猟奇殺人鬼的な似非神父を5分の4殺しにすることはできたものの、堕天使とはぐれ悪魔祓いの混成部隊が接近していたこともあり、似非神父に止めを刺すことができなかった俺――兵藤一誠は現在、部長や他の眷属メンバーと共に転移魔法陣を使って部室へと戻って来ていた。
そして、部室に戻って来て早々にグレモリー眷属による緊急会議が行われることになった。議題は今回の堕天使勢力による領地への不法侵入――いや、領土侵犯か?あと、悪魔稼業への営業妨害、及び契約者の殺害についてだ。
以前に部長が話していたけど、俺やアスナが住んでいる町は駒王学園を拠点とした純血悪魔・グレモリー家の管理地だ。
正確には、駒王学園の敷地内はグレモリー家と親交の深い他家との共同管理で、町全体の管理はグレモリー家が全権を握っているらしい。
学園の共同管理云々については、会議の開始前に副部長によって説明されたんだが、そういった話は出来れば悪魔に転生した直後にして欲しかった。
取り敢えず、談話などで使用するテーブルを囲う様に配置されたソファーに、実働グレモリー眷属全員が座った所で会議は開始した。そして、開始早々に共同管理のことを聞いた俺は部長にあることを進言した。
「部長」
「何かしら、イッセー?」
「堕天使勢力による領土への不法侵入についてですけど、学園を共同管理している他家の方や悪魔の上層部の方で何か知ってる方がいるかもしれません。
直接この場に来て貰う必要性はないですけど、音声のみでもいいので会議に参加してもらうことはできないですか?」
「イッセー。それは学園を共同管理している者や冥界上層部の者が、堕天使を手引きしたのではないかと言いたいの?」
俺が進言したことに少し不愉快そうな顔をする部長。まぁ、俺の言い方じゃグレモリー家と親交の深い家が裏切り者の可能性があると疑っている様に聞こえても仕方ないか。
「いいえ、そういう意味じゃないです。あの堕天使勢がこの町に居ることそのものが不法行為なのか否かを確認する為、参加して貰いたいと言ってるんです」
「それは一体どういうこと?」
「えっと、つまりですね。あの堕天使勢は共同管理を行ってる他家、もしくはグレモリー家より上の立場の冥界上層部の許可を得て、ちゃんとした種族間の手続きの様なものを行った上でグレモリーの管理地に居るんじゃないかってことです。
で、管理地に入った後に好き勝手暴走して現在に至ってる可能性はないか、って確認がしたいんです。端的に言うなら、俺が疑ってるのは手引きではなく、情報伝達のミスについてです。ま、疑ってることには違いありませんけど」
「……あなたの言いたいことは概ね理解したわ、イッセー。もし、堕天使達が正式な形で私達の管理地に居たとしても、こちらは不利益を被っているのだから堕天使達を裁く大義名分があるということでしょ?
逆に不法侵入であった場合も、冥界上層部の者を交えて会議を行えば、私達で不法侵入者である堕天使達を裁いたとしても、会議に参加した冥界上層部の者を通して堕天使側に抗議を行い、戦争への発展を回避できるということね」
「流石にそこまで考えてはいませんでしたよ。俺がそこまで考えてたと思われたなら、買い被りってものですよ」
「……そう。あなたがそう言うなら、そういうことにしておきましょう。でもね、イッセー。次からは紛らわしい言い回しは止めなさい。特に上級以上の悪魔の前では、ね。喧嘩を売ってる様に思われる可能性がある上、下手をすればその場で殺されかねないわ」
「……以後気を付ける様に努力します」
俺がそう返答すると、部長は軽く溜息を吐いてから席を立ち、部室の端へと移動してから小さい魔法陣を展開し、ボソボソと何か話し始めた。どういった会話をしているのかまでは流石に聞き取ることができない。
もし、現実に『SAO』のスキルが存在していて、聞き耳スキルを上げていれば部長の会話を聞き取れたかもしれない。
まぁ、それが現実化しても俺の場合は聞き耳スキルなんて習得しないけど。聞き耳を習得する位なら索敵スキルと隠蔽スキルでスキルスロットを埋める。
ちなみに俺が『SAO』で習得していたスキルと熟練度は、片手用直剣:1000(完全習得)、片手用曲刀:903、刀:512、二刀流:1000(完全習得)、体術:935、投擲:1000(完全習得)、武器防御:1000(完全習得)、戦闘時回復:1000(完全習得)、応急回復:933、索敵:1000(完全習得)、追跡:1000(完全習得)、隠蔽:1000(完全習得)、暗視:940、限界重量拡張:1000(完全習得)、軽業:920、疾走:930、舞踏:896、釣り:623だ。
………改めて思い返してみると、完全習得率が結構高いな。18あるスキルスロットの半分が完全習得だ。最前線に挑む攻略組でも無茶振りと言える様なレべリングをソロで続けていた結果でもあるけど。
そうそう。現実で俺が再現可能なスキルも言っておこうか。取り敢えず、片手用直剣と二刀流は再現可能だ。
まぁ、俺が使用する『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』は重量的に考えれば片手用直剣じゃなくて両手用大剣だけどな。エターナルの恩恵で片手用大剣みたいに扱えるから問題ない。
片手用曲刀と刀は正直難しい。『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』の形状が形状だけに、再現し難いソードスキルが多い。
ソードスキル自体、その武器の形状やリーチに合わせたものが採用されていたからな。第9の剣・『羅刹の剣』や『闇の羅刹剣』なら再現できるだろうけど。まぁ、この2つは使用頻度が低かったし問題ないだろう。
体術は前世で斉天大聖から直々に武術を叩き込まれたから自信がある。まぁ、色々なジャンルに手を出していたこともあって、達人レベルまで達してなくとも玄人レベルではあるだろう。一応、鎧通し――浸透勁や鎧崩しとかも使える。
投擲も前々世で『十字結界』を自分から離れた位置に張る為に投擲してたりしたから、それなりの自信はある。流石に『SAO』のスキルの様に完全習得とまでは言えないけどな。
武器防御は『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』の硬度自身がかなり高いし、通常時の俺の膂力も相当強い上、竜闘気があるから『SAO』の武器防御なんて比べ物にならないだろう。
戦闘時回復に関しては、実はエターナルから帰還した際に竜闘気と一緒に習得していたりする。八大神の加護でクラスチェンジした双竜剣士自身も双剣士の上位互換みたいなもんだったからな。
双剣士が保有していた固有スキルが強化付与されていても変ではない訳なんだけど。回復率については、いずれ詳しく話す機会もあると思う。
釣り以外のその他のスキルは『文珠』を使えば何とかなると思う。応急回復とか、基本的に出血判定で常に一定ダメージを喰らい続ける状態を処置するスキルだから、現実で本格的に習得するとなると医療知識とかも必要になるだろう。それなら『文珠』で強制回復する方が速い。
索敵や隠蔽は霊力知覚の応用で何とかできるだろうけど、俺は知覚能力がそんなに高くないから、『文珠』の補助なしとなると修業が要必要といった所か。
何はともあれ、『SAO』で俺のアバターが習得していたスキルは大体再現が可能ってことだ。まぁ、熟練度が限界突破しそうなのもあれば、逆に下がるのもあるだろうけど。
……今更だけど、俺は一体誰に自分のスキル解説をしているんだ?もしかして、無意識の内に危ない電波でも受信してしまったのか?………何、それ?超怖いんですけど。
俺が謎の電波を受信したことに恐怖し、軽く体を震わせていると、目の前にあるテーブルに紅茶の入ったティーカップとソーサーが置かれた。ふっと顔を上げると、そこにはトレイを持った副部長が立っていた。
周りを見回してみると、俺以外の眷属の所にもティーセットが配置されている。どうやら、俺が謎のスキル解説をしている内にお茶を用意してくれた様だ。
「すみません、副部長。お茶の準備なんて本来なら一番下っ端の俺や黒歌、白音がやるべき仕事なのに……」
「……イッセー。何で私達がお茶酌みなんてしなきゃいけないにゃ?私も白音もOLじゃないにゃ」
「そうですよ、兄様」
俺が副部長に謝罪すると、黒歌と白音はティーセットと一緒に用意されたと思しきクッキーを遠慮なしに口に含みながら言ってきた。こいつら、眷属内での自分の立場を理解しているのか?
「俺達はオカ研の平部員な上、眷属でも一番下っ端の歩兵。副部長は王妃で部活、眷属共に序列2位の立場。
上司にお茶酌みさせるのは明らかにおかしいだろ。そんなこと平然と受け入れたら社会人になった時にやっていけないぞ!」
「じゃあ、私は自分で会社立ち上げて人を使う立場になるにゃ。もしくは、お父さんの会社を継ぐにゃ。それが無理なら専業主婦になるから別にいいにゃ」
「私も専業主婦になります。子育てや家事を頑張るので、兄様は姉様や私の子供を養う為に頑張って下さい」
「おい!アスナも含めたら俺1人で3家庭分を稼がなきゃならなくなるんだけど!?俺に過労死しろって言いたいのか!!?」
「あらあら、まぁまぁ」
猫姉妹の理不尽な未来予想図に俺が突っ込みを入れるという漫才染みたやり取りを、副部長は口元に右手を添えて微笑を浮かべながら見ていた。
これから他家や冥界上層部の悪魔を交えた真面目な会議が行われる前であるにも拘らず、ほのぼのとした空気が俺達の間に流れた。深読みかもしれないが、黒歌と白音は眷属メンバーの緊張を解そうとしたのかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、話が付いたのか部長が俺達のいる所に戻ってきた。疲れる会話でもしたのか、部長は何故かげんなりとした顔をしている。
「理由を説明した所、学園を共同管理してるシトリー家の次期当主――ソーナ・シトリーという名前なのだけど、会議への参加を了承してくれたわ」
ソーナ・シトリー……。シトリーは確か悪魔72柱の1柱だったな。でも、学園の関係者にソーナ・シトリーなんて人、居たか?
俺自身、学園に在籍する全ての教員・生徒の名前を把握している訳じゃないけど、部長が有名人だったことを考えれば、ソーナ・シトリーという人も学園で有名な可能性が高い。
何か、聞き覚えはあるんだよな。……ソーナ・シトリー。そーな・しとりー。そぉな・しとりぃ。そうな・しとり。蒼那・支取、蒼那―――……あっ!!生徒会会長の支取蒼那先輩か!?人間界の日本で暮らすから本名を和名っぽくしたのか!!?
……いや、違うな。本名を和名っぽくしたのは、学園の管理者と言う立場上都合のいいポストである生徒会役員に自然と溶け込める様にする為か?
うちの学園は留学生が多いとはいえ、生徒の大半は日本人。生徒も生徒会役員が日本人である方が安心する。幸いにも、生徒会長は黒髪で日本人っぽく見えるし。
俺が生徒会長の偽名の由来とか、正直言ってどうでもいい事を推測していると、部長は冥界上層部の悪魔が参加するか否かについて話し始めた。
「冥界上層部の悪魔については、現四大魔王のお1人とその王妃でグレモリー家の使用人であるメイド長が参加することになったわ」
……は?はぁあああぁぁぁぁ!?冥界上層部を通り越して支配者の魔王が参加ですか!?ってか、部長の所のメイド長が魔王の王妃ってどういうことですか!?現魔王の1人と何か縁でもあるんですか!!?
緊急会議という餌に予想だにしなかった大物が食い付いたことに俺が驚いていると、副部長が俺にさり気なく冥界事情を教えてくれた。
「実は現在の四大魔王は世襲制ではなく、冥界で最も力のある悪魔が選ばれる様になっていますの。そして、その1人が部長のお兄様ですわ」
「……部長のお兄さんが魔王様?そんな話、聞かされてないんですけど……」
副部長が話してくれた内容が予想外過ぎたこともあり、俺がついつい真顔でそう漏らすと、副部長は少し困った様な顔をしていた。何か話せない理由でもあったのだろうか?……まさか、親の七光ならぬ身内の七光で自分を見られるのが嫌だったとか?
部長はプライドが高そうな感じだから、有り得そうと言えば有り得そうだ。けど、常日頃から余裕と共に優雅な雰囲気を醸し出していることから、そういった周りからの視線をスルーしているイメージもある。
……まぁ、部長には部長なりの考えや事情があるんだろうし、詮索するのはマナー違反だな。俺だって、アスナや家族以外に前世を含む過去を詮索されるのは嫌だし。俺がそんなことを考えていると―――
「来たわ」
俺達が普段目にするものと比べてかなり小さい魔法陣が目の前に3つ現れ、部長は目を細めながらそう言った。
そして、3つの小魔法陣からSF映画に登場するホログラムの様に、小人サイズで3人の悪魔が姿を現した。内1人は俺の予想通り、この学園に通う者なら絶対に知っている人物だ。
「改めて紹介するわ。こちらが私の親友で駒王学園を共同管理しているシトリー家の次期当主」
「ソーナ・シトリーです。兵藤さん達や結城さんには支取蒼那と言った方がいいかしら?」
……俺の予想的中だよ。まぁ、名前を言われて気付かない馬鹿なんて早々いるもんじゃないだろうけど。ってか、俺と白音は黒歌とワンセットで纏められた?いや、兵藤家の中で一番年上は黒歌だから文句は別にないけど。
あと、部長と会長って親友なんだ。ここまで来ると幼馴染って可能性も浮上してくるな。まぁ、共同管理をするなら親しい者同士を組み合わせた方がいいって考えで、部長と会長は管理者にさせられたのかもしれないな。
会長の紹介が終了すると、次に部長はメイド服を着た銀髪女性の紹介を始めた。直接対面している訳じゃないけど、部長達とは格が段違いであることを感じ取れる。これ程の威圧感?それとも存在感?を感じたことは前世を含めて数えられる程だ。
「彼女はグレイフィア・ルキフグス。グレモリー家のメイド長で現四大魔王・ルシファー眷属の1人。冥界最強の王妃と呼ばれているわ」
「ご紹介に預かりました、グレイフィア・ルキフグスといいます。以後、よろしくお願いいたします」
……流石はメイドと言うべきなのか?こっちが逆に恐縮してしまう様な、とても丁寧な口調で挨拶をされた。元が猫妖怪で、素が自由気ままな性格である黒歌と白音は、そんな挨拶を受けても平常運転な感じだったが。
「そして、最後になるけどこちらが―――」
「四大魔王の1人、サーゼクス・ルシファーだ。親しみを込めてサタンレッドとでも呼んでくれたまえ。同じ赤を象徴とする者同士、仲良くしようじゃないか。今代の赤龍帝君」
部長の紹介を途中で遮って、魔王様は俺に視線を向けながら自己紹介をしてきた。俺が今代の赤龍帝であることは部長経由で知ったのだろうか?ってか、サタンレッドって何?もしかして、魔王様の二つ名とか?しかも、口調がやたらフランクだ。
……だが、フランクな口調とは裏腹に凄い存在感でもある。流石は魔王名を襲名した悪魔と言うべきか。現時点での俺では全力を出しても勝てる気がしない。力を隠しているのは分かるんだが、底が見えない感じがした。
魔王様に仲良くしようという指名を受けた俺は、「魔王様直々にその様なお言葉を頂けるなんて恐縮です」と返答しておいた。取り敢えず、失礼な返答ではないだろう。
そして、挨拶もそこそこに、参加すべき人物が揃ったので緊急会議が開始された。ここから会議の詳しい描写が始まると思っていたであろうが、残念だったな。会議描写は敢えてスキップさせて貰うことになった。
取り敢えず、会議に使用された時間は僅か1時間だったと言っておこうか。理由は魔王様も暇ではないってことだ。まぁ、そんなに聞くことが多かった訳でもないし、会議に1時間も参加して貰えるだけでも御の字だ。
結果を述べるなら、魔王様もグレイフィアさんも会長も堕天使が管理地に侵入したことに関与していなかった。魔王様とグレイフィアさんは少しばかり心当たりがあったみたいだが、その可能性もかなり低いらしい。
ちなみに、魔王様とグレイフィアさんの心当たりとは冥界で旧魔王派と呼ばれている派閥のことらしい。旧魔王派は冥界の現政権と敵対していて、特に現四大魔王を敵視しているそうだ。
実は部長だけでなく会長のお姉さんも魔王だそうで、現魔王の身内の管理地に堕天使を招き入れ、部長と会長を堕天使に殺させることで魔王2人を精神的に揺さ振ろうとしているのではないか、と話だ。
この場合、魔王への揺さ振りだけではないと俺は思う。グレイフィアさんの話で、部長と会長の身内である魔王様がシスコンであることが判明している。そんな魔王が妹を殺されたと聞かされて黙っていられるだろうか?
答えは否だ。魔王2人の命令で冥界の現政権と堕天使の間で戦争が起こるだろう。で、冥界の現政権が戦争に勝利したとしても確実に疲弊する筈だ。現政権と敵対している旧魔王派にとってそれはチャンスでもある。
運が悪ければ冥界の現政権は崩壊し、旧魔王派に乗っ取られる。運が良くても戦争に次ぐクーデターで多くの犠牲を出し、悪魔の総人口は確実に減る。正直、どっちに転んでも現政権にとっていいことは無い。
深読みのし過ぎかも知れないが、そう考えれば今回の件に旧魔王派が関与していてもおかしくはない。が、魔王様とグレイフィアさんは、その可能性はかなり低いと言った。
その理由は、堕天使の価値観に関係してくる。堕天使は基本的に悪魔のことをウザったく感じているそうだ。特に等価交換の意識がムカつくらしい。だから、余程の変わり者でもない限り、堕天使が悪魔に協力を求めることはないそうだ。
悪魔側から協力を求めたとしても、部長と会長を殺すまでは一時的とはいえ悪魔の下に就く様な扱いとなる。それは堕天使にとって恥辱以外の何ものでもないそうだ。ん?悪魔側から協力を求めることが、何で堕天使が悪魔の下に就くことに繋がるか?
……まず、ある悪魔が堕天使に管理地への侵入を手引きしたとしよう。そして、管理地に入り込んだ堕天使にその悪魔が契約を持ち掛けるとする。
「グレモリーとシトリーの次期当主を暗殺してくれれば、この管理地での行動制限や監視は行わない。暗殺完了までに行ったこともこちらでもみ消そう」
一見、依頼人と実行犯。ギブ&テイクな契約に見える。しかし、実際の所は自分の手を汚したくない悪魔が堕天使を利用しているだけだ。つまり、悪魔が使う側で堕天使は使われる側となる。
よくよく考えてみると、俺とアスナを襲撃した堕天使は自分が至高の存在であると勘違いしているイタい奴だった。そんな堕天使が悪魔の協力を得て管理地に侵入するとか有り得ないことだ。
堕天使の管理地への侵入に悪魔側の手引きがなかったとすると、次の問題は今回の侵入が堕天使勢力の総意か、それとも独断で行われているものかという話になる。
前者の場合、悪魔勢力と堕天使勢力の種族間問題となり、下手すれば種族間の戦争にまで発展する。
後者の場合、管理地への侵入を含む不法行為の数々から、堕天使勢力の管理責任能力を追及し、種族間の政治的遣り取りで優位に立つことができる。
まぁ、どちらにしても悪魔の管理地に無断で侵入した堕天使+α共は、俺達グレモリー眷属に断罪される立場であることには変わりはないだろう。その権利が俺達にはあるんだから。
俺は念の為、今回の不法侵入が堕天使側の総意か、それとも独断で行われたものかの確認ができないか魔王様に聞いてみた所、魔王様は(ホログラム的映像魔法陣だが)少しだけ席を外し、数分後に思わぬ人物を連れて戻って来た。
魔王様が連れて来たのは堕天使勢力の総督・アザゼルだったんだ。まぁ、一応は敵対勢力のボスということもあり、堕天使アザゼルは音声のみの魔法陣で登場した訳だが……。
魔王様曰く、堕天使アザゼルとは命の遣り取りをしたこともある古い付き合いで、現在も種族間の政治的遣り取りをすることもある為、互いの連絡先を知っている仲だそうだ。
堕天使アザゼルが会議に参戦したので今回の件を単刀直入に聞いてみた所、自身も知らないことで堕天使勢力の総意ではない、という答えが返ってきた。つまり、至高の堕天使(笑)は完全な独断行動ってことだ。
会議の場で、堕天使アザゼルは不法侵入を働いた堕天使+α共を悪魔側が断罪することを受け入れ、管理責任能力の追及や賠償責任等は後日ちゃんとした場で堕天使幹部と冥界政府の間で行うことを明言した所でグレモリー眷属の緊急会議は終了した。
緊急会議が終了した後、思わぬ人物が会議に参加したせいか、部長は体全体を預ける様にソファーに座り込んだ。まぁ、これは部長だけでなく、副部長や木場にも言えたことだが……。
悪魔になって日が浅いアスナや黒歌、白音は部長達ほど精神的に疲れていない感じだったが、魔王様が会議に参加したことで緊張はしていた様だ。会議終了後に軽く溜息を吐いていたし。
俺は前世で竜神や神仙、上級悪魔と接触することが多かったからか、精神的疲労度は皆無だ。多分、人外のお偉いさんとかと会話することに耐性が出来てしまっているのかもしれない。
部長がソファーに座り込んで数分後、部長の指示で悪魔稼業でもあるオカ研のこの日の活動は終了し、グレモリー眷属は転移魔法陣を使ってそれぞれの家に帰った。
そして、緊急会議が行われた翌日。独断行動をしている堕天使+α共が動き始めた。まぁ、動き始めたのは人目の付き難い時間帯な訳だが……。
ちなみに緊急会議の翌日は平日だったので、俺と黒歌、白音はいつも通り学校に行き、いつも通りの時間帯に帰って来た。うちの両親は2人共が珍しく休みだったので、アーシアと3人でゲームをしたそうだ。
うちの両親は基本的にインドア派だからな。休日でも買い物に行く必要がない限りは家から出ることは殆どない。
まぁ、趣味と特技が殆どゲームと言える様な人達だからな。正直、ヒッキーと思えなくもないが、十数年も家族をやってればそんなことも気にならなくなる。
取り敢えず、両親がインドア派のお蔭で俺や黒歌達が学校に行っている間もアーシアが拉致られる心配をする必要がなかった訳だが……。
アーシアが俺の家から出て来さえすれば、堕天使達も脅して拉致するとかできたんだろうが、家から出て来なければどうしようもない。真っ昼間から悪魔の管理地にある一軒家を襲撃したら、言い訳しようがないしな。
で、先日の似非神父の件もあって焦ったんだろう。午後11時現在、俺の家は堕天使+α共の襲撃を受けている。家の敷地の外側では4人の堕天使が空を飛び、敷地の外側の地上では20人近くのはぐれ悪魔祓いがいる。
ん?そんな大人数が襲撃して来ているのに、何で他人事の様に語っているのか、って?それは堕天使+α共は『十字結界』が張られた家の敷地の内側に干渉できないからさ。
『権天使級十字結界』を破ろうと悪戦苦闘している姿は、正直言って無様で笑える。現に俺の隣で黒歌が腹を抱えて笑っているよ。見た感じ、堕天使達は全員が下級堕天使みたいだからな。何時間頑張っても『十字結界』は破れない。
人間なんて猶更だ。はぐれ悪魔祓い達は似非神父が持っていたのと同じ光剣で『十字結界』に頑張って斬り掛かっているが、『権天使級十字結界』を破るなら、まず地上代行者にでもなってから出直すか、福音弾級の霊具でも持って来いと言いたい。
「無駄な努力、乙(笑)」
「もっと頑張って下さい。でないと日が昇ってしまいますよ?(笑)」
黒歌、白音。お前らの意見には概ね同意だが、あまり挑発するな。ゴスロリ着たチビッ娘堕天使が半泣きになっているから。(笑)
あとがき(旧)
読者の皆さん、どうにか月一更新に間に合わせることが出来ました。遅筆な沙羅双樹です。
いや、今回は本当に難産でした。ぶっちゃけ、途中から自分で何を書いているのかすら分からなくなっていましたからね。(笑)
イッセーの言っていることで色々とおかしな点があるかもしれませんが、そういった点を発見されましたらweb拍手のメッセージとかで指摘してくれると助かります。
えー。今回の話を読んで気付いた人もいるかもしれませんが、原作では「魔方陣」と表記されているものが、SAHDDでは「魔法陣」と表記しています。
理由は、前に「魔方陣」ではなく「魔法陣」では?という誤字報告を受け、修正してしまったことがあるからです。修正版を送って暫く経ってから原作を読んだ時に「魔方陣」が正しいことに気付きました。
しかし、うちにあるデータは既に全部「魔法陣」に修正済み。その他にも修正箇所を発見し、修正してしまったことからSAHDDでは「魔法陣」で統一することにしました。という訳で、その点は今後スルーする様にしてください。(笑)
そして、レイナーレ一味終了のお知らせは次話に流れます。6話で纏めきれそうになかったので分割しました。(レイナーレ一味のフルボッコを楽しみにされていた方、本当にすみません!)
取り敢えず、第一章:チーターな赤龍剣帝は長くてもあと2話で終了させる予定です。(飽く迄予定で、実行できない可能性は十分すぎる位あり得ますが……。(笑))
ちなみに次回の話を台詞にすると、「喰らえ。全周囲広範囲上位爆発剣舞!『デスペラード・ホリゾンタル』!!」になります。
という訳で、また次回もよろしくお願いします。ごきげんよう〜!
あとがき(新)
特にないです。(笑)
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