とある魔術の未元物質
SCHOOL137 弟 達


―――人間いつかは終わりがくる。前進しながら終わるのだ。
前向きさ。得てして美徳と見えてしまう「前向き」さでるが時としては仇となる事もある。どこまでも「前向き」という事は過去を捨て去ってしまう事でもある。だからこそ「過去」に躓いてしまう。けれど一生それを貫き通したのならば、そこに意味がある筈だ。











 同じ顔の人間が世界に3人はいるという。
 けれど今垣根の目の前にいるのは3人の同じ顔ではない。30人の全く同一の顔だ。
 
「……まさか認識錯覚系の超能力?」

 垣根の知る限り木原数多は能力者ではない。
 しかし木原数多は能力開発についての知識なら有数の権威でもある。独自で自分の脳味噌に超能力の開発を施すことは可能だろう。

「あ? 違ェよ。そうじゃねえよ。モルモットはテメエらのような餓鬼どものお役目だろうが。まぁ、俺も今じゃモルモットがなんだって言えねえんだけどよ」

 30人の木原数多が同時に動く。
 一切の乱れもなく同時に。まるで30人が別々の思考を持つ人間ではなく、30人全てが一つの巨大な脳味噌のネットワークのように見える。

「話すと長いんだがな。正確に言やぁ俺は『一方通行(アクセラレータ)』を開発した研究者の『木原数多』じゃねえんだわ」

「まさか、クローンか!?」

「大正解だぜェ。流石は第二位、ムカつくほどお頭の回転は良いですってか」

 倫理的な問題はさておき、学園都市の科学力なら出来ない話ではない。
 絶対能力進化実験では第三位御坂美琴のクローン二万体を量産するなんて無茶苦茶をやってのけたのだ。そのクローンは超能力においてオリジナルの1%程度の能力しか持っていなかったそうだが、身体能力においてはオリジナルと堂々、或いは凌駕した個体もいたという。
 ならば超能力者ではない死者のDNAを使い、疑似的な死者蘇生をするのは十分可能なことだ。

「学園都市にとって木原数多のオリジナルってのは随分と評価されてたみたいでよ。特に特殊な技術や異能を使わずに一方通行をボコしてやったってとこがな」

(一方通行を?)

 一方通行の反射の膜は鉄壁だ。自分自身にとって有害なものを問答無用に反射してしまうように設定されている為、全盛期には暗殺すら無意味なものであった。
 垣根の未元物質でもなければ反射の膜を突破するのは不可能なこと………そう思っていたが、違うのだろうか。

「たっくテメエ等が学園都市のお偉方の意向を無視するように好き勝手暴れちまったせいで、俺とした事が棺桶から叩き起こされっちまったってわけだ。だからよ、死んでくれねえかな? 生意気な餓鬼に現実の厳しさっつぅやつを教えんのは嫌いじゃねえんだけどよ、俺としちゃ早く一方通行ちゃんの顔面を滅茶苦茶にしたいわけなんだわ」

「なら俺からじゃなくて一方通行の野郎から殺してくりゃいいだろうが。俺と違ってあの野郎は学園都市にいるだろうが」

「ん、おぉ。そうかそうか! テメエは知らねえよなぁ。一方通行の野郎、なにをトチ狂ったのかクローンの餓鬼を連れて逃亡中なんだよ、このロシアにな」

「!」

 一方通行がロシアにいる。自分と同じこの大地に立っている。
 脳味噌の隅々に怒気がしみこんでいるが今は駄目だ。一方通行にリターンマッチするよりもインデックスの遠隔制御礼装の方が先決。唯でさえフィアンマという怪物と闘おうというのに、一方通行なんて怪物とまで戦ってはリスクがデカくなる。

「…………だったら俺は忙しいんだ。見逃してやるから一方通行の野郎をぶち殺して来いよ。その後で幾らでも相手してやる」

「そぉいう訳にもいかねえんだよな。絶対能力進化実験で妹達(シスターズ)が上の指揮下から離れて独断行動をしちまったことを上層部も反省してなぁ。俺がちょいとでも怪しい動きを見せりゃボン!ってことよ」

 頭をコンコンと叩きながら言った。
 相変わらず学園都市のやり方というのは性に合わない。木原数多がどれだけ初見で糞野郎と分かる下衆だとしても、頭に爆弾を埋め込まれたまま生活する境遇に多少の同情心すら覚えた。

妹達(シスターズ)にちなんで弟達(ブラザーズ)だってよ? 笑えるだろ、おい」

木原弟達(キハラブラザーズ)かよ。活かした名前じゃねえか。だけど三十人兄弟じゃ大変だろ。俺が間引いてやるよ」

 一方通行相手に戦功をあげただか何だか知らないが、木原数多は所詮ただの人間。三十人いようと百人いようと垣根の敵ではない。
 そう思っていた。

「甘ェんだよ! この糞餓鬼っ」

 ロシアの大地に聞きなれた嫌な音が轟いた。
 耳を抑える。コレの対策に耳に未元物質を常時潜ませておいたのだが、この音はそれを安々と超えて伝わってきた。

「キャパシティダウン。テメエが耳に『未元物質(ダークマター)』を潜ませてるっつぅ情報は得てんだよ。そして俺は単なるクローンじゃねえ。対超能力者討伐用に改造された……謂わば改造木原(キハラ・サイボーグ)だ」

 成程。音の発生源は三十人の木原数多の体内からだ。
 従来のキャパシティダウンは大型のものばかりだったが、技術というのは進歩するもの。キャパシティダウンの小型に成功していたのだろう。

「だが、幾らキャパシティダウンでも『未元物質(ダークマター)』を潜ませた耳を素通りするってのはどういう寸法だ? …………いや、ああそうか。畜生、自分の手で自分の首を絞めちまったのかよ」

「思い至ったか? 垣根帝督、テメエはよ。以前に学園都市の研究に協力したことがあっただろうが。大能力者までの失敗者までは兎も角、超能力ってのは物理法則を無視した現象を再現するほどの代物だ。なら超能力で作られた科学ってのは単純な科学力じゃ再現不可能なもんになる。特にテメエの『未元物質(ダークマター)』は特別だ。なんたって正真正銘、本当にこの世に存在しない物質を生み出してるんだからな。その未元物質で作られた兵器がEqu.DarkMatter。なにやら女を連れて愛の逃避行してる無能力者のゴミ相手にもこいつを装備した兵士が派遣されてるそうだ」

「サイボーグは伊達じゃねえってことかよ。つまりテメエは俺の未元物質によって鍛え上げられた兵器であるEqu.DarkMatterを埋め込まれた玩具ってことか」

「他にも面白可笑しいウェポンが満載だけどな。はぁーあ、俺は餓鬼の体を弄るのは良いんだが弄られるのは趣味じゃねえんだよ」

「因果応報じゃねえのか」

「おいおい、知らねえのかよ。世の中で一番重い刑罰って死刑だろうが。つまり人間ってのは百万人殺そうと死刑になれば全部許されっちまうんだよ。お勉強が足らねえぞ、第二位っ!」

 木原数多の体から発せられる未元物質により垣根の耳に潜ませた未元物質が無効化され、結果的にキャパシティダウンの影響をモロに受けてしまった。
 つまり垣根にとって最大の武器である超能力が封じられたという事。

「じゃあさっさと死んどけや」

「断るッ!」



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