これでギルバートと戦うのも通算で何度目になるだろうか。
 エール、ランチャー、ソード全てのパックを同時換装したストライクに乗り込んだミュラーは、頭の中で赤い彗星との交戦記録を数える。
 ミュラーの記憶が正しければ、初邂逅は世界樹攻防戦の時だろう。あの時はまだミュラーも英雄≠ナはなく搭乗機もMSではなくMAのメビウスだった。
 確か最初の戦いはお互いに弾切れで引き分けという結果に終わったのだった。なにが気に入ったのか戦いが終わった後でデュランダル側が通信を入れてきたことは鮮明に覚えている。

「それから新星でもパナマでも――――ここにまで粘着されるなんてね。因縁すら感じるよ」

 魅力的な女性に追われるならまだしも、敵国屈指のエースパイロットに命を狙われるなど嬉しくもなんともない。
 この辺りで因縁を解消しておきたいところだが相手がそう安々と解消させてくれるとも思えなかった。寧ろ敵の実力を鑑みれば負債を払うのはこちらになるかもしれない。

「ハンス・ミュラー、ストライク出撃する」

 予定調和の如くイアンに艦長職を放り出すと、ミュラーはストライクと共に宇宙へ飛び出した。
 レーダーに反応。合計で三。
 思ったよりも少ない数だ。予想だと5、6はあるかと思ったが……。もしかしたらオペレーション・スピットブレイクの一件でザフトの人材が足りなくなり、精鋭部隊からベテランが引き抜かれたのかもしれない。だとしたらミュラーとしては嬉しいことだ。
 だが気になるのは反応の中に一つだけある『UNKNOWN』の文字。UNKNOWNということは連合の情報にないMSが接近しているということである。連合に情報のないMS――――つまりゲイツやシグーなどではない。

「――――あれは!」

 そして近付いてきたUNKNOWNの姿を見たミュラーの目は大きく見開かれた。
 胴体と四肢を染め上げる真紅の塗装。ストライクのエールパックのように背中に装備された機械の翼。そしてなによりも闇夜に煌々と輝くツインアイ。

「ガン、ダムだって……?」

 未だ嘗て見た事のないタイプのガンダムだ。ストライク、イージス、バスター、ブリッツ、デュエルなどの初期GATシリーズとも、ガラミティなどを始めとする後期GATシリーズでもない。
 外観の印象としてはイージスに近いといえるだろう。だがそのMSから漂ってくる抜き身の刀の如き鋭利さは比ではない。

『ハンス・ミュラー、お前はここで討つ。俺と……このジャスティスで!』

 UKNOWNのパイロットの思念がミュラーの中に流れ込んできた。
 どうやらあのMSの名前はジャスティスというらしい。にしてもジャスティス――――正義とは随分とシンプルな名前をつけたものだ。
 ジャスティスはミュラーのストライクを見咎めると一目散に向かってくる。随分と恨まれたものだ。心当たりはあり過ぎて検討がつかないので苦笑するしかない。

「フラガ少佐」

『なんです?』

「あの赤いガンダムは私が担当する。他は全て任せた」

『赤い彗星とフェイスのハイネを? まぁ数ではこっちが上ですけどね。ナインとキャリーいるし』

「以上だ。通信終了」

 フラガがミュラーと同じニュータイプ≠セというのならば、ギルバート・デュランダルとも互角に戦えるはずだ。
 デュランダルもニュータイプであるという証拠はどこにもない。そうだといえる根拠は一つだけ、ミュラーの直感だけだ。だがニュータイプは常人よりも遥かに感受性の高い新人類。直感は大いに信用できる。そしてニュータイプには同じニュータイプだ。

『はぁぁぁああッ!』

 ジャスティスがビームサーベルを抜くと切りかかってくる。この行動から察するにジャスティスは近接格闘戦に優れたMSなのかもしれない。
 ストライクも対艦刀を背中から抜くとビームサーベルを受け止めた。

「ぐっ……!」

 受け止めた、のだがジャスティスの斬撃が重い。技量云々以前にジャスティスの膂力が、機体パワーが途方もない。
 パーフェクト・ストライクは改修により後期GATシリーズ並みの性能はもっているのだが、それよりもジャスティスは上だった。単純な機体パワーならストライクの数倍はある。

「こんなMSをいつのまにザフトは開発したんだ。……呆れたくなる」

 ガンダムが奪取されて数か月でガンダムに匹敵、或いは凌駕するほどの量産型MSを開発したこともそうだし、このジャスティスも然りだ。
 ジャスティスはゲイツのような量産型ではなく特別なスペシャル機のようなのでウジャウジャと湧き出るなんてことはないが、これほどの性能にエースパイロットを乗せれば一騎当千の活躍をするだろう。
 これほどのエネルギーを獲得するのにどういうトリックを使っているか気になるところではあるが、

「沈んでもらう」

 今は目の前の敵を倒すことがなによりもの優先事項である。
 ビームサーベルの攻撃を丁寧に受け流しすつつ、ジャスティスの腹を蹴り飛ばしその勢いで距離をとった。

『こんなもので……っ!』

 PS装甲があるジャスティスに蹴りなんていう物理攻撃は意味がない。だが

「これでも喰らえ! ビーム攻撃」

 ビームライフルを取り出すとビームを連射する。ジャスティスはシールドで防いでいるが、それは逆に避けられていないという裏返しでもある。
 ニュータイプの力を完全に自覚≠オたからだろうか。今まで以上にストライクを扱いきれるようになった。いや扱いきるという表現は適切ではない。もはやストライクの反応速度が鈍い。ストライクではミュラーの実力を扱いきれていない。

「ちっ! このまま、いけ!」

 止めと言わんばかりにアグニの砲撃を発射する。
 ジャスティスの側もこの一撃を受けるのは絶対的に不味いと悟ったのだろう。寸でのところでアグニを回避すると強引に突っ込んできた。
 その選択は正しい。ジャスティスは近・中・遠の全てで高い性能を発揮する万能型であるが特に近接に秀でている。ならば多少の出血をしてでも近接を挑むべきなのだ。

「ちぃ!」

 流石のミュラーもジャスティスと接近戦はやりたくない。
 エールのバーニアを吹かせて離れようとするが、スピードはジャスティスの方が完全に上回っている。ビームの弾幕では完全には勢いを殺すことが出来ない。
 仕方なしに対艦刀を抜き、応じようとした所で。

『――――――』

 ピタリとジャスティスの動きが止まったかと思うと、突進してきたのと同じ速度で逆に距離をとっていく。
 その不可解な動きにミュラーは良からぬ思念を感じた。




『デュランダル隊長、ジャスティスがどうも整備不良のようで……ビームサーベルが機能してくれません』

 アスランからの通信を受け取ったデュランダルは「そうか」と返しつつ微笑んだ。
 デュランダルのゲイツのモニターにはキャリーとナインのロングダガーが戦闘続行困難なダメージを受け、一時的にアーク・エンジェルに戻るところが映し出されていた。二機にそのダメージを与えたのは他ならぬデュランダルである。

(これでいい)

 ナインとキャリーは比較的ミュラーと近い位置にいる。あの二人を殺してしまっては話を持ち掛けるどころではなくなってしまう。だから死なずに一時的にこの場から立ち去らせる必要があった。
 デュランダルが用があるのはニュータイプである二人だけなのだから。
 
「ジャスティスは元々エターナルでの運用が前提とされたMSだ。通常の戦艦ではその動力の整備もままならん。こういうことは十分に起こり得たことだ。
 アスラン、君は一度艦に戻りたまえ。無理をしてジャスティスが鹵獲されましたでは冗談にもなりはしない」

『……了解』

「ハイネ、君もアスランに付添え。武器が使えないジャスティスでは万が一がある」

『隊長はどうするので?』

「私は殿をする。ただ逃げては悪魔に後ろから撃ち殺されそうだからな」

『無茶です。そういう危ない仕事は部下に任せて貰いたいですね。俺だってフェイスなんですよ』

「君の実力を過小評価してるわけではないよハイネ。だが私は君よりも強い。だから私が殿を担当すると言った。はっきりいってジャスティスは私の命より重いのだ。頼まれてくれるな?」

『……ご武運を』

 ハイネはそれだけ言うとジャスティスと共に艦に戻っていく。
 総て予定調和だ。ジャスティスの整備不良もデュランダルが予め仕込んでおいたものだ。これで、

「何度目ぶりかな。ハンス・ミュラー、世界樹でも自己紹介したが改めて。私はギルバート・デュランダルと言う」

 通信ではなくニュータイプの思念を飛ばす。今のミュラーならこれで分かるはずだ。
 その証拠にストライクが僅かに警戒に身を震わせた。 



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