機動戦艦ナデシコ
〜光明は遠い世界から〜
外伝 がんばれルリちゃん!・・・ツキオミかな?
「さてツキオミさんはどこでしょうか。」
朝早くナデシコCを出たルリは約束の時間の10分前にネルガル本社前に着いた。ルリは黒いスパッツにすこし大きめな白いTシャツ姿だ。背中には大きめの
キャンピングバックをかるっている。どうやらツキオミはまだいないようだ。
「ここだ。」
ルリが気が付くとツキオミはルリの背後に立っていた。ルリはすぐに振り返ると、
「流石ですね、ツキオミさん。さて行きましょうか。」
「待て、俺を必要とする理由はなんだ。場合によっては・・・。」
「場合によってもついてきてもらいます。」
「ふん。それは俺がき・・・。」
「決めれません。なんといっても自称ネルガルの犬ですからね。」
「く・・・。」
ツキオミは言い合いでは勝てないと悟り渋々車に乗った。
ルリたちが乗った車はしばらく走ると見知らぬ山中に入っていった。
「そろそろいいだろう。貴様の目的を教えろ、妖精。」
「妖精というのはやめてください。私はマシンチャイルドですが人間です。」
ルリが少し不愉快そうに言う。
「ではなんと呼べばいい?。」
「ホシノでもルリでも好きな方をどうぞ。あ、でも『ルリちゃん』だけはダメです。」
「ふん、頼まれてもそのようには呼ばんわ。ではホシノ、お前の目的はなんだ。」
「はい、少しアキトさんをこらしめようと思いまして、そのために簡単に木連式柔を習おうと思ったんです。」
ツキオミは少し驚いたがすぐに笑い出した。
「お前が木連式柔を?く、く、く、笑止!!お前のようなものが極められるものではないわ!しかも2週間でだと?馬鹿にしてるのか?」
「別に馬鹿にしてませんよ?それに極めるつもりもありません。私は帰ってくるアキトさんにきつい1撃を食らわしてあげたいだけです。」
「・・・まぁいい。俺に拒否権はない。どうせ辛さにすぐ根を上げるだろう。」
ルリはツキオミがなんとか納得したことに安心したようだ。
「ふふ、私は運動音痴らしいですが、根性では負けませんよ。・・・あ、そろそろつきます。」
ルリが言ってすぐに開けた場所に出た。辺りは短い草が生えていて大きな広場のようになっていた。また隅のほうに小さな山小屋のようなものもあった。2人が
車から降りると車は元来た道を通って帰っていった。
「ここはお前が選んだのか?・・・場所としてはなかなかだな。」
「ええ、そこの小屋には2週間分の食料と2人分の寝床があります。あ、もちろん部屋は2つに分かれてますよ。残念でしたね。」
「ふん、お前のような小娘に興味はない。」
ルリの冗談にツキオミは慌てる様子もなく答えた。ルリも予想していたように続ける。
「では何から始めますか?」
「・・・まず、基礎体力の確認だな。ここの周りを走れなくなるまで走って何週走れたか言え。もっとも運動音痴なら1周する前に根を上げそうだがな。3周は
出来なかったら諦めろ。それなら木連式柔をやる前に体力づくりでもいたほうがましだ。」
ツキオミは簡単に言うがそこは少なく見積もっても1周4km以上あった。
「わかりました。本格的に運動するのは初めてなんでどれだけ走れるかやってみますね。」
「・・・俺は小屋の中で待っている。ペースは好きにするがいい。」
「はい。それでは。」
ルリは軽く返事をすると走り出した。一方ツキオミはそれを見ようともせずに山小屋へ入っていくのだった。
ツキオミは山小屋の中で読書をしていたが途中で眠ってしまったようだ。時計を見るとここへ来てすでに3時間近くたっており、もうすぐ正午というところだっ
た。小屋にルリが入ってきた形跡はない。
『辛さに耐えかねて逃げ出したか?ふ、ただのランニングで情けない。俺も帰るとするか。』
ツキオミはルリが逃げ出したと判断し、帰り支度をして小屋を出た。
「あれ、ツキオミさん?まだいけますよ、私?」
ツキオミが小屋を出るとちょうどルリが小屋の前を通り過ぎるところだった。ルリは汗を相当かいているようだったがまだまだ余裕と言う表情だった。
「嘘をつくな。お前は運動音痴だと自分で言っていただろう?そんな者が4時間も走って余裕なはずがない。大方途中で休んでいて俺が出てくるのを見計らって
走り始めたんだな。」
「・・・信じないなら最初から外で見てれば良かったじゃないですか。」
「じゃぁまだ余裕というのなら後3周走ってみろ。最初の最低ラインだからな。それが出来たら4時間走ったというのも信じてやる。」
「3周ですか?私、もう6周は走ってますよ?」
「すべこべ言わずに走るんだ。」
「・・・わかりました。」
ツキオミに言われてルリはまた走り出した。しかしツキオミの予想に反してルリは軽やかに走り出すと、12km以上ある道のりを1時間程度で走る好タイムを
出した。
「・・・運動音痴ではなかったのか?」
ツキオミが呆然とルリに尋ねた。
「いえ、ミナトさんに『ルリルリは全然運動しないから絶対運動音痴ね。』と言われたので。私はどの程度から運動音痴と言われるか知りませんでしたし、どの
程度動けるか試したこともなかったので自分が運動音痴だと思ってました。」
「・・・。」
そう、実はルリは運動をしないが、けして運動音痴ではない。なぜなら、遺伝子操作で向上した能力は何も電子情報の処理能力や記憶力だけではない。心肺機能
や筋肉の発達、さらには乳酸などの疲労物質の発生の抑制など運動に役に立つ能力も備わっている。・・・実は筋肉が発達しやすいから胸も・・・だったりす
る。とにかくルリは普通に生活するだけで並の人以上の運動能力を持つことが出来るのだ。
「まあいい。もう昼だ。飯にし・・・。」
ツキオミは言葉を中断して後ろを向いた。
「・・・その前に着替えて来い。それと次からは色の濃い服を着ろ。」
「え?」
ルリは自分の身体を見ると先ほどからの汗で白いTシャツは肌にくっつき、その下の透き通るような肌と白い下着がはっきりと確認できた。もちろんその後ルリ
はツキオミを地面にめり込ませてから急いで山小屋へ入っていった。
それから毎日、午前中は筋トレやランニング、午後からは体さばきのような基本的な武術をやった。そんな日々が始まって5日目の午後。
「そろそろ技の1つでも教えてくださいよ。」
毎日同じメニューを繰り返させられてとうとうルリがツキオミに言った。
「何をいう。基礎が出来なくて何が技だ。」
「体さばきならもう出来てますよ。最初の日から。」
確かに客観的に見てもルリは体さばきをマスターしていた。
「ふん、じゃぁ見ていろ。」
そういうとツキオミは近くの木に近づいていった。
「は!」
ツキオミが絶妙な腰の捻りと体重移動そして力を入れるタイミングで繰り出した技、一見ただの突きのようだが威力が桁違いだ。証拠にそれを受けた木はそこか
ら折れてしまった。
「どうだ、やってみろ。テンカワは俺の技を見るだけでものにしていった。もっともヤツでも1つの技に1週間以上、実戦で使えるようになるにはもっとかかっ
た。」
ツキオミがわかったかという風に言った。ルリはそれを聞いていないようでぶつぶつ言いながらツキオミが折った隣の木に近づいた。
「は!」
ルリはツキオミと同じように木に突きを放った。だがツキオミのように折れはせず、木が大きく揺れ、すこしヒビが入っただけであった。
「やっぱりすぐにはうまくいきませんね。生意気なこと言ってごめんなさい。」
ルリはツキオミにぺこりと頭を下げた。ツキオミは・・・顔を赤らめて呆然と立ち尽くしている。いわゆる『萌え』という感情に支配されたようだ。しかしすぐ
に回復すると、
「ごほん。いや、今のは俺とお前の筋力の差だけだ。技は完璧だった。」
そう技は完璧だったのだ。そもそも電脳世界に長けているルリは人一倍イメージする力はある。また記憶力も高いのでツキオミの動きを1度みただけで覚えたの
だ。そしてこの数日のトレーニングで自分の身体を熟知したため、イメージをそのまま身体に伝えることが出来たのだ。
「でも威力がないのなら完璧でも意味がないんじゃないですか?」
「いや、人体には大きな影響がある。確かにこんな木に対して使うなら筋力が物を言うが、人に使うなら直接内臓にダメージを与え、小さな力でも致命傷になる
だろう。」
「そうなんですか。じゃぁ試してみますね。」
「何?どうい・・・。ぐわ!!」
ルリはおもむろにツキオミに近づき先ほどと同じ動きをした。ツキオミは3mほど吹き飛ぶと血を吐いて倒れた。
「なるほど確かに致命傷ですね。参考になりました。夕飯を作っておくので生きてたら食べに来てください。」
そういうとルリは山小屋の中へ入っていた。
ルリとツキオミの山篭りが始まってちょうど1週間がたった。今は午前のメニューに体さばきを加え、午後からは技の伝授になっている。
「ツキオミさん。今日はお休みです。」
「ふん、とうとう根を上げたか?」
だが実は根を上げたいのはツキオミだったりする。
「いえ、急にネルガルに用事が出来まして、もうすぐヘリコプターが来ます。」
そういっているルリはツキオミにはいつになく不機嫌に見えた。
「まあいい。つまり今日は俺も好きにしていいんだな。」
そうこういっている間に軍のヘリコプターが到着した。
「じゃ、そういうことで。」
ヘリはルリを乗せて足早に去っていった。
一方ネルガル本社では・・・。
「ふ、ふ、ふ、ルリ君、来るなら来るがいい。君に握られた弱みはもう解決した・・・。」
薄暗い会長室でアカツキは独り言を呟いた。部下からルリがネルガル本社に来ることを聞いたようだ。
「会長、例の者が本社の屋上に降りたそうです。」
隠れていたSSがアカツキに告げる。
「問題ないよ。まぁ途中にいるSSに捕まえてもらってここへつれて来て。」
「は!」
アカツキの命令にそのSSは短く答えるとすぐに会長室を出て行った。
しばらくすると会長室の扉を叩く音がした。
「あれ、もう捕まえたのかな?いいよ入って。」
アカツキの言葉に答えるように扉が開いた。
「アカツキさん。SSの人に相手が誰でも油断しないように言ったほうが良いですよ?はい、お返しします。優しくお願いしたら眠ってくれました。」
しかしルリが引きずってきたSSは例外なく血を吐き白目をむいている。
「・・・ルリ君・・・君は何でもありだね。」
「なんのことですか?まぁSSの人たちが来たと言うことはなんで私がここへ来たかもわかってますよね?」
「もちろん。でもあのプロモーション映像は消す気はないよ。『あの事』はもう解決済みだから脅しも出来ないね。」
「これでもですか?」
ルリはそこに落ちているSSのようなものを指差した。
「う・・・いったいいつそんなに強くなったんだい?確か運動はダメだったような・・・。」
「だから油断してたんですよ。まぁ少し強くなったのはツキオミさんのおかげですね。」
「ツキオミ君のせいか・・・。だが、少々殴られるぐらいでは退かないよ。なんといっても最近落ち目のネルガルを立て直すための策なんだからね。」
「落ち目?ふふ、そんな甘いものじゃないですよ?株価を確認してみたらどうですか?」
ルリの邪悪な笑みがアカツキに向けられる。アカツキは言いようのない不安に駆られ急いで株価を確認した。
「こ、これは・・・。」
そこには株価のグラフが今までのゆるい下降とは違い急激に落ちている図があった。
「私にかかればそれくらいわけありません。どうしますか?ネルガル会長さん?」
アカツキの顔が見る見る青くなる。
「わ、わかったよ。映像の配信は取りやめるから元に戻してくれ!!」
アカツキは必死にルリに懇願する。だがルリはそんなアカツキを冷たい目で見ると、
「配信をやめるだけ?ふふ、甘いですね。そんなことでいくらCGとはいえ私にあんな格好をさせるなんて許されると思っているんですか?仮にも私ですよ?私
を敵に回したら利益なんて言う前にこの世から抹消されるでしょう。」
ルリの背後から邪悪かつ危ないオーラが発せられているのが目に見えるようだ。・・・きっと今のルリにムチのようなものを持たせればさぞ似合うだろう。
「なんでもする。何でもするから許して、お願いだ。」
ついにはアカツキは悪役に命乞いする雑魚キャラAみたいな存在になってしまった。
「何でもですか。・・・そうですね、私の要請があればネルガルは全面協力すること、が条件ですね。受けますか?」
「もちろん受けるよ。つぶれたら元も個もないからね。」
ほとんど強迫であったが、ルリ曰く先に手を出したのはネルガルだから問題ないらしい。
「じゃぁ明日には元に・・・いや少し前よりよくしときます。さっきのことでネルガルの資本は私の資本みたいなものですからね。」
「明日?今すぐじゃないの?」
アカツキは最後の所は突っ込んでもしょうがないと判断してそこに突っ込んだ。ルリはそれを聞いてまた先ほどの邪悪な笑みを浮かべると、
「大丈夫ですよ、1日じゃつぶれたりしませんから、もっとも死ぬほど書類の仕事が入るでしょうけど。」
「そ、そんな・・・。」
「じゃぁ、おしおきの方が良いですか?」
ルリの言葉にアカツキは大慌てで否定する。どうやらルリのおしおきの噂はアカツキまで届いていたようだ。これでルリのおしおきは少なくても1日中書類の処
理をするより遥かに大変であることが判明した。
「それではアキトさんによろしく。」
ルリはまだ邪悪かつ危ないオーラを出しながら会長室を出て行った。
「ルリ君とつながりがあるのがネルガル最大の失敗かも知れない。」
知れないではなく間違えなくそうだと思うのは私だけだろうか・・・。
その後ルリとツキオミはまた残りの日数訓練を続けた。しかしツキオミは技を教えるたびルリの実験台にされ、とうとう11日目に倒れてしまった。
2週間が過ぎルリはナデシコCに戻り出航した。一方ツキオミは今だあの山小屋にいた。全身打撲と内臓の損傷でまったく動くことが出来ないのだ。
「もう二度とあいつには付き合わん。・・・テンカワは生きて帰れるだろうか・・・。」
ツキオミはネルガルが事実上ルリの統治下に入ったので、この後何度もこき使われることになることを知る由もなかった。
後書き
RYU こんにちは、(またはこんばんは)、今回も読んでいただいてうれしい限りです。
ルリ わかってますよね?
RYU な、何がだい?
ルリ しらばっくれる気ですか・・・。いいでしょう、何も言
わずに消します。
RYU わわ、ひょっとして今回またかなり壊れちゃったことに怒ってるの?
ルリ ひょっとしなくてもそうです。じゃぁ理由もわかったの
で死にますか。
RYU ちょっとまて。今終わったら後書き最短記録を更新してしまう。
ルリ 良いじゃないですか、新記録ですよ?それじゃ。ザク!
RYU ぐわ!!
ルリ 見事に最短記録達成!!それでは今回も読んでいただき
ありがとうございました。
RYU (最短じゃぁ祝えない・・・)
後書き2
こんにちは、RYUです。外伝1作目完成!一通り見ると・・・面白くない!!多分これは一番の問題です。実は前半にもっとギャグを入れてたんですがあまり
に不自然なことが多かったのでカットしました。
それとルリがなんだか最強っぽくなってますが出来るのと使えるのは違いますので、ツキオミにしてもSSにしても動かない標的みたいなものだったから当たっ
たんです。話の中に書きたかったんですが入れれなかったのでここに書きます。
ルリの実力は町のチンピラよりは強いけどプロには通用しない、と言うものです。(今は)
この話のポイントはネルガルがルリの統治下に入ったこととルリは運動音痴ではないということです。(確か公式な設定には運動音痴はなかったと思いますが、
イメージがありますしね)
次の外伝はアキト’Sのお話しか例の彼女のお話か・・・まだわかりませんが次も外伝です。
それでは次で会えることを願ってます。
感想
外伝第一弾! ということで、ルリ嬢、木連式柔を憶えるの巻きですね♪
まあ、確かにルリ嬢にゃ、運動音痴という設定は無いですね。
本当の所は誰にも分りませんが、運動音痴なイメージがついたわけはわかります。
色白で、運動をした事がなく、みんなが海で騒いでいる時も一人でノートパソコンいじっていたり、
動のイメージが全く無いと言うことと、そして、金色の目や病気にすらみえる白い肌色を見ていると、
宇宙で生きる為に遺伝子改造しても、肉体が強化されたように見えないということでしょうか。
なんにしても、確かにあまり多くない設定ですね♪
勘違いしてはいけませんよ、それは付随するイメージなんです。
私の役作りで一番必要な事を知っていますか?
ああ、それは確か…
不幸な事だったっけ(汗)
ジーベック公式設定なのかはりしませんが、CDではそうなっています。
恐らく、イメージとして薄幸な少女でありつつ、めげることなく頑張る少女という健気さこそが私と言う事ですね。
そうなのかな、皮肉屋だったり、名台詞自体がアレだし…
ばかバッカですか…確かに、私はTV出演当初は皮肉屋と言う設定だったようです。
ですが、時間をかけて少しづつ心の中を見せていく段階で、
不幸であり、また幸せを知らない少女である事がわかっていくということです。
TV終了辺りから、私が薄幸の少女である事が定着し始めたと考えていいと思います。
それに、後半になると同じばかバッカでも意味が違ってきたりします。
理由
はやはり私の成長と言うことになるでしょう。
確かに…そうかも…では、運動音痴というのは、不幸に付随するような設定であるという事か。
なるほど、不幸と、見た目と、雰囲気が好く合うということか…
あま
り認めたくない事ですが、私は不幸な方が映えるのかもしれません…
でも、私としては最後にアキトさんと結婚できれば問題無
いんですけどね。
ブッ…!? 結局それですか…(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
RYU
さんへの感想はこちらの方に
掲示板でも構いません。