ヒッヒッフー、ヒッヒッフー…………ん?あぁ、うずまきナルトです。俺達第七班は今視界を遮るくらいすっげぇ濃い霧が発生している大きな川を、小船に乗って渡っている最中だ。
んで、周りを見てみるけどホントに何にも見えない。分かりやすい例えでいくと、登山した時に発生する霧の2倍くらい。これで分からないなら、俺には説明のしようがない。そして、この濃い霧よりも俺をゲンナリさせている要因なのが……。
「こら、ちゃんと漕げガキども!これじゃあ岸にいつ着くか分からねぇぞー」
このおっさんに反省の色が全くない事だ。しかも、エンジン搭載の小船なのに俺とサスケが漕いでるとか………一回ボコルかな、割と本気で。
しかも、気付いたか?こっちでは、ヒッヒッフーってのが舟漕ぐ時に発する言葉なんだってよ。これって、妊婦が赤ちゃん産む時に言う言葉じゃなかったか?「俺妊婦じゃねぇし」とか、「何でそんな事言わなくちゃならねぇんだよっ」とか、「1・2・3じゃ駄目なん?」とか言ったけど、皆こいつ何言ってんだ?っていう目で見るだけで、誰も助けてくれなかった。マジでこの班嫌なんだけど…。
てか、なんて最悪な任務なんだ……。後で知った事だけど、こっちでは妊婦が赤ちゃんを産む時に発する言葉ってのは、フッフッハーって言うんだそうだ。何で笑い声っぽい声出なんだよぉおおおおおお!!って俺が心から叫ぶ事になるのはもう少し先の話しだったりする。
と、何はともあれ川を渡るのに結構な時間が掛かったわけだが、ようやく向こう岸に着いた。はぁ……精神的に疲れたな。サスケを見てみると下を向いて歩いてる。お互い頑張ったなぁ。俺のその思いが届いたのか、サスケも苦笑を浮かべて俺を見てきた。俺、お前と友達になれっかもな………。
俺がそんな事を考えていると、サスケの隣でサクラが話しかけているのに気付いた。サクラ、今はサスケをそっとしておいてやれって……。疲れてる時にそんなに五月蠅くしたら絶対逆効果だぞ。それに気付かないようじゃはサクラに春は来ねぇだろうな。
「護衛頼むぞっ!ガハハハハっ」と、おっさんが騒いでるけど無視。カカシも無視してるみたいだし、別にいいでしょ。けど、マジな話。芝居とかじゃなくて本当にこの任務辞めてぇんだけど。
そんなこんなで適当に整備された道を歩いていると、やっと視界が晴れてきた。サスケも回復したらしく、カカシに倣って周囲を警戒しながら歩いている。そんな俺達を他所にサクラはおっさんと何か話をしていた。原作じゃナルトと無駄話してた気がするが、俺がこんなだからな。
いやさ、ぶっちゃけサクラにどういう風に接していいか、わかんねぇんだよな。まだ、俺の事をあのムカつく目で見て来る時あっからなぁ……。ま、その度に無駄に広いに額にデコピン喰らわせてるけど…。
あぁ……早く桃地出てこねぇかなぁ………。
▼ ▼ ▼ ▼
歩く事数時間、今は木々が隣接している道を黙々と歩いている。ん?お、やっと出てきたかな。知らないチャクラの波動が近付いてきたから、きっと桃地だろ。ま、桃地じゃなかったらそれはそれで良いか。ここまで来るのに溜まったイライラ全部まとめてそいつにぶつけてやろっと。
「カカシ先生〜」
「ん?どうしたナルト。トイレならそこらでやっていいぞ」
「ちょ、ナルトっ!ここには『女の子』もいるんだから、少しは考えなさいよねっ!」
違うってのっ!暗部出てから平和ボケしたのか?カカシの奴気付いてねぇし。それとも、俺のチャクラ察知能力がカカシより高いからか?ま、九尾のおかげで他人よりもチャクラに敏感なだけなんだけど。
「それにしても遠いですね。まだその町は見えないんですかタズナさん?」
「もう少し行けば見えてくるじゃろう。町に着いたらわしの家で休んでいけばいい!疲れが取れなかったら、一晩でも二晩でも休んで行っていいぞ!ガハハハハっ」
それは、休ませてやるから護衛の任務をもう少し続けろって事か?ホント…このおっさん反省の色がねぇな。って、んな事よりマジでカカシ気付かねぇし。そんくらい隠遁の術が上手いって証拠か。
「…カカシ先生、あそこに何か見えるってばよ」
「ん?町が見えてき……ッ!皆、伏せろっ!!」
ビュンビュン………。
そんな音を鳴らしながら鉄の塊が回転して飛んできた。あれって首斬り包丁だよな?って事はやっぱり桃地だったんだ。とそんな事を考えていたら、カカシがおっさんを引っ張って倒し、サスケとサクラがその場に伏せているのが目に入ってきたので急いで俺も伏せた。
伏せた直ぐ後にズザッていう音がしたから木に刺さったのかなぁって思って頭を上げてみたら、案の定、俺達の後ろにあった木に首斬り包丁が突き刺さっているのが見えた。……あれ欲しいなぁ。
そして、首切り包丁の幅広の刃の上には痩身だけど引き締まっていて、上半身裸の怪しげな男。「桃地再不斬」が腕を組んでこっちを睨んでいるのに気付いた。
うわぁ………生で桃地見れたのはめっちゃ嬉しいんだけど…顔恐すぎだろ。でもま、友達にはなりたいな。
「へぇ〜これはこれは霧隠れの上忍、桃地再不斬君じゃないですか」
カカシが立ち上がりながら軽口を叩くけど、顔と体の動きでマジさが伝わってくる。桃地ってやっぱり強いんだなぁ。原作でミズキの次に出てきた敵キャラ?だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、もう少し引っ張って欲しかったってのが俺の本音。ま、良いキャラを潰していくのが良い漫画って事なのかもな。よく知らねぇけど。
俺が関係ない事をつらつら考えていたら、サクラとサスケは桃地の殺気にあてられて震えてるのに気付いた。まぁこの殺気は下忍にはキツいかなぁ。あ、おっさんは当然腰抜かして、二人よりも酷い状態だ。……下忍二人が使えないって事は、俺がカカシのサポートを一人でやらないといけないのか。ま、戦ってみたかったから万事OKだな。
「下ってろよお前達、こいつはさっきの奴らとは桁が違う。こいつが相手だと、俺もこのままじゃちょっとキツいな……」
おっ!ついにカカシの写輪眼お披露目じゃん!こん時のカカシってばカッコ良いんだよなぁ!単行本読んでた時、カカシの株が上がった事思い出すわぁ。
「写輪眼のカカシか………悪いがお前に用はない。そこのじじいを渡してもらおうか」
「お前達、卍の陣でタズナさんを守れ。それからナルト……お前がさっきからウズウズしているのは分かっているが、こればっかりはお前にはまだ早い。ここは俺に任せておけ」
えぇ〜カカシぃそれはないっしょ〜〜。俺にこいつらのお守でもしてろってのかよぉ。サスケとサクラも何か言いたい事があるみてぇだけど、カカシの雰囲気がそれを許さなかった。
「それは出来ない相談だ。…再不斬、まずは俺と戦え」
「……渡す気はないようだな。だが、噂の写輪眼をこの目で見れるなら幸運だと思っておくか」
桃地が恐い顔に笑みを浮かべるから、更におっかない顔になった。桃地、お願いだからこれ以上笑わないでくれ、サクラが失禁しそうだ。
そんなサクラを無視して、カカシは斜めに掛けていた額当てを水平に戻し、隠していた左目を曝け出しゆっくりと開いた。紅い瞳の中に三匹のおたまじゃくし……マジもんの写輪眼だ。それを横から見ながら、うわぁ…かっけぇと呟く俺は素でガキだったと後で後悔するんだと思う。
と、俺が生の写輪眼に見とれている間に、カカシが写輪眼の事を説明してたみたいだ。ま、聞かなくても分かってる事だし別にいいかね。
「話はこれくらいでいいか。俺はさっさとそこのじじいを殺らなくちゃなんねぇからよ」
桃地がそう言ったと思った時には、首斬り包丁から飛び降りていた。勿論、降りる時には首切り包丁というイカス得物を回収して。
木の上から川の上に飛び降りて、桃地が印を組んでいく。行使される術は≪霧隠れの術≫。また、視界がゼロになっちまったなぁ。けど、桃地が水分身と入れ替わって奥の方に引っ込んだのはチャクラの反応から分かった。目に頼らずにチャクラの反応で戦う忍びには、あんま意味ないと思うんだよなぁ。
でもま、それ以外の忍びには確実に効果はあるんだし、一概に意味ないなんて言えないか。現にサクラは必死に頭を左右に振ってるし、サスケは悔しそうに顔を顰めている。サクラは兎も角、サスケは将来的には写輪眼で色々見破る事が出来るから、そう悔しがらなくてもいいのにな。…本当、写輪眼ってチートだわ。
「……あいつがまず最初に狙うのは俺だろう。だが桃地再不斬、こいつは霧隠れの暗部で無音殺人術の達人として知られた男だ。気がついたらあの世だったなんてことになりかねない……。俺も写輪眼を全て上手く使いこなせるわけじゃない。お前たちも気を抜くな!」
『八か所だ』
コレがあの無音殺人術ねぇ……本当に無音で殺りたかったら、声は出さない方がいいと思うんだけどなぁ。桃地の奴、カカシの他が下忍だからって嘗めてんだろうなぁ。油断大敵って四字熟語教えてやろっと。
『咽頭、脊柱、頚動脈に鎖骨下動脈。腎臓、心臓……さて、どの急所がいい?ククク……』
おうおう、笑ってられんのも今の内だけだからなぁ桃地ィ。カカシが捕まったら泣かしちゃるッ。
「安心しろサスケ。お前達は俺が死んでも守ってやる」
その笑顔で安心出来るのはこの二人だけだぞ〜カカシ。俺は『アンタ』が水分身だって分かってるし、このちょっと後にあっけなく捕まるのも分かってるからな。
「俺の仲間は絶対に殺させやしない」
イルカ先生ぇ俺ってば今一番先生に会いたいってばよ。この任務が終わったら、一緒に一楽のラーメン食べに行こうね。
『それは、どうかな……』
と、そんなこんなしてる間に、カカシが桃地の持つ首切り包丁によって斜めに斬り裂かれた。その光景を間近で見ていたサスケ、サクラ、おっさんの三人は怯えと驚愕の入り混じった表情を顔に浮かべている。
「終わりだ、カカシ……何!?」
桃地は殺ったと思っていたようだけど、当の斬られたカカシがバシャッという音を出し、水になって辺りに飛び散った事に目を見開き、動きを止めて自分の首に突き付けられたクナイを横目で見やる。って、俺の目には水分身同士で茶番を演じているようにしか見えません。カカシも桃地も真剣だから、尚更なぁ……。
「水分身の術だと……まさか霧隠れの術の時には既にコピーしてたってのか!」
霧隠れの術を桃地が行使したその瞬間、カカシが印を組んで水分身を出すとその場に残して、そこの藪の中に隠れるのを俺は見ていた。でも、カカシもちょっと甘いよなぁ。いくら写輪眼でコピー出来るって言っても、水遁系の術で霧隠れ出身の桃地に勝てるわけねぇじゃん。ま、カカシが写輪眼の力を100%使いこなせてたら違ってたかもしれないけど。
「動くな……これで終わりだ」
「さっすがカカシ先生っ!先生ならやってくれるって信じてたッ!」
そんな事言ってないで、警戒を解くなよ馬鹿サクラ!サスケ!お前も口に笑み浮かべてないで、もう少し周りの空気を感じろっての。忍びは裏の裏を読むべしって忘れんなよ。
「ククク……終わりだと?分かってねぇなカカシ。猿真似如きじゃあこの俺様は倒せない……絶対になッ!しかし、やるじゃねぇか。分身の方に如何にもらしい台詞を喋らせる事で俺の注意を完全にそっちに引きつけ、本体はそこの藪の中に隠れて俺の動きを窺っていたって寸法か」
桃地がカカシを称賛する。だがそれが、負けを認めた奴の態度じゃない事はサクラにサスケ、おっさんにも分かったみたいだ。三人は緩めた警戒を再度張る。はじめっからそうしておけよ、この馬鹿。
「けどな……俺もそう甘かねぇんだよっ!」
さっきのカカシと同じように桃地も水となって虚空に消える。そして今度は桃地がカカシの後ろに回り込み、首斬り包丁を横に薙いだ。
「ック……」
カカシはそれを自分が培ってきた戦場の勘だけで、しゃがんで避ける。だがそこに桃地の蹴りが襲いかかり、体勢が崩れているカカシにそれを避ける事は出来る筈もなく、両手をクロスさせてそれを防ぎはしたが、衝撃を殺すことは出来ずにそのまま水の中に吹き飛んでいった。
あ〜あぁ、カカシの奴捕まってやんの。俺がそう思った時には、カカシは既に桃地の水牢の術で捕らわれていた。全く…何が、『俺に任せとけ』だよ。原作通りに捕まってるし。原作と同じになんのかなぁとは思ってたけど、ここまで同じになるとは思わなかったわ。
「しまった!?」
「…ハマったな。脱出不可能の特製牢獄だ……お前に動かれるとやりにくいんでな」
≪水分身の術≫
「カカシ、お前との決着は後回しだ。まずはあいつらを片付けさせてもらうぜ」
って事でやっと俺の出番かな?ググッと腕を前に伸ばして、体をリラックスさせる。視界の端に、桃地の水分身がこっちに向かってくるのが映る。サスケ達の「おいドべ!」「ナルト!」等の言葉を無視して、桃地の水分身に向かって歩いていく。
「額当てまでつけて忍者気取りか?だがな、本当の忍者ってのはいくつもの死線を乗り越えた奴の事を言うんだよ。つまり、俺様の手配書に載る程度になって初めて忍者と呼べる。お前らみたいのは忍者とは言わねぇよ」
桃地の水分身がクナイを抜き、逆手に持ったそれを俺に向かって振り下ろしてきた。俺はそれにカウンターを合わせ、風遁を纏わせたクナイでそいつを斬り裂いた。水になって飛び散る桃地の水分身。その向こう側で目を見開いている桃地とカカシ、後ろの方で声が出せないでいる同じ班の二人に聞こえるように口を開いた。
「なら今度からあんたの手配書に載せといて。木ノ葉の下忍、うずまきナルトをね」
▼ ▼ ▼ ▼
私は自分の目がおかしくなったと思った。だって…カカシ先生でも勝てなかった相手を、ナルトが……あのドベで落ちこぼれのナルトが……例え水分身だとしても、あいつを一瞬で倒したんだもん……。
「ほぅ………確かにお前は、その二人とは違うみたいだ」
再不斬って人が、ナルトだけを見ているのに気付く。何で?ナルトってこんなに強かったの?なら私達がこいつをバカにしてたのって……何だったの?
「ま、それはいいじゃん。それより勝負だってばよ!」
ナルトは逆手にクナイを持って、再不斬って人に向かって行った。でも、私にはナルトの動きが見えなかった。だって、気付いたら再不斬と戦ってたんだもん。
「ガキがッ!!」
カカシ先生を捕まえるために左手を使えない再不斬は、ナルトの攻撃でどんどん傷ついていく。ナルトはクナイだけで攻撃してるけど、あんな早くて鋭い攻撃…片手じゃ絶対に無理なのは私にだって分かる。再不斬もそう思ったんだと思う。だって、いつの間にか左手を使ってたんだもん。
「ナルト!もういいぞ!」
「チィッ!」
「そりゃないってカカシ先生。今は俺が勝負してるんだからさ」
何言ってんのよナルト!カカシ先生が脱出したんだから後は任せればいいじゃないっ!
「ナルト……」
「え?」
サスケ君がナルトの名前を悔しそうな顔を浮かべて口にした。何で?どうして?私の名前は一度も言ってくれた事がないのに……何で、あいつの名前をそんな顔で言うの?ねぇ……どうして………。
▼ ▼ ▼ ▼
2週間前の演習の時にドベ、いや『ナルト』が強さを隠していた事に俺は気付いた。俺が手も足も出なかったカカシに勝てはしないまでも、互角に戦っていたからだ。
俺はアカデミーじゃ座学も実技も、他の奴らに負けた事はなかった。だから、俺は天狗になっていたんだと思う。それをカカシに……他でもない『ナルト』に折られた。はじめは悔しくて、憎くて仕方なかったが、あいつらは自分の強さを鼻にかける事はしなかった。
俺が今までやって来た事とは真逆の存在。いつの間にか俺はナルトの背中を見るようになっていた。なぜそんなにも強いのに落ちこぼれの振りをしていたのか、その強さはどうやって手に入れたのか、お前をバカにしていた俺を憎んではいないのか、いろんな事を考えながらその背中を見ていた。
だが、それも2週間という時間が経っても分かる事はなかった。そして今、俺が見ているナルトの背中は今まで見てきたどの『ナルトの背中』でもなかった。
戦う事を求め、それを心の底から楽しんでいる…そんな背中。それは子どもが遊びに夢中になっているような、そんなモノなのかもしれない。俺は体が震えた。恐怖でも、寒さでもない。それは、武者震い。俺はこいつと戦ってみたい。きっと、勝てはしないだろうが、勝ち負けじゃない何か違うものを得る事が出来る、そんな気がした。
ナルトはカカシの言葉を無視して、敵を追い込んでいく。敵が術を行使するのに必要な印を組む事が出来ない早さでクナイを薙ぎ、突き、振り降ろし、切り上げ、時には蹴りを放つ。
下忍のそれじゃない動き。カカシもそれ以上言うことはせず、ナルトと敵を見続ける。俺は、クソじじいを守るために前に出る。ウザい女は何かを言っているがそんなもの聞いている暇はない。今はこの戦いを一秒でも長く見続け、警戒を解かない事。それが今、俺がするべき事だと断言出来る。
敵の殺気にやられた俺をナルトは馬鹿にも、心配もしなかった。あいつは、はじめからあの敵と戦うことしか考えていなかったんだ。俺はビビってしまったってのに………クソッ!俺は絶対にお前以上に強くなる。だから、こんな事でビビってらんねぇんだよッ!次は俺が……俺の背中をお前に見せてやるからなッ!
▼ ▼ ▼ ▼
ブルッ……なんか後ろから変な視線が来たような気が……。こんな時に誰だ?またサクラがあの目で見てるのか?ッとと…。
「フンッ!戦いの最中に考え事か?本当にお前は変な奴だ、よッ!!」
桃地の長い手がフックとなって俺の頭に迫ってくるけど、それをスウェーで避けて軽口を叩く。
「変な奴ってのは初めて言われたってばよ」
フックを避けざまに、蹴りを桃地の脇腹に喰らわせて距離を開ける。体術はこれくらいで後は忍術の勝負で決めるか。
「ハァ……ハァ……ガキ相手に何てザマだ…。次の一撃で終わらせてやる!!」
「体術の次は忍術で勝負しない?新術試したかったんだよね俺ってば」
「ククク……本当に変な奴だな。この俺相手に新術の試し打ちとは……カカシ、お前は邪魔するな。これは俺とこいつの戦いだ!」
桃地の言葉で気付いたけど、カカシが千鳥を発動して桃地の後ろにいた。って、俺も気付かなかったよ。いやぁ、戦闘に夢中になるのも考えもんだな。反省反省。
『実力がある故の余裕なのかもしれぬが、お前は調子に乗りやすい。それを直さなければ何時か手痛いしっぺ返しを喰らう事になるぞ』
ん〜了解だってばよ。でもさ、こんなに面白い勝負って初めてだから、浮かれちゃうのも仕方なくね?父さんと母さん、九尾とは組手してたけど、こんなに強い奴と手加減なしでやれるなんて、贅沢中の贅沢だと思うんだよ。
『……はぁ…親の心子知らずとはこの事か。ナルト、お前がもしそれで失敗したとしても、わしが助けてやる。だから、お前はお前の好きなようにしろ』
さんきゅ、九尾。お前ってば最高の相棒だってばよ。
『フンッ……全く、調子の良い奴だ』
九尾との会話をそれで終わらせ、桃地の後ろで千鳥を構えているカカシに向かって口を開く。
「先生、この人の言う通りだってばよ。この人とは俺が決着をつける」
カカシは俺と桃地を交互に見て、溜息を吐いてから千鳥を止めた。そんなに呆れんなよカカシ。戦闘狂ってヤツじゃないんだからさ。
「分かった。だが、死ぬなよナルト。絶対にだ」
「分かってるよカカシ先生」
桃地も待ってくれてるし、勝負つけるかな。それに、向こうに白もいるみたいだし、これが終わったら二人と仲良くなろっと。俺とカカシの話しが終わったのを見計らい、桃地と同時に印を組んでいく。桃地のスピードに合わせてやるのが、さっき待ってもらったお返しかな。
≪水遁・水龍弾≫
≪水遁・激流弾≫
桃地の水龍と俺の激流がぶつかり合い、そこら一帯を『水』が跋扈する。術の強さ自体は俺の方が強いみたいだ。チャクラを込めればどんな術でも強くなるんだけどさ。桃地の水龍を俺の激流が押し返し、水龍を含んだ激流が桃地を襲う。
「次行くぜッ」
≪風遁・カマイタチ改ッ!!≫
「グァ……」
激流を巻き込んで風の刃は水の刃へと変わり、桃地を四方八方から切り裂いていく。……大丈夫だよな桃地の奴。
水を巻き込んだカマイタチが消失し視界が晴れてきたので周りに目を走らせてみると、俺と桃地が戦った場所は台風が通った後みたいになっていた。あははは……調子に乗り過ぎたかな?で、でも、そんな事よりまずは桃地だ。桃地が倒れていると思われる場所に瞬身の術で移動する。チャクラの反応が弱くなってるなぁ……マジで大丈夫か?
瞬身の術で移動した場所には木に背を預けてぐったりしている桃地がいた。ぐったりはしてるけど、四肢は繋がったままだし傷も見た目と違って深いものないし大丈夫だな。桃地の体の確認も終わったし、白がいる場所に向かうか。桃地を肩に担いで瞬身の術で移動っとその前に、影分身を残していかないとな。影分身の術の印を瞬時に組み、影分身を一体顕現させる。
「お前はカカシ達が来たら、桃地は俺との戦闘の最中に退いたので俺はそれを追ってここまで来た、って伝えといて。後、俺が戻るまではそのままあいつらと一緒に行動してろ」
「わかったってばよ」
影分身を残して、今度こそ瞬身の術で移動。カカシはサスケ達の所に向かったみたいだし、影分身と接触してもあいつらがそれに気付くことはないと思う……たぶん。写輪眼で気付かれるだろって?いやいや、少しとは言っても、カカシの奴は写輪眼を使ったんだ。その疲れで写輪眼は出せないって……たぶんな。
とと、んな事考えてたら、着いたな。
「よ、お前ってばこの人の仲間だろ?」
「……………」
▼ ▼ ▼ ▼
僕は再不斬さんの戦いを離れた場所から見ていました。はじめの方は良かった。再不斬さんの方に戦況が傾いていましたから。でもカカシという木ノ葉の上忍を無力化し、いざ暗殺対象を殺るとなった時に、彼が動いた事で一気におかしくなったんです。
彼は僕と同じくらいの年だと思いますが……信じられない事に再不斬さんを追い込み、あろうことかあの再不斬さんを倒してしまいました。………ッ呆けている場合じゃありません!再不斬さんを助けなくては!と、僕が駈け出そうとしたその時、彼が再不斬さんを肩に背負った状態で僕の目の前に現れました。
「よ、お前ってばこの人の仲間だろ?」
「……………」
あそこからここまで来るのに、どうやっても直ぐには来れない距離……。どうやって、彼は移動してきたのでしょう。そもそも、僕がここにいる事がバレていたという事でしょうか?
……僕が慌てていたとしても、僕に気取られない速さも然ることながら、さっきまで再不斬さんと戦闘を繰り広げていた筈なのに……。
と、彼は僕が警戒していると分かったんでしょう。彼は再不斬さんをその場に置いて5mくらい僕から離れました。戦う意思はない、そういう事なのでしょうか?当初の作戦では追い忍として、再不斬さんを助ける事になっていた僕ですが、彼は既に僕と再不斬さんが仲間である事を察している様子。なら、この仮面は必要ないですね。
「再不斬さん………」
仮面を投げ捨て警戒をそのままに再不斬さんに急いで駆け寄り、怪我の程度を確認しました。……良かった。死ぬ程の深い傷はないです。でも、どうして彼は……。
「大丈夫だ。この人もお前も俺は殺そうとは思ってねぇよ。それにあっちにいる俺の仲間には、このことは言ってない」
「………君は何者ですか?」
普通の忍者なら僕達は殺されていると思いますし、今こうしてこんな話をする意味はなんなのでしょう?僕は純粋にそう思いました。
「俺か?俺はうずまきナルト。将来はイルカ先生みたいな忍者になることが夢の木ノ葉の下忍だ」
……僕に向かってそう話す彼の顔には、笑みがありました。子どものような、でも、しっかりとした意志のあるそんな笑み。……僕は強張らせていた体が解れていくのを不思議に思いながら、口を開きました。
「フフ………君は面白いですね。何だか警戒してる僕が馬鹿みたいじゃないですか」
「なら今は警戒を解いたって事でいいのか?」
「そうですね。君は他の忍者とは違うみたいですし、何より再不斬さんを殺さずに連れて来てくれました。なら、僕はあなたを敵とは見ません」
「ありがとな。ところでよ、お前の名前はなんて言うんだ?いつまでもお前って言うのも悪いし」
本当に……彼は不思議な人だ。
「僕の名前は白といいます。よろしくお願いしますね」
あとがき
あと一話……今月中にどうにか更新します!!
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