部長からはぐれ悪魔狩りを今夜行うという連絡を受けた俺――兵藤一誠は、恋人のアスナを一旦家まで送った後、一度帰宅して指定された集合時間まで黒歌や白音と共に家で寛いでいた。
そして、両親やアーシアが寝静まり、集合時間になると俺と黒歌、白音は転移魔法陣を使って集合場所である部室へと向かった。
ちなみに俺の魔力量は割と多い。部長曰く、上級悪魔の上位陣と同等らしい。その上、まだ成長できる可能性があるそうだ。
霊力量も『文珠』の解・析で調べてみたんだが、前世と比べてかなり高い。前世では最大値が8万5000マイトだったけど、現在は17万マイトもある。ジャスト2倍だ。
前々から薄々感じていたけど、転生や魂の強化的な出来事が起こる度に霊格が上がり、霊力値が上昇しているとしか思えない。一応、眷属化も人間から悪魔への転生だし。
………魔力量の多さとか、霊力量の増大とかのメカニズムが気にならないと言えば嘘になるけど、考えても答えが出る訳でも無いから気にしないことにしよう。
部室に到着すると、俺と黒歌、白音以外のメンバーは既に揃っていた。どうやら、兵藤家が最後だったみたいだ。
遅刻した訳でもないので説教もなく、眷属が揃ったことで間も空けずにはぐれ悪魔が根城にしている建物に、転移魔法陣を使って一気に移動することになった。
はぐれ悪魔の根城までは歩いて移動できない距離ではなかったが、はぐれ悪魔は迅速に捕縛もしくは討伐しなければならない。故に距離に関わらず、はぐれ悪魔狩りで転移魔法陣を使うのは当たり前らしい。
転移魔法陣を使って行き着いた先は、所々崩壊している廃洋館だった。町でも有名な幽霊屋敷で、怖いもの知らずの馬鹿が肝試しをする様な所だ。
今回のはぐれ悪魔狩りの標的は部長曰く、「人間を喰らう化け物」だそうだ。そんな奴にとっては最高の餌場なのだろう。
部長を先頭に洋館に足を踏み入れた俺達は、はぐれ悪魔の捜索を始めた。幽霊屋敷と言われているだけのことはあり、洋館の中は埃まみれで荒れ放題だ。なにより、吐き気を覚える様な鉄臭さがしている。
鉄臭さの正体は血の臭いだ。猫又の黒歌と白音は、俺やアスナを含む他の眷属より鼻が利くせいで洋館に着いた時から顰めっ面をしている。アスナに至っては気分が悪そうだ。
ちなみに、俺は前世で血生臭い人生を送っていたことから、血の臭いや腐敗臭には耐性があるので問題ない。
前々世で存在していた最下級悪魔の体液なんて、下水みたいな臭いだったし、前世に存在していた妖怪や化け物にも、似たり寄ったりな臭いを放つ体液の奴は居たしな。
廊下沿いにある部屋を念の為に一部屋一部屋確認しながら進むと、ドアが閉じられているが一際不愉快な腐敗臭を漂わせている部屋の前に辿り着いた。
どうやら、今回の狩猟対象は廃洋館で一国一城の主を気取り、一番奥にあるこの部屋に居るみたいだ。
部長がドアノブに手を掛け様とするが、俺はそれより先に一歩前に出て、閉じられているドアを蹴破った。想像もしていなかったのか、俺の行動に部長や他の眷属は驚いていた。
俺が蹴破ったドアの先には現代日本としては考えられない地獄絵図が広がっていた。10代後半から20代位の女性の遺体が10体以上あったんだ。
しかも、どの遺体も身体の損傷が激しく、一番状態のいい遺体でも身体全体の3分の2が欠損している。
部屋の惨状は、食い散らかしという表現が適しているとも思えた。もしくは中世欧州のサド貴族の拷問部屋といった所だろう。遺体を掻き集めれば、立派な人間1人分は出来上がるだろう。
俺が不愉快さを隠さず顔に出しながらそんなことを考えていると、部屋の奥から出来損ないのケンタウロスの様なはぐれ女悪魔が現れた。
どう出来損ないかというと、上半身は真っ裸の女なんだが、下半身が熊の様に毛深く尻尾が蛇になっている獅子っぽい何かなんだ。
しかも、両手には中世欧州の騎乗兵が持ってそうな突撃槍が装備されている。いや、現代でもVRMMORPGで突撃槍を装備している奴を見ることはあるけど。
「やわらかく美味そうな肉の臭いがするぞ?かたく不味そうな肉の臭いもするぞ?でも、美味そうな肉の臭いが多いな」
見た目が見た目だけに知性も残念みたいだ。四流以下の雑魚丸出しの台詞をプレゼントされた。こんな奴の食べ物にされた被害者が哀れでならない。
「はぐれ悪魔・バイサー。大公から捕縛、もしくは討伐の命が出ているわ。大人しく捕まるならよし。でなければ消滅してもらうわ」
「ケタケタケタ……。貴様の様な小娘に、このバイサーが倒せると思っているのかぁぁぁ!返り討ちにしてくれるわぁぁぁぁ!!」
バイサーに臆することなく部長が言い放つと、バイサーは見た目通り獣の様に吠えてきた。そして、部長は俺の方に視線を向け、再び口を開いた。
「イッセー、プロモーションも許可するわ。この洒落の利く雑魚であなたの実力の一端を見せて頂戴。英雄と呼ばれるあなたの実力を」
「……こいつ、俺にとっても不愉快な存在だ。ボコりたいと思ってたから丁度いいですよ」
部長の言葉に、俺は竜闘気を纏い、『赤龍帝の籠手』と『十戒の聖石剣』、『十戒の魔石剣』を発現させて返答し、はぐれ悪魔・バイサーへと歩を進めた。すると―――
「私を馬鹿にするのも大概にしろぉぉぉ!貴様などすぐに喰い殺し、後ろの女共も後を追わせてくれるわぁぁぁ!!」
バイサーはそう叫びながら突っ込んできた。速さはアスナに及ばないものの、そこそこに速い。騎兵の悪魔の駒でも使っているのか?俺はそんなことを考えながら歩を進め、バイサーの持つ突撃槍を注視していた。
すると、バイサーは右手に持っている突撃槍で突きを放ってきた。並の人間なら突き殺されているだろうが、俺は今まで培ってきた経験から紙一重でその攻撃を避けた。
バイサーの攻撃を回避した俺は、左手に持つ『十戒の聖石剣』の形状を『爆発の剣』へと変化させ、突撃槍で一番耐久力の低い部位を攻撃した。
そう。俺が『SAO』で十八番としていたシステム外スキル『武器破壊』だ。爆発の衝撃と共にバイサーは数m後退し、爆風で舞い上がった埃が晴れると、バイサーの持つ突撃槍は柄の根元からポッキリと折れた。
「「「「なっ!?」」」」
突撃槍が折れたことにバイサーだけでなく、アスナや黒歌、白音を除く眷属メンバーも驚きの声を上げた。そんな驚きの空気が支配する中、青い顔で口元を抑えていたのアスナが口を開いた。
「……イッセー君の十八番、『武器破壊』だ」
「『武器破壊』?」
「はい。『SAO』ではプレイヤー同士が闘うデュエルシステムがあったんですが、イッセー君はプレイヤー自身に攻撃するのを避ける為、武器破壊のシステム外スキルを編み出したんです。それが『武器破壊』です」
「イッセーは現実でも木刀で練習してたにゃ。私と白音も練習に付き合わされて、木刀が何本駄目になったか覚えてないにゃ」
「……練習を始めた当初に驚かされたのが今では懐かしいですね。大して月日は経ってない筈ですが……」
部長の質問にアスナが答え、黒歌と白音が補足していた。白音に至っては呆れた視線を俺に送っている。いや、そんな視線を送らなくても自分が規格外な存在であることは十分に理解しているから。まず、経験値からしてそこら辺に居る悪魔とは段違いだって理解しているから。
さて、バイサーはまだ驚きで硬直していて隙だらけだ。今の内に間合いを詰めて一気にケリをつけよう。俺は一歩踏み出し、重心を自分の進行方向へと移す。そして、一気にバイサーとの間合いを詰めた。
俺とバイサーの距離は『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』が届く近さだ。そこでバイサーは漸く正気に戻り、騎兵特有の俊敏性で俺のギリギリ間合いの外まで後退し、残った左手の突撃槍で突きを放ってきた。
腐っても騎兵。悪魔としての戦闘経験も高いんだろう。が、俺にとっては前々世の名前も爵位も持たない最下級悪魔と大して変わらない。俺はバイサーの攻撃を初撃の時と同じ様に紙一重で回避した。
俺とバイサーの距離が初撃の時程離れていなかったせいか、バイサーの突撃槍は勢い余って床に突き刺さった。思わぬラッキーチャンスの到来だ。
俺は斜めに床に刺さっている突撃槍の上に『十戒の魔石剣』で一撃を加え、刀身を突撃槍の表面にめり込ませ、動かせなくする。
念には念を入れて『十戒の魔石剣』の形態を『闇の重力剣』へと変化させ、直接接触している突撃槍と持ち手であるバイサーの重量を倍加させ、動きを封じる。
『闇の重力剣』はその刀身が直接、また間接的に触れた対象の重量を任意で倍加させる能力を持っている。『赤龍帝の籠手』の能力と併用すれば対象を圧死させることもできる能力だ。
まぁ、『十戒の聖石剣』の『重力の剣』も、『十戒の魔石剣』の『闇の重力剣』も重量が数百sの超重量武器だから、能力が高くても普通の人間には扱える代物じゃないんだけどな。
俺の場合、エターナルへ行った恩恵で通常状態でも両手持ちなら普通に振ることができる。片手持ちで二刀流となると、『赤龍帝の籠手』で能力値を倍加させるか、竜闘気を纏うかしない限りは流石に無理があるけど。
『Boost!!』
おっ!漸く10秒経ったんだな。戦っている間は時間を非常に長く感じるから時間感覚が狂うんだよな。取り敢えず、『十戒の聖石剣』の『爆発の剣』に倍加を譲渡して止めを刺すか。
俺がそんなことを考えていると、俺の横を白と黒の影が通り過ぎた。俺の横を通り過ぎたのは黒歌と白音だ。黒歌と白音は『闇の重力剣』で固定されたバイサーの突撃槍を足場にして駆け上がり、左右に別れてバイサーの両腕を攻撃した。
2人はまるで鏡合わせの様に剣指でバイサーの腕に突きを繰り出していた。あっ!ちなみに剣指ってのは、人差し指と中指の2本だけを合わせて突き出しているのね。そして、2人が床に着地すると―――
「ギェエエエエエェェェェッ!!」
バイサーの両腕は小さな爆発音の様なものと共に弾け飛んだ。黒歌と白音の攻撃、昔やった真・東斗無双ってアクションゲームで見たことあるぞ。確か、東斗神拳とかいう暗殺拳。
「両腕の経絡秘孔に仙術で練った氣を送り込んで破壊したにゃ」
「あなたはもう、色んな意味で死んでいます」
うおっ!白音の辛辣な発言が出た。まぁ、キャラ的にも既にいっぱいいっぱいの限界で死んでいるっぽいことには同意するけど。
……そういえば、黒歌が中学生になった位から2人は、中国拳法や鍼治療に関わらずツボ関係の本を集めていた時期があったな。
もしかして、俺のやっていた真・東斗無双に影響されていたのか!?所謂、中二病って奴を発症していたのか!!?普通に爺さんや父さん、母さんの肩こり、腰痛を解消する為だと思っていたぞ、俺!!
……何はともあれ、そろそろ止めを刺してやるか。バイサーの突撃槍を固定していた『闇の重力剣』もフリーになった訳だし、『爆発の剣』と『闇の爆発剣』で止めを刺そうと思うんだが、流石に倍加の譲渡まで使うとオーバーキルな気がするから、普通に攻撃しよう。
「バイサー、自分の犯した罪深さを噛みしめながら消滅しろ。爆発剣技!『爆撃乱舞』!!」
俺は両手に持つ爆発の魔法剣でバイサーに16連撃を繰り出した。エターナル時代に使っていた『爆撃乱舞』は無軌道に攻撃するものだったが、『SAO』から帰還した現在は従来の『爆撃乱舞』にソードスキルの動きを取り入れる様にしている。
今回の『爆撃乱舞』は二刀流ということもあり、『SAO』の二刀流上位剣技『スターバースト・ストリーム』の動きだ。16連撃全てが当たったことでバイサーは体の至る所に爆裂傷を負い、その場に倒れ込んだ。
……バイサーは重度の爆裂傷で瀕死の状態だが、消滅する気配がない。この世界の悪魔は聖属性や光属性攻撃を受けない限り死んでも消滅しないのか?
もし、そうだったなら『十戒の聖石剣』の『太陽の剣』で、『バーチカル・スクエア』か『ホリゾンタル・スクエア』でも使えば良かった。
いや、俺やアスナ、黒歌、白音は『文珠』によって得た耐性で『太陽の剣』の光にも耐えられるが、他の眷属メンバーは多少なりともダメージを受ける可能性がある。
部長達にも『文珠』で耐性を付けておけば問題なかったんだが……。『文珠』は出来る限り、家やオカ研部室みたいなプライベート空間以外で使いたくないんだよな。切り札だし。部長達には次に部室に集まった時にでも使おう。
……取り敢えず、バイサーの図体はデカいし、このまま放置とかなったら色々と拙い。しかし、流石にこれ以上は主である部長の意見を聞く必要がありそうだ。
瀕死とはいえ、生け捕りできるならそれに越したこともないだろう。どうせなら冥界で魔王の名の下、公開処刑という形で断罪した方がはぐれ悪魔の発生率が減る気がするし……。
俺は自分の考えたことを聞くことも兼ねて、部長の指示を仰ぐことにした。すると、部長の返答は――――
「先々代のグレモリー家当主――つまり、私の曾お爺様の時代までは公開処刑が施行されていたみたいなのだけど、あまり効果がなかったらしいわ。
それ以降、はぐれ悪魔は基本的に何かしらの研究を行っていた者は捕縛。そうでない者は討伐する様になったの。
まぁ、今回のバイサーなんかは後者になるわね。冥界に何かしらの益がある可能性も兼ねてはぐれ悪魔には捕縛の命も出されるけど、討伐する当事者が何も得られないと判断したら投降しない限りは討伐しても問題ないの。
あと、討伐したはぐれ悪魔の死体に関しては問題ないわよ。基本的に冥界に転送することになっているから。まぁ、私達の場合は私が消滅の魔力を持っているからこの場で消し去ることもできるのだけど」
成程。確かに、悪魔契約でも現代では悪魔も穏健みたいだし、バイサーみたいなはぐれ悪魔は百害あって一利なしだな。明らかに研究者タイプじゃないし。
あと、部長が居れば死体処理の心配もなさそうだ。ってか、消滅の魔力って超ヤバそうなんですけど?何ですか、そのチート能力……?
何はともあれ、死体処理の心配がないなら早々にバイサーの首を斬り落とすかして仕事を終わらせよう。明日も学校がある訳だし。
そんなことを考えながら部長からバイサーの方に向き直ると、バイサーがヨロヨロと体を起こそうとしていた。まだそんな元気が残っていたのか?
「両腕欠損の上、致命傷とも言える爆裂傷を負いながら、まだ立ち上がろうとするのか?元気いいな。何か良いことでもあったのか?」
「……死が避けられぬなら、1人だけでも道連れにしてくれるわぁぁぁ!!」
バイサーは立ち上がるとそう叫び、部長達のいる方向に駆けて行った。いや、部長達というのは正確には間違っている。
バイサーは標的を決めていた。バイサーが狙ったのは、未だに気持ち悪そうにしているアスナだ。その行動がバイサーの今生で犯した最大のミスだった。
大口を開けてアスナに襲い掛かろうとするバイサー。とっさのことで反応できずにいるアスナと眷属メンバー。しかし、バイサーがアスナに辿り着くことは無かった。アスナの数cm手前で動きが止まったんだ。いや、俺が停めたというべきか。
俺は高い霊力量とドラゴンの力を得たこと、悪魔に転生したことで前世の韋駄天や竜神達が使用していた『超加速』を使用できる様になった。現時点では1〜2回が限界だが、それでも十分だ。
俺は『超加速』でバイサーの獣の部分に移動し、前々世の能力である『時間凍結』を使って首から下の時間を停めたんだ。首から上の時間を停めなかったのには理由があるが、それはすぐに分かる。
「……イッセー。あなた、バイサーに何をしたの?いつの間にバイサーの上に移動したのかしら?」
「俺の持つ能力の1つ、『時間凍結』で首から下の時間を停めました。今のこいつは首から上以外は動かせません。どうやって移動したかは目にも止まらない速さで移動したとしか言えません。日に何度も使える移動法ではないですけど……」
「時間を停めた?あの娘の――ギャスパーの『停止世界の邪眼』と同系列の能力なのかしら?でも、部分的な停止が可能な上に神器じゃないし………」
俺が質問に答えると、部長は顎に手を添えながらブツブツ言い始めた。ってか、ギャスパーって誰だ?もしかして、俺やアスナ達が知らない部長の眷属か?そういえば、悪魔の駒を見せて貰った時に僧兵が1つ無かったな。
取り敢えず、ギャスパーって子は『時間凍結』と同系列の能力である神器を持っているみたいだな。少なくとも時間を停止させる能力であることには違いないだろう。
まぁ、俺の『時間凍結』は正確には時間停止とは異なる所があるんだが。ドラ○エの『アストロン』と時間停止を足して割ったものと言えば分かるだろうか?……って、そんなことはどうでもいい。それよりも―――
「部長。考え事をされてる所、申し訳ないんですがいいですか?」
「え、ええ。ごめんなさい、イッセー。何かしら?」
「バイサーはどんな形であれ、討伐対象として処理しても構わないんですよね?」
「ええ。それがどうしたの?」
「念の為の確認です。それじゃあ―――」
俺は部長からアスナに視線を移し、言葉の続きを口にした。
「アスナ、君がバイサーに止めを刺すんだ」
「……え?」
俺が言ったことが理解できなかったのか、アスナはキョトンとした顔で聞き返してきた。そして、俺の言ったことを逸早く理解した部長がアスナとの間に入ってきた。
「ちょっと待ちなさい、イッセー。アスナはあなたと違って最近になって神器や異種族のことを知ったのよ?
今回のはぐれ悪魔狩りも、ついこの間まで一般人であったアスナに、悪魔の世界にはこういったこともあるということを知って貰う為に参加して貰ったに過ぎないわ。戦いに参加させるつもりは無かったのよ」
「俺もついこの間までアスナと同じ人間でした。黒歌と白音も元は妖怪ですが、人間として暮らしていました。俺達とアスナにどれ程の違いがあるって言うんですか?」
「イッセーは生まれつき特別な力と複数の神器を持っていて、それを自分のものにしているでしょ?黒歌と白音も仙術で気を練ることができるわ。あなた達とアスナで、力とそれを扱う経験値にどれだけの差があるかは一目瞭然よ」
「しかし、アスナは俺と同じで2年間もデスゲームに強制参加させられたという経験があります。命のやり取りという一点において、アスナは黒歌や白音より経験値が上です。
俺が規格外であることは百歩譲って認めます。しかし、アスナと黒歌、白音に関しては差し引きゼロなんじゃないですか?」
「そ、それは……」
そう。この場では命のやり取りの経験がない黒歌や白音よりその経験があるアスナにアドバンテージはあった。悪魔の駒のスペックもプロモーションしていなければ歩兵より騎兵が上だ。それは変異の駒であっても変わりはない。
「それにこれから先、はぐれ悪魔狩りで同じ光景を見ることなんて、多々ある筈です。今日、ここで何もせずに終わってしまったら、この先も何もできずにいる可能性もある。
今回なら動けない相手の首を刎ねるだけで済みます。そうするだけでも悪魔としての非日常を受け入れ、一歩だけでも前に進むことができる。立ち止まったままでいるか、歩みを進めるか。どちらがいいかは明白でしょ」
俺がそう言うと、部長は何も言えなくなり俯いた。部長は自分の眷属を大事にする性格の様だけど、過保護であることがいいこととは限らない。俺がそんなことを思っていると、アスナが俺に近付いてきた。
「イッセー君。私、バイサーに止めを刺すよ」
アスナはそう言うと『聖剣創造』で『ランベントライト』を形成し、バイサーへと近付いてその首に刃を添えた。
「おい、クソはぐれ悪魔。最後に何か言い残すことはあるか?」
「……この状況で命乞いでもすると思っているのか?……殺せ」
「はぐれであっても悪魔としての矜持があるのか?意外だな。しかし、お前が犯した罪への免罪符にはならない」
俺はバイサーにそう告げると、アスナにアイコンタクトを送った。すると、『ランベントライト』の刀身が横一閃に煌めき、バイサーの首が地面に転がった。そして、聖剣での攻撃だったからか、バイサーの体は暫くして消滅した。
バイサーが消滅したこともあり、俺達はこの場に食い散らかされた被害者の遺体処理に移った。まぁ、遺体処理と言っても冥界に転送するだけなんだけどな。
異種族の存在を世間に知られない為、はぐれ悪魔によって出た被害者が死んでいた場合、その遺体を冥界に送り供養されることになっている。
部長の指示で俺を含む眷属が転移魔法陣に遺体を集める中、アスナは『ランベントライト』を持ったまま俯いていた。部長もアスナのことを思って何も言わなかった。
被害者の遺体を冥界に転送し終えると、部長と副部長である朱乃さんによって血痕などの証拠隠滅がされた。そして、事後処理も終了した所で、俺は『赤龍帝の籠手』を解き、左手でアスナの頭を撫でた。
「よく頑張ったな、アスナ」
俺がそう言うと、アスナは俺に抱きつき顔を胸に埋めてきた。俺は何も言わずアスナを抱き寄せ、アスナが落ち着くまで頭を撫で続けた。
あとがき(旧)
読者の皆さん、ごきげんよう。なんとか月2更新に間に合わせることができた沙羅双樹です。
今回はバイサー討伐の話で1話丸々使ってみましたが、如何だったでしょう?
取り敢えず、作品内で読者の皆さんにとって疑問が発生していると思われる所の補足をしておきたいと思います。
と言っても、補足する点は一誠の『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』位しか無いんですが……。
『十戒の聖石剣』の基本形態の形状はRAVEで剣聖シバが使用していた初代テン・コマンドメンツです。能力値はハルが最終決戦時に使用していた全てのレイブを統合したものであると考えて下さい。
しかし、現時点では第十の剣・レイヴェルトは使用不能状態だったりします。今後、話が進み、あるイベントが発生することで使用可能となります。
『十戒の魔石剣』の基本形態の形状はRAVEで初代キングが使用していたデカログスです。ただ、能力値は最終決戦でルシアが使用していた能力を極限まで底上げされたネオ・デカログス状態に、他のDB能力やオリジナル能力が追加されています。
オリジナル能力は今回登場した『闇の重力剣』の加重能力などですね。『十戒の魔石剣』の能力値が明らかに上なのは、一誠の前々世が悪魔で前世も悪魔の因子が組み込まれた人魔であることが影響していると思って下さい。
こちらも『十戒の聖石剣』と同様、現時点では第十の剣・ダークエミリアは使用不能状態です。レイヴェルトと共に登場する日を楽しみにしていて下さい。
『十戒の魔石剣』の名が何故ネオ・デカログスではなくデカログスとなっているのかは、基本形態がデカログスである為です。取り敢えず、見た目はデカログスでも中身はネオ・デカログス+シンクレアを除く全てのダークブリング能力保有とでも思って頂ければ大丈夫だと思われます。
作中で黒歌と白音が使用して攻撃方法について話しておきましょう。まぁ、大体の方は分かっておいでだと思いますが、某世紀末救世主が使用する暗殺拳法です。(笑)
原作D×Dで小猫が使用していた攻撃方法がNAR○TOの柔拳に似ていたことから、最初は柔拳使いにしようかとも思ったのですが、柔拳の元ネタって源流を辿れば某暗殺拳法っぽいなぁと思い、某暗殺拳法を扱えるようにしました。(笑)
最後に『時間凍結』について話します。クロノクルセイドを読んだことがない読者の皆さん。『時間凍結』とは簡単に言うとダイの大冒険に登場する『凍れる時間の秘法』みたいなものです。これでも分からない人は申し訳ないのですがググるか、ダイ大を読むかして下さい。
以上が今回の話における補足(?)です。
次回はイカレ神父・フリードなんかが登場する話になる予定ですが、2月の更新は1回だけになる可能性があります。申し訳ありません。
それでは今回この辺りでお開きとさせて頂きます。また次回お会いしましょう。
あとがき(新)
特にないです。(笑)
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