折角の能力……使わないともったいない。という事で、『創造』を利用してみようと思い立ち、学校の中庭にやってきている。さすがに、魔法学校外に出てまで『創造』に使う素材を集めたいとは思わない……めんどいし。
「おいしょっと」
俺が今集めているのは中庭の土だ。魔力が満ちている魔法学校の土だからこそ収集するだけの価値があるし、これなら『創造』に適しているだろう。
だが、透明になっているとは言え、土を収集するには当然土を掘る必要がある。俺は透明。……分かるか?周囲に気をつけながら土を集めないと要らぬ噂が立つ可能性があるんだ。
例えば、生徒の誰かに見つかったとしよう。すると、この仕業が人間じゃないものによる事だと考えたら?……幽霊騒ぎが勃発する。
例えば、教師の誰かに見つかったとしよう。教師にもいろいろな人が存在するが、もし幽霊というものを極端に怖がっていたら……いきなり攻撃魔法をぶっ放される可能性があるわけだ。
そんな訳だから、いかに自分のステルス能力が優れていようと油断はできないのだ。
そして、ある程度素材を収集してから気付いたのだが……この素材にバニシュって効くのかなって。答えは『是』だッ!!
……この事実に気付くのが、遅すぎたんだ!俺は……俺はッ!
「マスター、持ってきたニャ」
まあ、そんなことは置いといて。
実際にバニシュで素材を透明にすることは叶い、誰かに発見されて厄介事に発展することもなく部屋まで持ち運べた。
「ありがと、そこに置いといて」
だからリムとファントムには、学校にしかいられない俺の代わりに採取不可能と思われる素材の収集をしてもらっている。あと、万一に備えて周囲の警戒も。
今リムが持ってきてくれた素材もそうだが、とにかく使えそうな物やら特別魔力の籠ったものがドンドン集まってくるが……ほんと、倉庫とか創りたいなぁ。
それじゃあ早速、集まった素材を使って『創造』でもしてみますか。
「この土を金属にするから……えっと、『土生金』」
これは、五行の中で"相生"と呼ばれるもので、順送りに相手を生み出していく陽の関係にあるものだ。そして今の"土生金"は、土の中にある鉱物を掘り起こすことで得ることができるというところからきている。
故に、言葉通りに"金"が創られるわけではなく、その土の成分で一番比重の高い物が金属として生成される。
この赤茶けた色からして、銅なんだろうか。
土の色から、多分そうなるだろうと予想していたが……まだ未熟なため、所々に黒い斑点が見受けられる。これは銅に生りきれなかった炭素なのだろうか?
う〜む……断定できるだけの材料が無いが、今はこの銅を金に変えるとしよう。炭素みたいなものは後で調べれば良いだろう。
「創造、『金』」
効果音半端無い。
まさに錬金してますって感じだが、このままだと音量が大変だ。寮で一人の俺の部屋にネカネさんが特攻しかけてくるかもしれない。……それだけは勘弁なっ!
「おお……」
すぐに防音対策を考案しなければと考えている内に、目の前に創造し終えた"金"が目の前にできていた。中はどうなってるか分からんが、見た目は完全にゴールドだ。
この『創造』の効果が本物だとすれば、金を創るだけで生きていくことができる。……でも、どこかで必ずアクシデントに巻き込まれる予感しかしないが。
……とりあえず今は目の前の金に集中しよう。
面倒な行程を経てまでして金を創ったのは、俺があるアイテムを創ろうとしているからだ。それは、石化状態を回復することができる『金の針』だ。
ただ、問題なのは俺が実物を一度も見たこと無いってことだ。針、と名付けられているのだから、おそらく長く鋭いフォルムなんだろうが。
よく分からんが、長さは大体10cm位にして、出来るだけ魔力を込める。あとは書庫で見つけた石化解除の術式でも書き込んでみるか。
「創造」
金塊そのものに術式を書き込み、創造をしながら放出できる魔力を可能な限り金に込めていく。次第に薄っぺらく延びていき、厚さ3mmぐらいになったところで金が二つに分かれた。
想像した通り針になった方は手の中に。余った金は重力に従って落ち始めたが、床に落ちきる前にリムが受け止めた。
できた針を目の前に持ってきて、その出来映えを確認する。……とは言え、初めてこれを創ったため比較するものもなく、何を見ればいいのかかなりアヤフヤだが。
「う〜ん……できたのは良いんだが、ホントに効くのか?これ」
もしかしたら、ただ単にスゴく魔力が込められただけの棒かもしれない。術式が合ってなかったとか、魔力が足りなかったとか……他にも何か問題があるかもしれん。
まあ、まだこれを試す機会は無いだろうから当分先の話にはなるんだが。それでも、やはり自分の創ったものと言うのは試してみたくなるもので。
「……まあ、村人を助けるのは良いんだが、それで元老院に目を付けられることになったら面倒だし。もう少し時間が過ぎてからだな」
打算的だと言わないでくれ。さすがに個人で組織を相手取るのは厄介だし面倒なんだ。
たしかに俺は魔法世界を救ったナギ・スプリングフィールドの息子として魔法使いには認識されている。だが、父親がいれば当然子供を産む母親が存在する。……何故、父親だけが表舞台に立ち、母親の存在が無かったかのように扱われているのか。
それは、母親……アリカ・アナルキア・エンテオフュシアが自国を滅ぼした"災厄の女王"と言われているからに他ならない。
ただ、この話が事実であるとするなら、アリカ姫の情報だけが闇に葬り去られるだけで済んだ。では、何故息子である俺まで元老院に狙われる羽目になっているのかと言うと……自国を滅ぼしたってのが、元老院がついた嘘だからだ。
──大戦によって生み出された負の遺産を無くすため、魔法世界を救うために、自国を代償として差し出すことを選択した。それが、自国民を愛した女王の決断だった。
だが……その尊き信念に、元老院はつけ込んだ。
たしかにアリカ姫の選んだ『九を救うために一を差し出す』という行為は正しかったのだろう。いや、実際に犠牲となった国民は人口の約3%だった。これは、造物主を倒した英雄・ナギと同じように誉れ讃えられてもおかしくはない。
しかし、それを世界の人々が知っていようはずもない。大戦は終結したのに待っていたのは安寧の日々ではなく、難民となって窮乏に苦しむ避難生活だった。民の不満は溜まるばかり……吐き出す場所を見つけることができなかった。
その矛先が我々のもとにきては敵わない。
それが、元老院が出した結論だった。
そこからの元老院の動きは迅速だった。情報機関の持ちうるすべての力を注いでアリカ姫の粗を探し始めた。そして、見つけだした情報が、『完全なる世界』に組みしていた父親を殺したというものだった。
後は自分たちの都合の良いように情報を改竄するだけ。
果たして世界を救ったアリカ女王は、父親を殺し、国を滅ぼし、あまつさえ大戦を引き起こした張本人だと言われ、自身が愛した国民にいわれのない不満を向けられることになった──
順調に事が運んだ計画。
身の保全しか考えていない元老院はさぞ安心したことだろう。……だが、数年して、彼らは聞き逃すことのできない情報を耳にする。
『災厄の女王には息子がいる』
慌てて事の真相を探し、息子であるネギが存在していることを確認した元老院は、そこである考えに至った。
『もし、その息子が事実を教え込まれていたら?』
成長して大人になり、実力をつければ我々に報復をするのではないだろうか?……どこまでも保全しか考えない彼らが考えそうなことだ。
ならばその子供が大成する前に消してしまえば良いのだろう、と──
「──ふぅ」
やっぱり、暗い事を長々と考えるのはよそう。今は、目の前に残った金で創造を繰り返して、予備とか保険として使えるようなものにしよう。
◇ ◇ ◇
場所は変わって校長室。
いくつかの賞やトロフィーが飾られているほか、特にこれといった装飾がない質素な部屋になっている。
「大人しいのぉ」
椅子に座り、お茶を啜りながらほのぼのと呟いた男性こそ、このメルディアナ魔法学校の校長。ネイル・スプリングフィールドだ。
ネイルは、自分の目の前に置かれた資料に目を通していく。
「『成績優秀、態度も良く、魔法実習も他の生徒の先を行く』……か。まるで奴の息子とは思えぬほどじゃな」
ネギ・スプリングフィールド。
この学校の大体の者がかの英雄、ナギの再来かと期待されている延び盛りの少年。
……少年だからこそ、年相応の遊びや友達など、魔法や勉強だけでなく喜楽も味わって欲しい。そう願うのは彼の本心だが、それを許さぬと言わんばかりにMM元老院から催促が来ていることに、皮肉気に口角をつり上げることしかできなかった。
「まったく、将来の明るい子供を向こうに送るなぞネギの人生を潰してしまうだけだと言うのに、どうして儂が応じると思ってるんだろうか」
あの阿呆どもめと内心で愚痴りながら遠くを見つめる。
脳裏に過るのは、嘗てこの学校を中退して飛び出て行ったナギ・スプリングフィールドの姿。勉学なんてものに縁がなく、魔法なんて大体4〜5個しか覚えてないただの悪餓鬼だったのに、いつの間にか世界中から英雄とまで呼ばれるようになり、今は生死不明で行方不明。
「……ただの馬鹿なんだがなぁ」
親のような立場に立って考えてみたとしても、或いは当時奴の教師だったことを思い出しても、辿り着く答えはただ一つ。
「うむ、奴は馬鹿だった」
校長にできることは一つ。
「願わくは、あの子がナギのようにならなように祈ろうか」
そう言いお茶を啜る校長の背中には、幾ばくかの哀愁が漂っていたそうな。
◇ ◇ ◇
魔法の授業はどうしてああもつまらないものなんだろうか。もう魔法の危険性云々の説明をしろとか言わないから、せめて初級でも良いから詠唱呪文を教えてくれよ。
嗚呼、いや……愚痴から始まって申し訳ない。今は魔法の講義中なんだが、子供に詠唱呪文なんてものを教えたら、どこで魔法を使うか分かったもんじゃないし、それこそ危険なことになるから教えないでほしいのが本心だ。
もし魔法を人様の前で使うとしたら……始動キーは既に決めてある。そこは考えるのが面倒臭かったから原作通り『ラス・テル・マ・スキル・マギステル』にした。そこに自分なりのオリジナリティなんて出したって禄なもんが思いつかないし。
それにしても暇だ。渡された教科書に載ってる知識……いや、魔法の基礎の基礎しか書かれてなかったからもう読み終わってるし。他にできることと言ったら何だろうか?
……教師に気付かれないように無詠唱魔法でも使ってみるか?
(えっと……読心術で良いか。おら、この野郎、喰らいやがれ!『読心』!)
なんとなく発動した読心術は、ちょっとした魔力の波となって教壇に立っている教師のもとへと真っ直ぐ伸びていく。何かしらの異変を感じたらしい教師は一度此方を見るが、俺を含めた全員が魔法発動媒体らしい物を持ってないので、再び黒板へと顔を向けた。
無詠唱魔法と言ったが、すまん。ありゃ半分違うんだ。
魔力を使って発動しているこの『読心』は、系統的に見れば呪術に入る。術式だって魔法のそれとは違うものだし、気を使って読心する事も可能だ。
(子供しかいないし、ステッキ以上に高価な媒体は持っていないだろうし……気のせいか)
とまあ、このように魔法を使うには媒体がないと駄目だという常識と、子供にそんなことができるはずがないという心理を突いたんだ。
グフフ……お前の考えていることなんて全てお見通しよ!後は教師から得られる情報でも聞き取ってノートに書き込んどくか。無論、日本語でな。
……ただ、勘違いしてほしくないが、他の生徒たちはどうだか知らないが、俺はいくつか媒体を身につけている。
一つは机の前の方に置いてある魔法使いっぽいステッキ。先端に星形の媒体が付いているタイプだが、俺の魔力だと中級魔法以上の魔力に耐えることができなくなるような物だ。
二つ目が、創造で創った万年筆型の媒体だ。普通に万年筆として使用することはできるし、媒体は内側に隠れているので実際手に取ってみなければ分からないだろう。
そして最後が靴型の媒体だ。靴の中に入れる敷皮を魔法媒体として使えそうなものに変えて創造。結果、何も持っていなかったとしても魔法を発動できるようになったのだ。
(それにしても、この年で髪の毛について悩まないといけないとは……最近、生え際がなぁ)
……ごめんよ、名も知らぬ男性よ(知らぬ間に自己紹介的なものは終わっていたんだから仕方がない)。ただ正義を振りかざすだけの奴だと思ってたけど、そんな深刻な悩みを心に抱えていたんだね。
今度育毛剤が手に入ったら匿名で送ってあげよう。勿論、貴方の仕事用の机の上にね。
(はぁ……確かに僕は基礎的魔法理論は得意だけど、底が見えない英雄の息子の相手は荷が重いよ……どうせだったら一二を争うゲネヒー教授かシュワルツ教授、若しくはランドイッヒ博士に任せたいなぁ)
何々?今の三人については名前を覚えておこう。一二を争うってことは、この学校の中でも上位に位置する魔法使いなんだろうし……どういった系統の魔法を使うのかまで知りたいけど、そこまで高望みはできないか。
……お?もう終了時間か。
(解除)
これで良しと。いやぁ、珍しく楽しい授業になったし、今回ばかりは先生にお礼を言っても良いかな。そうだ、育毛剤をお礼にすれば良いんだな!頑張って努力したまえ。
◇ ◇ ◇
「お久し振りです、ネイルさん」
「うむ。お主も元気そうで何よりじゃが……どんどん老けていくのぉ」
「はは……それは、まあ、努力の結果だと思ってください」
校長室には三つの影がある。
一つは高畑・T・タカミチ。この場に機嫌の悪いネギがいたら『表向きの本業はどうした』と嘲笑われるか、『早いとこ咸卦法を見せやがれ!……むしろネカネに対抗するために咸卦法を教えて下さい!』と強要されるだろう。
そのタカミチが座っているソファの反対側に居るのがネイルだ。ネギなら『お前さんが得意としてる魔法とか、書庫に無いような魔法の実演してみろ!できないんだったらただの耄碌爺だな』なんて言われるに、違いない。
そして最後は、校長の後ろに立ってお茶を淹れているドネット・マクギネス。
いつもは校長の頼れる秘書として働いているが、ネギはねぇ……『結婚してください!』って言い出すかな。街中で会ったら十人中九人は振り返るだろう美貌を持ち、尚且つ頭が良い。何故独身なのか問い質したい気持ちで一杯です。
「ところで、ネギ君はどうしてますか?」
「うむ。まるで奴の子供とは思えんほど良い子じゃ」
タカミチが特に尊敬しているナギがボロクソ言われているのを苦笑して聞いていると、ドネットがお茶とともに資料らしき紙を渡してきた。
「これは?」
「それはネギの普段の行動や成績について書かれてある。隣のは中退する前のナギの成績じゃよ」
「…………は、はは……いつもアンチョコ見てましたし、ナギさんならこの成績でも可笑しくないですけど。ネギ君は優秀ですね」
今タカミチが見ているのは当然ネギのものだ。ある程度付き合いのあったナギの成績は大体分かっていたし、見る必要も感じられなかったが、改めて二人の成績を見比べてみると……口には出さないが、それこそ天と地の差が見受けられた。
『初めて習う魔法でも、まるで最初から知っていたかのように使いこなし、詠唱をする度に魔法の密度が濃くなっていく。その修正率は、天才の一言では済まないように思われます』
『見たこと聞いたことを、一度で完全に暗記しているように思われる。しかし、ただ闇雲に勉学に取り組んでいるわけでもなく、休むときは休み、習うときは習っている』
渡された資料のすべてに目を通したタカミチは、思わず目を瞑って溜め息をついてしまいそうになった。
(嗚呼……ナギさん、ネギ君は確実に成長してますよ。寧ろ、貴方よりも優秀ですが、そこは貴方に似ていなくて良かったです)
もしこれだけを聞いていたら確実に『雷の暴風』がタカミチを襲っている。確実に三本以上は。
と、資料から目を離したことから読み終えたと判断したネイルは、次の話を切り出した。
「しかしのぅ……この頃、教師の一人がつまらなそうにしているように思えると報告してきたんじゃ」
「と、言いますと?」
「あの子の修得速度は回りの子供たちの追随を許さん。それが原因で授業内容に飽きているんじゃなかろうかと推測しておるんじゃ」
報告をしたのは魔法理論を担当している教師の一人、エドワードという教師だった。
彼自身知るよしもないが、彼はネギの気紛れによって一番始めに読心術を掛けられある悩みを知られてしまった男性だ。
「そこでじゃ。タカミチ殿にあの子に会って話を聞いてきてもらいたいんじゃ」
「僕が、ですか?」
「一度会ったことがあると聞いておるし、お主ならあの子もそう邪険に扱うこともなかろう。なに、他愛もない話をしてくれば良いだけじゃよ」
「まぁ、僕としてもネギ君に会っておきたかったですから……そのお話、承りましょう」
「うむ、宜しく頼むぞ」
◇ ◇ ◇
「何故だ!?」
振り上げた拳を勢い良く降り下ろし机に叩きつける。整理されて置いてある小物が衝撃で一瞬浮き上がる。
周りには誰もいない。
それが彼の感情を露にさせる。
そんな彼の表情から一番最初に読み取れる感情は焦りだ。
「誰にも言ってない……あの人にも、彼にも、いや…誰にも言ってない!」
彼、エドワードがその視線に捉えているのは一本のビン。そのラベルに書かれてある文字が更に彼の心を冷え上がらせる。
「一体誰なんだ!僕の知らない内に、職員用の机の上に
『育毛剤 DX』
を三本も置いていったのは……っ!!」
彼が今まで必死になってばれないように気を配りながら髪の毛を増やそうと研究を続けていた。それがどうだ。今回の名も知らぬ奴のお節介によって全てが崩れてしまった。
まぁ……彼は隠しているつもいだが、ほとんどの人は彼の身に宿っている河童の存在には気付いていたし、机に上がっていた薬剤を見た全員が、
「早くお皿に草が繁って欲しいねぇ」
とか
「不毛なる大地にお恵みを」
なんて言いながら十字を切る、キリスト教にへの信仰が厚いものがいたりとか。
「くそ!僕の完璧な擬態がぁぁああぁぁぁあぁ!!?」
その日、日付が変わるまである男性の虚しい叫び声が聞こえていたそうだ。
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