第21話『不審物にはご注意を』
―――午前5時、アークシティ西区集い荘。
「ぬう……」
シオンは腕を組んで、テーブルの上に置いてある箱を見つめながら唸る。
彼の朝は非常に早い。誰よりも早く起き、意力の基礎鍛錬を行う。
鍛錬の為に外に出ようとして、玄関を開けたらこの箱が玄関の前にポツンと置かれていた。
綺麗に包装されていることから、誰かが捨てたゴミの類ではない。
郵便受けに入れるには、若干大き目だったから玄関の前に置いたのだろうか?
いやいや、それなら宅配業者が呼び鈴を鳴らし、集い荘の誰かが受け取るのが普通だ。
というか、時刻は午前5時である。朝刊ならともかく、こんな早朝から届け物をする宅配業者が居るのか?
「(爆発物の類では無い様だが……)」
シオンが生きていた500年前の時代、遠隔操作で爆破させたり時限式で爆発する爆弾の類は存在しなかった。
この時代に来てから読んだ本に、その様な危険物が存在することを知り、熱心に勉強した。
そういう事態を想定し、以前に爆発物を感知する簡易型のセンサーを発注していた。それを使って調べたが反応は全く無かった。
開けてもいいだろうか。いや、危険物ではないにしろ、差出人不明の郵便物を開けるのはどうかと。
箱の何処にも、差出人の名前は見当たらなかった。もしかしたら、誤送かもしれない。
「何とも言えんなぁ……む?」
懐にしまっている通信機から着信音が。通信機を取り出す。
「こちら、シオンだ」
『あ、シオンさん?』
「リューか、どうした?」
『ブレイカーが出現したわ。数は40で、南方から反応が出ているわ』
「分かった、直ぐに向かう。……ところで、俺以外に連絡しなかったのか?」
『今、午前5時よ?シオンさんくらいしか起きてないと思うわ』
確かに。他の面々は、自室のベッドの中でまだ夢の世界に居るだろう。
「しかし、君には感心するな。こんな早朝から勤務―――」
『うふふ……書類を大量に押し付けられて、徹夜で寝泊まりしてるのよ』
「そ、そうか……」
通信機から聞こえてくる恨めしそうな声、やや引き気味になる。
さて、それはそうとして、セイバーとしての責務を果たさなくてはならない。
不審な郵便物が気に掛かるが、それ以上にブレイカーの方が問題だ。
まぁ、流石に勝手にこれを開ける様な不躾な人間は居ないだろう。
身支度を手早く整え、出現したブレイカー討伐へと向かう。
この時、彼は失念していた。興味本位でこれを開けてしまう人間が居たことを。
午前7時、集い荘の面々も眠りから醒めていた。
洗顔と歯磨きを終えたアンリとカノンが、着替える為に2階に戻ろうとした時にその箱の存在に気付いた。
「あれ?何だろ、この箱?」
「アンリ、勝手に開けちゃ駄目ですよ!?」
「ん〜何か気になっちゃって」
カノンの制止も何のその、アンリはテーブルの上に置かれた箱を開けていた。
シオンはこの娘の存在を忘れていた。好奇心の塊、興味本位で行動を起こす彼女の存在を。
パカッと、箱を開くと中には何やらドリンク剤らしき小瓶がふたつ。
「ドリンク剤かぁ。ケーキとかなら嬉しいのになぁ」
「ケーキだったら、冷蔵庫に入れるでしょう……」
「でも、全然冷えていないね。冷蔵庫で冷やしとこ」
「それよりも、後でこれを受け取った人に謝って下さいね……」
天然幼馴染の行動に頭を痛めながら、カノンは冷蔵庫にドリンク剤を入れた。
彼女は後悔することになる。これが何なのかを調べもせずに冷蔵庫に入れたことを。
「アル達、まだ寝てるのかな?」
「ソラスさんは……あ、そう言えば外泊しているんでしたね」
ソラスは銃器を扱うセイバーである。銃の扱いに優れた彼は、銃の製造を行う工房やメーカーに試作銃の射撃テストを頼まれることが多々ある。
その為、訪れた所で泊まってくることも珍しくなく、今回もテスト先で外泊しているのだ。
「アルとザッシュさんは―――あ、噂をすれば」
アヴェルとザッシュの両名が、洗面用具を持って1階に下りて来た。
「おはよう、ふたりとも」
「おはよ♪ありゃ、シオンくんは居ないのかい?」
「出掛けてるみたい。朝早くから何処に行ってるんだろ?」
「鍛錬かな……あ、通信機が」
アヴェルは通信機のスイッチを入れる。
『おはよう、アヴェルくん』
「あ、リューさん。おはようございます、どうしたんですか?」
「ヒドイや、リューちゃん!何で、僕の通信機に連絡入れてくれないの!?」
『朝早くからやかましい声を聞きたくないからよ。ところで、シオンさんはまだ戻ってないの?』
「え?シオンさんに何かあったんですか?」
リューから、シオンが2時間前にブレイカー討伐に向かったことを聞く面々。
彼とここで共同生活を送る様になり、アヴェルは彼の性格をある程度は把握していた。
あの人のことだから、ブレイカー討伐を手早く終えて、念には念を入れて周辺の探索を行っているのだろうと。
その旨をリューに伝える。
『流石に超一級のセイバーとなると責任感も強いわね』
「あの人の場合は、そういう面は特に徹底していますからね。僅かでもブレイカーが出現する兆候があるなら、片端から調べると思います」
『それを聞いて安心したわ。それじゃ、また何かあったら連絡するわ』
「はい」
「おー、帰ったぜ」
「あ、ソラスさんだ」
欠伸しながらソラスが玄関に現れる。
目の下にはクマが出来ている。かなり徹夜で銃のテストをしていたに違いない。
「お疲れ。て言うか、もうちょい向こうで休んで帰って来たら良かったんじゃない?」
「ベッドが硬過ぎて眠れやしねェ。やっぱ、自室のベッドが一番だぜ」
「ソラスくんも案外デリケートなとこがあるねぇ―――おりょ?ドリンクが2本入ってるね」
冷蔵庫を開けると、ドリンクらしき物を発見。さっき、カノンが入れた物だ。
「おお、丁度いいぜ。ザッシュ、1本くれ」
「ほいよ。じゃ、もう1本は僕が貰おうかな」
何時の間にやら、朝食の準備に取り掛かっていた年少組の3人は大人組ふたりがドリンクを口にするのに気付いていなかった。
15分後、ブレイカー討伐と周辺の探索を終えたシオンが集い荘へ帰還する。
「今帰った―――」
「し、ししししししシオンさんんんんんんん!!」
中に入ると、血相を変えたアヴェルがこちらにやって来た。
「おい、どうした?朝っぱらから、騒ぐんじゃない。近所迷惑になる」
「それどころじゃないんです!アレを見て下さい!!」
「アレ?」
アヴェルの指差す先にあるもの。何時も朝食を摂るテーブルだ。
それは別にいい。何やらあわあわした表情でアンリとカノンが自分達の席に座っている。
彼女達がどうかしたのか、と尋ねようとした時―――“それ”は現れた。
どこぞの執事が着そうなスーツを身に纏い、髪はオールバック。加えて、穏やかな笑みを浮かべている好青年が姿を現した。
シオンの背筋にゾッと悪寒が走る。その好青年の顔は自分がよく知る男の顔だからだ。
「……おい、あの好青年は誰だ?」
「顔見て分かりませんか?」
「アヴェル。悪い冗談は止めろ。あの好青年をザッシュと認めろと言うのか?」
「ぼくだって認めたくないですよ……」
そう、あの謎の好青年の正体は自称伊達男ザッシュ・シャルフィドである。
普段の軽い態度は微塵も感じられず、実直なオーラが全身から発せられているように見える。
ザッシュはシオンの帰還に気付き、首を垂れた。
「お帰りなさい、シオンさん。朝食の準備は整っております」
「……シオンさん?おい、アヴェル。ザッシュが敬語の上に、俺をさん付けで呼んでいるぞ。これは現実なのか?」
「き、気持ち悪い……こんなの、ザッシュさんじゃない!」
まともになったというのに、この言われよう。ザッシュという男が普段どういう風に見られているかがよく分かる(笑)。
アヴェルなど、青褪めて今にも吐きそうな勢いだ。
対ザッシュ用の決戦兵器が必要だと、アヴェルは通信機を使って連絡を取る。
暫くして、決戦兵器たる人物は集い荘に現れる―――言わずと知れた、リュー・トライアングルだ。
「アヴェルくん、一体どうしたのよ?緊急事態だから集い荘に来て欲しいって。てか、何故に私が呼ばれたの?」
「ザッシュさんがおかしいんです!」
「は?何言ってるのよ、あのアホがおかしいのは何時ものことじゃない。まさか、何かまた変態行為を働いてるんじゃないでしょうね!?」
リューは鬼の形相で、指の骨をボキボキと鳴らす。あのアホが女性に変態行為に及ぼうものなら、何時でも血の海に沈めるつもりでいる模様。
「それなら何時ものザッシュさんです!アレ見て下さい!!」
「え、アレって―――」
「おや、リューさん。お忙しい中、わざわざお越し下さってありがとうございます」
執事風のザッシュが、ペコリとお辞儀する。
鬼形相をしていた眼鏡美人の時間が、数分停止したのは言うまでもない。
「―――ねぇ、アヴェルくん。その人はどこの何方?」
「リューさん、顔見て分かりませんか?」
「げふぅっ!!」
「リューさんんんんんんん!!?」
真っ青を通り越して、真っ白な顔になったリューは吐血してその場に倒れる。
すぐさま、アヴェルが吐血状態の彼女を支える。
「しっかりして下さい、傷は浅いです!」
「あ、浅くなんか無いわよ……。ど、どういう状況よ、これは……?ただでさえ、徹夜でボロボロの私に何ちゅうものを見せてくれてるのよ……」
「リューさん、気を確かに!ちょっと、ザッシュさん!何てことしてくれてんですか!!ザッシュさんがまともになったら、リューさん殴れないじゃないですか!?」
―――こいつ、今凄いこと言ったな。
弟の子孫の発言に、流石のシオンも汗を垂らしていた。
しかし、一体全体何がどうしてこんな事態になってしまったというのか。
普段おかしい奴が、いきなりまともになると、確かに混乱するのも無理はないか。
何が原因で、ザッシュはこうなってしまったというのだ?
ふと、あることに気付いた。今朝、テーブルの上に置いた謎の箱が無いことに。
「……おい、ちょっと待て。テーブルの上に置いてあった箱はどうした?」
「え?あの箱って、シオンさんのだったの?」
「今朝、玄関の前に置いてあった差出人不明の物だ。ここに持ってきた直後に、ブレイカー討伐に向かったからそのままにしていたんだが……」
「えぇ!?あ、あの箱って不審物だったんですか!?」
「まさか、開けたのか?」
「はう…… (´・ω・`)」
真っ青になるカノンと、しょんぼりするアンリ。
ああ、なるほど、と理解するシオンであった。
開けたのは、アンリか。アヴェルかカノンなら、絶対に開けないだろう。
「で、中には何が入っていたんだ?」
「ドリンク剤がふたつ入ってました。ひとつはザッシュさんが、もうひとつはソラスさんが飲んだんですけど……」
「ソラスも飲んだのか?そういえば、見掛けないが―――」
「ああ、えーと……自室に篭ってます。見てみたら、分かると思いますけど」
カノンの目は明後日の方向を向いてた。アンリも同様だ。
これは、ザッシュとは別の意味で不味い事態になっているやもしれない。
意を決して、2階への階段を上る。辿り着いた先は、ソラスの部屋の前。
普通ならノックするところだが、今回はそれをせずにそーっと扉を開いて中を覗いてみる。
「イィーヒッヒッヒッ!今開発中の銃ならば、山すら一撃で破壊可能じゃぁぁあああああああああああっ!!」
そこには、如何にも漫画とかに登場しそうな悪の科学者風の恰好をしたソラスらしき男の姿があった。
不気味な笑みを浮かべながら、何やら怪しい銃を制作している。
暫しの鑑賞の後、シオンはそっと扉を閉ざした。無言のまま、1階に戻る。
「シオンさん!」
「アヴェル、今度ソラスの墓前に花を添えに行こうか……」
「いや、死んでませんから!?確かに中二病全開のヤバイ感じの人になってるけど!」
「一応、アレがソラスというワケか……。さて、どうしたものか―――ん?待てよ……」
シオンはピーンと来た。現状でソラスを治す方法は思いつかないが、ザッシュに関してはある方法を思いついた。
視線を1階のソファで横たわっているリューに向ける。
「リュー、大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
「ソラスは無理だが、ザッシュを治す方法はある」
「え?ほ、ホント?」
「奴を治せるのは君しか居ない」
「はい?何で私?」
いきなり治療役に抜擢され、困惑する眼鏡美人。
「いいか、奴は性格が変わっても所詮はザッシュということだ」
「……あ!」
「ああ、なるほど!」
「「え?」」
所詮はザッシュという言葉で、リューとアヴェルは納得したように手をポンと叩いた。
アンリとカノンは、ふたりが何に納得しているか理解出来ず、首を傾げる。
シオンは行けと言わんばかりに、ザッシュを指差す。
ソファからリューが起き上がり、ずんずんとザッシュの方へと向かう。
そして―――深呼吸した後。
「破ぁぁあああああああああああっ!」
「うぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」
バチコーンという、盛大な音を響かせる平手打ちをザッシュに叩き込んだ。
唖然とするアンリとカノン。対照的に、うんうんと頷く赤髪コンビ。
「リューさん、い、いきなり何を―――」
「やかましいわぁ!さん付けなんて気持ち悪いんじゃエセ執事!!」
抵抗するヒマを与えず、彼女はエセ執事の胸倉を掴んで平手打ちを叩き込んでいく。
流石にやり過ぎじゃないかと、カノンが止めようとするも、アヴェルがそれを制止する。
「カノン、止めちゃ駄目だよ。こうすれば、ザッシュさんは元通りになる筈なんだ」
「えぇ!?ど、どういうことですか?」
「見ていれば分かる」
「あ、何かザッシュさんの様子がおかしいよ!?」
アンリが指差す。確かにザッシュの様子がおかしい。
リューに往復ビンタされ、最初は苦痛に歪んだ顔をしていた。
だが、次第に何やら嬉しそうな顔へと変化しつつあった。不気味な変化に、思わず後退るアンリとカノン。
彼女達とは対照的に、全く動じない赤髪コンビ。
「いや、あれは別におかしくないよ。何時ものザッシュさんに戻る兆候だよ」
「そうだ、奴は何時もリューにちょっかいを掛けては殴られている。最初の頃は、単に殴られるという苦痛だったかもしれんが、現在はそれが快感となっている。つまり、何時ものリューに殴られることで得られる快感を思い出せば、我々がよく知るザッシュに戻るというワケだ」
「えぇ……」
「あう……」
赤髪コンビのあんまりな言い草とザッシュの特殊性癖に、少女達はドン引きする。
殴られ続けるエセ執事こと、ザッシュは表情だけではなく心境にも変化が生じつつあった。
この感覚―――そう、この感覚を自分は知っている。何時もこの感覚を得ていると。
「ぐはぁ―――ご、ごっつぁんです♪……はっ!?ぼ、僕は今まで何をしてたんだろう?」
「ザッシュ!漸く、自分を取り戻したのね!?」
「え、リューちゃん―――のふぅ!ご、ごっつぁんです♪」
リューにビンタされたことで日頃の快感を思い出し、我を取り戻した自称伊達男。
よーし、と頷き合う赤髪コンビと益々ドン引きする少女達。
伊達男は無事治療完了―――残るはソラスの方だ。こちらは、ザッシュと異なり、ショック療法という手段は使えない。
だが、シオンには治療する為の手段を得る方法があった。
「カノン、原因となったドリンク剤はあるか」
「その、中身は全部飲んでるみたいで……」
「瓶があれば十分だ、貸してくれ」
「え?は、はい」
カノンは、ドリンク剤の瓶を持ってくる。飲み干しているので、中身は空の瓶だ。
一体、彼は空の瓶で何をするつもりなのだろう?
彼女から瓶を受け取ったシオンは、瞳を閉じて精神統一。
リューは、シオンが何をしているかを察した。
「もしかして、瓶に込められた意力を読み取っているの?」
「え?それって、つまり―――作った人間を特定出来るってコト!?」
「特定した、誰が作ったか分かったぞ」
「早ッ!1分と掛かってませんよ!?」
「これくらい俺からすれば造作もないことだ。というワケで、俺はこれから犯人のところに行ってくる」
アークシティ中央区、スクール。
未来のセイバーとガーディアンの卵達が勉学と鍛錬に励む学び舎。
その教育機関の保健室にて、美人養護教諭―――アヴェル達の学生時代の恩師フォルナ・イグナードが、栄養ドリンクらしきものを弄っている。
「フフフ……今頃、アヴェルくん達はどうなってるかしら?貴重なデータを得る為に、可愛い教え子達の協力は不可欠だもの。少し、様子でも見に行こうかし―――」
「いかんなぁ、先生。仮にも教官ともあろう者が、可愛い教え子を実験に使うのは」
「はっ!?」
いきなり、背後から聞こえた声に困惑するも即座に拘束されてしまうフォルナ。彼女を拘束したのはシオンだ。
空の瓶に込められていた意力が彼女の意力と特定し、ここに空間転移したのだ。
「ふむ、どうやら今持っているそれがザッシュとソラスを変貌させたのと同じドリンクか」
「え、えーと、その……私には何が何やらさっぱり」
「そうかそうか。先生も仕事が大変で疲れているだろう?遠慮せずに、それをぐぐっと口にしてみろ?」
「え!?ちょ、ちょっと待って―――ア゙ッー!」
保健室から奇声が響き渡る。しかし、誰も助けに来てくれない。
何故なら、奇声が保健室から聞こえてくるのは日常茶飯事だから。誰も行こうとしないのは当然の帰結なのだ。
暫くして、シオンが解毒剤を持って帰還した。
犯人が誰であるか、何となく察するアヴェル達だが、あえて誰であるかは聞かないことにした。
翌日、血相を変えた少年が集い荘にやって来た。アヴェル達の後輩であるアスト・ロンドである。
「せ、先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!い、一大事です!!」
「え、あぁ……うん。どうかしたの?」
「ふぉ、フォルナ先生がおかしいんです!何か聖女みたいな佇まいで、ぼく達に凄く優しくて―――このままじゃ、みんなストレスで倒れちゃいますよぉぉぉぉぉおおお!!」
「あぁ……うん。先生にも、慈愛の心ってものが芽生えたんじゃないかな?でも、一過性のものかもしれないから、暫くは様子見してみなよ?」
「先輩、何か凄く投げやりっぽくないですか!?」
「ははは、そんなことないってば」
乾いた笑みを浮かべるアヴェルに、困惑する後輩。
シオンが飲ませたフォルナ手製のドリンクの影響で、製作者である彼女自身の性格が激変した模様。
まるで、慈愛に満ちた聖女然とした彼女に生徒や他の教師達はストレスで胃に穴が開きそうな勢いである。
そんな彼等のやり取りを見守るシオンとアンリ。
「なんで、まともになってるのにこういう反応になっちゃうんだろうね?」
「アンリ、知らんのか?おかしい人間がまともになることほど、恐ろしい変化はないんだぞ。先日のザッシュの件で身に染みて理解した筈だろう?」
「ああ、なるほど……」
フォルナが元に戻るまでの数日、胃痛で寝込む生徒達が大量発生し、スクールにまたひとつおかしな伝説が生まれたのだった(笑)。
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