キラとアスランは医務室でこれからの事について話し合っていた。
「正直、僕達は戸籍も住む所もお金も居場所も無い。本当に何も無いね」
「ああ、ここまで何も無いといっそ清々しいな。先ずは戸籍の確保と働き口だな」
その時だった医務室の自動ドアが開いた。
キラとアスランは扉の方を見つめると千冬が入出してきた。
「話中失礼する。先ずはお前達の処遇だが、この学園に入学してもらう。学費も無論免除、生活費も国から支給されるぞ」
それを聞いてキラとアスランは嫌な予感がした。
必ず美味い話には裏があり、何かを要求されることは明白だからだ。
「その見返りは? まさか、僕達の境遇が哀れと思って慈善事業でそんな事するわけが無い。この学園はISと呼ばれる特殊な物を起動させるために作られた学園、ここには女性しか入れない。そこから導き出される答えは、僕等が何かの検査でISを男で起動する事ができる存在だから国も学園も僕たちを確保しておきたい」
キラの言葉にアスランが引き継ぐ形で話す。
「さらに貴重な男でのIS起動可能な人材の研究、多分、解剖はされないだろうが、データ収集は確実に行われるだろうな」
キラ達の説明を聞き、千冬は感心したように答える。
「そのとおりだが、この限られた情報だけでほぼ正解に近い答えを導き出すとはな。頭はいいようだ」
千冬は一拍置いてから重要な話しに入る。
「君達の持ち物を検めさせてもらった。その中にナンバーの無いISが発見された。467機すべてに施される筈のコアナンバーの無いIS、つまりノーナンバーのISがあったのだ」
それを聞いた瞬間、キラとアスランは驚きを露にした。
千冬はそれに構わず話を続ける。
「さらに2つのISを調査したがこの世界では考えられないロスとテクノロジーのオンパレードだった。バリアエネルギーをほぼ無制限かつ無尽蔵に生み出すハイパーデュートリオンエンジン、一定の物理攻撃を無視するVPS装甲、天候に左右されず大出力荷電粒子を吐き出すビーム兵器とまあ、出鱈目にも程がある代物だった」
それを聞いたキラ達は思い当たる単語に反応する。
どれもC.E.の世界では聞いたことのあるシステムなのだ。
「つまりだ。君達は男でISが操縦でき、さらに大国の純軍事力に匹敵する戦闘能力を秘めたISを所有している。国家や企業が君達をほおってはおくまい。そこでIS学園と日本政府は戦争の火種である君達に自由国籍権という権利を与え、何処の国家、企業や組織にも属さないという立ち位置で戦争回避を図った」
それを聞いた瞬間、キラとアスランは頭を抱えて唸ってしまった。
自分達が下手をすれば戦争を誘発する火種であり、たった1人で国家とすら戦える能力を有する存在になってしまったのだ。
「まるで危険人物扱いですね」
アスランの皮肉ないい方に千冬が現実を突きつけた。
「解ったか? 自分達の立ち位置がどれ程危ういかが」
「ええ、考えたくないほどに」
キラも答えるがその言葉には何時もの力強さは感じられない。
「しかし、各国が猛反発してな、『日本がISの技術を独占している。アラスカ条約に違反している』と言われては日本政府も仕方なく君達の所属を決めることになった」
さらに投げ込まれた爆弾によりキラとアスランはさらに落ち込んだ。
「現在は未定だが、お前達は何れ何処かの国家に属する事になる。異論は?」
その質問にキラとアスランはヤケクソの皮肉を吐き出す。
「俺達に決定権は無いんでしょ? その質問は無意味ですよ」
「聞くだけ効率的ではないですよソレ」
その言葉を聞き、千冬はこれからのスケジュールを言う。
キラとアスラン、千冬と真耶の4人は格納庫にいた。
「それでは、ISの起動を行う。ISを装着するときは念じるように装着しろ」
「「はい」」
キラとアスランは目を閉じた。
その瞬間、キラとアスランの頭の中にISの情報が流れ込んできた。
「解る。ヤッパリ、フリーダムだ。フリーダムと変わらない……その操縦方法や兵装さえ」
「ああ、こいつはジャスティスだ……不思議な気分だ……まるでジャスティスが語りかけているみたいだ」
そう2人が呟いた瞬間、2人は光に包まれる。
そして光が晴れるとそこにはメタリックグレーのフリーダムとジャスティスが現れた。
「外見はフリーダムを小さくしたみたいだね……」
キラの言葉にアスランもうなずく様に同意した。
「ああ、何だかジャスティスになったみたいだ……」
そう呟いた瞬間、目の前にフリーダムとジャスティスのOS画面が浮かび上がる。
その瞬間、フリーダムとジャスティスのメタリックグレーから色が浮かび上がる。
『フェイズシフト装甲を展開』
そう表示されている。
「ますますフリーダムだ」
キラの言葉に千冬は指示する。
「感嘆に浸ってないでカタパルトまで歩いていけ」
そう言われキラとアスランは頷くとカタパルトまで歩いていく。
その姿を見た真耶は驚きの声をあげる。
「ま、まさか今日起動したばかりなのにこんなに簡単にかつ完璧に歩行ができるなんて……」
その真耶の驚きに千冬は内心同意した。
(彼らは確かMSという兵器のパイロットだ。操縦の違いに最初はもたつくと踏んでいたが……こうもアッサリ歩行ができてしまうとは……しかも完璧だ。新人のヨチヨチ歩きとは訳が違う。完成された歩行だ。最高峰のIS操縦者になれば、基本で実力が理解できるがまさかここまでとはな)
ある種の感動にも似た思いを抱きながらキラの発進を見届ける。
キラがカタパルトのロック位置まで移動を完了させると、ロックがかかり足元が固定される。
『カタパルトのロックを確認、ヤマト君、発進どうぞ』
真耶の発進許可が下りた。
後は飛び立つのみ。
キラはガンダムのフェイスに隠れた瞳を静かに閉じ、見開きながら言う。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!!」
その言葉が言い終わると同時にカタパルトはキラを勢いよく光さす世界へと解き放った。
キラが空へ飛び上がりバレルロールをしながら上昇し、約40メートルの所で静止した。
その頃、管制室ではその様子を見ていた真耶は驚きの声を上げていた。
「ウソ……信じられない……初めてISを装備した人間のする芸当じゃないです。あんな鮮やかなバレルロール上昇をやってのけるなんて……」
「ああ、だが目の前の出来事は現実だ。ヤマトはフリーダムの限界を理解した上で機体を自分の手足の様に扱っている。機体特性をすべて熟知している証拠だ」
モニターでその様子を見ていたアスランは当然の物を見ている様な様子であることから2人は理解した。
アスランもまた同じことが可能なのだという事を。
キラが上空で静止していると目の前にウィンドー画面が開き、真耶の顔が映し出される。
『ヤマト君、先ずはターゲトシューティングを行います。標的は50機のシーカーです。シーカーはオートで動き回り、攻撃も行います。ヤマト君はこれを制限時間内にできるだけ多く撃破してください。質問は?』
「いえ、ありません」
『では、訓練開始!』
その言葉と共にシーカーは高速で動き出す。
キラも背中のドラグーンを全機パージした。
その瞬間、蒼い8枚の翼は不規則にキラの周りを飛び交い、高速で四散した。
そして、キラの手元に粒子が輝きライフルが両手に握られる。
次の瞬間、腰の折り畳まれていた砲身が前に伸び、両手のライフルを構える。
「ハイマットフルバースト!!」
その号令と共にフリーダムの砲身から緑、赤、黄の合計5つの砲撃が放たれる。
そして8機のドラグーンからは緑のビームがマシンガンの様に吐き出される。
その瞬間、50機のシーカーは全機破壊される。
ソレを見ていた真耶は唖然としながら呟く。
「さ、3秒……そんな事って……」
「正確で出鱈目な砲撃だ。50機のシーカーを同時ロックオンして撃破、いや最早狙撃の域だな。多分、ヤマト位だろうこんな芸当ができるのは。普通の人間ではあんな膨大な情報処理能力や反射速度はありえない」
その言葉に真耶が疑問を投げかける。
「それはどうしてですか?」
その真耶の疑問に詳しく答える千冬。
「50機もいるシーカー全ての動きを把握し、かつシーカーの予測進路を計算、そこから導き出される最適な砲撃位置に誘導兵装の移動と同時に全シーカーにロックオンを行いつつ自分も砲撃に最適な位置に高速移動し砲撃を行う。人間の反応速度を超えている。口で言うのは簡単だがコレを実戦の場でやれといわれれば私でも不可能だ。同時並行処理作業が多すぎて対応できない。どういう脳味噌をしているのか疑いたくなる」
その説明に言葉を失い何もいえない真耶を他所に千冬はキラに命じる。
「ヤマト訓練は終了だ。あがっていいぞ。次はザラの訓練に入る」
『了解』
キラはIS格納庫に着陸するとISを解除する。
その瞬間、PS装甲がダウンし、メタリックグレーにカラーチャンジすると胸部装甲が開き上半身が下に倒れこむ様に外れる。
ガンダムフェイスのマスクとヘルメットも外れる。
「ふう」
キラはフリーダムから下りるとため息を吐きながら一息をつく。
「お疲れ、キラ」
ジャスティスを装備したままのアスランが語りかけてくる。
「いや、そこまで疲れては無いけど。次はアスランの番だね。頑張って!」
キラの応援にアスランは手を挙げて答える。
アスランもまた鮮やかな歩行でカタパルトまでたどり着く。
何とか気を取り直した真耶がアスランの発進を許可した。
『カタパルトのロックを確認、ザラ君、発進どうぞ!』
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!!」
アスランもまたカタパルトから勢いよく飛び出し、空を鮮やかに舞う。
アスランの訓練内容もまた50機のシーカーの破壊だった。
『それでは、訓練開始!』
その掛け声と共にアスランは左腰のビームサーベルを引き抜き右腰のビームサーベルと連結させアンビデクストラス・ハルバード形態にする。
そして、シーカーの密集地帯に超高速で接近するとビームサーベルの両刃を最大出力に切り替えた。
その瞬間、桃色の光刃は片刃が15メートルまで伸びる。
アスランはソレを振り回し周囲にいたシーカーを切り刻んでいく。
「おおおおおおおおおおお!!」
アスランの雄叫びと共にその刃の舞は美しくも獣じみた代物になっていく。
シーカーの反撃はあったがアスランはソレを鮮やかな機体制御で華麗にかわしシーカーを切り刻む。
全てのシーカーを刻み終わる頃にはグラウンドはズタズタになっていた。
ソレを見ていた千冬は唖然とした。
「5秒……接近戦が得意とは言え早すぎます!!」
その言葉に千冬はまたも解説を始めた。
「ザラの奴もとんでもない処理能力だ。乱戦の中、全シーカーの動きを把握しつつ双刃剣を的確に敵に当てていた、オマケに、シーカーの攻撃タイミングすら予測し攻撃と回避を同時に行っている。さらに接近戦型熱量兵器の重量はすべてが柄の部分に集約されている。手に伝わる感覚は柄の重さのみで、刃があるという実感が湧きにくく、下手をすれば使い手自身を切りかねない。そのため未熟な者が持つ武器としては甚だ不適当だが、ザラは簡単に扱いこなしている。私ですら雪片を使いこなすのにソレ相応の訓練はしたぞ」
ソレを聞いた瞬間、とうとう真耶が質問をしてしまった。
「えっと……2人ともIS動かすの今回が初めてですよね?」
「その質問をしたくなる気持ちは解るが現実が目の前にある」
こうして、キラとアスランのIS起動訓練は幕を閉じた。
あとがき
今回はここまでです。
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