「なんだよ、この結界!クソ堅ぇんだけど!?マジあり得ないんですけど!!?」
「ミッテルト!泣き言言ってる暇があるなら結界を破るのに力を注ぎな!!」
「カラワーナ。貴様も人のことは言えんぞ?注意する暇があるなら結界を破壊するのに集中しろ。……まぁ、私も人のことは言えんがな」
「……この感じ。見たことのないタイプだけど、悪魔が苦手な教会が使用する結界に似ている?何で悪魔が住んでいる家にそんな結界が張られてるのよ!?」
俺――兵藤一誠は現在、堕天使4名とはぐれ悪魔祓い20名程に襲撃されている。正確に言うと、俺個人ではなく兵藤家が襲撃されている訳なんだが、正直言ってピンチでも何でもない。
合計24名で構成されている堕天使独立愚連隊(笑)は、必死になって兵藤家に張られている『権天使級十字結界』を破壊しようとしているが、結界には罅が入る気配すらない。
というか、堕天使4名はやる気があるのだろうか?はぐれ悪魔祓いが黙々と『十字結界』を破壊しようと頑張っているのに対し、堕天使4名は口を無駄に動かしている。本気で『十字結界』を破壊するなら、はぐれ悪魔祓いの様に黙々と手を動かすべきだ。
もっとも、黙って手を動かした所でどうにかなる訳じゃないだろうけど。まぁ、命を対価に事を為そうとすれば、結界を破壊し、この身に届くやもしれんが……。
そんなことはさて置き、深夜にも拘らず堕天使共はギャーギャーと五月蠅いな。近所迷惑な上、秘匿する気があるのか疑わしく思えてくる。……いや、流石に防音結界や認識阻害の結界位は張っているか?
……まぁ、向こう側が結界張っているかどうかなんて、正直どうでもいいけどな。一般人に見られて通報されても、俺達は知らぬ存ぜぬで通す。オカルトにのめり込んだキチガイ集団が勝手に俺達の家の前で暴れて騒いでいたと、完全な被害者であることを装うし。
……ところで、至高の堕天使(笑)は馬鹿なんだろうか?叫ぶ様に『十字結界』の質問を投げ掛けてきたけど、そんなことを親切に教える訳が無いだろう。取り敢えず―――
「襲撃して来る様な奴らに結界の秘密を暴露する訳ないだろ。あと、至高の堕天使ってのは自分で考えるってこと知らないのか?……ああ、お前らは堕天使じゃなくて烏天狗の類なんだな。
烏だけに鳥頭なんでお馬鹿さんという訳だ。いや、実際の烏は鳥の中でもかなり頭がいいからな。お前らを同列と考えるのは烏に失礼か。それじゃあ、お前らは烏天狗ではなく鳥人だな。鳥人なら鳥人らしく、イースター島にでも引き籠ってろよ」
「……ちょ、鳥人ですって?至高の堕天使であるこの私を鳥人扱い?……私達堕天使をあんな下等生物と一緒にするな!それに悪魔風情が私達を見下す様な発言をしてんじゃないわよ!!」
「お前こそ他種族を見下すなよ。堕天使なんて、所詮は純天使でいられなくなった落後者だろ。偉ぶってられる立場か?ってか、至高の堕天使って至高の落後者と同じだよな。超笑えるわ」
俺の発言がツボに嵌まったのか、俺の隣で黒歌が大爆笑していた。その黒歌の隣では白音が必死に笑いを堪えようと震えている。
よく見ると、『十字結界』を破壊しようとしていたはぐれ悪魔祓い軍団の動きもぎこちなくなっている。どうやら、はぐれ悪魔祓い軍団もツボったらしい。
そんな俺達の反応が癇に障ったのか、空中にいる堕天使4人は白音とは別の意味でプルプル震えている。特に黒一点である男堕天使と水商売でもしてそうなイケイケ系女堕天使の額には青筋が浮かび上がっている。そして―――
「「「「き、貴様らーーーー!!!」」」」
堕天使4人はキレた。それと同時に今まで『十字結界』を破壊するのに放っていた光力の威力が上昇した。怒りに呼応でもしたのだろうか?
さっきまでの光力が家庭で使用される打ち上げ花火なら、今は町内会で行われる夏祭りの打ち上げ花火といった所だろう。
ただ、その光力も『権天使級十字結界』によって全て弾かれ、無駄に終わっている。……いや、普通に弾かれて無駄に終わるだけならまだマシだろう。どうして俺がそんなことを思うか。その答えは俺の目の前で広がっている光景にある。
それは弾かれた光力が地上に居るはぐれ悪魔祓い達の頭上に降り注ぐというものだ。この光景を目にした俺は、思わず小学生の頃に黒歌や白音にせがまれて見た、日本では有名な某アニメーション映画企業製作の映画のDVDを思い出した。
とても印象に残る台詞を言うキャラクターが居たんだ。それ台詞とは―――
「黒歌、白音。見給え、まるではぐれ悪魔祓いがゴミの様だ」
実際に使われていた台詞とは違うが、今のはぐれ悪魔祓いの状態を見事に表している台詞だ。はぐれ悪魔祓いは絨毯爆撃の様に降り注ぐ光力を必死に回避するが、地面に着弾した瞬間に光力は爆発を起こし、その衝撃ではぐれ悪魔祓い達は空高く吹き飛ばされる。
当然、吹き飛ばされたはぐれ悪魔祓いが辿る運命は1つ。空を飛べない普通の人間は重力には逆らえない。つまり、落下して地面に叩き付けられるって訳だ。はぐれ悪魔祓い達が落下する光景は正に映画とシンクロしていた。
ちなみに、俺の隣にいる黒歌は未だに爆笑している。俺の言った台詞が更に黒歌の笑いのツボに嵌まったみたいだ。今まで知らなかったけど、黒歌はゲラなのかもしれない。
白音も相変わらず笑いを堪えて震えている状態だけど、よく見ると右手で左の二の腕を抓っている。黒歌の様に爆笑しそうなのを必死に耐えようとしているみたいだ。
そして、堕天使4人は俺や黒歌、白音の反応が更に癇に障ったのか、光力を用いた攻撃を更に派手なものにしてきた。今まで使っていた光力の上位技に当たるものと推測できる。
が、その上位光力技を使用するのに堕天使4人は実力が伴っていないのか、さっきと変わらず『十字結界』に弾かれている。
俺に言わせてみれば、今使用されている上位光力技もどきは派手さが上がっただけで威力は堕天使4人がキレて以降の光力と大して変わっていない。
そろそろ諦めて帰ってくれないものか。俺がそんなことを思いつつ、千日手としか言い様のない目の前の光景を眺めていると、背後から玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
俺は予想外の出来事に驚き、一瞬体を硬直させてしまい、爆笑していた黒歌と笑いを堪えて震えていた白音も笑いを潜めた。そして、俺達がほぼ同時に玄関の方へと振り向くと、そこには家の中で寝ている筈のアーシアがいた。
何でアーシアが家の外に?そんな思いが俺の頭を駆け巡る。そして、黒歌と白音も俺と同じ思いなのか、2人とも普段見せることのない少し動揺した表情を浮かべているのが横目で確認できた。
言い訳がましいかもしれないけど、俺達3人が動揺したのにはちゃんとした理由がある。現在、俺の家は二重の結界に覆われている状態なんだ。1つは家の敷地全体を覆う『十字結界』。もう1つは黒歌と白音が仙術で形成した家だけを覆っている防音結界だ。
黒歌と白音は元が猫又の妖怪である為、聴力が元人間の俺より格段に優れている。だから、2人は襲撃を受ける前に堕天使独立愚連隊(笑)が近付いてきていることに逸早く気付いたんだ。
で、堕天使独立愚連隊(笑)が到着する前に、俺達3人は家の外――前庭に出て、普段は張っていない防音用の結界で家を覆ったんだ。両親とアーシアの安眠を守るのと、堕天使独立愚連隊(笑)が『十字結界』に悪戦苦闘する姿を見る為に。
……え?どうして防音結界で家を覆う必要があったのかって?実は家の敷地を覆っている『十字結界』は衝撃だけでなく、ある一定以上の大きさの音も防ぐ機能があるけど、完全防音という訳じゃないんだ。
つまり、『十字結界』で防ぎきれなかった音を黒歌と白音の防音結界で完全にシャットアウトすることで、うちの両親やアーシアには朝までぐっすり眠って貰っている計画だったんだ。
うちの両親は一度寝りに就くと、起床予定時間までどんなことが起きようと目を覚まさない。そして、アーシアもうちの両親と似た様なタイプだ。
たった数日だが、俺達は一緒に過ごしたことで、アーシアの生活習慣を知っている。アーシアはいつも夜10時には就寝し、朝5時には起床するんだ。
その7時間の間は、例えばトイレの水が流れる音や、廊下の軋む音が聞こえてもアーシアは起きて来なかった。
俺達に気を使って、部屋から出なかったという可能性も考え、黒歌と白音に仙術による生体感知の一種を使って調べて貰ったが、確認できたのは素で眠っているということだけだった。
そんなアーシアが、防音処置をしているにも拘らず、寝てから2時間も経たない内に起きてくるなんて誰が思う?思わないだろ、普通!!
俺が心の内でそんなことを叫んでいると、驚いた顔で俺達と結界の外側に居る堕天使独立愚連隊(笑)を見ていたアーシアが口を開いた。
「い、イッセーさん。これは一体……」
「アーシア、これは―――」
「アーシア・アルジェント!今すぐそいつらから離れなさい!!そいつらは悪魔なのよ!!!」
俺がアーシアの質問に答えようとすると、至高の堕天使(笑)を自称するクソ女が会話に割り込んできた。
「あ、あなたは?」
「私はレイナーレ。教会から追放されたあなたをこの町に呼び寄せ、救いの手を差し伸べようとした堕天使よ。そこにいる薄汚い3匹の悪魔に妨害されてしまったのだけど」
「あ、悪魔?イッセーさん達が……?」
「そうよ!その薄汚い悪魔達は、生贄を必要とする儀式にあなたを利用しようとしているの!!そこに居ては危険だわ。今すぐ、私達の所に―――」
「黙って聞いてれば、好き放題言いやがって。嘘も大概にしろよ、鳥女」
俺の会話に割り込んだだけでは飽き足らず、鳥女は耳障りなことを言い出したので、さっきとは逆に会話に割り込んでやった。
「アーシアを利用しようとしてるのは、お前らの方だろうが!!」
「何ですって!?」
「アーシア。君は何か特別な力を持ってるね?」
「は、はい。治癒の力を持っています」
「あの堕天使達は、その治癒の力を奪おうとしてるんだ」
「アーシア!悪魔の言葉に騙されては駄目よ!」
「鳥女は黙ってろ!!……アーシア。確かに、俺達は悪魔だ。けど、あいつらは悪魔以下の外道なんだ。あの鳥女は神器所持者というだけで、1人の人間を殺そうとしたことがあるんだ。
それに、あいつらの仲間であるはぐれ悪魔祓いは、悪魔と契約しているという理由だけで、一般人を拷問染みた方法で殺している」
「そんな……」
俺の言葉に、アーシアは信じられないと言わんばかりに目を見開き、口元に手を添えた。
「アーシア。君はそんな奴らの言うことを信じるのか?そんな奴らについて行くというのか?」
俺がそう問いかけると、アーシアは無言で首を横に何度も振った。すると―――
「……最悪。何で悪魔と人間風情が、至高の堕天使である私の手を煩わすだけでは飽き足らず、逆らったりするのよ。
回りくどいやり方はもういいわ。アーシア・アルジェント、今すぐ私達の所に来なさい。でないと、この家の住人を全員殺すわよ。
言っておくけど、これは冗談なんかじゃないわ。私は本気よ。でも、あなたが私達の所に来るなら、そこにいる悪魔も含めて手を出さないことを約束してあげる。
この約束は、アザゼル様とシェムハザ様に誓ってのものだから嘘ではないわ。私が人間風情に、ここまでしてあげてるんだから、早く来なさい」
鳥女はついに脅しという直接的手段に出てきた。そして、鳥女の言葉にアーシアは顔を俯かせ、『十字結界』の外へと繋がる門へと歩を進め始めた。
しかし、アーシアはその行く手を阻む為、立ち塞がった黒歌と白音によって、その歩みを止めることになった。
「アーシア、一体何処に行くつもりにゃ?」
「脅しに屈して、あの鳥女の所に行くつもりですか?」
「……………」
「そんな人柱みたいなことをされても、私達は嬉しくないにゃ!」
「そうです!私達だけじゃなくて、父様や母様も喜んだりしません!!」
「……でも、私が行かないとイッセーさんや黒歌さん、白音ちゃん。それに小父様や小母様が狙われ続けることになります」
「降りかかる火の粉は、その都度払えばいいだけの話にゃ」
「むしろ、払うより粉砕する。もしくは叩き斬るというのが、私達っぽいですけど」
黒歌と白音は、そう言いながら視線だけ鳥女達に向け、今まで感じたことのない怒気を込めながら睨みつけていた
「……さ、三文芝居に付き合ってる暇なんて、私達にはないのよ!さっさとアーシアを渡しなさい!!さもないと、本当に一家全員を皆殺しにするわよ!!」
鳥女は黒歌と白音の怒気に怯み、その場から少し後退しつつも2人を睨み返し、今までで一番大きな声でそう言ってきた。
しかし、第三者視点で見ると、2人の怒気に少しでも後退してしまった時点で、どれだけ大きな声で脅しを掛けようと、虚勢を張っている様にしか見えない。
「一家全員皆殺し、か。確かに、何の力も持っていない父さんや母さんなら、お前らみたいな鳥人でも片手間で殺すことができるだろうな。けど、お前ら程度が俺を殺す?笑えない冗談だ。それに俺を本気で怒らせてくれたな!」
俺はそう言い終えると、竜闘気を全開状態で纏い、更に魔力と霊力を体の内から外へと放出した。
すると、結界の外側に居るはぐれ悪魔祓い達は、膨大な魔力と霊力から発せられる威圧感に耐え切れなくなり、口から泡を吹きながら倒れていった。
堕天使4人組も、俺が放出した魔力と霊力の量に顔を蒼くさせ、さっきの憤怒とは別の意味でガタガタと震え出した。
「聖書にすら記されていない最下級堕天使の分際で……、俺の家族を殺す?調子に乗るのも大概にしろよ!」
理性こそ失っていないものの、霊力や魔力を放出する程の怒りを覚えたのは何時以来だろうか?一番古い記憶では、爵位も持たない最下級悪魔にロゼットが攻撃され、一時的に動かなくなった時だったか。
前々世で、マグダラ修道会の上司だったユアン・レミントン牧師から、激情を制御する大切さを教わったが、俺は身内のこととなるとつい感情的になってしまう癖がある。
そんな感情的になった俺を止めてくれるのは、いつも原因となっている身内だったりする訳なんだけど……。
「イッセー、落ち着くにゃ。私や白音、アーシアに霊力や魔力の奔流が来ない様、無意識の内に制御しているみたいだけど、殺気立ってたら意味ないにゃ。それじゃあ、別の意味でアーシアに悪影響を与えて、本末転倒にゃ」
俺は背後から抱きしめられながら、黒歌にそう言われた。言われてすぐに殺気を抑え込み、アーシアの方に視線を向けると、そこには地面にへたり込んでいるアーシアがいた。
俺の殺気の余波に当てられ、アーシアは意識を失う一歩手前だった。よくよく考えれば、アーシアははぐれ悪魔祓いの所業に信じられないという顔をしていた。そんなアーシアに殺気への耐性がある訳が無いのは必然だ。
正直言って変なトラウマになられても困るので、俺は『文珠』を使ってアーシアのメンタルケアをすることにした。
無論、堕天使独立愚連隊(笑)に背を向ける形で、『文珠』そのものは見えない様にして使用した。使用した『文珠』は合計で6個。刻んだ文字は記・憶・改・竄と睡・眠だ。
記・憶・改・竄で、俺の殺気によって気を失ったという記憶を、堕天使達の攻撃に驚いて転倒し、気絶したという記憶へと改竄し、睡・眠によって強制的に眠りに就かせることで、精神的ダメージを少しでも回復させようという考えだ。
ん?何で『太極文珠』じゃなくて『文珠』の方を使ったのか?確かに、『太極文珠』の方が『文珠』より性能は上だ。1個で2文字刻めるし、何度も再利用が可能という利点もある。
しかし、『太極文珠』にも欠点はある。それは燃費だ。『太極文珠』1個に消費される霊力量は、『文珠』6個分に相当するんだ。
『太極文珠』も『文珠』と同じで、複数個作ることは可能だが、今回の様に記・憶・改・竄という形で、2個以上を同時使用する必要がある場合、『文珠』を使った方が霊力的にも効率がいいんだ。
まぁ、通常の悪魔の駒を変異の駒に変化させた時の様な、全く別の性質のものに変化させる場合は、『文珠』より『太極文珠』の方が成功率は高くなるから、『文珠』より『太極文珠』を選ぶことになる訳なんだけど……。
って、『文珠』の説明なんてどうでもいい。今はアーシアだ。アーシアは『文珠』によって眠りに就き、すぐ傍にいた白音によって抱きかかえられている。
白音は一見小柄な美少女で腕力なんかとは無縁に見えるが、実際は成人男性数人を余裕で持ち上げられる怪力の持ち主なんだ。まぁ、それは黒歌にも言えることだけど。
2人が筋肉質だと勘違いされたくないから言っておくが、2人とも仙術で身体強化することで怪力を得ているのであって、普段から怪力な訳じゃないからな。
さて、その怪力で抱きかかえられているとはいえ、眠りに就いた人間をいつまでも外に放置しておくのは問題がある。
俺はアーシアを部屋に戻す様にアイコンタクトで指示を出すと、白音は軽く頷いてアーシアを抱えたまま家の中へと戻って行った。
こういう時の以心伝心っていうのは本当に助かる。日常生活で思考を読まれるのは、正直どうかと思うことが多いけど。
おっ?今度は何で白音とアーシアだけを先に家に戻したか?確かに、俺だったら堕天使独立愚連隊(笑)を瞬殺して、全員で部屋に戻って寝るってこともできなくはないな。
俺がこの場に残ったのは、人を道具としか考えていないであろう堕天使4人組を絶望へと叩き込む為だ。
「堕天――いや、駄天使。お前らにはアーシアを騙し、脅迫してくれた礼に良いことを教えてやる」
「い、良いこと?なんだよ、それ?」
つい先程まで霊力と魔力で威圧していた俺が穏やかな声色で話し掛けると、ミッテルトと呼ばれていたゴスロリの駄天使がビビりながらも聞き返してきた。
「お前らがやってること、既に神の子を見張る者の総督であるアザゼルは知ってるぞ」
「なっ!!?」
俺の言葉に、今度はカラワーナと呼ばれていた女駄天使が反応してくれた。他の駄天使達も驚愕といった顔だ。
「実は、お前らの仲間のはぐれ悪魔祓いに襲われた日に、映像越しだが魔王様と謁見する機会があってな。その魔王様経由でアザゼルと会話することができたんだよ」
俺がアザゼルと会話した経緯を話すと、駄天使達の顔は面白いほど蒼くなっていった。血の気が引くとは、正に今の駄天使達の顔のことを言うんだろう。
「お前らがグレモリー家とシトリー家の共同管理地に無断で侵入してることを話したら、こっちの好きな様に処断していいって答えが返って来たよ。あと、神の子を見張る者に戻って来たとしても、それ相応の裁きを下すって言ってたな」
アザゼルに切り捨てられた旨を伝えると、駄天使達は顔色を蒼から白へと変化させていた。黒一点の男駄天使など、急激なストレスのせいか、顔だけでなく髪の色まで変化させていた。
「おめでとう。これでお前らはそこの悪魔祓い達と同じはぐれの仲間入りだ」
神の子を見張る者が駄天使達を討伐対象とするかまでは分からないけど、戻れない以上はぐれ堕天使と言っても差し支えはないだろう。
駄天使達はショックのあまり飛ぶ力も失ったのか、ヨロヨロと地面に着地し、その場で両手をついた状態で項垂れた。特に俺とアスナを襲い、アーシアを脅迫していた女駄天使の項垂れっぷりは、他の3人と一線を画している。
まぁ、敬愛する人物に切り捨てられたら、そうなってもおかしくはないか。けど、俺の家族を殺すといった奴らに、絶望を与えるだけで許すほど俺は優しくない。
「涙を誘うほど哀れだな。そんな哀れなお前らに、悪魔の俺が救いの手を差し伸べてやろうか?」
俺がそう問いかけると、面白いことに駄天使4人組は一斉に顔を上げてきた。
「俺と死合をしよう。明日、魔王様を経由してアザゼルと交渉してやる。お前らが俺を殺せたら無罪放免。ついでにアーシアの身柄も引渡そう。ただし死合である以上、お前らが負けた時の対価もまたお前らの命だ。
死ぬ覚悟があるはぐれ悪魔祓いなら、助っ人として連れてくることも許そう。場所と時間が決定し次第、お前らが拠点として使っている廃教会に使いを出す。どうだ?」
俺が一見すると命懸けの決闘とも受け取れる提案をすると、駄天使達は馬鹿みたいにそれに乗ってきた。それが冥府への片道切符とも知らずに。
あとがき
読者の皆さん、(一応)1ヶ月ぶりです。更新予告をしておきながら、5月の更新ができなかった沙羅双樹です。
しかも、ただ更新できないだけならまだしも、改訂なんてものを行って新規更新を遅らせた愚か者です。(泣)
その上、予告を有言実行できず、話を分割する始末。
(それ以外にも本作内で『ヵ月』と『ヶ月』が入り混じっているという指摘を友人から受けました。それを聞いた時、「何故、改訂版作成時に私は気付けなかったのか!?」と軽いショックを受けましたよ。取り敢えず、『ヶ月』で統一します)
取り敢えず、今回の話にサブタイを付けるとしたら、≪駄天使絶望編≫といった所でしょうか。そして、次回こそはバトルパートでもある≪駄天使殲滅編≫、もしくは≪駄天使生き地獄編≫です。
第一章:チーターな赤龍剣帝は、あと2話で完結させます。そして一章が終了すると、次は第二章:攻略されるフェニックスの開始です。
焼き鳥君がどんな目に合うか、気になっている方もいると思いますが、もう少々お待ちください。
そうそう。今更ですが、本作品では悪魔の駒の名称が原作と異なっています。
王妃(本作)=クイーン=女王(原作)
城兵(本作)=ルーク=戦車(原作)
僧兵(本作)=ビショップ=僧侶(原作)
騎兵(本作)=ナイト=騎士(原作)
歩兵(本作)=ポーン=兵士(原作)
こんな感じですね。本作での名称は本来のチェスで使用されている名称を極力使用する様にしています。
(ルールブックや子供向けの指南書によって駒の呼称は若干異なったりするみたいですが、私が参考にした指南書には上記(本作)の呼称が使用されていたので、女王も王妃に変更しました)
私もチェスのクイーンは女王を表していると思ったんですが、本屋でチェスの指南書を見てみると、王妃または大臣、将軍を表していると書かれていて驚きました。
ちなみに、女王も王妃も共にクイーンと呼称されるみたいですね。正確には、女王=Queen Regnant。王妃=Queen Consortと区別はされているみたいですが……。
チェスのクイーンが女王ではなく王妃や将軍、大臣を表しているのは、王政国家で基本的に王と女王が同時に存在することが無いからだとか。(稀に共同国王という例外もあるみたいですが……)
そうそう。王の伴侶は王妃と呼ばれますが、女王の伴侶を何と呼称するか知ってますか?王配もしくは王婿というそうです。
(王妃の敬称が陛下であるのに対し、王婿の敬称は殿下なんだとか……)
まぁ、そんな訳で本作では悪魔の駒の名称が原作とは異なっているということだけ、覚えておいてください。
それでは、また次回お会いっしましょう。皆さん御機嫌よう!
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