ジリリリリリリリリリリリリリリリ……パシッ。
「ふぁあぁ…」
昨日の夜にセットしておいた目覚ましが、予定通り鳴ったので右手を伸ばして止める。自然に欠伸が出るのをそのままに、ベットの中で丸まっていた体を伸ばしていく。あぁ…よく寝た。
眠気眼を擦りながら洗面所へと向かい、歯磨きと洗顔をしてやっと頭が覚醒する。うわ…髪の毛爆発してる…ま、別にいいか。朝飯食べてから直そっと。
「ッシ。さっぱりしたぁ!」
顔に冷水をぶっかけて、タオルで顔を拭いているところに声がかかる。
『ナルト〜、ご飯出来てるから早く来なさいってばね!』
「はぁい。今行くってばよぉ」
ん?今俺を呼んだ人が誰かって?それは直ぐに分かるってばよ。
返事をしてからリビングに向かうと俺と同じ金髪で、同じように爆発したような寝癖のままでいる男の人が、テーブルに着いて新聞を読んでいる姿が目に入ってきた。
あはは…毎朝思うけど、アレを見ると俺はあの人の息子なんだなって感じるな。自分の席に座るため、テーブルに近付きながら台所の方に目を向ける。
そこには膝裏までの長さの赤毛を揺らし、鼻歌を歌いながら料理をしている女の人がいる。美味そうな匂い…お、今日はパンか。
「おはよう。父さん、母さん」
『おはよう、ナルト』
『おはよう、早く席に着きなさい。ナルトも来たし朝ご飯にするから、ミナトは新聞しまってね』
女の人にそう言われて、いそいそと新聞を畳んで横に置く男の人。尻に敷かれているなぁと思いながら、俺は男の人にどんまいという意味を含ませた笑みを向ける。
分かったと思うが、この男の人と女の人は俺の『中』にいた父さんと母さんだ。実はこの光景ってば一年前から続いていたりする。何でこうなったかって言うと、母さんのお願いから始まったんだ。
『ナルトに朝食を作ってあげたいし、行ってらっしゃいとかお帰りなさいが言いたいってばね』
普通の家庭ならこんなお願いなんてまずしないだろうが、俺達の場合は違う。それは説明するまではないよな。それまで俺は二人を里の皆に見せたくなくて、結界があるところでしか二人を口寄せしていなかった。その結界も母さんが張ってくれる最高難度の術だ。例え、火影のじいさんだろうと破れないそんな術だと父さんと九尾が教えてくれた。
だけど、それも『ナルトの家の中に小さな結界を張れば、僕達を口寄せしても気付かれないんじゃないか?』という父さんの一言で、その日から俺は二人と仲良くこうして暮らしているってわけだ。母さんが、その時『もっと早く気付いてよミナト!』と言って父さんを困らせていたのは、良い思い出だ。
『今日は確か、アカデミーの卒業試験があるんだよな?』
「うん、今日で俺も下忍だってばよ父さん」
母さんが作ってくれた朝飯を食べながら父さんと話す。そうそう、あのサバイバル演習から4年も経っていたりするんだなこれが。いきなり進み過ぎだって?それは、あまり深く考えないでくれ。強いて言うなら…大人の事情ってヤツだ。んでまぁ、その4年の間にあった事は……いろいろだってばよ。それは後で話す事にして、いよいよ今日は待ちに待った卒業試験。
『ナルト、あんたの事だから大丈夫だとは思うけど、頑張ってきなさいよ』
「へへっ。大丈夫だってばよ母さん。俺ってば一発合格間違いなし!」
ドベ、バカ、落ちこぼれって俺を今まで馬鹿にしてきた奴らをびっくりさせてやるっての!と、内心で考えていたのが顔に出ていたらしく…。『加減はするんだよ』と、父さんに釘をさされた。
「分かってるって。少しだけびっくりさせてやるだけだよ」
『ほらほら、食べる手が止まってるわよ』
「はぁ〜い」
子どもっぽく笑いながら三人で仲良く母さんが作ってくれた朝飯を食べる。母さん…また腕上げたみたいだな。母さんの料理は日々美味くなっていくから凄い。本当に父さんは、いい人奥さんもらったよなぁ…。
そして朝飯を食べ終わり、原作で同じみオレンジ色のナルトの服にパパっと着替え、忍びの七つ道具っぽいモノを入れたポーチを腰に取り付けて、ドアを開けて一度家の方に振り返る。
「それじゃあ…行ってきますっ!」
『『行ってらっしゃい』』
っしゃ!いよいよ今日は、忍者としてのうずまきナルトの本当の意味での誕生だっ!
▼ ▼ ▼ ▼
アカデミーに着いた俺は、早速自分の席に座ってどんな試験問題がでるんだろう、と考えていた。確か原作では分身の術だった筈だが…。この世界では違う試験問題なんかねぇ。
「う〜す、調子はどうだナルト」
「ん?シカマルにチョウジか。何だよ、俺の心配か?」
左の方から声がしたので顔をそっちに向けてみると、シカマルとチョウジが近付いてきているのに気付く。シカマルはいつも通り怠そうに、チョウジもポテチの袋を片手にバリボリ食べている。シカマルもチョウジも、試験当日だってのにいつも通りか。
「あぁ…めんどくせぇけど、お前はダチだしな。助言くれぇはしてやろうと思ったんだよ」
「あはははッサンキューなシカマル。でも、こいつはその辺どうなんだ?」
そう言って横のチョウジを指すと、シカマルは「はぁ…」と溜め息を吐く。
「こいつも心配だって言ってるぞ。……たぶんな」
「ばくばく…」
「はは…チョウジもサンキュー」
「ばぐ…」
そんなこんなしていたら黒板側のドアを開けて、イルカ先生が入ってきた。いつ見てもカッコイイよなぁ…父さんみたいなビジュアル的なカッコよさじゃなくて、こう…内からくるカッコよさというか…。
「よーし、ちゃんとお前達全員いるな。それじゃこれから卒業試験を行う。試験内容は分身の術、呼ばれた者は一人ずつ隣の教室に来るように!」
イルカ先生のカッコよさに関する考察をしていたら、試験内容を伝えたイルカ先生は教室を出ていってしまう。でも、そこはイルカ先生。ドアに手を掛けた時、俺の方に顔を向けたと思ったら、『頑張れよ』と口だけを動かして言ってくれた。
…カッコ良過ぎるでしょイルカ先生。改めて惚れ直すってばよ!とと、それはさておき、試験は原作通りかぁ。なら、影分身三体くらい出せばいいか?こんくらいなら、下忍レベルって誤魔化せるだろ…たぶん。
「ひゃははは。ナルト〜分身の術だってよ、ついてねぇなぁお前」
「…五月蠅いぞキバ。だが、本当に大丈夫かナルト?」
イルカ先生が教室から出て直ぐに、キバとシノが口を開きながら俺の方に近寄って来た。キバは俺とヒナタが4年前のサバイバル演習の時に組になってから、生意気な態度を俺に取るようになった。これに関しちゃ、ただの嫉妬って分かってるから特に何とも思ってない。まぁ、シノが言うようにウザいんだけどな。
「お前って確か、分身の術苦手だったよな?」
「…僕兵糧丸持ってるから一つ食べる?チャクラ増やせばなんとかなるんじゃない?」
イルカ先生が教室に入って来た時に、自分達の席に戻っていたシカマルとチョウジの二人もなぜかまた俺のところに来た。はぁ……仕方ないとは言え、俺ってこいつらにも信用されてねぇんだな。
「……大丈夫だっての。俺ってば修行したし」
「お前が修行?」
「ひゃはははははっ。シノの言う通りだぜ。お前が修行したって言っても大したことねぇっての!」
「お前は言い過ぎなんだよキバ。…ナルト、本当に大丈夫なんだな?」
「おう!心配し過ぎだってのシカマル。チョウジも兵糧丸渡すか渡さないか迷ってんなら俺は大丈夫だから、お前が後で食べろって」
チョウジのさっきからの行動切なくて見てられねぇ。兵糧丸を俺に差し出しながら泣きそうになってんだぞ?そんな奴から貰っても後味悪いっての…。
「ま、試験が終わる頃ここにいる皆が受かってるといいな」
「勿論だ」
「当ったり前だぜ」
「だな」
「うん」
そんな感じで五人で駄弁っていたら、「次ぃ!うずまきナルトっ!」と、ドアの向こう側から俺を呼ぶ声が聞こえた。勿論、イルカ先生の声が。
「じゃ、行ってくるってばよ」
四人に後ろ手で手を振りながら、教室を出て隣の教室に入る。教室に入ってまず目に飛び込んできたのは、木ノ葉の額当てがズラッと並んだ長机。そして、その長机の後ろに黒板を背にしたイルカ先生とミズキ先生が椅子に座っている。…なんか、大学を受ける時にやった面接みたいだな。
「それではうずまきナルト、分身の術だ」
「はいっ」
へへ…びっくりさせてやるってばよ!イルカ先生。
≪影分身の術≫
バフンっ!そんな音と共に白煙が俺を覆い、その白煙が晴れると俺の周りに影分身が三体現れる。
「なっ!?」
「…ッ!?…」
お、びっくりしてるびっくりしてる。っくぅ〜痛快だ!!
「「「「イルカ先生、これでどうだってばよ?」」」」
4人の俺が笑みを浮かべながらそう言うと「あ、あぁ……うずまきナルト合格っ!」と、イルカ先生が額当てを俺に手渡してくれる。
それに「ありがとうだってばよ!」と返し、影分身を解く。ってか、隣のミズキめっちゃ睨んできてるなぁ。…ばぁか、原作通りに行くかっての!
「あのさ、あのさイルカ先生!俺ってば、この額当て大事にするってばよ!」
「あぁ…その額当てに恥じない立派な忍者になるんだぞ」
……やっぱりこの人めっちゃカッコいいなぁ。こんな人ばっかりなら俺は……父さんと母さんは……
試験を終えて教室を出ると隣の自分の教室に戻る。お、皆俺が受かったの見てびっくりしてやがる。へへっ受かると思ってなかたんだろお前ら。これが、本当の実力だっての。
「…合格したのかナルト」
「お前が合格したんなら楽勝だな。俺達は速攻受かってやろうぜ!赤丸!」
ワンワンッ!
「土壇場につえぇよなぁお前。ま、これで俺もチョウジも安心して試験受けれるわ」
「本当だよシカマル。これで、ナルトが受からなかった…いのに何されてたか……」
ははっ。こいつらが祝ってくれるだけで俺は救われる。でも、シカマルもチョウジもいのに何言われてたんだろうな。……聞いたら何かヤバそうだし、聞かないでおくか。
▼ ▼ ▼ ▼
午前中だけで同期の奴ら全員が試験を終えた。受かった奴、受からなかった奴それぞれいたが、概ね殆どの奴らが笑顔だった事から受かった者達が大半を占めた事は容易に想像できる。まぁ、受からなかった少数の奴らは、俺を馬鹿にする余裕があるなら自分を鍛えた方が良かったんでない?
等々考えつつ俺はというか俺達は、試験が終わると同時に屋上に上がり、いつものように駄弁っていた。
「ハハ!これで俺達もいっぱしの忍者だな。な、赤丸?」
ワンッ
「…まだ俺達は下忍になったばかりだ。そう浮かれていては足下を掬われるぞ」
「シノ〜お前はいつも冷静すぎんだよ。…でもよ、みんな受かって良かったな」
「本当だよ!僕緊張して危なかったけど、兵糧丸を食べてやったら出来て、合格にしてもらったんだから」
「ハハ…何気にチョウジが一番危なかったんだな」
今日は試験だけなので午後は休みなので、今日はいつもよりゆっくりと時間を過ごしていた。だがそれも長くは続かなかった。なぜなら……一人の台風娘がここに向かって凄い勢いで駆け上がって来ているのに気付いたからだ。
「あぁ〜ッ!あんた達ここにいたのね。探したじゃない!!」
「あぅあぅ……い、いのちゃん皆びっくりしてるよ?」
屋上のドアを蹴り破ったらしく凄い音を立てて背中まである金髪を揺らしながら、我らが誇る山中家の娘、山中いのがズカズカと俺達の下に近寄って来た。いのに引っ張られるようにして、綺麗な黒髪を肩の所で切りそろえた日向のお姫様も歩み寄ってくる。
「げ……お前、親父がいるからって校庭に行ったんじゃねぇのかよ」
「げって何よ、シカマル。パパはアンタのお父さんとチョウジのお父さんの二人と飲みに行くって言って、もう帰ったわよ。そ・れ・よ・りもナルトッ私合格したわよ。ほら額当て」
いのはシカマルにそう言うと俺の方にババッと近寄り、腰に巻いた額当てを見せてきた。額当てを腰にって……斬新だな、いの。
あとよ…そんなに近づけなくても見えるから。って、あの三家のおっさん達も元気だなぁ〜昼間っから酒飲むのかよ。父さんがもしそんな事したら、母さん怒るだろうなぁ…。
「ナルトも受かってるみたいだし、私達一緒の班になれれ「ナルト君!」……良いところなのにッ」
俺に詰め寄って来ていたいのを横にズラして、今度はヒナタがグイっと詰め寄ってきた。ヒナタも変わったよなぁ…前に出てこれるようになって、良かった良かった。
「わわわ、私も受かったんだよ。ナルト君もその……おめでとう」
「ありがとな。ヒナタもおめでとう」
「う、うん。ありがとっ」
真っ赤になって俯いてしまうヒナタ。たぶんって思うのも変だけど……ヒナタって俺に惚れてるんだよな。俺は原作を読んでいる時からヒナタが好きだったからもしそうだったらめっちゃ嬉しい。……けどなぁ…たぶんだけど、いのの奴も俺に惚れてるみたいなんだよなぁ…。
原作どこにいった!!って正直思ったけど、今はこの微妙な感じを維持しようかなって思ってる。いやさぁ、俺達ってまだ12、13っていうまだまだガキな訳だし、付き合う付き合わないって考える事自体早過ぎると思うわけ。精神がおっさんの俺も体自体は同年齢な訳だし、モラル的になんの問題ない筈。……ないよな?
「いのも、おめでとう。これで本当に全員受かったな」
「ふ、ふん。ありがと…」
ヒナタに邪魔されてムクれていたいののご機嫌を取るのも忘れない。忘れたら、シカマルかチョウジのどちらかが後で酷い仕打ちを受けるらしいからな。……シカマルが頭を下げてまで頼みにきた時は、まじでわるいと思っちまったし。
その時の事を思い出してシカマルの方に顔を向けてみると、いのから距離を取ってシノと話をしていた。チョウジが菓子食べるのに夢中になってるからなぁ…ま、何だかんだ言って頭が良い者同士、気が合うみたいだしなあの二人。
残ったキバの奴は…一生懸命ヒナタに話しかけようとしているが、ヒナタはまだ恥ずかしがっているからあれは聞こえてないな……キバどんまい。誰か違う人が見つかるさ、きっと。
それから、俺達はいのとヒナタが作って来ていた弁当(重箱って…)を食べてから遊びに出掛け夕方に解散した。飯を食べる前に菓子を食べていたチョウジが一番多く食べたのは言うまでもないな。
▼ ▼ ▼ ▼
ヒナタ達特製の弁当を食べ終わった後、俺は皆と別れて里の外れにある森へと来ていた。今来た森だがいつも修行に使ってる場所ではない。ここは原作の最初に出て来るあの森。
結構奥まで来たし…ここらでいいか。さてと…。
「どうしたんですかミズキ先生。俺に何か用ですか?」
屋上で俺達が駄弁っていた時から俺がここに来るまで、あんたが俺をつけて来た事は分かってんだよねぇ。ストーカーするならバレずにしないと駄目でしょ。仮りにもあんた中忍なんだしさ。
「やぁナルト君。君をちょっと前に見かけてね。森の方に行くからどうしたのかと思ってついてきたんだよ」
俺の後ろ約5mくらいの所に現れるミズキ。任務でもないのにそんなにガッチリ装備してそんな事言っても説得力ないっての。たぶん原作みたいに俺が試験に受からないと思ってたから焦ってんだろうけど。…それでよく中忍になれたよなホント。
「嘘はいけないってばよミズキ先生。俺気付いてたんですよ?屋上から今までアンタが俺の事見てたのを」
「………」
「最初から怪しかったんだよねぇ。アンタってば俺の事、試験の時に睨んでたしさ。何か仕掛けて来るのかなって思って一応警戒してたんだけど……正直期待外れだってばよ」
期待外れもいいとこだよなぁ。原作と違って一発合格したから、どうなんのかなぁって結構期待してたのに。…やっぱり所詮はミズキって事か。原作ではあれ以降一度も出ない使い捨てキャラだったけど、アニメでは復讐の為にイルカ先生襲うっていうイベント起こしてたから、何かやるのかなって思ってたんだけどねぇ。
「へぇ、気付いてたんだ。イルカ先生にも気付かれてなかったんだけどなぁ…」
「あぁイルカ先生は俺の分身の術にびっくりしてたから気付かなかったんだろ。ほら、俺ってドべで落ちこぼれ忍者だし」
「……君の分身の術には僕も驚いたよ。まさか落ちこぼれの君が、禁術指定の影分身を使うとは…とね」
ふん。好きで失敗してたんじゃねぇっての。あぁでもしなきゃ、平和に暮らせねぇからな。暗部とか上忍が殺しにやって来るより、一般の大人に殴られたり、同期のやつらに悪口言われてた方が絶対マシだ。
「だけど、君自身の事はこの際どうでもいいんだ。僕が知りたいのは君が持っている筈の禁術の巻物の事なんだよね。…教えてくれるよね?」
あぁ、成る程。こいつ、俺が火影のじいさんのとこから巻物盗んで勝手に使ってるって思ってんのか。確かに多重影分身って禁術みたいだし。でも、原作でほとんどの奴使ってるよな?あれは何も言われないんだろうか?
「無視か………ハァっ!」
おそらく待つ事を知らない大人なんだろう。俺が考え事をしていたら、ミズキは背中に装備していたでっかい手裏剣の二枚の内一枚を俺に向かって投げてきやがった。
「あっぶね〜」
ぴょんっと、その場で飛び跳ねて手裏剣を避ける。当たったら痛そうだし。ヒュンヒュンと音を立てながら、でっかい手裏剣はブーメランのようにミズキの手元に戻っていった。……あの手裏剣ちょっとだけ欲しいって思った俺って負け?
「チッ!避けてんじゃねぇよガキがッ!」
「いやいや、普通避けるでしょ。んで何?もしかしてアンタ俺を殺す気?」
たぶんだけど俺を殺して、どこかにあるだろう巻物を探す気なんだろうな。ってか、俺を殺すとか無理だっての。実力を測れない頭悪い奴ってやだねぇ。
「お前を殺しても里の者は誰も悲しまねぇから安心しろ。だから、気にせずあの世に行きなぁっ!!」
うわ……ミズキの顔やば。あれでアカデミーの女の先生達にモテてんだから不思議だよなぁ。絶対イルカ先生の方がカッコいいっての。
今度はクナイと普通の手裏剣同時に投げてくるミズキ。アカデミー卒業したばっかの奴ならこれで殺られるんだろうけど、俺には効かない。ま、サスケとかシノとかにも効かないだろうけどねぇ。
と、そんな事を考える余裕のある俺は向かってくるクナイと手裏剣を弾く為、クナイを取りだそうとしたその時、誰かが俺の前に飛び出してきた。
いや誰かってのは分かってるんだけど……途中から俺っていうかミズキの後をつけて来てくれたしね。でも、何も飛び出さなくても…。
「…ミズキ、生徒相手に何やってんだ?」
「イルカ!?」
イルカ先生、何も体で受け止めなくても…。絶対痛いでしょそれ。だけど、やっぱりこの人は俺を助けてくれた。それだけで嬉しくなっちまうんだから、俺も大概だな。
「もう大丈夫だぞナルト。俺が助けてやるからな」
「ふん。お前が来たところで何も変わんねぇよ。……ッ!……ククク…」
ミズキが突然笑い出した。………気持ちワル。
「ナルト俺から離れるなよ。あいつに隙が出来たら逃げるんだ、いいな!」
「…分かったってばよイルカ先生」
「クハハハハハッ。待てよ、今余興を思いついたんだ。ナルトぉ!何でお前が里の皆に毛嫌いされていたか知りたくないか?」
「ッ!よせミズキ!それだけは言ってはだめだ!」
…なぁんだ。余興っていうからどんなもんかと思えば…。原作通りナルトが九尾の器って事をばらすだけかよ。俺ははじめっから知ってるから今さらだし、九尾とはもう仲良しだしな。正直拍子抜けだな。ま、聞くだけ聞いてやるか。
「12年前の化け狐を封印した事件を知っているな?」
「ミズキお前ぇ!」
イルカ先生はさっき受けたクナイと手裏剣の傷が痛くて体が動かないみたい。クナイで弾くとかしておけば良かったのに〜。
「あの事件以来、里では徹底したある掟が作られた。だがな、ナルト。それはお前にだけは決して知らされることのない掟だ」
九尾が暴走したら〜とか考えたんだろうねぇ、里の上層部ってば。でも、余計なお世話だよなぁ。父さんも母さんもそんな事願って俺に九尾を封印したわけじゃないし。
「ククククク……それはなぁナルト、お前の正体が化け狐だと口にしない掟だッ」
「やめろぉッ!!」
大丈夫だよイルカ先生。俺は勿論、九尾も父さんも母さんも今じゃもう楽しく生活してるんだから。イルカ先生のご両親については、本当にごめんなさい。だけど、九尾も暴れたくて暴れたわけじゃないんだよ。暁っていうか、マダラが全部悪い。
「つまりお前が、イルカの両親を殺し、里を壊滅させた九尾の妖狐なんだよぉ!」
「ミズキそれ以上言うなぁ!!」
ミズキってば興に乗ってきたっぽいな熱くなってきたみたいだ。酷かった顔をもっと酷くして、唾を撒き散らしながら喋る喋る。汚ぇから唾飛ばすなっての。唾って確か4mくらい飛ぶんじゃなかったっけ?
「お前は憧れの火影に封印された挙げ句、里の皆に騙されていたんだよぉっ!」
「グフッ!」
イルカ先生が血を吐いた。早く病院に連れてってやらないと。
「イルカも本当はな、お前が憎いんだよ!」
ミズキが手に持っていたでっかい手裏剣を投げるモーションに入った。そんなに大きなモーションじゃ簡単に避けれるって。
「お前なんか誰も認めやしないんだよぉ!!」
ギュン!!大きなモーションからの投擲される手裏剣は、そりゃあ威力はあるだろうけどさ。
そんな事を冷静に考えているとイルカ先生がまた飛び込んできた。…って!イルカ先生止めなって!背中とか絶対痛いから!
ザク!!と音がして、イルカ先生の背中に突き刺さる筈だった手裏剣は、白い煙共を立てて出現した丸太に突き刺さる。
「!!」
「イルカ先生、危ない事しちゃ駄目だって。これ以上怪我したら、入院しちゃうかもしれないし」
「な、ナルト…お前……」
俺はびっくりしているイルカ先生に肩を貸して木の枝の上に移動している。ま、簡単な話。変わり身の術をイルカ先生を抱えてやっただけだ。
「簡単に死のうとしちゃ駄目でしょ?俺知ってるんだよ〜イルカ先生ってば一楽のアヤメさんと良い感じなの。でも、一楽のおっちゃんアヤメさんの事溺愛してるから、奪うなら死力を尽くさないとね」
「な、ナルト!それをどこで!?というか、アヤメさんのお義父さんって強いのか……」
「へへへ。だからさ、先生は無理しちゃ駄目なんだって。後は俺がやるから、休んでてよ。あ、ちょっと下に降りるからしっかり捕まってて」
木の枝から飛び降りて、イルカ先生を木にもたれさせるようにして座らせる。
「ナルト…お前……」
「いいからいいから」
「貴様ぁ!一体何をしやがったぁ!!」
「何って、アカデミーで覚える忍術の基礎の基礎、変わり身の術に決まってんだろ。先生やってたのに分かんねぇの?」
ミズキの顔を見るだけで、ムカムカしてくる。イルカ先生に怪我させたのは勿論だけど、九尾の事を馬鹿にしたんだ……半殺し決定だな。
「変わり身の術をお前が…落ちこぼれのお前が!あんなにタイミング良く出来る訳がねぇ!!」
ミズキが何か吠えてるがもう聞く耳持たんよ〜。バキバキと手の指を鳴らしながら、ミズキに近付いていく。
「さぁて……覚悟はいいか?」
「くそがぁああああああ!!」
苦し紛れに背中に装備していた残った一枚のでっかい手裏剣を手に持って俺をぶっ叩きに来たが、それを左手の人差し指と中指で受け止める。どっかの流浪の剣客さんの弟分が極めた真剣白羽どり。
手裏剣が少しも動かない事に焦りだしたミズキを無視して、右の掌に瞬時に螺旋丸を作りあげミズキの腹にぶち当てる。
ギュルルルルルルルッと回転して、後ろにあった木にぶつかるミズキ。物足りないけど、これ以上はなしかね。あいつが死んじまうし。
「ナルト……」
「イルカ先生!」
「!な、なんだ?」
急に大きな声を上げた俺にびっくりしたイルカ先生。目をあんなに大きくしちゃって、ぷぷ、おもしろ。
「下忍になって初めての討伐任務、達成だってばよっ!」
ピースサインつきの笑顔でイルカ先生に顔を向ける。任務なんて受けてないけど、そこは気分だ気分。
「…………あぁ、任務達成だ。よくやったなナルト」
イルカ先生も笑顔。へへ。なんか照れくさいな。認めてる人に認めてもらうのって。
あとがき
第一、二、三話、そしてこの話と加筆修正しています。これからの話も加筆修正していきますので、更新が遅くなるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m