―――君に事えてその本を忘れざるは、天下の義士なり
どのような役職や立場にいる者でも"本分"がある。
騎士ならば騎士の。王ならば王の。
そして誰しもが"本分"を全うしようというのなら、争いあうのが必定である。







 主戦場から離れた神根島の遺跡。
 そこには一人、仮面の英雄ゼロ。アーサーの姿があった。

「始まったか……」

 呟いた。
 あの時、開戦前に演説していたゼロは別人だ。
 声は録音。単純な入れ替わりトリックだ。

 アーサーの目的は別にルルーシュ率いるブリタニア軍に勝利する事ではない。
 ただ時間さえ稼いでくれればいい。
 見積もって一時間でウォーレクイエムは実行されるだろう。そうなれば如何に此処に辿り着こうと全てが無駄。こちらの勝利だ。

「ナナリー・ヴィ・ブリタニアがいれば、より完璧だったのだがな」

 黄昏の間の中心。
 そこに白い物体がある。
 
 魔導器R.R.
 三つのコードを宿したそれと、それに接続されている近代的なシステム。
 R.R.が力を提供し、このシステムで制御される。
 本来なら紛い物の魔導器ではなく高いギアス素養を持つナナリー・ヴィ・ブリタニアで実行したほうがより正確な作業が出来たのだが、もう贅沢は言ってられなかった。

「主戦場であるあそこから、此処に辿り着くまで掛かる時間は約三十分」

 つまりルルーシュ・ヴィ・ブリタニア率いるブリタニア軍は、僅か三十分でシュナイゼル率いる黒の騎士団を突破し、ここに来なければならない。
 また此処だけを狙った奇襲に対しても対策は施してある。海中、海上、空、地面。その全ての経路を辿ったとしても、誰にも気付かれる事なく神根島に来る事は出来ないのだ。
 既に何十機かのKMFがそれ等の経路を辿って来ていたが、その全ては海の藻屑となった。
 
 だが懸念事項もある。
 あの時、アイスランドで使用してきた兵器。もしもあれが二、三発でも残っているのならば、三十分で黒の騎士団を全滅させるのも不可能ではないだろう。
 だがそれでいい。物事に確実なんてものはない。相手がどのような手を使ってこようと、こちらはそれを叩き潰せばいいだけだ。
 最後の砦もある。

「この時の果てでも良く仕えてくれたな、朋友よ」

 最愛の甥の名を冠した機体を撫でる。
 ガウェイン・ロイヤリティー。恐らく現行最強の機体にアーサーが騎乗すれば、もはや戦略兵器と呼んで差し支えない程のスペックを発揮する。
 
「だがもう少し付き合ってくれ。君達と共に目指した理想郷に辿り着くまで」




 ダモクレスの中枢司令室に通信が入っていたのは、ゆっくりと出方を伺うように接近を続けていた両軍が戦闘可能領域に突入する直前であった。
 この状況でわざわざ通信を入れてくる相手に、心当たりは一つしかない。

「ほう。オープンチャンネルで」

 シュナイゼルは不敵に微笑む、カノンに指示を出した。
 カノンの操作でぱっと画面が切り替わる。映ったのは白い皇帝衣装を着こなした黒髪の少年。覇者の貫禄を貼り付けた顔でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはシュナイゼルを見ていた。

『ごきげんよう、シュナイゼル』

 豪奢な椅子に座った、神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝ルルーシュが優雅に言う。
 九十九代、だ。ここに国際的には九十九代皇帝シュナイゼルがいるというのに、敢えて九十九代なのはシュナイゼルを皇帝シャルルの後継者と認めないという意思表示だろう。
 だがそんな事はシュナイゼルには全く興味もない事である。律儀に第九十九代皇帝を宣言したルルーシュを見て笑っていたほどだ。

「久し振りだね、ルルーシュ」

『降伏する気はないかな。こちらにはアイスランドで使用した兵器。フレイヤが後数発残っている。今大人しく降伏するというのならば、主犯である貴方とゼロは兎も角、部下の命は保障しよう。
念の為に言って置くが、これは最終通告だ。降伏し我が軍門に下れ』

「考えるまでもない。返答は"否"だよ。
それにフレイヤと言ったかな。本当に"数発"も残っているのかい?」

『フフフ、想像にお任せするよ』

 表情からは分からない。
 念の為、どっちのパターンも想定しておかなければならないだろう。

「だけど覚えているかい。
君は一度だって私に勝てた事はなかった」

『ならば貴方には最後に死という敗北を味わってもらう』

「そうか。では、始めようか。
世界の行く末を決める戦いを。そして願わくば、これが最後の戦争になることを祈りたい」

『最後の戦争、それが貴方の限界だ』

「ほう。興味深いね、なぜ限界なんだい?」

『貴方は皇族として全てを下に見てきた。だからこそ分からない。人が人にする優しさの意味が。その意味を知らぬ貴方に私が負ける筈がない』

「意外だよ。まさか君がこんな理想主義者だとは」

『理想で結構。否、理想なき王に人は着いてこない。
シュナイゼル。お前には自分がない。
ゼロに従っているのも、他者の期待に応えるだけだったお前が、ゼロだけの期待に応えるようになっただけに過ぎない。そんな男が王に相応しい訳がないだろう。
戦う前から貴方は王として失格なのだよ』

「失格、か。面と向かって言われたのは初めてだ。
だけど勝敗を分かつ条件は理想や想いではない」

『それは同感だ。思いの力で現実には打ち勝てない。
何時の世も勝利を決めるのは』

「戦術と」

『戦略だ』

 そこで映像は消えた。
 ルルーシュのほうも戦の準備に取り掛かったのだろう。

「カノン」

「はい」

「全軍にパターン狽伝えて」

「イエス、ユア・マジェスティ」



 序盤は両軍ともに目立った動きは見せなかった。
 単純な戦力でいえば、どちらもKMFの数が万を超える大軍であり、相手がフランスだろうとドイツだろうと五日で焦土に変えてしまえそうだ。
 だがそれでもルルーシュとシュナイゼルには明確な差が有る。指揮官としての能力が、ではない。それは時間だ。シュナイゼルはただ守るだけで良く、ルルーシュはシュナイゼルを迅速に撃破し、神根島に向かわなければならない。
 明確な制限時間が分からない以上、数分後には負けが決まっているかもしれないのだ。戦場で焦りは禁物というのは理解しているルルーシュであるが、それでも慎重に行き過ぎればこちらの敗北の可能性がグンと上がる。

 幾らルルーシュが誘いをかけても決してシュナイゼルは手を出さない。
 シュナイゼルはひたすら防御を固め、持久戦を挑む算段でいる。故にルルーシュは。

「これより攻撃を仕掛ける。スザクのランスロットとルキアーノのパーシヴァルを前面に立てろ!
短期決戦だ。ウォード隊も続き、ガレス隊はそれを援護せよ!」

 対するシュナイゼルは余裕をもってこれに応じた。

「相変わらずだね、ルルーシュ。
何時も君は防御よりも攻撃が好きだった。だけど防御を疎かにした攻撃ほど脆いものはない」

 ルルーシュとシュナイゼルの能力は互角だ。
 だからこそルルーシュは圧倒的に不利なのだ。配下の将も数も互角であるからこそ、時間制限という枷が大きく作用してくる。

「ジノ」

『イエス、ユア・マジェスティ!』

 打ち合わせ通り、ジノが敵陣の分断をはかった。
 トリスタンに率いられ怒涛の勢いで進軍する黒の騎士団は、やがてランスロットとパーシヴァルという戦力を失っているアースガルズを孤立させる。
 焦りが危機を生み、ルルーシュの命を刈り取る事にもなった。戦局はシュナイゼル優位にて動いている。

「右翼、敵の総攻撃に合っています!」

 舌打ちしたいのを堪える。
 パーシヴァルを援護に回しているが、いかせん敵の動きが巧みだ。あの老練にして苛烈な指揮っぷりは恐らくは藤堂。
 ルルーシュとしては、更にランスロットやマーリンを送りたいが、それは無理な相談である。既に左翼は削られ続け、第二防衛戦ラインすら突破されつつある。

「陛下! 紅蓮が我が艦に迫ってきています!」

「なんだとっ!」

 流石は第九世代KMFというべきか。
 エナジーウィングを背負い戦場を縦横無尽に駆ける紅蓮は、邪魔をするヴィンセント・ウォードやガレスを薙ぎ倒して、一直線にこちらに向かってきていた。
 そして紅蓮の右腕がアースガルズに向けられるのを見た。

(不味い。幾らブレイズルミナスとはいえ、紅蓮の輻射波動砲相手では!)

 だが紅蓮が輻射波動砲を放つ前に、アースガルズより後方から放たれた銃弾により阻まれた。

「来てくれたか」

 嬉しそうにルルーシュが呟く。 
 後方にいたのは蒼いKMFとそれに付き従う一団。

『中華連邦が将、黎星刻!
信義に乗っ取り助太刀に参った!』

 新たに援軍としてきた中華連邦軍は星刻を先頭に敵を切り裂いていく。
 ここら辺が頃合か。ルルーシュは最後の策を使う決意をした。

「レナード」

『イエス、ユア・マジェスティ』

 レナードの声が戦場の全てに響いた。
 マーリン・アンブロジウスが戦場の空へ飛翔する。
 向けたのは巨大な銃口。アイスランドで黒の騎士団二万を飲み込んだものだ。
 周囲に黒の騎士団しかいなかったのとアーサーの的確な対応があったからこそ二万と言う被害に落ち着いているが、もし都市部で放たれたなら"億"の人間を一度に消し去ることも出来ただろう。
 マーリンの銃口から一発の弾丸が放たれた。それは真っ直ぐにダモクレスに向かっていく。

『あれは、アイスランドの!』

『逃げろォ! あの馬鹿でかい奴が来るぞ!』

『全軍退避だァ!』

 黒の騎士団中に混乱が起きる。
 誰もが我先にとフレイヤの範囲から逃れようとして。
 
「逃げるか、だが遅い」

 フレイヤ(・・・・)が爆発した。
 それは戦場を大きく飲み込み、そして。

「今だ! 敵は混乱している。全軍突撃せよ!」

 それはフレイヤではなかった。
 形状が似てるだけの巨大な閃光弾。が、戦場を混乱に叩き込むには十分の効果である。
 なにせフレイヤという兵器の出鱈目さ恐ろしさは、アイスランドでの戦いを生き残った3万の兵士達によって深く浸透している。恐れるなというのが無理な話だった。
 だからこんな単純な策も効果がある。だがこの策を使ったとはいえシュナイゼルがフレイヤの可能性を取り除く事もない。何故ならこの閃光弾による偽フレイヤですら本物を確実に当てるためにフェイクととることも出来るのだから。
 常に虚実をもって戦い続けてきたルルーシュだからこそ、正攻法で挑んだとしても虚実があるのではないかと勘繰ってしまう。それがシュナイゼルが優秀すぎるが故にしてしまった痛恨のミスだった。

 そして一方では一つの決着が付こうとしていた。
 対峙する白騎士と紅蓮。

「決着をつける時が来たようだね、カレン」

「そうね。私達のすれ違いに!」

 白き死神と紅蓮は邂逅を果たしていた。
 全ての決着をつけるために。そして。

「お前と戦うのは、御前試合以来だったな、ルキアーノ」

「あの時の借りを返しに来たのか。家柄だけが取り得のお坊ちゃんがァ」

 吸血鬼と祖国を裏切ってまでアーサーに従った騎士もまた出会っていた。
 全ての因縁が今日、決着する。



 ジノ・ヴァインベルグは長らく渇いていた。
 バリバリの大貴族である父は自分を起業家にでもしたかったらしいが、生憎とそんなものに興味はなかった。そう私が憧れたのは一つ。主に仕え主の敵を打ち払う騎士。だから実家の意向に逆らってまで士官学校に入り、そしてラウンズにまでなった。
 そうなると親父達も現金なもので。口々にやれ自慢の息子だの、ヴァインベルグ家の誇りだのと言った。それはいい。別に自分だって誉められるのは嫌いじゃない。
 
 だから問題があったとすれば唯一つ。
 ラウンズという立場でさえ、自分は満足出来なかった事くらいだ。
 ビスマルクはいい。彼こそ正にシャルル・ジ・ブリタニアの騎士なのだから。レナードもラウンズという立場に満足しているようだった。ドロテアもノネットもモニカも。ルキアーノは例外だ。あれは騎士ではなく芯からの殺戮者。そこに騎士道なんてものはない。

 だけどジノ・ヴァインベルグはどこか満足ではなかった。
 確かにシャルル陛下が偉大な王だというのに異を挟むつもりはないが、なにか違うのだ。
 もっと心の奥底から『仕えたい』そう思える人と出会いたい。その人の下で思う存分に力を振るいたい。
 
 だけどそれは贅沢な望みなのだろう。
 自分はナイトオブスリーとして戦い続け、そして年老いて軍を去るか、それまでに死ぬか。ずっとそういう風に思っていた。

 けど出会った。出会ってしまったのだ。あの御方に。
 彼は強かった。仮面で素顔を隠していたけれど、それでも常に最前線に立ち圧倒的な技量で敵を捻じ伏せていった。
 心の底から『仕えたい』と感じた。この人の為なら死ねるとさえも。
 そして願いは叶う。王は私の前にその素顔を晒してくれたのだ。自分の直感が正しかったと知るのもその時。

 王の真名はアーサー・ペンドラゴン。
 嘗てブリテンに君臨した伝説的な王。

 心が震えた。幼少期に憧れ続けてきた王と共に戦えるのが嬉しかった。
 だからこそ私は此処にいる。ジノ・ヴァインベルグじゃあない。ただの『騎士』として。

『さぁ、その命を飛び散らせろォ!』

 ルキアーノが迫る。
 ルミナスコーンによりドリルのような形状になったクロー。
 当たれば一撃でトリスタンの装甲を破壊し尽くすだろう。
 そう当たったならば。
 トリスタンは斧のようなMVSで攻撃を弾くとカウンターを叩き込んでやる。

「悪いがまだ飛び散らせる訳にはいかないのだよ!」

『咆えるじゃないか、裏切り者がァ!
知っているか? 今のお前はヴァインベルグ家からも断絶されている。
つまり貴様には名誉も栄誉もない。あるのは裏切り者の汚名だけだァ!』

「分からないもんだな」

『何がァ!』

「あれほどブリタニア国内でも恐れられ、騎士的名誉とは程遠かったお前が先帝シャルル陛下に忠義を誓い続けた忠義の騎士で!
この私が今や祖国と主君を裏切った騎士なのだから!」

『後悔しているのか?』

「そんな筈が――――――」



「ある訳がないッ!」

 スザクは咆哮と共に紅蓮のハーケンを弾いた。
 性能はやや紅蓮のほうが上。だがこの程度なら技量で覆せる差だ。
 それにレナードは、量産型であるヴィンセント・ウォードで紅蓮に勝って見せた。ならばランスロット・アルビオンのようなKMFを与えられていて負けるなんて嘘だ。

「そう日本を裏切ってブリタニアについて。
そんでまた日本を再侵攻しようとしているブリタニアに従って後悔はないって訳ねッ!」

 滾る紅蓮の右腕。
 輻射波動。接近戦はやや不利。
 かといって距離をとったとしても、嘗ての紅蓮と違い紅蓮聖天八極式は遠距離武装も充実している。だから距離を離したとしても大した優位にはならない。
 これでスザクがレナードのように中〜遠距離攻撃の達人だったならば話は違うが、生憎とスザクが得意とするのもまた接近戦だ。つまり紅蓮と同じ。

「ルルーシュは、別に日本を再び植民地にする気なんてない!」

「現に今ブリタニアは攻めて来てるじゃないッ!」

「それはゼロを撃つ為だ。
あの男はただ世界平和っていう嘘で皆を騙してるだけじゃないか!」

「アンタにゼロの何が分かるっていうのよ!」

「少なくとも君よりは分かってるつもりだ!」

「馬鹿にして。
アンタが日本の為に何をしたっていうのよ!」

「それは……」

「ゼロはね。アンタがお姫様と逃避行してる間に、日本を取り戻してくれたのよ。
それをアンタみたいな奴が勝手に否定するなッ!」

「そうだ。だけど、俺は!」

 そして受諾した。
 あの時、式根島で友から受け取った願いを。

――――――生きろ!

「イエス、ユア・マジェスティ!」

 スザクの肉体が限界を超える。
 反応速度、身体能力、動体視力。
 それ等全てでカレンを上回り、これを迎え撃つ。

「カレン!」

「スザクッ!」

 そして決着がついた。
 そのまま上空に浮かんでいたのは唯一つ。



 ルキアーノとジノの戦いも激化していた。
 互いの力量は互角。そして互角の相手が殺しあった場合、一瞬で決着がつくか。

「死ねェェェエエエエエエエエエエエ!」

「私が死ぬのは、この戦いが終わった後だッ!」

 二人のように満身創痍になるまで殺し合い続けるかのどちらかだ。
 既に二人とも機体はボロボロ。見る影も無い。
 頭は歪み、両腕がひしゃげている。外装も傷だらけで偉容も優美さもない。
 それでもまだ二人は殺し合いを続けた。

 永遠に続くかとすら思う二機のワルツ。
 トリスタンとパーシヴァル。ともにアーサー王伝説を起源とする両者は、互いが互いを親の仇を相手にするかのように殺しあっている。

 だが全てには終幕がある。
 この二機の戦いもまた、同じだった。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「飛び散れェェエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」

 交差する両者。
 果たして倒れたのは。

「負けた、か」

 ジノだった。
 優美さを備えたトリコロールにペイントされたトリスタンは、今は最後の力すら奪われ、その胴体に巨大な穴を空けていた。

「たっく、最後の最後でヘマしたなぁ。やっと王に巡り合えたっていうのに。
だけどよりによってお前に負けるっていうのが最悪だ。こんな守るべき物もない。自分の為だけに戦ってる馬鹿に。情けねえな、私も」

「最期に聞こうかァ。お前の大事なものは、なんだ?」

「それは誇りだ。私は一人の騎士として、最高の主君と巡り合い剣を振るえた。
後悔などはない」

「残念だ。お前の大事なものを私は奪えない」

 パーシヴァルのクローがトリスタンを真っ二つにする。
 そして地位も名誉も全てを棄てて、騎士王に従った男ジノ・ヴァインベルグは死んだ。

「自分の為だけに、か。
確かに今までの人生ずっと自分の為に生きてきたが、稀にはいいものだなァ、レナード。
トモダチのためっていうのも」

 ルキアーノの口元から血が零れる。
 トリスタンの一撃は、届いていた。決死の一撃はパーシヴァルにも多大なるダメージを与えていたのである。そして飛び散ったコックピットの破片が、ルキアーノの胸元に深く刺さっていた。
 やがてルキアーノは意識を失い、パーシヴァルは海へ落下した。


 紅蓮が爆発する。パイロットを乗せたコックピットは強制的に脱出機構が作動し一機の暁に拾われていた。追いはしない。紅蓮という力を失えば、カレンにもう戦局を打開するような力はないのだから。
 危なかった。もし後少しランスロットのMVSが紅蓮を両断するのが後少し遅ければ、紅蓮の右腕はランスロットのエナジーウィングではなくこの胴体を貫いていただろう。

「それでも、これが結果だ」

 そのまま戦いを続行しようとして止める。
 ランスロットのほうもダメージが大きい。一度補給に戻ったほうが無難だろう。

「こちらランスロット。これより補給に戻ります」

『おめでとぉ〜!』

「ロイドさん!?」

 驚いた。
 てっきりセシルが出ると思っていたら、代わりに出たのはロイドだった。
 やけに嬉しそうにロイドは言う。

『いやぁ〜、流石はスザクくん。
ラクシャータもたじたじだね〜』

「ラクシャータ?」

 知らない名前だ。
 もしかしてロイドの知り合いだろうか。

『まぁ、それは兎も角。補給だっけ。
もう準備してるから急いで帰ってきてね。くれぐれもランスロットを壊さないで』

「イエス、マイ・ロード」

 戦線を離れるのが少し不安だが問題ないだろう。
 既に黒の騎士団とブリタニアの戦力差は開いた。ダモクレスという不安要素はあるが、恐らくブリタニアの勝利は動かない。
 スザクは一度だけダモクレスを凝視すると、アースガルズへと戻った。


「私の勝利だ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」

 遠く離れた神根島でアーサーはそう言った。
 既にウォーレクイエムが始動するまで三十分を切った。
 そう、今から真っ直ぐ主戦場から飛んできたとしても間に合わない。
 故に彼は勝利した。
 
 だが、やはりアーサーはルルーシュを、アースガルズを侮っていた。
 アーサーの勝利は、一つの報告により崩れる。

『ゼロ、大変ですッ!』

 ダモクレスからの通信。
 やや慌てたように通信管制室にいる騎士団員が言った。

「なんだ?」

『衛星軌道上からこの神根島に落ちてくる物体があります!
もしかしたら隕石かも』

「隕石!?」

 慌ててガウェイン・ロイヤリティーに騎乗する。
 確かに空から真っ直ぐ神根島に向かってくる物体がある。
 なんと間の悪い。このタイミングで隕石とは。

「いや…………あれは隕石ではないッ!」

 アーサーは気付いた。
 あれは人の手により作られた物体だ。隕石などでは、自然のものではない。
 その物体は神根島近くになり外装をパージする。現れたのは一機のKMF。

「馬鹿、な……」

 有り得ない。
 何故此処にその機体がある。
 
「マーリン・アンブロジウス」

 今は無き朋友の名を冠した機体がそこにあった。
 そう、雌雄を決する時が来たのだ。 



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