いていた少年が、意味不明の叫びと共に、脱兎の如くその場から逃げ出した。

 ――走る、走る、走る。

 倒けつ転びつ、後をも見ずに逃げ去るその様を、唖然として見送っていた取り巻きの少年達。
 だが、その背にも、氷の棒を突き込まれた様な悪寒が走る。

 全く温度を感じさせない紫の瞳が、彼らを見ていた。
 次の獲物はお前達だ――そう言わんばかりの捕食者の眼で。

 後は、もう言うまでも無い。
 恐慌にかられ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出すだけだ。

 その醜態を、つまらなそうに鼻を鳴らしながら見逃したルルーシュの耳に、わずかに残った矜持からか、或いは、安全圏に逃げ延びた安堵故か、負け惜しみの罵声が届く。

「半端者が!」
「覚えてろよ日本人モドキ!」

 母親譲りの美貌に無機質な笑みが浮かぶ。
 遠ざかる背に冷ややかな視線を送りながら、発言者の希望通り、きっちりと顔と名を記憶に刻んでいたルルーシュの背後で、小さな声が発せられた。

「……あの…」
「何だ?」

 オズオズといった具合にかけられた幼い声に、ルルーシュが振り返る。
 見下ろす視線の先には、カチコチと固まった感じで縮こまる先ほどの少女が居た。

 見上げる眼と見下ろす眼が、一瞬だけ交差する。
 次の瞬間、俯いてしまった少女は、そのまま暫らくモグモグと何やら口篭っていたが、やがて決心が着いたのか再び顔を上げた。

「あ、ありがとうございました」

 ただ、その一言を告げるだけで、少女の呼吸は激しく乱れた。
 艶やかな黒髪の内の一房――白い飾り布(リボン)で束ねられたソレが、その心を映す様にユラユラと揺れる。

 正直に怖いという思いと、助けられた事への感謝の念。
 拮抗する正負の感情が、少女の内で渦巻いている事が、ルルーシュにも分かった。
 未だ未完ながらも、秀麗と言ってよい容貌に苦笑が浮かぶ。

「気にするな。オレが気に入らなかったのは事実だ。それよりも――」
「あっ」

 ポンッと頭に置かれた手の重みに、驚き一色の声が漏れる。
 苦笑が微笑へと移り変わった。

「偉かったな」

 先ほどとは、打って変わった優しい声に、彼女は一瞬呆ける。
 だが、軽く髪を撫ぜる手の平の感触に、自分が褒められたのだと理解した少女の頬が薄く色づいた。

「……あ、ありがとうございます」

 プニプニとした柔らかそうな頬を、朱に染めながら応える姿に微笑ましさを感じていたルルーシュの視界の端で何かが動く。

「んっ?」
「あっ」

 少女の足元から、茶色い塊りが弾けるように飛び出した。
 そのまま一直線に進む先には、親犬と思しき雑種の犬が居る。

「……母親のようだな。迷子を捜しに来たか」
「よかった……」

 安堵しジャレつく子犬の姿に、眼を潤ませながら呟く少女。
 ホッとした風情の中、どこか羨まし気な色が滲んでいるのにルルーシュは気付いたが、所詮は行きずりの相手との思いから深く踏み込む事を避ける。

「では、な」
「あ、あの!」
「ん?」

 そのまま片手を振って別れ様としたルルーシュの背に、縋るような声が掛かる。
 振り向けば、再びモジモジしだした山吹の少女がそこに居た。

「あ……あの……その……」

 口篭り、言いかけては止め、止めては言いかける様からは、先ほど年上の少年達に取り囲まれても毅然としていた勇姿は、到底想像できそうに無い。
 明らかにテンパっているその姿から、このままでは埒が明かないと思ったルルーシュは、出来るだけ刺激しないように柔らかな声で問うた。

「うん、何かな?」

 少女の身体がピクリと震える。
 そのまま、しばし逡巡していたが、やがて決心が付いたのか、大きく深呼吸をすると喉元に引っ掛かっていた願いを口にした。

「……み、道を教えてください!」

 渾身の気合を込めて放たれたのは、思いもよらぬ一言。
 思わぬオチを受け、ルルーシュの顔にも再び苦笑が浮かぶ。

「あ〜………君も迷子か?」
「………はい」

 苦笑いをタップリ含んだ問いを受け、少女は恥ずかしさに消え入りそうになりながらも、コクリと小さく頷いた。



■□■□■□■□■□



「欧州各国の政府が、英国とグリーンランドへの避難を始めたそうだ」
「とうとう欧州も陥落しますか……」

 感慨深そうに呟く。
 彼女が愛した男が死んだのも欧州戦線の一角。
 避難民を乗せた船団を護っての散華だったと聞く。
 男の命を賭けた努力は無駄だったのか……それとも……

 しばし物思いに耽る姿を、それとなく眺めていた紅蓮は、手にした麦茶を飲み干すと一呼吸置いた後、声を掛ける。

「枢木よ、斯衛に戻るつもりは無いか?」

 大陸西方の戦況は悪化し続けているが、それは東方とて同じ事。
 昨年、帝国も協力しての第三次国共合作は成り、統一中華戦線が発足しているが、未だ防衛線は後退の一途を辿るのみ。
 大陸失陥が免れぬのは、政府内の者の眼には見え始めており、可及的速やかな戦力の強化は急務でもあった。
 事ここに至り、枢木嫌いの城内省の面々も、前年に引退を認めた筈の彼女を再び第一線に戻すべく画策しつつあり、紅蓮を介しての復帰要請もその一手である。

 とはいえ、そんな見え透いた思惑に乗ってくれる様な可愛げのある女である筈もなかった。

「残念ながら、ここ一年の暮らしで、すっかり鈍りきってしまいましたわ。
 とてもとても、斯衛の方々のお役には立てません」

 面憎くなるほど平然とした態度で、申し出を切って捨てる元部下に紅蓮は顔をしかめる。

「……真顔で嘘を言うな、嘘を。
 貴様、ルルーシュも、斯衛に入れるつもりはあるまい」

 女の美貌に苦笑の色が浮かんだ。
 それを肯定と取った紅蓮は、更に言い募る。

「あれほどの才の持ち主を……勿体無いとは思わんのか?
 断言しても良いが、長ずればアヤツは、ワシやお主を越えるだろう」

 そう余りにも惜し過ぎる。
 あたら帝国の歴史に名を刻める衛士に成れるであろう才を、野に置き腐らせる事など彼には到底認められなかった。

 だがそれは、あくまでも紅蓮の視点、紅蓮の言い分である。
 彼女には彼女の考えがあるのは、当然の事。

「――だからこそです」

 氷の刃で切り裂くような冷たく鋭い一声が、紅蓮の喉を薙ぐ。
 発せられる気迫に息を呑む相手を、冷たく見据えながら、真理亜は更に言葉を重ねた。

「だからこそ、私はあの子に自由であって欲しい。そう願っています」
「……斯衛になる事は、アヤツにとって枷にしかならぬと?」

 問い質す声に、応ずる事無く視線を動かす。
 陽光の中、緑が映える庭園を見つめながら、無言を貫く真理亜の姿勢に紅蓮は肩を落とした。

「分かっているのだろうな?
 武家の嫡子は、成長すれば斯衛に入るが定め。
 それを拒否するという意味が……」
「私にとっては枢木が武家で在り続ける事よりも、あの子の方が大事……そういう事ですわ」

 瞑目して紅蓮は、天を仰ぐ。
 前途多難としか言えぬ道程を前にし、厳つい顔には似合わぬ疲れた溜息が漏れた。



■□■□■□■□■□



「なるほど、最近越してきたばかりなのか」
「はい、父様の仕事で、しばらく帝都を離れていたのですが、それが終わったのでこちらに」

 チョコチョコと歩く少女の歩幅に合わせながら、その手を引き、帝都の小道を歩く。
 ようやく迷子の不安から解放された反動か、ニコニコと笑みを浮かべ、楽しそうに自分の事を話す少女に相槌を打ちつつルルーシュも頬を緩めた。

 幼いながらも整った目鼻立ちと癖の無い美しい黒髪は、長ずれば相当の美女になるであろう事を伺わせるが、今は年相応の可愛らしさの方が目立つ。
 まるで共通点の無い容貌であったが、その少女に最早会う事も叶わぬ実妹を重ねてしまったのか、ルルーシュも、普段、見知らぬ人に向ける物とは百八十度異なる優しい声で、少女と会話を交わし続ける。

「ほう、そうか。それでは仕方が無いな。
 この辺りは、武家屋敷が多く道が入り組んでいるからな、初めての者は大概迷う」
「はい、昔住んでいた屋敷だったそうですが、私はその頃まだ赤子でしたから」

 会話の中に引っ掛かるモノを感じて、ルルーシュは怪訝そうな表情を浮かべる。
 脳裏に浮かんだ些細な疑問を尋ねるべく、脇を歩く少女に声を掛けようとして、また戸惑った。

「待て……あ、うん?……ああ、そう言えば、まだ名前を訊いていなかった。
 オレは、枢木ルルーシュという。君の名を良ければ教えて貰えないか?」
「あ、はい!
 篁 唯依と申します」
「篁?」
「はい、斯衛として山吹を許されております」

 その一言をキーとして彼の意識野には、聞こうとしていた物とは別の情報が浮かんだ。

「……もしや、初の国産改造戦術機『瑞鶴』の開発主査を務めていた斯衛軍の篁少佐の縁者か?」
「はい、父様です!
 ご存知でしたか?」
「帝都では、有名人だからな。
 昨年、矢臼別演習場にて米軍の最新鋭機を撃破した事で、同じく首席開発衛士を務めていた帝国軍の巌谷大尉と並んで時の人だろ」
「はい!」

 父親を褒められて嬉し恥ずかしといった風情で照れる唯依。
 その仕草を微笑ましそうに見ながら、ルルーシュは考える。

『今をときめく篁少佐、いや昇進して中佐だったか、コネとしては申し分ないが……さすがに、な』

 正直、技術廠へのツテは欲しいが、その為に目の前ではにかむ少女を利用するのは気が引けた。
 一瞬だけ脳裏を過ぎった打算を捨て、話題を変えるように先ほどの質問に戻る。

「ところで篁嬢」
「はい?」
「先ほど聞きそびれたのだが、君は幾つなのだ?」
「今年の三月十三日で、五歳になりました」

 年齢の割りにしっかりしている唯依に、ルルーシュは珍しい物を見たような顔をする。
 言動と態度から、最低でももう二つ三つは上だろうと予測していたのだ。

「……篁嬢は、歳の割りに随分としっかりしているのだな」
「ありがとうございます。
 ……あのルルっぅ!」

 褒められて頬を染めつつ、彼の名を呼ぼうとした唯依は、日本人のそれとは異なる発音に思わず舌を噛む。
 痛みのあまり眦にジワリと涙が滲むが、幼いながらも武家の娘としての矜持故か、零れそうになる雫をプルプルと震えながらも必死で堪える姿に、見て見ぬフリを決めたルルーシュは、震えが収まったところを見計らい柔らかく微笑みながら尋ねる。

「さすがに言い難いか、オレの名は」
「……はい、すみません」

 シュンッとばかりにうな垂れる少女に、気にするなとジェスチャーで示しつつ告げる。

「謝る事はない。
 呼び良いように呼べばいい」
「はい……あの、枢木様は、外国の方なのですか?」

 名前と容姿から察したのだろうが、興味ありそうな唯依の問いにルルーシュの眉が微かに寄った。
 そうでなくても国粋主義が蔓延りつつあるご時勢、ハーフというのは奇異の眼で見られがちであり、閉鎖的な武家社会ではそれが特に顕著でもある。
 ルルーシュの出自を知って、あっさりと手の平を返した者など、大人でも子供でも枚挙にいとまが無い。
 その事を思った時、ルルーシュの反応がホンの一呼吸だけ遅れた。

「……半分だけな。
 父は英国人で母は日本人、いわゆる混血というヤツだ」
「そうですか……あっ! この辺は見覚えがあります」

 予想外にもサラッと流された。
 思わぬ反応に一瞬固まるルルーシュを他所に、ようやく自分も知る場所に出た事で、唯依の思考は全てそちらへと移る。
 無邪気に喜ぶその姿に硬直から解放されたルルーシュは、わずかに苦笑しながら、そろそろ潮時とみて繋いでいた手を離した。

「あっ?」
「ここまで来れば、もう大丈夫だろう。ここでお別れだ」

 そう言って軽く手を振り立ち去ろうとする。
 だが、二歩目を踏み出そうとしたところで、その足が止まった。
 振り返ると、服の裾を小さな両手で握り締めた唯依が、何か言いた気な表情でジッとこちらを見上げている。
 必死さを感じさせるその仕草に、ルルーシュは当初の予測よりも大幅に帰宅が遅くなる事を確信し、一度だけ溜息を吐いた。



■□■□■□■□■□



「ふむ、結局どこまで行っても平行線か」
「仕方ありませんわ。こればかりは」

 あの後も、なお食い下がる紅蓮を、ヒラリ、スルリとかわし続けた真理亜は、容易に言質を与えることは無かった。
 狡猾な女狐相手に、苛立ちを押さえつつ悪戦苦闘を繰り広げてきた紅蓮は、やむなく本日最後の切り札を切る。

「煌武院悠陽様は、知っておるな」

 いきなり出てきた思いも寄らぬ名に流石の真理亜も、わずかに戸惑いを匂わせた。

「……順番からいけば次期将軍殿下最有力候補な方ですわね」
「うむ、それだけに色々と難儀な眼に遭われる事にもなろう。
 ワシとしては、叶う事ならルルーシュに悠陽様の近侍として力になって貰いたいのだ」

 また面倒な事を、と言わんばかりに真理亜の表情が歪む。

「ご冗談を、次期将軍殿下の側近を務めるなら最低でも『赤』、煌武院ならば月詠辺りが適任とされるお役目でしょう」

 家格、家格と煩い連中の顔が浮かんだのか、心底うっとうしそうな口調で、らしくない正論を唱える。
 紅蓮は、全くその気が無いと全身で示す様に落胆しつつも、それでも辛抱強く説得を重ねた。
 文武に秀でた才気を示すルルーシュなら、きっと悠陽の役に立つという確信もあり、告げる言葉にも自然と熱が篭る。

「その辺りはワシがなんとでもしてみせよう。
 頼む、悠陽様に力を貸してはくれまいか?」

 紅蓮の熱意にほだされたのか、冷ややかな表情を浮かべていた真理亜の顔に、わずかな逡巡の色が浮かんだ。
 だが、数瞬なにかを考える仕草を見せた後、ゆっくりと首を横に振る。

「……折角ではありますが、ルルーシュがお側に上がれば、かえって要らぬ波風を起こすだけですわ」

 既に、武家社会における枢木の立場は無いに等しい事を、彼女はキチンと把握していた。
 そんな家の嫡子が、次期将軍殿下の側に近侍として侍るとなれば、一悶着程度で済む筈も無い。
 殿中スズメ達が、気が狂ったように騒ぎ立てるのが目に見えていた。

 その点を、理路整然と告げられてしまえば、さすがの紅蓮も無理強いは出来なくなる。
 この男には珍しく肩を落とし、凹んだ声で呟く。

「どうしても駄目か……」
「駄目です」

 本日の赤鬼と女狐の鍔迫り合いも、やはり女狐の側に軍配が上がった瞬間だった。



■□■□■□■□■□



 賑やかに浮かれ騒ぐ声が、四十畳はあろう座敷の中に満ちていた。
 明るい掛け声と共に杯を交わし、或いは、饗された料理に舌鼓を打つ。

 そんな平和な風景の一部となりながらも、それを拒むかのように浮かない顔で上座の一角に座す少年が一人。

『……どうしてこうなった?』

 ルルーシュは、思いもよらぬ事態の変遷に巻き込まれ、その胸中で小さく嘆息する。

 どうしてもと、それこそしがみ付きかねない勢いで、唯依に家へと招かれた際には、『まあ一言挨拶する位なら』といった程度の感覚で、結局、折れる事になったのだが、それが、そもそもの誤りであった。
 そのまま篁家まで、手を曳かれていったのが運の尽きと言うべきか。
 帰らぬ娘の身を案じ、門の前まで来ていた父親達(・・・)と、バッタリと出会ってしまったルルーシュは、そのまま家の中まで連行され質問責めに遭う破目に陥ったのだ。
 そして、そのままなし崩し的に、宴会の準主賓とでも言うべき立場へと祭り上げられ、今へと到った訳である。

 厚意には、感謝をもって報いるべきとは思う。
 ……そう思いはするのだが、やはり周りから注がれる視線が痛過ぎた。

 早く終わってくれ――針の筵に座った気分で、切実にそう願い続けるルルーシュ。
 そんな苦行に耐えるに彼に向け、左手より声が掛かけられる。

「どうしたのかね、ルルーシュ君。
 箸があまり進んでいないようだが?」
「む、何か嫌いな物でもあったのか?
 いかんぞ、子供が好き嫌いをしては」

 宴たけなわのこの場にあっても、一部の隙無く背筋を伸ばし、真面目一徹を絵に描いたような容貌の主と、精悍な顔立ちにどこか稚気を感じさせる雰囲気を持つ男が、交互にルルーシュを覗き込む。

 この家の主とその親友。
 泣く子も黙る帝国の英雄にして、愛娘を愛してやまぬ親馬鹿な父親達(・・・)

 彼――ルルーシュを、この場に巻き込んだ元凶とも言える面々なのだが……

『だがこれは、感謝すべきか?』

 宴の主催と主賓が、揃って自分を気遣う事で、先ほどから感じていたイヤな視線が、うろたえるように減っていくのが分かった。
 巌谷の鋭い眼差しに、一瞬だけ笑みが浮かんで消える。

『………』

 少年の口元がわずかに綻び、それを隠すかのように軽く頭が下げられた。
 実父とルルーシュに挟まれる形で座り、先ほどからチラチラと様子を伺っていた唯依が、不思議そうに首を傾げる。

 いかに利発とはいえ、未だ五歳の少女には、ホンの少し前まで場に流れていた空気を読むのは無理―――と言うよりも、未だ九歳のルルーシュが読めて、気遣いにまで応じられる事の方が異常なのだ。
 そんな自身の異常性を認識しつつも、特大の猫を被った彼は、良家の子息を熱演する。

「そういう訳ではありませんが……本当によろしいのですか、私などがお邪魔していても?」

 ――ウチの悪評は、ご存知でしょ?

 と、言外に告げる少年に、大人達は困ったような表情を浮かべる。

 枢木の悪評と共に、その嫡子の聡明さも聞き及んではいたが、こうして直に接してみてハッキリと分かったのだ。
 噂は、事実の十分の一も表してはいない、と。

 天才という修辞すら、この少年に冠するには不似合いに思えた。
 もし、この異彩にして異端な存在に似合う言葉があるとするなら、それは………

「何を子供が遠慮しているのかね。
 そもそも君は娘の恩人だ、相応の持て成しをするのが礼儀というものだろう」

 胸中に浮かんだ一言。
 斯衛軍の一員たる身が、唯一無二の例外を除いて、決して感じてはならぬ筈のソレを掻き消すように、篁は『常識』を口にした。
 子供達を挟んで並ぶ巌谷の肩からも、微かに力が抜け、そのまま座の空気を入れ替えるように、わざとおどけて見せる。

「そうそう、その通り。
 ほら唯依ちゃん、ルルーシュ君に何か勧めてあげなさい」
「あ、はい!
 ……あの、コレはいかがですか?」

 大好きな父親達とキレイで優しいお兄さんの間に産まれた微妙な空気に、その意味を理解できぬまま不安そうにしていた唯依は、突然、水を向けられて半ば飛び上がりかける程に驚いたが、それでも父親譲りの律儀さで、膳の上の料理――彼女も好きな肉ジャガを器ごと取り上げて、ルルーシュへと差し出した。

 小さな手で、やや大振りの器を持ち上げ、少しだけ不安そうに自分を見る少女に、ルルーシュが着込む透明な猫の着ぐるみも少しだけ綻ぶ。

「……いただこう」

 そう言って手を差し出す彼に、唯依の顔が嬉しそうに綻ぶ。
 釣られて崩れたルルーシュの相好が、脇から聞こえた一言でピシリッと固まった。

「チッチッチッ、違うぞ唯依ちゃん。
 そういう時はな、お箸で取ってア〜ンとやるんだ」
「なっ!」
「ふぇっ?」

 立てた人差し指を振りつつ、口元にニヒルな笑み、目には爆笑の色を浮かべた不良中年が投げ込んだ爆弾発言が、場の喧騒を一瞬で吹き飛ばす。
 ――更には、

「ふふ、そうだな。
 そうしてあげなさい唯依」

 真面目そうな表情のまま、それを肯定し、推奨する父親の一言が続き、哀れ少女はパニックに陥る破目になる。

「あ…あの……あの……」

 思いもよらぬ父親達の命令(?)に、頬を朱に染めてワタワタと慌てふためく唯依。
 愛娘のそんな姿に、篁は楽しげに笑い、巌谷が精悍な顔をだらしなくにやけさせる。

 子煩悩丸出しの親馬鹿コンビの悪ふざけに、ルルーシュの眉間に皺がよった。

「いや、そこまでして貰わなくても自分で――っ?」

 制止をしようとした彼の目の前に、一膳の箸が突き出された。無論、よく味の染みたおいしそうなジャガイモ付きで。

「あ…ア……ア〜ン」

 ドモリつつも、しっかりと箸を差し出し、上目遣いでこちらを見る唯依。
 柔らかそうな頬は朱で染まり、その眼は恥ずかしさにウルウルと潤んでいた。

 そんな可愛らしい生き物と、両サイドから威圧――ウチの娘に恥をかかせないよね?――してくる親馬鹿コンビ。
 更には、周囲の客達からも微妙な圧力が掛かってくる。

 完全なアウェーに、自身が追い込まれた事を悟ったルルーシュは、潔く白旗を揚げる以外の選択肢が無くなっている事を理解した。

「………あ〜ん……」
「!――ア〜ン」

 羞恥に耐えつつ、開いた少年の口に、程よい大きさと味のジャガイモが送り込まれた。
 そのまま目をつぶり、モグモグと噛んで飲み込む。
 正直、味などさっぱり分からなかったが、ルルーシュは男として果たすべき義務を果たすべく口を開いた。

「……美味かった。ありがとう」
「はい!」

 はにかみながらも、唯依は嬉しそうに笑う。

 その様を肴に、楽しそうに杯を交わすオヤジが二人。
 内心で殴りかかりたくなる衝動を抑えつつ、こちらを伺うように見上げる唯依の手前、怒る訳にもいかず、心の内で独り愚痴る。

『ふぅ……本当に疲れた。
 ……しかし、篁中佐と巌谷少佐がセットで居るとはな』

 今日は引越し祝いも兼ねた内輪での宴会との事で、集まった篁家の親族や技術廠の同僚達が、先ほどのイベントをネタに更に盛り上がりつつある。
 中には、未だに嫌な視線を送ってくる者――篁の親族との事だが――も居るが、その都度、さり気ない仕草で篁中佐がたしなめている様で、先ほどに比べればかなりマシといえた。

 当面は、もう不快な目にあわずに済むと踏んだルルーシュは、再びの『ア〜ン』攻撃を回避すべく、適当に饗された料理に箸を伸ばす。
 口に入れた物を、ゆっくり咀嚼しつつ、脇に座った唯依が物足りなそうな表情で箸を構えているのを意図的に無視し、しばらくの間、宴の様子を観察しながら思考を巡らせた。

『瑞鶴の成果に、皆が皆、舞い上がっているか……だが』

 ルルーシュの視点から見れば、何を大騒ぎしているのかと言いたくなる。
 アクロバティックなナイトメアの動きを見慣れた彼からすれば、現行の戦術機など、どれもこれも出来の悪い木偶人形程度にしか見えなかったのだ。

 まして過日行われた模擬戦も、どちらかと言えば機体性能で押したと言うよりも、巌谷少佐(当時大尉)の作戦勝ちの要素が強いと見ている。
 単純に力押しで勝負を決めていたなら、恐らく勝ったのはF-15C側の筈。
 瑞鶴の成果を敢えて挙げるなら、戦術機としての性能云々ではなく、純国産戦術機開発への途を閉ざさなかったという一事に尽きるだろう。

 それなのに……

『やはり米国機など不要だ』
『そう我等には、瑞鶴がある!』
『これでBETA共など一捻りよ!』

 あちこちから聞こえてくる威勢のいい声に、ルルーシュの眉目が寄った。
 現状を正しく認識できていないのか、あるいは単なる逃避か。
 前者・後者いずれであっても、問題の有る話である。
 そう思い、内心で落胆の溜息を吐いていたルルーシュは、ふと、ある事に気付いた。

「「…………」」

 気勢を上げる面々を、どこか苦い表情で見ている主催と主賓がそこに居た。
 わずかに透けて見える憂慮の色が、両者の内心を少しだけ垣間見せている。
 それがルルーシュの中の天秤を傾ける事となった。

「ご心配ですか?
 お二人の成果が、この国の行く末を歪めてしまうのではないかと?」
「え?」
「「――ッ!?」」

 唐突に掛けられた意味不明な一言に、訳が分からない唯依は首を捻る。
 対して、脇に座していた父親達は、揃って顔を強張らせた。
 篁の視線に剄烈な光が宿り、巌谷の面に鋭い表情が浮かぶ。

「ルルーシュ君、君は……」
「ご馳走になりました。
 ですが、そろそろ帰らないと母を心配させてしまいますので、この辺りで、お暇させて頂きます」

 篁にみなまで言わせず、ルルーシュは礼儀正しく頭を下げて礼を言い、席を立つ。
 出鼻を挫かれ、篁の頬が一瞬だけ強張るが、それを周囲に悟らせる事はない。
 速やかに狼狽から立ち直った胆力に、ルルーシュが興味深そうに見やる中、ここではマズイと判断したのか、篁もまた立ち上がった。

「……そうか、では玄関まで送ろう」

 そう言って、一瞬だけ巌谷に目配せする。
 以心伝心というべきか、それだけで己の成すべき事を理解した巌谷は、座の空気を保つべくその場に残った。
 篁に対する巌谷の信頼の厚さが、先ほどの言も含めてルルーシュの事は、友に任せておけば大丈夫と信じさせたが故である。

 そんな父親達とルルーシュの姿を、唖然として見ていた唯依だったが、少し迷った後、彼女もまた父達の後を追った。
 共にゆっくりと歩いていたのか、そう時間をかける事無く廊下を渡り行く大小二つの人影に少女は追いつく。
 息を乱しつつも、ホッとして声を掛けようとするが、風に乗って聞こえてきたルルーシュの声が、少女の喉を凍りつかせた。

「……瑞鶴ではBETAに勝てない。
 いや、現行の戦術機の性能では、どこの国の機体でも不可能。
 ならば、今は少しでも刃を研ぎ澄ますべき時、その為なら国の垣根に囚われるべきではない。
 ………そう、お考えなのではないですか?」

 尊敬する父の功績を、真っ向から否定するかのようなルルーシュの発言に、唯依はショックを受けて棒立ちになる。
 対して、言われた当人はと言えば、ひどく落ち着いた口調で、不敵な批判者に問い返すのだった。

「何故、そう思うのかね?」
「私も、あの場でそう考えたからです」
「……そうか」

 微かな溜息と共に、篁は頷いた。
 その顔には、ルルーシュの問いを肯定する色が浮かんでいる。

 自身の予測が当たっていた事を誇るでもなく、嵩に掛かる訳でもなく、淡々とした様子で、ルルーシュは自身の見立てを説き続けた。

「純国産戦術機の開発が必要なのは確かでしょうが、現在の帝国には、それを成し得る技術が無い。
 瑞鶴とて、あくまでも国産改造機に過ぎない以上、今は可能な限り外国から技術を吸収すべき段階にある筈です」
「その通りだ」
『父様!?』

 思わぬ父の肯定に、唯依は息を呑む。

 米国の最新鋭機を撃破した事で、多くの人から賞賛された父達。
 そうやって父を褒める人達の大半が、口を揃えて言うのは、『もはや米国に学ぶ事など無い』の一言だった。
 そして唯依も、知らず知らずの内にではあるが、その考えに染まっていた。

 ――父様や巌谷のおじ様が居れば、米国に頼る必要など無い、と。

 だが、当の本人がそれを否定した。これ以上無いほど明確に。

 唯依には、何がなんだかサッパリ分からなくなってしまった。
 足元が、グラグラと揺れているような錯覚すら覚える中、聴覚のみが鋭敏になっていく。

 そんな娘の混乱ぶりを知らぬ父は、小さく深く嘆息すると胸の内にわだかまる本音を吐露した。

「私自身、唯依が産まれる前には、米国に留学し戦術機について必死に学んでいたものだ。
 だが、今回の一件で、もはや米国に学ぶ必要は無いと言い出す連中が増えてしまった」

 この傾向を深く憂慮したのは、皮肉にも彼らに外国否定の根拠を与えた自分達のみ。
 国粋主義・国産主義を全否定するつもりはサラサラ無いが、異なる思想・発想を完全に排除しかねない危険性を孕んでいる以上、それには一定の制約が加わるべきだと篁自身は思っている。
 これは巌谷にしても同感との事だった。
 現状を正しく知り、正しく理解しているが故の合意であったが、そんな自分達が、事もあろうに彼らの神輿として担がれそうになっているのだから世話は無い。
 自嘲・自虐の溜息程度は漏れようというものだった。

 そうやって持ち前の悪癖である自省に落ち込みかけた篁の鼓膜を、遠慮の欠片も無い言葉の槍が抉る。

「一方向に固定化された思考は、やがて視野狭窄を招き、結果として帝国の戦術機は進化の袋小路に陥るわけですか」
「そんな事はさせんよ。
 私や巌谷の目の黒いうちはな」

 冷笑すら浮かべてみせるルルーシュの舌鋒を受けながら、篁は歯を食いしばりつつ、忌むべき未来予想を否定する。

 ――『瑞鶴』の事は仕方が無い。

 何度も巌谷と話し合い、そして達した結論だ。
 もし、あそこで負けていれば、国産戦術機開発の途は完全に閉ざされ、帝国は主力兵器の開発と生産という急所を米国に握られていた筈だ。
 今後の帝国における政戦両略においても、それは致命的な問題となって帝国の手足を縛り続けただろう。

 だから、あそこは何としても勝たねばならない局面だった。
 だが、その結果が、帝国の進路を誤らせる要因となると言うなら、それを正すのは自分達の役目であると彼らは認識している。
 そして、それが途方も無い茨の道であるという事も。

「ですが、貴方達が志半ばで斃れた後は、そうなります」
「………」

 不吉な予言に、篁の顔が強張る。

 無いとは言えない。
 いや、そうなる可能性が高いと、自身で認めてしまった事が彼の反論封じた。

 自身と巌谷が理想とする国際共同開発による国産戦術機(・・・・・・・・・・・・・・)
 それを現実の物とするには、過激な国粋主義者と恥知らずな売国奴、その両者の間で絶妙なバランスを取りつつ、護るべき一線を死守する必要がある。
 極めて危険な綱渡り、落ちれば間違いなく命が無くなる程の危険な道のりだ。

 自分が斃れたなら、巌谷が夢を継いでくれる。
 巌谷が斃れたなら、自分が志を継ぐだろう。

 だが自分達が、共に斃れたその後は………

 帝国の未来に対する暗澹たる思いが、その胸中をゆっくりと満たしかけるが、思わぬ闖入者がソレを根底から覆す。

「私がやります!」
「唯依?」

 思わぬところから、思わぬ人物が掛けた一声に、篁は驚きの声を洩らし、ルルーシュはわずかに目を見開いた。

「私が、父様や巌谷のおじ様の後をついで、立派な戦術機をつくります!」

 小さなコブシを握り締めて、それでも必死な様子で言う愛娘の姿に、篁の中で産まれかけた絶望が、産まれ落ちる事無くゆっくりと溶けていく。

「そうか……そうだな」

 そう言って、誇らしげに娘の頭を撫ぜる父。
 くすぐったそうに、でも、嬉しそうに娘は目を細める。

 そんな父娘の姿を見るルルーシュの眼差しにも、先ほどまでの冷厳さは無かった。

「……では、ここで」

 そう言ってルルーシュは踵を返した。
 玄関までは、まだ距離があるが、この父娘の間に水を注すのは無粋と感じ、立ち去ろうとする背に思わぬ声が掛かる。

「ああ、今日は有意義な話が出来た。
 家も近い事だし、また遊びに来なさい」

 先程、宴の場で見せていたのと同じ穏やかな笑みを浮かべながら告げる篁を、ルルーシュはひどく珍しい物を見たような目つきで凝視する。

「よろしいのですか?
 オレは、『あの』枢木ですよ」

 あれだけ言いたい放題言った上に、その身は武家社会では爪弾きされる家の出。
 正直、塩ぐらいは撒かれるかと思っていたルルーシュに、篁はその予想を覆す返事を返す。

「さて、私には娘の友達に対して、閉ざす扉の持ち合わせは無いよ」

 そう言って脇に立つ娘の髪を、愛しそうに撫でる。
 友達認定され、若干照れながら、唯依も嬉しそうに同意した。

「また、いらして下さい」
「………ああ、またお邪魔させていただこう」

 数瞬の沈黙の後、ルルーシュは再度の来訪を約束する。
 そして、更に嬉しげに笑う唯依と隣で微笑む篁に、軽く会釈して立ち去りかけるが、不意に、とある事を思いつき、二、三歩行ったところでその足が止まった。

「篁中佐」

 振り返った少年の眼には、どこか歳相応にも見える悪戯っぽい光が踊っている。

「ん、何かな?」
「お嬢さんに触発された訳では無いですが、オレも、オレなりにやれる事を、やってみようと思っています。
 貴方達とは、全く別のアプローチになるでしょうが、至るべき場所はきっと同じになるでしょう」

 これまでとは違う面を見せるルルーシュに、興味を引かれて応じた篁に向け、ルルーシュは一個の時限爆弾を手渡した。
 相変わらずの意味不明の宣言に不思議そうに首を捻る娘と、ルルーシュの底知れなさを悟ったが故、わずかに顔を引き締める父。

「では、いずれまた(・・・・・)

 彼らが、彼の残した言葉の意味を理解するには、少しだけ時間が必要だった。



■□■□■□■□■□



 縁側に腰掛け、月を見ながら昔を偲ぶ。
 どこまでも思い通りに身勝手に生きてきたつもりだったが、それでも今振り返れば後悔ばかりだと彼女は思った。

 ――あの時、ああしていれば、あの時、こうしていたなら。

 昔なら、その未練がましさを鼻先でせせら笑ったであろう想いが、自身の内に息づいている事に苦々しさを覚えつつ呟く。

「……こういうのを、歳を取ったって言うのかしらね」

 そう言って空を見上げながら自嘲の笑みを浮かべていた真理亜だったが、その顔に浮かぶ憂いの色が不意に失せた。
 縁側へと続く廊下の向こうから、微かに聞こえる足音に気付いた所為だ。
 一瞬にも見たぬ間で、普段の様子へと戻った彼女の視線の先に一人息子の姿が浮かぶ。

「母上、ただいま戻りました」
「お帰りなさい、夕食は………食べてきたみたいね?」
「はい」

 素直に頷く子供を前にし、真理亜は内心で首を傾げる。
 小遣いは過不足無く与えているつもりだったが、倹約家の気がある息子が外食とは珍しい。
 そんな胸中の思いが顔に出たのか、隣に座った息子は、紅蓮に吹き飛ばされた後の顛末を順を追って話し出した。

「へぇ〜、あの瑞鶴コンビにねぇ」

 一通り聞き終わるとそう言って、クスクスと楽しそうに笑う。
 どこへ行ったのかと思えば、思わぬ者達と知遇を得ていようとは、予想外にも程がある。

 これだから人生は面白い――先ほどの憂鬱の残滓が晴れるのを感じながら、真理亜はそう思った。

 そんな彼女の内心を知ってか知らずか、先ほどから庭を眺めて何かを考えていたルルーシュが口を開く。

「母上」
「なにかしら……アラ? アララ、怖い顔ねぇ」

 子供に似合わぬ醒めた表情を浮かべている事が多い我が子にしては、珍しく真剣な顔に真理亜も居住まいを正す。
 正対する親子の間で、数拍の時が過ぎた。

「お願いがあります」
「……言ってみなさい」

 許しを得て、滔々と語り出す。
 これまで暖めてきた構想を、彼はこの夜、初めて口外した。

 当初は黙って話を聞いていた真理亜も、話が進むに連れて疑問を問い、或いは、問題と思われる点を指摘する。
 互いに激することは無く、だが、交わされる会話は刃の如く鋭く深かった。

 やがて夜も更ける頃、ようやく親子の話し合いは終わった。
 精神面は兎も角、肉体的には九歳の少年の身であるルルーシュは、濃密過ぎた一日に流石に疲れは隠せぬらしく、フラフラした足取りで奥へと消えていく。

 その背を見送った後、再び真理亜は空を見上げた。
 既にして、月は中天を過ぎ、西へと傾きつつある。
 だが、それを見る彼女の顔は、数時間前とはうって変わった生気溢れるものだった。

「なんともはや、我が子ながら、恐ろしいというべきか、頼もしいと思うべきか………」

 未だ尚、若々しさを失わぬ美貌に、心底、楽しげな表情を浮かべて彼女は独白する。
 空の月を見つめる瞳が、その視線がわずかに変わった。
 月を通り過ぎ、それよりも更に先へ、もっと遠くへ、ここではないどこかを見つめるように。

「………貴女は、どう思っていたのかしらね?………ねぇ、『マリアンヌ(・・・・・)』……」

 最後の呟きは、誰の耳にも届く事無く、夜空へと消えていった。










―― 西暦一九八八年 一月――

 民需主体で業績を伸ばしていた枢木工業が、突如として戦術機用新型OS『RTOS-88(Revolutionary Tactical surface fighter Operating System type-88)』を発表。

 この新型OSは、従来型OSの機能を整理・統合する事でOS自体のスリム化・高速化を実現し、空いた分のリソースを利用して行われる見かけ上の並列処理により動作間の硬直時間を従来の二割程度に押さえ込む事に成功する。
 また機体の自律制御自体は残されたが、各タスクの優先順位の付け替えとイベント割り込みによる処理の中断・切り替えを組み込み、自律制御中の操作不可という従来型OSの欠点を解消するなど、主としてレスポンスの改善と操作性の大幅な向上がウリとなっていた。

 当初は、技術廠の肝煎りで帝国軍にだけ納められたこのOSは、その性能と扱いやすさから直ぐに斯衛軍にも納入される事となり、やがて世界へも広がっていく事となる。
 数年後には、ほぼ世界シェアの七割以上を占める事となったこの『RTOS-88』は、単に優秀なOSというだけに留まらず、ハードウェアの付属品に過ぎなかった従来のOSの概念を塗り替え、ソフトウェアによる戦術機の性能向上という新たな可能性を世界に示したとして高く評価される事になるのだった。






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どうもねむり猫Mk3です。

本作の魔王陛下は、ナナナのマッチョゼロ方向へ進まれる模様です。
こうムキムキってw

今回は、唯依姫幼女バージョンでした。
イメージ的には、2,3頭身のデフォメルキャラが、ちょこちょこ動いているのを想像してみてください(そうやって書きましたから)

文中で巌谷氏の階級が、大尉と少佐の二つになっていますが、これはイーグルに勝った時点で大尉(公式設定です)。
で、その功績で昇進したろうなという事で、現在は少佐(こちらは妄想です)になっております。

それでは次へどうぞ。




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