つい先日、俺は駒王学園四大お姉様の1人であるリアス・グレモリー先輩に勧誘され、人間から悪魔に転生した。俺が規格外な能力や複数の神器―――特に神滅具を保有していたからこそ、勧誘してきたのだろう。
悪魔も呆れさせる程の規格外な元人間。それが俺――兵藤一誠だ。が、そんな規格外の俺も悪魔としては新人であり、グレモリー眷属では同日に悪魔に転生したアスナ、黒歌、白音と一緒で下っ端なんだ。
そして、下っ端である俺達の初仕事は、人間との契約時に必要なグレモリー眷属召喚用の魔法陣が描かれたチラシを配ることだ。
チラシ配りの方法には、街頭のティシュ配りの様な配り方と、新聞配りの様なポストに入れるやり方がある。野郎の場合、前者は取ってくれる確率が低そうなので、俺は後者の方法を選んだ。
ってか、1人当たり契約用チラシ配りのノルマが、段ボール箱4箱分って普通じゃ有り得ないよな。まぁ、今の俺やアスナ、黒歌、白音は普通とは縁遠い悪魔なんだけど。
チラシ配りは2日で終わらせてやった。エターナル生還者である俺の身体スペックは、人間の時でもアインクラッド完全攻略時のアバターと同等以上。それに眷属化の影響で更に身体スペックが上がっているんだ。その位は造作でもない。
そうそう。グレモリー眷属内でも身体スペックがずば抜けていることもあったんで、アスナや黒歌、白音のノルマも手伝ったりもした。最終的な配布量は俺が11箱、アスナ1箱、黒歌&白音2箱ずつだ。
アスナは神器持ちとはいえ、ついこの間までは未覚醒状態の一般人だったんだ。段ボール1箱分のチラシを全て捌けただけでも十分だと思う。ってか、規格外な俺や妖怪の黒歌&白音と比べること自体がおかしい。
チラシ配りが終われば、次は本格的な悪魔の契約取りだ。正直な話、外回りのサラリーマンと大して変わらない気がしてならない。
最近の悪魔契約はリアス部長曰く、命を対価とする様なものは殆ど無いらしい。簡単な願いを叶え、その対価として物品を貰うのがスタンダードだとか。
俺達が悪魔になって既に1週間が経っている。俺にも数人だが固定契約者ができた。主にネットゲーマーで、契約内容はMMORPGの強くなるコツとかだけど……。そういえば、俺がSAO事件を解決した紅の剣士、イッセーだと知れた時はサインを求められたな。
アスナは主に恋愛相談などで悩んでいる思春期の女子中学生に呼び出され、黒歌は男に貢がせる職業の人に呼び出されることが多い。
白音は子供服デザイナーや変態紳士に呼び出される。変態紳士は対象に手を出すことを禁忌としているらしいので、心配はなさそうだ。
兎に角、この1週間で新人悪魔の俺達にも少人数だが固定契約者ができ、それだけには止まらず各人が着実に契約数を増やす為の鋭意努力を行っていた。
俺の経験上、これが2度目の悪魔生になる訳なんだが、荒れることもなく順調に進み、初の悪魔生であるアスナや黒歌、白音も同じく順調だった。
そして、悪魔になってから2度目の日曜日。チラシ配りが無かったこともあり、日中に俺とアスナは悪魔になってから初のデートを行った。夕方以降は悪魔の仕事があるから、デートできるのは日中くらいしかないんだ。
ちなみに悪魔になってから初のデートと言っても、人間の時と何も変わりはしない。2人で映画を見て、雰囲気のいい店で昼食を食べ、ショッピングを楽しむ。そんな何処にでも有り触れたデートだ。
アスナと悪魔になってからの初デートをしたそんな日に、俺はある少女と運命的な出会いを果たした。俺とアスナがショッピングを終え、一度帰宅する為にショッピング街近くの歩道を歩いていると、ひったくり事件に遭遇したんだ。
外人の少女と思しき悲鳴と、旅行鞄を手に俺とアスナのいる方向に走ってくる見るからに小悪党な顔をした男。
男がひったくりで、悲鳴の少女が被害者なのは一目瞭然だ。小悪党は「どけー!」とか叫びながら俺とアスナの方に向かってきたが、それがその男にとっての不運だった。
俺はアインクラッドで使っていた体術スキル『エンブレイザー』と同様のモーションで攻撃し、小悪党を悶絶させた。当然のことだけど、殺さない様に手加減はした。が、手刀で肋骨の間から肺を強打した。そのせいで小悪党は悶絶した訳なんだが……。
小悪党を確保した場所が人通りの少ない場所ではなかったこともあり、すぐに警察官が来てくれた。この時、念の為に俺が犯人を動けない様に取り押さえ、アスナにはひったくられた旅行鞄を確保して貰っていた。
俺達の所には警察だけでなく、ひったくりの被害者と思しき金髪の外人美少女も一緒にやって来た。警察に犯人の身柄を渡し、被害者の少女に旅行鞄を返すと、近くの交番までの同行を求められた。
当然と言えば当然の成り行きだ。俺とアスナは犯罪の現場に居合わせた上、犯人を確保した当事者。外人美少女に至っては被害者だ。事情聴取されるのは当然だな。が、ここで1つ問題が発生した。外人美少女は日本語が話せなかったんだ。
俺とアスナは悪魔化したことで世界各国の言葉を理解し、話せる様になっているから問題ない。しかし、警察官と外人美少女は意思の疎通ができずにいたんだ。俺達の住んでいる所は日本語が全く話せない外人が来ることは滅多にない所だからな。
取り敢えず、この問題については俺とアスナが通訳をすることで解決した。事情聴取は10分程で終了し、この事情聴取の時に金髪美少女の名前を知ることができた。
金髪美少女の名前はアーシア・アルジェント。この町の教会に赴任することになった修道士らしい。
事情聴取を終え、交番を後にした直後、俺はアーシアを見て2人の人間を思い出した。1人は前々世の相棒で愛した女性、ロゼット・クリストファ。性格は真逆だろうが、金髪と修道士という2つの共通点から彼女を思い出したんだ。
もう1人は同じく前々世の人間で、修道士見習いだったアズマリア・ヘンドリック。彼女は銀髪で髪の色こそ真逆だが、アーシアの容姿や雰囲気はアズマリアを髣髴させた。
……っ!駄目だな、俺は。前世は捨てることもできないけど、囚われ過ぎるのも良くない。俺は今世を生きている。……分かっているつもりでも、何かの拍子で前世のことを思い出して悔やんでしまう。これは俺への罰なのかもしれないな。
俺が前世のことを思い返していると、アスナが心配そうな顔で俺を覗き込んできた。どうやら俺はかなり微妙な顔をしていたみたいだ。俺は苦笑を浮かべながら大丈夫だと言うが、アスナは心配そうな顔のままだ。
くっ!彼女にこんな顔をさせるなんて彼氏失格じゃないか。何かしらの話題を持ち出すとかしてこの場の雰囲気を変えないと、アスナは俺を心配したままになるぞ。
「そ、そういえばアルジェントさんは、この町の教会に赴任してきたんだっけ?」
「はい。あっ、私のことはアーシアと呼んで下さい」
「いいのか?それじゃあ、俺達もちゃんとした自己紹介をしとこうか。俺は兵藤一誠。イッセーって呼んでくれ。そして、こっちが―――」
「私は結城明日奈。アスナって呼んで」
「はい!イッセーさんにアスナさんですね」
名前で呼んでほしいと言われた以上、こっちも名前で呼ぶのをOKするのが筋ってもんだよな。それにしても、アーシアは何で嬉しそうなんだ?名前呼びをOKしただけなのに。
「アーシアは教会までの道順とか知ってるの?」
「あっ、その……。すみません、分からないです」
「え?それじゃあ、どうしてさっきの交番でついでに道を……。あぁ、言葉が通じなきゃ聞きようがないか」
アスナの質問に返答したアーシアの言葉に、俺は一瞬呆れたが、すぐに理由を把握した。まぁ、この町に教会は1ヵ所しかないから、俺とアスナでも案内できるだろう。
一応、俺とアスナ、黒歌、白音は全員が『文珠』を3つずつ消費して聖・耐・性を得ている。流石に、オリジナルの聖剣が発する聖なるオーラは完全無効化することができないが、聖水や十字架程度なら完全無効化できる。
だからこそ、俺とアスナは教会に近付くことができる訳なんだが、俺の記憶が正しければこの町の教会は――――
「でも、変ね。確か、この町の教会は10年位前から閉鎖されてるのに。使われなくなってから建物そのものが老朽化して危ないから、今は立ち入り禁止になってる筈なんだけど……」
「やけに詳しいな、アスナ」
「小学校の時の友達にクリスチャンがいたの。ここの教会が閉鎖されてからは、隣町の教会に行ってるって聞いたことがあったから。老朽化については教会の入り口前にフェンスの仕切りがあって、そこに書かれているのを見た記憶があるの。
私が退院して少し経った位の頃だから、フェンスを見たのは3月中旬だと思う。あの教会は結構大きかったから、リフォームや建て替えをするとしても2、3ヶ月じゃ無理だと思うんだけど」
確かに。一軒家のリフォームでも、大規模なものになればリフォーム完了までに4、5ヶ月から半年以上は掛かる。立ち入り禁止レベルまで老朽化していた建物のリフォームや、建て替え工事となると1年以上掛かってもおかしくない。
「アーシアが赴任する教会はこの町にあるので間違いないのか?隣町とかじゃなくて」
「え?は、はい。間違いないと思いますが……」
「アーシア。言い難いんだけど、実はこの町の教会は10年位前から閉鎖されてるの。それに、今じゃ建物の老朽化の影響で立ち入りも禁止されてるの」
「そ、そうなんですか!?」
俺の質問にアーシアは自信無さ気に答え、アスナから伝えられた真実に驚愕していた。どうやら、この町の教会が閉鎖されていることを本当に知らなかった様だ。
「普通の一軒家でも、リフォームに数ヶ月以上の時間は掛かるもんだ。それが教会ともなると、どの位の時間が掛かるもんなんだ?」
「詳しくは私にも分かりませんが、10年以上も閉鎖されてたとなると、教会堂の修繕にも数年は掛かるかと……」
「やっぱり隣町の間違いじゃないかな?そうじゃないと、赴任先を伝えた人の嫌がらせとしか思えないんだけど……」
「あっ……」
俺の質問に困った顔をしながら答えるアーシア。教会関係者と言っても教会の修繕にかかる時間とかは流石に分からないらしい。そして、再びアーシアに赴任先を確認するアスナ。
アスナが確認の際、教会に属する聖職者がするとは思えない可能性を口にすると、アーシアは思い当たる節があるらしく、声を出した後に顔を俯かせた。
「……取り敢えず、立ち入り禁止になってる教会に連れて行く訳にもいかないし、今日は俺の家に来るか?」
「……え?」
「赴任ってことで来てるなら、アーシアも旅費とかそんなに持ってないだろ?老朽化してる様な建物に寝泊まりさせるのも危険だし、俺の家なら和室だけど爺さんが使ってた部屋が今は空き部屋だから何とかなる」
「そ、それはイッセーさんの御家族にご迷惑をお掛けすることになるのではないでしょうか?」
「うちの両親は身寄りのない姉妹を養子にする位のお人好しだ。そんな両親だから2つ返事でOKしてくれるさ」
「で、でも―――」
「日本は比較的に治安のいい国だが、犯罪が起こらない訳じゃない。アーシアの手元にある資金もいずれは尽きる。そうなったら野宿以外の選択肢が無くなるぞ。女の子が野宿をして、何かしらの犯罪に巻き込まれたとしても文句は言えない」
「う、う〜……」
アーシアは俺や俺の家族に迷惑を掛けたくないという思いがあるのだろう。が、俺が言っていることもまた正論だ。正に板挟みという奴だな。涙目で俺を見ながら唸っている。
「俺らが出会ったのも偶然じゃないだろうし、修道士なら人の厚意を無碍にすべきじゃないんじゃないか?」
「……そ、それではイッセーさんのご厚意に甘えてもいいですか?」
「こっちから言い出したことだし、是非もないよ。あと、赴任の件についても調べてみようか。一応、この町の管理者の身内と知り合いだし」
「えっ!?そんなことまでして頂いていいんですか?」
「別に構わない。まぁ、あまり期待されても困るけど」
「何から何まですみません。ところで、この町の管理者というのは市長さんの様な方ですか?」
「いや、そういった国から任された責任者じゃないな。お金持ちでこの町の発展に色々と協力してる出資者ってところかな?つまり、変な言い方をすればこの町の影の権力者ってところだ」
「か、影の権力者ですか?」
俺が言った単語に表情を曇らせるアーシア。マフィアやギャングなどを連想しているのかもしれない。勘違いは訂正しておかないといけないな。
「別に悪い意味じゃないぞ。出資者として色んな所に顔が利くから、アーシアの件みたいな情報も集め易いし、色々と融通を利かせて貰えるってだけで、それ以外は善良(?)な市民だ」
「そうなんですか。疑ったりしてすみませんでした」
「いや、俺に謝られても困るんだけど………。兎に角、その人の身内が俺の通ってる学校の生徒で、しかも俺が所属してる部活の部長だから、アーシアの件を調べて貰える様に頼んでみるよ」
俺がそう言うと、アーシアは頭を深々と下げながら、「お願いします」と言ってきた。アーシアの件は、天使や悪魔といった裏事情に関係してそうなことだから調べる訳でもあり、純然にアーシアの為という訳でもないので心が痛む。
取り敢えず、アーシアとの会話が終了した後、俺はアスナと一緒にアーシアを連れて自分の家に戻った。家に戻ると丁度母さんが居て、アーシアの事情を説明すると予想通り2つ返事でアーシアの滞在を許可した。
そして、母さんがアーシアを部屋に案内している間に、俺はアスナと共に自室に戻り、携帯で部長に電話をした。そう、俺がアーシアに説明した管理者の身内とは部長のことだ。実際は部長が裏世界におけるこの町の責任者なんだけどな。
教会の件やアーシアに説明した部長の嘘設定も含めて電話越しに話すと、部長に呆れられた後に軽く説教された。説教の内容は、「教会関係者に関わるとはどういうことだ」といった様なもんだ。
が、教会の件は放置できる様な内容ではなく、また少し前に俺と間接的ではあるがアスナが、堕天使に襲われたことも何か関係しているかもしれないということもあり、説教はすぐに終了した。
そして、会話の最後に悪魔が教会関係者を保護するなんてナンセンスだが、兵藤家の兵藤一誠という個人が、アーシア・アルジェントという個人を保護することについて黙認すると言われた。
俺の家に到着するまでの間、他愛もない会話をしながらも俺はアーシアの人間性を観察していた。はっきり言って彼女は悪魔祓いではない。これは断言できる。修道士だがロゼットの様なタイプではない。どちらかというとアズマリアの様なタイプだろう。
アーシア・アルジェントは教会関係者だが、基本的に人間や人外に拘らず誰かが傷付くのを嫌うタイプである。短い時間ではあるが、他愛もない会話からもそういった彼女の本質を察することはできた。
無論、例外も存在するだろう。かつて純粋な悪魔であった俺を受け入れた地上代行者のアズマリアですらアイオーンという存在を受け入れることができなかった。
俺には分からないが、アーシアにもアズマリアにとってのアイオーンの様な、受け入れることのできない存在がきっといる筈だ。
取り敢えず、俺がアーシアから感じ取れた人物像を伝えたことも、部長が保護を黙認した一因だと思う。あとはアーシアが教会から追放された存在である可能性も考慮しているのかもしれない。
まぁ、実際に部長がどういった考えでアーシアの保護を黙認したのかは、俺がどれだけ考えても部長が真意を話さない限りは分からないんだけどな。俺にできるのは飽く迄想像だけだ。
「それで、これからどうするの?」
「それはアーシアのこと?」
部長との通話を終え、自作のパソコンを置いている机に携帯を置いてから椅子に座ると、俺のベッドに腰掛けているアスナが口を開いた。アスナの質問に対し、念の為に確認の質問を返すとアスナは頷いて答えた。
「取り敢えず、教会の件が分かるまでは俺の家で保護する方向で考えてる」
「イッセー君を襲った堕天使も関係してるのかな?」
「俺の予想だけど、関係してるだろうな」
「イッセー君の予想、聞かせて貰ってもいい?」
「別にいいけど、飽く迄予想だから確証はない」
「分かってる」
俺が自分の予想を信じられ過ぎても困るといった感じで言うと、アスナはクスクスと笑いながら了承した。恐らく、アスナは俺のことを妙な所で慎重だと思っているんだろう。
「俺の予想ではアーシアは神器所持者。それで、アーシアが赴任する予定だった廃教会は堕天使の根城って所だろう」
「廃教会が堕天使の根城っていうのは分かるけど、なんでアーシアが神器所持者だと思うの?」
「理由は2つ。1つは俺達を襲った堕天使が神器を摘出する技術を持っている上、神器を集めてる可能性がある。2つ目はアーシアが明らかに悪魔祓いではないのに堕天使の根城と思しき廃教会に赴任させられているからだ。
戦闘向きではない修道士が悪魔の公爵家令嬢が管理してる地で、しかも堕天使が根城にしてる廃教会に護衛も無しに来たとなると、何かしらの能力持ちで間違いないだろ?」
「そうだとしても神器所持者とは限らないんじゃない?イッセー君みたいな霊能力者とか」
「霊能力者なら波長みたいなので俺がすぐに気付くよ。教会の人間と魔術師は犬猿の仲だって部長から聞いたことがあるから、魔術師って線もない。
つまり、消去法で神器所持者しかないってことだ。悪魔祓いも、俺とアスナが悪魔であることに気付いてないことから除外される」
俺の予想にアスナは成程といった顔をしていた。が、俺が話した予想の中に気になることがあったらしく、新しい質問を投げ掛けてきた。
「ねぇ、イッセー君。何で堕天使が神器を摘出する技術を持ってるって分かるの?」
「俺達を襲った堕天使が言ってただろ?「これなら焦らず、もう少し時間をかけて攻略すれば良かったかしら?そうすれば『聖剣創造』を摘出できたのに」って」
「そうだっけ?」
「そうだよ。まぁ、あの時はアスナも混乱してたから覚えてなくても仕方ないけど。取り敢えず、結果が分かるまでは家の敷地内から出ない様に言っとくしかないな。1人で出歩くと迷子になりかねないとか言って」
「アーシアにとって外に危険な可能性があることは分かるけど、それはイッセー君の家も同じじゃない?この家に襲撃して来ないとも限らない訳だし」
「その点は大丈夫だ。家の敷地内には外敵遮断用の結界を張ってるから」
「結界?それって『文珠』で作ってるの?」
「いいや、マグダラ修道会の『権天使級十字結界』とGSの結界技術を組み合わせた複合霊子結界だ。今は1920年代より科学技術がかなり進歩してるし、機械部品とかも豊富だから割と簡単に作れた。
『十字結界』がベースになってるから十字状の4ヵ所に結界発生装置を配置しないといけないけど、移動することのない拠点防衛用結界としては十分だ。
ちなみに、うちの家族だけでなく、アスナや他のオカ研メンバーは結界発生装置に霊体パターンを記憶させてるから、悪魔でも家には自由に出入りできる」
「……その霊体パターンっていうのが記憶されてないヒトはどうなるの?」
「冥界基準で言う最上級悪魔レベルでないと、結界に弾かれて家の敷地内に侵入することはできない。家人に招かれた場合は例外だけど。
あと、人外だけじゃなくて霊体そのものに作用する結界だから、生身の人間も例外なくこの家の敷地内に不法侵入することはできない。ある意味最高の防犯システムだ」
あっ!あとでアーシアの霊体パターンも記憶させておかないと駄目だな。そんなことを考えていると、途中からアスナが呆れた様な眼差しをこっちに向けていることに気付いた。
「何?」
「イッセー君、そんな結界が作れるなら悪魔になる必要なかったんじゃない?」
「家の敷地内にずっと居るなら問題ないけど、だからと言って父さんも母さんも仕事に行かない訳にもいかないだろ?家から出る以上は狙われる可能性がある訳だし、やっぱり護衛や後ろ盾は欲しい。
そういう意味では部長からの誘いは渡りに船だったよ。『SAO』でのソロプレイ同様、俺や黒歌、白音の3人だけで父さんと母さんの安全を確保するのにも限界があっただろうから」
俺がそう言うと、アスナは「そっか」と返してきた。もしかしたら、アスナは自分や黒歌、白音の気持ちを考慮して俺が悪魔になったと考えたのかもしれない。
確かに、そういった考えがなかった訳ではないが、それは飽く迄も俺自身が3人と一緒に居たいと思っての選択だ。アスナは勿論のこと、黒歌や白音も気に病むことではない。
俺の部屋にほんの少しだけ微妙な空気が流れる。そんな中、その空気とは不釣り合いな着うたが流れ始めた。少し前にアスナに設定して貰ったメールの着信音で、RiZaってアーティストが歌っているXing forestって曲だ。
一体誰から?そんなことを思いながら携帯を手にすると、着信者は部長だった。メールの内容は、「今夜、はぐれ悪魔の討伐をするから契約の仕事は中止よ。深夜11時に部室に来なさい」と言うものだった。
はぐれ悪魔とは、己が欲望の為に主を裏切った冥界の咎人の総称だ。はぐれ悪魔は発見し次第、迅速かつ確実に確保、もしくは処理するのが冥界での鉄則だそうだ。
この日の夜を境に、俺達は現実でも命のやり取りを行われる危険性がある、本格的に非日常な世界に身を置くことになった。
あとがき(旧)
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。黒い鳩様、193様、読者の皆々様。今年もよろしくお願いします。
今回の話のメインはアーシアとの出会いです。え〜、アーシアとの出会いが引き金となって非日常的世界の浸食が一気に加速します。(別にアーシアが悪い訳じゃないですが……)
あと、イッセーがやたらと万能キャラになってしまいました。いや、前世でエルダーの助手を務め、エクソシストの武装開発にある程度関わってた設定がうちの作品ではあったり、現世では5歳の時にジャンクパーツから自作PCを作れちゃうことから、結界発生装置を作れてもおかしくはないんですがね。(笑)
(ちなみにイッセー作結界発生装置『十字結界』はこの先も色んな所で活躍する予定です)
次話はいよいよバイサー討伐&フリード接触の話です。ぶっちゃけ、イッセーにとってバイサーは『SAO』第一層ボス≪イルファング・ザ・コボルト・ロード≫以下の存在です。(下手したら≪ルイン・コボルト・センチネル≫より下かも(笑))
ところで、バイサーってはぐれ悪魔ってことは元々は誰かの眷属悪魔だったってことですよね?ということは女王、城兵、僧兵、騎兵、歩兵のどれかってことに……。
まず、女王は無いでしょうね。女王にしては雑魚過ぎます。(噛ませ犬キャラだったとしても有り得なさ過ぎる)
能力的に考えて僧兵も除外。城兵も小柄な小猫が攻撃を受けてもノーダメな上、逆に殴り飛ばされる点からあり得ません。
コミック版で突撃槍による二槍流だったことから騎兵か歩兵が妥当ですが、同じ騎兵の木場君に両腕をあっさりと斬り落とされてたし、歩兵だったとしたら「何でプロモーションしなかった?」って疑問が残る。(プロモーションに関しては主の承認が必要って制限から使えなかったって可能性が無きにしも非ずだけど……)
取り敢えず、うちのバイサーさんには悪魔の駒の力を使って少しは奮戦して頂こうと思ってます。
それでは次話更新は1月末、もしくは体調不良の影響から2月になると思いますが、更新する時を楽しみにして置いて下さい。
あとがき(新)
3話を改訂している時に気付いたんですが、原作SAOに登場する月夜の黒猫団メンバーは、全員がSAOにログインした時点で高校生でした。(つまり、サチを含む全員がアスナより年上)
これまた、私の勘違いから始まったご都合主義ですが、本作で月夜の黒猫団メンバーはイッセーと同じ年齢とさせて貰います。というか、そういう設定です!その点をご了承ください。
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