SEED(シード)
それは人類が新たなステージに進むための可能性。
ナチュラルだろうがコーディネイターだろうが、それは
与えられるべき者に等しく与えられる、異能の力。

SEEDを持つ者は常人を遥かに上回る身体能力、動体視力、
反応速度を得ることができ、圧倒的な戦闘力を発揮することができる。

だが、その異能力については未だ詳しく解明されていない。
しかし、分かっていることもある。
それはこの能力の発動条件。
SEEDを持つ者はその能力を発動させる時、自身の何かしらの
強い「想い」を爆発させている、ということである。

ある世界に、二人の青年と一人の少年がいた。
彼らはそれぞれがSEEDという超人的な能力を持つが故に、
その力に翻弄されて否が応なしに戦争の只中に巻き込まれていった。

ある青年はコーディネイターを超えた存在、スーパーコーディネイター
として生を受け、その境遇・持って生まれた凄まじい力故に
戦争に巻き込まれていった。
その中で大切な友人を失い、親友と殺し合いまで演じ、心に
深い傷を負った。
しかし多くの人に支えられ、戦争を失くすために強い「信念」と
「覚悟」を持って、戦いに身を投じていった。

またある青年は敵軍のエースパイロットとして、親友と
生死を賭けた戦いを繰り広げた。
その戦いの中で親友に大切な友を殺され、憎しみに駆られて
親友と殺し合いを演じた。
だが愛する人に、友に支えられ、自分が本当は何と戦えば
いいかを模索していく「決意」をし、悩みながらも混迷する
世界を歩いていく。

そして、ある少年はある日突然何の落ち度もなく、ただただ
理不尽に家族を奪われた。
その時の深い後悔・無力感・絶望から、少年は全てを守る力を求め、
自ら戦いに身を投じていく。

しかし少年の願いも奮闘も空しく戦争は混迷を極めていき、
その戦争の中で少年は仲間を、そして必ず守ると約束した少女
さえも目の前で失い、その絶望をさらに加速させていく。
ついにはその闇を、戦争をなくしたいという想いさえも利用され、
終わりの見えない戦いを繰り返していくことになる。

彼はその全てを焼き尽くさんばかりの「怒り」の力で
立ちはだかる敵を次々に薙ぎ払っていった。
戦いが進むにつれて、彼はさらにその怒りの炎を燃え上がらせ、
全てを暴風のように破壊していく。
だがその果ての最終決戦にて少年の「怒り」の力は、
二人の青年の「覚悟」と「決意」の力に圧倒され、敗北した。
その戦いで自分の進むべき道を示してくれた人物を、上司を、そして唯一無二の
親友を失った少年は、失意のままにその世界を離れることになった。

その後全てを失った少年は新たな世界で様々な人物と出会い、
その人たちを心から守りたいと思うようになる。
だが怒り戦うことに疲れ切っていた少年は、新たな大切な人たちを
守るために、新たな想いを持って戦いに身を投じていく。

環境によって、積み重ねた経験によって、人の心は変わっていくもの。
少年の力の源である想いも、徐々に変わりつつあった。
全てを守るために全てを薙ぎ払うという「怒り」から。
全てを守るためなら汚れきった自分がどうなっても構わないという、
半ば脅迫観念にも似た「自己犠牲」へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は五月。
場所は俺が今まで縁のなかった第二アリーナ。
そのピットで俺はアリーナへのゲートが開くのを、
ただ静かに待っていた。

今日はクラス代表戦の第一試合当日。
クラス代表戦というのは、まだ本格的なIS学習が始まる前の
各クラスの実力指標を作るものらしく、各クラス代表の
一騎打ちにて行われる。

その優勝商品は学食のデザート半年間フリーパス券。
俺はそんなに甘いものが好きではないのでどうでもいいのだが、
そういうものが好きであろう女子たちはそうはいかない。
皆、必ず勝てと口と視線で容赦なく俺を責め立てるのだ。

が、俺はそれらを普通にスルーし続け、今日まできた。
その理由は、俺がそれを気にする精神状態になかったという
こともあるが、そんな可愛いプレッシャーにいちいち反応
していたのでは、ただ疲れるだけだからだ。
俺を震え上がらせたいのなら、せめて織斑先生くらいの
プレッシャーを放てないとな。
と、俺の横で柔軟していた凰が声をかけてきた。
凰のやつ、さっきまで一夏と話していたせいか、鼻歌など
歌いながら手首を回していやがる。

「……しっかし、今さらながらだけど、何でアンタが一組の
  クラス代表なのよ?私、絶対一夏がクラス代表だと
  思ってたから二組の代表を譲ってもらったのに」

「しょうがないだろう。ジャンケンで一夏に負けちまったんだから。
  俺だってクラス代表なんてやりたくなかったよ」

「……シン、アンタってやっぱ変わってるわね。普通は
  クラス代表っていったらエリートの象徴みたいなもんだから
  皆やりたがるもんなのに」

ケラケラと笑う凰に、俺はそうブーたれる。
ちなみに今凰はピンク色のピチピチISスーツを纏っている。
……胸はお世辞にもあるとは言えないのだが、その
スレンダーな肢体がやけに艶かしく強調されていて、
正直目のやり場に困る。
なので凰から少し顔を背けながら、試合前にも関わらず
他愛ない話に花を咲かせた。
と、その話も一区切りしたところで、なにやら凰が
改まったように口を開いた。

「……そういえばさー。シン、アンタにまだ言ってなかった
  けど………ありがとね」

「……あ?何だよいきなり」

いきなり突拍子もなくそんなことを言ってくる凰に首を
かしげる俺。
凰もそのことは分かっていたらしく、ポリポリと頬を
かきながら、話す。

「いや、さ。前に私と一夏がケンカしたことあったじゃん?
  まあ一夏が勝手にアンタに喋っちゃったんだけどさ。
  その時アンタ、一夏に私ときちんと話するように言って
  くれたんだよね?そのお蔭で一夏と仲直りできたからさ。
  そのお礼、よく考えたらまだちゃんと言ってなかったから、
  それがずっと気になってたんだよね。今日試合をする相手に
  対してもやもやしたことがあったんじゃ集中できないじゃない?
  だから、今言っておこうと思って。……ありがとね」

「……んなことでお礼言われるのもくすぐったいけどな。
  実際本当にただ話をするように言っただけなわけだし。
  まあそれは、どういたしまして、だな」

何かやけにこっ恥ずかしくなって、ついぶっきらぼうに
返してしまう。
俺が一夏から凰とのケンカについて聞いた翌日、一夏は
すぐに凰を呼び出して真剣に小一時間ほど話し合ったらしい。
そして一夏と凰はめでたく仲直り。
その後何故か凰の俺に対する態度も普通になり、凰の
ハキハキした明るい性格のせいか、すぐに仲良くなった。
今では凰も俺のことを「シン」と名前で呼ぶようになったし、
それなりに親しくなったってことだろう。

それはともかくとして、今まで、何故あの時凰が俺に対する態度を
急に柔らかいものに変えたのか分からなかったのだが……。
今分かった。
一夏のやつ、俺がアドバイスしたことは黙っておいてくれって
言っておいたのに、約束破りやがったな。
でもそれはいいとして、そのお礼が今になるなんて、凰のやつ
なかなか薄情じゃないか。

「そ、そういうわけじゃないわよ!ただ………い、一夏と
  仲直りできたことが嬉しかったから、一夏と一緒に
  いることの方に夢中になってただけで………」

何か顔を赤くしてもにょもにょする凰。
特に「ただ………」から先の台詞はポソポソと喋っていたので
かなり聞こえにくかったが、生憎俺の耳はそこらの奴よりも
優秀にできている。
その蚊の鳴くような低ボリュームの台詞も、はっきり聞こえていた。

「……お前、やっぱり一夏にベタ惚れなんだな」

「べっ………!?ば、馬鹿!アンタ何言ってんのよ!?わ、私は
  一夏のことなんて…………」

「………隠してるつもりだったのか?バレバレだったぞ。
  今も顔、ゆでだこみたいだしな」

そんな俺の指摘に、凰はさらに顔から湯気を噴き出す。
そして指で指を弄りながら、小さく俯いてしまった。
その全身からは、「恥ずかしくていたたまれない」オーラが
噴出していた。

……かなり、可愛かった。
多分あのザ・朴念仁の一夏でも、多少は揺らいでしまうんじゃないかという
ほどのインパクト。
良かった、ここに一夏がいなくて。
凰には悪いが、一夏に凰になびいてもらっては困るのだ。
だって俺は篠ノ之に、一夏とくっついてもらいたいからな。
だから凰にはちょっと意地悪なことを言って、クールダウンしてもらおう。

「でも、一夏とくっつくのは大変だと思うぞ?
  この学園には一夏に『本気』の好意を寄せている奴は
  星の数ほどいるし。
  セシリアだって、多分一夏に気があるぞ。
  それに、お前と同じ一夏の幼馴染の、篠ノ之も
  いるわけだしな。こりゃ、一筋縄にはいかないぜ」

それを聞いた凰の顔から赤みがさっと引き、代わりに何の感情も
宿さない能面が貼りついた。
うっ………、ちょっと言い過ぎたか………?
俺の台詞以降、俯いてしまった凰に戦々恐々としていたが、
いきなりバッと顔を上げる。
その顔には先ほどの能面は既になく、代わりに凰の性格を
そのまま表情にしたような、超強気な笑みがあった。

「仮にアンタの言う通りだとしても、私はそいつらに勝つよ。
  あの幼馴染さんにも、あの生意気なブロンド女にも、
  誰にだってね。だって私が一番一夏のこと分かってるし。
  それだけは、間違いないんだから」

何故そんなに確信しているようにそんなことが言えるのかは知らないが、
凰はそれが既に予定されているかのように話した。
その表情と口調はとても自然で、作っているとは思えない。
多分こいつは、素でそう思っているようだった。
何て自信だとは思ったけど、そんな前向きな彼女を見て、これ以上
それを妨害するようなことは言えなかった。
それどころかそんな強い心を見せる彼女を見て、俺は知らず、
エールを送ってしまっていた。

「……そうか。まあ、もしかしたらいけるかもな。
  一夏を落とすことが、お前になら」

「当たり前よ。『もしかしたら』なんて万に一にもないから…………って!!
  な、何でアンタにこんな恥ずかしいことベラベラ喋ってるのよ私!?
  は、恥ずかしっ………!!あ、アンタ!忘れなさいよ!
  私が今喋ったこと、綺麗サッパリ忘れなさいよ!?
  そして、誰にも言わないでよ!?言ったら冗談でなく殺すからね!!」

当たり前だ。
そんな大事なこと、人に言うものかよ。
と、そんな馬鹿騒ぎをしているうちに、アリーナ・ゲートが開く。
そこには今にも吸い込まれそうな、果てしない空が広がっていた。

「時間ね………。じゃあ、シン。私先に行くわ。
  まあ多分私が勝つと思うけどね、私強いし。
  でも、お互い全力でやりましょ。私、手加減はあまり好きじゃなから」

そう言うと、凰が一瞬光に包まれる。
次の瞬間には濃い紅色と黒のカラーリングのISが装着されていた。
特に特徴的なのは、肩の横に浮いている装甲。
何かやけに鋭い形をしている。それに、その装甲に取り付けられた
発射口は一体………?
と、凰はスラスターを噴かしながら、声高に叫んだ。

「凰鈴音!『甲龍(シェンロン)』、出るわよ!!」

そう言って、勢い良くアリーナの空へ飛び出していく凰。
俺も、続いて行かないとな。

しかし、こんな短時間の間だけど、凰と随分色んな話ができたな。
凰の一夏に対する想いも、篠ノ之のそれと変わらない。
……上手くいってほしいな………って、いやいや!
そんなこと思っちゃ駄目だ!
俺にとっては篠ノ之の恋路こそ優先なんだから!
でも、もし篠ノ之も凰も一夏に同等に愛してもらえれば………。
………その方法って、もうハーレムしかないような。

無理、だな。無理無理。
俺はハーレム肯定派ではない。
男ってのは、生涯たった一人の女性に愛され続ける方がいいと思う。
と、今はそんなこと考えている場合じゃないな。
俺はすぐさまヴェスティージを展開し、スラスターを噴かす。
そして凰に負けないくらいの音量で叫んだ。

「シン・アスカ!『ヴェスティージ』、行きます!!」

とにかく今はクラス対抗戦。
学食のデザートなどどうでもいいが、俺のせいで一組の皆の実力が
低いと判断されるのは我慢ならない。
俺は俺の全力で、凰と当たらせてもらうとしよう。

その時の俺は、その程度のことしか考えていなかった。
この戦いに待ち受ける激闘のことなど、俺は全く気付いていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ………、シン。アンタのIS、何て形してるのよ……」

「文句ならヴェスティージを作った篠ノ之束に言ってくれ。
  俺だってこの変な外見、好きじゃないんだ」

アナウンスに従って規定の位置に停止した私は、思わず絶句していた。
シンの纏っているISのあまりの常軌を逸した姿に、驚いてしまったからだ。
な、何か物凄いわね、ヴェスティージ、だっけ?
全身が傷だらけだし、何か血みたいなのがベタベタついてるし。
……でも!外見なんかにビビる私じゃないわよ!
私は気を落ち着かせてシンのIS情報を読み取る。

 

 

― 操縦者シン・アスカ。ISネーム『傷痕(ヴェスティージ)』。
   戦闘タイプ遠・近・中距離対応万能型。
   特殊装備あり……… ―

 

 

ふぅん、あんな禍々しい姿してるからてっきり近距離専門かと思ったのに。
アイツ、射撃戦ができるようには見えないけどな。
どっちかというと、剣を振り回している方が似合っているような気がする。
まあ、今はそんなことどうでもいいわね。
私だって国家代表候補生の一人。
いくら一夏と同じ男でISを扱えるからって、ISに乗り始めてまだ間もない
奴に負ける理由がないわ。

それに、私だって優勝商品のデザートフリーパス券欲しいし。
いくら中華料理屋の娘だからって、甘いものが嫌いなわけじゃないのよ。
あ、そういえば学食にプリンのせケーキが新しく出てたっけ。
……美味しそうだったよね。

「………おい、試合前に何蕩けたような顔してるんだ」

「ふぇっ!?な、何でもないわよ!それより、シン!いくら
  ISに乗り始めてからまだ間もないからって、一切手加減はしないからね!」

「ああ、それでいいよ。じゃあ、始めるか」

そう言って青色の綺麗な刀身の大剣を呼び出して構えるシンは、
やけに落ち着いていた。
普通なら代表候補生を相手にするのだから、少しは気を張り詰めたりする
ものなんだけど、シンにはそれが全くなかった。
だけど、何故だか妙に重いプレッシャーを放っていて、少し息苦しいくらい
………って、何で!?
私が、気圧されている………?
…って、んなわけないか。気のせい気のせい。

私はメインウェポンである青竜刀を一本呼び出し、構える。
そこから数十秒は、無言。
私たちからも、アリーナの観客からも、一切の喧騒が消え去る。
何でだろう?でも、多分私とシンの間に張り詰める緊張感が、
観客の皆にも伝わったのかもしれない。
実際私は、その重苦しいプレッシャーに息をするのも大変だったのだから。

『それでは両者、試合を開始してください』

そのアナウンスと同時に、私とシンは動いた。
私は青竜刀を振り回しながら、高速移動で斬り込んだ。
振り回す過程で様々な軌跡を描きながら、刃は縦横無尽にシンを襲う。
だけど、シンはそんな私の斬撃を、その青い刃で全ていなしていた。
私の変幻自在の剣捌きに全て反応して、それを受け流していく。

う、嘘でしょ!?
私の初撃を防いだだけじゃなくて、追撃まで全部!?
ま、まぐれよまぐれ!
私だってまだ本気は出してないし、青竜刀だってまだ一本しか使って
ないんだから!

私は鍔迫り合った状態から一旦離れ、左手にさらにもう一本の
青竜刀を呼び出し、くるくる振り回しながら再び突っ込んでいく。
シンもスラスターを広げて突っ込んできて、刃を激しくぶつけ合わせる。
そこからは超近距離での殺陣を演じる。
私は上から、下から、横から、斜めから。
あらゆる角度から二本の青竜刀を使った攻撃で息つく間もなく攻め立てる。
でも、シンはそれを全て受け流していく。
まるで私の攻撃全てを、見切っているかのように。
……まさか、実際に見切ってるなんてことないよね?
だって私、さっきからフェイントもかなり混ぜて攻撃してるんだけど。

……って、それがどうしたのよ!
実際には私は剣二本!アンタは一本で攻撃してるのよ!
いくらアンタが攻撃を全ていなそうったって、限界があるのよ!!
その私の予測通り、ほんの僅かな隙間を縫って私の斬撃がシンを襲う。
だけど、それはシン本人に届く前に、ガキンッ!と止められてしまう。
驚いて私は止められた斬撃を凝視する。
と、シンの左手にはそれまでなかった短いナイフが握られていて、
それが青竜刀を完全に受け止めていた。

で、でもアイツ、あの一瞬で防御を抜けた斬撃を見切って、あのナイフを
展開したっていうの!?
反応速度、ちょっと速すぎじゃない!?

と、一瞬動きを止めていた私を見て、シンは少しだけ笑った。
ゾッとしたけど、もう遅い。
シンはスラスターを全開にして一気に私を押し返した。
そこからは大剣とナイフのラッシュラッシュ!
ただ闇雲に振り回しているように見えて、その実私の意識が向いていない
場所に的確に攻撃を入れてくる。
次第に私は押されていって、ついにその斬撃の一つが、私を吹き飛ばす。
シールドエネルギーの減りは、大剣の一撃を受けたにしては少なかったけど、
それでも私はまるでダンプカーにでも跳ねられたような衝撃を感じた。

くっ………不味い!!
私はすぐに距離をとって、取って置きの隠し玉を披露する。
肩アーマーに取り付けられた甲龍の特殊装備、『衝撃砲・龍咆』。
それを最大速度で向かってくるシンに向かって撃ちだした。

「なっ!?ぐぁぁ!!!」

できるだけ引き付けて放った衝撃砲はシンを少しだけ掠めて、
アリーナの地面にぶつかった。
って、アイツ衝撃砲に反応した!!?
本当なら直撃だったのに、少しアーマーが傷ついただけ………!?
しかも衝撃砲は今初めて使ったのに、アイツ初見で……!!?

「何だ今の攻撃は………?砲弾もビームの軌跡も見えなかったぞ……!?」

「よ、よくかわすじゃない。この衝撃砲『龍咆』は砲身も砲弾も
  目に見えないのが特徴なのに」

「砲身はともかく、砲弾も見えない……?相変わらず恐ろしい兵器だな、
  ISってのは………」

少し冷や汗をかきながらも、シンは冷静に私の肩アーマーを注視している。
もう衝撃砲の砲身も見切ったわけ……?
でもお生憎ね。この龍咆は砲身射角がほぼ制限なしで撃てるのよ。
どこへ逃げたって、この龍咆はアンタを逃がさない!!

私はシンに高速で接近しながら龍咆を撃ちまくる。
でも、私はシンの動きを先読みしながら撃ってるのに、それを
シンは全て的確にかわしていく。
最初は龍咆に警戒していたのかどこか固かったその動きも、少ししたら
もうさっきのような切れ味のある鋭い動きに戻っていた。
あ、アイツもう龍咆の特性まで見切ったの!?
こんなに狙ってるのに、最初の一発以外全く当らない……!!

と、シンは龍咆をかわすと同時、その動きのまま四連装のビーム砲を
展開し、撃ち出してくる。
私はすぐさま回避行動に移る。
その四本の極太ビームを全てかわし切る。
が、次の瞬間一本のビームが私にぶち当たり、大きく吹っ飛ばされる。

「かはっ……、な、何っ………!?」

私は混乱しながらもシンを見る。
するとシンはビーム砲の他に、右手にビームライフルを構えて
私を見据えていた。
くっ、アイツビーム砲で私を追い詰めておいて、狙い撃ちしたってわけ……!

私はすぐに体勢を立て直して龍咆を撃ちながら移動する。
でもシンはそれをかわしながら私を追い回し、ビームを撃ちかけてくる。
そのビームがまた一本、私に命中する。

こんな、こんなことって……!
代表候補生である私が、一方的にやられるだけなんて………!!
でもどれだけ歯軋りしても目の前の現実は変わらず、私は次第に
追い掛け回されるだけになっていた。
正直、かなりヤバい……!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、アスカが優勢か。予想はしていたがな」

「それは私も予想してましたけど……。アスカ君、やっぱり強すぎですよね。
  織斑先生との模擬戦闘以来、さらに腕を上げた気がしますよ」

モニタールームでアスカとあの鈴とかいう一夏の幼馴染を観戦
していた千冬さんと山田先生がそんなことを話している。
ここは試合の観戦、及び戦闘データを収集するためのモニタールーム。
そこで私と一夏、セシリアと千冬さん、そして山田先生の五人は
目の前のモニターで繰り広げられる試合に見入っていた。

試合は終始アスカが有利に進めていた。
衝撃砲を出した時こそ鈴が少し盛り返したが、今はただ
アスカの撃つビームから逃げ回るだけになっている。

私も漠然と予想はしていた。
一ヶ月前のセシリアとの試合。
あの時のアスカの戦いぶりは凄かった。
今でも鮮明に思い出せる。
セシリアは国家代表候補生の名に恥じない、見事な戦いぶりだった。
でもアスカのそれは、全く別次元のようだった。
そう、剣道で例えるなら……、まるで試合用の竹刀と実践用の真剣のような。
セシリアから放たれているのが闘気なら、アスカのそれは鬼気とも呼べる
代物だった。

そして今目の前のモニターで繰り広げられている戦いも、まさにそれだった。
あの鈴とかいう女、アイツも確かに強い。
少なくとも、私や一夏より。
その動きも洗練されていて、それでいてのびのびしていて。
多分同じ代表候補生クラスじゃないと、とてもあの動きは捉えられないだろう。
でも、アスカはそれを圧倒していた。
操縦技術でも、攻撃予測でも反応でも、その全てでアスカは鈴を
上回っている。

でも、何故だ?
何故お前は、それほどまでに戦えるんだ?
どこかで訓練していたのか、それとも天性の才能なのか、それは分からない。
でも、アスカ。
お前は今、そんなに戦える状態じゃないだろう……!

今日のクラス代表戦まで、お前一晩たりともうなされずに眠れていたか?
私と同室になってから、ずっとお前は満足に眠れていないだろう?

それは、私は一夏が好きだ。
その気持ちに嘘偽りはない。
でも、アスカと一緒の部屋になって、アスカを一ヶ月以上見てきて。
アスカを放っておけないと思っていることもまた、嘘偽りはない。

だって毎晩、あれほど苦しそうにうなされているんだもの。
アイツは悪夢から跳ね起きるように目覚めるたびに、
憔悴しきった顔をしている。
そして気付いていないかもしれないが、とても悲しそうな顔をしている。
それを毎日毎晩見続けるうちに、私はアスカのことを放って置けなくなっていた。
心配で心配で、堪らなくなっていた。

今だってそうだ。
私は試合は誰か別の人にやってもらえと散々に言った。
アイツがろくに眠れていないのを私はよく知っているし、体力も精神力も
限界を超えつつあるというのは容易に想像できたからだ。

でもアイツは、それでも薄く微笑んで戦いに望んでいった。
一ヶ月以上一緒にいたから、分かる。
アイツ、私に心配かけまいと、わざと元気なフリをして、
その証拠として戦いに出た。
何だかんだ言って戦いに出ないんじゃ、体調最悪ですって言っているような
ものだからな。
でも、それが余計に私を心配させるのだということが、何故分からん………!!

と、戦いに動きがあった。
いよいよ追い詰められた鈴に、アスカが最後の攻撃を仕掛けたのだ。
目にも止まらない早さで動き回り、鈴はそれに反応しきれていない。
と、アスカは鈴が全く警戒できていない背後から、突如今までとは比較に
ならないスピードで特攻を仕掛けた。
は、速い!何だあのスピードは……!?

「イグニッション・ブースト……。シンの奴、完璧にモノにできたみたいだな」

一夏がそう小さく呟き、満足げにアスカを見ている。
イグニッション・ブースト……。
話には聞いたことあるが、そんなものまで習得していたのか、アスカ……。

とにかく鈴はそのイグニッション・ブーストに対応できていない。
アスカは青い刀身の大剣を構えて、鈴に向かって突っ込んでいく。
そしてアスカがそれを大きく振りかぶったところで………それは起こった。

 

 

ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!

 

 

「な、何っ!!?何が起こりましたの!!?」

「何なんだよ、この衝撃は!?」

「し、システム破損!何かがアリーナの遮断シールドを、
  貫通してきたみたいですっ!!」

山田先生の報告に、モニタールームが騒然となる。
ど、どうなっているんだ!?何が起こったのだ!?
と、モニターにはアリーナの中央からもうもうと立ち昇る黒煙と、
それを遠巻きに見ているアスカと鈴の姿があった。
さっきチラッと見えたが、遮断シールドを突き破った何かが
鈴に当りそうになったとき、咄嗟にアスカが鈴を蹴り飛ばして
回避させていた。
でも、今はそんなことはいい。
それより、これは一体……!?

「…山田先生、あの黒煙が上がっているアリーナの中央にカメラを。
  ズームで見せてくれ」

「織斑先生………?わ、分かりました」

何かに気付いたらしい千冬さんはアリーナの中央を注視している。
それに伴って、私たちも自然とそこに視線を向ける。
と、黒煙の中から、何かがのしのしと歩いてくるのが見えた。
それが黒煙からヌッと這い出てきて、私たちは呆然とする。

まず、あれは何だ?
全身装甲の異形の人型兵器。
そのカラーリングは灰色がかった黒で、肩や拳には砲身が
取り付けられている。
腕も脚も、そもそも体全体がISよりも一回りほど大きく、
その顔には五つの眼のようなハイパーセンサーが取り付けられていた。
全身にも無数のスラスター口があるし、とてもまともな相手では
ないことだけは分かった。
それを見た千冬さんの判断は早かった。

「試合中止!アスカ!凰!ただちに退避しろ!!
  山田先生、客席に遮断シールドを展開!!
  速やかに生徒を避難させろ!!」

「分かってます………って、ええ!!?これって、どういう……!?」

「どうした!速やかに報告しろ!」

「そ、それが遮断シールドは展開できたんですが、そのレベルが強制的に
  4に設定されていて!しかも扉は全てロックされています!!」

「何だと!?これもアイツの仕業なのか……。すぐに三年の精鋭を
  遮断シールドに向かわせろ!システムクラックして、アリーナに
  突入する!!」

状況を正確に把握して、指示を飛ばし続ける千冬さん。
私たちはそれを、ただ呆然と見ているしかできなかった。
と、そこで気付く。
アスカ……、それに鈴、無事なのか………!?
すぐにモニターに視線を戻そうとしたとき、山田先生の切羽詰った
声が聞こえてくる。

「ちょっ……、何言ってるんですかアスカくん!!
  危険過ぎますよ!!?」

『そんなこと言ってる場合かよ!あれを食い止めておかないと、
  どんな被害が出るか分からないぞ!!
  俺と凰で奴を押さえる!可能なら破壊する!!』

「そ、それはそうですけど……でも!アスカ君、やっぱり
  危険ですよ!!」

パソコンに映し出されたモニターに向かって、山田先生と
モニターの先にいるアスカが口論をしていた。
その話を聞く限り、内容は容易に分かった。
あの、馬鹿者!!
いくら現状でそれしか手立てがないからって………!!
と、それを見ていた千冬さんが山田先生をどかして、
アスカと話し始めた。

「……やれるなら、応援が来るまであれを押さえてくれ。
  だが、破壊するとはどういうことだ?
  あれは多分、ISだ。搭乗者がいるのだぞ?」

『いや、アレに人は乗ってないですよ。多分、無人機だ』

「………何…………!?」

千冬さんが驚愕に眼を見開く。
私たちも同様で、アスカが言ったことが驚きで呆然。
というか、そんなことあるはずがないだろう!
ISは人が乗らないと絶対に動かない!
そういうものなのだから!
だがそれを言うアスカは冷静そのものだ。
ただ淡々と、事実を言っているとでもいいたげな感じだった。

「……何故、それが分かる?」

『アレからは、生気が感じられない。何のプレッシャーも感じない。
  動きだって完全に機械的だ。人が操縦すれば必ず現れる僅かな
  ブレさえもアレにはない。人の思いが、全く感じられない。
  そんなことは有り得ないんですよ。だから、断言できる。
  あれは、無人機だ』

やけに確信的に語るアスカ。
モニターの先では鈴が「そんなわけないでしょ!」とか何とか
喚いているが、今はそんなことに気にしている暇はない。
千冬さんは僅かに逡巡したが、すぐに思考を切り替えたらしく、

「……分かった。お前に任せる。だが、無茶はするなよ。
  あくまで優先するのは、時間稼ぎだ」

『分かってますよ。…いくぞ凰!!俺が射撃で援護するから、
  お前が突っ込め!!その剣の方が、俺の『蒼い絆』より
  攻撃力が上だからな!!』

『いきなり命令しないでよ!…あ〜もうっ!了解!!』

そこでモニターが閉じる。
私たちは一斉にメインモニターを注視する。
そこでは既に戦いが始まっていて、それは時間を増すごとに
苛烈を極めていった。

まずアスカが四つのビーム砲からビームを放つ。
あの異形のISはそれを凄まじい加速でかわしていくが、それを
阻むようにアスカがビームライフルを射撃する。
いくらスラスターの出力が尋常じゃないとはいっても、
アスカの射撃の精度は半端じゃない。
確実に的確に、異形のISを追い込んでビームを当てていく。

そしてその隙を突いて鈴が特攻を仕掛ける。
異形のISはそれにすぐさま反応して反撃しようと腕を振り回すが、
アスカのビームライフルでの狙撃がその腕を弾き飛ばし、
体勢を崩し、鈴に照準を合わせさせない。
そして鈴が青竜刀での強烈な斬撃を浴びせる。

それでも異形のISは腕をブンブン振り回し、その状態でビームを
無差別に放つ。
普通ならかわすので精一杯のそれを、しかしアスカは右手から
展開した光の膜で全て受け止めた。
ビームを出し終えた異形のISは一瞬だけ動きを止める。
それを見逃さずアスカの後ろにいた鈴が突貫して強烈な一撃を浴びせる。

す、凄い……。
あのISを一方的に追い詰めていく……!
鈴の試合以上の剣捌きも凄いが、それだって奴に近づけなければ意味がない。
それを可能にしているのが、アスカのアシストだ。
鈴の動き、異形のISの動き、その両方に意識を向けながら、鈴が攻撃をしやすい
ように射撃で異形のISを誘導する。
そして可能なら実際にビームを当ててシールドエネルギーを削る。
私以外の皆もそれが分かっているのだろう。
いつの間にかモニタールームに走っていた緊張感は消え去っていて、
私たちは心配ながらもどこか安心しながらその戦いを見守ることができた。

「あのISを相手にここまでやるだなんて……。
  シンさん、やはり凄いですわね……」

「ええ、一対一で強いことは知っていましたが、こうも仲間をフォロー
  しながら戦えるなんて。……本当に、何者なんでしょうか、彼は……」

「セシリア、山田先生。そんなこと言ってる場合じゃないぜ。
  もうすぐこの戦いも終わりそうだ!」

ハッとして画面に視線を戻す。
そこには既に満身創痍の異形のISが、体中から煙を上げながら片膝をついていた。
それを油断なく一定の距離を保ちつつ見ているアスカと凰。
これは、システムクラックが終わる前に勝負が決してしまいそうだ。
それはいい。早く、この戦いが終わればいい。
私はこのとき何故だか胸騒ぎがしていた。
何故かは知らないが、アスカに早く戦いを終えて戻ってきてほしかった。
だから私は祈るように画面に映る異形のISを凝視していたのだが。
私の祈りは、届かなかった。
しかも、最悪の形で、その祈りは裏切られた。

「お、おい……。あのIS、何だか様子がおかしくないか?」

「え、ええ。何か形が徐々に変わっていくというか………………!?」

「うぇぇぇぇ!!?じ、実際に変わってますよ!!!???
  これって一体……………!!!???」

お、おい。
目の前で起こっている、あれはなんだ?
さっきまでボロボロだった異形のISの体が鈍い紫色の光に包まれたかと思うと、
装甲についた傷が見る見るうちに消えていった。
それだけじゃない。
その光が膨張していき、一瞬視界が真っ白に染まる。
次に目を開けたときに先ほどのISの姿はなく。
そこにいたのは先ほどとは似て非なる、全く別のISだった。

さっきよりも短くなった腕は、しかしさっきよりも一回り太くなり、
指の先や腕の部分に、ビームの砲口が新たに追加されていた。
胸の真ん中には巨大なビーム発射口が追加されており、よく見ると
肥大化した体のあちらこちらに砲身がにょきにょきと突き出している。
だが特に変わっている部分といえば、やはり背中に大きく突き出した
八枚の大型スラスターに、そしてまるで角のような突起物が生えた頭部。
先ほどの目のようなレンズはなく、代わりにバイザーのような
ハイパーセンサーと、口のような空洞が目を引いた。

カラーリングは相変わらずの黒だが、先ほどよりもずっと濃く、
ねばっこい感じの黒だった。
それがゆっくりと両の足で立ち、瞬間凄まじい速度で空中へと駆け上った。
と、ある一定まで飛んで、空中で停止する。
そしてゆっくりその視線をアスカと鈴に向ける。
……気のせいかもしれないが、その時その異形のISが、私には
笑ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって、一体…………」

「何、なんだよ。アイツは……………」

私もシンも、ただ呆然としながら目の前の『敵』を見つめていた。
どうなってるの?
さっきまであんなにボロボロだったあのISが、今は新たに武装やら
なんやらを追加して、完全復活を遂げて、私たちの前にいる。
でも、呆然となんてしていられない。
ジャキっという音が聞こえたのでそちらを向くと、シンが大剣を構えて
目の前のISを睨みつけている。
私も慌てて青竜刀を構えて奴を見る。
と、奴の胸の発射口にエネルギーがみるみる集中しだす。
その集中するエネルギー量を見たシンが私に向かって叫んだ。

「避けろ、凰!!!」

「う、うんっ!!」

そう答えると同時、私はスラスターを全開まで噴かして離脱を図る。
と、それと同時に奴は今まで見たこともないような高出力の極太ビームを放った。
私とシンがかわしたそれはまっすぐ観客席の遮断シールドにぶつかった。
凄まじい爆音。衝撃波。
まるでアリーナ全体が揺れているような錯覚を受ける。
そしてゆっくりとその煙が晴れていって、私は絶句した。

「……そんなっ!?」

あのビームの直撃を受けた遮断シールドは跡形もなく消し飛び、
観客の生徒たちがいる観客席が丸裸になっていた。
幸い怪我をした子は一人もいないみたいだけど、皆泣きじゃくりながら
震えていた。
う、嘘でしょ………!?
観客席の遮断シールドは、アリーナを包んでいるシールドより堅固なのよ!?
それをたった一撃で吹き飛ばすなんて、あのビームどれだけ威力高いのよ!!?
と、それまで私たちにロックオンしていた異形のISは、観客席にいる
女の子たちに気付く。
ゆっくり彼女たちに視線を向けると、彼女たちからは悲鳴が巻き起こる。
それを首をかしげて見ていた異形のISは、私の錯覚だと思うけど、ニヤリと
笑った気がした。
そして再び胸の発射口がエネルギーを溜め始めて、次の瞬間には
先ほどの極太ビームがそっちに向かって発射されていた。

ゾッとした。
すぐに飛び出さなくちゃいけなかったのに、反応が遅れた。
ちょっと待ってよ……!!
嘘でしょ、間に合わない………!!?
彼女たちを、助けにいけない…………!!!
私はそれでも甲龍を動かし観客席に向かうが、当然間に合うはずもなく。
そのビームは観客席に真っ直ぐ吸い込まれていって。
女の子たちの恐怖に満ちた悲鳴が聞こえてきて。
爆発、した。

私は茫然自失となってその場から動けなかった。
あ………ああぁぁ…………。
こ、こんな……。こんなことって………。
私は手に持っていた青竜刀を下げて、ただ煙がもうもうと上がる観客席を
見つめていた。
でも、その煙が晴れた時、私は目を見開いた。

 

「…………し、シンっ!!!!!」

 

そこには観客席全体を光の膜で包んで、ビームを防ぎきったシンの姿があった。
あ、アイツいつの間にあそこに!?
でも、良かった、観客席の子たちには傷一つついてない!
良かった………本当に良かった………!!
私は気の緩みからか涙が溢れてきて、すぐさまシンのところに行こうとした。
けどその時、シンがオープンチャネルを開いて私に怒鳴りつけてきた。

『凰!!お前はあのISの真上から攻撃を仕掛けろ!!
  俺は奴の真下につく!!
  絶対にそのエリアから出て戦うなよ!!』

「え、ええぇ!?いきなり何言ってるのよアンタは!?
  何でアイツの真上からしか攻撃しちゃいけないわけ!?
  そんなんじゃ動きも制限されて、余計攻撃を喰らっちゃう………」

そこまで言って、気付く。
シンが何故そんなことを言い出したのかを。
だってそうやって真上と真下から攻撃しないと、またあの攻撃をしてきた
とき、私たちがそれをかわしたら、そのビームはまた観客席にいってしまう。
さっきはシンが防いでくれたけど、二度目はどうかわからない。
私がそれに気付いたことを察したシンは、さらに続ける。

『俺もお前も、シールドエネルギーはもうそんなに残ってないだろう!
  俺のイグナイテッドだって、もうあと一回使えればいい方だ!
  そうなったら、いざというときにアイツのビームを受け止める術がない!
  もう俺たちにできることっていったら、援軍が来るまでの時間稼ぎ
  くらいしかない!』

そう叫びながら奴の下に潜り込むシンを見て、思わず言葉を失う。
さっきのビームを防いだ時だろうか?
シンの左腕はISスーツが破れていて、血で真っ赤に染まっていた。
しかもその腕は切り傷や擦り傷でズタズタだった。
な、何なのよあの傷は………!?

「し、シンっ!?アンタ、その左腕………。
  もしかしてさっきビームを防いだときに怪我を………!?」

『え?……ああ、別にどってことないよ。確かに血は多く出てるけど、
  怪我自体はそんなに大したもんじゃないし』

「はぁ!!?十分大怪我でしょうが!!左腕、既にズタズタじゃない!!?」

『ああ、これは以前からあった傷だよ。俺がさっき受けた傷は、
  ここの大きな傷だけだから。そんなことより集中しろ!!
  アイツ、また俺たちに照準を向けてきてるぞ!!』

そう言って真下からビームを撃ちまくるシン。
それを見ながら私もとりあえず奴の上空を陣取る。
でも、どうしても下にいるシンが気になってしまう。
アイツ、馬鹿じゃないの!?
何が大したことない傷よ!?
その傷だって、皮膚が大きく抉れてるじゃない!
血だって半端なく出てるし、強がってんじゃないわよ!!

でも、私もいつまでもシンに気を回している余裕がなくなってくる。
奴の肥大した肩からにょきっと太い砲が出ていたかと思うと、
並んだ十本の砲が一斉に発射してきたからだ。
しかも、奴の腹がゆっくりスライドして、そこにあった射出口から
何発もの誘導ミサイルが吐き出された。
私は奴の真上という限られたエリアの中で、それらを必死になって
かわしていく。

目まぐるしく動く視界の中でシンの方を見ると、
シンも足や足の裏に備え付けられたビーム発射口から撃ち出される
ビームの雨をかわすのに必死になっていた。
しかもそこに誘導ミサイルまで向かっているので始末に負えない。

ヤバい、甲龍のシールドエネルギーが100を切った!
シンのシールドエネルギーも、もうそこまで残ってないはず。
私は焦燥に駆られて、青竜刀を展開する。
二本をジョイントさせて、ブンブン振り回しながら奴に突貫していく。

『お、おい!何してるんだ凰!!奴に闇雲に攻撃するな!
  かわすことに専念しろ!!』

「うっさい!!このまんまじゃ援軍が来る前にこっちがやられるわ!
  一瞬で間合いを詰めて、息つく間もなく責め立てれば倒せるわよ!!」

この時の私は、我ながら焦りすぎていたと思う。
いつまでも援軍は来ないし、あのビームの雨はさっきよりも苛烈で、
とても私には長時間かわせるものじゃなかった。
それにエネルギーも不味いところまで減ってしまっては、
もう私にはこれしか打つ手が思いつかなかった。
オープンチャネルでは未だシンがやめるように怒鳴っているけど、
そんなたらたらやってたんじゃ、本当に皆やられちゃうわ!!

スラスターを全開にして、何発かのビームが機体を掠めながらも
私は上空からの急降下を利用した青竜刀の一撃を振り下ろした。
が、私の斬撃は突如として奴の腕から生えた刃によって、
いともあっさりと受け止められてしまった。
く、くぅぅぅぅ………!!
び、ビクともしない!?
いくら私の甲龍がエネルギーを消費しすぎていつものパワーが出ないからって、
こうもいとも容易く止められるなんて!!

その時私の目の錯覚か、異形のISが一瞬ニンマリと笑ったように見えた。
奴は私の青竜刀を力ではじき返し、そのまま右拳を腰だめに構える。
その構えた握りこぶしから、何か棒のようなものがニョキッと飛び出した。
それを見て、私は思わず息を呑む。
それはあらゆるものを貫く破壊の杭………パイルバンカー。
だけど、それは普通のパイルバンカーじゃなかった。
ぼんやりと全体が紫色に発光し、その先端部分には禍々しい
黒い渦が渦巻いている。

な、何なのよこれ………。
で、でも甲龍のシールドエネルギーはまだあるし、一回の攻撃くらい
何とか耐えられる。
そのあとまた反撃してやる!
そう思って襲い来るであろう衝撃に身を強張らせるが、その時私の
目の前に、ズタボロのISが飛び込んできた。
それは見間違いようもない、アイツのIS。

「…………シンッ!!?」

「下がってろ、凰!!!」

シンは私の盾になるように前方に躍り出る。
そして右手から光の膜を張り、左手を何とか動かして備え付けられた
ボロボロの盾を構えた。
そして、奴がパイルバンカーをシンに向かって撃ち出して、
光の膜とパイルバンカーが激突する音がして、そしてその後に………。

 

 

ズブッ…………………。

 

 

という、何かが肉にめり込むような音がした。
え。え、何?今の音って…………。
私は何が起きたか分からずにただ戸惑うばかりだった。
アイツが、目の前で大量の血を吐き出すまでは。

「ぶ…………げぼぁ………………グ………カ、ハァ…………」

「へ…………し、シン!?ちょっ、アンタ大丈夫………ひっ!!?」

私はシンを覗き込むように見て、思わず悲鳴を上げてしまう。
だって奴のパイルバンカーがシンの構えた盾を突き破って、
その先端が、シンのわき腹にズブリと突き刺さっていたのだから。
シンのそこから、大量の血が流れ出ていて、それが下半身を
赤く染め上げていた。

「う、嘘でしょ!?シン、シン!!しっかり……………!?」

私の呼びかけに気付いたのか、シンは朦朧とした目で私を見る。
そして、ゆっくり、微笑みかけてきた。
涙目になっている私を、安心させるかのように。

 

「……ったく、お前は………。突っ走りすぎ、なんだよ………」

「シ……………………」

 

私の台詞は最後まで言えなかった。
異形のISが右手を大きく振り回して、シンを地面へ向かって
放り投げたからだ。
ずるりとパイルバンカーはシンのわき腹から抜けて、
シンはその遠心力で真っ逆さまに落ちていった。

「し、シンっ!!!!!」

私は慌ててシンを助けようと追いかける。
だけど異形のISは素早く私の前に回りこんで立ちふさがる。
その不気味な顔がまた醜く歪んだ気がして、私は憤慨して猛然と
斬りかかった。
でも、またしても私の刃は奴の刃に止められてしまう。
私はさらに焦燥感を募らせ、叫んだ。

「どけぇ!!!どきなさいよぉ!!!
  シン………シィィィィィィィィィィィィン!!!!!!!」

私はただ我武者羅に刃を振り回した。
でもその全ては奴に容易く受け止められてしまう。
でも、攻撃を止めるわけにはいかなかった。
私は私の命を助けてくれたアイツを助けるために、
全力で戦う以外になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちくしょう………ちくしょう!!
ちくしょうちくしょうちくしょう!!!
何で、何でこうなってしまうんだ!?
何で俺は、無様に血を流しながら、地面に向かって落下してるんだよ!?

そもそも、どうしてイグナイテッドが奴のパイルバンカーに
貫かれたんだ!?
ヴェスティージのエネルギーはまだ残量があったし、一回くらいの
直撃なら防ぎきれるはずなのに!?

そこで、ふと俺の頭にこの間の記憶が浮かぶ。
それは、一夏と第3アリーナで特訓をしたときのこと。
確かあの時、一夏はこちらのエネルギー残量に関係なくシールドを突破し、
本体に直接ダメージを与える『零落白夜』を使ってきた。
思い返してみれば、あのISのパイルバンカーがイグナイテッドを
貫いたときの感覚は、まさしくその時に感じたものと同じだった。
まさか、アイツのあの攻撃、一夏のそれと同じく『バリアー無効化攻撃』
だったのか!?
だからイグナイテッドがいとも容易く貫かれたのか……?
もしそうなら辻褄が合う。

でも、それでもまだ分からないことがある。
言うまでもない、この傷のことだ。
このわき腹の傷、貫通してはいないけど、これは致命傷だ。
これだけの血が出てしまったら、いくらISに搭乗者保護機能があるからって、
命に危険が及ぶことは明白じゃないか。
何故さっきの攻撃で、絶対防御が発動しなかったんだよ!?
ヴェスティージは、この怪我が命に関わるものじゃないとでも思ったってのか!?

けれど、どんなに喚いたところで何も変わりはしない。
さっきから、俺の体は鉛のように重くて、動かない。
血を流しすぎたからだと思うが、痛覚が麻痺してるのか痛みを感じていないこと
だけが救いだった。
でも、どうしようもない。
さっきから俺の体は、俺の意に反してピクリとも動かないんだから。

ふざけるな…………ふざけるなっ!!!
こんな、こんな訳の分からない敵にやられるなんて、冗談じゃない!!
見ろよ、シン・アスカ!!!
俺の目の前で、凰がアイツと戦ってるぞ!?
観客席で、女の子たちが恐怖で震えているぞ!?
そのままにしていいのか!!?
良い訳がない!!
こんなことで、こんな理不尽な暴虐で傷ついていい人間なんか、
この世界には一人としていないんだ!!!

それに、託された願いはどうする気だ!?
俺の命は、俺のものじゃない!!!
俺の元の世界に生きる、全ての人のものだ!!!
あの世界を戦争のない平和な世界にする!!
そのために俺は今を生きているんだぞ!!!

こんなところで死ねるか!!!
あんな、あんな血の通ってないロボットなんかに、殺されてたまるか!!!
守るんだ………!
生きている人間相手ならどうしても加減せざる終えなかったけど、
奴相手なら話は別だ!!!
守るんだ、どんなことをしても!!!
俺の力全て使ってでも、片手片足、両手両足が消し飛んでも!!!

俺がどんなに傷つくことになったとしても!!!
全てを、守るんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

……………パキィィィィィィィィン……………………

 

 

 

 

俺の体の奥深くで、何かが弾けた。
元の世界にいた時に幾度となく感じた、あの不思議な感覚。
突如目の前を覆っていた濃霧が晴れたように、何もかもが鮮明になる。
ISのハイパーセンサーなんて目じゃないと思えるほどのクリアーな
感覚が、高ぶった俺の心を平静にさせてくれる。

奴のビームの軌跡が一本残らず見える。
撃ち出された誘導ミサイルの弾道が見える。
体に力が戻る。
手の、足の感覚が徐々に戻っていく。
それに伴ってわき腹の痛みも徐々に出てくるが、今は何とか我慢できる。

俺はすぐさまスラスターを噴かせ、地面に激突する寸前に体勢を立て直した。
と、俺が立て直したことに気付いたのか、異形のISは凰を突き飛ばすと、
すぐさま俺に照準を合わせて、ビームの雨を降らせてくる。
俺はそれを地面を滑るように全てかわしていく。
さっきはそのビームの多さからかわすのがやっとだったけど、今は
ある程度の余裕さえ感じる。

でも、それでも戦況が最悪なのには変わりない。
俺のヴェスティージのエネルギー残量はすでに50を切った。
凰もさっきまでの攻防で残量は多分俺と同じくらいだろうし。
しかもあのISには、ほとんどダメージを与えられていない。
いくら何でも、この状態からアイツを倒すのは無理だ。
このエネルギー残量では、時間稼ぎすら難しい。
俺はバリバリと音が鳴るくらいに歯噛みしながら、拳を壊れんばかりに
握り締める。

何でもいい………どんな手段でもいい!
この戦いの間だけでも、ほんの少しの間だけでも!
俺に、戦う力が戻ったら………!!
でも、そんなことは現実では有り得ない。
これはゲームではないのだ。
そんなに都合よくISのエネルギーが回復するなんて………………。

「…………え?」

その時、俺の目の前に突如パッと画面が映し出される。
その真っ白な画面には少しノイズが走っていて。
少し遅れて、その画面になにやら文字が浮かんでくる。
その文字はまるで血のように真っ赤で。
俺はその文字に目を走らせた。
そこには、こう書かれていた。

 

 

 

 

― 『唯一仕様の特殊能力(ワンオフ・アビリティー):最後の力』 ―

 

 

 

 

最後の、力?
何のことかは分からないが、ワンオフ・アビリティーはついこの間
聞いたばかりのことだ。
この前の一夏との特訓、その時一夏が繰り出した『零落白夜』。
それと同じものってことか………?
もしかしたら、これは今の絶望的な状況を打開できる能力なんじゃないか……?

俺は無意識のうちにその画面に手を伸ばしていた。
だけど、直前でその手を止める。
何故だ?現時点ではこれに縋るしかないはずなのに。
でも、いつもより鮮明になった俺の感覚が、全力で警鐘を鳴らしている。
それを使うなと。絶対使うなと俺の全てが叫んでいる。

確かに、考えてみるとちょっとおかしい。
だって、タイミングが良すぎるじゃないか。
こんなに追い詰められた状況で、いきなりこれが出てくるなんて。
これがISの仕様なんだと言われたらもう返す言葉がないけど、これは何かが
違う気がする。

でも、それでも今はこれに縋るしかない……!
だってこれを使うしか、もう術がないんだから!
俺はまた少し躊躇って、でもその画面に手を触れた。

「………何だ!?」

それと同時に、ヴェスティージが炎で包まれる。
いや、本物の炎じゃない。
でも、それと見まごう程にリアルな炎が、ヴェスティージにまとわりついた。

な、何だこれは………?
と、いきなりピピピピピッという音が聞こえてくる。
俺はシールドエネルギー残量を見て、目を見開いた。

「な、何だよこの数字………!エネルギー残量が、1500…………!?」

こ、この数字は本当なのか!?
シールドエネルギーが四桁になるなんて、聞いたことないぞ!?
これが、『最後の力』の能力なのか………!?

「す、凄い!これなら、時間稼ぎだって容易にできるし、
  アイツを倒すことだって……………!」

 

………………ズキッ………………

 

……へ?

 

 

………ズキッ。ズキッ、ズキッ。

 

 

……な、何?
ぐ、が、あ?

 

 

……ズキンッ。ズキンッ!ズキンッ!!ズギンッ!!!ズキンッ!!!!!

 

 

な、何だこれ………?
ぎ、が、ガァ………ガギ……………あ、アガァァァァ!!!!?????

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
  アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!??????」

 

い、痛い!!??
いだ、いだぃ、痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???
ひ、左腕の傷がっ!!!
わき腹の傷がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!???
が、ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
き、気が狂いそうだっ!!!!????
これはヤバイ!!??
し、死ぬ!!?
死んじまうっ!!!??
し…………ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!?????
イギィィィィィィ!!!???
死、ぬ!?し、ぬ………!…………し………………ぬ………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………

 

………バリィィィィ!!!!!

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?????」

突如脳に直接スタンガンを喰らったような衝撃を感じ、
飛びかけた意識が戻る。
でも、い、痛いぃぃぃぃぃ!!!
今は何とか正気を保ってるけど、少しでも気を抜いたらまた気をやって
しまいそうだ………………!!!

な、何で………!
さっきまで怪我の痛みはそんなに感じていなかったのに……!?
もしかして、『最後の力』のせいなのか……!?
これ以外に理由なんて考えられない………!!

やっぱり、使うべきじゃなかったか!!??
でも、でもこれを使わないと……………!
全てを、皆を守れない……………!!!

と、ここでもう一つ俺に衝撃が走る。
さっき意識を失ったときに少し機体をビームが掠めたのだが、
そのせいで失ったエネルギーが………。

「ダメージ、24…………!!??」

嘘だろっ!?
いくらあのビームが高出力だからって、少し掠めただけで、
それほどまでのダメージを受けるか…………!!??
と、少し気を緩めたせいで、今度はまともにビームを喰らってしまった。
そして、その時のダメージは、さっき『最後の力』を使う前に喰らった
ダメージの、約二倍だった。

「っ!!!!!まさか、この状態だとシールドエネルギーのダメージが
  倍近くなるのか………!!??」

でも、このダメージを考えると、それ以外に考えられない。
そして、さっきまでエネルギーの多さに浮かれてしまっていて、
たった今気付いたが。
どういうわけか知らないが、シールドエネルギーが一秒経つごとに一ずつ
減っていってるんだが。
これって、もしかしてもなく、そういうこと、だよな………。

……くそったれ……。
やっぱりそんな旨い話なんて、そうそうあるわけじゃない、か……。
でも、そうだとしても……。
この瞬間は、俺に戦う力が戻っていることに変わりはない。
だとしたら、俺のやるべきことなんて、一つだけだろう……?

いいぜ、『最後の力』………。
もしそれがお前の力だってんなら、俺に、苦痛をよこせ。
それで俺が『今』を戦う力を得られるってんなら。
皆を守れる力を、再び得られるのなら………。

 

命さえ失わなければ。
どれだけの苦痛を受けようと。
俺の体がどうなろうと、構うものかよ。
俺のこの汚れた手で守れる全てのものを。
俺はどんな手を使ってでも、守ってみせるさ。

 

 

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