何で?
何でだ、アスカ?
何でお前は、そんなに嬉しそうに笑えるんだ?
体中ズタボロで、血まみれで、息も絶え絶えじゃないか。
皮膚が破けて、血が噴出しているじゃないか。
火傷も所々に広がってるじゃないか。

とても、痛そうじゃないか。
遠目で見たって分かる、痛いのだろう?
普通はもっと、辛そうな顔をするものじゃないか。
なのに、何でお前はそんな顔ができるんだ?
一ヶ月同室だった私でも、お前のそんな表情は見たことがないぞ?
何でなんだ、アスカ?
何で…………何で………………。

私の中に、いくつもの「何で」が浮かび続ける。
でもそれらは何の答えも出ないまま水泡のように消えていって。
そうしてただ呆然とするだけの私の前で、上半身も下半身も
傷だらけのアスカが、ゆっくりと倒れ伏した。

そこで私は、考えるのを止めていた。
覚えているのは、それを見て錯乱して、アスカの名を叫んだこと。
ただ、それだけだった。































私は震えていた。
柄でもないとは思うけど、それでも体の震えは止まらなかった。
その原因は、別にあのISのせいってわけじゃない。
確かに奴との戦いは私が今まで経験してきたISバトルとは
全然違ってたけど。
それでも私はそんなことで怖がったり泣いたりするタマじゃない。
むしろ俄然闘志を燃やして向かっていくのが、凰鈴音って女なんだから。

でも、そんな私が今、目に涙を溜めて、そこから一歩も動けなかった。
何故って?
それは……、今もアリーナの地面を滑るように移動しながらも、
苦悶の表情を浮かべて獣のように唸るシンを見ていたから。

私を庇ってわき腹にパイルバンカーが突き刺さるなんて重傷を
負ったシンは、意外なことに地面に激突する直前、体勢を
立て直すことに成功した。
しかも驚くことにその後奴が放ったビームの雨を、さっきとは
比較にならない程の動きで、全て完璧に避けきったのだ。
まるで怪我なんて負っていないかのように。

その時は少しだけホッとして、シンに呼びかけようとしたんだけど……。
シンのISが急に粘っこい炎に包まれてから、シンの様子が一変した。
シンの表情はさっきまでのそれよりも遥かに苦痛が浮かんでいて……。
それで……耐え難いほどの痛みに襲われたかのように絶叫したから。

耳を思わず塞ぎたくなるほどのそれは今もなお続いていて。
しかもシンは相変わらず血を流し続けていて……。
シンが飛行した地面にはまるでそれを示すかのように血の跡が残っていて。
シンが大変な状態だってことは分かっているはずなのに、私の体は
今まで経験したことのない恐怖ですくみ上がっていた。

……人間が血だらけになって、苦痛に悶える姿。
テレビやゲームの中では見たことのあるそれも、現実ではやっぱり
フィクションだったんだなって思うくらいに、シンのその姿は
私に恐怖を抱かせた。

と、固まって動けずにいた私の前に、突然オープンチャネルが開く。
相手は今も奴の攻撃に晒され続けている、シンだった。


『……凰、聞こえ、るか……?『作戦』が、あるんだ………。
 今から説明するから、よく……聞いてくれ…………』

「ひっ……シ、シンっ!!大丈夫なの、アンタっ!?
 ていうか作戦って何よ!?
 そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、アンタ!!?」


私は涙声になりながらも、シンに叫ぶ。
でもまた「ヒッ」と声を詰まらせてしまう。
シンの口からは今も血がダラダラと流れ出ていて、
心なしか瞳からは光彩が失せているように感じたから。
顔面も血の気が引いて蒼白状態で、「死相が見える」って
ゲームや漫画ではよく見るけど、これがそうなのかなって
思わず頭に浮かんだほどだった。

本当はそんな、作戦なんて言ってる場合じゃないって思う。
すぐにシンを止めて、一緒に逃げ回ることに専念した方が
得策なんじゃないかって思う。
だってアンタ、本当に死にそうじゃない!?
観客席の子達が、なんて言ってる余裕ないはずでしょ!!?
でも、画面の先にいるシンは、唇を震わせながら、言う。


『いいからっ………!!ここで俺たちが、奴に屈すれば………。
 奴は、その後どんな暴挙に出るか、分かったものじゃない……!
 何としても、奴を止めるんだ………!
 それに、何も俺たち………ゲフッ!!!……だけ…で……カッハ……!
 倒そうって、訳じゃ、ない………。
 ……聞こえて、ますよね。織斑先生……一夏、セシリア………』


シンがそう言って、気付く。
シンは私の他にもオープンチャネルを開いていた。
その先は……一夏たちのいる、モニタールームだった。
私も慌ててモニタールームにチャネルを開く。
すると一夏たちの切羽詰った声が聞こえてきた。


『無茶だ、シンっ!!お前、今自分がどんな状態か分かっているのかよ!?
 死んじまうぞっ!!?』

『そうですわ、シンさん!!もう少しでシステムクラックが完了します!
 そうしたら一夏さんと私が出ますから、それまでシンさんは………!』

『二人の言う通りですっ!!アスカ君、後のことは私たちに任せて、
 すぐに撤退して下さい!でないとその出血量……本当に取り返しの
 つかないことになってしまいますよ!!』


三人が三人とも、必死になってシンを止めている。
当然だ、私だってそれが正しいって思う。
『怪我人はおとなしく他の人に後のことを任せて休むべき。
 そんな状態で戦っても、他の人の足手まといになるだけだから』って、
それが普通の人が考える常識でしょ!?
でもシンは三人のそれには答えず、織斑先生に問いかける。


『織斑、先生………。その、システムクラック………。
 あと、どれくらいで完了、しますか………?
 ブ………ゴォ…………!!』

『っ!……あと二分、いや三分というところか………』

『……じゃあ、やっぱりその間、奴を押さえる人間が必要ですね……。
 ……織斑先生、一夏、セシリアも、よく聞いてくれ……。
 奴を押さえる、『作戦』を………!』


そう前置きをしてシンは心配する私たちに構わず、勝手に説明を始める。
でもシンが語った『作戦』は、もはや作戦なんて呼べる代物じゃなくて。
それを聞いた私たちは二の句も継げられず、ただ呆然とするしかなかった。
でも、真っ先に復活したらしい幼馴染さんが怒鳴り声を上げる。


『馬鹿か、アスカっ!!何が作戦だ!!!
 それでは一番負担が大きいのはお前ではないか!!?
 承諾できるわけがないだろう!!
 そんな、そんなこと………!!』

『……だけど、これが被害を最小限に……グググ……抑、える……
 一番の方法だ………。……ですよね、織斑先生………』


シンはそこで織斑先生に尋ねる。
それを受けた織斑先生は、目を細めて、顔に苦渋を浮かべながら、
きつく唇を噛み締めていた。
それを見ただけで、私たちは察してしまう。
シンの言っていることが、正しいということに。
でも、それでも素直に了承なんてできるはずもなく。
今度は一夏が異を唱えようとしたんだけど………。


『だが、シン!やっぱりそれは………!』

『……一夏、お前この前言ってた、よな……?
 「自分に関わる人全てを守りたい」って………』


画面の先の一夏が、目を見開く。
何のことかは分からないけど、なんとなく一夏が言いそうな台詞だなって思う。
そして固まった一夏に向かって、シンがただ一言、告げた。


『今が、その時だ』

『っ!!!!!………………………分かった。
 シン、俺も、覚悟を決める。
 でも!絶対に無茶はするなよシン!
 お前だって俺が守りたい奴の一人なんだからな!!』


そう言った一夏の目に、もう迷いはなかった。
決然とした口調でそう言い放った一夏にシンは一瞬だけ笑いかけ、
次の瞬間には怪我の苦痛を感じさせないような力強い口調で叫んだ。


『いいか、凰、一夏、セシリア!!確かに奴を倒すことが目的だけど、
 一番に優先させるのは誰一人死なせないってことだ!!
 もちろん、俺たちも!!
 奴が逃げに転じるならそれでも構わない!!
 誰も死なずに、傷つかずに!!この戦闘を乗り切るぞ!!!』


そう叫ぶと同時にチャネルは切れた。
だけど、一夏は納得してこれから起こる戦闘に対する覚悟をしたみたいだけど、
私たちはまだ完全に納得したわけじゃない。
でも、敵は待ってくれないし、状況だって待ってくれない。
そしてこの作戦を提案したシン自身も、待ってはくれないのだ。

私もようやっと覚悟を決めて、上空から奴を『龍砲』にて牽制にかかる。
それと同時にシンは下方からスラスターを広げて奴に襲い掛かった。


『りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


ビームライフルを構えたシンは、張り裂けんばかりに叫びながら、奴へと向かう。
でも奴は私を肩の砲台で止めて、残りの腕、足、腰、掌、指にある銃口を
全てシンに向けて撃ち出してきた。
だけど、それは予想通り。
私はシンがさっき語った『作戦』を思い出していた。



― まずシステムクラックが完了するまで俺と凰で奴を
  できるだけ弱らせる。
  一夏とセシリアが来てからじゃ奴にとっての標的も増えるし、
  観客席の被弾率が跳ね上がるからな。
  凰はさっきまでと同じように衝撃砲で援護してくれ。
  その隙に、俺が奴に接近する ―

― ちょっ、待ちなさいよ!奴に接近できたって、奴は近接用ブレードを
  腕に仕込んでいるし、そのシールドバリアーも私たちのISよりも
  堅固よ!突っ込んだって勝算なんか…… ―

― ……任せろ。奴のシールドエネルギーも、俺ができるだけ
  そぎ落としてやる。
  だからお前は、俺が突貫するまで援護に専念してくれ ―



降りそそぐビームの中を恐れ気もなく遡るシンは、向かってきた一本を
ほんの少し体を反らしてかわす。
と、それと同時にビームライフルを発射した。
そのビームは降りそそぐビームの雨をまるですり抜けるように突き進んで、
あのISにぶち当った。

それを驚いて見ていた私は、今しがたビームの直撃を受けた
あのISを見て息を呑む。
高出力のビームを受けたはずなのに、奴はまるで何事もなかったかのように
その場に佇んでいたから。


(アイツ、何で吹っ飛ばされないの!?………!あれは………)


私は奴の大きく広げられた八枚のウイングスラスターを注視する。
それがさっきまでとは比較にならないほど勢いよく噴射していた。


(そうか……あのスラスターを噴射させて、ノックバックするのを
 防いだってわけ……!くそっ、これじゃ奴の体勢を崩せないから
 全く近づく隙ができないじゃない………えっ!!?)


目に見えて隙なんかないのに。
それどころかさっきよりもその驟雨は苛烈さを増しているのに。
シンはそれに向かってさらに加速した。
そしてシンはさっきと同じようにギリギリでビームをかわして
ライフルを発射。
それはまた奴のビームに相殺されず、奴に命中する。
その次の瞬間には次のビームが目前に迫る。
シンはそれを少し体をひねって回避、ライフルを発射……命中。

その後も次々に襲い来るビームの嵐。
シンはそれらをまるで稲妻のようにかわしながらライフルをいかけ、命中させる。
一発、二発、三発………十発、十一発、十二発………二十五発、六発、七発………!!?

私はシンの戦いを見続けているうちに次第に呆然としていき、いつの間にか
顔中に汗が張り付いていたことに気付く。
実際には一分にも満たない時間だったはずなのに、私は息をするのも
苦しくなっていた。

私が開きっぱなしにしていたオープンチャネルからも、いつの間にか誰の声も
聞こえなくなっていた。
皆も、私と同じように言葉を失ってしまっているのかもしれない。
それほど、私の目の前で繰り広げられている戦いは常軌を逸していた。


(な、何なの……!?重傷を負っているはずなのに、さっきまであんなに苦しんでいたのに、
 あの、動きは………!!?)


あの大量のビームをかわし続けて、しかもかわすたびにビームを撃って、それを
一発も漏らさず奴に命中させて………!?
有り得ない……!
目の前で起こっているこれは、人間の動きじゃない……!!

このISは確かに凄い性能を持っているけど、それを扱うのは結局人間。
人間の能力にはどんなに訓練したって限界がある。
操縦技術だって、動体視力だって、そして反応速度だって………。
それにISは基本的に空中で、高速で戦闘を行わなければいけない。
その速度は普通に生活しているだけの人間では対応できない速度。
私たち国家代表候補生は特殊訓練を積んでいるから、人間が生きていく上で
想定していない、対応できない速度でも戦闘を行えるけど。
それでも、やっぱり人間の反応速度の限界を超えてISを操縦する
ことはできない。

けど………シンのそれは、そんな人間の常識をものともしない、
圧倒的で、超人的な、まるで現実味を感じないほどの動きだった。
でも、いくら人間離れした戦いをしているからって、忘れちゃいけない。
シンは今、わき腹に大きな穴が開いているってことを。


『……ぐっ……!!?ぁがっ……ぐっぅぅぅぅぅぅ………!!!?』


ブシッとわき腹から血が噴き出し、その苦痛にシンの動きがほんの
数瞬単調なものになる。
そこにビームが降りそそいで、直撃した。
その衝撃はシールドバリアーをほんの少し貫通して、シンの肌を
二、三箇所浅く切り裂いた。


『ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!?????
 ……が………ぐ、グ……………………!!!
 ………おおおおおオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!』


少しだけ切れただけなのに、シンは耐え難い苦痛を感じたかのように絶叫した。
それでもシンは止まらない。
まるで獣の如き唸り声を上げながら、奴に向かって突き進んだ。
それに同調するように、シンに纏わりついていた炎がさらに
勢いを増して燃え盛る。
その姿は、まるで自分自身を燃やし尽くそうとしているみたいで。
何故かは分からないけど、その姿を見ているととても胸が苦しくなった。

と、今までそこから動かず堂々と直立していた奴が、息つく間もなく
ビームを浴びせられ続けて、ついに少しバランスを崩してよろめいた。
その隙をついて、シンは奴の直上へと急加速。
その速度のまま直下降、奴を強襲した。
奴はすぐさま左手をシンへ向けて、五本の指から無数の弾丸を
撃ちだした。
でもシンは炎を撒き散らしながらそれらをかわしていく。
そしてシンはついに奴の懐に飛び込んで、ナイフを展開。
勢いをつけて斬りこんで、奴のシールドバリアーと激突した。


『ぉ…………オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』


気合一閃!
最大出力のビームナイフは、優に五十発を超えるビームを浴びて
弱まったシールドバリアーを斬り裂いて、その左腕を引き斬った。
そしてすぐさま離脱を図るシン。
だがその後バランスを崩して地面に倒れ込んでしまった。
でも、私の胸はよく分からない興奮で早鐘を打っていた。

凄い………凄い!!
ほとんどダメージを与えられていなかった状態から、腕一本を
破壊するまでもっていけるなんて………!
っと、そこまで考えてハッと我に返る。
そうよ、シンが無理を押してあそこまでやったのよ!
私だって………!!
私は奴の後ろから『龍砲』を撃ちかける。
それが奴の大型スラスターにヒットし、八枚のうちの四枚が吹き飛んだ。


「やった!!この調子で残りも………!?」


奴はバランスを崩しながらもこっちを振り向いて、体中の発射口を向けてきた。
やっば………!!
私はすぐに上空へと飛びのく。
けど、奴は今までシンに向けていたビームの雨を私に容赦なく降らせてきて、
私はそれをがむしゃらにかわしていく。
でもそのスコールの如き量に、すぐに追い込まれてしまう。


「駄目ーーーーーーー!!こんなのかわしきれるわけ…………っ!!?」


と、三本のビームが右・左・後ろに、まるで私の逃げ道を阻むかのように
撃ち込まれて、動きを止めてしまう。
そして間髪いれずに撃ちだされたあのお腹の極太ビーム。
そのあまりの熱射に、視界が白亜に染め上げられた。
かわす暇もなく、ただ棒立ちになっていた私は顔を庇うように
腕をクロスさせ、ぎゅっと目を瞑った。
けど、そんな私の耳に血を吐くような叫び声が聞こえてくる。


『やらせるものかぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


驚きに目を開くと、まるでさっきの光景の再現のように、
シンが私の盾になるように立ちふさがっていた。
そんな……さっきまでアリーナの地面で倒れていたはずなのに、
この数瞬でどうやってここまで………!?

と、一つだけその手段に思い当たる。
私との戦いでもシンは使っていたじゃない。
一瞬のうちに爆発的なエネルギーで超加速を行う高等テクニック
………イグニッション・ブースト。
でもあれは搭乗者にも相当な負担がかかるはず。
ましてやシンの今の体じゃあ………!
そう思ってシンを見ると、シンの顔はさっきよりも青ざめていて、
荒く息をつきながら時折血をコフッと吐き出していて。
それでも、その顔は何故か妙にホッと安心した柔らかいもので。
何でだろう、そんなシンの表情を見て、私の心にたった一つだけ
浮かんだ疑問。
それが、知らず漏れ出していた。


「アンタ…………どうしてここまで…………」


シンは答えない。
代わりに四つの砲身を呼び出し、手に持っていたライフルと合わせて
一斉に撃ちだした。
それは奴の極太凶悪ビームとぶつかって、大爆発が起こる。
長い大音響と黒煙が次第におさまっていって、煙が晴れた時、
そこには異形のISとシンが………って、シンは!!?

さっきまで私の傍らにいたはずのシンの姿が忽然と消えている。
奴もシンの姿を見失って動きを止めていた。
……と、次の瞬間奴の残った右腕が何かに射抜かれて爆発した。
私はただ呆然とするばかり。
どこからともなく一条のビームが降ってきて、正確に奴の右腕を貫いたのだ。
私は慌ててその方向を振り仰ぐ。
そこにはライフルを構えて、ゼッゼッと荒く息をつくシンの姿があった。


(ア、アイツ………、あの爆発に紛れて、奴が見せたほんの一瞬の隙を
 狙って右腕を…………!?)


信じられない気持ちでシンを見ていたけど、シンはライフルを構えていたその手を
だらっと垂れて、少しずつ前屈に傾いて、ゆっくり地面に向かって落下していく。
私はゾッとして、スラスターを最大にしてシンの元へ駆けつける。
今度は何とか追いつくことに成功して、シンの体を支えた。
と、支えた私の手にぬるっという暖かい何かがまとわりつく。
考えるまでもない、それはシンの血だ。
シンはもはや目の焦点もろくに合ってない。
ただ俯いて呻くだけだった。


「シンッ、シンッ!!しっかりしなさいよ!!意識を何とか保たないと、
 本当に死んじゃうわよ!!?」


私は涙目になりながら、その未知の恐怖に震えながら、ただシンに叫びかける。
でもやっぱりシンの耳には届いていないみたいで。
と、私の『甲龍』が突然けたたましく警戒アラームを鳴らす。
ハッとして奴を見ると、私たちに標準を合わせて、お腹のビームを最大出力で
撃ちだそうとしていた。

ドクンッと心臓が跳ね上がる。
私は自分の短慮と浅薄を呪う。
しまった……、今私たちの後ろには観客席がある!
あのビームを避けたら、また観客席の皆が危険に晒される……!
さっきのうちにシンを担いで素早く飛びのいていれば、こんなことには………!!
でも、どれだけ後悔したってもう遅い。
私はせめて瀕死のシンの盾になろうと前に出ようとしたところで………、
守るべきシンに、肩を掴まれた。
驚いて振り向くと、シンは震える唇で、小さく一言呟いた。


『…………狙い…………は……………』

『完璧です!言われるまでもなく完璧ですから、シンさんはもう喋らないで!!』


その響くような声と同時、奴の残りの大型スラスターが全て消し飛んだ。
私はすぐさまそれを打ち砕いたビームの飛んできた方向を見やる。
そこには仰々しいライフルを構えた蒼いISを纏ったブロンド女、
セシリア・オルコットの姿があった。
それを見た私の脳裏に、シンの『作戦』の続きが、蘇る。


― 俺たちがある程度弱らせたISを、一夏とセシリアが仕留める。
  まあ、システムクラックが完了するまで俺たちがやられない
  ことが大前提だけど………。
  一夏とセシリアが戦っている間は、俺たちはアリーナの
  地面に腰を下ろして、射撃で援護する。
  正直、それだけの単純な手順だけど。
  これが一番被害を出さない戦いだ。
  だから一夏、凰、セシリアも…………。
  俺の『作戦』が作戦としての体をなしてないことは分かってる。
  でも、ここにいる全ての人を守るために………
  お前らの力を、貸してくれ…………… ―


やっと、やっとシステムクラックが終わったの!?
私はすぐさまシンを連れて地面へと着陸する
そこで私は一気に体から力が抜けていくのを感じた。
それとは逆にセシリアは怒りのオーラを噴出させ、その豊かな金髪を逆巻かせる。
そしてスッと目を細めて、目の前のISを射抜いた。


『よくもこの神聖なIS学園でこのような暴挙をっ!!!
 よくも、シンさんをこんな目にぃーーーーーーーーーーー!!!!!』


セシリアは激昂しながらも、しかし正確無比な射撃で奴の両足を撃ち抜いた。
もはやダルマと化した異形のISは、浮いていることさえままならなくなったのか、
ゆっくりと地面に向かって落下していく。
でも、セシリアはそれを冷たく見据えて、氷点下の如き言葉を吐きかける。


『………これで終わりだとでも思ってますの?
 その不細工な顔を最後に撃ち抜いて、ジ・エンドですわ。
 覚悟なさいっ!!!!!』


そう叫んでライフルの引き金に指をかけるセシリア。
と、いきなり奴はフクロウのように首をぐるんと180度回転させる。
不気味に開いたその口が、瞬間ガパッと大きく開いて、そこから
身の毛のよだつほど粘ついた紫の怪光線が発射された。
それは凄まじい速度でセシリアに追いつき、包み込んだ。
でも、セシリアには目に見えてダメージはない。
だけど、異変はすぐに現れた。


『な、何ですのこれは!?ティ、ティアーズの操縦がきかない!?
 動きなさいティアーズ!!このままでは………!!?』


セシリアのISに不気味な紫色の電磁波がまとわりついて、
次の瞬間にはライフルを持っていた手がユラリと垂れて、
まるで糸の切れた人形のように棒立ちになる。
奴はそれを確認すると、錯覚だと思うけどニンマリ顔を歪ませて、
今度は胴体も180度グルリと回転させる。
そしてお腹をスライドさせて誘導ミサイルをセシリア目掛けて
吐き出してきた。
当然、ISが動かないセシリアはそれをかわすことができない。
セシリアはぐっと目を瞑って体をこわばらせる。
私はすぐにセシリアを助けようとISを動かすけど、シンがまた
ボソッと呟いた。
それを聞いた私は、思わず動きを止めてしまった。


『…………だい、じょうぶ……だ。アイツが、来る………………』

『えっ!?アイツって……………』


次の瞬間だった。
セシリアの目前まで迫っていた数発の誘導ミサイルは、突然
飛び込んできた白い影に一発残らず真っ二つにされ、その影は
セシリアを担いですぐさま離脱。
その後で斬られたミサイルが爆発を起こす。
その白い影が何か、なんて……考えるまでもなかった。
私が、アイツを見間違えるはずがないんだから………。


「い…………一夏ぁ!!!」


セシリアの傍らに佇んでいたのは、白い近接ブレードを構えた一夏。
私も初めて見たけど、一夏は見るも輝かしい白銀のISを纏っていた。
その荘厳な雰囲気は、まるでそれが天使のような錯覚さえ与える。
一夏はセシリアと、私と、そしてシンを交互に見やって、その瞳に
厳しい光を宿して、目の前のISを睨む。
そして、叫んだ。


『俺の大切な人たちを………!
 鈴を、セシリアを、そしてシンを!!
 こんなにしたお前を、俺は許さないっ!!
 俺は………俺に関わる全ての人を………守るんだっ!!!!!』


そう叫ぶと同時、一夏の持っていた近接ブレードがまばゆいばかりの
光を放ちはじめる。
そしてその光はブレードの刀身に集まっていき、それが実剣の二倍ほど
もある光の刃を形成する。
そして一夏は瞬間凄まじい加速……イグニッション・ブーストで
奴に突貫した。

異形のISはさっきと同じく体と頭を180度回転させ、その胸の
極太ビームを撃ちだした。
でも、一夏は止まらない。
手に持ったブレードを構えて、奴の放ったビームの中に飛び込んだ。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』


その神々しい光を放つ刃は、禍々しい紫色のビームを切り裂きながら、
真っ直ぐ異形のISへと吸い込まれていく。
そして、その胸に、深々と突き刺さった。
そこで異形のISの胸から炎が噴出し、一夏はブレードを抜いて、
奴を思い切り蹴飛ばした。
アリーナの地面に叩きつけられた奴はそのまま動かなくなって。
私はこの戦いが終わったことを感じたのだった。































弾丸の撃ちだされる音も、ビームの爆ぜる音も、
およそ戦闘に関する全ての音が消え去ったアリーナで、
聞こえてくるのは今にも消え入りそうなうめき声と、
それを心配する数人の声のみ。


「千冬姉、早く救護隊を!え、そっちの扉はまだクラックが
 完了していない!?なら、俺たちがシンを担いで………」

「だ、駄目ですわ一夏さん!これほどの重傷で血も多く流して
 しまっているのに、無理に動かしては……!
 お気持ちは分かりますが、ここはプロの方を待つしかありませんわ!」

「だが、血は未だに止まらない!このままでは、アスカが……!
 何で、何でこんな………!!?」


アリーナの地面にはもはや白目をむいて、口もだらしなく開けて、
ピクピクと体を痙攣させるシンが横たわっていた。
この場にいるのは一夏、セシリア、私、そして救急箱を持って
駆けつけた幼馴染さんの四人のみ。
織斑先生は現場の指揮がまだ残っているからここにはいない。

私たちは何とか応急処置だけ終えて、救護隊の到着を待っていた。
でも、わき腹に巻いた包帯はすぐに真っ赤に染まってしまって、
もうこれで三回目の交換だった。


「駄目だ……、包帯も薬も全然足りない!!くそっ、せめてシンが
 ISを纏ったままでいてくれれば、保護機能が働いてもう少し
 マシなはずなのに………!!」

「そもそも、シンさんに纏わりついていたあの気持ち悪い炎は
 何ですの!?あれがISに絡み付いてから、シンさんの苦しみ方が
 一層酷くなったのですわよ!?
 あれがなければ、もう少し気力も体力も残っていたでしょうに……!」


確かに……、あの意味不明な炎がISに纏わりついてから、シンの状態は
明らかに悪くなった。
しかも奴との戦闘を終えると同時に、シンの体がその炎に包み込まれて
それがおさまった時には、ISが強制的に解除されていた。
一体あの炎が何なのか、それは分からないけど……。
まるで全てを燃やし尽くしたかのようにぐったりするシンを見ていると、
碌でもない代物だったことだけは分かる。


「でも、どうして救護隊はこんなに遅いんですの!?
 学園のシステムに干渉していた敵ISは完全に沈黙しましたのに、
 何故まだ復旧しませんの!?」

「確かにおかしいな……。俺の『零落白夜』は奴を切り裂いたし、
 実際にアイツは停止している。
 もう何かをする力は残ってないはずなのに………」


一夏とセシリアの言うとおり、奴は既にスクラップと化して
再起動する気配はない。
織斑先生にモニタールームからも確認してもらったし、それは
間違いないはず。
なのに、何で…………。

と、幼馴染さんが上ずったような声を上げる。
ハッとして私たちはシンの方を見やる。
そこではシンが呻きながらも、少し身をよじらせていて。
目にも少しだけ光が戻っているような気がして。
まだお世辞にも助かったなんて言えないけど、それでもとりあえず
意識が戻ったことは一歩前進だ。
私たちはすぐにシンの傍に駆け寄った。


「あ………アスカ、大丈夫か!?……良かった、本当に……!!
 もう少しで救護隊が到着するから、それまで頑張るのだぞ!?
 また白目を剥こうものなら、頬を引っぱたいてでも起こすからな!?」

「そうですわ、シンさん!この私があれだけ力を尽くして
 差し上げたのですから、ここで死ぬなんて許しませんわよ!?」

「ああ、そうだ!シン、お前だけ死ぬなんて許さないからな!!
 箒じゃないけど、ぶん殴ってでも起こしてやるからな!
 気を強く持てよ!!」


私たちは口々にシンを励ます。
それが耳に届いたのか、シンは表情を崩して、ほんの少しだけ微笑んだ。
私たちの間に広がっていた緊張が、一気に弛緩していった。

でも、その直後だった。
シンはおぼろげだった目をクワッと見開いて、まるで鬼のような
形相で顔を上げた。
私たちはシンの急変に驚きながらも、シンの視線の先に自然と
目を向けて………固まった。


「……………え?」


そこにあった異形のISの残骸、そこから何か光が漏れ出していた。
な、何なのよあれ………。
その光は少しずつ少しずつ膨張していって。
私たちはその巨大な光の、力の奔流を、ただただ見つめるだけ。
でも、しょうがないじゃない。
その光を見つけてからそれが大きく膨らんでいくまで、数秒にも満たない。
そんな短い間に、こんな訳の分からない状況の中動き出すなんて、
できるはずもない。
…………たった一人を、除いては。


「アスッ………………!?」


誰が発した声かは分からない。
誰かを呼び止めるような、引きつったような声。
でも、誰を呼び止めようとしたのか、認識がまるで追いつかない。
だけど、私たちの横を誰かが全力で駆け抜けていって、
私たちはそれが誰だったのかを、ようよう認識する。

まるで、目の前の全てがスローモーションになったようだった。
アイツは、悲鳴のような張り裂けんばかりの奇声を上げながら、
「それ」に向かって突き進んでいく。
その血まみれの体に、傷だらけの鎧が装着されていく。
そしてそれを纏ったと同時、スラスターが全開まで開かれ……。
そこで、現実の時間が、早足で動き出した。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!???」


絶叫しながら右手を前に突き出したシンは、残骸から溢れ出した爆炎を、
光の膜で食い止めた。
ズゥン!!!という凄まじい音が、アリーナ全体に響き渡る。
ミシミシと地面に亀裂が入っていく。
暴風のような熱波が、動けずにいた私たちの肌を焼いていく。
それで私たちの中で真っ先に現実へと帰還し状況を把握したらしい
一夏が、ISを纏ってシンのところへと向かおうとする。


「嘘だろっ………!!?あれはまさか……自爆!!!?
 シ、シンっ!!俺もすぐに加勢を………!!!」

「一夏ぁぁぁぁ!!!!!」


膨張していく爆発を必死に押しとどめながら、シンはまさに
駆け出そうとしていた一夏を制した。
そして動きを止めた一夏に素早く視線を向ける。
そのシンの視線を真正面から受けた一夏は、ハッとして私たちを見つめる。
ど、どうしたのよ一夏…………。
何が、どうなってるのよ…………?
混乱する私たちをよそに、一夏は私たちを見つめたまま顔を歪ませ、
シンに向かって声の限りに叫んだ。


「だ、だけどっ………!!!」

「頼む!!!!!!」


一夏はシンの叫びにグッと喉を詰まらせ、そして歯を
砕かんばかりに噛み締める。
その後何を思ったのか私と幼馴染さんを力任せに両脇に抱えて、
セシリアに向かって叫ぶ。


「セシリアっ!!さっきの攻撃でまだ思うようには動かせないとは
 思うけど、無理を承知でISを動かせ!!
 すぐに上空に離脱するぞ!!!」

「はぁ!!?ちょっ、何言ってるのよ一夏っ!!!
 シンがあそこで一人で頑張ってるのよ!!?
 何で私たちだけ………!!」

「そうですわ、一夏さん!!シンさんを放って私たちだけ
 離脱するなんて、とても承服できることでは………」

「いいからっ!!!シンの想いを、無駄にするなっ!!!」


普段の一夏からは想像もできないほどの厳しい口調に、
セシリアも一瞬グッと怯んだ。
でもその切羽詰った様子を見て、とりあえずセシリアも
ISを呼び出して、一夏とともにアリーナの遥か上空に飛び出す。
でも、私たちは納得したわけじゃない。
その証拠に隣では幼馴染さんが必死になってもがいている。
私だって、そうだった。


「なぜだっ、一夏!?このままではシンが、シンがっ……!!
 どうして助けにいかない!!?お前のISはまだ動くだろう!
 私たちを降ろして、すぐにシンの元に………!!」

「……俺だって、できればそうしたい。
 でも、俺たちが行っても、シンの助けにはならない。
 むしろ、邪魔になるだけだ」

「なぜですのっ!?確かに私のISはまだまともな操縦はできませんし、
 鈴さんのISはエネルギー切れで展開すらできませんが、一夏さんは
 別ではありませんか!?シンさんと二人で力を合わせれば……!?」


でも、私たちの抗議に一夏は黙って首を振る。
そして、静かに語りかける。


「今シンは、奴の膨大な自爆エネルギーを食い止めているんだ。
 それに対して、俺は………俺たちは、敵の攻撃を食い止める
 武装を、何にも持っていない。
 シンに俺たちの持っているエネルギーを分け与えようにも、
 俺は『零落白夜』に全てのエネルギーを注ぎ込んだ。
 もう飛ぶので精一杯なんだよ………。
 セシリアのだって、ISを扱うのさえ苦労してるんだ。
 エネルギーを分け与えるなんて真似、今はできるはずも………ない」


語るうちに、一夏の顔は悔しさが深く深く刻まれていく。
その唇はきつく噛み締められて、血が一筋、滴り落ちた。
それを見ていて、私たちには、もう何も言えなかった。
そう、私のISは敵を攻撃する武装は積んでいても、それを
防ぐ武装は積んでいない。
というか、私のISはもうエネルギーが少しも残っていない。
一夏もセシリアも、一夏がそういうなら敵の攻撃を防ぐ武装は
ないのだろう。
私たちの間に流れる絶望的な空気に、一夏がさらに酷な
現実を告げる。


「それに………セシリアのISはまだ本調子じゃないから
 分からないかもしれないけど………。
 今シンが食い止めているあの爆発のエネルギー……。
 俺のISが送ってくれたデータが本当なら、もし
 あれが溢れ出したら、最悪このアリーナ全体が飲み込まれてしまう。
 俺たちがあそこにいたら、シンに余計な心配をかけることに
 なってしまう………」

「な、何ですって!?じゃあ一夏、そのことを早く織斑先生に……!」

『もう聞いている。オープンチャネルを開きっぱなしにしていて
 くれたからな。今システムクラックを続行して生徒たちを
 避難させている。お前たちは、そのままその場にとどまって、
 アスカになにかあった時に、すぐさま対処できるようにしておけ』


焦る私たちをよそに、一人冷静な織斑先生。
でもその顔を見ると、一夏と同じくらい唇をかみしめていて、
その手は服をギュッときつく握り締めていた。

私たちにはこの現状をどうにかできる力はない。
今も私たちの眼下であの爆発を食い止めているシンに
全てを委ねること以外、私たちには何もできない。
それが、とても悔しくて……。
どうしようもなく、悲しくて……。
そんな時に、シンが爆発を押さえ込みながら、呻くように呟いた。


「一夏が守った全てのものを…………こんなことで失わせてたまるかよ………」


そしてそれを呟いた後、シンは吼えるように何かを叫んだ。
でもその叫びは、さらに勢いを増した自爆の爆音でかき消されてしまう。
それはシンの展開している光の膜さえも押し返しだして、私たちを
抱えている一夏さえ、思わず飛び出しそうになっていた。
でも、そんなタイミングでシンが私たちに少しだけ視線を向けた。
その視線に込められたメッセージを、この場にいる全員が感じ取っていた。


― 俺は大丈夫だから、お前らはそこで安心して見てろ ―


それを見て、もう私たちはその場から動くことはできなかった。
ただただ祈るようにそれを見つめるしかできない。
あそこでさらに血を噴出しながら、それでもその奔流を押しとどめる
シンに、何もしてあげられなかった。

その時、一夏のISに映し出されているシンの姿に、その表情に変化があった。
シンはこんな状況にも関わらず、何故か一瞬だけ笑みを見せていた。
明らかにこの状況には不釣合いの表情。
でも、その笑みは笑みというにはあまりにも歪んでいて。
私たちはそれを見て、嫌な予感しかしなかった。
そしてそれは、的中した。


「お、おい………あの炎って、さっきの………」


一夏が呆然と呟く。
私たちも、目の前で起こっているそれを見て、愕然とする。
シンのISにはさっきと同じように粘り気のある炎がまとわりついて、
展開している光の膜が一層広がって、その厚みも増していく。
でもそれと同時にシンはまた苦痛に絶叫し出す。
それはさっきのそれよりもさらに痛々しい、悲痛な叫びで………。




「ぁグァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 ァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!????
 ギ、ギギギギギギギギイィィィィィィ………!!!!!!
 グググ…………絶対に、ぜったいに、ゼッタイニィ!!!
 マモルンダヨォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 !!!!!!!!!!!!!!!!??????????」




シンは絶叫を上げながらもさらに光の膜にエネルギーを送り込んで……。
一瞬、アリーナ全体が凄まじい光に包まれた。

私たちはその光を直視することができずに、思わず目を閉じる。
どれくらいそうしていただろう?
多分十数秒のことだと思うけど、恐る恐る私たちが目を開けると、
そこには光の膜も、それに押さえられていた爆発も、跡形もなく
消え去っていて。
代わりにアリーナには、まるでミサイルでも着弾したかのような
クレーターが出来上がっていた。
でも、それらは今どうでもいい。
いない。アイツが、どこにも……いない。


「………アスカ?アスカは、どこだ…………?何で、アイツだけいない………?」

「う、嘘ですわよね……?まさか、そんなこと………」

「何言ってるんだよ二人とも!!死ぬわけがないっ!!シンが、死ぬわけが………?
 おい、皆………。あそこ、クレータの、真ん中………。
 誰かいないか…………?」


呆然とする私たちより先に、一夏が誰かを見つける。
私たちはすぐさまそちらに振り向く。
だってもしクレーターの真ん中に人がいるのだとしたら、それはシン以外には
有り得ないのだから。
でも、クレーターの真ん中にいたのは、シンじゃなかった。
ていうか、あれは…………人、なの…………?


「だ、誰だあの子…………?女の子、なのか?」


クレーターの真ん中にいた人物。
でもそれは人物というには何故だかおぼろげで儚げで……。
何より体全体が、透き通るような青色だった。
でも、その姿ははっきりと浮かんでいる。

肩にかかるくらいのふわっとした髪。
少し眠たそうに伏せられた瞳。
まるでドレスのような可愛らしい服装。
容姿も少し子供っぽさそうではあるけど、文句なしの美少女だった。
その子が、クレーターの中央で、『何か』を抱きしめていた。

でもその子はその端正な顔を、悲しそうに歪ませている。
そして抱きしめている『何か』の頭を、優しく撫でていた。
そしてその子は、私たちの目の前で、まるで空気の中に溶けるように、
ゆっくりとつま先から、消えていった。
彼女が消えたその場所には、シンがさっきの戦闘で
使っていた蒼色の大剣が突き刺さっていて。
そして………………………アイツが……………アイツ、が……………。



「………………………………………………………………
 ……………………ア………………………………………
 ………………………………………………………………
 ……ガ………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………」



上半身も、下半身さえも服は破けていて、体中の皮膚が
ズタズタになっていて………。
ISも、既に強制解除されていて………。
目を見開いてまるで金魚のように口をパクパクさせていたシンは、
ろくに焦点も合ってない目を、見えてもいないはずなのに、
こっちに向けてきた。
そして空中に佇む私たちを見つけると、ただ息継ぎをするように
開閉させるだけだった口で、ほんの少し、笑みを結ぶ。
そして、ほとんど聞き取れないような掠れた声で、呟いた。



― ……………た………………… ―



こんな空中にいたら本当は聞こえないはずのそれが、
一夏のISのお蔭で、私たちにもはっきりと聞き取れた。



― ………かった…………………… ―



口を開くのもやっとのはずなのに。
シンはまるで、日常の中での会話のように…………。



― …………よかった……………… ―



そう、微笑みながら、呟いた。
そして、その笑顔のまま、私たちを見つめたまま、
グラリと体を揺らして………。
ドチャッと、血溜まりの中に倒れ伏した。

誰もが言葉を失い呆然とする中。
私の横から、幼馴染さんの絶叫が聞こえてきた。



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