私――結城明日奈の目の前で起こった出来事は、見ている者全員を戦慄させるには十分過ぎる光景だった。
鉄塊とも表現できる厚みのある大剣に貫かれ、縦に一刀両断されるヒト。そして、まるで雨の様に飛び散る血液。
創作物で血の雨という表現を見聞きすることがあるけど、それを実際に目にすることになるとは少し前までは思いもしなかった。
それに氷塊に閉じ込められたヒトや、体を焼かれて狂った笑い声を上げるヒト。肉片すら残すことが許されず爆破されるヒトというのも、ダークファンタジー系の創作物で目にすることはあっても、実際には普通あり得ない。
私自身、『SAO』でのデスゲームを経験していることから、一般人と比べて命のやり取りというものにもある程度の耐性があると言える。
けど、『SAO』も所詮はVRMMO。負傷しても体から出て来るのは血を模したポリゴン片で、刃傷などにおいては生々しさと無縁な世界だった。
現実世界で私が初めて殺めた存在――はぐれ悪魔のバイサーも、首を刎ねた時の感触こそは生々しいものだったけど、血が噴き出るということが無かったので、この場の光景に比べればマシと言えるものだった。
今思えば、バイサーの首を刎ねても血が噴き出なかったのは、『聖剣創造』で創造した『ランベントライト』で止めを刺したからなのかもしれない。
あと、この場にいるヒトにとっての数少ない救いは、結界によって衝撃だけでなく臭いまで外部に漏れない様になっていることだと思う。
もし結界が無かったら、血液独特の臭いや爆裂傷なんかのヒトの体の焼ける臭いがこの場にまで届き、嘔吐するヒトが居てもおかしくなかった筈だから。
例を挙げるならアーシアね。アーシアは目の前の光景でも顔を青くしている。もし、この状態に臭いが加わっていたら嘔吐していてもおかしくはない。
私も平静を装う様にしているけど、第三者から見ればアーシア程ではないだろうけど、青い顔をしていることが予想できる。というか、青い顔をしている自覚がある。
オカ研の部長で、私の主でもあるリアスや先輩悪魔でもある朱乃とユウちゃんも、蒼白とまで言わないものの顔色がいいとは言えない。
リアスと同じ上級悪魔で、駒王の生徒会長でもあるソーナ・シトリーさんとその眷属と思しき数人の女の子達も、リアスたちと同じで顔色があまり良くない。
そんな中、私とは違って本当の意味で平然としているヒト達が、私達のいる新校舎屋上に用意された観客席にいた。それは魔王様方と堕天使の総督、堕天使側の上段に座っている幹部のヒト達だ。
以前、リアスに説明して貰ったことがあるんだけど、現四大魔王様方や堕天使勢力の幹部クラスは悪魔と堕天使、天使の三大勢力が三つ巴の戦争をしていた時、戦場を駆けた経験があるみたい。
悪魔側が人間を含む他の種族を転生させる手段を取っていることから、どの勢力も多大な犠牲を払った戦争だってことは想像できるし、そんな戦争を経験したヒト達なら、目の前の光景に全く動じないのも納得できる。
それと観客席にいるグレモリー眷属で私と親しい姉妹、黒歌と白音ちゃんも何故か分からないけど、魔王様方と同じで全く動じていなかった。
彼女達が元々は妖怪で、私の恋人である兵藤一誠――イッセー君に偶然拾われたことを切っ掛けに兵藤家の養子になったことは、イッセー君の秘密と一緒に聞かされていた。
けど、黒歌達が兵藤家の養子になるまでのことは聞いたことが無い。無理に聞き出すつもりは無いけど、もしかしたらその時に色々とあって、こういった光景に慣れているのかもしれない。
正直、この光景を作り出したヒトが私と何の関係も無い人物だったなら、無理に平静を装うなんてことはしないで、嫌悪なんかの負の感情を私は当人にぶつけていたと思う。
……ううん。下手をすれば立場を弁えず、本当の意味で平然としている魔王様方や黒歌達まで責め立てていた可能性もあり得る。
そうならないのは、この光景を生み出した張本人がイッセー君だから。そして、私がリアス達も知らないイッセー君の秘密を知っているから。
イッセー君の秘密。それは彼が今世を合わせて3度の転生というものを経験していて、その内の2回で大切な人を守れず、今もその事を後悔し続けているということ。
それ故に、イッセー君は自分の大切な存在―――身内に害を為す者に対しては一切の情を掛けることがない上、容赦が無い。
イッセー君の秘密は他にも色々とあるけど、取り敢えず私はその秘密の全て受け入れた上で一緒にいる。だからこそ、私は彼のどんな姿を見ても拒絶しない。
けど、イッセー君の秘密を知らないヒト達にとって、彼は私や黒歌達の様に簡単に受け入れられる存在じゃなかった。
同じ転生悪魔である朱乃やユウちゃん、シトリー眷属の娘達。純血悪魔であるリアスやソーナ会長。その上、イッセー君が救おうとしたアーシアまでもが、拒絶まで行かないものの畏れを抱いた瞳で彼を見ている。
それはイッセー君の本質が理解されていないということでもある。正直な話、私は今この場でイッセー君の秘密を暴露してでも、皆が抱いてしまった誤解を解きたいと思っている。
でも、そんなことはできない。イッセー君の秘密を暴露する権利があるのは、黒歌達と出会うまで両親にも秘密にしていた彼自身だけだから……。
イッセー君の秘密を知る1人として、また彼を支える恋人として、情報開示の制限がされているとはいえ、彼の誤解の1つも解くことができないなんて、本当に自分の不甲斐なさに情けなくなってしまう。
そんなことを考えていると、私達がいる観客席の前方――丁度両種族の中間に当たる所に魔法陣が浮かび、光輝き出した。
光が治まると、そこにはさっきまでグラウンドで駄天使達の処刑の立会人をしていたグレイフィアさんと堕天使副総督のシェムハザさん、そして血塗れなままのイッセー君が立っていた。
この時、私はイッセー君に少しばかりの違和感を覚えた。平然とした態度なのに、どこか不快感が滲み出ている的な、なんとも矛盾した違和感だ。
畏怖などの視線を向けられたことに対する悲壮感ならまだ分かるけど、そういった哀の感情とはまた別の方向のものを感じ取った私が疑問に思っていると、血塗れのイッセー君が口を開いた。
「この様な姿で魔王様方や堕天使総督、両陣営上層部の方々の前に現れたこと、先に謝罪させていただきます。誠に申し訳ありません。
しかし、この場に来て下さった大半の方は、無駄な時間を過ごすことが許される立場ではないと愚考し、敢えてこの身の汚れを清めるのを後回しにして馳せ参じた次第です。
……御見苦しい姿を長々とお見せするのも無礼なことと思いますので、用件も手短にさせて頂こうと思います。
まず、自分の様な悪魔になって日の浅い若輩者の私闘の為に、この様な戦いの場を用意して頂いたことに心から感謝します」
私はイッセー君の口から発せられる言葉に、失礼かもしれないけど正直驚いてしまった。だって、『SAO』でも年上の団長やエギルさん、クラインさんに敬語を使ってる所を見たことないし、主であるリアスにもここまで畏まった話し方をしたことが無い。
まぁ、それは私が知らないだけなのかもしれないけど。もしかしたら、イッセー君なりの線引きで畏まった対応をする相手を決めているのかもしれない。
前にイッセー君とお父さんが話してる所を見たことがあるけど、どんな話をしているかや、その時のイッセー君の話し方を聞いたりしていない。けど、イッセー君はその時に今の様な畏まった話し方をしていたのかもしれない。
「しかし、それとは別にこの度の件で自分を含むグレモリー眷属は、貴重な契約者を失うという損失を出し、また人間であるアーシア・アルジェントは神器を摘出され、その命を無惨にも奪われそうになりました。
そして、こちらが望んだことではありますが、本来ならば同組織に所属していた者がすべきことを、自分が尻拭いをしたというのもまた事実です。故に、自分は堕天使勢力である神の子を見張る者に賠償を要求したいのですが、よろしいでしょうか?」
イッセー君は畏まった喋り方ではあるけど、凄く刺々しい言い方で堕天使勢力――というか、総督であるアザゼルって人に話し掛けている。
しかも、尻拭いって所を強調している始末。これじゃあ、イッセー君が堕天使の総督にケンカを売っている様にしか見えない。
「………賠償の内容にもよるな。俺を含む神の子を見張る者の幹部に自害しろなんて要求だったら、とてもじゃないが受け入れられない」
「そんな大それた要求はしません。自分が要求する賠償内容は、今後この様なことが二度と無いように神の子を見張る者の下っ端堕天使をしっかりと管理すること。
アーシア・アルジェントの神器並びに命を神の子を見張る者所属の堕天使が二度と狙わないこと。
神の子を見張る者の起こした不祥事は神の子を見張る者で処理すること。ぶっちゃければ、自分の尻は自分で拭け。この3点です」
堕天使総督のアザゼルさんがイッセー君に威圧するような視線を送りながら賠償内容を問うと、イッセー君はそんな視線を気にすることも無く賠償内容を口にした。すると―――
「に、人間から転生したばかりの下級悪魔風情が何たる言い草。貴様、一体何様のつもりだ!!?」
私の予想通り、イッセー君がケンカを売っていると受け取った堕天使側、その観客席中段以降に座っていた堕天使達がイッセー君を罵倒する様な声を上げてきた。
「お前ら、十数年程度しか生きていないガキ相手に何マジギレしてんだ?ってか、五月蠅いから黙れ」
「アザゼルの言う通りです。それに彼の言うことには一理あります。兎に角、少し落ち着きなさい」
イッセー君を一方的に罵倒する堕天使達に、アザゼルさんとシェムハザさんは一旦落ち着く様に言った。しかし、堕天使達は怒りで頭に血が上っているせいか止まらなかった。
「何故ですか、アザゼル総督!それにシェムハザ副総督も!!あの下級悪魔は我々に対し、自分に面倒事を全て押し付けた無能だと言ってきている様なものなのですよ!?
総督と副総督だけではありません!サハリエル様やタミエル様、ベネムネ様、アルマロス様もあの下級悪魔にどうして何も言い返さないのですか!!?」
……実際の所、部下の行動を掌握できない時点で組織として色々と終っているだろうし、幹部級のヒト達はそれを十分に理解しているから、イッセー君に何も言い返さないんだと思うんだけど。私がそんなことを考えていると―――
「俺は五月蠅いから黙れと言った筈だ。それとも、てめぇらは俺の言葉も理解できないのか?……第一、神器所持者の抹殺及びその神器の確保は最終手段としていた筈だ。
それまでにするべき過程をすっ飛ばし、いきなり最終手段に出るだけでなく、私利私欲で神器を奪おうなんて馬鹿な行動を起こす奴らを俺達は管理しきれなかったんだ。何を言われても文句を言える立場じゃねぇ。
あと、そのことを理解せずに赤龍帝のガキを罵倒しているてめぇらの行動こそが、現在進行形で堕天使の格を下げていることも理解しろ。純血の上級悪魔風に言うなら、てめぇらの行動が堕天使そのものの品位を下げているとも言えるな。
……取り敢えず、このままじゃ話が進まねぇ。まだ文句のある奴は俺が直々にO☆HA☆NA☆SHIしてやるから、今すぐグラウンドに移動しろ」
アザゼルさんが、イッセー君を罵倒している堕天使のヒト達を威圧する様に睨みながらそう言うと、誰もが一斉に口を噤んだ。そして、私達がいる新校舎屋上に静寂が広がったかと思うと、今度はポタポタと水滴が滴り落ちる音が聞こえてきた。
音の発生源はイッセー君―――正確にはイッセー君の髪から地面に滴り落ちる血で、言ってはなんだけどホラー展開みたいになっている。
屋上が何とも言えない微妙な空気に支配されそうになる。けど、その空気は静寂を生み出した張本人であるアザゼルさんによって壊された。
「ゴホン!……うちの考え無し共のせいで話が少し逸れちまったが、その何だ。お前さんの要求する賠償ってのは、そんなんでいいのか?」
アザゼルさんは咳払いをした後、イッセー君にそう尋ねた。イッセー君が賠償要求をする時の言い方に問題はあったものの、賠償内容そのものは正直言って大したものじゃない。
堕天使側からすればイッセー君の賠償要求は、自陣営に損害をもたらすものではないから、二つ返事で受け入れてもおかしくはない筈。であるにも拘らず、アザゼルさんはイッセー君に賠償内容の確認をした。
これは一体どういうことだろう?私がそんなことを考えていると、その答えをアザゼルさんが口にした。
「神の子を見張る者がアーシア・アルジェントの生命を保証することと、同人に不干渉でいることはこの公開処刑が始まる前―――俺とサーゼクス、お前さんの3人だけで話し合いをした時に決定していたことだろう。
何故、それを今更賠償内容として持ち出す?それと部下の管理、不祥事の責任と処理なんてのは組織であれば行って当然の事柄だ。
念押しされなくても、今後同じことが起きない様に組織内での規則はより厳しいものにするつもりだ。そんな当たり前のことを賠償内容として持ち出されちゃあ、何かしらの思惑があるんじゃないかと疑っちまうぞ?」
イッセー君が行った挑発染みた賠償要求への意趣返しなのか、アザゼルさんはこれまた最後に挑発染みた笑みを浮かべながらそう言ってきた。それに対するイッセー君の返答は―――
「神の子を見張る者としても予想だにしていなかった出来事。そして、初犯であることも考慮して賠償内容も穏便なものにしてあげたんです。
悪魔であるにも拘らず、慈悲深いでしょう?疑うなんてせず、素直に感謝して下さい。でないと、アンタも駄天使の仲間入りにしますよ?」
更に挑発染みたものだった。イッセー君とアザゼルさんは挑発勝負という危険な言葉のキャッチボールを終えると、無言で視線を交わし始めた。
2人は別に睨み合っている訳でも無いけど、2人の視線には質量があり、物理的にぶつかり合っている様な錯覚すら覚える。
現状の雰囲気を一言で表すなら一触即発。この場で悪魔と堕天使の戦争が起こってもおかしくないと思える状態だった。
でも、そんな一触即発の雰囲気が流れたのは僅かな時間だけで、1つの笑い声と共に屋上を支配していた何とも言えない重圧は消失した。
笑い声の発生源は一触即発の雰囲気を出していた張本人の1人、アザゼルさんだった。
「くっ、くふっ!くはっ、ふははは!!くくっ、ははははははは!!!」
いきなり笑い出したアザゼルさんにイッセー君を除いた私を含むグレモリー眷属とシトリー眷属、アーシア。そして、魔王様方を除く冥界上層部のヒト達と、イッセー君を罵倒していた堕天使のヒト達がポカーンとした顔をする。
「並の下級悪魔なら呼吸困難に陥ってもおかしくない重圧を視線に込めていたんだが、真正面から受け止めるだけでなく、逆に重圧をぶつけて来るなんてな。全く、末恐ろしい転生悪魔君だ。
それじゃあ、お言葉に甘えて転生悪魔君の慈悲ってやつをありがたく頂戴することにしようか」
「念押しになりますが、今回の賠償内容はちゃんと守って下さい。日本の諺に「仏の顔も三度まで」というのがありますが、俺は悪魔なので二度目と三度目はありません」
「フハハハハッ!本当に容赦ねぇな、この転生悪魔君は!……それじゃあ、俺達はそろそろお暇させて貰おうか」
アザゼルさんがそう言うと、堕天使側の観客席に居たヒト達は一斉に立ち上がり、転移魔法陣でこの場から去り始めた。
そして、アザゼルさん以外の堕天使全員がいなくなって、アザゼルさんも転移魔法陣でこの場から去ろうとしたその時、アザゼルさんは何か思い出したみたいにイッセー君の方に顔を向け、口を開いた。
「おっと、大切なことを言い忘れてた。転生悪魔君、お前さんとは機会があればサシで話がしたいもんだ。お前さんの所有している『聖剣創造』と『魔剣創造』の禁手の亜種も気になってんだ。
その機会は近い内にあるかもしれねぇ。そん時は宜しく頼むぜ、今代の赤龍帝君。あと、お前さんのライバルは歴代最強だ。相対することがあったら気を付けな」
アザゼルさんはそう言い終えると、転移魔法陣の光が強くなっていった。もうすぐこの場から立ち去るんだろう。けど、アザゼルさんが転移するよりも早く、今度はイッセー君が口を開いた。
「俺を歴代の赤龍帝と一緒くたにするのは止めて欲しいですね。俺はただの赤龍帝じゃない。赤龍帝であると同時に剣士でもあるんだ。俺を二つ名で呼ぶなら赤龍剣帝と呼んで貰いましょうか」
イッセー君がそういうと、アザゼルさんはここに来て初めてキョトンとした顔をした。確かに、『SAO』でイッセー君と並ぶ剣士は存在しなかった。
ヒースクリフ団長ですら、システムのオーバーアシストを使って初めて互角以上に持ち込むことができたんだ。剣帝というイッセー君の言は過言ではないと思う。
私がそんなことを考えていると、キョトンとしていたアザゼルさんは口元に笑みを浮かべ、イッセー君へと再び口を開いた。
「ハハハッ!面白いねぇ、お前さん。お前さんとは良い酒が飲めそうだ。それじゃあ、またな赤龍剣帝君!!」
アザゼルさんはそう言い終えると、今度こそ転移魔法陣によって姿を消し、この場から去って行った。神の子を見張る者のヒト達が全員居なくなったことで、ほんの少しではあるけどこの場を支配していた緊張感が解れる。
でも、イッセー君は気を抜くことなく、今度は悪魔側の観客席に向き直り、上段に居る四大魔王様方や冥界上層部のヒト達に視線を向けながら口を開いた。
「堕天使勢力が帰ったので、魔王様方や冥界上層部の方々に改めて感謝の言葉を。自分の様な悪魔に転生して間もない下級悪魔の為、貴重な時間を割いて頂き、ありがとうございます」
「兵藤一誠君。この公開処刑の場を整えたのも、観戦の為にやって来たのも言ってしまえば我々が勝手にやったことだ。そこまで畏まる必要はないよ。
それにしても、先程の駄天使を含む40名との戦いは見事だった。それだけ大勢の敵を相手に息一つ乱さずに殲滅するなど、下級悪魔は疎か、並の中級悪魔でもできることではない」
イッセー君の言葉に、サーゼクス様がにこやかな笑みを浮かべそう返した。内容そのものがイッセー君を褒め称えているものでもあるので、グレモリー眷属の古参である朱乃やユウちゃん、シトリー眷属の子達も驚いている。
まぁ、普通に考えれば驚くのも仕方がないのかもしれない。だって、褒めている対象が悪魔転生して日の浅い下級悪魔なんだから。
日本人で言いかえれば、そこそこに日本の経済に貢献している会社の新入社員が、天皇陛下や総理大臣から直々にお褒めの言葉を頂いた様なものだろうし。
しかし、次の瞬間。にこやかな笑みを浮かべていたサーゼクス様は目を細め、まるで射殺す様な視線をイッセー君に向けた。
「だが、堕天使組織である神の子を見張る者に要求する賠償内容を決定する権利は君には無い筈だ。いくら君が赤龍帝―――いや、赤龍剣帝だったかな?
まぁ、どちらでもいい。君が伝説の二天龍を宿す者とはいえ悪魔である以上、賠償内容の交渉は我々魔王や冥界政府の重鎮達に委ねるべきだったのではないかな?」
確かに魔王様の言う通りだ。イッセー君がしたのは独断専行である上、下手をすれば現冥界政府への背信行為と取られてもおかしくはない。
返答次第では魔王様方直々に断罪される。私を含むグレモリー眷属とシトリー眷属の子達が冷や汗を浮かべながらイッセー君を見ていると、顔色一つ変えていないイッセー君が口を開いた。
「俺はあの駄天使共に殺された契約者の所に行った時、はぐれ悪魔祓いに襲われ、また実家も襲撃されるという実害を受けています。
冥界政府が神の子を見張る者に要求する賠償とは別に、俺個人が要求する賠償があってもおかしくはないでしょう。
現に、先程の交渉で賠償内容が冥界政府によるものと明言はしていません。逆に「自分が要求する賠償内容」と明言はしていますが……。
それに神の子を見張る者総督であるアザゼルも賠償内容を確認する際、「お前さんの要求する賠償」と言っていましたが「冥界政府が要求する賠償」とは言っていません」
イッセー君の口から放たれた内容に、この場に居た全員が絶句した。魔王様方も、アザゼルさんが見せた以上のキョトンとした顔をしている。
そんな顔をする理由も分かる。凄く分かります。だって、イッセー君の言っていることは屁理屈でしかないのだから。でも、その屁理屈もまた事実でしかない。
「……そんな屁理屈が通ると思っているのかい?」
「普通は無理でしょうね。でも、俺達は悪魔なんですから、悪魔らしいやり方で無茶や無理を押し通せばいいじゃないですか。というか、俺よりも魔王様方の方が悪魔歴は長いんですから、悪魔らしく悪知恵を働かせて、狡賢く動いて下さい」
サーゼクス様の質問に対するイッセー君の返答は、なんとも暴言染みたものだった。そして、その返答に対して叱責か罵倒かの判別はできないけど、冥界上層部の純血悪魔のヒト達は一斉に顔を歪め、口を開こうとする。
しかし、冥界上層部のヒト達から声が発せられることは無かった。それは冥界上層部のヒト達が口を開くより先に、魔王様方が急に笑い出したからだ。
「ぷっ!くくっ、あはははははははは!!君は本当に興味深い男だ、兵藤一誠君」
「くっくっくっ、ふはははははははは!!ここまで悪魔より悪魔らしい転生悪魔を俺は初めて見る!」
「あはっ☆あははっ、あはははははははは!悪魔より傲慢で強欲な子だね♪それに、政治的な面倒事を全て私達冥界上層部に投げ出す怠惰っぷりと、敵対した相手に容赦のない憤怒。
純血悪魔でも7つの大罪を4つも体現しているのって中々いないよ♪もしかして、嫉妬や色欲、暴食も兼ね備えてるのかな?」
「ふっ、ふふっ、あはははははははは!セラフォルー、もし彼が7つの大罪全てを体現する存在なら、人間の時から魔王になれる資質があったってことになるよ。
というか、4つでも体現できている時点で魔王の資質は十分だけどね。軍事面を担当する魔王で良ければ、僕の席を彼に譲ってもいいよ?正直、魔王って役職も面倒臭くなってきたし」
魔王様方は急に笑い出したかと思うと、全員が全員イッセー君に興味津々といった反応をし始めた。というか、最後の魔王様の発言に至っては耳を疑う内容だ。
最後の魔王様の発言内容は、正直言って問題発言としか思えない。現に、魔王様方以外の冥界上層部のヒト達はギョッとした反応をしている。
って、魔王様の問題発言や冥界上層部のヒト達の反応とか、正直どうでもいいか。悪魔に転生したばかりの私に関与できる事柄じゃないし。
それよりも、サーゼクス様以外の魔王様方はローブを羽織って、フードを深く被っていたので今まで性別とか分からなかったんだけど、魔王様に女性の方がいたことに驚かされた。
……えっ?どうして魔王様の1人が女性だと分かったかって?さっきの魔王様方の会話で1人だけ明らかに女性っぽい喋り方をしているヒトがいるでしょ。
声質も男性ではまず有り得ないほど高いし、何より私やリアス達と同じ年頃の女子高生みたいな軽い口調で話しているし。どう考えても女性としか考えられないでしょ?
……え?世の中には男の娘という存在もいる?……確かに、見た目が女の子っぽい男性はいるかもしれないけど、流石に声質まで女の子っぽい男性は早々居ないと思う。
たった1人の人間に天は二物を与えないものなの。イッセー君みたいに例外はあるかもしれないけど。取り敢えず、見た目も声質も女性っぽい天然の男の娘なんて空想の産物ということを覚えておいた方がいいと思うわ。
って、私は一体誰に対してこんなどうでもいい説明をしているのかしら?……まぁ、いいか。そんなことより、魔王様方は問題発言後も笑っていたんだけど、漸く落ち着いたみたいね。
サーゼクス様が笑い過ぎで目に浮かんだ涙を拭いながら、四大魔王を代表してイッセー君に話し掛けてきた。
「兵藤君、確かに君の言う通りだ。屁理屈であろうと、君の言っていることは事実であり、また悪魔として本来あるべき姿でもある。
それに私も傲慢を司るルシファーの名を持つ魔王だ。君が行った要求とは別に、冥界政府として神の子を見張る者に賠償を要求できなくてはルシファーの名が廃ってしまう」
「流石はルシファーの名を継いだ魔王様です。……先程、魔王様のお1人が言っていましたが、自分は面倒臭がりで敵対した者には怒りっぽく、傲慢で強欲。そして、嫉妬深くもあります。
これからも今回と同じことがあった場合、また事実を元に屁理屈を並べて相手方に個人的な要求をするかもしれません。なるべく控える様に努力はしますが、絶対にやらないなどという確約はできないので、その点はご了承下さい」
「そうだね。事実を元とした要求であるなら、それが例え屁理屈であろうと許すことにしようか。種族間の交渉など言ってしまえば屁理屈のぶつけ合いみたいなものだしね。
今回も君の屁理屈を見破れなかったアザゼルが悪い。それに君が要求した内容も、神の子を見張る者にとって損失の出るものでもなかった。冥界政府の要求が突っぱねられるということも無いだろう」
「でも、赤龍剣帝ちゃんは下級悪魔だし、余り出しゃばっちゃったら上役のおじ様達に睨まれちゃうから、自重だけはちゃんとしてね☆」
色々とあったけど、何とか綺麗に話が纏まろうとしている。けど、私は今の会話でどうしても女性魔王様に物申したいことがあった。
魔王の威厳らしさも無い女子高生みたいな喋り方をするあなたに自重とか、流石のイッセー君も言われたくないんじゃないでしょうか、と。そんなことを考えていると―――
「お姉さま。流石の兵藤君も、お姉さまにだけは自重などと言われたくないのではないでしょうか」
ソーナ会長が私の考えていたことをそのまま口にしていた。っていうか、お姉さま!?リアスだけでなく、ソーナ会長の身内も魔王様だったの!!?
ソーナ会長と女性魔王様が姉妹という事実に私と黒歌、白音ちゃんだけでなく、イッセー君も目を見開いて驚いている。
ちなみに私達のこの驚きは、ソーナ会長のお姉さんが魔王であることを知ったことに対するものではなかったということが、後日4人で話している時に判明した。
私とイッセー君、黒歌と白音ちゃんでソーナ会長のお姉さんが魔王だったことには驚いたという話をした時の第一声が―――
「「「「まさか、真面目が服を着て歩いている様なソーナ会長と、真面目とは縁遠く思える軽い口調で話す魔王様が姉妹だとは思わなかった」」」」
と、別に合わせるつもりも無かったのに4人でハモってそう言ったことで、私達が何について驚いていたのかが判明した。まぁ、それだけ女性魔王様とソーナ会長が姉妹という事実のインパクトが大きかったということだと思う。
「ソーナちゃん、ひど〜い。それ、一体どういう意味〜?」
「そのままの意味です。お姉さまは魔王になられたのですから、もう少し威厳のある喋り方を為されたらどうなのですか?」
「えぇ〜!だってこの喋り方の方が可愛いでしょ?それに私は悪魔の味方、魔法少女マジカル☆レヴィアたんだし☆」
「ま、魔法少女?」
ソーナ会長の自重発言に、プンプンといった感じの少し怒った反応をする女性魔王様だけど、ソーナ会長は更に窘める様な言葉を返した。
すると、私やイッセー君、黒歌、白音ちゃんには理解できない魔法少女という単語が女性魔王様から放たれた。
いや、魔法少女の意味自体は分かるんだけど、女性魔王様と魔法少女がどう関係あるのか私達には理解できずにいたんだ。
イッセー君が「何故に魔法少女?」といったニュアンスで魔法少女という単語を口にすると、女性魔王様は着ていたローブを派手に脱ぎ捨て、その姿を私達の前に現した。
「そう!妹愛と嫉妬の魔法少女、マジカル☆レヴィアたん!またの名をセラフォルー・レヴィアタンとは私のことなの♪」
ローブの中から現れたのは魔王とは程遠い、魔法少女のコスプレをした美少女だった。しかも、ご丁寧にポーズまで取っている。思わず、「魔法少女?魔王少女の間違いではないでしょうか?」という突っ込みを入れそうになる。
イッセー君も私と大体同じ思いなのか、突っ込みを入れたいけど相手が魔王様だから何も言えず、何かウズウズしている感じだ。
黒歌は呆れを通り越して目が点になっていて、白音ちゃんに関してはソーナ会長にまるで同類に出会った様な同情の視線を送っている。
黒歌が重度のブラコンでシスコンだから白音ちゃんがソーナ会長に同情の視線を送るのは分かるけど、白音ちゃんにもイッセー君と同じ位に自重してほしい。
だって、黒歌が白音ちゃんの視線に気付いたら、この場の雰囲気とか関係なく騒ぎ出すだろうから。白音ちゃんには黒歌が気付く前にいつも通りになって欲しい。
というか、ソーナ会長が白音ちゃんから同情の視線を送られていることに気付いたのか、目に涙を浮かべ始めた。
いや、ソーナ会長の気持ちも分かるよ。1年生の後輩から姉の奇行で同情的視線を送られたら、泣きたくもなるよね。もう、生徒会長や先輩の威厳とかが完全に潰されちゃった様なものだもんね。
「あ、悪魔になって日の浅い方が大勢いる場でもあるのに、何故自重して下さらないのですか?お姉さまが自重して下さらないから、私の生徒会長としての威厳などが現在進行形で崩れていっています!」
「自重って、この魔法少女の衣装のこと?ダメダメ☆これは私にとってキャラ設定みたいなものだし、辞めちゃったりしたらソーナちゃんみたいな真面目キャラに転向しなきゃいけなくなるから、ソーナちゃんと区別つかなくなっちゃうよ♪」
「キャラ設定というだけで私の威厳だけでなく、魔王としての威厳も破壊するのは止めて下さい!!うぅっ、もうこの場に居ることすら耐えられません!」
「そ、ソーナちゃん?一体どうしたの!?待って、ソーナちゃん!お姉ちゃんを置いてどこかに行かないで!!」
ソーナ会長はそう言うと、羞恥で紅潮した顔を両手で隠し、屋上から新校舎内に繋がる出入り口へと走り去り、それを追う形で女性魔王のセラフォルー・レヴィアタン様もこの場から姿を消してしまった。
ソーナ会長には失礼かもしれないけど、コントの様なやり取りに流石のイッセー君も呆れて何も言えず、ソーナ会長とセラフォルー様が消えて行った出入り口を眺めている。すると―――
「……基本的に俺を含む四大魔王は公務以外で軽いキャラになることが多いんだが、セラフォルーは公私共に軽いキャラでね。
魔王らしくない奇行に走る姉に妹である彼女が嘆くというのは、彼女達の間では日常茶飯事な出来事でね。俺達四大魔王はプライベートでも親しいから何度も見たことがある。
正直な話、彼女達の遣り取りを一々気していたら身が持たない。その場では適当にスルーし、あとで妹のメンタルケアをするのが適切な対処法であるということを覚えておくといい」
セラフォルー様とソーナ会長の遣り取りが行われた時の対処法を、サーゼクス様の隣に座っているローブを纏った魔王様が教えてくれた。
「おっと、新人悪魔も大勢いる場でまだ自己紹介もしていなかったな。私はアジュカ・ベルゼブブ。冥界の現政権では技術開発部門の最高責任者を務めている」
アジュカ様はセラフォルー様と同じ様にローブを脱ぎ捨て、その姿を私達にその姿を曝け出した。ローブの中から現れたのは、妖艶な顔つきの美青年だ。
……言っておくけど、アジュカ様の容姿が妖艶な顔つきの美青年というのは、飽く迄も私の主観ではなく一般的視点でってことだからね。
私にはイッセー君という想い人がいるので、相手がどれだけ妖艶な雰囲気を醸し出していたとしても、心動かされるといったことはありません。……と、そんな説明をしている間にアジュカ様がイッセー君に話し掛けていた。
「俺は悪魔の駒の制作者でもあるのだが、制作者として赤龍剣帝殿にいくつか尋ねたいことがある。いいかな?」
「俺に答えられる範囲であるなら構いません」
「そうか。では、単刀直入に聞こう。君は悪魔に転生する際、リアス嬢の悪魔の駒を変異の駒へと変化させて使用したと耳にしているのだが、間違いないかな?」
アジュカ様が行ったこの質問は、悪魔の駒の開発者として至極当然のものだと私は思った。だって、リアスから聞いた話では悪魔の駒は、レーティングゲームというゲームへの運用も視野に入れて開発されたそうだし。
私が開発者ならゲームへの公平性も視野に入れて、改造なんて簡単にできない様に改造防止プロテクトを組み込むと思う。そして、元人間の下級悪魔である私でも思いつくことを魔王であるアジュカ様が思い付かない訳が無い。
つまり、アジュカ様が悪魔の駒に組み込んでいた改造防止のプロテクトを、いとも簡単に突破できるイッセー君の霊能力――『文珠』が規格外な能力だってことね。
というか、規格外だと思えるイッセー君の霊能力は『文珠』だけに止まっていない。実はリアス達にも秘密にしている霊能力なんだけど、イッセー君は心霊医術も使えたりする。
あっ!心霊医術って言うのは切開することなく、臓器を摘出できたりするアレね。まぁ、イッセー君の場合は体組織や霊体に直接干渉するみたいな能力みたいだけど。
イッセー君がその能力を使って、聖・耐・性を刻んだ『文珠』を私と黒歌、白音ちゃんの霊体に融合させたことで、私達は半永久的な聖耐性を得ることができた。
ちなみに、心霊医術で『文珠』を取り込むことになった経緯は、簡潔に述べるなら『文珠』が破壊されるのを回避する為だったりする。
だって、聖・耐・性が刻まれた『文珠』が何かの拍子に1つでも破壊されたら、その時点で耐性が消えてしまうって話だったし。
ちなみに、霊体と『文珠』を融合させたって言ったけど、正確には霊力の発生器官に融合させたっていうのが正しかったりする。
イッセー君曰く、この世に存在する生物には例外なく霊力の発生器官と霊力の通り道である経絡系っていうのがあるみたい。
詳しい話はイッセー君の様な専門家じゃないからできないけど、取り敢えずイッセー君の心霊医術と『文珠』で半永久的な聖耐性を得られたってこと。
って、イッセー君のチーター級霊能力の説明より、今はイッセー君がアジュカ様の質問に対してどういった返答をするかの方が重要だよね。
魔王様からの質問だし、イッセー君は『文珠』のことを話しちゃうのかな?でも、『文珠』はイッセー君にとって切り札の1つでもあるし、『SAO』でも二刀流スキルのことは74層ボス戦まで隠していたから、話さない可能性が高いかも……。
私がそんなことを考えていると、少し沈黙していたイッセー君は口を開き、アジュカ様の質問に対する答えを返した。そして、それはある意味で私の予想していた通りの答えでもあった。
「………はい。俺の持つ能力の1つでリアス・グレモリー様の持つ歩兵の悪魔の駒を4個変異の駒へ変え、うち2個を俺が使用し、残りを俺の姉と妹が1個ずつ使用しました」
「ふむ。では、その能力というのを話して貰うことはできるかな?」
「申し訳ありませんが、それはできません。悪魔の駒を変異の駒へと変えた能力は、俺にとって切り札の1つとも言えるものです。能力の詳細は例え魔王様であろうと説明することはできません」
「……成程。君がどれだけの切り札を隠しているかは分からないが、その能力もまた切り札であるというのならば無理に話させる訳にはいかないな」
「………悪魔の駒の改造はやはり違法行為に当たるのでしょうか?」
「いや、レーティングゲームのルールブックにも未使用の駒を所有者やその眷属となる者が改造することを禁止する一文はないね。そもそも、通常の悪魔の駒を改造して変異の駒にしようという考えに至る者がまず存在しない。
兎に角、君が気に病む必要はない。むしろ、俺は君に感謝している位だ。俺の制作した悪魔の駒を改造できる者など、俺と同じ技術者タイプや研究者タイプと限られてくるからね。
新規生産分の悪魔の駒には改造防止の術式プロテクトを掛けるつもりだが、それを突破して改造できる者はかなり優秀な技術者か研究者ということになるだろう。
そういった者達を我が技術開発部門に引き込むことができれば、俺にとっても冥界全体にとっても利益となる。つまり、優秀な技術者や研究者を選別するのに悪魔の駒の改造は推奨したい位だということだ」
イッセー君はリアスの持つ通常の悪魔の駒を変異の駒へと変えた改造したことは認めた。けど、『文珠』のことはもの字も出さなかった。
そして、イッセー君が『文珠』のことを一切話さないことに対してアジュカ様は叱責する所か、逆に悪魔の駒を改造することを推奨する様な発言に、魔王様方を除くその場に残っていた悪魔全員が驚いていた。
「………ふ、太っ腹というか懐が深いというか、もしかしたらアジュカ様は聖書の神なんかより寛容で慈悲深いんじゃないですか?
いくら自分や冥界にプラスになることでも、自分の制作した物を勝手にいじられたら怒るものだと思いますし」
「はっははは。この場に悪魔祓いなどの戦闘系の教会関係者が居たら、俺を神以上だと言った時点で襲われているよ、赤龍剣帝殿。まぁ、赤龍剣帝殿ならば返り討ちにできるだろうが……。
俺は神や天使達の様に無償の愛を振り撒く様な存在ではないさ。逆に自分の欲を充たす為に動いていると言っても過言ではない。
何せ、自分の欲を充たす為に魔王筆頭であるルシファーの打診などを悉く破るくらいだ。こんな俺を仁徳的な意味で神以上と評するのは過大評価というものだ」
「良くも悪くも自分に正直という訳ですか?でも、俺はそういう何かに縛られることのない自由な生き方に好感が持てます」
「ははは。君も似た様なタイプみたいだしね。俺と君に違う所があるとすれば、俺は来る者拒まず去る者追わず主義なのに対し、君は敵味方問わず基本的に来る者拒まず去る者逃がさずな所かな?」
「……確かにそういう所ありますね。今まで気付きませんでした」
イッセー君はそう言い終えると、アジュカ様と一緒に笑い出し始めた。なんか、もうイッセー君とアジュカ様の所の雰囲気だけ笑って○いとも!のトークショーみたいになっている。
「ははははは。あっ、そういえば悪魔の駒で少し気になっていたことがあるんですけど、聞いてもいいですか?」
「ははははは。これだけ愉快な気持ちにさせられたのは久しぶりだからね。その礼も兼ねて、君の時と同じ様に答えられる範囲であれば答えよう」
「悪魔の駒がチェスをベースにしているのは別にいいんですが、駒数を増やして冥界オリジナルの駒を作ったりしないんですか?
ほら、チェスと同じでチャトランガをベースとしているボードゲームっていっぱいあるじゃないですか。中国の象棋とか、日本の本将棋とか。
駒数は本将棋と同じ20個にして、内17個はベースとなっているチェスの駒を使用し、残り3個をオリジナルの駒にするとか」
「ふむ。駒数を増やすのをありとして、チェスをベースとする駒数が16個ではなく17個なのは何故かな?」
「ボードゲームの様な形で仮想ゲームとする場合、駒の数の参考にしているのが本将棋ならボード盤も本将棋と同じものになるでしょう。
その場合、駒の配置も本将棋と同じになり、歩兵の数も8個から9個になると思ったからです」
「成程。では、君が俺だったならどんなオリジナルの駒を制作するのかな?」
「そうですね。王は本将棋でいう所の王将。歩兵は歩兵で、騎兵は桂馬。王妃はポジション的に考えれば金将なんでしょうが、能力的には飛車か角行といった所になりますね。
城兵と僧兵は能力的には飛車と角行ですが、更に上の存在として王妃が居る上、駒が2個ずつあるので城兵と僧兵が金将と銀将ポジションと言った所になりますか。
ならば、増やす駒は本将棋でいう所の香車ポジションと王妃と対を為す駒が適当であると考えます」
「……確かにポジション的には適当だね。なら、君はそのポジションの駒にどの様な能力と名称を付ける?」
「香車は元々が槍兵を表しているので、槍兵というのもありかも知れませんが、捻りがありません。何より槍兵には速さが求められますが、それでは騎兵と能力が被ります。
それに既存の駒は近距離能力強化型が多いと思えるので、駒価値を3にして遠距離寄りで攻撃型の駒を作るのもありかも知れませんね。
名称は弓兵で、能力は千里眼と気配遮断というのは如何でしょう?千里眼はその名の通り、遠くのものを補足できる能力です。弓兵との相性も抜群でしょう。あと動体視力の強化なども付けるのもいいですね。
気配遮断もその名の通り、自分の気配を断つ能力です。古来、戦で弓兵の得意分野は単独行動だったみたいです。気配遮断を使って単独行動をし、敵本陣への奇襲などもゲーム的には面白いと思います。
王妃と対になる駒は最初から能力が決定しているのではなく、使用された対象の資質で能力が決定するという風にしたら面白いかもしれません。
駒価値は9。使用された対象の資質次第で、王妃とは異なる王を除く3つの駒の能力を統合した駒となる、というかなり特殊な駒にするんです。
例えば、城兵+僧兵+弓兵の能力を兼ね備えるとか。この能力を手にした者は、遠距離からの砲撃魔力を得意とする悪魔になるでしょうね。
今挙げた例の様に、様々な組み合わせとそれに合った名称をプログラムという形で駒に組み込んでおいて、使用された対象の資質から最も適した能力を駒自身が対象に与えるというものです。
まぁ、変異の駒ならぬ変則の駒といった所ですね。今、パッと思い浮かんだもので俺から出せる案はこんなものなんですが、如何でしょうか?」
即興で考えられたオリジナル性を含んだ新しい駒の説明を、息も切らさない勢いで一気に言ったイッセー君に、悪魔の駒の制作者であるアジュカ様も言葉を失ってしまっていた。
「………ぱ、パッと思い浮かんだと言う割には、結構練り込まれている設定の様に思えるが……。君はゲームを作ったりするのに興味があるのか?」
「いや、興味があると言うか、悪魔に転生する前から非公式ですがゲーム会社でゲームクリエイターとして働いています」
「成程。ゲームクリエイター特有の発想と言うことか。ちなみに、君が働いているゲーム会社とは何処かな?俺も人間界のゲームは好きでね。君の働いている会社と言うのに興味がある」
「えっと、レクト社です」
「レクト社……。ああ、『ALO』を出していたレクト・プログレスの親会社か。『ALO』は名作だったな。愚か者が身の程を弁えず、馬鹿な行いをしてしまった為、ゲーム部門であるレクト・プログレスが解体され、VRMMO業界からも撤退せざるを得なくなったと聞いている。
『ALO』は俺もやったことがあるだけに、あの事件はレクトにとって痛手だったのではないかと思っているくらいだ。別の会社に買い取られ、『SAO』の浮遊城アインクラッドが実装した『SLO』として復活したことは、ゲーム好きとしても不幸中の幸いと思うね」
今度はアジュカ様の言葉に私とイッセー君を含むグレモリー眷属が驚いた。まさか、魔王であるアジュカ様が人間界のVRMMO、しかも『ALO』や『SLO』をやっていたとは思わないじゃない。
「アジュカ様、『ALO』をやっていたんですね」
「ああ。いずれは冥界でもVRMMOを普及したいと思っている。そういえば、聞いた話では赤龍剣帝殿は『SAO』を全層踏破に導いた英雄だったな」
「はい。ちなみにアジュカ様はナーヴギア派ですか?それともアミュスフィア派?」
「俺はナーヴギア派だ。アミュスフィアは少し物足りなく感じてしまう」
「やっぱりそう思いますか?生粋のゲーマーがVRMMOをするならナーヴギアですよね」
「君も中々分かっているじゃないか」
「いえ、それ程でも。あっ!言い忘れていましたけど、『SAO』と『ALO』のメインサーバーを買い取って、現在『SLO』として運営しているのは俺の父親の会社なんです」
「なんと!」
……何か、イッセー君とアジュカ様の間だけで『SLO』談義が始まっちゃたんだけど?『SLO』でアインクラッドやソードスキルを実装したのは素晴らしい、とか。飛行時間の制限を無くしたのは正解だ、とか。
というか、アジュカ様もセラフォルー様ほどではないものの、現在進行形で魔王の威厳を壊しているよね。あと、イッセー君と波長が合うのか、凄く楽しそうにゲームの話をしてるし。
そのアジュカ様の姿に冥界上層部の方々も唖然としている。……って、いつの間にかイッセー君とアジュカ様の話が『SLO』からハード機問わずの歴代名作RPGみたいな話に変わってる!!?
「俺的にはやっぱり『ギャスパルクの復活』は外せませんね。あれはプレイした人間の人生観を変えます」
「それ程のゲームか!?俺もベータテストには応募したのだが、落とされてしまったのだ。しかも、ベータテスト品だけで本製品化されなかったからプレイできず仕舞いだ。
『SAO』もベータテストを応募したが落とされ、本製品化された時もどうして外せない仕事があって、購入できなかったのだ」
「魔王だけに天から見放されて、そういったくじ運みたいなのが最低レベルまで落とされているのでは?」
「……中々、上手いことを言うな。成程、魔王であるから並の悪魔より運が悪くなるか。詳しく調べれば面白いことが分かるかもしれないな」
アジュカ様が魔王どころか下級悪魔にすらどうでもいい様なことを調べようとしている!?マズい。話が凄く脱線している。
…………でも、よくよく考えるとイッセー君とアジュカ様の場合、どれだけ頑張って元の話題に修正しようとしても、ゲームや現状とは全く関係ない話に帰結する様に思えてならなかったりもする。
それに人間から転生したての下級悪魔が、上機嫌で話をしている魔王であるアジュカ様の邪魔をするというのに問題があるようにも思える。正直な話、死因がアジュカ様の機嫌を損ねてとか、死んでも死にきれない。
しかも、私が死んだらイッセー君が駄天使独立愚連隊の時の様にキレて、アジュカ様――というか、この場にいる身内以外の悪魔との殺し合いに発展することは目に見えている。私が原因で魔王が死亡というのも嫌だ。
サーゼクス様でも他の冥界上層部の方々でも、誰でもいいのでイッセー君とアジュカ様のゲーム+α談義を止めて下さい。お願いします!!
私のこの願いが神ならぬ魔王様に届いたのか、サーゼクス様が軽く咳払いをしてからイッセー君とアジュカ様の話に割って入った。
「コホン!あー、アジュカ。それに兵藤君も本題から話が脱線し過ぎではないかな?」
「………確かに、いつの間にか俺達だけでゲームの話で盛り上がってしまった。久方ぶりに趣味を共有できる相手との会話だったせいかもしれない。悪いことをしたな、サーゼクス。赤龍剣帝殿。ゲームの話はまた後日、両者の仕事がオフの日にでも行おう」
「そうですね。あっ!リアルの話をするのはマナー違反になりますが、できれば『SLO』で話の続きをしてみたいです」
「それはいい。確かにリアルの話を持ち出さないのはVRMMOで暗黙の了解ではあるが、個人間では問題ないだろう。その時が来るのを楽しみにしているよ」
サーゼクス様からの指摘もあり、漸くイッセー君とアジュカ様は脱線させていた話を終わらせた。というか、私的にイッセー君とアジュカ様が最後に不穏な会話をしたように思える。
アジュカ様とイッセー君の仕事がオフの日に、『SLO』で会って話をする?さっきまでの会話から長話になりそうなのは容易に想像できる。
となると、ゆっくりと時間を気にすることなく座って話せる場所を2人は望む筈。それは一体どこか?イグドラシル・シティの一角で私とイッセー君が共同で借りている部屋しか思いつかない。
夫がお客様を連れて来たら、御もて成しするのが妻の務め。でも、相手は魔王様だ。料理スキルは完全習得しているけど、どんなことが粗相に繋がるか想像もできない。
部屋の模様替えもした方がいいかもしれない。もう!イッセー君ってば、魔王様相手に私に相談も無く、何で勝手に話を決めちゃうのよ!!
私は少しテンパりながら、心の中でイッセー君に抗議した。ついでに、その抗議の念を視線に込めてイッセー君にぶつけてみる。まぁ、効果はないんだけど。
「私もアジュカも魔王という立場で、兵藤君に話したいことは話し終えたし、聞きたいことも聞き終えただろう。ファルビウム、君は兵藤君に魔王として話したいことや聞きたいことは無いかい?」
「んー?特にないかなー。強いて話すことがあるなら、僕の後任魔王に今すぐにでもなって欲しいってこと位だね。彼が僕の後を継いでくれれば、僕は悠々自適な隠居生活が送れる訳だし」
「それは駄目だな、ファルビウム。彼は俺の後を継ぐのだ。彼なら俺が進める計画も理解してくれるだろう。俺が魔王を引退した後、技術開発部門の責任者を務める魔王で都合がいいのは彼しかいない」
「待て、アジュカ。兵藤君は私の妹であるリアスの眷属。つまり、グレモリーの者だ。彼が魔王になるなら、私の後を継ぐのが当然の流れだと思うのだが?」
ああっ!魔王様方の間で自分の後継者候補って形でイッセー君の取り合いが始まっちゃった!?余りの急展開に私だけでなく、リアスや朱乃、生徒会副会長である真羅椿姫さんまで狼狽えている。
「あ、あの―――」
「誰が兵藤君を後継者にする権利を得るか、眷属も交えた上で会議を行い、決定しようじゃないか」
「いいだろう。なんならレーティングゲームで勝負を決めてもいいぞ。総当たり戦で勝利数が一番多い者がその権利を得られるといった風にな」
「アジュカ、本当にそれでいいのー?ゲームの内容次第では、戦略とか戦術が得意な僕が2人より有利だよ?眷属も僕が楽する為に優秀な人材を集めたし」
「ファルビウム、俺の眷属も優秀な者達ばかりだ。負ける気は毛頭ない」
「2人とも、既にレーティングゲームで決着をつける気満々だね。何はともあれ、詳しい話をする為にも早急に冥界へと戻るとしよう。
そういう訳で兵藤君、君とはもう少し話をしたかったが、我々には早急に決めねばならない議案ができた。今日の所はこれで失礼させて貰うよ。
ああ、そうだ。このフィールドから私達が消えると、君達も自動的に本来の駒王学園へと戻れる仕組みになっているから安心してくれ。それではまた会おう」
イッセー君が魔王様方に何か言おうとするけど、魔王様方は「何も聞こえないよ」と言わんばかりの態度で話を進めて行った。
そして、最後にサーゼクス様が別れの挨拶をすると同時に、フィールドと呼ばれる学園のレプリカがある空間に残っていた悪魔関係者+アーシアの足元に転移魔法陣が展開され、それぞれの戻るべき場所に戻って来ることになった。
私達、グレモリー眷属とシトリー眷属+アーシアが戻って来た場所は駒王学園の屋上。学園のレプリカが存在したフィールドとは違い、空に月と星以外の光源が無いことから本物の学園であることが分かる。
シトリー眷属側は主であるソーナ会長の姿が見えないけど、セラフォルー様から逃げ惑っている時に転移させられたのなら、校内のどこかに居るのだろうから大丈夫だと思う。
「真羅副会長。どんな形であれ、今回の騒動に会長を含むシトリー眷属を巻き込んでしまったこと、本当に申し訳なく思います。
後日、会長に直接謝罪に向かうつもりではありますが、副会長からも俺が謝罪していたと会長に伝えておいて貰えませんか?」
「え、ええ。会長にその旨、ちゃんと伝えておきます」
「ありがとうございます。お詫びと言ってはなんですが、生徒会の方々の願いを1人に付き1つ、俺が叶えられる範囲で叶えたいと思っていますので、そのことも会長にお伝え下さい」
「願い、ですか?」
「はい。長期的なものや金銭的なものは基本的に無理ですが、生徒会業務の手伝いや雑務などでしたら、お詫びになるとも思えませんがさせて頂きたいと思っています」
「……兵藤君。その願いって、兵藤君の神器で創造した聖剣か魔剣が欲しい、とかも叶えられる範囲に該当するの?」
「えっ?えっと、君は確か同じ学年の巡さんだっけ?」
「ええ。私のこと、知ってるの?」
「ああ、同じクラスで剣道部に所属している片瀬や村山が君のことを剣道部にしつこく誘っているのを何度か見たことがあるし。その時にあいつらが君のことを「巡さん」って呼んでいたからな。割と印象的で覚えていた」
「そうなんだ。あっ、それよりもさっきの質問の答えはどうなの?」
「……まぁ、俺の創造した『十戒の聖石剣』や『十戒の魔石剣』が第三者に譲渡できるなら別にしてもいいけど。……そもそも、そんな事ってできるのか?一応、禁手に至った後も同じ剣を複数本創造できることは確認済みではあるんだけど……」
イッセー君がシトリー眷属である生徒会メンバーに謝罪とお詫びについての話をしていると、生徒会メンバーの1人である巡さんがイッセー君の『十戒の聖石剣』か『十戒の魔石剣』が欲しいと要求してきた。
その要求に対してイッセー君は、第三者への譲渡が可能ならば渡してもいいと考えているみたいだけど、それが実際にできるのかどうか分からず悩んでいる。
元が私やユウちゃんの所持している『聖剣創造』や『魔剣創造』だから、同じ剣であっても複数本創造できるのは既に実証済みの様だけど。
そもそも、私の『聖剣創造』やユウちゃんの『魔剣創造』で創造した剣も第三者に譲渡できるものなのかしら?
私もイッセー君と同じ様に頭を悩ませていると、私達の主であるリアスが私とイッセー君に答えを教えてくれた。
「禁手化したとはいえ、元が『聖剣創造』や『魔剣創造』であったなら第三者への譲渡は可能な筈よ。というか、それが他の神器ではできない創造系神器の強みとも言えるわね。
もっとも、『聖剣創造』で創造された剣は『魔剣創造』で創造された剣と違って、聖剣適性のある者でないと使うことができないでしょうけど。
ちなみに、譲渡された聖剣や魔剣はその所有権が創造した者から譲渡した者へと移ってしまうから、創造者であっても破壊する以外に譲渡した剣を消滅させることができない、ということも現時点では判明しているわ」
成程。創造系神器って他の神器と比べて汎用性が高いってことなんだ。けど、譲渡した物の所有権が創造者から離れるというのは余り良くない能力でもあるね。
だって、自分が創造した物が他者に悪用される可能性が高いってことでもある訳だし。というか、過去の創造系神器所持者が作った聖剣や魔剣が世界中に散逸している可能性があるってことにもなるよね。
勿論、散逸している聖剣や魔剣は第三者に譲渡された物、って限定されてはいるんだろうけど。……あっ!でも、その聖剣や魔剣の能力を扱えるのは譲渡された本人である初代(?)だけなのかもしれない。
もし、世界中に散逸してしまった『聖剣創造』や『魔剣創造』で創造された剣が、創造者から直接譲渡された者にしか扱えない代物なら、現存していても扱える者がいないことになる。
そうであるなら、それらの聖剣と魔剣は今後も真の意味での所有者が現れることのない、ただ錆びないだけの刃物でしか無いということになるから、譲渡する相手さえ見極めれば悪用される心配はないってことになるのかな?
リアスの説明を聞いて、私が創造系神器のメリットとデメリットについて色々と考えていると、イッセー君が再び口を開いた。
「部長。仮に俺が巡さんに『十戒の魔石剣』を譲渡したとして、彼女は『十戒の魔石剣』の能力を十全として扱えるんでしょうか?」
「それは彼女次第と言った所ね。基本的に創造系神器で創造された物の能力を十全として扱えるのは、その神器の所有者であり創造者である本人だけ。
創造者と同等のレベルまで能力を発揮するとなると、余程才能に恵まれでもしない限り、血の滲む様な鍛錬や修練を積むことが必要となるでしょうね」
「そうですか。俺としては譲渡できるならしても良かったんですが、どうしたものか……」
イッセー君はリアスのした質問の答えを聞いて、巡さんに『十戒の魔石剣』を譲渡すべきかを悩み始めた。譲渡できるならしてもいいと言っていたのに、一体何を悩んでいるんだろう?
「イッセー君、一体何を悩んでるの?」
「兵藤君。やっぱり、駄目?」
「アスナ、巡さん。いや、巡さんに譲渡するかどうか悩んでる訳じゃないんだ。ただ、譲渡した相手が十全として扱えない様な欠陥武器を譲渡していいものなのか、と思って」
イッセー君の言葉に、私は「イッセー君らしい悩みだな」と思い、その場でついつい苦笑してしまった。巡さんの方を見てみると、巡さんも苦笑している。そして―――
「別に兵藤君がそんなこと気にすることないよ。兵藤君から貰った剣を十全と扱える様になるかは私の問題で、兵藤君のせいとかじゃないんだから」
「……ああ、確かに巡さんの言う通りだ。俺は昔から無駄に気を回し過ぎる性質みたいでね。逆に気を遣わせてしまったな。なんか申し訳ない」
巡さんの至極当然な言葉に、イッセー君は苦笑いを浮かべながら『十戒の魔石剣』を形成し、巡さんへと差し出した。
「通常状態の形状変化とかできないから両手大剣になってしまうけど、本当にいいのか?剣道部から勧誘されるってことは、日本刀とか直剣の方が相性はいいんだろ?」
「贅沢を言えば日本刀がいいけど、無い物強請りはできないし、そこまで強欲じゃないわ。悪魔だけど」
「それは俺に対する皮肉か。まぁ、事実だから別にいいけど。あっ、この魔剣の銘はどうする?」
「えっ?この魔剣の銘って、『十戒の魔石剣』じゃないの?」
「それは禁手の名称だ。流石にそれを魔剣の銘にするのはおかしいだろ。無駄に長いし」
「う〜ん。急に魔剣の銘を決めろって言われても、思いつかないわ」
「それじゃあ、魔剣『デカログス』で決定ってことで」
「……結局、禁手の名称から一部抜粋するんだ。そういえば、デカログスってどういう意味なの?」
「古代ギリシャ語で十戒。テン・コマンドメンツも英語で同じ意味だ。特に問題ないだろう」
「大問題だよ!ユダヤ教とかキリスト教とかイスラム教に真正面からケンカ売ってるよね!?」
「俺が禁手に至ったのは人間の頃だったから問題ない。ちなみに返品は不可だから。もう所有権を譲渡してしまったからな」
「………何か悪質な押し売りみたい。願い事、早まったかも……」
巡さんはイッセー君から受け取った『デカログス』を抱えながら、るるるーという擬音が見えそうになるほど涙を流していた。そんな彼女を他の生徒会メンバーは肩に手を置いたりして慰めている。
「では、真羅副会長。会長と副会長含む残りのシトリー眷属6名の願い事が決まったら連絡下さい。平日は放課後であればオカ研部室に居るので連絡は取りやすいと思います」
「わかりました。会長にもその旨、伝えておきます。それではリアスさん、グレモリー眷属の皆さん。私達はこれで失礼させて頂きます」
真羅副会長を含むこの場に残っていたシトリー眷属は、リアスや私達に一礼すると転移魔法陣を使って屋上から姿を消した。そして―――
「はぁーーーー………」
屋上に残ったのが同眷属であるオカ研メンバーとアーシアだけということもあってか、イッセー君は気が抜けた様で今まで聞いたことが無い溜息を吐いた。
「い、イッセー……?」
「あっ、すみません。溜息なんて吐いて。流石に短い期間に色々とあり過ぎて少し疲れたみたいで」
「そ、そう。でも、気にする必要はないわ。悪魔に転生して僅かな期間に魔王様や堕天使の総督と接触するなんてことまであったんだもの。疲れて当然だわ」
「そう言って頂けると助かります。……部長」
「どうしたの、イッセー?」
「部室にあるシャワーを使わせて貰ってもいいですか?駄天使の返り血で血塗れになって、色々と気持ち悪いんで」
イッセー君がそう言うと、その場の空気が一変した。空気が一変した原因。それは私と黒歌、白音ちゃんを除くグレモリー眷属とアーシアは、イッセー君が血塗れの状態であるということを忘れて接していたからだ。
元を辿れば、イッセー君がアジュカ様と場違いなゲームの話をして、現状を如何にも日常の延長線上であるかの様な空気であの場に残っていた全員を飲み込んでいたというが原因とも言える。
多分、あの場を形成していた空気に呑まれることなく、イッセー君の姿と交わしている会話の異質感を感じ取れていたのは、私達以外だと魔王様方だけだったんじゃないかと思う。
何故、自分達は血塗れの相手と普通に会話ができていたのか?その異質感に気付いたリアス達は、ゴクリと息を呑んだ。
「………まぁ、それが普通のヒトの反応ですよね。場の雰囲気に呑まれてでもいなければ、血塗れの奴と会話なんてできる訳がない」
イッセー君は自嘲する様な笑みを浮かべながら少しだけ俯き、すぐに顔を上げると私や黒歌、白音ちゃんの方に顔を向けて口を開いた。
「アスナ。それに黒歌と白音は先に帰っててくれ。流石に俺はこの姿で帰る訳にもいかないし、色々と処理するのに少し時間が掛かるかもしれないからな。
黒歌と白音はアーシアをちゃんと連れて帰れよ。アーシアの今後について、明日にでも父さん達から話があるだろうし。置いて帰ったりしたら、父さんだけでなく母さんからも説教されることになるぞ。
あと、部長。返答は聞いていませんが今言った通り、この姿では家に帰るに帰れないので部室のシャワーを勝手に使わせて貰います。それでは、今日はこれで失礼します」
イッセー君は私達やリアスにそう告げると、足元に転移魔法陣を展開して姿を消した。多分、部室に直行したんだと思う。
グレモリー眷属内でイッセー君との付き合いがそれなりに長い私と黒歌、白音ちゃんは言葉を交わすことも無く、全員がイッセー君の後を追うという行動に出た。
転移魔法陣を使っての移動は、イッセー君に感付かれる可能性が高いので、自分の足を使っての移動となるけど、文句を言うヒトは私達の中には誰もいない。
そして、屋上の扉のノブに手を掛け、屋上を後にしようとした直後、イッセー君が居なくなるまで硬直していたリアスが声を掛けてきた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!あなた達、一体どこに行くつもり!?特に黒歌と白音!あなた達はイッセーにこの子を連れて帰る様に言われているでしょう!!?」
「どこに行くって」
「イッセーの様子を見る為に部室に行くにゃ」
「それほど時間が掛かることでもないので、少しの間だけアーシアさんのことをお願いします。後で迎えに来ますので」
私と黒歌、白音の3人でリアスの質問に返答し終えると、1秒でも早く部室へと行きたいという思いがある私達は、リアスが次の言葉を口にするより早く屋上から立ち去ろうとする。しかし―――
「だから、待ちなさい!イッセーの様子を見るって、一体どういうことなの?それに、どうして転移魔法陣で移動しないの?」
リアスは私達の思いを汲み取るなどせず、私達が立ち去るより先に質問を投げ掛けてきた。流石に私でも空気を読んでほしいと思ってしまう。
「私達はイッセーとそれなりに長い付き合いだから、イッセーのちょっとした変化に気付くことができるにゃ」
「兄様は極力顔に出さない様にしていましたが、とても悲しんでいました」
「イッセー君が望んでいなくても彼が悲しんでいる時、私達は少しでも近くに居てあげたいの。それと転移魔法陣を使わないのは、転移時の魔力で気付かれるからだよ」
「そういう訳で、これ以上無駄な時間を掛けたくないから、私達はもう行かせて貰うにゃ」
黒歌が最後にそう告げると、私達はリアス達を放置したまま急ぎ足で部室のある旧校舎へと向かうことにした。そして、イッセー君が屋上から姿を消してから数分後。私達は旧校舎に着いた。着いたんだけど―――
「……何でリアス達もついて来てるにゃ?」
「イッセーは私の大切な眷属なのよ?あなた達の話を聞いて、そのまま放って置ける訳ないじゃない」
リアスや朱乃、ユウちゃん、アーシアも私達について来ていた。アーシアに関しては、ユウちゃんに姫抱っこされた状態でだけど。そして、リアスの言葉に朱乃とユウちゃんも「同じ眷属なのだから」と言わんばかりに頷いている。
「アスナ、どうするにゃ?」
「黒歌。逆に聞くけど、ついて来ないでって言って素直に受け入れる人達だと思う?」
「まず有り得ないと思います」
黒歌の問いに対して逆に私が問いを投げ掛けると、黒歌の代わりに白音ちゃんが答えてくれた。つまり、一緒に行くという選択肢しかない訳ね。
私と黒歌、白音ちゃんの3人だけならイッセー君に気配を悟られることなく、部室の前まで近付くことができる。けど、リアス達を無視して旧校舎に入ったら、その時点で全員がイッセー君に察知される可能性が高い。
少なくともリアスと朱乃、ユウちゃん、アーシアの4人の気配がイッセー君に察知されるのは確実であると、私と黒歌、白音ちゃんは断言する。
何故、私と黒歌、白音ちゃんの3人だけならイッセー君に気配を悟られずに済むか。それは黒歌と白音ちゃんが仙術で気配を遮断できる霧の結界を形成できるからだ。
仙術で形成する結界の精度は、黒歌の方が白音ちゃんより高いみたいだけど、白音ちゃんのも別に精度が極端に低いという訳でも無いみたい。
イッセー君から聞いた話では、白音ちゃんは一般的な結界術師より上で、黒歌は高位の結界術師より上らしい。まぁ、一般的な結界術師がどんなものなのか、私は知らない訳なんだけど……。
取り敢えず、そんな2人が二重で結界を張れば、いくらイッセー君でも気配を察知することが難しいと私は思っているの。けど、離れた距離でもリアス達が後ろからついて来たりしたら、私達もイッセー君にバレる可能性が高い。
という訳で、一網打尽にされない為にも、私達は不本意ながらリアス達と行動を共にすることになった。黒歌と白音ちゃんは、ブツブツと文句を言いつつも、リアス達も覆える規模の霧の結界を形成する。
「これは、結界?」
「気配を遮断する仙術で作った霧の結界にゃ」
「私と姉様で二重に展開しています。こうでもしないと旧校舎に入った瞬間、兄様に悟られる可能性があるので」
「……イッセーはどれだけ規格外なのよ?」
「そんなことどうでもいいにゃ。それよりもこの結界は割と難易度が高い結界だから規模を広げた分、防音の結界を張る余裕がないにゃ」
「部長達のせいで規模を広げることになったんですから、防音の結界だけでも部長達で張って下さい」
「……黒歌、白音。イッセーに私達が悪いことをしたのはそれなりに理解しているから、あなた達の反応も分からなくはないのだけど、もう少しオブラートに包んで言ってくれないかしら?正直、かなり傷付くわ」
「兄様は部長達の反応に数万倍傷付いてます」
リアスの言葉に白音ちゃんが間髪入れずに言い返すと、リアスはその場ですぐに項垂れてもおかしくない程に凹んでいた。
正直な話、私も白音ちゃんと一緒になってリアスや他の眷属メンバー、アーシアに色々と言いたくはあったけど、今はそんなことよりイッセー君の近くに行くことが最優先であると考え、全員に先を急ぐ様に言うことにした。
「白音ちゃん。そんなの、あとでいくらでも言えるでしょう?それよりも今はイッセー君の所に行こう。リアス達も、早くしないと置いて行くよ」
「アスナの言う通りにゃ。早く行かないと、ここに来た意味がなくなるにゃ」
私の言葉に黒歌が同意し、黒歌を先頭に私達は先に旧校舎に入ろうと移動しようとすると、白音ちゃんやリアス、朱乃、ユウちゃん、アーシアは慌てて私達の後について来た。
結果、済し崩し的な形でリアスと朱乃が魔力による防音結界を形成することとなり、物音などを気にする必要がなくなったことで、スムーズにオカ研部室の扉の前まで辿り着くことができた。
現在、深夜ということもあって駒王学園には、新校舎にシトリー眷属が残っている可能性を除けば、私を含むオカ研メンバーとアーシア以外の人間が全く居ない。
それが原因なのか、旧校舎を含む駒王学園全体がいつも以上に静かで、部室内に完備されているシャワー室のカーテンと部室の扉を挟んでいるにも拘らず、シャワーの音が私達のいる廊下にまで聞こえている。
そして、部室からシャワーの水が流れる音と一緒にイッセー君とは別の男性の声が聞こえてきた。
『よう、相棒。珍しく気落ちしてるみたいじゃねぇか』
「……ドライグか。アインクラッドで何度か会話して以来、話し掛けてくることが無かったから、また寝たのかと思ったぞ」
部室から聞こえてきたイッセー君とは別の声は、『赤龍帝の籠手』に封印された二天龍と呼ばれるドライグだったみたい。イッセー君から存在そのものは聞かされていたけど、声を聞くのは初めてだ。
『ククク……。例え、俺が眠りに就いたとしても、相棒なら無理矢理起こすだろう?』
「……確かに、な。でも、だったら何で今までだんまりを決め込んでいたんだ?起きていたなら、俺が部長の眷属になったことも知っているだろう?」
『まぁな。だが、俺や白いのは悪魔や天使、堕天使だけでなく、魔王や神すら歯牙にも掛けない存在だったんだ。今更、相棒が上級悪魔と接触したからといって、俺自らが話しかける必要性があるとも思えん』
「お前はいつも無駄に自信家だな。一時的とはいえ、天界陣営と悪魔陣営、堕天使陣営が手を組む切っ掛けとなり、その身と魂を切り刻まれて神器なんてものに封印された存在とは思えないよ」
『そういう相棒も、二天龍と呼ばれる俺にそんな口の利き方ができるんだから大概だろう。自分の実力に相当の自信があるか、馬鹿でないとできないことだ』
……イッセー君とドライグは仲が悪いのかな?聞こえてくる話の内容が、互いを皮肉っている様にしか聞こえないし。それとも喧嘩するほど仲がいいってタイプ?
いや、イッセー君とドライグの仲がどういったものかという点も気にはなるけど、それよりもイッセー君が自信家か馬鹿かっていうのが気になる。
私が感じているイッセー君像では、どちらでもないってことになってしまう。正確には両極端じゃなくて、どっち就かずって感じかな?
私がそんなことを考えていると、イッセー君が自己像を言い、そしてドライグが自分のイッセー君像を口にした。
「俺の場合、お前と同じ自信家ってことか?」
『いや、相棒の場合は両極端ではなく中間といった所だな』
「中間?」
『おう。相棒の場合、例え俺の宿主になっていなかったとしても十分に強かっただろう。応用力の高い霊能力に、『聖剣創造』と『魔剣創造』の創造系神器。そして、俺とはまた別のドラゴンの力を持っている』
……今のドライグの発言、リアス達に聞かれたら拙くないかな?いや、でもエターナルって単語が出てないし、ギリギリでセーフ?
…………まぁ、リアス達の中でイッセー君=規格外って方程式が出来上がっているみたいだし、今更『赤龍帝の籠手』以外のドラゴンの力をイッセー君が宿していたことが判明しても、別に驚いたり糾弾することはないか。
『人間だった頃でも、これだけの能力で十分に最上級位の人外と渡り合えた。いや、下手をすれば俺を含む神滅具所持者―――禁手に至った者とも渡り合えただろう。
そうであるにも拘らず、相棒は悪魔に転生した。正直、俺は驚愕したぞ。人の身で人外を超える力を持っていながら、それでも力を求める相棒に。
しかも、力を求める理由が自分の為でなく、他者――身内の為ときた。今まで俺の宿主となった者達も例外なく力を求めてはいたが、その殆どが自分の為だ。
相棒はかなり特殊と断言していいな。特に人間の頃でも身内を守り切れる力を持っていながら、更なる力を求める所が。
相棒の考え方は悪魔よりも天界寄りだろう。身内の為にその身を悪魔に差し出す辺りが、自己犠牲の塊だ』
ドライグの話を聞いていた私は、ドライグの言う通りだと思った。『SAO』でもイッセー君は、誰とも知らないベータテスターの為に自分を犠牲にしてビーターを名乗っていた。
憎まれ役を自分から買って出る様な人間を自己犠牲の塊と言わず、なんと言えばいいのだろう?少なくとも私には適切な表現が思い付かない。
「……今日は随分と饒舌だな、ドライグ。あと、その説明がどういう風に俺が中間の存在だという話に繋がるんだ?」
『つまりだ。相棒は人間の時でも二天龍と呼ばれる俺や白いのと戦える実力を持っていながら、各人外勢力から身内を守れる自信を持っていない。だが、1対1のタイマンともなれば相手の実力を測り、適切な対応を行う。
命知らずの馬鹿ではないが、自分に自信を持てない実力者。それが相棒だ。だから、俺は相棒を中間の存在だと言った。……まぁ、これは俺の主観から考察した相棒像だがな』
いやいや。ドライグのイッセー君像はとても的を射ていると思う。自信を持っていいよ。現に、この場にいる私以外のオカ研メンバーも、ドライグのイッセー君像に納得顔だし。アーシアに至っては感動の涙(?)を流しているし。
取り敢えず、リアスや朱乃、ユウちゃん、アーシアが一緒に来たのは正解だったかもしれない。イッセー君の本質が自己犠牲にあり、拒絶に近い反応をされたことに対し、気落ちしていることもドライグの言から分かって貰えたみたいだし。
私がそんなことを考えていると、涙を流していたアーシアが意を決した顔でリアスに向き合い、口を開いた。
「あの、グレモリーさん」
「何かしら、アルジェントさん?」
「私を、悪魔にして下さい!」
「「「「「「!!?」」」」」」
アーシアから放たれた言葉に全員が驚愕した。いや、だって教会を追放された立場とはいえ、修道士が悪魔になりたいというとは思わないでしょ?
「アルジェントさん、本気なの?悪魔に転生したら、二度と人間には戻れないのよ?神に祈ることすらできなくなるのよ?」
「……お祈りができなくなるのは悲しいです。でも、構いません。私はイッセーさんに命を救ってもらいました。それなのにイッセーさんを怖がって傷付けてしまったんです。
私が悪魔になることがイッセーさんへの贖罪になるとは思っていません。けど、どんな形でもいいからイッセーさんに恩返しがしたいんです!」
「……生半可な覚悟では、あとで後悔することになるわよ?」
「生半可なんかではないです」
「…………堕天使が奪おうとする程の神器所持者なら、私から勧誘したい位だわ。あなたの眷属入りを歓迎するわ、アーシア」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ、眷属の受け入れは私が自由にできるけど、イッセーとの契約で悪魔の駒の選択権は彼にあるの。後日、イッセーも交えて3人で話し合いましょう」
「はい!」
………イッセー君が知らない、気付いていない所でアーシアの眷属入りが決定しちゃった。いや、別にアーシアの眷属入りに反対とかするつもりはないんだけど、できればイッセー君も居る時に意識表明をして欲しかった感があるんだよね。
リアスとアーシアがそんな遣り取りをしている間にイッセー君はシャワーを終えたのか、部室からシャワーの水音が聞こえなくなっていた。
黒歌と白音ちゃんはイッセー君にアーシアを連れて先に帰っている様に言われていたことので、イッセー君が着替えを終える前に旧校舎から出て、家に転移する必要があった。
その為、私を含むオカ研メンバーとアーシアは大急ぎで旧校舎から外に出、その場ですぐに解散。転移魔法陣で各々の家に帰ることになった。
そして、公開処刑の翌日。オカ研メンバー全員が参加する形で、アーシアを眷属に迎え入れる為の話し合い行われた。この話し合いの時、意外なことにイッセー君はアーシアの眷属入りに反対しなかった。
イッセー君曰く、眷属選びの選択権が自分には無いし、アーシアの選んだ道に口出しする権利も無いとのこと。
アーシアの眷属入りが決定したら、今度はイッセー君がアーシアに使用する悪魔の駒を選ぶことになる訳なんだけど、イッセー君が選んだ悪魔の駒もまた意外だった。
だって、アーシアに使用された悪魔の駒は城兵だったから。まぁ、理由を聞いたらオカ研メンバー全員が納得した訳だけど。
アーシアの持つ神器は『聖母の微笑』という傷を癒す能力を持つもので、その効果は悪魔を含む異種族にも及ぶ。実際、アーシアは悪魔の傷を癒したことで教会から追放されたとのこと。
つまり、アーシアはグレモリー眷属で特化型の回復要員ということになる。そういったタイプは戦闘で王の次にやられてはいけない存在であるとイッセー君は言っていた。
まぁ、回復手段を絶たれてパーティーメンバーが全滅するとか、ファンタジー系創作物の教訓話でもよくある話だしね。だから、回復要員であるアーシアが潰される確率を減らす為、防御力の底上げができる城兵を選んだって訳。
ちなみにグレモリー眷属の一員となった以上、オカ研メンバーの一員ということになり、年齢的なことを考えると学校に通っていてもおかしくないってことから、アーシアも駒王学園に転入することになった。
実はアーシアが眷属入りして、駒王学園へ転入するまで数日のズレがあって、その数日にまた別のイベントが兵藤家では発生していたりする。
兵藤家で起こったイベント。それはアーシアが兵藤家に養子として迎え入れられた出来事を指す。イッセー君のご両親は黒歌や白音ちゃんの時の様に謎の伝手を使ったみたい。
アーシアが兵藤家の養子となったことで兵藤家の子供は、長男がイッセー君、長女が黒歌、次女がアーシア、三女が白音ちゃんということになった。
そうそう。兵藤家の養子となったことでアーシアの名前も少し変わっていたりする。今のアーシアの名前は、アーシア・A・兵藤となっている。
転入初日に転入したクラスがイッセー君のクラスということもあって、名前のことで質問責めにあったとか。家の事情という説明をしたことで、今では騒がれることは無くなっているみたいだけど。
何はともあれ、アーシアも悪魔になって言語という壁が無くなったことで、友達を作り易くなって幸せみたいだし、イッセー君のことも皆に理解して貰えたみたいだから、今回の一件はめでたしめでたしってことで終了するね。
あとがき
読者の皆さん、大変長らくお待たせしました。2ヶ月ちょっと振りにSAHDDを更新した沙羅双樹です。
いや、本当に更新を待っていた人には申し訳なく思っています。でも長い時間をかけた結果、総文字数(ルビ込)が33000を超えるものとなり、そこそこに満足して頂けるものになっているのではないかと思っています。
ただ、作者的に最後ら辺は色々と端折ってる感があって、第一章の最後を飾る話としては微妙なのではないかとも思っていたりもします。
ぶっちゃけ、燃え尽き症候群みたいなもので、最後の方は基本骨子こそできているものの、上手く形作ることができなかったんです。本当に申し訳ありません。
では、言い訳などはここら辺にして、本編内の補足を少しして終わりたいと思います。
・霊力について
SAHDDの世界では種族に関係なく、生物であれば基本的に霊力を保有しています。(個人間で霊力の多少はありますが……)
また、霊力の発生元と霊力の通り道である経絡系は、週刊少年ジャンプのNAR●TOのチャクラと経絡系をモデルとさせていただいています。
また、同じく週刊少年ジャンプで掲載されていたシャーマ●キングの設定を組み込み、転生や死に掛けた状態から復活することで霊力量が増加する設定でもあります。
・SAHDDのアジュカについて
SAHDDのアジュカは原作設定にゲーマーという要素が追加されています。その結果、アジュカはイッセーと意気投合し、今後も2人で色々とやっていくことになります。
ちなみに話の展開上、神器マニアであるアザゼルが2人の仲間に加わることで、更にカオスなことになっていきます。(笑)
・創造系神器について
原作4巻で天界側に『双覇の聖魔剣』を提供したことから、創造系神器は例外なく創造者の意思次第で第三者に所有権を譲渡できるという設定にしました。
正直な話、所有権の譲渡云々という設定が無ければ、原作で天界側に提供された『双覇の聖魔剣』も何かの拍子(手違いなど)で木場の意思で消えてしまうのではないかと思ったからです。
もし、解析が終了していない状況で『双覇の聖魔剣』が消えてしまったら、天界側から悪魔陣営に物凄い苦情が来ると思います。下手をすれば折角結んだ同盟に亀裂が入ります。
そういったことを考えた結果、創造系神器で創造されたモノは、創造者が所有権を第三者に譲った時点で消すことができなくなる、という設定にしました。
・イッセーの心霊医術について
簡単に言ってしまうと、週刊少年サンデーで掲載されていた烈火●炎に登場していた某仙人モドキの老人が使用する心霊医術と同じものです。イッセーの場合、魔導具ではなく聖・耐・性を刻んだ『文珠』をアスナ、黒歌、白音の3人に埋め込んだことになります。
(『文珠』を埋め込んだ時、各人の霊力発生器官に直結する様な形で埋め込んだ為、『文珠』には常に霊力が補充される様な形となり、アスナと黒歌、白音は半永久的な聖耐性を得ることができています)
ちなみに『文珠』を他者に埋め込むだけでなく、某仙人モドキの老人が某忍軍七代目頭首の火竜を摘出しようとした様に他者の神器を摘出することもできます。
以上が第9話での補足となります。もし、本編内で他に気になることがありましたら、WEB拍手のメッセージにでも書き込んでいただければ、拍手メッセージの返信や次話のあとがきで返答したいと思います。
それでは、これにて原作1巻に相当する第一章:チーターな赤龍剣帝を終わりにさせて頂こうかと思います。次回からは原作2巻に相当する第二章:攻略されるフェニックスが始まります。
………言っておきますが、ライザーは男です。そして、本作品にはギャグ要素はあってもBL要素は一切ありません。(笑)
それでは皆さん、次回も楽しみにして待っていて下さい。
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