ジャンプアウトに失敗した私たち

 右も左もわからず、原因が特定できない中

 謎の不明艦3隻の追尾を受けて逃げる私たち


 勧告してきた軍人さんは見るからに怖そうだった

 けれど皆さん、あまり深刻に考えていないのか

 艦長を信じて難局を乗り切ろうと

 いつものごとく張り切ったのはいいけれど
 
  なんかねぇ……


        ──ホシノ・ルリ──









闇が深くなる夜明けの前に

機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説










第一章(前編)

一つの戦い、一つの出会い、私たちの『選択』










T

 「ミスマル艦長、このままの進路でよいのですか?」

 ゴート・ホーリーが低い声で内容を問う。ナデシコの艦橋では、追尾してくる不明艦を振り切るため、ユリカが正面に見える大規模惑星に向かって 突進するよう指示を出していた。

 「ええ、このままでかまいません。惑星の重力圏外ギリギリの線に突進し、その双曲線軌道に乗って艦の推力に勝る速度で一気に重力圏外に飛び出すんです。 これで差をつければ不明艦の追尾をかわしやすくなります」

 「なるほど、惑星の引力を利用したスイング・バイですな。これだけの規模の惑星なら地球の数倍の引力があるでしょうな」

 傍らのプロスペクターが嘆息する。彼自身が思うのもおかしなことなのだが、このナデシコにミスマル・ユリカという地球連合大学始まって以来の逸材を艦長としてスカウトしたことは間違いではなかったと、今さらながら確信していた。その証拠に周りを見れば艦橋の全員が艦長の見事な判断に感心している。

 しかし、その離脱作戦は左舷後方からの「接近」によって断念を余儀なくされる。まず、不明艦のうち2隻が惑星軌道へと疾走するナデシコの左舷後方に回りこみ初めて攻撃をしてきたのだ。その攻撃は猛烈だが狙点が定まらないのか、ナデシコの左舷から前方へと通り過ぎていく。

 「艦長、2時方向に進路を変更して不明艦の火線から離れるべきではないでしょうか?」

 副長のジュンが進言するが、ユリカはメインスクリーンから目を離さずに断言した。

 「これは罠です。左舷後方からナデシコの進路を圧迫して右舷方向に針路変更させ、右舷後方からもう1隻がナデシコの進路前方にまわりこむという作戦で す。このまま直進してください」

 その通りだった。ルリが二瞬遅れてスクリーンに映し出した戦術予測図には、右舷後方から放物線を描いてナデシコの進路を妨害しようとする不明艦があったのだ。このまま直進指示を出したユリカだったが、今度は砲撃をしていた2隻の不明艦が急速にナデシコとの差を縮め、左舷方向と後方から挟み撃ちにしようと接近してきた。

 そのままの進路だと衝突の可能性があるばかりか接舷されかねず、軌道上突入は断念するしかなかった。

  ユリカは右舷からの接近を予測し、俯角30度の進路をとるように指示する。

 「スイング・バイでの離脱は防がれてしまいましたが、まだ小惑星帯があります。あそこでエステバリスを出撃させて追尾してくる3隻の不明艦を行動不能 にします」

 「いっそ撃沈してはどうでしょうか? あの不明艦は攻撃してきたわけですし」

 ゴート・ホーリーが静かに意見した。

 「いいえ、それはできません。明確な理由がありません。攻撃はしてきましたが、当てるつもりはなかったようです。私たちが向こうにとっては不明艦だからでしょう。誤解が生じているならば正すべきかもしれませんが、そうもいかないようです。今必要なのは余計な戦闘を避けることです」

 ユリカはそう結び、戦術指揮席の元軍人に別の指示をした。

 「ホーリーさん、エステバリス隊に出撃準備をするようご指示願います。不明艦3隻の目的は今のところナデシコを拿捕するのが目的のようです。それがつ け入るチャンスです」

 「承知した」

 ゴート・ホーリーはエステバリス隊に向けて通信をする。ユリカは、その姿を確認するより早く、口元を引き結んだままメインスクリーンに向き直っていた。

 「どうしたんだろう、あんな険しい顔のユリカを見るのは初めてだ」

 アオイ・ジュンが副長席から艦長を心配そうに見つめる。どんな困難な状況でも明るさと前向きさ(マイペースともいう)を忘れない、あのミスマル・ユリカがさっきから険しい顔の ままだ。

 確かに、何をするべきか理解していても、何が起こっているのかはわかっていないのだ。右も左も判然としない中、正体不明の宇宙戦艦に攻撃されれば緊張せざるをえないだろう。

 (少しちがうかな?)

 ジュンは心の中で頭を振った。おそらくユリカは焦っているのではないだろうか? いや、まさかと思うかもしれないが、ナデシコの全乗員の命を預かっていることはもちろんだが、何か別の圧迫を受けて苦しんでいるように思えるのだ。彼にはそれが何であるのかついさっきまでわからなかった。

 それがわかったのは、スイング・バイを阻止されたときにユリカが一瞬だけ唇を噛みしめる表情を目撃したときだった。

 ユリカは、追尾してくる「不明艦」に対して圧迫を受けていたのだ。あの3隻を統括する指揮官が並以上の能力の持ち主であることは士官学校を優秀な成績で卒業したジュンにもわかっていた。それでも、静かな知略戦を繰り広げた木連の優人部隊少佐秋山源八郎と比べれば劣るように思えるのだ。

 「ユリカは、まさか怯えているのか?」

 答えは出そうになかった。ジュンは考えるのを止めた。オペレーターの少女が小惑星帯への突入を告げたのである。









U

 「白い不明艦、小惑星帯へ突入しました」

 オペレーターからの報告を受け、ベルトマン中佐は楽しげに微笑した。

 「どうやら、あの白い艦の艦長は冷静な視野と優秀な判断力を有しているようだな」

 「はい、この狭い宙域内で高速で追尾されながらも我々の作戦を見破っているあたり侮れません」

 「ああ、まったくだ。左舷からの砲撃には少しは慌てるかと思ったが、ほぼ進路そのままで直進したからな。当てる、とわかっていたらああは進めまい。僚艦の圧迫にもその意図にすぐ気がついて進路を俯角にとるとは恐れいったよ。軌道突入は阻止したが、こちらがしてやられた気分だ」

 ベルトマンは、今度は声に出して笑う。

 「感心してもいられません。中佐、小惑星帯で決着をつけませんと、あるいは我々が不利になるかもしれません」

 「わかっている副長、悠長に構えてはいない。安心しろ」

 もしアオイ・ジュンが、この二人の会話を映像つきで見たとしたら、彼は見解の一部を書き換えるしかなかったであろう。ヴェルター・エアハルト・ベルトマ ンという男は、態度が能力に比例するような凡庸な軍人ではなく、的確な思考と判断力、己を律することのできる厳しい心をもつ技術的職業軍人であり、恐るるに足りる「敵」であることを認識したに違いないのだ。

 「後方の僚艦に連絡。これより作戦AからSに移行する。戦術回線S─7を開き、こちらの作戦案に沿って所定の行動をとるように通達せよ」

 「はい、ただちに」

 若いオペレーターが忙しくコンソールを動かし始める。ベルトマンは腕を組み、白い不明艦が罠に落ちいっていくさまを青紫色の瞳に映しながら、その艦長に対し諭すように独語する。

 「おまえの判断は当然だ。当然だからこそ、この宙域に詳しくないことがわかるのだ」

 白い艦が小惑星帯で決着をつけようとしている意図は明らかだった。3隻の巡航艦に対し、一回り小さい艦型に優秀といえる機関、さらに狭い宙域では有利と考えるのが普通だろう。

 だが、実は哨戒任務で周辺宙域を知り尽くしたベルトマンたちにとって小惑星帯は有利だったのだ。

 ベルトマンは高揚を抑えつつ、右手を突き出して命じた。

 「艦、出力7レベルまで上昇。戦術の何たるかをあの不明艦に見せてやれ!」

 それは過信ではなく、たゆまぬ訓練と何百という戦場経験が生み出した確固たる自信の表れだった。

 その意味でミスマル・ユリカに不足する要素があるとすれば、まさに「実戦経験の数」であっただろう。



 ユリカは、突入から数分も経たないうちに相手の意図に乗ってしまったことに気がついた。冷静に考えれば、未知の宙域に現れたナデシコを追ってきた不明艦が同じような境遇とは限らないのである。自分がどれだけ冷静さを欠いていたかを彼女は悟った。

 「不明艦3隻、速度落ちません。後方で半包囲隊形をとりつつ、なおもナデシコを追尾」

 ルリが状況を報告する。心なしか声のトーンが高いように思えるが、それを見破った者は艦橋に存在しなかった。ルリにすれば、自分の不安が的中してしまったことに今更ながらイラ立ちを覚えるのだが、だからといって職務に支障をきたすわけにもいかず、起こったことは仕方のないことと捉え目の前の有事に集中し ていた。

 ナデシコが小惑星帯に突入してから数分間、追いつ追われつの大デットヒート劇が繰り広げられた。ナデシコは小惑星が密集する宙域をミナトの操艦とルリの補助でなんとか進んでいたが、高速巡航艦3隻の追尾速度は緩みもせず、ナデシコもさらに速度を上げてエステバリスを発進させるタイミングを掴めずにいた。

 それもそのはずで、ユリカは小惑星帯に突入すればナデシコより大きい「不明艦」の速度が落ちると予想していたのだが、3隻ともまるで庭のごとく小惑星をすり抜け、ナデシコにまったく隙を与えない。そればかりかわずかに開けた宙域が現れるとナデシコを包み込むかのように速度を上げてくる。誤算があったとすれば、攻撃をしようにも狭く回廊のように伸びた小惑星帯では簡単に反転もできず、磁気的な妨害が発生しているのかミサイルの狙点が定まらないことだった。

 「まったく、しつこいですな。いいかげん諦めればいいのに」

 プロスペクターが正しい姿勢に反して苛立つようにつぶやく。ユリカが「遭難」の事実を認めたとき何らかのリアクションをするクルーの中で唯一、冷静な態度を終始崩すことのなかった男である。

 そのプロスペクターが、見事な操艦で追尾してくる3隻の高速巡航艦の執念ぶりに辟易していたのだ。

 『艦長、聞こえるかミスマル艦長!』

 突然、通信スクリーンが開き、髪を緑色に染めたボーイッシュな女性パイロットが現れた。

 「リョーコさん、どうかしましたか?」

 『エステを出せ、艦長! これじゃあらちがあかねぇ、エステに出撃命令を出してくれ』

 ユリカは、必死に訴えるパイロットの要望を首を振って却下した。

 『なぜだ? 艦長』

 「今の速度でエステバリスを出撃させることは自殺行為です。運良く飛び出してもこの速度と狭い宙域内です。射出の直後にナデシコか小惑星に衝突してし まいます」

 反論しようとしたリョーコの声をルリの緊急通信がさえぎる。

 「追尾してくる3隻に動きがあります。うち2隻が速度を上げ、ナデシコの両翼に展開して幅を詰めようとしています。1隻は後方にてナデシコをそのまま追 尾」

 「側面から挟まれたらおしまいです。相転移エンジン出力最大! 臨界点まで上昇させてください」

 ユリカの命令を受け、再び距離が開く。四基の相転移エンジンはその能力をフル稼働させても、なお余力のある加速に達した。









V

 危機は続く。

 「前方に巨大な小惑星が出現。このままの進路だと衝突してしまいますが、10時方向に別のトンネルがあります」

 ルリの報告にユリカがすばやく反応する。

 「ミナトさん!」

 「まかせて。みんなつかまっていてよ」

 ミナトは、操舵用ボードに両手を置き、専用のスクリーンを凝視して全神経を集中する。巨大な小惑星を左横ギリギリにかわし、ナデシコをあらたに出現した小惑星の回廊へと突入させる。

 「!!!!」

 危機一髪だった。突入した回廊の正面に直径5キロほどの小惑星が漂っていたのだ。ミナトの神技で衝突は免れたが、ディストーションフィールドが惑星の一部を削り取っていた。

 「あぶない、あぶない」

 誰が最初に言ったか定かではないが、次の自責のつぶやきは確実にミスマル・ユリカだった。

 「そんな……」

 隕石交じりの小惑星の回廊は螺旋状になっており、それがどんどん狭まっていたのである。進路を変えようにも回廊の両側は危険宙域になっており、当然、後方は3隻の追尾艦に塞がれていた。

 「わたしのせいだ。わたしが判断を誤ったばかりに……」


 『ユリカ! まだだ、まだ終わっていない。お前がそんなあきらめてどうする。みんなユリカを信じているんだ。オレだってユリカを誰よりも信じているんだ。 これだけ信じているんだから、ユリカ、あきらめるな!』

 「アキト……」

 通信スクリーンから最愛の男の励ましを聞いたユリカが何か言いかけたそのときだった。

 「前方、あらたな巨大な小惑星が進路を塞いでいます。周辺に進路が存在しません」

 まさにルリからの報告は死刑宣告に等しかった。この時、はじめてナデシコの速度が落ちる。

 「今だ! 白い艦の右舷機関部に主砲を斉射せよ」

 この瞬間を狙っていたベルトマンが勢いよく号令する。通常の方法では拿捕できないと判断し、機関を破壊することで航行不能にしようと何ヶ所かでこの機会をうかがっていたのだが、ベルトマンは焦らず確実に速度を落とす最終決着場所まで待っていたのであった。

 「なんだと!?」

 非凡な男が初めて驚いて叫んだ。至近距離からの主砲の斉射が見事に弾かれてしまったのである。もちろん、不明艦が防御シールドを展開していることは百も承知ずみであった。が、ベルトマンが一つ怠ったとすれば展開される防御シールドの解析だった。彼はソフトウェア防御の種類が彼の側と同じものだと思い込んでいたのである。

 「オペレーター、すぐに白い艦のシールドを解析しろ」

 ウーデット少佐がすばやく指示する。

 それは、ナデシコに貴重な立ち直りの時間を与えることとなった。その最初がユリカだった。

 「ルリちゃん、相転移砲用意。前方の小惑星を排除します」

 なるほど、とクルーの表情が生気を取り戻す。

 「Yユニット展開、サルタヒココネクト」

 「相転移エンジン、トライツーパワーマキシマム、トライツーパワーマキシマム」

 ルリとホーリーが展開状況を読み上げる声が艦橋に響く。まっすぐ前方に伸びた両舷のYユニットのアーム先端部分が外側にスライドし、その中心で重力エネルギーの渦がみるみる収束する。ゲージを凝視していたルリが小さく叫んだ。

 「相転移砲、エネルギー充填完了しました」

 「相転移砲、発射!」

 ユリカの号令一閃、未知の宙域を雷撃が疾り、巨大な小惑星を最強のエネルギーの球体が取り囲む。その内側が閃光とともに輝いたかと思うと巨大な小惑星は跡形も無くなくなっていた

 3隻の高速巡航艦の速度が鈍った。

 「ぜ、前方の小惑星が消滅! 白い不明艦、そのまま直進します」

 若いオペレーターが声を震わせながらも、かろうじて状況を報告する。艦橋のほとんどの乗員も目を開けたまま驚愕の光景に我を忘れていた。

 ただ二人の男を除いて。

 「ベルトマン艦長、いかがなさいますか? この辺りで通常宙域に出られると厄介です」

 「やむをえん。あの不明艦を撃沈する!」

 ベルトマンの決断が艦橋の隅々に到達すると一瞬にして空気が変わり、オペレーター達がそれぞれの職務に精練する。さらに、ベルトマンはオペレーターの分析より早く小惑星の一部を削り取ったナデシコのシールドが何であるかを見抜いていた。


 「僚艦に連絡。これより作戦SからSSに変更、不明艦を撃沈する。なお、不明艦が展開する防御シールドは空間を歪曲させたものと推定される。攻撃にはミサイルを使用。後部機関部に集中して撃ち込み、なおかつレールガンを一点集中でたたきつける。急げ!我々にも時間がないぞ。白い不明艦に完全な立ち直りの時間を与えるな!」

 ベルトマンの洞察は的を射ていた。矜持を取り戻したユリカは意を決し、ナデシコを通常宙域で急速反転させ、グラビティブラストの広域斉射で3隻の高速巡航 艦と決着をつけようとしていたのだ。ベルトマンに一つ認識の誤りがあったとすれば、眼前で見せ付けられた相転移砲でナデシコが反撃してくると考えていたことだろう。グラビティブラストという重力砲がナデシコの武器の一つと知っていたならば、それほど大胆な行動は取れなかったかもしれない。

 通常宙域に復帰したナデシコは、相転移エンジンの優秀さを謳い上げるかのように急速反転してグラビティブラストの射程に追尾艦を捉えようと舵を切ろうと した時だった。

 重々しく鈍い音とともに艦橋が激しく揺さぶられ、直後に針にでも刺されたような衝撃がナデシコ全体を侵略する。

 「右舷相転移エンジン中破! 100から122ブロック全壊。ディストーションブロックにより他の区画への被害ありません。ですが、エンジン出力、ディス トーションフィールド大幅ダウンします」

 ルリも激しい揺れの中で必死に状況を伝える。ユリカもかろうじて指揮卓にしがみつき転倒を避ける。

 「今のは撃沈を狙っていた! 急にどうして? 何かが変わったというの?」

 ミサイルの集中攻撃を受けたのだ。しかも空間歪曲が不安定になったところをレールガンで狙い撃ちにされていた。今までの追い込むための攻撃とは明らかに違う。ユリカに思い当たる理由が二つあった。小惑星を相転移砲で排除した直後であり、通常空間へ復帰した矢先の出来事であること。

 「この先に何かある? 彼らが不利になるような……変更を余儀なくされる何かがあるというの?」

 まだ船体は激しく揺れていたが、それでもナデシコは体勢を崩さず、今までの借りとばかりに反転しきり、恐るべき高速巡航艦3隻をついにその射線に捉えた。

 ──はずだった。

 「い、1隻しかいない? あと2隻はどこなの!」

 ユリカの疑問は、メインスクリーンを埋め尽くすオモイカネによる警報表示が知らせていた。

 右舷!!

 2隻の高速巡航艦は、いつの間にか破損したナデシコの右舷エンジン側に移動していたのである。

 正確には、ナデシコの動きから反撃を意図していることを見抜いていたベルトマンが自分の座乗艦を隠れ蓑にして僚艦を単縦陣形で潜ませ、僚艦2隻はナデシコが反転しきる直前にそのセンサー類の死角をついて天底方向へ突進し、機動性能を逆に見せつけるように螺旋階段を昇るがごとく逆時計回りに上昇し、ナデシコの右舷を至近距離に捉えたのだった。

 正面の1隻と右舷2隻の艦首にある合計18門の砲口が主砲を斉射しようと勝者の咆哮のごとく輝き始める。本来なら防げるはずだが、ディストーションフィールドはいつの間にか消滅 していた。

 「ごめん、みんな、ごめんねアキト……」

 ユリカをはじめ、ナデシコの全乗員がはじめて死へのカウントダウンを覚悟した。



 ドォォーン!





 突如、虚空からエネルギーの矢が殺到し、右舷方向からナデシコを葬り去ろうとした1隻の高速巡航艦が船体中央を貫かれ、轟音とともに火球となって漆黒の世界に四散した。

 「なに、何が起こったの?」

 「チィッ! ここまで出張って来ていたか」

 相反する二人の艦長の言葉は、状況を理解した者とそうでない者、情勢と宙域を知る者とそうでない者との落差の表れだった。

 知る者としてのベルトマンは、長年行動を共にしてきた僚艦の消滅を悲しんでばかりもいられなかった。

 「攻撃中止! 急速反転しつつ小惑星帯へ全速で離脱せよ。離脱しつつ煙幕弾と閃光弾をばらまいて補足されないように攪乱せよ」

 命令してから、ベルトマンは指揮シートに重々しく座り込んだ。結局、情報の正否は別として、叛乱軍の新型艦を拿捕できなかったばかりか僚艦を失う事態になるとは!

 ベルトマンは指揮シートをこぶしで殴りつけた。

 もっと早くから撃沈の判断を下していれば僚艦を失わずに済んだであろうか。油断はしていないつもりだったが、やはりどこかに心の隙があったのか……

 すべて結果論だが、やりきれない気分がベルトマンにはあった。

 しかし、あの白い不明艦、本当は一体なんだったのか? 叛乱軍の新型艦であり、あれが新兵器だとするならトゥール・ハンマーの艦砲版ではないか! あんなものが叛乱勢力側で開発されたというのか?

 もしそうなら、わが帝国軍にとって大きな脅威になることは間違いない。

 「イゼルローンに戻り、この事実をすぐにゼークト閣下に伝えねばなるまい」

 ベルトマンの独語に傍らの副長が一人静かにうなずく。彼らの見るスクリーンの先には無数の光点と謎を帯びた白い不明艦が映り、それは除々に遠く、そして確実に小さくなりつつあった。



 ……TO BE CONTINUED

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 涼です。初のクロス作品第二段です。ユリカ指揮するナデシコはついに「そちら側」と戦いました。ずいぶん苦戦してしまいましたが、はたして彼らを助けた のは誰でしょう?

 序章が掲載されてからあらためて読んでみたのですが、あるわ、あったわ、誤字というか訂正ミスが!!!

 エステバリスを「機動歩兵兵器」と書いちゃってたところなんか完全に見落としていた。本来ならば「人型機動兵器」とするところなのにorz
 「リューコさん」も苦笑い。「リョーコ」じゃ!
あとは「遺跡ユニット」または「演算ユニット」──どっちだ? (どっちでもいいか
 辞書を片手に云々以前のミスでした。(汗)

次回は後編です。さて、「彼女」を出そうか出すまいか迷っているところです。要望の声があったらいいなぁ……


 涼です。一部、誤字や文章中の誤りなどを改訂いたしました。上に記載のある「序章」中の誤りもすでに序章を改訂して修正してあります。
 本文中にある挿絵の巡航艦の間違いは訂正できません。(謝)
──2008年7月24日修正
──

 2009年7月12日──涼──

 前回の修正から洩れていた部分や、なんとなく作者が気に入らなかった箇所とかを修正しましたm(_ _)m


 最終修正です。1章だけ節ごとに番号が振られていなかったので番号を振り、段落を明確にしました。文中にところどころある妙な空欄を修正しました。

 2011年9月3日 ──涼──


◇◇◇◇◇なにそれ?ナデシコのコーナー(そのA)◇◇◇◇◇

(改訂版に伴い、追加しました。)

 はーい、みなさん、イネスです。また会えましたね。

 あーら、今回はそこのあなた、まっすぐ私を見ちゃって……ちょっと感じるわよ。

 今回の「なにそれ?」は天文学でいう距離(長さ)の単位に関する説明です。

 序章には本文中にルリちゃんが「1.2光秒」と艦長に不明艦との距離を報告していますが、そもそも「1.2光秒」ってどのくらいの距離なの?
と疑問に思った方もいることでしょう。宇宙は果てしないからね、距離を表す単位も半端じゃないのよね。

 「光秒」は天文学的にはもっとも基本的な単位になります。ぶっちゃけ言っちゃうと、もとになっているのは光が一秒間に進む距離なのよね。

 ずばり1光秒=299,792.458キロメートルよ。

 およそ30万キロと憶えておくとよいでしょう。
 
 ですから、1.2光秒=36万キロということになります。 地球上的には遠いわね。でも、宇宙では近い距離よね。今後、いくらでも表記が出てくると思うので、憶えておくと読んだときにぐっと臨場感がでるわよ。
 
 ちなみに月までの距離は皆さんの時代だと1.3光秒くらいかしらね。
 
 それでは、今回はこのへんで!

 イネス・フレサンジュがお送りいたしました。 またね☆


 ◆◆◆◆◆◆メッセージコーナー◆◆◆◆◆◆

を設けました。メッセージをくれた読者様に作者が感謝と(なるべく)疑問とかに答える(らしい)コーナーです。(と言っても今回は一件だけ)

 ★★6月9日 16時56分★★
 
 「 原作は読んでいますが……あれに手を出すとは。がんばってください。」

 >>>はは、そう思いますか。原作を読んだ方なら確かに挑戦する作者の無謀度にあきれ返るかもしれません。が、こちらも銀英伝ファ ン歴は長いので、それなりに世界観や人物は把握しているつもりです。(と言うより他の作品でクロスを思いつかなかった)
 もっとも、あの重厚な世界を似たような文体で彩には作者の力量に問題があります。
せいぜい途中で投げ出してしまわないよう、「自分らしく」をまっとうするだけです。

 以上です。いただいたメッセージは順次このコーナーで返信させていただきます。


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