まだ10歳にもなっていない子供に一人暮らしさせるのはどうなのだろうか、という点において、俺はしずなさんの所に泊めてもらうことになった。
最初はタカミチの所にと思ってたんだが、なんだかんだで出張の多いタカミチよりもしずなさんの方が適任だろうという判断らしい。
それは置いといて、原作が始まる3学期までの間、俺は新田先生の元で研修することになった。
『さすがに経験が無い子供をいきなり教師の間に放り込むなんて事はしないでしょうな?』
と言う新田先生の諫言があったとかなかったとか。おかげで仕事内容を覚えられると思うとかなりありがたい。
2,3か月という少ない時間ではあるが、しっかり学ばさせてもらおうと思っている。
学年主任である新田先生の仕事は多岐にわたっている。そのため、ずっと新田先生に付きっきりと言うわけではなく、他の先生の授業風景を眺めさせてもらったり、交流で顔を広めたり。
これは教師と生徒のどちらにも言えることだが、認識阻害のおかげもあり、驚いたり不思議がってる人はいたが、不審がる人はいなかった。
とは言え、俺は見た目通り子供ということもあって気軽に話しかけられることが多い。
メルディアナにいたころは凛とルヴィアぐらいしか普通に会話できる奴はいなかったことを考えると、社交性を鍛える上では非常に良い環境にいるのだろうが。
今の俺は教師。
それを考えると、少なくとも俺の性とになる子たちに舐められるわけにはいかない。
……面倒だが、これも仕事だと思ってやるしかない。誠に遺憾ではあるのだが。
「ネギ先生ぇ! ここ教えてください!」
「はいよっと」
結果、気軽に質問できる先生みたいな立場になった。
……まぁ、舐められるよりはましだろう。原作開始時のネギみたいに過度に弄られることもないのだから。
そもそも、俺の性格がその行為を許せないんだが。別に仕事の鬼になるためとか崇高な考えではなく、単に『やられる』よりも『やる』側に立たねば気が済まないからだ。
――ゴホンッ
話は逸れたが、今のところは普通に研修をこなしている。
学園長からは、実際には一担任として勤務することが修行の内容だと言われているが……
そもそも『魔法使い』が魔法の修行のために『一般の教師』を勤務することをどう思う?
教師として生徒たちに勉学を説き、生活に悩んでいる生徒には手を指し伸ばし。
うん。どう考えても普通の教師としての人生を歩んでる。
原作では着任一日目で魔法バレするという失態を犯してはいたが、実際のところ今の俺と同じように一人の教師として仕事をしていた。……その仕事ぶりは言わずもがなだが。
「せんせーい。俺もわかんない所が」
「はいはい、今教えるよ」
「てか、ネギ先生って本当にあったま良いよなぁ。俺も先生みたいに小さい頃から頭良かったらどうなってたんだろうなぁ」
「おいおい……そりゃお前、しっかり勉強してりゃもう少し良かっただろうさ。今はどうとは言わないが」
「おぁっ!? 俺ぁネギ先生からの挑戦と受け取るぜ!」
「デュエル、スタートだぜぇぇ!!」
「あーはいはい、落ち着こうなぁ」
そもそも俺デッキ持ってないし何の決闘をしようと言うんだ。日本に来たばかりの新任子供教師だぞ?
それにしても何気に能天気な感じの奴がいると気が楽になるなぁ。いっそ、このまま教師になってしまうのが俺的には楽でいいんだが。
――先生方、至急職員室に集まってください――
と、生徒たちの相手をしていると、校内放送が流れた。他の学校ではありえない規模の麻帆良は、ここで行われるイベントの数もまた度を越しているが、今日は特にこれと言った行事は入ってなかったはずだが。
新田先生と目を合わせ、頷きあって教室を出た。
いきなり招集を掛けられた先生方は、さして緊張感もなく職員室に集まっていた。
かく言う俺もそのうちの一人だ。イベントが多いと言ったが、それと同じぐらいに何かしらの問題が発生する確率も高い。
これだけの生徒がいるのだ。逆にいざこざを起こすなと言う方が難しい。
そんな感じで俺は気を抜いていた。
どうせ面倒な事は大人たちが解決してくれるだろうと。
「実は、生徒の一人が行方不明になったという情報が入りまして」
「なんですと!」
職員室が一気に騒然となった。
ここ、職員室には表も裏も合わせ総数30以上の先生が集まっている。一人一人の呟きが混ざり合い、次第に大きくなっていき喧噪へとなる。
何気に俺も驚いたが、ふと周りを見渡してみる。一般人の水準よりも多くの魔力を有している魔法先生がちらほら、彼らの表情も驚愕に染まっているところを見ると、まだ出回って間もない情報なのだろう。
こりゃぁ只事がなさそうだ。
「静かに!」
そんな中、教師の中でも重鎮となりつつある新田先生の一喝で場が静まり返った。さすがの貫録だ。
……それにしても、俺が研修してるときに事件が起きるってのは、何か策謀が張り巡らされているような気がしないでもない。
エヴァンジェリンとの事だってどう考えても学園側が実力と伸び幅を見極めようと舞台を整えたようにしか思えないしな。
「では、詳細について聞かせてください」
「……では、現在行方不明となっているのは男子高等部に在籍しています」
ふむ。
女子中等部以外の表現がないから分かりにくいと思うが、ここ麻帆良には男子女子それぞれ中等部、高等部があり、小学校と大学は共学となっている。
それでも、それぞれの学舎にある教室の数はかなりのものとなっており、麻帆良がいかにマンモス校かを物語っている。
「男子生徒は2年生の衛宮士郎君であります」
(ん……?)
「非常に優しい性格であり、学業に対しても真面目に取り組んでいます。しかし、昨日から行方が分からなくなっており、何かしらの事件に巻き込まれたのではないかと思われています」
(えみやしろうって、まさか衛宮士郎か!?)
確かに衛宮士郎ならどんな人にでも助けの手を差し伸べそうだ。そしてそのまま敵に捕まってしまうと。
確かに彼が行方不明になってしまったというのは俺的にも大きなことだが、それ以上に気になることもある。
あの凛とルヴィアが魔法学校でこの世界の魔法を学び、使えるようになっていたことを考えるとだ。士郎の投影や固有結界はどうなるのだろうか。
もう既にFFの魔法を使える俺がいるから、一部例外がいてもおかしくない。まったくこの世界の魔法の術式にはそぐわないだろうが。
いや待てよ……この世界の衛宮士郎は、既に自分の魔法を見つけてるのか?
ここでは異様とも思える魔法、それを偶然にも見てしまった魔法使い・呪術師が目に付け、それがちょうど俺が研修中に起きた出来事で。
……さすがにこれは出来過ぎか?
単純に巻き込まれただけの一般人ってとこか?
とりあえず、この事件には俺も一枚噛ませてもらうことにするかね。
「どうなされますか、学園長」
「ぬぅ」
生徒が帰宅し終えた後の学園長室で、新田先生と学園長の二人が話し合いをしていた。
いつもなら近くに佇み、場が熱くなってくると冷静に抑える役に徹することの多いタカミチは現在出張中である。
その現状を近衛右門は良く思っていなかった。
本音を言えば、魔法を使ってしまうのが一番楽なのだが、それをしてしまうと事実との齟齬ができてしまう。加えて、目の前にいるのは『鬼の新田』その人。
確かに彼は一般人ではあるが、その教師として歩んできた歳月と人となりが些細な情報でも引き出せる洞察力を身につけさせている。
そのため、少しでも変な事をしゃべってしまうとすぐに突かれるのは目に見えていた。それが生徒のためと言うのだから、近衛右門としても無下にすることもできないからだ。
だが、この麻帆良で行方不明という事件が起きる、なんて事があってはならないのだ。
「こちらの対応としては、警察に話を通すしかあるまい。もし学園からも既にいないのであれば、儂等だけで対応することなぞできんしの」
「ふぅむ……そうですな」
表向きにはこれで良い。
だが、近衛右門はそれで良しとは思ってなかった。
それもそうだろう。ここには幾百幾千もの生徒たちが、あの子がいるんだ。また新たに被害者を出すわけにはいかないし、混乱を起こされたくもない。
それで麻帆良の評価が下がるのもいただけない。表向きの情報に加え、関係者各位に更なる指示を出すのだった。
「ぬ?」
ふと、近衛右門は部屋の中を見渡した。
ここにいるのは新田先生と学園長の二人だけ。
「どうかされましたか?」
「……いや、なんでもない」
一瞬感じた視線は気のせいだったのか。
魔法で覗かれている形跡もなく、カメラなどで見られている様子もなかった。
頭を振り、二人だけの会合を続けるのだった。
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