「ふぁあああぁぁぁ……」
俺――兵藤一誠は、朝っぱらから在籍している教室の自分の席で大欠伸をしていた。欠伸の理由は寝不足という有り触れたものだ。
昨夜のはぐれ悪魔・バイサーを討伐後、俺を含むグレモリー眷属は現地解散となり、各々の帰路についた。まぁ、帰路につくと言っても、実際は転移魔法陣を使っての移動なんで、一瞬だった訳だけど。
俺は自宅に着いた後、自室の隣にある工作室に向かい、家でも使用している結界発生装置を手に取って、アスナの家へと転移魔法陣を使って移動したんだ。
ん?工作室って何か気になる?……あれだ。俺の前世等の秘密が両親にバレた後に空き部屋の1つを利用して作ったんだ。俺の家は割と大きいから、爺さんを含めた6人家族時代でもそれなりの数の空き部屋があったんだよ。
で、その工作室では主に結界発生装置のパーツや作り置きがあったり、銃器やその部品、対悪魔用の聖火弾や福音弾を置いていたりするんだ。
……ん?銃刀法違反じゃないか?俺が銃を作成した当時はパーツを別々に買うのは違法じゃなかったんだよ。勿論、組み立てたら違法だったけど。
……今は世知辛いことにパーツを別々に買うのも違法なんだよな。だから、工作室にあるパーツ数以上の銃が作れない。
ちなみに、聖火弾や福音弾をどうやって作ったかも語っておこうか。聖火弾は聖油の精製法を知っているから、炸薬の代わりに聖油を入れるだけで終了する。簡単だろ?
福音弾は稀少銀の代わりに、エターナルで入手していたミスリル銀を使用した。エターナルから帰還した時、身体能力だけでなく所持品も一緒だったからな。
ミスリル銀の加工には、『太極文珠』を大いに利用した。ただ、俺が地球に持ち帰ったミスリル銀では、最大で60発分が限界だったけど。
まぁ、福音弾は1発でも着弾すれば上級悪魔でも着弾部分が消し飛ぶ威力があるだろうから別にいいんだが……。
ちなみに聖火弾は下級悪魔には効果があるだろうが、中級以上には牽制程度にしかならないだろう。マシンガンで連射すればダメージが通るかもしれないけど……。
つまり、工作室ってのはそういうもんが保管されている部屋ってことだ。一応、余所様を家に呼んだ時はパソコンのジャンクパーツ置き場という説明をしている。
さて。次は結界発生装置をアスナの家に持って行った理由について語ろうか。俺達の住んでいる町は部長の実家――グレモリー家の管理地と言ってもいい所だそうだ。
グレモリー家は最上級悪魔で、冥界では名の知れた公爵家。人間界でもソロモン72柱の序列56番として知られている。
そんな冥界でも有数の権力者の管理地であってもはぐれ悪魔が侵入し、人間を襲う。1人2人ならまだしも、今回のはぐれ悪魔狩りの一件では多くの人間が犠牲になっていたことを俺達は知った。
今回は普段なら人があまり来ることがない廃洋館を根城にしていたが、人が大勢いる住宅街に現れないとも限らない。そうなったら家人が全員寝入っている内に犠牲になる可能性も十分にあり得る訳だ。
俺やアスナの家族は部長との契約で護衛監視という形で保護されているけど、その護衛監視をしているのは人型に変身可能な部長の使い魔である蝙蝠と、陰陽師が使役する下級式神の様な朱乃さんの使い魔である小鬼だ。
何処にでも居る様な最下級妖魔の類なら、部長と朱乃さんの使い魔でも追っ払えるだろうし、一般的な下級悪魔や下級堕天使であっても俺を含むグレモリー眷属が駆け付けるまで時間を稼ぐことはできるだろう。
しかし、前に俺とアスナを襲撃した堕天使や、今回討伐したバイサーレベルとなると時間稼ぎができるか怪しい。
俺が思うにあいつらは下級でも中か上といった所だろうからな。もっと分かり易く表現するなら某国民的RPGで言えばLV10前後のス○イムナイトって所だ。
まぁ、実際のス○イムナイトは仲間にして最高の装備を与え、LV99までしっかりと育てれば最上級入りも確実だろうけど……。
いや、ス○イムナイトならLV70代でも最上級入りが可能かもしれない。だって、LV70代のパーティーメンバーで自称:神を超えた大魔王ミル○ラースを普通に倒せたし。
取り敢えず、グレモリー家の管理地とも言えるこの町は、他の町と比べてもはぐれ悪魔が出現する確率は低いが、恐れ知らずや実力に自信があるはぐれ悪魔で中級以上の奴が現れないとも限らない。
俺が今世で製作した複合式の『権天使級十字結界』なら、はぐれの人外が最上級であっても時間稼ぎが可能だ。上級以下の場合、単体での結界破壊はほぼ不可能と言っても過言ではない。
つまり、結界発生装置を設置していれば結城家もはぐれ人外に寝込みを襲われることなく、自宅という限られた空間でなら安心して暮らせるって訳だ。それに人外の基本的に昼間に行動することは無いらしいしな。
少なくとも中級以上のはぐれ人外は動きが慎重で、昼間に堂々と人外の力を行使する様なクレイジーな奴は存在しないっていうのは部長に確認済みだ。
部長や朱乃さんの護衛監視を疑っている訳じゃないけど、結界発生装置を自宅に設置することで、人間である俺の両親やアスナの家族の安全をより確実なものに出来る。
アスナの家族は、将来的には俺にとっての義理の家族でもあるんだ。俺は心配性過ぎると思われる位のことをして丁度だと思うんだよ。
まぁ、そんな訳でアスナの家に結界発生装置を持って行き、『権天使級十字結界』を展開するって作業を深夜にしてきた訳だ。
アスナの家族と俺、黒歌、白音を含むグレモリー眷属全員、部長や朱乃さんの使い魔の霊体パターンを結界装置に記憶させるのに結構時間が掛かったよ。
結界発生装置の設定が終了し、自宅に帰った俺はすぐに寝た。けど、睡眠時間は僅か2時間。レクトで働いていてもここまで短い睡眠時間は無かったな。最低でも仮眠で4時間は寝ることができていたし。
まぁ、『SAO』では2〜3日寝ずにレべリングしていたこともあるから、それに比べれば睡眠時間が2時間とかマシなんだけど。それでも寝不足であることには変わりがない。
そして、寝不足で微妙な頭で授業を受けても内容が入る訳がなく、俺は睡魔と壮絶な戦いを繰り広げた訳なんだが敗北してしまい、殆どの授業で居眠りをし、放課後を迎えることになった。
今日の放課後は悪魔契約の仕事をすることになっている。部長曰く、「昨日ははぐれ悪魔狩りで悪魔契約の仕事ができなかったから、今日の放課後はいつもより気合を入れて悪魔契約の仕事をする」とのことだ。
悪魔契約の仕事始めは基本的に22時以降となっていることもあり、俺とアスナ、黒歌、白音は一度帰宅した。
俺と黒歌、白音は両親やアーシアと一緒に晩飯を食べ、両親とアーシアが寝静まってから転移魔法陣で部室へと向かうというのがグレモリー眷属になってからの行動パターンだ。
俺の両親はいつも21時には床に就く。遅くても21時半だ。理由は2人の職業上、徹夜をすることがよくあり、眠れる時間がある日は早めに寝るという様にしているからだ。
アーシアは修道士として今まで過ごしていたこともあり、早寝早起きが習慣化していて俺の両親と同じ位の時間には寝ている。
正直、悪魔になる前は両親に対して「小学生かよ!?」とか思っていたけど、今はそのお蔭で悪魔稼業が出来て大変助かっている。両親とアーシアにはこれからも生活スタイルを変更しない様にして貰いたい。
アスナの方は早寝早起きを心掛ける様にしていると誤魔化しているって聞いたことがある。昔は主に勉学方面の生活リズムについて母親に口出しされていたらしいけど、須郷の一件以降は口出しされなくなったらしい。
俺とアスナ、黒歌、白音は悪魔稼業がある日は大体仕事を始める10〜15分前に転移魔法陣で部室へと移動している。今日も15分前に部室へと転移すると、いつも通り既に部長と朱乃さん、木場が部室に居た。
部長と朱乃さん、木場の3人は1人暮らしらしい。俺を含む新人眷属4人とは違って夜の行動制限がほぼ無いとも言えるので羨ましい限りだ。
まぁ、うちの両親も泊まりがけの仕事があったりするから、一般家庭と比べたら夜の行動制限は少ないのかもしれないけど。
でも、今は両親が泊まりがけの仕事があったとしても、アーシアが居るから行動制限に関しては一般家庭と大差ないかもしれない。っと、こんなことを話している内にアスナが現れた。俺達に遅れること数十秒って所だな。
現時点で活動可能なグレモリー眷属が集まったことで、全員が仕事モードに頭を切り替え、今夜こなす仕事の数などの話を始めた。今夜の仕事は眷属1人辺りの契約数が4〜5人となっている。
朱乃さん、木場、アスナ、黒歌、白音の相手は全員が既に3回以上の呼び出しをしている常連さんである為、精神的に楽そうではあった。逆に大変なのは部長だった。部長の契約数は7人で、内2人が初契約者だったからな。
俺の契約数がたったの2名だったこともあり、部長が行く筈だった悪魔契約を俺が肩代わりすることになった。肩代わりしたのは部長の固定客で、あまり無茶振りをしてこない人間を選んで貰った。
22時になると、各々が自分の契約者の所へと向かう。俺は先に自分の固定客の契約を済ませ、部長の固定客の所へと向かうことにした。自分の固定客を先にしたのは、願いを叶えるのに時間を掛けることが殆どないからだ。
俺の予想通り、自分の固定客の契約は1人辺り10分程で終了した。部長の固定客も1人目はネタに詰まっている作家ということだったので、俺の前々世の悪魔生をネタとして提供することで契約を短時間で済ませることができた。
……まぁ、前世や前々世の話をするのは精神的にキツイものがあるけど、今は今世での悪魔稼業中だ。契約を達成する為に前世の出来事をネタとして提供する位しないと、営業マンならぬ契約悪魔としてやっていけないだろう。
そして、俺は本日最後の契約である部長の固定客の家へと転移してきた。契約者の家にやって来た訳なんだが、来て早々にかなり不愉快な思いをさせられている。ここまで不愉快な思いをさせられたのは悪魔に転生して初めてだ。
俺を不愉快にしているのは、目の前で鉄臭を発しているオブジェが原因だ。オブジェの正体は両手足に十字架状の杭が打ち込まれ、腹が刃物で切り裂かれた状態で壁に磔られている男の死体だ。
しかも、聖ペトロ十字――逆十字状に磔られ、両手足だけでなく体の至る所に十字架状の杭が打ち込まれている。急所を避ける様に打ち込まれている杭から察するに、犯行に及んだ奴は人体の構造に詳しいドSと考えられる。
わざと急所を避ける様な拷問染みた磔に、死後にキリストをイメージさせる様な割腹まで演出する所から精神異常者であることも窺える。というか、犯人はカトリックにケンカ売っているのか?ご丁寧にオブジェの横の壁にラテン語で文字が書かれている。
「……「哀れな悪魔崇拝者に魂の救済を」?おい、部屋の入口に居る殺人鬼。これは何だ?連続殺人の犯行声明か何かか?」
「わおっ!気付いてらっしゃっていましたでございますか?それと、俺は殺人鬼じゃなくて神父ね。OK?あと、それは大昔に活躍してた白髪悪魔祓いのありがたい言葉を借りたもんさ☆」
俺が部屋の入口の方を向くと、そこには白髪の神父の格好をした10代の男が居た。かなり独特の喋り方で、正直イラッとする。ニヤニヤしていることもあって、ムカつき度が二乗倍だ。
「……で、オブジェ化してるこのおっさんを殺した動機はなんだ?ムシャクシャして殺ったって訳じゃないだろ?悪魔だけど、懺悔は聞いてやる」
「悪魔のくせに神様気取りですかぁ?何様のつもりだよ、バカヤロー!コノヤロー!ソレは悪魔召喚の常習犯だっただろぉ?なら、主に仕える俺達悪魔祓いが裁きを下すのは自然の摂理って奴でしょ」
「……成程。俺が知らない内に神様ってのはドSって性癖に目覚めたんだな。なんたって、こんな拷問染みた裁きをお前みたいな三下使って下すんだからな」
「……悪魔のくせに何で俺を見下すみたいに語ってくれちゃってんの?普通、ここはアレでしょ?悪魔らしく俺に怯えて逃げ惑う所だろ?ってか、もう死ねよ。お前」
……やたら上から目線な態度の奴だから、逆に上から目線で挑発したら見事に乗ってくれた。予想はしていたけど、単細胞過ぎるのにも程があるだろ。ぶっちゃけ、獣レベルだ。知性と理性のある人間とは思えない。
俺の挑発に乗った脳内真っ白神父は目を血走らせ、見事な顔芸を披露しながらライトセイバーの様な光剣と銃を取り出して襲い掛かってきた。
「ヒャッハー!悪魔はなます切りの蜂の巣にしてやるZe!!」
「やられ雑魚モブキャラ台詞をありがとう」
俺は瞬時に竜闘気を纏い、『十戒の魔石剣』を発現し、顔芸神父の光剣の初撃を受け止めた。顔芸神父は自分の初撃を受け止められたことか、それとも俺が魔剣を作り出したことにか、どちらかは判断がつかないが驚いていた。
しかし、顔芸神父が驚いたの一瞬で、すぐに右手に持つ銃を発砲してきた。一流かどうかは分からないが、それなりの場数は踏んでいるっぽいだけのことはある。が、銃から放たれた弾丸も、俺が纏っている竜闘気に弾かれて効果がない。
対悪魔用の弾丸だったんだろうけど、大した威力じゃないみたいだ。俺の予想では聖火弾以下だろう。あんな弾丸で殺られるのは、魔力や霊力なんかで障壁を張れない下級悪魔でも三下だけだろう。
「おいおいおい!祓魔弾を弾くって、お前の身体は一体何でできてんの!?男は硬けりゃいいってもんじゃねぇんだぞ!男が硬いのは一部分だけで十分なんだよ!!」
「お前、下品過ぎるよ」
俺はそう言うと、『十戒の魔石剣』を第4の剣・『闇の封印剣』へと変化させ、顔芸神父との間合いを詰め、左手に持っている光剣の光を斬り裂いた。
「なっ!?」
「これは実剣では斬れないものを斬り裂く封印剣だ。今、お前の光剣の光を斬り裂いた。それはもう使い物にならない」
「……形状が変わる剣。てめぇ、レイナーレの姐さんが言ってた奴か?」
「レイナーレ?……あぁ、前に俺に告っていきなりキレてきた悪女臭全開の堕天使のことか?」
「姐さんから聞いた話じゃ禁手に至った『聖剣創造』の所持者だったはず。てめぇの持ってるのは明らかに聖剣じゃなくて魔剣だろうが!一体どういうこった!?」
「自分で考えろよ、顔芸神父」
「レイナーレの姐さんをボンバーした相手――しかも、悪魔に転生した奴に人間の俺が武器無しで勝てる訳が無え。ここは戦略的撤退だZe!」
顔芸神父はそう言うと、懐から何かを取り出して床へと叩き付け、そこから煙が発生した。目くらましのけむり玉だ。忍者か、あの顔芸神父は!
俺が煙の満たされた部屋から廊下に飛び出すと、廊下の先から顔芸神父の声が聞こえてきた。恐らく神父が居るのは玄関だろう。
「クソ悪魔!今回の所は退いてやる!けど、俺の光剣をぶっ壊した代償はいつか払わせるからな!具体的にはてめぇの身体で!!世界最高の苦痛を味合わせて殺してやるYo!覚えとけ!!じゃあな、バイバイキーン!」
幼児向けアニメの悪役が言う様な捨て台詞を残して逃亡しようとする顔芸神父。捨て台詞がウザさ100倍だったこともあり、俺は顔芸神父を斬ることにした。『十戒の魔石剣』を第3の剣・『闇の音速剣』へと変化させ、顔芸神父の後を追う。
『闇の音速剣』の能力は所有者の体重を軽減し、高速移動を出来る様にするというものだ。顔芸神父は僅かな時間で玄関まで移動する脚力の持ち主の様だが、『闇の音速剣』を使用すれば顔芸神父の移動速度を超えることができる。
俺は廊下を駆け抜け、玄関から外に飛び出す。すると、既に街路を逃走中だと思った顔芸神父が門の所で四苦八苦していた。何をしているんだ、こいつは?
「ちょ、ちょいタンマ!結界を解いて俺が逃げるまでちょい待ってちょ!!」
………こいつ、馬鹿だ。恐らく、ここの住人で悪魔契約をする予定だったおっさんを殺害する際に、防音と人避け、逃亡防止の結界を張っていたって所だろうが、自分が逃亡するにも拘らず結界を解き忘れていたんだろう。
ってか、こいつは自分が追い込まれることを全く想定していなかったらしい。しかも、相手との実力差も把握することができない。『SAO』で例えれば、攻略組にケンカを売る中層オレンジ・レッドギルドって所だ。
何はともあれ、人を呪わば穴2つと言われていることだし、殺された契約者の無念を晴らすことも兼ね、俺はこの顔芸神父を殺す気満々フルボッコの刑に処す為に行動に移る。部長の常連さんだったみたいだし、その位のサービスはしても問題ないだろう。
「お前、今まで悪魔と契約した人間が命乞いをして見逃したことがあるのか?」
俺はそう言い終えると、顔芸神父が返答する前に攻撃を開始した。何故なら、この家のおっさんの惨状を見れば答えは一目瞭然だからだ。あんな猟奇殺人的な現場を平然と作り出せる奴に、命乞いで相手を見逃す慈悲がある訳がない。
という訳で、俺は顔芸神父との間合いを一瞬で詰め、『闇の音速剣』で高速10連斬撃を放ち、顔芸神父の胴体を斬り刻む。
「ガガガガガガガガガ!!」
張られていた結界が壁の役割を果たしていることもあって、顔芸神父は斬撃によって発生した衝撃と壁に挟まれる様な形となり、奇声の様な呻き声を出しながら、前衛的な踊りっぽい動きを俺が斬撃を止めるまで続ける。
『闇の音速剣』の斬撃を終えると、今度は通常形態である『闇の鋼鉄剣』へと形状を変化させ、前のめりに倒れてこようとする顔芸神父に更に一閃放つ。
「グァ、ギァアアァアアアァァァァ!!!」
顔芸神父の断末魔と共に宙を舞う左腕。俺が『闇の鋼鉄剣』で放った一閃は見事に顔芸神父の左腕の肘から下を斬り落としたんだ。ここまでで顔芸神父が負ったダメージは全身滅多斬りに片腕切断。
このまま放って置いても出血多量で顔芸神父はお陀仏だろうが、俺は更に追い打ちを掛ける。『十戒の魔石剣』を『闇の爆発剣』へと変化させ、顔芸神父の胸部目掛けて一閃した。
『闇の爆発剣』の直撃を喰らった顔芸神父は胸部に爆裂傷を負い、白目を剥きながらその場に倒れ込んだ。10連斬撃に片腕切断、更に爆裂傷の12連コンボ。普通の人間なら冥府行きが確定だ。
そう、普通の人間なら冥府行きの殺人コンボ。そうであるにも拘らず、それを喰らった顔芸神父はしぶとく生きていた。正直、虫の息で今にも死にそうだが、生きていることには違いない。
取り敢えず、オブジェ化したおっさんの無念を晴らす為、敢えて苦痛が長引く様にダメージを与えていた訳だが、武士ならぬ悪魔の情けとしてそろそろ止めを刺してやるか。
俺はそう考えながら顔芸神父の首を斬り落とす為、『十戒の魔石剣』を『闇の鋼鉄剣』に戻して振りかぶった。そして、正に『闇の鋼鉄剣』を振り下ろそうとした瞬間、俺の背後に光を放ちながら魔法陣が浮かび上がった。
顔芸神父が悪女堕天使の仲間であることが今までの会話から予想できたこともあり、堕天使の増援である可能性があると瞬間的に判断した俺は顔芸神父から離れた。で、転移魔法陣をよく見てみると、そこには見覚えのある紋様が浮かび上がっていた。
浮かび上がっていたのは俺を含む眷属がいつもお世話になっている転移魔法陣にもあるグレモリーの紋様だ。そして、光が治まって現れたのは俺を除くグレモリー眷属全員だった。
「イッセー、大丈―――」
「イッセー君、大丈夫!?どこも怪我してない!?」
部長が俺に声を掛けようとすると、アスナがそれを遮って部長を押し退け、涙目で駆け寄って来て俺の身体をペタペタと触診し始めた。
「大丈夫。大丈夫だよ、アスナ。それよりも、何で全員ここに?」
「この依頼主の所に、教会で使用されている結界が張られていることを察知して、全員仕事を切り上げて駆け付けたのよ。
教会の人間は、基本的に教会のテリトリー以外で結界を張ることが禁止されているわ。最上級悪魔の領地なら猶更ね」
「……悪魔って教会と不可侵条約みたいなものを結んでるんですか?」
裏の異種族間は出会えば問答無用で争いが起こると思っていた俺が部長に質問すると、部長の代わりに朱乃さんが答えてくれた。
「まぁ、似た様なものですわね。悪魔と堕天使は天界のテリトリーである教会を襲撃することは禁止されていますわ。
逆に天界関係者――天使や教会関係者のことなのですが、天界関係者と堕天使は上級以上の悪魔が管理する領地で勝手なことをすることが許されていないんです」
「成程。三種族が出会うと問答無用で争いが起きる、って訳じゃないんですね。まぁ、人間の戦争でも最低限守られるべきルールはあるって聞いたことがありますから、そんな感じですか?」
「うふふ、そんな感じですわね。そして、そのルールを守らない者ははぐれとされていますわ」
「はぐれ?はぐれって悪魔以外にも存在するんですか?」
「ええ。今回の場合ははぐれ悪魔祓いですわね。もっとも、イッセー君は返り討ちにしたみたいですが」
朱乃さんがそう言うと、グレモリー眷属全員が顔芸神父に視線を向けた。まぁ、はぐれだったら返り討ちにしても問題ないと思うけど、念の為言い訳しておこうかな。
「部長。言っておきますけど、正当防衛ですから。先に手を出してきたのはそこの白髪神父です」
「正当防衛というより、過剰防衛だと思うのだけど……。まぁ、いいわ。こちらも営業妨害をされた上、契約者を1人殺されているのだもの。問題はないでしょ。取り敢えず、証拠隠滅の為にこのはぐれ悪魔祓いは消滅させておきましょうか」
部長はそう言うと、掌に消滅の魔力を形成し始めた。すると、いきなり黒歌と白音が何かに反応し、明後日の方向に視線を向け、口を開いた。
「部長!今すぐ転移魔法陣で移動する準備をするにゃ。堕天使っぽい影が4つ近付いて来てるにゃ!!」
「地上からも10人程の足音が徐々に近付いて来てます」
「!!?ただのはぐれ悪魔祓いではなく、堕天使と手を組んでいるはぐれ悪魔祓いだったのね……」
はぐれ悪魔祓いにも色々な存在がいるのか。少なくとも野良以外に堕天使に降っている奴がいるんだな。気にはなるけど、質問している暇は無さそうだ。
「どの道、これだけの傷を負っていれば、このはぐれ悪魔祓いはそう長くない筈よ。今日の所はそれで痛み分けということにしましょう。これ以上は種族間の争いに発展しかねないもの」
確かに、ここでやって来た堕天使を殺ると、種族間戦争に発展する可能性は十分にある。しかも、一方的な言い掛かりで。ここは一度引いて、冥界の上層部に報告し、種族間のトップ同士で政治的な遣り取りをして貰うに限る。
俺は顔芸神父をそのまま放置し、グレモリー眷属の皆と一緒に転移魔法陣を使ってその場から立ち去った。
あとがき(旧)
皆さん、1ヶ月振りです。更新予告をしておきながら、2月の更新ができなかった沙羅双樹です。
いや、本当にすみません。2月はリアルで色々とあった上、軽くスランプに陥ってたこともあって更新できませんでした。
月2更新を目標とはしているものの、所詮目標は目標ということですね。実力と発想力がなくては目標を達成することができない。週刊少年誌の作家様方の凄さを改めて思い知りました。
ちなみに、今回は白髪イカレ神父・フリードの話でした。名前が一切登場しないという、フリードをかなりぞんざいに扱ってしまった回ですが、如何だったでしょうか?
ちなみに、「チーターな赤龍剣帝」は原作でいう所の「旧校舎のディアボロス」に当たるんですが、フリードが第一章で再登場することはありません。次の登場は第三章「まがい物の神造兵装」の予定です。(これだけフルボッコされて次の話で復活は、流石に人間を止めてることになってしまうので……)
次はレイナーレを含む堕天使大集合の話になります。上手くいけば次で第一章が完結することになりますが、あまり期待しないで頂けると助かります。
次話更新は今月を目標としてます。しかし、4月になる可能性も十分にありますので、その点はご容赦のほどを。
それではまた次回お会いしましょう。ごきげんよう〜。
あとがき(新)
特にないです。(笑)
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