とある魔術の未元物質
本編前に某不幸体質さんから一言
上条「いいぜ読者様。この小説に俺の出番がねえと思ってるなら、まずはその本当にふざけた幻想をぶち殺す!」
SCHOOL18 擦れ違う ストーリー
―――強い雨ほど長くは続かない
強いものほど長続きはしない。体力もそうだ。短距離走で全力疾走すれば50mでも疲れるが、マラソンならば50k近く走る事が出来る。長く続けるには全力を出しすぎない事が肝心であり、常に全力疾走を続けていれば必ず崩壊する。人生というのは適度にペースを落としたり休んだりすることが肝心だ。
垣根が一人でどっかに行ってしまった後、取り敢えずインデックスは当初の予定通りファーストフード店に来て、ただ待っているのも何なのでシェイクを三つほど注文していた。
「ていとく、遅いな」
三つ目のシェイクを食べ終わっても、垣根が来る素振りはない。
インデックスにとって垣根帝督は『特殊』な人間だ。インデックスに一年前……いやついこの間までの記憶はない。だが現在の同居人である垣根と、意識が覚醒した時に傍にいた、神裂とステイルと名乗った魔術師から聞くには、どうも自分にはイギリス清教が仕組んだ『首輪』というのがあり、一年ごとに記憶を失わなければ死んでしまうのだという。最初は信じられなかったが、自分の口の中に隠されていた『首輪』の存在を鏡で見せられては信じる他ない。
だがそれ以上にインデックスが悩むのは自分の記憶ではなく垣根のことだ。今のインデックスは嘗てのインデックスが垣根帝督にどういう風に接していたのか、どういう風に想っていたのか、全てを忘却してしまっている。けれど垣根は――――――本人に言えば否定するだろうが――――――そんな自分の為に日々頑張ってくれているのだろう。自分は全て忘れているというのに。
恐らく嘗ての記憶を、嘗ての想いを思い出す事は出来ないのだろう。
単なる記憶喪失や記憶封印ならまだ可能性はあったかもしれないが、自分に行われたのは『記憶破壊』だ。如何に『首輪』という根源を破壊しようと、殺された思い出は二度と蘇る事はない。死者が二度と生者に戻る事はないのと同じように。殺された幻想はもう二度と戻らないのだ。
けれど思い出も記憶も忘れてしまったけれど、垣根帝督に傷ついてほしくないと、悲しんでほしくないと思ったのは本当だった。それだけは今もインデックスの心の中にある。
「……………………」
戻ろう、そうインデックスは立ち上がった。
無性に嫌な予感がする。日本では風の知らせ、インデックスはシスターだから神の知らせとでも言うのが適当だろう。
会計に万札を放り投げて、そのまま店外に出ようとして、ボンッと丁度入店してきたツンツン頭の少年とぶつかった。
「ご、ごめんなさいなんだよ!」
「え、ええっ。なんでこんな所にシスターさんがいるんでせうか?」
ぶつかった少年が狼狽えていたが、先を急いだインデックスはさっさと店の外に出てしまった。思えばインデックスにとっての『不幸』はその少年の右手に『偶然』触れる事がなかったことで、少年にとっての『惨めったらしい幸運』とは少女の『歩く教会』に触れなかった事なのだろう。
あらゆる異能の力を消す『幻想殺し』を持つ上条当麻。インデックスの『首輪』を破壊する最も簡単な方法を知ることなく、インデックスは走り去ってしまった。
「カミやん、ぶつかったシスターさん相手にするなんて嬉し恥ずかし羨ましイベント感けてあらへんで。ここのウェイトレスさん、めっちゃ可愛い子おるんで」
「嬉し恥ずかしって。大体ぶつかった子の年考えろよ。あれに欲情したらロリコンだろ。それともお前はロリコンなんですか?」
「ロリが好きなんやちゃうで。ロリも好きなんやで〜」
訳の分からない事を言う青髪ピアスを放っておいて席に向かう。
するとそこには驚くことに巫女さんがいた。
「食い倒れた」
「………………えっ?」
物語は其々加速していく。
並列する二つの物語は交差せず、其々のストーリーを紡ぎ始めた。
「随分と気が早いな、第四位。
年増で短絡的だってのは救いようがねえ」
無数の原子崩しが直撃した筈の垣根は、土煙の中から全くの無傷で現れた。そう全くの無傷。自分の体にかすり傷一つつくどころか、服に汚れすらついていない。
「チッ、面倒くさい野郎だね未元物質。
そしてムカつくわ。私もね初対面でウザったい奴かぶち殺し確定なやつか判別つくけどさ、アンタはそん中でも格別だわ。格別にウザったいわ。
とまあ色々と言いたいことは山積みだけど、うざってェんだよォこの野郎ッ!」
五つの原子崩しが放たれた。
対する垣根は今度は受けようとはせず、風のようなものを発生させて上空へと飛び上がる。そしてそのまま重力による加速も追加して凄まじい速度で麦野沈利のもとへと落下していった。そして着陸。猛烈な速度で落下してきた衝撃で地面が抉れた。けれど凄まじい速度で落下した筈の垣根本人は無傷。もう一人、垣根の標的だった第四位の超能力者も無傷だった。どうやら垣根が落下してくる前に避けたらしい。
「成程、原子崩しを噴射させての高速移動か。応用性が効かねえ能力と思っていたが、少しは効くようだな。まぁ、それでも学園都市の頂点気取るには及第点ってとこだが……」
「ハッ! なに上から目線で薀蓄語ってやがる!
第二位、テメエは男誘ってる娼婦かっての。
超能力者なら口じゃなくて力で語れっつってんだよォオオオオオオオオオオ!」
「おい第四位の婆。第二位やら未元物質と。出来れば名前で呼んで欲しいもんだな、俺には垣根帝督って名前があるんだからよ」
「なら私も言わせて貰おうか、垣根帝督。
さっきから聞いてりゃ婆ババアとぶち殺すぞ餓鬼ィ!」
「年増扱いが嫌か?
そうかそうか。第四位は女の子扱いして欲しい訳か。
いいぜ、扱ってやるよ。しずりちゃん?」
「いいわ…………死ね糞野郎」
今までで一番巨大な原子崩しが放たれた。だが垣根はその場から動くことも、防御しようともしない。ただ黙って迫る原子崩しを眺めているだけだ。
一体どうして垣根帝督は躱そうとも防ごうともしないのか。その答えは直ぐに出た。
「なっ!」
「悪いな。既に『原子崩し』の逆算は終了してんだよ」
麦野沈利の放った、第四位が誇る『原子崩し』が消失した。
標的である垣根帝督に届く前に、跡形もなく。
「なにを、やりやがった……!?」
「俺の『未元物質』はこの世に存在しねえ物質だ。俺はそいつを引き出して操る力を持っている。ま、基本は電気を生成して操る第三位なんかと変わらねえ訳だが、重要なのは引き出している『未元物質』は本当にこの世界に存在しねえってことだ」
「まさか、テメエ。自然界の法則を――――――――」
「塗り替えた。世界ってのは異物一つで簡単に捻じ曲がる。未元物質だけじゃねえ。『未元物質』っていう未知の法則と接触したこの世の物質も、また未知の法則で動き出す。『未元物質』の混ざった空間、ここはテメエの知る法則の通用しねえ世界だ」
垣根が以前戦ったステイルなどは、垣根も知らない全く未知の法則を用いていたからこそ対処が難しかったが、幾ら強かろうと麦野沈利は超能力者、つまり垣根の知る法則を用いているに過ぎない。ならば十分に対応は可能だ。
「だが一口に『未元物質』つっても色々とある。例えば未元物質Aに接触した太陽光が殺人光線になったり、未元物質Bに接触した熱気が程よい温度に変わったりってな具合でな。何が言いてえかと言うとだ。お前の原子崩しは俺には届く事すらねえって訳だよ」
既に勝敗は決した。
麦野沈利が必殺とするのは『原子崩し』であり攻撃として頼みとするのも『原子崩し』だ。
逆に言えば『原子崩し』を封じられた麦野沈利に勝機はない。
「覚えておくといいぜ。超能力者の序列第二位と第三位との間には、第三位と無能力者以上の断崖絶壁があるってことをな。お仕置きの時間だぜ、しずりちゃん?」
「アレイスターに選ばれなかったスペアプラン風情が吼えるわね。
永遠の二番手が語った所で、滑稽なだけだってんだよ」
麦野沈利は、絶対的に追い込まれた筈の第四位は、余裕の同さで懐からヘッドホンのようなものを取り出し、それを頭に付けた。
そんな奇妙な行動をした麦野に、垣根は不審そうな顔をする。
「ふれんだぁ。もういいわ、やっちゃって」
麦野が予め繋がっていたらしい携帯電話で、誰かに連絡を取った。
恐らく相手は『アイテム』の構成員なのだろう。
『結局、麦野一人じゃ勝てなかった訳よ』
「あァ!」
『じょ、冗談冗談。それじゃあミュージックスタートな訳よ!』
瞬間、周囲にギィィという嫌な音が響いた。
まるで蝉が風邪声になったような喧しい音。
普通の人間なら鬱陶しいと感じただけかもしれないが、能力者の垣根にとっては。
「なんだ、こりゃ……」
演算が上手く出来ない。
まず間違いなくこの音のせいだ。
「キャパシティダウン。ま、上の連中が持ってきたもん何で詳しくは知らねえけど、能力者の演算を阻害する力があるんだとさ。
ってな訳でかぁきぃねぇくぅん、オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」
ちゃっかり姫神と青髪ピアスが登場しましたw
そして顔芸なテレスティーナと麦のんが同盟くみましたw
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