注意事項。
今回の話は現実にある、あらゆる書物・物語・歴史とは一切関係ありません。
作者の妄言です。
アーサー王伝説をハンマーで木っ端微塵にして、ギアス要素と作者の偏見を混ぜ合わせて再構成したような感じなので、現実のアーサー王伝説とは大きく違います。



―――騎士王アーサー・ペンドラゴン。
嘗てブリテンに実在したとされる伝説的な王である。
またいつか蘇る王ともされ、祖国たるブリテンが危機に陥れば、アヴァロンでの眠りを覚まし、再び蘇るという。これはそんな王の物語。







――――――――1人の男の話をしよう。
 ウーサー王にはコーンウォール公の奥方イグレーヌとの間に設けた、一人の不義の息子がいたという。ウーサーは当初その息子を殺害しようとした、が、助言者たるマーリンの強い勧めもあり、王の息子という身分を隠して、清廉な老騎士エクトルのもとへ預けることにした。
 
 だがマーリンは別に不義の子を哀れんだのではない。彼に宿る不死の呪縛、コード。これから唯一逃れる方法とは、強いギアス能力者にコードを継承させてしまうこと。といっても高いギアスの素養を持つ者は非常に稀だ。彼のウーサー・ペンドラゴンをもってしてもコードを継承できるほどの素質はなかったのだ。

 しかしウーサーの息子、アーサーは別格だった。正に自分と匹敵する才覚。
 百年に一度……或いは千年に一度の逸材といっていい。
 もしかしたならば、ワイアードギアス能力者にもなれるかもしれない。

 ワイアード。コード保持者との契約なしにでも超常の力を行使する者のことである。いや、そういうと弊害があるか。ただのギアス能力者がワイアードギアス能力者にならない訳ではない。
 ワイアードギアス能力者とは即ち、高いギアス素質を持ちながらも"契約"をせず、なんらかの要因で元もとの素養が自然進化していった者の事を指す。
 こう聞けば余程凄まじい能力だと思われがちだが、実はワイアードギアスというのは往々にして大した事はない。
 自然進化であるが故に、最初その力はごく小さい物に留まる。その力をより強大にしていき、かつ自らの意志で自由自在に操れるようになって初めて、ワイアードギアス能力者は完成する。
 謂わば"契約"とは、その者の元々ある素養を強引に底上げしてしまう事なのだ。だからこそギアスはやがて暴走して止まらなくなる。当初の段階で"楽"をしてしまったが故に、その力を完全にコントロールするまでには時間が掛かってしまう。大抵のギアス能力者はそこまで達成せずに死んでしまう事が多い。ある者は発狂して、ある者は自らの不運を呪って。
 逆にワイアードギアスは自然進化なので、自分の意思でコントロールするようになるのは比較的簡単だ。その力はコード保持者にさえ一定の効力があるほどである。
 
 話を戻そう。
 少年アーサーは、マーリンの目から見てワイアードギアス能力者に到る事を、想像させるほどの素養をもった人物だった。
 だからこそ、誰にも秘密で彼はアーサーを監視した。やがてアーサーが成長し、自らの願いを叶える契約者に到るまで。到らせるため。

 対する少年アーサーは、そんなマーリンの思惑に気付かぬまま、老騎士エクトルの下で厳しくも暖かな生活を送っていた。
 アーサーには才能があった。学問を教えられては一を聞いて十を知り、僅か一ヶ月の鍛錬で三年の月日の苦しい生活に耐えた騎士見習いを倒した。だが一方で老騎士エクトルとの生活に幸福を感じながらも、終わらぬ戦乱というものは、少年アーサーに一筋の影を落としていた。そのことにエクトルは気付けなかった。それがまた一つの悲劇。
 
 そんな少年アーサーにも転機が訪れる。自分の血筋の発覚と、父ウーサー・ペンドラゴンの崩御である。王を失った国は、やがて蛮族の侵攻に怯えるようになり、民衆を苦しめていった。それを、どうにかしたくてアーサーは、国で最も恐れられる魔術師マーリンを尋ねた。彼は素質ある者に、全てを制する力を与えるという。その力があればブリテンを救える筈だ。そう思っての行動だった。
 しかし、マーリンの返答は"否"であった。

「何故です。何故私に王の力を与えてはくれないのだ、マーリン!」

「王の力は人を孤独にする。最初はいいだろう。しかし王の力はやがて暴走を始め、君を蝕む。だから止めた方がいい」

 アーサーは知らぬ事だろう。
 まさかこの魔術師が、自分の成長を監視していながら、彼に友愛のようなものを感じてしまったのだということを。愚かな話だ。利用する筈だった者に友愛を抱くなど正気の沙汰ではない。それはマーリン自身も気付いていただろう。それでも自分が呪縛を背負っていく事と秤にかけてでも、彼はアーサーの幸福を願った。
 どうしてマーリンがアーサーへ入れ込んだのか。それはもう誰にも分からぬ事であるが、それでもアーサーは諦めなかった。
 どれほど突き放しても絶対に諦めようとしないアーサーに、マーリンは折れる。

「いいだろう。だが、これは契約ではなく約束だ。
後悔することなく生きろ。それさえ守るのならば、私は君に力を授けよう」

 そして契約は完了した。
 アーサーに宿ったギアスは『人を惹きつける力』
 他の誰をも寄せ付けない圧倒的なまでのカリスマ性。

 この力をもって、本来なら王になれるような立場にない彼は王として君臨した。
 アーサーの将軍として参謀として朋友として、そして契約者として常にマーリンは側にいたという。
 誰よりも恐れられた魔術師と、アーサーの率いる軍は無敵だった。彼は常に最前線に立ち、兵を鼓舞し敵を誰よりも殺し尽くしていった。
 
 しかしアーサーとて人間。無敵ではない。
 自分の愛剣が折れた際、アーサーはそれを深く自覚した。
 どのような屈強な兵士であろうと流れ矢一本であっさりと死んでしまう。そうならない為には、もっと強い肉体が必要だろう。

「コードを受け継ぐだと、お前がか?」

「そうだ。私のギアスは『求心力』
統治に向いていても戦争には向かない。そして今ブリテンという国が必要としているのは治世の名君ではない、戦乱の世を平定できる最強の王だ」

「だが分かっているのか?
コードを受け継ぐという事は、お前は悠久の孤独を味わうことになるのだぞ」

「構わない。その果てに人々の笑顔があるのなら、私は喜んで不死の業を受け継ごう」

 かくしてアーサーは不死となったのだ。
 決して老いもせず、傷を受けても瞬時に治癒される奇跡の王。
 純粋な技量でいうならばランスロット、ガウェインに劣るアーサーだったが、不死の肉体というアドバンテージは彼を円卓最強、いや史上最強の座へ到らせるには十分であった。それにコードを失った事でマーリンにも再びギアスに力が戻る。あらゆる外敵を打ち倒す彼のギアスと円卓の騎士。この二つの力があれば、世界は。

 だが完璧な国に綻びが出来始めてしまう。
 アーサーにとって最大の朋友であり将軍であったマーリンが、愛した女に裏切られ幽閉され命を落としたのだ。そうこの時点でアーサーは、最大の理解者を失ってしまう。

 それでもアーサーは戦い続け、遂にはブリテンに平和を取り戻した。
 外敵の脅威はなく、国民の誰もに笑顔がある理想郷。

 
 そして終焉の鐘はなる。
 彼が最も信頼を置いた騎士サー・ランスロットとギネヴィアとの不倫。
 
 国は割れた。
 アーサーは裏切り者であるランスロットの討伐に赴き、一時的な休戦はあったものの、アーサーは戦い続けた。より完璧な、平和実現のために。
 しかし戦争は思わぬ事態により終結する。円卓に潜り込んだ呪われた王子モルドレッドが反逆したのだ。アーサーはランスロットとの戦いを中断し、ブリテン国を乗っ取ったモルドレッドとの戦いに挑む。その果てに最愛の甥であり、忠義の騎士ガウェインを失ってしまう。

 一つの終焉が訪れた。
 カムランの戦いと呼ばれる、アーサー王最後の戦場。
 アーサーとモルドレッドは死力を尽くして激突し、両軍は壊滅した。
  
 死体があった。
 隣にも死体があった。
 その隣にも死体があった。
 隣の隣にも、そのまた隣にも。大地を埋め尽くす…死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体。

 その死体の中心。
 一人の男がいた。
 その両目から零れ落ちる涙はない。そんなものは当に枯れ果ててしまった。
 この者達と同じように、死体になれればどんなに良かったか。なのに生きてしまった。それが、一つの悲劇でもある。死んでいたほうが良かっただろうに。だが本当に悲惨なことに彼は死ねなかった。

「何故だ……」

 こんな光景を望んでいた訳ではない。
 こんな光景など見たくはなかった。
 
 嗚呼、死体の山の頂上。
 そこに全ての元凶がいた。

「アーサー王! 覚悟ォ!」

「………………モルドレッド」

 もしかしたら生存者は自分とモルドレッドしかいないのではないだろうか。
 そう思ってしまうくらい荒野を埋め尽くし死体の惨状は、地獄の再現であった。

 なんて愚かだ。
 この後に及んで死体の山を増やそうとする自分もそうだが、なによりもモルドレッドが憎い。
 何故この男は、こんな愚かな行為をしたのだ。
 自分に不満があったのはいい。別に自分が完璧とは思っていない。それに人が人である以上、他者に不満を抱くのは当然のこと。別に否定も批判もする気はない。
 だが何故こんな暴力で全てを解決しようとするのだ。不満があれば口に出して言えばいい。そうすれば自分も出来る限りの便宜は図っただろう。モルドレッドには見えていないのか。戦渦に苦しむ民衆を。貴様の勝手な欲望と大義が踏み躙った無垢なる命を。

――――なのに、人というのは、こうも度し難い。

 勝敗は一瞬。
 モルドレッドは心臓を突き刺され死に、自分はモルドレッドの刃を頭に受けた。しかし自分は不老不死。頭を潰されたとしても死ぬことは出来ない。
 それでもやはり頭を潰されるというのは応え、朦朧とした意識で森を彷徨い。その女に出会った。
 マーリンと同じコードを宿す者にして、アーサーの異父姉。ブリテンの魔女モルガン。

「遂にここまで来たのね」

「私を嘲りに来たのか」

「マーリンの予言を聞いていたでしょ。王の力は人を孤独にする、と。
それは貴方も例外ではないのよ、アーサー。
だからこの結末は当然のこと。嘲るも何も運命なのだから仕方ないでしょう。
貴方は十分良くやったわ。少し休んでもいいんじゃないかしら」

「貴様に慰められるとは、私も堕ちたものだ。
が、私は止まらん。一度は平和になったのだ。なら何度でも平和を築き上げればいいだけだ」

「諦めが悪いのね。でも残念。
貴方の物語は終わっているの。これ以上、舞台に上がる事は許されない」

「知った事か」

「そう言うと思ったわ。けど――――」

 アーサーの体から力が抜けた。
 あれほど強靭であった腕が足が、力を失っていく。

「せめて目覚めた先で幸せになりなさい、アーサー。
貴方には、休息が必要よ」

「貴様――――!」

「おやすみなさい」



 そして何百年の月日が流れたのだろう。
 次に目を覚ましたのは、神秘的な遺跡だった。

「君は、誰だ」

 二人の男はオデュッセウス・ウ・ブリタニアとシュナイゼル・エル・ブリタニアと名乗った。
 偶然ブリテンに交渉と見聞を兼ねて来ていた、神聖ブリタニア帝国の皇子達。
 彼等から聞いた。この世界の歴史を。呪われた戦乱の歴史を。

 シュナイゼルの計らいで、アーサーはブリタニア本国のシュナイゼルの邸宅に匿われた。入国審査など色々と厄介な事はあったが、そこはシュナイゼルの手腕だ。あっさりとアーサーを誰にも知られることなくブリタニア本国へと入国させ、そこで一時の休息を得る。

 あれから世界は変わっていなかった。
 誰もが各々の欲望を正義というペルソナで覆い隠し、殺し合う。ただ戦士の武器が剣や弓矢から鉛弾とミサイルに変わっただけ。

 どうすれば、この愚かな行為を無くせるのだろう。
 この現世で得た友たるシュナイゼルと何度も話し合った。
 それでも答えは出ない。が、なんの成果もなかったかといえば、そうでもない。
 
 ギアスの情報がシュナイゼルに渡った事により、皇帝シャルルの真意が見えてきた。ラグナレクの接続。人という存在を集合無意識のもと一つにすれば戦争は終わる。それは皇帝シャルルが出した一つの答えだろう。

 しかしその答えをアーサーは否と、否定した。
 確かに戦争はなくなるだろう。だがラグナレクの接続というのは、人という種を極端にまで薄めてしまう事に他ならない。死と紙一重の世界。それでは違うのだ。アーサーは知っている。人の温もりを。人の優しさを。アーサーが求めているのは無味乾燥とした平和なだけの世界じゃない。
 戦争も迫害も犯罪もなく、誰もが幸せで、満ち溢れた理想郷。
 一度はその理想郷に辿り着いた。なのに、それは――――――

「欲望。それが、戦争の原因は」

 悟る。過ぎたる欲望。それが戦争の原因。
 ならば極度に人から欲望が薄れれば。必要最低限の欲望で満足出来るような人間だけならば。世界からは恒久的に戦争は消滅する。

 しかし集合無意識に、神に干渉して人の在り方を操作するなど並大抵の事ではない。
 コード二つの力をもってしても、人と人の間の壁を破壊する事しか出来なかったというのに。
 ならば結論は一つ。
 二つで足りなければ三つ用意してやればいい。自分のコード(・・・・・)と皇帝シャルルの契約者、そしてもう一人。行方を眩ました最後のコード保持者。
 
 三つのコードを合わせれば可能、かもしれない。だが繊細な作業だ。ラグナレクの接続が虫歯の治療だとすると、ウォーレクイエムは超難易度の手術といっていい。失敗は許されない。だからこそ、二つのコードの膨大な力を自分のコードで制御してやる必要がある。二つのコードはドリルにはなってもメスにはならないのだ。

 アーサーは中華連邦のギアス嚮団。
 シュナイゼルは何人か腕利きをつけようかと言ってくれたが、断った。
 相手はギアスの巣窟。なら腕利きなだけの者を連れてきたとしても足手まといだ。

 鎧甲冑を着込み、カリバーンが折れて以来ずっと運命を共にしてきたエクスカリバーを手に、ギアス嚮団内部へと足を踏み入れた。

「お出迎えかね?」

「…………」

 見た目は年端もいかぬ少年。14才くらいだろうか。
 少年はギアスを発動すると、ゆっくりとナイフを手に私に歩み寄ってきた。
 無論、それは。

「悪いが、私にギアスは効かない」

 アーサー・ペンドラゴンには何の意味もなかった。
 少年は何が起こったのかも分からないまま、一瞬で絶命した。

「――――――――!」

 走った。目の前を通過する銃弾。
 人には到底扱えないサイズ。知っている。現代の騎士達にとっての剣。
 KMFサザーランド。成る程、常人ならばこれで終わりだろう。
 生身でKMFに勝てる道理などない。が、知るといい。現世の最強よ。この男の名はアーサー・ペンドラゴン。ブリテン国に君臨した騎士の王。たかだが鉄屑如きに負ける筈がない。

 サザーランドの右腕が切り裂かれる。パイロットは信じられないだろう。
 人間である筈のソレが、人の限界を遥かに上回るスピードで疾走しKMFの右腕を切り裂いたのだから。パイロットは恐慌状態に陥り、やがて首を切断され足を切断され、コックピットを切断され、パイロットも切られた。

「………………」

 KMFを生身で倒す。
 そのような偉業を成し遂げていてもアーサーには何の感慨もない。
 
 アーサーは先を急ぎ、そして嚮団の最奥に到る。
 そして見つけた。現世のコード保持者、V.V.を。
 
「君は、だれ?」

「………………」

 アーサーは答える事もなく、V.V.よりコードを奪った。
 そして最後のターゲットはC.C.
 三つ目のコードを持つ女。

 後悔はしない。それが共犯者との約束だ。
 もう止まる事も出来ない。流して来た血の為にも、より多くの血を流してでも恒久的なる平和を。夢見た理想郷を創り上げてみせよう。後悔する暇など、ない。

 

「どうしたのですか、アーサー王」

「ジノか」

 仮面をとったアーサーが目を覚ます。
 どうやら眠ってしまっていたらしい。どうも懐かしい夢を見ていたようだ。

 男の年齢は、二十歳くらいだろうか。
 美しい金髪と深い翠色の瞳をした精悍な青年。
 
「お疲れのようならば、侍従を呼びますが」

「いや、いい。それより計画は大詰めだ。期待しているぞ、ジノ・ヴァインベルグ」

「イエス、ユア・マジェスティ」

 ジノが退室していく。
 情けない。この程度で疲れるとは。コードをこの身から失ったせいだろうか。
 
 ウォーレクイエムはもう直ぐ完成する。
 出来るのならば、完全に世界征服を完了した上で計画を実行に移したかったが、もう贅沢は言ってられない。そう、もう直ぐだ。もう直ぐ一度は辿り着き、そして失ってしまった理想郷を再びこの世界に創造できる。そうすれば、もう――――――。



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