最初に駆け出したのはワイルドボーだ。

ワイルドボーは自分の腕を思い切り振り上げ、ライダーもそれに対抗するかのように腕を持ち上げるのを見て嗤った。

自分の拳とライダーの拳のぶつかり合いだと、確実に自分が勝つ!

嘗てショッカーを潰した相手といえど所詮旧型、新型の自分に勝てる訳がないのだ。

ライダーの吹き飛ぶ様を想像し、ワイルドボーはライダーの拳と――。

「がっ……!?」

ぶつかり合うことがなかった。

ワイルドボーの拳はライダーの腕によって打ち出した方向を反らせ、ライダーはすぐ様ワイルドボーの脇腹に鋭い靴の先を食い込ませたのだ。

「ぐっ、あ」

幾ら改造人間といえど脇腹は一種の人体急所だ、ダメージが小さい訳がなくワイルドボーは数歩後ずさる。

「おりゃぁ!」

ライダーは三連続の左右の拳で強烈な殴打を胸元に叩きつけ、ワイルドボーを抱え込むと同時に、そのままの状態でジャンプし、背負い投げのようにして敵を地面のように叩き付けた!

「がっ、ぐっ、なっん、めんなあああああ!」

改造人間でも息ができなくなる程の衝撃を与えたにも関わらず、このワイルドボーはすぐ様立ち上がった!

ワイルドボーはライダーが地面に降り立つのを見計らい、右肩によるショルダータックルを繰り出した。

肩部分に生えている刃は出来るだけ避けたい所……しかし、最早刃はライダーからもう数センチといった所まで近づいていっている。

刃がライダーの躰に突き刺さってしまえば、ワイルドボー自慢の力に振り回されるか、または躰を持っていかれ引きちぎられるかもしれない。

それだけは避けたい所だが、この攻撃は最早避けられない……ならば!

「っぅ!」

「んなっ!?」

ドシュッという肉が突き刺さる音が響いた。

しかしワイルドボーは自身が突き刺した思い込んだ場所を見誤った事に驚愕した。

ワイルドボーはライダーの腹部か胸にこの刃は突き刺したと思った。
しかし、肝心の刃は何とライダーの左掌に突き刺さっているではないか!

ライダーは咄嗟の判断で自分の左掌で刃を押さえ込む事ができたが、途方もない激痛がその掌に襲いかかる。

躰に突き刺さらないだけマシだと思い込ませ、手刀でワイルドボーの刃を肩にある根元部分を手刀で叩き折る!

「っとぉ……!」

折られた衝撃で前のめりになったワイルドボーの顔面に力強く握り締めた拳で殴った!

「ぶぐぅぁ!」

「でぇりゃあああああ!」

殴られた拍子に後ろへ後ずさるワイルドボーにラッシュを掛けるライダー。

右拳によるフック、アッパーカット、肘打ち、更には顔面飛び蹴りを喰らわせ、ワイルドボーを勢い良く吹き飛ばし転がっていった。

ライダーはその隙に、左手に突き刺さった刃を内側から引き抜き、投げ捨てた。

そして。

「とぉう!」

ライダーは上空高く飛び上がり、そして右足を引き伸ばし、飛び蹴りの態勢をとる――ライダーキックだ!

「ざ、っけんな! こんの、旧型があああああああっ!」

対するワイルドボーはふらふらと立ち上がり、ライダーキックに対抗するように頭部の角を思いっきり突き出す!

キックと角が拮抗しあい、ヅガァンという衝撃が周りに響き渡る。

勝敗は――。

「ぐぅあ!」

「っ!」

引き分けだ――!

お互いの技は威力が互角だったためか、呆気なく彼等は吹き飛んでしまった。

ワイルドボーは後方へと踵で抑え込み、土煙を撒き散らしながら下がっていき、ライダーは後方へと吹き飛んだ……が。

ブオォォオオンという強いマフラー排気音が響いた。

ワイルドボーが前を見ると、そこにはバイクが――ライダーの愛機:サイクロン号が走っていっているではないか!

ライダーはサイクロン号に乗り移り、エンジンを強く吹かせ、すぐさま200kmを超えるスピードを繰り出し、突進するが。

ワイルドボーには当たらず、軽く飛び上がりただすれ違っただけ。
掠りもしなかった。

「はっ、なんだ、ただの虚仮威し――かぁっ!?」

激痛が右腕に走り、嘲る言葉が途中で切れる。

そして、ボトッという何かが取れたような音が聞こえ、視線を落とすと――ワイルドボーの右腕が無残に斬り落とされていた。

自身の右腕が斬り落とされたのを確認したと同時に、血がブシャッァと噴出した。

「ぐっうあああああああああああああああ!!」

なぜ自分の腕が斬りおとされたのかを理解しえぬまま、痛みのあまり絶叫するワイルドボー。

先ほどのライダーのサイクロン号での行為はただの虚仮脅しではない。
サイクロン号に乗った状態で高速で突進してすれ違いざまに敵を切り裂く技――サイクロンカッターを繰り出したのだ。

ライダーはサイクロン号で鎌鼬を起こし、それをワイルドボーに切り裂かせたのだ。

しかし、これは刃を使う改造人間では考え付かないような技……バイクを使っての鎌鼬など下手をすれば自分も斬られるかもしれないにも関わらず、それを行ったライダーに、今更ながらワイルドボーは感じた。


仮面ライダーという改造人間という強さと、その格の差を。


(に、逃げっ!)

「とどめだっ!」

サイクロン号から跳躍し、再び空中でライダーキックを繰り出していた。

ワイルドボーは逃げようにも度重なる痛みの余りうまく動けないのだ。

(い、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだぁ! 死ぬのは、死ぬのは嫌だああああああああ!)

ワイルドボーは気付いていない。それは先ほど自分が先ほど殺していった人たちに対し、同じ思いだったということを。

「うおおおおおおおおお!」

「ひっ、う、あああああああああああぁぁああ!」

己の命を刈り取るライダーキックが襲い掛かってくる。もう終わりだと、ワイルドボーは頭を抱えるが。

「な、なにっ!?」

ライダーの驚愕する声に、ワイルドボーは疑問を感じ、頭をそろそろと上げてみると。

そこにはライダーと同じ仮面やプロテクター・グローブとブーツ。
またカラーリングが金色系のオリーブドラブ色で、複眼はダークグリーン、黒いマフラーを巻きつけている――ショッカーライダーがライダーと同じライダーキックで受け止めていたのだった。

命が助かった安堵感に包まれ、ワイルドボーは気絶した。

* * * * *

「くっ!」

ライダーはショッカーライダーの足裏を蹴りつけ、すぐさま後方へ下がった。

これで戦う相手は二人となってしまった――しかも相手はただのショッカーライダーではない。

ボディースーツから見て取れる身体の起状で女性だと思うが、油断は一切ない。

自分のライダーキックと同等の威力を持っているのだ、既に警戒態勢だ。

ショッカーライダーとは何度も対決したことがある――彼ら自身はそんなに強くはない。
戦闘経験量の違いや量産化仕様に伴う性能劣化などで、単体の戦闘力では見劣りするし、今放ったライダーキックで既に絶命するほどの弱さだ。

しかし、今目の前にいる黒いマフラーのショッカーライダーは違う……!

自分のライダーキックと同等、しかも相手は無傷……。

厳しい戦いの予感を感じさせ、ライダーはファインティングポーズを構えるが。

「あなた様にご提案があります」

「なんだ」

変声期を用いられているため、くぐもった声でしか聞こえないが、それはどうでもいいため答える。

「このまま手を引いてはいただけませんか」

「否……と答えたら?」

「不本意ですが、あそこの木の裏に隠れている少女と狐を攻撃しなければなりません……それにあなたも度重なるダメージでこれ以上の続行は望めないのでは?」

ショッカーライダーの取り出した投げ矢を隠れている少女たちへ向けた。

後者は反論できる。
確かにダメージはある……しかしこの程度のものはまだまだ続行できる、以前まではベルトが半壊寸前、腕が千切れかけるほどの大ダメージを負っても戦うことができたのだ、問題はない。

しかし、最も避けなければならないのは前者だ。
あの投げ矢はただの投げ矢ではない、爆弾の能力を持つ投げ矢だ。
普通の人間にはなったら、ただでは済まない――周辺を大きく破壊するだけでなく、人間に着弾したら骨すら残さないほどの火力を持っているのだ。

ライダーは「分かった」と応じ、拳を下ろした。

「流石は仮面ライダー、これのことをご存じで何よりです――それでは」

「あぁ、分かっている」

持ち主が跳躍したため転がったサイクロン号を起こし、ライダーは背中を向ける――チラリと肩越しにショッカーライダーを見ると、投げ矢を懐に入れたのを確認する。

(よし……)

問題なしと判断し、ライダーは少女のもとへ駆け寄る。

「もう大丈夫だ……さぁ行こう」

「は、はい――あっ、怪我を」

「気にしないで、すぐに治るよ」

自分の右手を差出すと、少女は自分のことを案じてくれた。
少しだけ自分を信じてくれたのだろうか、だとしたら戦った甲斐があったといえる。

そして、金色の狐も「クゥン」と吠えてくれた――ありがとうと言っているのだろうか、ライダーは優しくなでる。

ライダーは少女の手を掴み、サイクロン号の後頭部席に座らせ、走り去ろうとエンジンを噴かせる。

そしてブレーキを外し、ライダーと少女たちは海鳴臨海公園を走り去っていった。






走り去っていくライダーの姿を見て、ショッカーライダーはホッと一息をついた。

あれでいい、寧ろあれで去ってもらえねば、こちらが不味かった。
こちらは役立たずが一名存在する上に、自分はまだ経験量が少ないうえに、まだ『彼』からのお墨付きももらっていないのだ。

あのまま戦ってしまえば、こちらは全滅に陥ってしまうのだ。

「さてと、それじゃあ早く帰ろ」

パトカーのサイレン音がこちらからでも聞こえるし、長居する必要もない。

ショッカーライダーはワイルドボーを担ぎ上げて、この場を去った。

* * * * *

少女――神咲 那美は今運転している仮面ライダーという異形の背中を見つめていた。

最初は恐ろしかった、あの猪のような化け物と同じ存在だと感じていた。

しかし、実際彼は自分を励ましてくれた、そして久遠に言葉をかけてくれた。

そして久遠はあの猪の時と違い、彼には対抗心が向くことがなく、彼を信じ委ねたのだ……。

(不思議な人……)

かなり人見知りが激しくすぐ物陰に隠れるこの久遠が、ライダーを信じた。

なぜ久遠はライダーを信じたのか分からない……しかし、この人は

那美は彼の背中をじっと見つめる――暖かさと強さ、優しさを感じさせる逞しい背中だが――。



どこか、寂しさと悲しさを覚える……そうも感じさせるような切なく見えた。



彼の背中をそっと撫で、彼女は彼の背中に頭を預け――ようとしたとき、ある場所を通りすがろうとしたとき、那美は叫んだ。

「ごめんなさいっ! ここで止まってください!」

ライダーはサイクロン号にブレーキをかけ、ある場所――八束神社前で止まった。

那美はゆっくりとサイクロン号から降り、ライダーに頭を下げてこう言った。

「ありがとうございました! あと、怯えてしまってすいませんでした!」

その言葉にしばし唖然としていたライダーであったが、すぐに「クッ、ククッ」と笑い出した。

疑問を覚え首を傾げる那美に対し、ライダーは頭をなで始める。

「ふふっ、こっちこそありがとう。 お礼を言ってくれて」

「? あっ、はい。 あ、ありがとう、ございます……?」

ライダーの言葉の意味がよく分からないが、自分もお礼を言って返す――正直なんて言えばいいのかわからないからだ。

「それじゃあ、気を付けて帰ってね。 あと、久遠ちゃん……だっけ、君もまたね」

「くぅん!」

ライダーの言葉を返す久遠の頭も撫で、ライダーはサイクロン号を走らせ、その場を去って行った。




彼女らの視界を感じなくなった後、ライダーは心の姿に戻った。

(いまどきあんな子がいるなんてね、珍しい)

あのぐらいの年代の子――いや普通の子ならば自分のことを化け物と言って罵倒するのが当然のはずなのに、彼女は違っていた。

まるでどこかのスクールに通っている、逞しくも肝が据わってる女性たちのようだ。

(あんな子がたくさんいればいいのにな)

心はそう思いながら、サイクロン号を走らせ、自宅へ戻ろうとしたとき。

(あっ!? そういえば、ジャージ着たまま高町君の家を出ちゃった!? 急いで戻ろう!)

すぐさま進路変更を行い、サイクロン号は自宅ではなく、高町家へ目指して走り出していった。




後書き

戦闘シーン……やっぱり難しいですね(泣)



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