とある魔術の未元物質
SCHOOL114 決 戦


―――困難な情勢になって初めて、誰が敵か、誰が味方顔をしていたか、そして誰が本当の味方だったかわかる。
自分が有利なときに人々が味方するのは自然である。誰しも優位な側につきたい。戦争でも、敗者になるより勝者になる方が億倍良いだろう。だが不利なときに味方するというのはメリットが少なくデメリットの多いことである。不利なときに味方してくれる者は情がメリットを超える真の味方だということに違いはない。或いは、不利と有利が逆転する事を知る知恵者か。









「あ、アンタ……あの時、第二位とか名乗っていた?」

 上条と一緒にいた御坂美琴が言う。
 そういえば第三位とこうして顔を合わせるのはこれで三度目になる。一度目は垣根も正体を名乗らずにいて、二度目はアックアを潰すのに言葉巧みに協力させた。そして三度目は敵。
 奇妙な因縁めいたものを感じずにはいられない。

「ああ、御坂美琴だったっけか? 『超電磁砲(レールガン)』。何時ぞやは助かったよ。あの糞ゴリラを撃退するのに役立った。……だが、ここにこうしてるのは頂けねえ。詳しいアレコレは知らねえが、こっちのサイドに関わっちまった不幸を呪ってくれ」

「ッ!」

「安心しろ、殺しはしねえ。全治三か月の重傷を負ってもらうだけだ」

 これ見よがしに垣根が手から赤い球体のようなものを出現させ、御坂美琴へと飛ばす。と、そこに横に割って入る者がいた。上条当麻である。
 上条が右手を翳すと、赤い球体はパリンッという音を立てて消滅した。魔術的法則も科学的原理もなにもない、問答無用の消滅。
 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、どうやら本物のようだ。

「…………どうしてテメエが俺の右手を欲しがっているかは知らねえ。学園都市の超能力者がなんでイギリスにいるのかも、クーデターに参加しているのかも馬鹿な俺の頭じゃ想像もつかねえ。9月30日にインデックスって子と風斬を助けるのに協力してくれたアンタが、御坂を躊躇なく攻撃したのも信じたくねえよ」

「9月30日? まさか上条当麻……お前、電話の」

「だけどな、こっちは人の命が懸かってんだ。それを邪魔するって言うなら、俺はお前に立ち塞がるッ!」

「人の、命だぁ?」

 怪訝に思った垣根が上条たちを観察していると、直ぐに上条が緊迫している理由を発見できた。
 軽い応急処置は施されているものの、重傷を負っているらしいレッサー。このまま放置しておけば、命が危ないだろう。
 上条はレッサーを一刻も早く医者や治癒魔術の使える魔術師に診せるために急いでいるに違いない。どうしてクーデター派に属するレッサーを、恐らく現体制派に属している上条が助けようとしているのかはイマイチ不明だが。

「…………あー、そいつを治してえのか? ならさっさとこっちに寄越せ」

 俺も焼きが回ったものだ、と垣根は自嘲する。

「どういう事だよ? こいつを口封じしようとしたのは、アンタの方じゃねえかよ」

 口封じとは初耳だ。垣根はそんな事は聞いていない。
 騎士派の一部の独断か、キャーリサが垣根に伝えずにいたかだろう。
 利用するだけ利用して、用済みに成ったら口封じ。実に学園都市らしいやり方だ。吐き気がする。
 
「俺を『奴等』と同じにするんじゃね」

「…………そっか。なら俺はアンタを信じる」

「ちょ、ちょっと。いいの!? こいつ見るからにクーデター側に参加してるっぽいのよ。10月9日の事件も初春さんが言うにはこいつの仕業らしいし……」

「複雑な裏事情は分からねえよ。だけど、インデックスって子が完全に信頼してた奴だ。たぶん根っからの悪人って訳じゃねえと思う」

 上条がレッサーを抱えて、垣根の所に連れて来る。そして垣根まで後5mというところで、レッサーを地面に下ろした。
 そのまま上条はレッサーから離れていく。不意打ちをする気はないと言う意思表示だろう。
 垣根は上条と入れ替わるようにレッサーに近付き、治癒魔術を施した。
 レッサーの傷が塞がっていく。荒かった呼吸が正常に戻る。まだ生命力の方は回復していないが、応急処置としては十分だろう。後はゆっくり休めば回復する筈だ。

「さて、と。この餓鬼の治療も終わった事だ。早速、本題に入ろうじゃねえか」

 気を取り直して、垣根が上条たちに相対する。
 これで彼等が是が非にでも急ぐ理由はなくなった。

「だがよ。ただ暴力に訴えるってのも理知的な人間のする事じゃねえよな。――――――だから警告だ。俺の実力はお前達を圧倒している。抵抗は無意味だ。大人しく降伏しろ。そうすりゃ手荒な真似はしねえでやる」

「余り……舐めないで貰えるかしら」

 ビリビリと御坂美琴の髪の毛から青い電流が唸る。
 情報によると第三位の『超電磁砲(レールガン)』の最大出力は10億V。並みの『電撃使い(エレクトロマスター)』を遥かに超越する火力だ。
 しかし垣根にとっては児戯に等しい。

「舐めてるんじゃねえよ。ただの事実だ」

 垣根の体から視えないほど極小の『未元物質(ダークマター)』が散布される。それはやがて周りの空間を丸ごと覆っていき、やがて御坂美琴の電撃は消滅した。

「嘘っ、電気が……」

「悪ィな、もうこの空間じゃお前は電気を扱えねえ。そういう様に俺が作り変えっちまった。っと、上条当麻。テメエの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を振り回そうと無駄だ。テメエの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は強力だが、その異能に触れなきゃ効果を発揮しねえんだろ? 俺の『未元物質』は砂の一粒よりも細かく空間全体に散布されている。右手一本でそれら全てを殺せはしねえ」

 一つ一つ、上条当麻と御坂美琴の選択肢を消していく。
 だが絶対に殺しはしない。
 最悪の場合、キャーリサのクーデターが成功しイギリスを支配したとしても、インデックスの『首輪』をとる為の鍵が見つからないという可能性もある。その時の為に、『首輪』を強引にでも破壊できる手段としての『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はとっておく必要があった。

「そんなに俺の右手が欲しいってなら、いいぜ。相手になってやる、垣根帝督!」

 上条当麻が吼える。
 二人の激突が始まった。



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