とある魔術の未元物質
SCHOOL63 暴力の 反対は
―――人生には、野心と同様に断念も重要である。
諦めると聞くと、マイナスなイメージを抱いてしまうかもしれないが時と場合によっては諦めない事が悪となりえる。諦めなければ全て成功する、と言う法則はこの世にはない。どうしも成功しないと分かった時、今までの苦労を水の泡にして諦めるというのは覚悟のいることだ。しかし諦めずに頑張った結果、より悪い結果になってしまった例は歴史上幾らでも確認できることだ。
世間一般でいう魔術師のイメージというのは、精々が不思議な呪文を唱えて火やら雷を起こす、というものだろう。しかし現実の魔術師というのは後方で詠唱してばかり、という者ばかりではない。ステイルのように世間的イメージに合致する魔術師もいるにはいるが、神裂のように世間一般のイメージとは逆に、刀を持ち剣術を操り戦う魔術師も存在するのだ。
そしてそういった肉体派の魔術師が使うのは身体能力を向上させる術式。あの神裂にしても聖人としてのスペックもあり、それを更に魔術で強化した時には一時的ながらも本物の天使と渡り合えるだけの能力を持っている。
劉白起。
原石と聖人の素養の両方を備えた怪物。
今まで彼は『原石』としての超能力と、『聖人』としての身体能力しか使っていなかった。これに魔術が加わる。それなりに魔術というものを身に刻み、多くの卓越した魔術師と戦ってきた垣根には、それがどのような事なのか想像出来た。
「どうしたってんだよ、おらァ!」
形勢は逆転した。
劉白起の蹴りが白翼に覆われた垣根に甚大なダメージを与える。経験した事のない出鱈目な力。未元物質の対応限界を超えた。空を飛翔した垣根が、猛烈な勢いで地面に落下していく。
「畜生が……!」
未元物質を生成し落下の威力を殺し、着地。
危なかった。もう少し未元物質を生成するのが遅れていれば、地面に激突しハンバーグになっていただろう。
「ていとく、大丈夫!」
インデックスが駆け寄ってくる。
それを垣根は手で制した。
「来るんじゃねえ、邪魔だ!」
焦る必要はない。
こういう事態は想定出来た。魔術サイドには魔神や聖人とかいう規格外な化け物どもがうようよしていて、それがインデックスを奪いに来るかもしれない。それを予期して、対策もしてきた。科学サイドの範疇外にある怪物と戦う為の術を垣根は身に刻んできた。
「superbus002」
「ていとく、それは!?」
十万三千冊の魔道書の知識を記録しているインデックスは、容易に垣根の放った言葉の意味に気付いた。そしてそのもう一つの名前が、どのような人間が名乗るものなのかも、同じようにソレを持つインデックスには簡単に分かった。
「出来れば使いたくはなかったが、そうも言ってられねえか」
これでインデックスは垣根が魔術を習っていた事を知ってしまっただろう。もはや誤魔化しようがない。戦いが終わった後も、五月蠅く説教されるのは想像に難しくはなかった。
しかしそうも言ってられない。全ての手札を使わなければ、負ける。
「其れは雷、轟き穿つ槍となれ」
魔術によって生まれた雷。流石に超電磁砲の10億Vには届きはしないが、それでもかなりの電圧の雷が飛ぶ。しかしそれは、劉白起の肌を焦げさせる事すらなく掻き消された。
「へぇ、どういった絡繰りか知らないが、アンタも能力者の癖に魔術を使えんのか? 反動で怪我ァした様子もない。どんな術式使ってるのやら」
「プライバシー保護の為に言えねえな」
本当は垣根もどういった理屈でこうなっているのかは知らないのだが、敢えてそう言った。
「駄目だよ、ていとく。魔術は危ない物なんだよ! しかも能力者が魔術を使うなんて、ていとくが危険なんだよ!」
「俺は危険じゃねえ。魔術を使っても何ともねえよ! だからテメエは大人しくしてやがれ!」
戦闘は自分の領分だ。インデックスに口出しされる謂われはない。
だが、これはどうも垣根の選択ミスだったようだ。如何に魔術の教えを受け、驚異的なスピードで魔術を身に着けていった垣根とてあのステイルなどの一流魔術師とは依然として大きな差がある。そんな付け焼刃の技術、戦闘補助ならまだしも攻撃面なら超能力の方が遥かに威力が高い。
(超能力だけじゃキツい! かといって魔術は充てにならねえ)
なら選択は一つ。
劉白起がやっているように、超能力と魔術を合わせる。一本の矢より三本の矢だ。一つの異能で足りないなら二つの異能を重ねてしまえばいい。だが――――――
(一体、どうやって?)
垣根が主に学んできた魔術は、どちらかというと治癒や解呪などである。雷などといった攻撃用の魔術は余り修得してはいない。
なにより独自の魔術なんて一朝一夕に作れるようなものではないのだ。それなりに研鑽を積んだ魔術師がそれなりの時間をかけて作るもの、それがオリジナルの術式というもの。無論、垣根帝督はそれなりの研鑽も積んでいないし、それなりの時間をかける暇もない。
「おいおい、そう面白くない顔するなって。直ぐに永久に表情を出す事が出来ない様に、してやるから」
絶句する。劉白起の周囲に合計七つ。前に喰らったやつより三倍のデカさと破壊力を誇るであろう斥力砲が存在を誇示していた。あれの三分の一でも垣根は防ぎきれず、右腕に皹が入った。ならばその三倍の七つ。63倍の破壊力が襲い掛かれば、如何に白翼で防御しようとも。
「何発耐えられるかな。俺は我慢強い奴は好きだぜぇ〜。最初の一発目ッ!」
「くっ!」
全力での未元物質の防御。
生成した白いノッペリとした防壁を幾つも展開し、自分の体も白翼で防御する。
十倍の威力の超電磁砲だろうと防げそうな防壁は、あの斥力砲を前に一秒も立たずに崩壊した。防壁で相殺された為、本体である垣根にまでは被害が及ばなかったが、相手の攻撃はまだ後六つもあるのだ。そして垣根に新たな防壁を生成する時間的余裕はない。
「二発目どーぞ!」
極限の緊張のせいか、それとも迫りくる死の塊のせいか。垣根の白翼が更に肥大化した。その翼で身を覆い隠し二発目の斥力砲を受ける。全身がハンマーで殴られたような激痛が垣根に襲い掛かった。見っとも無く絶叫しそうになるのを、垣根は超能力者としての矜持と男としてのプライドでどうにか堪えた。
どうにか命を守り通す事は出来たが、衝撃の余波で垣根は地面を転がっていく。どこか神々しさすらあった白翼は超大な破壊力の前に四散してしまった。
「これで終わりかな? 三発目ェ!」
(やべぇ。このままだと……!)
どうにかして再び白翼を噴出しようとする。
しかし遅すぎた。
どうにか出すことは出来るが、斥力砲は直ぐ目の前に迫っている。これに対処する術は垣根にはなかった。白翼は間に合わない。
死ぬ。絶対に死んだ。
走馬灯というやつだろうか。周りのモノ全てがスローモーションになったような気がした。スローモーション、本当にスローモーションになっているのならどんなに良いか。もしスローになっているのなら、この斥力砲を躱すことが出来るかもしれないし、白翼を展開し防御することも出来るかもしれない。だが生憎とスローモーションとなっているのは垣根の錯覚にすぎない。そして垣根がこれから死ぬというのも幻想ではなく動かしようのない現実で。
(下らねえ生涯だった、かもしれねえな)
超能力者の意地か、死を恐れ目を瞑るという事はしなかった。
だからだろう。斥力砲が垣根にぶち当たる寸前に間に入った純白のシスターを、垣根はしっかりと目に焼き付けた。
今回はラストがインデックスぅうぅぅぅうぅぅぅ! でしたねw
実に盾として定評のあるヒロインですw タテデックスと呼んで下さいw
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