「わあぁ……」
海鳴市にあるスーパーの停留所で、ランドセルを背負った栗色の髪をツインテールにした一人の少女が輝かんばかりの瞳で一台のバイクを見つめていた。
白をベースにした、多くの大小の傷が残っている大きな
そのバイクの魅力は傷だらけになりながらも子供――男の子や女の子関係なく――をハートを鷲掴みにするようなほど、強くそして格好よかった。
無論、小学生であるこの少女……高町なのはも例に漏れなかった。
「はぅぅ、かっこいいよぉ」
なのはがほぅと息を吐きながら、そう独り言をつぶやくと。
「ふふっ、そう言ってくれると、ありがたいよ」
「はにゃ!?」
突如背後から声が聞こえ、なのはは驚いて振り向くと、そこには一人の青年、心が黒い買い物袋を片手にクスクス笑いながら立っていた。
「邪魔をしちゃってごめんね、でも俺もそろそろ行かないといけないから」
「あっ、なのはこそ、勝手にかっこいいバイクを見ちゃって、ごめんなさい!」
なのはは申し訳なさで頭を下げると、心は別に気にしていないので手を横に振りながら答えた。
「ううん、全然気にしていないよ。 あっ、そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「あっ、はい、なんでしょうか?」
心は買い物袋を右ハンドルに引っ掛けながら、なのはに問い投げる――彼女にとって至ってシンプルな問いを。
「喫茶店『翠屋』ってどこか知っているかい?」
「遅いわね、なのは……」
喫茶店『翠屋』の店長、
もうすぐお昼時だというのに、既に学校も終わっているはずなのに、約束した場所――翠屋に来ていないのだ。
昨日、なのはは「明日一緒にお手伝いするよー」と言ってくれたのに……。
「事故でもあったのかしら、やっぱり雪奈に迎えにいってもらったほうがよかったかも」
「店長、落ち着いて」
「桃子、心配しすぎだよ」
オロオロとしだした桃子に、苦笑しながら宥めるのは淡い茶色の髪の女性と翠屋のアシスタントコックである松尾。
顔にしょうがないなぁと言わんばかりの表情を浮かべる女性の名はフィアッセ・クリステラ。
ほぼ完璧な日本語が使える――それはもう日本人が顔負けをするぐらいの――英国人だ。
「なのはだって、もう小学二年生なんだし、それにしっかりした子だよ。 多分どこかで寄り道とかしてるんじゃないかな」
「……だったらいいんだけど」
桃子はため息をつき、頬に手をやる。
そんな桃子にフィアッセはもう一度苦笑を浮かべる……と。
「シュークリームの追加をお願いしまーす!」
「あっ、はーい!」
「それじゃあ、わたしは仕事に戻るね」
厨房に響き渡る声に返事をし、桃子と松尾は急いでシュークリームの製作を始める。
フィアッセは仕事に戻るため厨房から店内へと戻ると同時に軽快なベル音が鳴った。
ベルが鳴るということはお客が入ったことを意味するので、フィアッセは笑顔でお客に対応する。
「いらっしゃいま……せって、なのは?」
「あっ、フィアッセさん、ただいま」
「どうしたの、その荷物」
入ってきたのは店長である桃子の娘のなのはだった。
フィアッセはなのはが帰ってきたことに安堵はするものの、なぜか両手には買い物袋を持っていることに疑問を持つ。
なのはの買い物袋を空いているカウンター席に置く姿を、フィアッセは首を捻りながらも見つめると、ベルの軽快な音が再び鳴った。
新しく入った客に挨拶しようとフィアッセが身体をドアのほうへと振り向く前に、なのはがタタタッと駆け寄りながらお客に「いらっしゃいませ!」と言ったあと。
「本郷さん、席を取っておきましたので、どうぞ!」
「ありがとう、小さな店員さん。 はい、お礼の飴さんをあげよう」
「うぅ、なのはは子供じゃないです! だから――」
「そっか、それじゃあ俺が食べ――」
「いります!」
なんだか親密気に会話しているなのはとお客に若干面食らいそうになりかけるが、フィアッセはなのはに聞く。
「なのは、知り合いなの?」
「うん、さっき知り合った人なの、本郷 心さんっていうの!」
「えっ、さっき!?」
フィアッセは驚きに満ちた声で思わず叫んでしまった。
それもそのはず、なぜなら心となのはの掛け合いは、まるで友達のようなもので、さっき知り合ったとは到底思えないのだが……。
「本郷さん、いったいなにを頼みますか?」
「う〜ん、まだどうしようか考えていないな……お勧めはなんだい?」
「えへへ、なのはのお母さんが作ったシュークリームです」
「へ〜、それじゃあそれを頼もうかな……う〜んでも迷うな〜」
二人の姿を呆然と見るフィアッセを尻目に心となのははメニューを見ながら楽しく会話を続けていた。