SHRの時間、ソレは突然言い渡された。
真耶が壇上に立ち嬉しそうに言い放つ。
「今日からまた新しい転校生が何と2人も来ました!!」
その言葉にザワつく教室。
「静かにしろ!! 馬鹿者共!!」
千冬の激昂に水を打った様な静けさを取り戻す教室。
「それでは入ってきて下さい」
その言葉と共に2人が入室してくる。
一人は明るいブロンドをポニーテールで束ね、男子の制服を着た男の子で、女の子に似た顔立ちの男子だった。
もう一人は、シルバーブロンドをストレートにした少女だが、一番目を引いたのは左目を覆う眼帯だろうか。
「それでは自己紹介をお願いね?」
真耶の言葉に頷きながら金髪の少年は自己紹介を開始する。
「初めまして、フランスから来ましたシャルル・デュノアといいます。よろしく」
その瞬間、女子の大多数がざわめく。
「男子?」
「男の子!?」
そのザワめきに笑顔で答えるシャルル。
「ええ、此方にも僕と同じ男性が3人いると思うのですが」
その言葉に女子が黄色い悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああ!! 男子!! しかも守ってあげたい系!!」
「最っ高!! 紳士系のキラ君にクール系のアスラン君、ワイルド系の一夏君に続いて守ってあげたい系までくるなんて!!」
「我がクラスが男子を独占よ!!」
「え……」
その叫びにタジろぐシャルル。
正直、このテンションの高さにどう対応すればいいのか解らないと言った所だろう。
そこに真耶から注意が入る。
「皆さん!! まだ紹介が終わってませんよ!!」
その言葉で騒いでいた女子は沈静化する。
「それじゃあ、自己紹介してくれるかな?」
その真耶の言葉に無言を貫く少女。
「あ、えっと……」
真耶もこの反応に如何返せばいいのか解らず言いよどんだ。
そこにすかさず千冬が助け舟をだす。
「ラウラ、挨拶をしろ」
「ハイ、教官」
その言葉に反応したのか少女は千冬を教官と呼び名乗りを上げる。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
完結的かつ名前しか言わない少女に戸惑いながらも真耶は質問した。
「以上……ですか?」
「以上だ」
取り付く島も無い位の反応に女子は如何反応して良いのか解らなかった。
キラとアスランはそのラウラと名乗る少女から自分達と同じ匂いを感じた。
軍人の匂いを。
その少女は突如一夏の前まで歩み寄り、質問した。
「織斑……一夏だな?」
その質問に戸惑いながらも一夏は答える。
「ああ、そうだけど……」
その瞬間、少女は手を左へやり振りぬこうとした。
反応できない一夏。
しかし、ラウラの手は振り抜かれる事は無かった。
「!?」
強い力で自分の腕を掴まれている事に気づく。
渾身の力で振り解こうにも解けない。
一夏の頬、数センチで止まるラウラの腕。
「いい加減にしないか。どのような関係があるにせよ君と一夏は初対面だ。それとも相手の頬を殴るのが君の挨拶なのか?」
アスランだ。
彼はラウラの気配を察し、コレは危険と判断し止めに入った。
「離せ」
しかし、アスランは離さない。
それどころか、ラウラの手を強引に一夏から離す。
そして、一夏からある程度離れた時、力を緩める。
その瞬間、ラウラの手は振り解かれ、後ろに後退した。
「暴力で訴えるな。其処からは何も生まれはしない」
アスランはそう言うと自分の席に向かおうとした。
「貴様に何が解る? 力が無ければ物事は解決しない」
ラウラの言葉にアスランは背中を向けながら答えた。
「心の無い力は唯の暴力だ。力とは強い信念で制御して初めて本来の意味を成す。君からはその信念が感じられない。言わば空っぽの力、君の言う力は中身の無い暴力だ」
話は終わりとアスランは席に着いた。
暫く教室は重い空気が支配していた。
一夏、キラ、アスラン、シャルルは着替える為、更衣室に移動していた。
まあ、女子に取り囲まれる騒動があったが何とか切り抜け、更衣室に到着した。
「しっかし、キラ達、筋肉あるよな」
一夏の言葉にキラとアスランは何でも無い様に答える。
「普段から鍛えているからな」
「まあ、一夏やデュノア君も鍛えたら?」
その言葉に一夏は否定する。
「いや、キラ達みたいなのは相当鍛えないと無理だから。な、デュノア?」
その呼びかけにシャルルは顔を真っ赤にしながら答えた。
「う、う、う、う、ウンそうだね。ハハハ……」
シャルルは話を変える為に提案する。
「僕もシャルルで良いよ。その代わり皆の事を名前でよぶね」
そう言われキラ達はソレを了承した。
訓練も終わり、昼休み。
キラ達とシャルルは屋上でご飯を食べていた。
「しっかし、キラ達のそれ手作りか?」
一夏の質問にキラも答える。
「うん、コーヒーに合うようにクロワッサンサンドにしたんだ。サンドの中身はナチュラルチーズとサニーレタス。ゆで卵のスライスとハムだね」
そう言いながらキラは魔法瓶の蓋を開ける。
その瞬間、コーヒーの香ばしい香りが辺りを支配する。
「旨そうな匂いだな」
一夏の言葉にシャルルも頷く。
「うん、本場のカッフェみたい」
女性人はなにやら屈辱そうな顔をしている。
「どうぞ」
ブラックで差し出されるコーヒーを一口啜った瞬間、一夏の顔が微笑む。
「旨いな!」
キラは嬉しそうな顔をして言う。
「良かった。それ、僕がブレンドしたんだ。これでも自信はある積もりだよ。コロンビア4割、ブラジルが3割、モカが2割、ロブスタが1割の構成。まあ、ポピュラーな配合かな」
シャルルが感心したように言う。
「キラってコーヒー詳しいんだね?」
その瞬間、キラはコーヒーを啜りながら遠くを見つめる。
「まあ、ある人の直伝かな。その人は結構、癖の強いコーヒーが好きだったけど」
アスランもまたコーヒーを啜りながら言う。
「まあ、バルドフェルドさんには遠いかな」
その言葉にキラは苦笑する。
「まあ、ね」
その姿を見た4人はキラとアスランが急に大人びた雰囲気をかもし出している。
2人の過去は余り解らない。でも、多くを背負っている事は理解できた4人だった。
放課後、訓練アリーナではキラとアスランによる、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルルの訓練を行っていた。
鈴は一夏達が格段に強くなっている事を知ったから、シャルルは自分の目的を果たすためだ。
「今日から鈴とシャルルが加わる事になったけど、鈴の担当はアスラン、シャルルの担当僕だね」
そのキラの言葉に一夏が質問した。
「なんか、アスランの方が生徒の人数多くないか?」
その質問にアスランが理由を答える。
「理由は簡単だ。一夏と箒は接近戦主体兵装、それで鈴も近距離、中距離対応型だから俺が纏めて教えた方が効率がいい。シャルルの場合はオールラウンダーで兵装選択を行う事からキラが講師をしたほうが的確だ」
あくまで訓練は合理的にかつ的確に行う事を心がけている2人である。
理由を聞いて一夏は納得した。
こうして訓練を開始した。
キラはセシリアとシャルルを集め、講義内容を説明する。
「先ずはセシリアだけど、ブルーティアーズを操作しながらの高速機動訓練を行うのが今回の課題。そして、シャルルは専用機のISのデータを見せてもらったけどシャルルが何処まで出来るのか解らないから今回は2人共、僕と模擬戦だね」
「良いですわ」
「解った」
その言葉に力強く答える2人。
そしてキラは頷きながらISを展開した。
その姿を見たシャルルが驚愕する。
「え!? 全身装甲!? しかも見た事が無い!!」
セシリアはなれた物で平然と見ていた。
「それじゃあ、はじめようか?」
そう言い3人は空に飛び立つ。
セシリアは先制攻撃にブルーティアーズを機動しキラに狙いを定めるがキラもドラグーンを左右2機ずつ展開した。
「な!? 誘導兵器!? その翼は誘導兵器ですの!?」
戸惑いと驚きの声を上げるセシリア。
「ちゃんと制御して。じゃないと撃ち落されるよ」
「クッ!!」
そう言いながらキラはシャルルにビームライフル2挺を構えて発砲する。
「な!? 誘導兵器を操作しながら超高速移動しつつ正確に攻撃してる!? どんな平行処理能力!?」
シャルルの驚きも無理は無い。
誘導兵器とは特殊なOSをつんでいないと制御は難しい。
しかもそのOSは相手にジャミングされる事無く起動し、制御しなければならない事から膨大なシールドエネルギーを消費する。
故に思考制御が専らだろうが、ソレを手足の様に扱うのは超人的な空間認識能力が要求される。更に戦闘も置かないつつとなれば空間認識能力と超人的な平行処理能力が要求されるのだ。
更に誘導兵器は操作性の悪さと膨大なシールドエネルギー消費、更にコストの割の合わなさが相まって余り普及していない。
実験的にセシリアのブルーティアーズが導入したくらいだろう。
(機体が化け物なのか、操縦者が化け物なのか……)
シャルルの考えはある意味正しい。
両方化け物レベルなのだ。
そもそも、ストライクフリーダムはハイパーデュートリオンエンジンと言う無制限かつ無尽蔵に大出力のシールドエネルギーを生成することが出来る半永久機関を搭載。
其処から生み出される超大出力兵装にヴォワチュール・リュミエール推進システムと言う光パルス高推力スラスターを装備、コレはシールドエネルギーが続く限り推進切れを起こす事無く超高速で移動が可能。
更にキラの誘導兵器であるドラグーンは空間認識能力に依存しない第2世代型ドラグーンである。
しかし、フリーダムのドラグーンはキラの希望によりより高度な操作性を要求した為、どちらかと言えば第一世代ドラグーンに近いと言える。
また、ドラグーンは量子通信で制御されている。電波通信とレーザー通信は電気や光の『波』の性質を利用するが、量子通信はそれとは違い電子や光などの『粒子』の性質を利用する技術だ。解り易く説明するなら絶対に解読不可能な暗号通信ができ、しかも超高速、大容量な通信技術といった所だ。
その為、敵のジャミングや乗っ取りは通用しない。
しかし、キラ達の世界でもこの量子通信は莫大なコストと電力消費量が半端無い為、一部政府機関や軍事目的でしか使われなかった。
しかも一般の通信装置とは規格が全く違う為、使う場合は既存の通信装置も一緒に用意する必要がある。コスト的な物を考えたら途方も無い金額になる。
フリーダムやレジェンド位にしか実戦でお目に掛かれないのはその為だ。
また、欠点もある。ソレはキラしか扱えない代物であると言う事が最大の理由だろう。
元々兵器は、ある一定の訓練さえすれば十全の成果を発揮すると言うのが最高の兵器の定義だが、ストライクフリーダムはこの近代兵器論の対極に位置する兵器だろう。
何故なら、キラの技量ありきで開発された、設計思想からして対極なのだ。
その事を知らないシャルルは何か釈然としない物をフリーダムとキラに抱きながら訓練をした。
一方の鈴もアスランと戦いながらも驚愕していた。
「一夏! 遅いぞ! それでは白式の速度を生かせないだろうが! 箒、相手との間合いの詰め方が甘い! 相手をよく見ろ!! 鈴、少しは考えて砲撃をしろ一夏と箒を巻き込むだろうが!!」
激しい訓練の中でアスランは呼吸を乱す事無く的確な指導を行う。
3人は同時に別方向からの斬撃を繰り出すがアスランは一夏の斬撃をビームサーベルで受け止め、箒の斬撃をシールドに固定したシャイニングエッジで受け止めた。
そして鈴の斬撃を右足のグリフォンビームブレードで受け止める。
「ええ!? 足から刃が!?」
そもそも、インフィニットジャスティスはフリーダムと連携して砲撃戦で敵を牽制、超高速で敵密集地帯に飛び込み、接近戦を行い乱戦に持ち込み多数の敵を倒すと言うプロセスを形にした機体だ。
それこそ、アスランの接近戦戦闘能力を吟味し設計されたその機体は正にフリーダムが砲打撃戦最強とするなら密集地帯格闘万能型最強と呼ぶに相応しい機体である。
その鈴の驚きを他所にアスランは左足で一夏を蹴り飛ばし、箒にビームサーベルで切り倒すと、鈴にハイパーフォルティスビーム砲を叩き込んだ。
訓練も終わり地面に倒れこむ4人。
正直、キラ達の訓練は地獄とここで鈴もシャルルも体感した。
キラは一通り、無人IS事件の資料をまとめ千冬に提出すると、千冬に頼み込み大浴場を解放してもらった。
一方、シャルルは真耶に頼み込み、大浴場を貸してもらう許可を取り付けていた。
「まあ、いいですよ。女子も全員いないですし大浴場の湯も抜いたとこですし新しいお湯入れてもいいですよ」
その言葉にシャルルは嬉しそうに頷いて大浴場に向かった。
湯船につかりながらキラはオッサン臭いため息を吐く。
「あ〜〜〜〜〜最っ高」
そう言いながら肩にお湯を掛けていた時だった。
風呂の扉が開いたのだ。
「ん?」
キラが人の気配を感じ立ち上がると其処にはシャルルがいた。
「ああ、シャルル? 良かったね。丁度、大浴場がかいほうされ……」
キラの言葉は段々尻すぼみになる。
「……」
無言のシャルルにキラは唖然とした。
男にはあり得ない胸の膨らみがあるからだ。
「えっと……シャルル……だよね?」
「えっと、あの、その……」
シャルルは胸と股を隠しながら言いよどむ。
取り合えずキラは湯船に入る。
「と、と、取り合えず、入るか出るかしてくれると嬉しいな。その、目のやり場に困るから……」
その言葉にシャルルは慌てて湯船に浸かった。
離れた距離で正直会話が出来ない状況のキラとシャルル。
「キラは……さ……何も言わないの?」
シャルルの質問に何とか答えるキラ。
「正直、驚いてる。でも、君が男装してまでこの学園に来たのは何か理由があるんでしょ? ソレを無理には聞かない」
その言葉にシャルルは観念した様に自分の身の上話をした。
「実はさ……父の命令なんだ……」
「デュノア社の?」
そのキラの質問にシャルルはコクリと頷いた。
「ウン、僕はね。父と愛人の間に生まれた嫡出児なんだ。父の事を知らないで母と暮らしてたけどデュノア社の人に引き取られてね。そこで様々な検査を受けたんだ。そしたらIS適正が高かったから非正規操縦者としてテストパイロットをしてた。父と会ったのは2回で話したのも1回位かなその時間も1時間にも満たなかった。正規の奥さんからは『泥棒猫の娘』って言われたな……」
嫌な事を思い出させたとキラは思った。
そしてキラはある結論に達した。
「デュノア社の経済事情や開発事情は知っている。第3世代型ISの研究は滞ってる。更にそれに連動してISの開発権を剥奪される可能性もある。だから君は……」
キラの予測にシャルルは辛そうに笑う。
「キラの推測通りだよ。僕を男装させて学園に送り込んだのは宣伝の為とISの情報収集が目的」
「ヤッパリ……」
キラは顔を抑えながら言う。
その言葉の中にシャルルを道具の様に扱うデュノア社のやり方に怒り心頭だった。
「これから君は如何するの?」
その質問にシャルルは答える。
「バレた以上はここにはいられない……本国に帰るかな……帰った後は行く当ても無いよ。良くて牢獄かな?」
その言葉にキラは切れた。
シャルルの両肩を掴み怒鳴った。
「ふざけるな! シャルルは何も悪い事をしていない。逆らえない状況でソレを指示したデュノアの人間が悪いだろう!」
「でも……」
キラの怒った所を見た事の無いシャルルは戦慄した。
キラがここまで怒れる人間だと言うことに。
「そんなの親じゃ無い!! 君はここにいろ! 僕が黙っていればいいだけだ! もしバレても君の父親や会社、国家は手出しできない」
「え?」
キラは目を瞑りながら言う。
「IS学園特記事項、『本学園における生徒は、在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない』」
その条文を聞きシャルルは目を見開く。
「つまり、この学園に在学中、3年間は大丈夫と言うことだよ。その間に僕が方法を考える」
その言葉に呆れながらシャルルが答える。
「よく覚えてるね。特記事項は50もあるのに……」
キラは微笑みながら言う。
「簡単だったからすぐ覚えた」
キラの言葉にシャルルは微笑みながら答える。
「キラ、庇ってくれて、でも何で僕を庇うの?」
その質問にキラは遠くを見つめるように言う。
「僕も本当の親の顔を知らないから」
「え……」
キラは遠くを見つめるように言う。
「僕は生まれてからすぐ養父母の元で過ごしたんだ。だから本当の親の顔は写真でしか知らない。家族はもう会えない。僕にはアスランがいる。でも君には誰も支えが無い。なら僕が君の支えになる。そう決めたからかな」
その瞬間、シャルルはキラに抱きついた。
「有難う、キラ」
キラは抱きつくシャルルを何とかする為に言う。
「シャルル……余り抱きつかないで……その、当たってる……」
そう言った瞬間、キラの言葉を察したシャルルが慌ててキラから離れて胸を隠す。
「もしかして気になる?」
その言葉にキラは正直反応に困った。
「ひょっとして見たいの? ……キラのエッチ」
「な!?」
年齢的には4歳も離れているシャルルを性的な目で見る事は無くとも本能的な所がキラを攻め立てる。
こうして、シャルル、改め、シャルロットはキラと共に歩む道を選択したのだった。
あとがき
今回はシャルの正体判明、キラがシャルルートへと分岐します。
さて、アスランは何ルートでしょうか?
まあ、聡い読者の諸兄はお解かりかとwww
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