俺――兵藤一誠を含むSAO生還者が駒王学園に編入したのは5月の初め頃。俺とアスナ、黒歌、白音の4人が悪魔に転生したのは5月の中旬頃の話だ。
アーシアと出会ったのは悪魔に転生してから1週間経った頃で、はぐれ悪魔のバイサーを討伐したのもその日だった。
はぐれ悪魔祓いの顔芸神父と交戦したのもバイサー討伐の翌日で、この日は思わぬ形で魔王であるサーゼクス・ルシファー様や駒王学園生徒会長であるソーナ・シトリー先輩と話し合いを行うことになったりもした。
そして、サーゼクス様や会長との話し合いをした翌日――まぁ、日付が変わってなかったことから当日とも言えるけど、その日の深夜に至高の堕天使を自称する駄天使率いる独立愚連隊に自宅を襲撃された。
自宅を襲撃された1週間後――5月末には、悪魔陣営と堕天使陣営の上層部が観戦する中、堕天使独立愚連隊の殲滅公開処刑を行った。
こう振り返ってみると、高校生生活初の5月はかなり濃い経験をしている様に思える。特にアーシアと出会ってからの3日間がかなり濃密だ。
いや、別にアーシアが悪いって訳じゃないけど。『赤龍帝の籠手』なんてものを宿した上、悪魔に転生した時点で波乱万丈な人生を送ることは決定していただろうし。
取り敢えず、そんなこんなで5月が終了し、現在は6月の中旬な訳なんだけど、どうやら俺は今月も面倒事に巻き込まれることが確定しているみたいだ。
どうして面倒事に巻き込まれるのが確定していると言い切れるのか。それを話す前に、まずはアーシアがグレモリー眷属に仲間入りして、居候から兵藤家の一員になり、駒王学園に転入するまでの数日の話をしてしまおうと思う。
アーシアが転生悪魔として最初に取り掛かった仕事。それは契約の為に必要なチラシ配りからだった。まぁ、これは現在進行形で俺やアスナ、黒歌、白音もやっていることだから当然だな。
で、城兵で転生した者は、どんなに非力な者でも一般的な成人男性の筋力を軽く超えることができる。事実、アーシアも大量のチラシが入った段ボール箱を2箱一気に持ち運ぶことができる様になった。
けど、城兵の特性は飽く迄も攻撃力と防御力の強化だけで、それ以外の能力値の強化はプロモーションしていない歩兵と同等なんだ。
つまり、俺が何を言いたいかというと、アーシアは持久力が乏しく、悪魔に転生してもその点が殆ど改善されなかったってことだ。
まぁ、人間の頃のアーシアは運動音痴な上、聖女として教会に祀り上げられていた頃は殆ど教会の敷地内から出られない生活だったみたいだし、走ることも無かったみたいだから持久力が乏しいのも理解できる。
しかし、悪魔に転生したことでアーシアの身体スペックが人間の頃より強化されたにも拘らず、筋力と防御的意味合いの耐久力以外は人並みに毛が生えた程度というのは如何なものだろう?
……まぁ、いいか。兎に角、アーシアに持久力が無い以上、俺と黒歌、白音の兵藤っ子一同とアスナがアーシアのチラシ配りを手伝うことになったのは必然と言えるだろう。
なんやかんやで俺とアスナ、黒歌、白音は悪魔歴が約1ヶ月経っていて、それぞれがチラシ配りのコツっぽいものを掴んでいたこともあり、1日で終わらせることができた。
チラシ配りが終了すると、次は本格的な契約取りの仕事に移る訳なんだが、アーシアは兵藤家への養子縁組と駒王学園に転入が確定するまでの間、かなりハードなスケジュールを熟すことになった。
深夜から悪魔稼業である契約取りがあるとはいえ、駒王学園に転入するまでアーシアが日中に暇を持て余すのは容易に想像できると思う。
そう。つまり、アーシアが暇を持て余すであろう日中に、アーシアの持久力の無さを如何にかする計画が眷属内で立案されたんだ。
結果、アーシアは駒王学園に転入するまでの間、日中はジョギングなどの持久力を上げる運動を行い、夜は契約取りの仕事をすることになった。
俺やアスナを含む他の眷属メンバーなら別にハードでも何でもないスケジュールだが、運動音痴で持久力が無いアーシアにとってはハードだったに違いない。それでもアーシアは泣き言ひとつ言わなかったけど。
ちなみにアーシアは駒王学園に転入後も、早朝6時から1時間という学園生活や悪魔稼業に影響を出さない程度の限られた時間で、ジョギングなどの体力と持久力を付ける運動を継続している。
……ん?以前、アーシアの起床時間は早朝5時と言って無かったか、って?阿呆か。悪魔稼業で人間の頃より就寝時間が確実に遅くなっているんだ。
深夜営業も当然みたいな稼業をやっているのに、その上で早朝5時起床とか、どんな拷問だよ。正直、早朝6時起きでも十分に凄いと思っているくらいだ。
え?俺や黒歌、白音は普段何時くらいに起きているか、って?……普通に6時には起きて、道場で剣の鍛錬とかしているな。
確かに、俺や黒歌、白音はいつも6時前後に起きている。だが、アーシアの名誉の為に敢えて言わせて貰おう!俺達とアーシアを比べるのはおかしいと!!
俺の場合はゲームクリエイターとして、また『SAO』でソロプレイヤーとして徹夜することが多かったから、睡眠時間が短縮されることには慣れているんだよ。
黒歌と白音は猫又だから夜行性―――夜型の生活が主体な上、爺さんから剣術を習い始めてからは6時に起きて鍛錬を始めることが当たり前になっていたから、俺と同じ様に慣れているんだよ。
兎に角、およそ半月という期間でアーシアは完全とは言えないものの、兵藤家や学校といった新しい環境での生活に適応した。
人間だった頃の生活環境が人間関係も含めて色々と制約のあるものだったことを考えると、悪魔になってからの真逆とも言える生活に半月程度で適応できるアーシアは環境適応能力がかなり高いと言えるだろう。
さて、アーシアの話を終えた所で面倒事云々の話に戻そう。6月中旬某日の今日、俺は面倒事に巻き込まれた。というか、現在進行形で巻き込まれている。
俺は現在、我らがグレモリー眷属の主であるリアス・グレモリー部長に押し倒されているんだ。しかも、俺の自宅の俺の部屋の俺のベッドで。
相手がリアス部長ではなくアスナで俺自らが自室に招いた上、押し倒される様な甘い雰囲気になったとかなら現状も理解できる。
けど、実際の現状は全く異なる。何の脈絡も無く、突如転移魔法陣から現れた部長に過程をすっ飛ばして押し倒された――というか、馬乗りされたんだ。
これはどう考えても部長が俺の所に面倒事を持ってきたとしか思えないだろう。よくよく考えてみると、面倒事に巻き込まれる兆候は数日前からあった。
部長がオカ研メンバーの誰かに話し掛けられても上の空だったり、30秒置きに深い溜息を吐くことが数日前から毎日続いていた。
他にも、駄天使独立愚連隊(笑)の公開処刑日に生徒会メンバーと交わした約束を守る為、生徒会室に顔を出したことがあったんだが、その時に巡さんに意味深なことを言われた。
その日、俺は会長の願いで1日庶務みたいなことをしていた訳なんだが、仕事を終えて帰ろうとした時―――
「兵藤君。契約を重んじる悪魔として私達との約束を守るのもいいけど、グレモリー眷属として主であるリアスさんを支えるのを優先した方がいいと思うよ。
例の話を会長から聞いて、純血の最上級悪魔の家系なら仕方ないのか知れないと思ったけど、やっぱり女の子としては複雑な心境だと思うんだ」
と巡さんに言われたんだ。正直、その時の俺は巡さんが何の話をしているのか全く理解していなかった。それなのに、「出来る限り気に掛ける様にする」って返しちゃったんだよな。
それ以降、俺は巡さんの話の内容を理解していないにも拘らず、部長を気遣う様にした。まぁ、どんなに気遣っても、当の部長が上の空で殆ど意味を為さなかった訳なんだが……。
そして、極めつけは今日の放課後の出来事だ。事前連絡も無く、オカ研メンバーが部室に集まった直後に部長が今夜の悪魔稼業を休業すると言い出し、俺を含むメンバー全員を家に帰したんだ。
この時点で俺は気付くべきだった。少なくともこの時点で部長は面倒事に巻き込まれている訳で、それは必然的に俺を含むオカ研メンバー全員が間接的にでも面倒事に巻き込まれることを意味していると……。
俺は今、部長に命じられるまま普通にアスナや黒歌、白音と帰路についた数時間前の自分を殴り飛ばしたい。いや、数時間前の自分を殴り飛ばした所で現状が変わったって訳でも無いだろうけど……。
取り敢えず、転移魔法陣を使ってまで俺の部屋に現れた理由と俺を押し倒している理由、あと部屋全体に防音結界を張った理由を部長から聞くことにしようか。
「部長、これは一体―――」
「イッセー、理由を話している時間はないの!兎に角、何も聞かずに私の処女を奪って!!」
……いきなり現れての第一声がそれですか?うら若き乙女が夜の男の部屋に現れて言う発言じゃないだろ。
「一夜だけの関係で構わないの。あなたが私の処女を奪って、その―――子供の素をくれればいいのよ!」
部長、顔を赤らめつつ少しオブラートに包んだ様な言い方をするのは可愛いと思えなくもないですが、一夜だけの関係ってどういうことですか?まるでビッチ発言ですよ?
「いや、部長。全く持って意味が分かりません。ってか、一夜限りの関係とかで他の女性を抱いたら、俺はアスナに殺されます」
「アスナには私から説明するわ!それにあの娘はハーレムを許容しているんでしょう?何も問題は無い筈だわ!」
「いや、問題大有りですから。アスナは相思相愛の果てで築かれた関係なら許容するって言ってましたけど、一夜限りとか遊びで築かれた肉体関係とかは許さないとも言ってるんです。
『聖剣創造』が発動できる様になって、悪魔に転生した後に言われたことなんですが、もし俺が一夜限りとかで女性を抱いたら『ランベントライト』でチ●コ縦裂きにするって言われてるんです」
「………あ、あの娘、そんな過激なことをあなたに言ったの?」
「はい。しかも、目のハイライトが消えた状態で言ってきたんで超怖かったです」
いや、あの時のアスナはマジで怖かった。縦裂きとか言われた瞬間、思わず竜闘気を下半身に集中させた位だ。
「………分かったわ、イッセー」
「そうですか、それは良かっ―――」
「なら、行為を終えた後に私があなたのハーレムに加わるということにしましょう。これなら何も問題ないわ。理由は眷属唯一の男性であるあなたへの情愛が抑えきれなくなったとかにすれば大丈夫でしょう」
「いやいやいやいや!ちょっと待って下さい!!部長がアスナの計画している俺ハーレムに加わるとしても、その過程で行われる行為に愛とか無いじゃないですか!?
ってか、互いに愛し合っている訳でも無い相手を抱くのは嫌ですよ、俺!それにそんな嘘、絶対アスナにバレます!『赤龍帝の籠手』を懸けてもいいです!!」
「『赤龍帝の籠手』を懸けるって、それは命を懸けることと同義じゃない。イッセーはそんなに私を抱きたくないの?私のこと、嫌い?私って女としての魅力、無い?」
「いや、部長のことが嫌いとか、魅力が無いとかじゃないです。それ以前の問題として、俺はアスナの制裁が怖いんです。というか、今話した制裁の内容に恐怖を覚えない男はいないと思います。
輪切りでも想像するだけで痛い上に鳥肌が立つのに、制裁内容がそれを上回る縦裂きですよ?いや、女性の部長に理解して頂けるとも思っていませんけど」
「大丈夫よ、イッセー!例えアスナに縦裂きにされても、アーシアの『聖母の微笑』で治してもらえるわ」
「部長、あなたは俺のチ●コをなんだと思ってるんですか?取り外し可能なオプション装備とかじゃないんですよ?ってか、それって根本的な解決になってませんよね?明らかに無限ループのフラグですよね?
アーシアに治して貰ったとしても、治った直後にアスナに縦裂きにされますよね、それ。明らかに俺が死ぬ程の苦痛を味わい続ける拷問紛いな無限ループとしか思えないんですけど?
あと、部長は稀少な回復系神器を何てことに使う気なんですか?神様が知ったら泣きますよ?いや、神様は一応俺達の敵だから、泣いても別に問題ないかもしれませんけど……。
それにアーシアが縦裂きのチ●コを目の前にして治療できると本気で思ってるんですか?アーシアの性格を考えたら、見せた瞬間に気を失うに決まってるでしょう」
……ってか、俺は女性の前で何てことを口走ってんだ!?チ●コチ●コって、まるで変態じゃないか!! どんなに発言内容を思い返してみても変態染みたものとしか思えず、自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。
俺が自分のあまりにも変態染みた発言に素で凹み、俯いていると俺の視界に細く綺麗な手が映り込んできた。そして、その手は俺のズボンに掴み掛って来た。俺のズボンに掴み掛って来た手の主は、当たり前と言えば当たり前なんだが部長のものだ。
「人が素で凹んでる最中に何しようとしてるんですか?部長!」
「イッセー。私、本当に切羽詰った状態なのよ。人助けだと思って、一思いに私を抱いて頂戴!」
「俺達は人じゃなくて悪魔です!」
「アスナには私からも弁明して、あなたに制裁を与えない様に言い含めるから!」
「私とイッセー君の問題に口を出さないで下さい、って一蹴されるのがオチです!そして、俺は縦裂きの刑に処されます!!」
「日本には据え膳喰わぬは男の恥という諺があるのよ、イッセー!!」
「なら、それをまずアスナに言って彼女を説得してから来て下さい!」
俺と部長は言葉の攻防と共に、ズボンの攻防も行っている。俺のズボンを必死になって脱がそうとする部長と必死に抵抗する俺。どっちが攻めで、どっちが守りか一目瞭然だろう。
そして、俺と部長がズボンを懸けた攻防と互いの主張を譲らない言葉の遣り取りを10分程繰り広げていると、俺の部屋に見慣れたグレモリーの転移魔法陣が展開され、魔法陣から予期せぬ人物が現れた。
「まさか、この様な形で破談に持ち込もうとするとは……。ご自分を大事になさらなければ、旦那様や奥様、サーゼクス様が悲しまれます。お嬢様」
「でも、こうでもしないとお父様達やお兄様も私の話を聞いてくれないじゃない。グレイフィア」
そう。俺の部屋に現れたのは駄天使公開処刑で立会人になってくれたグレイフィアさんだった。一瞬、アスナが来たのかと思って血の気が引いたこともあり、今の俺の安堵感は半端無い。
「この家を覆っている結界を抜けるのに時間が掛かってしまい既に手遅れかとも思いましたが、現状を見る限りそうでもないようですね」
「イッセーが私と交わるのを拒否した上、抵抗してきたのよ。イッセーは相思相愛以外の相手と交わったら本妻の彼女にペ●スを縦裂きにされるらしいの」
「……それは何と言えばいいのか判断に困る話ですね。それはさて置き、お嬢様。最上級悪魔の息女がペ●スなどと卑猥な単語を口にしてはいけません。
それにいくら兵藤様が赤龍帝であろうと転生して間もない下級悪魔に操を捧げるなど、グレモリー公爵家の息女としてやってはならない行動です」
「でも、イッセーはお兄様を含む魔王様方に認められる存在よ。戯れかもしれないけど、魔王に推薦されるほどの逸材。そういえば、あの時のイッセーを誰の後継者にするかという話はどうなったのかしら?」
「………サーゼクス様、アジュカ様、ファルビウム様、御三方全員が1勝1敗という三竦みな結果により保留となりました。……お嬢様、今すべき話はそんなことではありません。あからさまに話を逸らさないで下さい」
「……はぁ〜。分かったわ、グレイフィア。あなたが直接私の所に来たということは、お父様達やお兄様も少しは私の話を聞く気があるということでもあるのでしょう?」
「はい。旦那様と奥様、そしてサーゼクス様もお嬢様と話し合いの場を設けたいと言っておられました」
「話し合いの場と言っても魔法陣を介したもので、なんでしょうけど。……まぁ、いいわ。取り敢えず、私の根城に行きましょう。朱乃を同伴させた上であなたの話も聞かせて貰うわ。構わないわよね?」
「構いません。王たる者が王妃と行動を共にするのは当然のことですので」
えっと、なんか俺って完全に蚊帳の外だよな。明らかに部長とグレイフィアさんの間だけで話が進んでるし。ってか、俺が蚊帳の外な会話なら、あまり俺の部屋で長々と話されても困るんだけど。
そんなことを考えていると、部長とグレイフィアさんが同時に俺の方へと振り向き、グレイフィアさんが頭を下げながら口を開いた。
「兵藤様。この度はお嬢様がご迷惑をお掛けしました」
「あ、あまり気にしないで下さい。こうして俺も無事な訳ですし」
「ですが、男の尊厳とも言われているものが関わった事柄―――」
「そのことはお願いですから忘れて下さい。俺としても制裁内容は思い浮かべるだけで鳥肌が立って、血の気が引くもので普段からはあまり思い浮かべない様にしていることなので」
「そうですか。それは申し訳ありませんでした」
「イッセー。私も急に押しかけて、あなたの都合も考えずに迫ったりしてごめんなさい。私も少し冷静さを欠いていたわ。今日のことはお互いに忘れましょう」
「あ、はい」
グレイフィアさんに続き、部長まで謝ってきて、俺は思わず生返事の様な返答を返してしまった。すると、部長は俺に近付いて来て、そのまま俺の頬に口付けをしてきた。
「これが謝罪になるとも思えないけど、今夜はこれで許して頂戴」
部長はそう告げると、グレイフィアさんと共に転移魔法陣を使って俺の部屋から去って行った。……いや、本当に何だったんだ?
部長とグレイフィアさんが去ったことで静かになった自室で、俺は少し呆然となっていたがすぐに我に戻り、僅か十数分の遣り取りで精神的にドッと疲れたこともあってそのまま眠りに就いた。
そして、部長襲撃の翌日。襲撃してきた夜と打って変わり、午前午後共に部長が俺の所にやって来るとか、俺を呼び出すとかも無く俺は普段通りの学園生活を送り、放課後にアスナと黒歌、白音、アーシア、木場の5人と部室へと向かった。
ちなみに、普段通りだったのは放課後までという限定された時間だけだったみたいだ。何故そう言いきれるか。それは普段感じ取れない威圧感を感じ取れたからだ。
その威圧感を感じ取れたのは、俺達がオカ研部室のある旧校舎へと足を踏み入れた直後である上、感じ取れたのが俺だけで、しかも俺にとっては昨夜感じたばかりの威圧感だ。
そう。威圧感の正体は現ルシファーであるサーゼクス様の王妃を務めるグレイフィアさんだ。あの人は昨日の今日で一体何しに来たんだろう?まぁ、どう考えても厄介事であることは確実なんだろうけど。
俺はそんなことを考えながら、部室に向かう旧校舎の廊下を歩いている時に迂闊にも昨夜あった出来事を一緒にいるメンバーに話してしまった。すると―――
「……イッセー君」
目からハイライトが消え失せたアスナが、一般生徒が入ってこない旧校舎であることをいいことに『ランベントライト』を形成し、縦裂きの準備万端と言わん状態で俺の名前を呼んだ。
「あ、アスナ落ち着け!俺は部長に手を出してない。ズボンを脱がされそうになったが、必死に抵抗して脱がされずに済んだ!」
「本当に?」
「悪魔だけど、天地神明に誓って嘘は吐いてない!」
俺が必死に弁明すると、アスナは『ランベントライト』を消して、年上とは思えない可愛らしい笑顔を俺に向けながら、口を開いた。
「そうなんだ。でも、良かった。もし、イッセー君が私との約束を破ってたら、黒歌や白音ちゃん、リズやサチ、シノンやシリカちゃんには悪いことしちゃう所だったよ」
「は、はははは……」
閃光のアスナ様、可愛らしい笑顔でもそんなこと言われたら本気で怖いんだけど。ほら、アーシアや木場だけでなく、黒歌や白音まで引いてるし……。
俺は血の気が引いたまま、アスナ以外の眷属メンバーはアスナから若干距離を取ったまま部室へと再び歩を進めた。そして、部室の扉前に到着すると漸く黒歌と白音、木場の3人がグレイフィアさんの存在に気付いた。
「この気配は―――」
「以前……、公開処刑で感じたことがある気配にゃ」
「私がここに来るまで気配に気付けないなんて……」
「ああ、やっぱり全員気付いてなかったんだな」
「イッセー君?」
「どうしたんですか?」
グレイフィアさんの気配―――俺から言えば、独特な威圧感なんだが、それに気付けていなかったことに苦虫を噛み潰した様な顔をする黒歌と白音、木場。そして、俺達が何の話をしているか分からずにいるアスナとアーシア。
「兄様は気付いてたんですか?」
「俺自身、気付いたのは旧校舎に入った直後だけどな」
「だから、昨日の夜にあった出来事を話したのかにゃ?」
「まぁ、そんな所だ」
俺は黒歌と白音の質問に簡潔に答えると、オカ研部室の取っ手に手を掛け、ドアを開けた。すると、オカ研部室には部長と朱乃副部長の他に予想通りグレイフィアさんがいた。
「昨日振りです、グレイフィアさん」
「はい、兵藤様」
「ところでサーゼクス様の王妃たるあなたが、どうして昨日に引き続き人間界なんかに居るんですか?昨日は詳しい事情も聞けませんでしたが……」
「イッセー。そのことについて私の眷属が全員揃ったことだし、この場でちゃんと話そうと思うの」
「お嬢様。宜しければ、私からお話ししましょうか?」
グレイフィアさんの発言に手を振って制止する部長。どうやら、昨日の件も含めて部長が全て説明してくれる様だ。
「実はね、私―――」
意を決した様な顔で部長が話そうとした瞬間、部室に見覚えのない転移魔法陣が現れ、魔法陣から炎が巻き起こった。
「これはフェニックスの紋様」
転移魔法陣に刻まれていた紋様に見覚えがあるのか、木場がそう口にしていた。フェニックス?フェニックスってあれだよな?不死鳥とか火の鳥とか言われてる幻獣のフェニックスだよな?
あれ?でもフェニックスって聖なる不死鳥の呼称じゃなかったけ?確か、悪魔としての不死鳥の呼称はフェネクスで、フェニックスとは厳密には区別されるって聞いたことあるんだけど?
俺がそんなことを考えていると、魔法陣から巻き起こっていた炎が治まり、1人の男が姿を現した。
「ふぅ、人間界に来るのは久し振りだ」
現れた男の姿を簡潔に述べるなら、逆立った金髪で胸元を肌蹴させていて、派手な赤いスーツを着たNo.3止まりっぽいホストだ。
「迎えに来たぜ、愛しのリアス」
本人的にはニヒルな笑みを浮かべているつもりなのかも知れないが、No.3ホスト悪魔の発言に俺とアスナ、黒歌、白音の4人は笑いそうになる。
「早速で悪いが式場を見に行こう。それよりもドレスを決めるのが先かな?まぁ、日取りも決まっているんだ。早め早めに行動しても損はないだろう」
「ベタベタしないで頂戴。気持ち悪いわ、ライザー」
部長の方に腕を回そうとするも、ひらりと回避されるNo.3ホスト悪魔。簡単に回避される辺りが何とも情けない絵図だ。まぁ、それはさておき―――
「グレイフィアさん。あの男は一体何者ですか?何やら、気持ち悪いぐらい部長にベタベタしようとして、全部回避されてますけど」
「あの方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔、元72柱の37位であるフェニックス侯爵家の御三男であらせられます。そして、グレモリー公爵家次期当主の婿殿でもあらせられます」
え?あの万年No.3ホスト悪魔が次期グレモリー家当主の婿?それって―――
「あの男が部長の婚約者ってことですか?つまり、あれが将来的に俺達が仕える主の婿になると?」
「兵藤様の発言には色々と問題がありますが、その通りです」
「………部長、俺とアスナ、黒歌、アーシア、白音の5人は今日でグレモリー眷属を辞めます。辞表も今すぐ書きますので、少し待ってて下さい」
「ちょ、ちょっとイッセー!!?」
流石に万年No.3ホスト悪魔の下に就くのは、俺の持つちっぽけなプライドでも許容できるものじゃないんですよ、部長。
あとがき
読者の皆さん、今回は何とか10月中に投稿できました。作者の沙羅双樹です。
え〜、前話と比べればかなりボリュームダウンした1話約9800字(ルビ指定含み)構成からの開始ですが、沙羅双樹の1話辺りの文章構成は基本的に10000字前後なので、その点は許してください。
まぁ、そんなことはさて置き。漸く始まりましたよ、原作2巻に当たる新章が!第二章:攻略されるフェニックスが!!
この話を待っていた読者も居られると思います。(というか、居てくれたら嬉しいです)
今回は焼き鳥悪魔もとい永世No.3ホスト悪魔(←なんかランクアップ(笑))のライザーが登場する所で終了していますが、序章としてはキリのいい所で終わったのではないかと思っています。
ちなみに次話ではライザー眷属が登場し、一気に山籠もりの話に突入するかもしれません。取り敢えず、ライザー眷属との初会合でも一悶着あるので、その点を適度な感じで楽しみにして置いて下さい。
それではここから先はあとがきで初のWEB拍手コメント返信をしたいと思います。
2013年9月19日2:44:26 スカ様のコメントに対する返答
確かに、アーシアを城兵にするというのは他では見ないですよね。実はこれには事情があるんです。どうしても僧兵に加えたい娘がいたので、アーシアを別の駒にしなければならないという事情が!(笑)
ちなみに本文内でアーシアが城兵になった理由はそれっぽい後付けだったりします。(笑)
でも、アーシアが城兵になったことでNA●UTOのサ○ラっぽいポジションになってるので、その辺りを意識するのもありかも知れません。(しゃんなろー)
ちなみに僧兵に加えたい娘が誰かは現時点では秘密です。色々と想像もとい妄想してみて下さい。(笑)
(今のD×Dキャラの人気から予想すればルフェイということになりますが、それは果たしてどうでしょうか?(フフフ))
2013年9月20日15:7:33 ジン様のコメントに対する返答
イッセーとアジュカがゲーマー仲間(?)になるという設定なんですが、実は投稿を始めた後からできた設定だったりするんですよね。(笑)
悪魔の駒の駒数をどうしても増やしたかったことから、アジュカにゲーマーという設定を追加して、イッセーと仲良くしちゃったんです。(笑)
ちなみに、イッセーは異世界・エターナルで勇者パーティーみたいな一行と魔神討伐を行った英雄なので、実力だけならグレイフィアと同等以上の魔王級だったりします。
けど、流石に中級悪魔試験直後に上級悪魔試験というのは考えていませんね。現時点での構想では原作7巻終了後に中級悪魔試験を受け、原作11巻で上級悪魔試験を受けるという形にしようと思っています。
ロゼットやマグダレーナ、ルシオラの転生体についてですが、実は登場させるつもり満々です。(笑)
どういった形で登場させるかは秘密ですが、取り敢えず今章では登場しません。もう少々お待ちください。
2013年9月21日16:25:11 ディグルス様のコメントに対する返答
中々の出来栄えなどというお褒めのお言葉を頂けて、作者としては大変うれしいです。ただ、やはり誤字や脱字が多々あることから、もう少し腕を磨いていきたいとも思っています。
もし、誤字脱字などを発見された場合、拍手メッセージでもいいのでご報告を頂けると助かります。
2013年9月21日23:59:53 KGT様のコメントに対する返答
そうですね。取り敢えず、今回の章でリアスと朱乃のフラグが立ちます。確実に言えるのは朱乃のフラグの立ち方が原作とは異なるということでしょうか?
まぁ、どういった形でフラグが立つかはお楽しみということで。(笑)
2013年10月2日13:50:12 N様のコメントに対する返答
いや、それはもう決まってるじゃないですか!
ドライグ(原作)「並行世界の俺、今すぐ俺とポジションチェンジしろ!今すぐだ!ハリーハリー!!」
アルビオン(原作)「いや!並行世界の赤いのとチェンジするのは私だ!!」
とカオスなことになるでしょう。まぁ、チェンジした所でオーディンに与えられる被害は変わりがないので意味が無いですけどね。(ニヤリ)
と以上が頂いていたWEB拍手コメントに対する返信になります。そうそう、実は感想掲示板にかえさる様という方がSAHDDの感想スレを立ち上げてくれていたりします。
タイトルは「ソードアート・ハイスクールD×Dの感想」となっています。皆さんさえ良ければ、そちらに感想を頂けると嬉しいです。
そして、この場を借りてかえさる様に改めてお礼申し上げます。感想スレを立ち上げて頂き、誠にありがとうございました。
それでは今回のあとがきは以上で終了したいと思います。また次回お会いしましょう。それでは皆さん、御機嫌よう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m