視界いっぱいに広がる、数多の星屑の競演。そしてそれに負けじと煌めく下弦の月。これほど綺麗な星空は、生まれてこの方見たことが無かった。
ノーマンズランドの星空も綺麗だったかもしれないが、それを気にしていられるような余裕のある生活では無かった。この夜空を見れただけでも、修学旅行に来た甲斐が あったというものだ。出来ることなら、この景色を切り取ってお土産に持っていきたい。
ふと、隣から何かを注ぎ入れるような音が聞こえてくる。見ると、超がコップに水筒の中身を入れていた。私の視線に気付いた超が、悪戯っぽく笑う。
「今日音羽の滝の騒動の時に、こっそり汲んでおいた滝の水ヨ。茶々丸から、長谷川さんはお酒が大好きと聞いてネ。未成年は飲酒禁止だけど、まぁ固いこと言いっこなしネ。」
つられて私も笑顔になる。まったくその通り、こんな綺麗な月夜なのだから、飲まない方がどうかしてる。空の紙コップを手に取り、超の酌を受ける。
「おつまみは要らないカ?」
「要らねぇよ。この星空だけで充分だ。」
「うム。風雅を愛でる心こそ、最良の酒の肴なリ。通だネェ、長谷川さン。」
満足げに頷くと、超も自分の紙コップになみなみと酒を注ぎ、飲み始めた。私も美しい星空を堪能しながら、上質な酒に舌鼓を打つ。
「…長谷川さんは、魔法についてどう思ってるネ?」
超が星空を見上げながら、静かに問いかけてきた。というか、私が魔法を知っていること前提か。おそらく、茶々丸を介して私の情報を得ているのだろう。今度茶々丸に厳重注意しておこうか。
「…どうって言われてもな。せいぜい『力』の一種としてしか知らないぞ。」
「まぁ間違ってはいないヨ。」
最初からあまり期待していなかったのか、超の反応は淡白なものだった。そりゃあそうだろう。問いかけてきているのは、世界屈指の天才児だ。私なんかとは脳の出来が違う。そんなやつの思考に応えられるだけの解答など、用意できるはずがない。
「確かに魔法とは力ダ。時に人を傷つけ、時に人を癒し、時に物を創り出し、時に大きなエネルギーを発する。」
淡々と話す超を横目に、私は水筒を手に取り、2杯目を注ぎ入れる。ついでに空になっていた超の紙コップにも。
「そう、魔法の持つ力とは、すなわち万能の力ダ。確かに戦闘に使われることこそ多いガ、それだけに留まらなイ。使い道は無限にあル。まだ見つかっていないだけダ。食糧危機も、自然保護も、エネルギー不足も、魔法があれば事足りル。魔法があれば―――世界は救えル。」
…何となく言いたいことが分かった。おそらくコイツは、魔法が秘匿されているのが気に入らないのだ。魔法を全世界に広めて、世界を本当の意味で救いたい、そう願っているのだろう。コイツの頭脳は、そんな不可能を可能に出来るレベルであることも知っている。
―――本当の意味での、世界規模でのラブアンドピース。
しかしそれは―――
「万能の力、ねぇ…。まるでプラントだな。」
昔を思い出し、否応なくしかめっ面になってしまった。
プラント。それは「造り出す」もの。不毛の大地の唯一の希望。人々はそれに縋り、寄り添い、頼りきり―――搾取し尽くした。喰い漁り、喰い散らかし、喰い潰し、喰い尽した。
他に頼る術を持てなかった
そして現れた、災厄の権化。奪われる側の逆襲。もし全てのプラントが、あの男のように、人間を恨み抜いていたならば、間違いなくあの星の人間は根絶されているだろう。
だから、というわけではないが、万能の力に頼ろうとする超には、どうにも賛同できない。過去も未来も変わらない、人間の悪性を見せつけられている気がして。
それで私に協力しろってんなら、断らせてもらう。そう言おうとして、超の方を向いた。
否、向こうとした瞬間、超の手から紙コップがこぼれ落ちた。コップは中身を屋根にぶちまけながら、コロコロと下へ転がり落ちていった。
しかし超はそれを気にする様子はない。超はまさしく顔面蒼白といった面持ちで、小刻みに震えながら私を見ていた。
「…今…『プラント』、と…そう、言ったのカ…?」
普段の姿からは全く想像のつかない、完全に動揺し尽くした超が、震える声を必死で抑えていた。そして私の頭も、急速に温度を下げていった。
今コイツは、私の呟いた『プラント』という言葉に反応している。それは、この時代を生きる人間が分かる言葉ではない。だが超の反応は、確実にそれが何かを知っている。
そして同時に思いだした。あの大停電の日、校舎での戦い。レールガンを持つ茶々丸の姿勢を、超音波で崩したことを。あの超音波は、砂の星で磨き上げた、対サイボーグ連中用の特殊音波。あの時私は、確実にそれが効くと即断した。それは何故だったか。
―――それは、茶々丸の内部機器の音が、聞き慣れた物だったからではなかったか。あの砂の星で跳梁跋扈していた、改造人間共の内部機器の音と似通っていたからではなかったか。
(クソッタレ、余計なこと口走るんじゃなかった――――――――!!)
「長谷川さん、まさか、あなたハ―――――」
超が私を問い詰めようとした、その瞬間。
私の耳に響いた音が、宿内での事態の急変を知らせていた。
「ッ―――――!畜生!!超!非常事態だ、また今度にしろ!!」
茫然とする超を尻目に、急いで梯子を駆け降りた。そして異音の許へと走り出す。
「クソッ、どうしてこうも―――――!!」
私の罵倒が無人の廊下に空しく響く。かつて振り払ったはずの不快な嘲笑が、また聞こえてきた気がした。
#17 我が揩スし悪の華
「やっぱりこの桜咲刹那ってヤツが怪しいッスよアニキ!オレっちの勘じゃあ、多分こいつはわざと修学旅行を休んで、陰から俺たちを狙ってるんだ!」
「そんな風に疑ってかかるのはよくないよ、カモ君!今日の音羽の滝のことだって、実は何の関係も無いことだったのかもしれないし…。」
宿のエントランスホールで、ネギとカモが珍しく言い争っていた。
内容はもちろん、親書のことについてだ。事前に学園長から、親書を狙う人間がいるから、 注意するようにと言われていたが、京都に入ってからずっと、陰からの視線を感じていたのだった。
そして滝での騒動の時、カモは酔い潰れた生徒を運ぶネギの邪魔にならないようにと、地面に降りてバスに戻ろうとした時に、ふとこちらに怪しい視線を送る姿に気が付いた。
「オレっちの目に狂いはねぇ!あの滝の騒動は、間違いなく兄貴の親書を狙ってやったものだ!多分兄貴も酔い潰して、その隙に掠め取っちまうつもりだったん だよ!そしてヤツらが兄貴たちの動向を把握できたのは、スパイがいるからさ!そのスパイの正体は、関西出身の桜咲刹那に間違いねぇよ!」
カモは自分の推理を自信たっぷりに捲し立てる。これも、自分が兄貴と言って慕う少年が、親書を届けるという大役を担うのを少しでも支えたいと思う忠義の表れであるのだが、芯から純粋なネギ少年には、そもそも自分のクラスメイトを疑おうという考えが無かった。
「だから、僕のクラスメイトに根も葉もない疑いをかけないでよ!桜咲さんとはあまり話したことないけれど、そんなことする人じゃないよ!」
「兄貴は甘ぇんだよ!第一ろくに話したことも無いのに、何でシロだって言い切れるんだ!?」
次第に二人の言い争いは、知らず知らず泥沼に陥ろうとしていた。だがその時、言い争う二人に声がかけられた。
「あれー?ネギ君、誰と話してるんやー?」
「うわぁっ!?こ、木乃香さん!?ど、どうして!?じゃなくて、いつの間に!?」
突然後ろから声をかけられたことに驚き戸惑い、不自然なほどにしどろもどろになってしまっていた。カモは脱兎のごとく逃げ出し、すでにエントランスホールに姿は無い。
「?何で慌ててるん?いつの間にって、今来たところやでー?それよりネギ君、あっちでアスナが探しとったえー?」
相変わらずののんびりとした口調で、ネギの後ろの方を指さす。どうやら自分とカモの会話は聞かれていなかったようだ、と安心したネギは、早速アスナのところへ行こうとして、木乃香にお礼を言おうとしたところで。
「ネギ先生!離れてください!」
木乃香の後ろから茶々丸が現れる。
「え?絡繰さ―――――」
ん、とネギが言い切るより速く、茶々丸は右腕のマシンガンを展開し、木乃香に向けて発砲した。
放たれた弾丸が、ロビーの床を、壁を、窓を、抉り貫いていく。ネギの悲鳴のような声は、マシンガンの轟音に遮られて、何も聞こえない。
「チィッ――――――!!」
一方、突如発砲された木乃香はといえば、素早くロビーのカウンターに逃げ込み、身を隠していた。そしてそこで気付く。ロビーやカウンター内から、人気が完全に絶えていることに。
茶々丸は発砲を止め、ブレードを展開してカウンターに突撃した。ブレードとは言っても単なる金属製の刃ではなく、超特製の
茶々丸が大きく右腕を振るうと、ジュゥっという物が焦げる音をたてて、受付カウンターがバターのように両断された。
しかしその陰に隠れていた木乃香は居ない。茶々丸の突撃を察して、壁を使って蹴り上がり、さらに両断されたカウンターを足場にして大きく跳躍し、茶々丸より1mほど後方に着地してい た。
茶々丸が振り向き、木乃香が顔をあげ、二人の視線が交錯する。すると、木乃香の顔がゆらりと歪み、一瞬後に、見慣れぬ少女の顔となっていた。
「…私の変装は完璧のはずなんだけど。何で分かったの?」
木乃香に変装していた少女―――栞は、完璧だったはずの己の“変身”を容易く見破られたことに、悔しげな声をあげた。
それに対し茶々丸も、油断なくマシンガンの銃口を向けたまま答える。
「…ええ、あなたの変装は完璧でした。私も、言われなければ気付かなかったでしょう。―――ですが、“音”は誤魔化せなかった、それだけです。」
「…訳わかんない。」
栞は苛立ちと戸惑いを隠せない様子だった。
ターゲットである近衛木乃香が部屋を出た隙を見計らって昏倒させ、眠った彼女の姿をコピーした。その後は出来るだけ長く、ネギが親書を届ける際まで、『近衛木乃香』として過ごし、誘拐にすら気付かせない、という状況を作るのが、千草の立てた作戦だったのだ。
が、まさかこんな早く露見するとは思ってもみなかった。
だが、千草たちが脱出してくれていれば―――
栞がそう考えていた次の瞬間、宿の奥から銃声が轟いた。
数分ほど前、栞が木乃香の姿をコピーして去った後、千草は木乃香をゴルフバッグに入れ、脱出の準備を整えていた。
今夜の誘拐には、栞の変身以外魔法は極力用いないようにしていた。というのも、先んじて得ていた修学旅行参加者の資料から、結界作成を得意とする魔法教師が居ることを知っていたからである。
本当ならば、誘拐の実行をフェイトに任せ、「眠りの霧」やその他の魔法を用いるのが一番手っ取り早いのだろうが、下手に魔法を使用して感づかれては台無しになってしまう。
そこで、誘拐時に使う魔法は栞の変身のみにし、木乃香の昏倒にはクロロホルムを染み込ませたハンカ チを使用した。木乃香をバッグに詰め込むのは、運びやすくするためである。
と、ここで千草の背後に気配が生まれ、それを待っていたかのように千草が声をかける。同時に、出しっ放しにしていた洗面台の蛇口を閉めた。
「待ってたで、フェイトはん、小太郎はん。首尾はどうや?」
「抜かりはないよ。結界術師には気絶しててもらった。監視カメラの機能も止めておいたよ。」
「上々。ほな行きまひょか。小太郎はん、後は頼みますえ?」
「任しとき!」
フェイトの役目は結界術師と監視システムの無力化と、千草の脱出の手伝い。小太郎はフェイトの補助と、誘拐後に単独行動をすることになる栞のサポート。 万が一栞の変装が発覚した際、彼女の逃亡を手伝うための役目である。
結界術師の無力化は当然といえるが、あえて殺さずに済ませている。ここで殺してしまっては、修学旅行そのものが中止になる可能性が高い。そうなった時、雇い主に計画が狂ったことで文句を言われるのは千草たちなのだから。
小太郎の返事を聞きながら、千草はフェイトの方を向く。視線が合い、フェイトは頷きを一つ返した。
「―――――
フェイトお得意の、水を利用した瞬間移動。すでに結界術師は無力化してあるし、他の魔法使いに魔力を察知されたとしても、すでに後の祭りである。
洗面台に満たされた水が、フェイトの呟きと共に、異常に波打ち始めた。だが、一滴たりともこぼれることはない。
そして千草とフェイトが、洗面台に向かって一歩進もうとした、次の瞬間。
激しい銃声と共に、外に面した窓から数発の銃弾が撃ち込まれた。
「――――!散れぇっっっ!!」
撃ち込まれる一瞬前に、窓の外の気配に気付いた千草とフェイトが、素早く飛び退く。気付くのに遅れた小太郎だったが、フェイトが蹴り飛ばすことでその身を守った。
銃弾が窓ガラスを砕き、銃声に劣らぬ派手な音をたてた。何発かは洗面台に直撃し、粉砕した。当然貯めこんでいた水も、一瞬の瀑布と共に畳の染みとなった。
千草とフェイトは素早く体勢を立て直し、一瞬窓を見る。
それを見計らったかのようなタイミングで、砕けた窓から黒いアルミ缶のような物体が投げ込まれた。それを認識した瞬間、二人は小太郎を連れて躍り出るようにトイレの外へ逃げ出した。
―――しかし、予想された爆音は、来なかった。
千草は舌打ちする。確かに、普通に考えれば、こんな人口密度の高い建物内で爆発物を使うはずがない。つまりこれは、廊下に出させるための作戦―――!
次の瞬間、廊下の先に背の高い人影が現れた。そして、両手に構えた拳銃を千草たちの方に向けている。
「――――っ!龍宮真名!」
千草の呻きと同時に、真名の持つ拳銃が火を噴いた。
「
だが一瞬速く、フェイトの障壁展開が間に合う。見えない壁に遮られる銃弾を尻目に、千草たちは逆方向へ逃げ出そうとした。
が、走りだそうとした千草の足が止まる。そして、フェイトと小太郎の襟を掴み、再度ドアをくぐった。
―――と同時に、真名とは反対側から、千雨と楓が現れた。
「チッ、挟み撃ちに勘付かれたか―――――!」
最初に楓が銃弾を撃ち込み、千雨と真名は廊下で待機する。出てきたところをまず真名が襲撃、そこから逃れようとしたところで挟み撃ちにする、という計画だったのだが、さすがに即興で考えた策では、天ヶ崎千草には通用しなかった。
走り寄って来た龍宮と合流し、扉を蹴り開ける。
「
開けた瞬間、無数の石の刃が襲いかかってきた。
楓と真名の視線の先にいる、能面を顔に張り付けたように無表情な少年。表情からは何も感じられないが、だからこそ肌で感じられる、圧倒的な存在感と、内に潜む強さ。
少年の奥にある窓は開け放たれている。おそらく、残る2人はあの窓から逃げ出したのだ ろう。そしてこの少年は足止めだ。
―――もっとも、考えていたのも一瞬のこと。目の前の千雨の動きに、すぐに意識を奪われる。
ドアの内側で待ち伏せされていることを、千雨が感じ取れないはずもなく、突入と同時に、ドアの留め金に銃弾を撃ち込んでいた。
当然ドアは支えを失い、単なる一枚の板きれに変わる。その一枚の板きれで身を隠し、襲いかかる無数の石刃から身を守った。
そして素早く、楓にとある物を渡す。
一瞬怪訝な表情を浮かべた楓だったが、するべきことは分かったらしい。小さく振り被って、それを板きれの上から投げた。
フェイトの視界に入ったのは、空中で弧を描いて落下しようとする、小さな手鏡。まさか爆発物ではないだろうが、おそらく気を引くための行動だろう。だが、こんなもの子供騙しにもならない。そう心中で嘲った瞬間。
手鏡が、強烈な光を放った。
光の正体は、千雨の持つデジカメのフラッシュである。手鏡を投げ入れた瞬間、千雨は手鏡の回転を読み切り、手鏡の方にデジカメを向け、フラッシュを焚いた。その強烈な閃光を手鏡が反射し、フェイトの目を視界を真っ白に染める。
予想だにしなかった不意打ちに、フェイトも小さなうめき声をあげて目を覆う。
それは、千雨にとってはあまりにも大きな隙だった。
手鏡が地面に落ちるより速く、千雨はフェイトに肉迫し、上顎を無理やり掴み上げ、素早く銃口をフェイトの口腔内にねじ込む。
支えを失ったドアが床に倒れるのと、千雨が引き金を引くのは同時だった。
楓と真名が見たのは、崩れ落ちる少年の姿。少年の体が、キラキラと砂のように細かい粒子になって、消えていく。後に残されたのは、首部分の無くなった一枚の人型の紙切れだった。
「…身代わり符だな。しかも分身が魔法を使えるよう、術式を改造してある。」
真名が拾い上げて呟いた。それはすなわち、相手の手勢は一人も減っていないということ。
千雨も顔を顰める。一瞬の攻防ではあったが、今戦った敵がエヴァにも匹敵しかねない強敵であると認識出来た。
イライラと髪を掻き毟りながら、開け放たれた窓に向かい、耳を澄ませる。しかしそれも一瞬のこと。
「―――楓。連中は裏口に向かっている。外から回り込め。龍宮は私に着いてこい。」
「御意!」
そして素早く部屋を出た。真名も千雨の後を追いかける。
先ほど急に部屋から連れ出された時は一体何事かと驚いた真名だったが、いち早く誘拐に気付き、正確に敵の所在と行動を推察し、着実に追い詰めていくその手腕は、傭兵たる自分の目から見ても、十分感心に値する物だった。
何でそんな正確に敵の位置が分かるのか、とか、どこでそんな経験を積んだのか、 とか、様々な疑問が湧き上がってくるが、今はそれを問うべき時ではない。
(敵に回せば最悪だが…。味方となると、これほど頼もしい人間はいないな…。)
何より彼女は今、クラスメイトのために銃を手に取っている。あのエヴァをも圧倒した実力の持ち主が護衛に回っていることを考えると、桁違いの信頼感を感じられた。
(…刹那も、この姿を見てくれればいいんだけどな…。)
そして、彼女の怒気にあてられ、再起不能となった友人を思い出す。彼女もこの修学旅行に陰ながら参加しているようだが、一番守るべき存在が危機に瀕しているというのに、なぜ姿を現さないのか。猫の手も借りたい状況なのに、どうして力を貸してくれないのか。
―――まさか、本当に、スパイだとでもいうのか?
頭に浮かんだ最悪の予想を振り払うように、真名は千雨の後を着いていく。
―――だが、その時だった。千雨の動きが突然止まる。
その視線は、今自分たちが歩いている廊下の突き当たりに注がれている。真名もその視線を追って、廊下の先を注視した。そして、そこから現れたのは―――――
「―――どうかなさいましたか、お客様?」
仲居さんだった。
(後書き)
2話連続投稿です。続けて後半どうぞー。