―――生はまるで夢のようにはかない。いつ死んでもいいように、一瞬に命をかけて生きる。
この世界では誰もが懸命に、必死になって生きている。
ルルーシュもレナードもスザクも。敵であるアーサーやシュナイゼルも。
皆が自らに与えられた一生を全力で生きている。
だがアーサー王。貴方は頑張りすぎた。もう休んだほうがいい。







 それは本来ブリタニア奪還作戦の時に、ルルーシュが予備の策として用意していたものだった。
 対TASセンサーが普及した今、もはやTASは完全なステルス機能ではなくなっている。だが衛星軌道上ならば話は別だ。流石のTASセンサーも衛星軌道上までは届かない。
 
 そして衛星軌道上から目標に向かって一気に降下し奇襲する。それがルルーシュにとっての次善の策。だがやはりそれは完璧なものではない。第一この作戦を実行するには掛かる費用が半端ではない。衛星軌道上にKMFを押し上げる為の装備に掛かった費用は、なんとヴィンセント三十機分。幾らギアスがあろうとこんなものを量産化して全KMFに装備するなど正気の沙汰ではなかった。故に計画は見送られ、一機だけ製造された装備品は埃を被る事になる。

 けれどそれが役立つ時が来た。
 ルルーシュはブリタニアにおいて最も強いパイロットとKMFにこの装備を渡し、今回の奇襲作戦を計画した。障害となるのは一つ。シュナイゼルやアーサーにレナード・エニアグラムが戦場にいないことを悟らせないことである。
 これはわりと簡単にいった。狙撃が上手いパイロットにボイスチェンジャーと念の為の変装用マスクを渡せばいいだけなのだから。仕上げに見た目だけはマーリン・アンブロジウスそっくりのKMFを与えてやり、偽フレイヤの閃光弾を装備させればいい。
 まんまとシュナイゼルは騙され、レナードを主戦場にいると思わせる事が成功した。
 
 となればこの策の問題点は残り一つ。
 即ち一機分の装備しかないので、必然レナード一人に全てが掛かってしまうこと。ルルーシュは当初他の策を用意しようとしたが、相手がシュナイゼルやアーサーであるならば成功する可能性はどれも低いものばかりだった。
 あらゆるパターンを想定しても、この策が一番可能性が高い。
 それ故の苦肉の策。
 
 本音を言えば、ルルーシュとてレナードをそんな余りに危険な作戦に従事させたくはない。口では軽口を言い合っていても、ルルーシュにとってレナード・エニアグラムが掛け替えの無い悪友というのに他ならないのだから。
 だが、だからといって遠慮するなど、それこそレナードにとって失礼に当たるというのもまたルルーシュは理解している。
 レナードからしてみれば、最上の結果を得る為に、他者を捨て駒にするのは立派な選択肢の一つであり、それが自分になったからといって拒否もしないだろうし、寧ろ情けで捨て駒にするのを躊躇うことこそ怒りを露にするだろう。

 だからルルーシュに出来るのは一つ。
 せめてレナードの無事を祈るだけだ。そうあの男は何時でも、どんな困難な作戦であろうと完遂してきた。今回も必ずやってくれる。
 だから自分もまた自分の戦場で力を振るう。
 シュナイゼルを倒し、ここを突破する。敵は守りの体制に入っており攻め難いが、こちらにはスザクやラウンズ達も、中華連邦からの援軍もある。
 レナードは今この瞬間にも必死に戦っているのだ。ならば自分もそれに続こう。
 何故ならルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはレナード・エニアグラムの王なのだから。



「死ぬ前に宇宙旅行を体感する羽目になるとは思わなかったな」

 マーリン・アンブロジウス。
 そのコックピットには二つの人影があった。
 一人は言うまでもなくレナード・エニアグラム。そしてもう一人は。

「エナジーウィングの機動力の賜物ですね。
クルーミー大佐には特別手当を出したほうがいいでしょう」

 主任だった。
 複座式コックピットの電脳戦などのサポートをする為の場所に主任がいた。
 そう元々マーリン・アンブロジウスは二人での騎乗を前提にして作られたKMF。
 故に全性能を発揮させるには、卓越した情報処理能力を持つもう一人を乗せなければならなかったのだ。

「さて、そんな事よりも。
決着をつける時が来たようだな、騎士王アーサー・ペンドラゴン」

『オデュッセウスが話したのか?』

「ああ。正直言うと半信半疑だったが、その分だと正解らしい」

『まぁ別に構わないがね。私の正体を知ったところで、もはや無意味だ。
もはや私がゼロという仮面をつける必要性すらないのだから』

「此処には俺とお前以外誰もいないからな。
実は驚いた。てっきり大軍が待ち受けているんだと思っていたのに、まさかお前一人とはな」

『部下など置いておいて裏切られたら堪らないだろう。
特にギアスキャンセラーが君達の側に渡ってしまった以上、私のギアスの効果も期待出来ない』

「信用してないのか、黒の騎士団を?」

『生憎と、愛した女にも信頼した騎士にも、自分の息子にすら裏切られてきたのでね。
そう簡単に信じる事は出来んさ。特にこのような大事な時にはな』

「そうか。
まぁいい。俺はお前と仲良く談笑しに来たわけではない。
退けアーサー王。私も一人の騎士として貴方に憧れた事もある。
この手で殺すには些かなりとも忍びない。もし尻尾巻いて逃げるのであれば追いはしない。
俺の目的はこの先に有る装置を破壊する事だからな」

『易い挑発だな。私が乗るとでも思ったのか。
だとしたら酷く心外だ』

「そうか。時間をとらせたな。
こちらも時間が押している。直ぐにアヴァロンへと叩き出してやるから覚悟しろ」

『この世を理想郷(アヴァロン)へ変える事こそ私の望みだ。
それを叶えずして叩き出される訳にはいかないな』

「ならば――――」

 語ることはない。
 レナードはマーリン・アンブロジウスを駆り疾走した。
 先手はレナード。スーパーヴァリスの大威力の射撃がガウェインへと迫る。
 
『射撃武器などこのガウェインには効かん』

 それはどうかな、とレナードは顔を綻ばせた。
 絶対守護領域により阻まれる筈だったヴァリスは、何故か弾く寸前に守護領域が消え去り、ガウェインの肩すれすれを通過していった。

『馬鹿、な……! 絶対守護領域を貫通、いや作動しないなどとは』

 絶対守護領域が上手く作動していないと知った瞬間に、ガウェインを左に動かしヴァリスを避けたアーサーの力量に舌を巻く。
 だが少なくとも機体の優位性はなくなった。

「どうした、アーサー。
まさか機体がトラブルでも起こしたのか?」

『レナード。お前の手品か』

「さてね」

 はぐらかす。
 何も敵に情報を教えてやる必要はない。
 
 ルルーシュのオーディンにも搭載されている絶対守護領域は、その鉄壁の防御力を正常に作動させる為に高度な情報処理能力が必要になる。
 それこそルルーシュやシュナイゼルレベルの者達でなければ動かせない程の難しいシステムなのだ。だがアーサーはそれをガウェインに搭載されたAIによる完全自動制御に任せている。
 
 優れたAIによる超高レベルの電脳戦能力。純粋な機体性能だけではなく電脳戦などのあらゆる分野において覇権を獲得することを目指した第十世代型KMF、唯一の完成形。
 それを破るには、こちらも第十世代KMFで挑まなければならない。だがガウェインに搭載されているAIプログラムを作るには時間も技術力も足りない。だからこそ主任はもう一つの手段として、複座式にして電脳戦をサポートするパイロットを共に騎乗させることで、擬似的にしろ第十世代KMFへマーリンを押し上げたのだ。

 ガウェインの絶対守護領域を破ったのもその賜物。
 レナードが戦いながらも、主任が高速で情報を処理し、ガウェインのシステムに介入することで絶対守護領域の計算をずらす。
 本来なら二人の息が完全に合わなければ実効することさえ不可能。例えルルーシュとレナードでも一度、二度ならば出来たとしても、それを永続的にする事は困難だ。
 しかしレナードと主任だけは別。

「そういえば主任。お前との共闘は初めてだな」

「それは当然でしょう。私はあくまで開発チームの長。
戦士ではありませんので」

「そうか。だが今は戦士になってもらうぞ」

「存じています」

 そう。この二人に息を合わせるなんて言葉はない。
 例えば人が自分の右腕を動かそうとする時に息を合わせるだろうか。タイミングを計るだろうか。そうではない。右腕とは体の一部。自分が動かそうと思った所に忠実に動く。
 レナード・エニアグラムと主任は一心同体などではない。主任とはレナード・エニアグラムという戦士をより完璧に作動させる為の部品、彼の一部。だからこそ、こんな離れ業も簡単にやってのけられる。

『謝罪しよう。正直言えば私は安心していた。
君一人だけならば障害にならないと。直ぐに倒せると。
それは私の慢心だった』

「そうか。それは残念だ」

 このまま慢心していてくれた方が楽だった。
 レナードとて自分の技量に自信をもっているが、出来れば全力のアーサー王とは戦いたくない。
 だが既に、遅い。

『騎士王の閃き。その身をもって知れ!』

「知らん!」

 二機が同時に消えた。
 エナジーウィングによる超高速移動。
 時間と言う概念が消えたかのような空間で二機は身を削りあう。

「やはり、強い」

 決して接近戦を挑んではいけない。
 あの男(アーサー)は接近戦において史上最強だ。間合いに入れば確実にこの命は刈り取られる。だから距離をとる。幸いアーサーは過去の人間。銃火器の扱いならばこちらに一日の長がある。

 スーパーヴァリスによる銃弾の嵐。
 それは一つ一つがサザーランドなどのKMFを破壊するだけの威力のある魔の豪雨。
 されどアーサーは容易く、それを超えてくる。

 正に別格。
 彼のビスマルクやマリアンヌですら及ばぬ規格外。
 史上最強の騎士王アーサー。伝説とはこれ程遠いものなのか。

 だが負けられないのだ。
 この身が帝国最強の印たるマントを羽織った瞬間から、レナード・エニアグラムから敗北は許されなくなった。そしてなによりも。

「過去の英雄が舐めるなよ。俺は現代の大英雄だッ!」

 騎士王がどうした。
 そちらが騎士の王ならば、こちらはブリタニア帝国に君臨した魔人。
 帝国に仇為す全てを叩き潰す最強の騎士。
 相手が神だろうと魔王だろうと、伝説の騎士王であろうと同じように叩き潰すのみ。

「アーサァァアアア!」

『最後は特攻かッ!』

 真っ直ぐにマーリンを突っ込ませる。
 スーパーヴァリスを投げ捨て、両手にはMVS。
 
『私に接近戦を挑むなど、愚行!』

 エクスカリバーの一閃。
 だがその前にマーリンは文字通り"消滅"した。

『なにっ――――――』

 驚きはアーサーのもの。
 マーリンは消えた。それもただ超高速で消えたのではない。
 ただ姿を消失させたのだ。つまり、これは。

『TAS! 下らぬ小細工を!』

 再出現したマーリンがMVSを振るう、が、それは簡単にエクスカリバーによって弾かれる。
 勝てるはずがない。技量云々より先ず機体コンセプトが違う。
 同じ第十世代とはいえ、ガウェインが圧倒的な近接戦闘力を重視したのに対して、マーリン・アンブロジウスは狙撃と射撃戦を特化させている。
 別に近接戦が出来ないわけではないが、全体的にガウェインに劣る。

 ガウェインが迫る。
 手にある武装はエクスカリバー一つ。
 嘗てはビスマルクの機体の主武装であるそれを構えたガウェインはさながら騎士王の体現。
 MVSを弾かれ武装を手放していては勝てる道理はない。
 本当に武装を手放しているのならば、だが。

『なっ!』

 アーサーが目を見開く。
 無理はない。何故ならアーサーは何も無い筈の真後ろから攻撃されたのだから。
 ヴァリスによる一撃はガウェインの肩を貫き、エクスカリバーを大地へと落とさせた。

「引っ掛かったな」

 にやりとレナードが笑う。
 ガウェインに攻撃したのは、先程マーリンが投げ捨てたスーパーヴァリスであった。
 
『まさかヴァリスを時限式で!?』

「ご名答だ」

 アーサーの言う通り。
 レナードは予め数秒後にスーパーヴァリスがオートで攻撃するようにセットしておき、それを放り投げたのだ。最近になってより磨かれたワイアードギアスによる直感力は、もはや数手先の未来を完全に予知する域にまで達している。だからアーサーが辿る軌道も正確に理解出来た。後はそこに攻撃するようヴァリスを投げてやるだけだ。
 しかし無論そんなことは数手先の未来が分かっていても出来る事ではない。第一ヴァリスを放り投げて正確にガウェインを攻撃できる位置に飛ばすなど、それだけで神業だ。少なくとも人間ではない。
 だが、だからこそ不可能という者は理解していない。常識がなんだ。常識的な人間がナイトオブラウンズにいる筈がない。ラウンズとは即ち人でありながら人を超えた能力を持つ者たちの巣窟。このレナード・エニアグラムも例外ではないのだ。だからこそ、こんな神業も鼻歌交じりにやってのける。

『エクスカリバーを奪ったからといって、いい気にならないでも貰おうかッ!』

 ガウェインが迫ってくる。マーリンにそれを避ける事は出来ない。
 あっさりとガウェインに組み付かれた。そのまま物凄いパワーでマーリンの機体が押しつぶされていく。

「馬鹿力を……!」

 どうにかして解こうとするが、マーリンのパワーでは無理だ。
 射撃武器を完全になくしたことで得られたガウェインのパワーの前には、ランスロットや紅蓮であっても及ばない。しかし、だからこそ。

「ルキアーノに感謝しないとな」

 マーリン・アンブロジウスに搭載された最後の武装を使った。
 その名はヘッドハーケン。ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーが愛機パーシヴァルに搭載していたラストウェポンである。
 マーリン・アンブロジウスの頭部から放たれたハーケンは、ガウェイン・ロイヤリティーの装甲を抉り弾き飛ばす。そしてマーリンは腰部に収納されたスナイプハドロンを構えた。

『撃つのか、マーリン。お前が私を――――!』

「撃つ」

 スナイプハドロンから飛ぶ赤黒い断罪の炎。それはガウェインを完全に貫く。それをレナードは眺めて。

「急ごう。黄昏の間に」

 黄昏の間へと機体を向かわせた。
 一刻も早くシステムを破壊しなければならない。



 まさか負けるなんて思っていなかった。
 だげ現にこうして自分は地面へと落下している。

「私は、まだ……!」

 必死に機体を動かす。激しい戦闘のせいか仮面は外れていた。
 だがそんなものはアーサーにとって如何でもいい。
 まだ己は敗北する訳にはいかないのだ。

「動け。動いてくれガウェイン!」

 果たして朋友はそれに応えた。
 右腕を失い胴体を抉られても尚、ガウェインは動いてくれた。
 嗚呼、やはり君は頼りになる。ガウェインのコックピットを撫でてアーサーは言う。

「すまんな、無理をさせる。サー・ガウェイン。
だが今暫くお前の命を私に貸してくれ」

 残った左腕でエクスカリバーを掴む。
 急ぎレナードを追わなければならない。計画を、ウォーレクイエムを完遂しなければならないのだ。その為にレナード・エニアグラムは邪魔だった。


 神根島の洞窟を抜け、やがて巨大な扉に辿り着いた。
 嘗て帝都ペンドラゴンやアイスランドの遺跡で見たものと同じ。
 黄昏の間へ通じる扉。システムの使い方は頭に入っている。あのC.C.というルルーシュの愛人だか恋人だかに教わった。

「黄昏の間、か」

 なんとなく懐かしい思いがこみ上げる。
 今までに二度ほど入った事があるが、一度目は皇帝シャルルが目の前で殺害され中を良く見るどころではなかった。二度目は良く見物していたが、この世界のものではないので自信がない。
 だがそれでも大まかなイメージは残っている。

「神に最も近い場所か」

 C.C.の話ではそこにシステムがあるという。
 魔導器R.R.
 シュナイゼルが研究者達に高いギアス資質を持つ人間の細胞を使って作らせたコードを宿すための媒体。Cの世界に働きかける為の鍵。
 だがそれ自体には世界を変える力などなく、言ってみれば膨大なエネルギーの塊に過ぎないとのこと。それよりも、それに接続された巨大なシステムを破壊すればいい。C.C>はそう言っていた。

 黄昏の間に至る。
 そこはやはりイメージ通りの場所だった。
 永遠に夜も朝も来ない。閉ざされた世界。
 果たしてそのシステムはあった。白い魔導器に接続されている巨大なシステム。あれさえ破壊すれば計画は終わる。マーリンの銃口をそこに向けようとして。
 背後からのエクスカリバーにより機体を貫かれた。

「な、に――――」

 気付けなかった。
 何故かは分からない。もしかしたら黄昏の間の外から投擲された為であろうか。
 いやそのような推測に意味は無い。唯一つ分かるのは、自らの愛機が力を失い倒れていっているという事実だけだ。
 それでもまだ右腕が動く。なんとかしてスナイプハドロンを構えシステムを狙うが、それすら何も無い空間に突如出現したブロックにより阻まれる。どうにかして退かしたいが、今のエナジー残量ではスナイプハドロンを撃てるのは恐らくあと一発。無駄撃ちは出来ない。
 
「総帥。ゼロが」

「なに?」

 主任に言われて画面を見る。
 するとそこには仮面をとったゼロが、素顔を露にしたアーサーの姿があった。
 手には黄金の剣。成る程、あれが彼の有名な。

 レナードは宿命のようにコックピットに用意しておいた武器一式と剣。
 そしてナイトオブワンの証である白いマントを羽織った。コックピットから降りる。
 黄昏の間に吹く風がやや肌寒い。
 

――――――――アーサーもレナードも、すべき事は決まっていたのだ。

――――――――騎士と騎士との最後の決戦。

――――――――雌雄を決するのは、やはり人の手によって。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.