――――――――皇暦2018年10月13日。帝都ペンドラゴンによって発生した『血の紋章事件』を超える宮廷内闘争、通称『鬼子の騒乱』により第九十八代唯一皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが凶弾に倒れた。
 そして事件より三日後。
 皇暦2018年10月16日。第二皇子シュナイゼルは自身の皇帝就任を全世界へ向けて宣言した。

 ブリタニア特務局の調査により『鬼子の騒乱』の真の首謀者は去年皇族に復帰したばかりの皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと判明。
 ルルーシュは嘗て日本に人質として送られた経験があり、これが動機と思われる。
 またナイトオブツー、ナイトオブシックス、ナイトオブトゥエルプがルルーシュに同調した模様。
 現在ルルーシュと反乱に参加したラウンズ三人は港で停泊していたアースガルズに乗り逃亡中。
 格機関が全力を挙げて捜索中であるが、対TASセンサーが未だ実験段階の為、発見は難しいと思われる。





「これが、事件の全容だ」

 エリア22(旧アイスランド)政庁の総督執務室。
 そこにルルーシュとレナードを始めとするラウンズ。エリア22副総督ユーファミアとその騎士スザク。機体の修理の為にアイスランドに滞在していたナイトオブテンの姿があった。

「本当、なのですか?
シュナイゼルお兄様が、反乱だなんて」

「レナードのマーリンにある戦闘記録に、先代皇帝がシュナイゼルに撃たれる映像が残っている」

 予め用意していたのだろう。
 巨大なディスプレイにシャルルがシュナイゼルによって撃たれる映像が浮かび上がった。

「全ての詳細は話した通りです。
本国において、皇帝陛下を殺害した大罪人シュナイゼルが皇位を僭称していますが、我々はこれを認めるつもりはありません」

「先帝陛下の御遺言により、我々ラウンズはルルーシュ様を新たなる皇帝陛下として仕える所存です」

 レナードとモニカが言う。

「よかった。ルルーシュが反乱の首謀者と聞いて、その、驚いていましたから」

 ユーファミアが安心して息を吐く。
 彼女は、ルルーシュには『ゼロ』であったという前科があると知っていたので、今回の反乱騒動も半ば鵜呑みにしてしまったのだ。

「失態だった……。
本当なら、皇帝を殺害したシュナイゼルに対して、この遺言状を持ち正当なる皇帝を名乗り、痛烈な逆襲撃を慣行する筈だったが…………シュナイゼルめ。
行動が、いや動きが速い。情報操作も完璧に近いな。報道に多少の不信感を持つ者はいるが、それでも殆どの皇族、貴族がシュナイゼルを支持している」

「真相を、真実を世界に知らせる事は、出来ないのですか?」

「無理だろうな。シュナイゼルもそのことは警戒しているだろうし、第一映像だけでは余程の馬鹿か能天気な奴でなければ信じない。信じさせるには、それなりの根拠が必要だ。
その根拠といえば、この遺言状がそれなのだが……反論なら幾らでも出来る。
俺が皇帝としてブリタニアへと戻るには、どうしてもシュナイゼルからブリタニアという国を奪い返す必要があるんだよ」

 例え遺言状にある印鑑は複製不可能な物であるが、筆跡はそうではない。
 その手のプロならば筆跡を誤魔化すことも可能であるし、後はルルーシュが皇帝から印鑑を奪い取ったとでも反論すればいい。シュナイゼルの地位は不動だ。
 真実の証人の数が沢山いれば、或いはとも思うが、その証人――――――帝都ペンドラゴンで戦っていた者達――――――は先ず間違いなく皆殺しにされているだろう。此処に居る反逆者のレッテルを貼られた者達以外は。

 それだけじゃない。
 一番の問題はシュナイゼル・エル・ブリタニアとルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの信用度である。
 幾ら皇位継承者の三番手へと躍り出たといってもルルーシュは去年皇族に復帰したばかり。ブリタニアへの貢献でいえば、ルルーシュはシュナイゼルは勿論、コーネリアやオデュッセウスにも及ばないのだ。
 生まれの事もある。ルルーシュに流れる母マリアンヌの血は、軍部の協力を得やすいというメリットもあるが、保守的な血筋を重んじる皇族や貴族の敵を作ってしまうデメリットもあるのだ。
 
 逆にシュナイゼルは帝国宰相として、皇族内の誰よりもブリタニアに貢献してきた皇子。皇帝に変わり多くの政務を受け持つこともあるし、欧州戦線などでは一時的にラウンズの指揮権すら与えられたこともあるのだ。
 血筋にしても、母が名門貴族の出身である為に問題はない。

 ようするに、ルルーシュとシュナイゼルの両者を比べた場合、皇帝に相応しいのは誰がどう見てもシュナイゼルのほうなのだ。

 だからこそ、シュナイゼルからブリタニアを取り戻す必要がある。そうすればシュナイゼルの腹心以外の貴族や軍人達は、ルルーシュを皇帝と認めるしかない。なにせルルーシュがブリタニアの皇帝となっても尚、ルルーシュを認めないと言う事は、築き上げた地位や財産を失うことになるのだから。
 死ぬ間際にシャルルが言った通り、戦いとは勝者が全てを得て、敗者は全てを失うもの。つまりは、

(勝った方が正義だ)

 極論だが、ルルーシュはそう結論する。
 勝てばいい。勝てば全てを奪い返せるのだ。

「これから、ルルーシュ達は?」

「言っただろう。信じさせるには勝つしかない。
シュナイゼルからブリタニアという国そのものを取り戻し、奴を捕らえ自白させ処刑する」

「そんな事が、可能なのですか?
相手はシュナイゼルお兄様。
それにルルーシュは…………」

「確かにそうだな。今のところ俺の持つ戦力はアースガルズ一隻だけ。
非戦闘員も含めて総勢千人程度しかいない。
対して相手は世界を支配する大帝国。総勢は20億。
ふふふふ、これで勝ったら奇跡どころじゃあない。何かの間違いだな。
しかし、いいじゃないか。
俺の戦力は戦艦一隻だが、それでも世界最強の戦艦一隻だ。やりようはある」

「………………」

「それで、ユフィ。
お前達はどうする?
正当なる皇帝は俺だが、実質的なブリタニアの皇帝はシュナイゼルだ。
言ってみれば俺には名しかなく、シュナイゼルには実しかない。
そして大多数の人間が欲しいのは名ではなく実だ。
もしお前がシュナイゼルの側につくというのならば、仕方ない。
元々俺の語った事が絶対の真実だと証明する方法はない。この場は見逃そう。
しかし、こんなことを言えた義理じゃないが―――――――――」

「答えなんて決まってますよ、ルルーシュ」

「!」

「私は、本音を言えばシュナイゼルお兄様と戦うのは反対です。
けど、ルルーシュ。止まるつもりは、ないのでしょう?」

「ああ。ない」

「それにシュナイゼルお兄様がゼロと手を組んでいたというのなら、お姉様は――――――」

 そこで漸く、ルルーシュは理解した。
 どうしてそんな簡単なことに、考えが到らなかったのか。
 ユーファミアにとって最愛の姉であるコーネリアは、ゼロの起こした反乱で行方不明となった。彼女は今でも姉の生存を信じているが、現実的に生存は絶望的ともいえた。
 
 ついでに言えば、ユーファミアは基本的に優しい性根で暴力を嫌う人間であるが、姉を殺す手助けをしたシュナイゼルと手を組むほど聖人君子ではない。
 
「そうか。ではスザク。お前はどうするんだ」

「僕は……いや自分はユーファミア殿下の騎士です。
殿下の決めた事に自分は従います」

「そうか。今は情報を規制しているから、今直ぐにこのエリアのブリタニア軍が俺に反旗を翻すなんて事はないだろうが、それも時間の問題だろう。
俺達は今晩にでも、アースガルズで出港する。
…………もしも、ユフィ。君が俺達と来るというのならば、今夜ここに来てくれ」

 そう言うとルルーシュは執務室から出て行った。
 急激に動いている事態は休息を許してはくれない。
 ルルーシュにはやらなければならないことが山ほどあった。





「ルキアーノ、行くのか?」

 エリア22の格納庫。
 ナイトオブテン専用機パーシヴァルへと歩むルキアーノを止める者が一人。

「レナードか」

 ルキアーノに返事するかのように彼――――レナードがゆっくりと歩いてくる。
 
「ナイトオブラウンズは皇帝陛下の騎士。そのお前が陛下の御遺言を裏切り、逆賊シュナイゼルへと着くのか?」

「見解の相違だなァ、レナード。
そもそも、お前とモニカは『陛下がシュナイゼル殿下によって殺された』と言うが、本当だという証拠がどこにあるんだ?」

「……………………」

「言えないだろう。つまりはそう言う事さ。
多くの軍人や貴族にとって、真実なんて正直どうでもいいんだよ。
要するに、どちらに着いたほうが得かって事だ。
という訳で、ここで一つ問題だ。
ブリタニアという国全てを手にしたシュナイゼル殿下と、戦艦一隻すら持たないルルーシュ皇帝陛下様のどちらについたほうが、将来的に得だと思う?」

「シュナイゼルだ」

 そんな事はレナードも、ルルーシュだって理解している。
 だからこそ、ルルーシュだって『命を賭けて着いてくる者以外は来るな』とアースガルズの船員や、エリア22の部下達に言ったのだ。

(忠誠心の強いロイヤルガード、ラウンズであるモニカやアーニャは着いてくるだろうが、一体どれほどの人間が残るか)

 出来るのならば、主任や特派の生き残り二人やギアスユーザー達、ユーファミアとスザクが欲しいところだ。そして、今正にエリア22から離れようとするこの男も。

「良く分かってるじゃないか。
流石はナイトオブワン様だァ」

「当然の事だからな。
だが、少しよく考えてみたらどうだ、ルキアーノ」

「なにが?」

「お前がブリタニア本国に戻ったとしよう。
だが確かシュナイゼルの腰巾着のオカマ野郎は、お前の事を毛嫌いしてたな。もしかしたら、居心地が悪くなるかもなぁ」

「なに、戦場で事故に見せかけて殺ればいいだけさァ。
残念だが、それでは私がそちらに着く理由にはならないな」

「まてまて、話はこれからだ。
オカマ野郎の問題が一つだとして、お前にとって最大のデメリットがあちらにはあるんだぞ」

「最大のデメリット?」

「分かりやすく言おうか。
どちらに着いたほうが獲物は多いと思う?」

「!」

「答えを聞こうか、ルキアーノ。
どちらに着くか」

 奇妙な沈黙が流れる。
 緊張。二人とも動かない。
 と、その時。ルキアーノが弾けるように笑い出した。

「クックックフアアハハハッハハ――――――――――ッ」

「どうした?
笑ってばかりじゃなくて、答えを言え」

「フフカカカッヒャハハッハハッヒッ――――――――――フフゥヒッ―――――――――ハヤハハッハハハッハハハッハハハッハハヒヒッハハハッハ―――――――――ッ」

「……………………」

 なんとなく、むかつく笑い方である。
 レナードは拳の調子を確認すると、そのままぶん殴った」

「痛ッ!――――――――殴ることはないだろう?」

「五月蝿い。俺も暇じゃないんだ。
さっさと結論を言え。さもないと撃ち殺すぞ」

「分かりましたよ。お前の言う事じゃ仕方ない。
ルルーシュ陛下に着くよ。同族殺しってェのも経験したかったからなァ」

「お前は何時もやってるだろう。
味方を盾にしたり、行動不能のKMFを敵戦艦にぶつけたり」

「だから、本格的にだよ。
一応軍人だから、表立って同国人を殺したことは少なかったし」

「つまりルルーシュ陛下に着くと言う事でいいんだな?」

「そうだよ」

「なら、さっさと機体持ってアースガルズへ行け。
機体を運び終わったら、ついでに雑用でも手伝って来いよ」

「…………私は、これでもラウンズなんだが」

「それがどうした。俺がナイトオブワンだ。
ついでに言えばルルーシュ陛下よりお前の指揮権は俺が預かる事になっている。
良かったな。今日から俺がお前の上官だ」

「…………今から、シュナイゼル殿下に乗り換えるというのは?」

「一度承諾してからの離反は裏切りと見なし銃殺刑だ。
安心しろ。ラウンズに合わせて銃殺用の弾丸も特大のKMFサイズだ。
原型を残さずに逝けるぞ」

 にこやかにレナードが言うが、目が笑ってない。
 ルキアーノは確信した。あれは殺る目だ。
 その証拠に何時の間にやら、こちらに銃口を向けているヴィンセント・ウォードの姿が確認出来た。もしルキアーノが妙な行動をとった途端、凶弾は彼を吹き飛ばすだろう。

「…………分かりましたよ。
アースガルズに行けばいいんだろう?
その代わり戦場では好き勝手に暴れていいんだろうなァ?」

「構わない。命令に違反しない範囲なら、虐殺だろうが拷問だろうが好きにしろ。
今やブリタニアの騎士全てがお前の獲物だ」

「そいつはどうも。
じゃあ、また後で」




 そして皇暦2018年10月18日午前0時0分。
 エリア22の港に浮遊航空艦アースガルズと、並ぶ将兵の姿があった。

「まさか、これほど集まるとはな。意外だった……」

 ルルーシュの眼前にはアースガルズの乗員の九割、ロイヤルガード、ラウンズの四人、ユーファミアとスザク、カムランと特派の技術者の面々が勢ぞろいしていた。

「これがブリタニアの強さだよ」

「レナード」

 ラウンズの騎士服を纏ったレナードがルルーシュの側へ歩み寄る。
 
「民主主義に毒された平等が大好きな弱兵とは違う。
ここにいる全ての将兵は、捨て駒にされようと囮にされようと、最後の最期まで戦う事を、抗う事を止めない戦士達だ」

 如何して、ブリタニアが最強の帝国として世界に君臨出来たか。
 漸くルルーシュは理解した。
 ブリタニアの冷酷なまでの弱肉強食的な思想。
 弱者が虐げられる国家。
 それ等は結果的に、眼前の者達のような強兵を生み出した。

 主君と、祖国への絶対的忠誠心。
 弱者へと落とされない為に、誰よりも貪欲に勝利にしがみ付こうとする執念。
 命を放棄してでも任務を遂行しようとする気迫。

 そんな戦士達を前に、ルルーシュは不思議と心が穏やかだった。
 どこか満ち足りている、と言ってもいい。

 ルルーシュの目的は大きく二つだ。
 ナナリーをシュナイゼルの手から取り返すこと。これが第一。
 もし、連座制でナナリーが処刑になどなったらどうすればいいか。シュナイゼルの性格は理解している。正直、昨日などナナリーが心配過ぎて一睡も出来なかった。
 しかし、シュナイゼルの性格は理解している。あの強かな皇子ならば、直ぐにナナリーを殺すなんて事は万が一にもないだろう。恐らく、こちらに対しての有効な手札として温存しているに違いない。
 なんとしても、ナナリーの所在を探り出し、救出する。

 そして第二に、シュナイゼルからブリタニアを取り戻すことだ。
 前提条件としてナナリーを救出してから、というものがあるが。
 もしナナリーを救出せずにブリタニアを取り戻してしまえば、最悪ナナリーが殺される。それだけは絶対に阻止しなければならない。

(だが、どうしてだろうな。
困難な筈なのに、全く困難に思えない)

 傍らのレナードを見る。
 そういえば、スザクと良く"二人が手を組めば出来ない事なんて何もない"そう言ってたな。
 今回は二人じゃなく三人もいる。ならば、出来ない事がある訳がない。
 向き直る。眼前の将兵達。今日をもって自分の手駒となる者達だ。
 一瞬、その左目のコンタクトを外そうかと思ったが、止めた。
 ギアスなど必要ない。この者達には……。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。
お前達は、私の臣下となれッ!」

『イエス、ユア・マジェスティ!
オール・ハイル・ブリタニアッ! オール・ハイル・ルルーシュッ!』

 後に世界最強の戦艦として知れ渡るアースガルズ。
 真の旗揚げは、正にこの時であったと歴史書は記している。






 そして事態は更に動き出す。
 皇暦2018年12月20日。合衆国連合、通称『超合衆国』が誕生。
 神聖ブリタニア帝国、合衆国日本、大英帝国などの大国、周辺の発展途上国が憲章を批准した。
 これにより神聖ブリタニア帝国は合衆国ブリタニアに。
 大英帝国は合衆国ブリテンへと国号を変更した。
 ただでさえ最強を誇るブリタニアに、ブリテンと黒の騎士団の力が加わる。
 中華連邦までもが超合衆国に媚を売る姿勢を見せた今、もはや世界にはゼロとシュナイゼルに抗う事が出来る勢力は存在しなかった。

――――――――――そう、たった一隻の戦艦を除いては。



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