シャルル改め、シャルロットがキラに秘密を明かしてから2日後。
IS学園はトーナメントの話題で持ちきりだった。
その話題に関連して、トーナメントはツーマンセルのチーム戦方式と言う異例の設定になった。
コレは無人IS襲撃事件の対抗措置としての学園側の配慮により変更された。
教職員や生徒会、実行委員会は明確なルール作りと会場の広さ、避難経路の確認などを話し合う為、連日会議が続いた。
キラ達もその話題で今週の会話が成り立つくらいだ。
屋上ではキラ、アスラン、一夏、箒、鈴、セシリア、シャルの7人は屋上で昼食を取りながらトーナメントの話題を話していた。
「キラとアスランは如何するんだ? お前等2人が組むのか?」
一夏の問いかけにその事を否定するキラとアスラン。
「いや、俺達は今回、組むことは出来ないんだ」
「織斑先生がソレを禁止したんだ。何でも、『お前等2人が組んだら1年から3年で勝てるヤツが存在しなくなる。だから、組むな』だそうだよ」
一夏達はああ、納得と言わんばかりに頷いた。
正直、無人ISみたいにバラバラにされて蹴散らされるのがオチだ。
優勝者が目に見えているだけに千冬の英断はさすがと思った一夏達だった。
「それに関連して、僕達のISにリミッターを掛けられるんだ」
その言葉にシャルが質問する。
「どうリミッターを掛けられるの?」
その質問にアスランが答える。
「エンジン出力を100%から50%にカット、ビーム兵装の出力制限、装甲強度低下、特殊推進システム、俺の場合はファトゥム−01の推進システム50%カット、キラの場合はヴォワチュールリュミエールシステムの機動性を50%カット、マルチロックオンシステム使用不可だな」
ソレを聞いた鈴が呆れながら言う。
「何それ? リミッターのオンパレードじゃない」
セシリアは納得しながら言う。
「まあ、妥当ではなくて? 正直、化け物みたいなISですから」
その言葉に箒が噛み付く。
「しかし、手枷、足枷、目隠し、重りを取り付けて戦う様なものだ。ハンディも過ぎると言うものだ」
その言葉に一夏が同意する。
「まあ、フェアーじゃないわな」
シャルは違う質問をした。
心なしかモジモジしながらキラをチラチラ見ている。
「じゃあ、さ……キラは誰と組むのかな……?」
その言葉にキラは考えながら言う。
「今の所は決まって無いんだ」
その言葉を聞いたシャルの顔色は一気に明るくなる。
心なしか嬉しそうにキラに提案した。
「じゃあさ、僕と組まない? アスランには及ばないかもしれないけど……ダメ……?」
最後の方は瞳を潤ませながらキラに懇願する様に質問するシャルにキラは安心させる様に言う。
「ダメじゃ無いよ。解った。よろしく。シャル」
「うん! よろしく。キラ」
シャルとキラがコンビを組む事が決定し、話題は一夏と誰が組むかで揉めていた時だった。
突如、キラとアスランを呼ぶ声が響き渡る。
「アスラン・ザラ、キラ・ヤマト」
その声にキラとアスランはユックリと振り向くと屋上の出入り口の所にラウラが立っていた。
そして、ラウラがユックリと歩みを進める。
屋上の空気は重たい物へと変わり箒、鈴、セシリアは臨戦態勢を取っていた。
シャルも緊張した面持ちでラウラを見つめる。
「何だ? ボーデヴィッヒ? 俺達に用か?」
アスランの問いかけにラウラは頷きながら答える。
「トーナメントの事は聞いたな?」
その質問にアスランが頷きながら質問した。
「ああ、だが、ソレと俺達と何の関係がある?」
その問いかけにラウラが答える。
「教官から聞いた。貴様等は全盛期の教官と互角の実力者だと……その実力を確かめたい」
その言葉にアスランが問う。
「もしお前の御眼鏡に適うなら俺かキラをパートナーにしたい。そう言う事か?」
アスランの質問にシャルは明らかな敵意の目を向ける。
頷きながら一方的に言い放つラウラ。
「話が早くて助かる。どちらが私の相手をする?」
その上から目線の態度を崩さないラウラにキラが名乗りを上げようとした時、アスランが静止し、名乗りを上げる。
「俺が相手をしよう。時間と場所は?」
「1600時、第5練習アリーナだ」
言うべき事は言ったとばかりに踵を返すラウラの背にアスランは言う。
「もし、俺と戦うなら決死の覚悟で来い」
その言葉にラウラは背を向けながら言い放つ。
「貴様もな……」
今度こそラウラは屋上から出て行くのだった。
ラウラは廊下を歩きながら敬愛する教官、千冬との会話を思い出していた。
(教官の強さこそ私が目指すべき“力”。その力と互角と言うあの2人……気に入らんな……教官こそ最強なのだ。先ずはアスラン・ザラの化けの皮を剥がし、教官の目を覚まさせて差し上げなければ……この様な腑抜けた所でおられるから見る目も曇るのだ)
そして、誰もいない廊下で一人呟く。
「力こそが全てだ。ヤツの、アスラン・ザラの甘ったるい言葉など我が力で粉砕する」
そう言いながらラウラはISの調整の為にメンテナンスルームへと歩みを進めた。
アスランはラウラとの戦いに備えて彼女の情報を収集する為、午後の授業を休んだ。
アスランは自分の寮に帰りパソコンを起動、ドイツの政府、軍のコンピューターにハッキングを開始した。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ連邦軍少佐、ドイツ連邦陸軍特殊作戦師団隷下のIS配備特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ、通称、黒ウサギ部隊の隊長、年齢15歳。性別、女」
アスランは更に画面を読み進めていくうちに顔色が変わる。
「……遺伝子強化試験体、C−0037? 肉眼へのナノマシン適合手術を行いナノマシンとの適合値が高かったものの精密検査の末、遺伝子異常を発見、更にIS操縦技能Fとし、カテゴリーFとする……何だと……?」
更に読み進めるアスラン。
「……その後、チフユ・オリムラのIS訓練に参加、最優秀成績を収めた事により専用機を受領される。……だからか、織斑先生を教官と呼んでいたのは……」
しかし、アスランが気になったのは遺伝子強化試験体の行だった。
「何処の世界でも変わらないな……人の命を弄ぶのは……」
アスランはコロニーメンデルやブルーコスモスのロドニアのラボの事、デュランダル議長が推し進めたディスティニープランの事を思い出した。
唯、出来るからと言う理由だけで作りだされた命、命を意思無き歯車としてしか見ない世界。
その中でラウラは力こそ全てと思って生きてきたのだろう事をアスランは感じ取った。
それは欠陥品と言う烙印を押されIS適性検査ですら弾かれ処分一歩手前な状況、其処に千冬という存在。
「彼女も自分の無力に泣いて、力を求めたか……」
アスランはキラやレイ、クルーゼの事を思い出す。
そして自分の過去も思い出した。
ユニウス7の核攻撃を唯、見ている事しか出来なかった自分。
戦場で散って逝った仲間達。
兵士達の怒りや嘆き。
父の死。
ミーアの悲痛な嘆きと願い。
デュランダル議長の正しかった思いと間違った行動。
「本当に正しい事は自分で見つけろ。か……」
正しさなど人それぞれだ。
他人の正しさを認めながら自分の正しいと信じた信念を貫いた者だけが正しい。
あの戦争でアスランが学んだ教訓だ。
「俺の勝利条件は……彼女を理解した上で俺の思いを伝えるだな」
そう言いながらパソコンの電源を落としたアスランは立ち上がり、第5練習アリーナへと向かった。
午後、4時。
第5練習アリーナにはラウラが彼女の専用IS、シュヴァルツェアレーゲンを装着した状態で中央に立っていた。
アスランはアリーナの中央にやって来る。
「ISを起動しろ。すぐ始めるぞ」
その言葉にアスランは無言で右手を掲げながら瞳を瞑る。
そして、アスランの体を光が包み込み、ジャスティスへと変身した。
「ソレが貴様のISか?」
ラウラの問いかけにアスランは静かに自分の愛機の名を謡う。
「インフィニットジャスティス……ソレが俺のISの名だ」
「英語で『無限の正義』か? ご大層な名だな」
そう言いながらラウラは右肩のレールカノンをアスランに向けながら言う。
「勝敗は簡単だ。どちらかのシールドエネルギーがエンプティーになるか降伏を口にした時点で勝敗が決まる。質問は?」
その言葉にアスランはビームライフルを構えながら言う。
「いや、無い」
その言葉を聞き、ラウラは言う。
「行くぞ」
その言葉と共にレールカノンの砲口から眩い放電の光が吐き出される。
それと同時に空薬莢が排莢される。
アスランは慌てる事無くレールカノンから撃ち出された弾頭をビームライフルで撃ち落す。
弾頭に緑のビームが着弾、アスランとラウラの間に爆煙と爆炎がお互いの視界を塞ぐ。
ラウラは平静な顔をしながらもアスランの技量に感嘆とも恐怖とも取れない物を抱いていた。
(レールカノンの発射速度は音速を超えている。ソレを距離10メートルしか放てていないのに発射タイミングを合わせて中央で爆発させるように弾頭を迎撃しただと!? 何てふざけた技量だ!?)
ラウラの驚きを他所にアスランは爆煙から飛び出し、右手を左腰のビームサーベルを引き抜きラウラに迫る。
「!?」
ラウラは繰り出されるアスランの斬撃を何とか回避する。
回避する時にシールドとアーマーを損傷した。
(な!? 此方のシールドを切り裂いてISの装甲にダメージを与えただと!? どんな出力の熱量兵器なんだ!?)
これ以上近づかれたら危険と判断したラウラはAICを起動しようとした。
しかし、アスランはラウラの目で追い切れない程の超高速起動で翻弄した。
「ック!?」
そもそもこのAICはもともとISに搭載されているPICを発展させたもので、対象を任意に停止させることができ、1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄い。
つまり、相手を認識し、集中力を費やす必要がある。
アスランはソレを理解した上でラウラが認識できない超高速で動き回り、集中力をかき乱し、ビームライフルで牽制する。
(AICの対抗策を用意してきているとはな……少々侮っていた)
そう思いながらラウラはAICをカットし、ワイヤーブレードを射出するが、アスランはバレルロールしながら複雑にうねるワイヤーブレードを縦横無尽に回避する。
「そんな力の使い方では駄目だ!」
「何を!?」
「過去に囚われ、力を求め、お前は何をする!? 力は唯の道具だ!! 存在定義じゃない!! その力で何を成したかによって力の価値は決まる! お前はその力で何をする!!」
その言葉にラウラは明確に答える。
「自分の存在意義を証明する為だ!!」
そして、アスランは再度ラウラに接近する。
ラウラはプラズマ手刀を展開、アスランを突き刺そうとした。
しかし、アスランは超人的な太刀捌きでラウラの右手を切り裂いた。
ラウラの目の前にスクリーンが映し出され、≪右腕部損傷≫の文字が浮かび上がる。
「クッ!!」
ラウラはアスランから距離を取る様にレールカノンを乱射する。
「お前は存在意義とは何だ!?」
回避しながらアスランは叫びながら問う。
「戦闘単位として完成された存在!! ソレが私の全てだ!!」
ラウラもまた叫ぶ。
「それは人の生き方じゃない!! そんな機械の様な生き方は!! お前にだって、明日を夢見る事だって出来るんだぞ!! ソレを放棄して与えられた役割を淡々とこなす! ソレがお前の望みか!?」
その言葉にラウラもまた叫ぶ。
「私はソレしか与えられなかった!! ソレしか知らない!! 貴様に何が解る!! 私の何が!!」
アスランはからシャイニングエッジビームブーメランを引き抜きラウラに投擲する。
桃色の円を描きながらビームブーメランはレールカノンを切り裂く。
それに引き続き頭部バルカン砲と胸部バルカン砲をラウラに浴びせる。
シュヴァルツェアレーゲンはソレをマトモニ喰らい、装甲がズタズタになる。
その時だった、ラウラの目の前に突如ウィンドー画面が現れ、表示した。
≪機体の損害……レベルD、IS操縦者の精神負荷……最大値、ロック解除、ヴァルキュリートレースシステム起動≫
その瞬間、ラウラと彼女のISシュヴァルツェアレーゲンが放電しだす。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アリーナを切り裂く咆哮に似た悲鳴にアスランは来るべき物が来たと考え、ビームライフルをリアスカートにマウントしビームサーベルをアンビデクストラスハルバードモードにし構えた。
その瞬間、ラウラの眼帯が吹き飛びヴォーダンオージェが露になる。
そして、ラウラのシュヴァルツェアレーゲンの形状が変化する。
変化が終わった時、黒い全身装甲が現れ、その手にはビーム刀が握られていた。
「VTシステム……過去のモンド・グロッソ部門優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現、実行するシステムか……多分、アレは織斑先生だな……」
アスランはビームアンビデクストラスハルバードを前に突き出しながら言う。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
獣の叫びに似た雄叫びを上げながらラウラはアスランに襲い掛かる。
「クッ」
超高速で接近するラウラにアスランも超高速で移動を開始、刃同士がぶつかりあい激しくスパークする。
次の瞬間、ラウラが神速の剣捌きで対応してきた。
アスランもそれに対応してみせる。
お互い激しい剣技の応酬を繰り広げる。
ラウラの袈裟懸けを流しながらアスランは叫ぶ。
「ラウラ!! 意識を強く持て!! お前、それで良いのか!? システムの操り人形で!! 他人の力を借りて!! ソレで満足なのか!?」
「OAAAAAAAAAAAAAAA!!」
獣の言葉しか返さないアスランはついにキレた。
「この!! 馬鹿野朗!!」
アスランはSEED能力を開放した。
思考がクリアになっていく感覚に囚われながらもアスランは冷静にラウラの斬撃を回避する。
我武者羅に振るわれる太刀筋を簡単に回避するアスラン。
一旦、距離を取りアスランはバレルロールしながらすれ違い様にラウラの左腕部を切断する。
それでも突き進んでくるラウラにアスランは刀の根元を切り裂き使用不能にする。
それでも追いすがるラウラにアスランは脚部グリフォンビームブレードを展開、ラウラが伸ばした右腕部装甲を切断した。
その時の衝撃でラウラは地面に叩きつけられる。
その瞬間、ラウラに電撃が走り、全身装甲が解かれる。
「……終わったな……」
アスランはそう言いながら地上に降り立った。
ラウラは保健室のベッドで目を覚ました。
「……ここは……?」
ラウラの質問にアスランは答えた。
「保健室だ。アレから君は死んだ様に眠っていたよ」
ラウラは起き上がろうとした時、体中に激痛が走り、起きれなかった。
「無理をするな。全身に無理な負荷がかかった事で筋肉疲労が出ている。早めに対応したから回復も早い1週間くらいで回復するから1ヶ月後のトーナメントまでには間に合う」
その言葉を聞き、ラウラは天井を見つめながらアスランに問いかけた。
「一体、何があった? お前にブーメランみたいな物を投げつけられた所までは覚えているのだが……」
その問いかけにアスランは静かに答える。
「君の機体の中にあったVTシステムが作動、システムに心を飲み込まれ、支配され暴走した」
その言葉を聞き、ラウラはアスランを驚きの目で見つめた。
オッドアイの瞳がアスランを射抜く。
「国、企業の開発、研究、使用の全面禁止されているシステムがお前のシュヴァルツェアレーゲンに積まれていた。俺はソレを破壊、君を保健室まで運んだ。因みに、君のISは無事だ。システムを破壊しただけだ。安心しろ」
暫くの沈黙の後、ラウラが口を開く。
「笑いたければ笑え。散々デカイ口を叩いて、蓋を開ければ反則までして勝てなかったんだ。私の存在意義はお前に完全に否定された」
その言葉にアスランはため息を吐きながら言う。
「なら、見つければいい。自分が戦う意味を……君が戦士としての戦う理由を……どの道、この学園には3年はいなければならない。時間は沢山ある」
「……私に見つけられるだろうか……?」
その言葉に戸惑いを見せるラウラにアスランは尚も語りかける。
「大丈夫だ。見つけられる。俺だって見つける事が出来たんだから……」
その言葉にラウラが問いかける。
「見つけられると思うか私に?」
その問いにアスランは違う回答を返した。
「もし、見つけられないと思うなら俺が一緒に探してやるさ」
アスランは微笑みながらそういう。
日も沈み、月がアスランの端整な顔立ちを映し出す。
ラウラは暫くそれに見惚れていた。
そして、思い出す。
アスランとの戦いでアスランの想いが太刀筋から伝わってきた不思議な感覚。
アスランもまた彼女の空虚な想いを感じ取っていた。
それがごく稀にIS同士で起こる相互認識干渉だと言うことをアスランもラウラもその時は理解できていなかった。
「ああ、ソレと、君の御眼鏡に適ったかな?」
アスランらしくない言葉にラウラはアスランに背を向けこう言う。
「満点だ」
そう言いながらラウラは寝た。
アスランも彼女を見守りながら椅子に座りながら眠る。
アスランとラウラ、赤の騎士と黒の砲兵は、お互いをパートナーとして認め合った。
あとがき
アスランはラウラルートへと分岐しました。
いよいいよチーム戦です。
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