番外編『感謝、7周年記念とクリスマス!』
※諸注意――
本作はあくまで番外です。本編張りの様なシリアスムードは無しで行きたいと思います。そして今まで、出て来なかったキャラを登場させる予定です。
細かい設定などを無視した、所謂、裏番組的なものとして書き上げております他、何よりもキャラ崩壊の可能性がありますので、ご注意ください。
「……なんだこれは」
いきなり質問を放つのは、SUS次元方面軍総司令ベルガー大将である。彼の居座る要塞〈ケラベローズ〉の大会議室中央に飾られている巨大な樹を見て不機嫌そうに声を上げた。
「何だ、と仰っしゃられても……どこからどう見ても、“くりすますつりー”ではありませんか? ベルガー総司令」
それに答えたのは技術部主任のザイエンだった。その答えに、ベルガーはさらに不機嫌になる。そんなこと言われんでもわかるわ、馬鹿にしておるのか!
そう、大会議室の中央に飾られているのはクリスマス用に使う、全長およそ10m程の巨大な木である。丁寧にザイエンは、こう付け加えた。
「しかも、地球世界にある日本の『モミの木』を拝借しておりますぞ。いやぁ、地球の植物って良いですなぁ。取り繕うのに苦労しました」
「誰もそこまで聞いておらんわ! 何故、この様な事をしとるのか! しかも、お前らまで飾り付けしとるのか!?」
お前ら、とはSUS一般兵たちの事だった。しかもちゃっかりと将官クラスの者――ハボルやコニールまで混ざっている。飾りつけをするSUS軍人……その光景はかなりシュールだ。
「何故とおっしゃられても……総司令は何も伺ってはおられないので?」
「当然だ、知っていれば止めておる!!」
またも怒鳴り声を上げるベルガーに、ザイエンは涼しげな顔で答える。
「仕方ありませんね。この作品を掲載せて頂いているサイトの『シルフェニア』様が、今月で7年目を迎えられるのですよ。そのお祝い事と、せっかくのクリスマスを兼ねまして、この様な準備を行っているのです」
「貴様ぁ、メタな発言も程ほどにせんか! 第一、何故我らが誇る〈ケラベローズ〉要塞の中で、やる必要がある! 我らの冷酷なイメージが吹き飛んでしまうだろう、そんな事は間抜けな地球人共にでも任せておけば良い!!」
「そういう閣下も、“メタな”という発言をされるあたり、十分にイメージ崩壊しておりますがね」
さらに奮起するベルガーの猛威など知らぬ顔をしてかわすザイエン。その間にも兵士たちは、せっせかと荷物を運んでいる。大きめの段ボール箱には飾り用の品物や、電球、配線コード等、たくさん詰まっていた。
曲がりなりにもここはSUS軍の拠点である。その中で行われようとしている、7周年記念兼クリスマス・パーティを企画したのは、まぎれもないザイエンの仕業であるが……。
そこへ通りがかってきたのは、大柄なSUS軍人――戦車部隊司令のグデーリアス准将だ。彼の方にはかなりの量が詰まった箱が抱えられている。
「おい、ザイエン。これはどうすんだ?」
「あぁ、准将。それはあちらへお願いします。私が配線のチェックをしときますので」
「待てえええい! グデーリアス、貴様まで!!」
「別にいいじゃないですか、総司令。どうせ自分など、当分いない子扱いですし(48話の時点で)、ここはひとつ弾けて出番を増やそうかと?」
「出番とか言うな! そんなこと言ったら私まで危ういだろうが!!」
既に威厳の欠片さえなくなったベルガーに追い打ちをかけるが如く、今度はディゲルがその場に現れる。彼の普段の冷酷そうな表情など、何処にも無かった。
「総司令、そう固くならずとも良いではないですか。」
「……ディゲル、お前もか……」
唖然とするベルガー。彼が最後の頼みの綱であったらしい。真面な奴はおらんのか、と天を仰ぎみる様に嘆いた。それを見たディゲルは思わずこう呟いた。
「仕事のし過ぎなのだろう。地球でも“過労死”という言葉が辞典に乗ったらしいからな」
「本国の人使いの荒さはいつものことですからネェ。ベルガー総司令もこき使われ、大変でしょうに……」
まるで他人事の様に言うディゲルとザイエンだった。方や、第97管理世界、通称地球では……。
第97管理世界、日本の海鳴市の一角に建つ大きな豪邸がある。そして豪邸に集まりつつある、人だかり。例によって、ここでも7周年記念とクリスマス・パーティーを兼ねられている。
豪邸をパーティーのために開放しているのは、八神はやての友人、月村すずかである。この催しの中心人物の1人であるはやてが言うには、開催場所をどこにするか悩んでいたら、すずかのほうから豪邸の方を開放しましょう、と提供してくれたらしい。
日本の中でも屈指のお嬢様系に属するであろう、すずかの手配は迅速に進んだ。対してはやての方も、今回のパーティーに参加する者の集計を行い、それをすずかにも手渡した。
そこからは、すずかの方で料理の手配やら会場の設置やらと済まされる事となり、後は来客の確認、受付を行うくらいであった。
「まだ来とらんみたいやな……」
「マルセフ提督らの方が、若干遅れてるみたいだよ?」
いつもの管理局の制服ではなくドレスアップをしたはやての姿であった。その隣にいるフェイトも同様に、ドレス姿でマルセフらの遅れを知らせる。
「元々、別の地球から来ているから、無理もないかもね」
そう言ったのは、やはりドレス姿でいるなのはである。個人的なパーティーに近い今回の催しでは、私服での参加でも十分に構わない事になっていた。
しかし、月村邸で行うにしても参加者の中には防衛軍の人間もかなり混ざっている。あまりみっともない格好も出来ないという事で、ナイトドレスを着て来たのだ。
「やぁ、久しぶり、皆」
「お、ユーノ君やないか」
「久しぶり、ユーノ君」
3人の元へ現れたのは、薄い黄色のロングヘアーに中性的な顔立ち、そして眼鏡を掛けた青年、ユーノ・スクライアであった。例によって、普段の薄緑のスーツ姿である。
以前の式典関係でも着ていた服装で、おなじみの姿とも言えよう。ユーノはドレス姿の3人を前に、相変わらず似合ってるなぁ、等と呟いた。
ドレス姿で来ているのは何も彼女ら3人だけではない。3人の友人であるすずか、同じく小学時代からの友人アリサ・バニングスを始めとして、はやての騎士であるシグナム、シャマル、ヴィータの3人、機動6課時代のメンバーだったスバル、ティアナ、キャロ、シャリオ、ルキノ、アルト・クラエッタらもそれぞれドレスを来ている。
普段ドレスに成れていない者が殆どで、自分に似合っているのだろうか等と不安な様子である。中でも、シグナム、ヴィータ、スバルらは、男勝りな性格や活発的な性格も相まって、戸惑いを覚えているようだ。
「何だか落ち着かねぇ……」
「私も、普段はドレスなんて着ないから……」
ヴィータは不満げな顔をして呟き、スバルも恥ずかしそうな表情である。ヴィータの場合はバリアジャケットでもスカートなので、そうも違和感はないのだが、やはり落ち着かない。
水色のドレスを纏うスバルに至っては、制服以外にスカート類を着用した事も無い。バリアジャケットは無論、私服時もショート・パンツか半ズボンが定番である。
「何恥ずかしがってんのよ。普段はあんなに露出してるジャケットをはいてるくせに」
親友のティアナにからかわれるスバル。確かに、バリアジャケットは胴回りや太腿までを出している彼女が、ドレスを着て恥ずかしがる遠いうのも珍しいかもしれない。
そんなティアナも黄色のドレスに髪を降ろした状態の姿だ。スバルとは反対にスカートで過ごすことの多い彼女は、割かしドレスに抵抗感はない様であった。
「そんな恥ずかしがる事もないよ、スバル。十分に似合ってる」
「ギン姉ぇ……」
落ち着かない様子のスバルへ次に声を掛けたのは、彼女の姉、ギンガ・ナカジマである。ショートヘアの妹に比べ、青紫色をしたロングヘアーの彼女は珍しく髪を纏め上げていた。
そうかなぁ、等といまだに納得いかないような表情をするスバルに、今度は男性から声がかかる。
「ギンガの言うとおりだ、似合ってるぞ、スバル。母さんにも見せてやりたいくらいだ」
「お父さんまで……」
スバルとギンガの父親、ゲンヤ・ナカジマだった。こちらも管理局の制服ではなく、墨黒のスーツにネクタイ、という出で立ちだった。父親にまで似合っている、言われるとさすがに照れくさくなったようだ。
「ドレスなんて、何年ぶりかしらね。また着るとは思わなかったわ」
「いいじゃないレティ。貴方のその姿、まだまだ通用するわよ?」
こちらはリンディとレティの両名だ。どちらも、髪の毛の色になるべく合わせたドレスを纏っている。誰がどう見ても、40代には見えない美しさを放っていた。
「ま、こんな時じゃないと着る機会もないし。これ程のメンバーも、中々集まらないわよねぇ」
「そうね。お世話になっているサイト様へのお礼の意味を込めて楽しまないと。……ただし」
「?」
「レティ、貴女、気を付けなさいよ? 酔っぱらうと何をするか分からないんだから」
そう言われた瞬間、レディの表情がやや赤くなる。そう、管理局内部では常識人かつ有望な提督として名高いレティだが、飲酒をすると性格が180度反転してしまうのだ。
外見とは裏腹に豪酒であり、アルコールが回り始めれば周辺の人間へ構わず絡み始めてしまう。しまいには来ている服を脱ぎだしそうになるという。
以前にあった花見でも、その威力を存分に発揮していた。だが今回ばかりは、それを避けてほしいものである、というのがリンディのみならず、レティを知る者全員の意見だった。
「むぅ……姉としては、慣れないな」
「何言ってるんすか、チンク姉ぇ! 十分に似合ってるっすよ!」
銀髪に右目の眼帯を付けた、見た目10代前半の女性、チンク・ナカジマも慣れない服装に違和感を感じていた。その姉をなかば褒めるが如く励ましているのは、赤いショートカットヘアーを纏め上げた10代後半程の女性、ウェンディ・ナカジマである。
似合ってはいるだろうが、如何せんチンクの外見と中身の差もあり、可愛いお人形さんにも見えてしまうのは致し方が無いだろう。かたやもう2人も正反対の反応をしていた。
「スカートなんか履いたことないから、すんごい違和感を感じるんだけど」
「そう? 私は割かしと平気かも」
すっきりしないと言わんばかりに言うのは、赤髪ショートヘアで少年的な印象を与える10代後半の女性、ノーヴェ・ナカジマ。対して涼しい顔をしてドレスを着こなしているのは、薄いブラウンのロングヘアーを一纏めにした10代後半の女性、ディード・ナカジマだ。
「そう言えるのが羨ましよ……。そういや、セインらはどうしたんだ?」
「あ、セイン姉達なら……ほら、あそこにいるっす! おぉ〜い!!」
ウェンディは見つけた、と声を上げて探し相手を呼んだ。その声に反応してやってきたのは3名、全員が女性だった。1人はノーヴェの言うセインは、水色のショートヘアをしている。
短髪に横髪がややツンツンとした中性的印象を与えるオットー。そして薄い焦げ茶色のロングヘアーをしたディード。全員は聖王教会に所属しているメンバーだ。
「お、ウェンディじゃん! お久〜!!」
軽い雰囲気で返事を返したのはセインである。姉妹の中ではウェンディと並んで活発的かつ明るい性格ゆえ、ムードメーカーとして重宝する内の1人だ。
後ろからついてくる2人も、率先して声を出すようなタイプではないが、微笑むような表情をしている。彼女ら姉妹の様子を眺めやるのが、聖王教会騎士のカリムとシャッハだ。
2人とも、普段のシスターの服装ではなくドレス姿だ。とは言っても、やはり修道院服と似たり寄ったりで、黒を気色としたものだ。
「セインたち、久しぶりの再会を喜びあっているようですね」
「えぇ、そうね。姉妹ですもの、当然なのでしょう。それにしても、まさかドレスを着る事になるとは思わなかったわね」
「聖王教会に所属している以上、パーティーへ参加する事などありませんから、無理もないですよ」
段々と賑やかになりつつある豪邸内の会場。はやて、なのは、フェイトの3人は出入り口前で防衛軍組が来るのを待っている。まだかと呟いている時、設置式の転送ポートが作動した。
これは持ち運び用にと開発された、軽量型転送ポートだ。軽量型とは言っても、一度に10人前後は送り込める性能を持っている。ちなみに開発したのは、地球連邦科学局長官を務めている真田 志郎、および技術班の大山 歳朗であるとか。
さらに巡洋艦〈ファランクス〉副艦長のレーグ、管理局のマリエルも噛んでいるらしい。同時に周りはこうも思った。この4人が揃えば、何を開発してもおかしくはない、と。
しかも真田は『こんなこともあろうかと、小型軽量化した転送ポートを開発しておいた』と、はやては勿論、大勢が唖然としたという。
さて、転送ポートに姿を現したのは、〈シヴァ〉のマルセフとコレム、〈三笠〉の東郷と目方、〈アガメムノン〉の北野と藤谷、〈リットリオ〉のカンピオーニとクリスティアーノ、〈ファランクス〉のスタッカートとレーグら、10名であった。
皆、防衛軍の制服ではなく、男性陣は黒いジャケットにスラックス、蝶ネクタイあるはネクタイ、というタキシード姿。女性陣はドレスである。
「なんやろ、普段は制服姿しか見とらんから、ものすごく新鮮や」
「うん……軍人というよりも、どこかの俳優さんみたい」
なのはの言うとおり、防衛軍勢は何故か軍人と言うよりも俳優の様にも見えた。特に筆頭に立つマルセフが良い例だ。英国出身者ということも相まって、蝶ネクタイのタキシード姿は、軍人ではなく俳優またはどこぞの富豪の紳士見えてしまい、ここでシルクハットなど被せようものなら完璧だ。
転送が完了し、彼らは地面に足を付ける。そして会場へと進みはやて達と向き合う。
「送れて済まなかった」
「いいえ、大丈夫ですよ。大半の方は中へ入っておりますので、どうぞお入りください」
「では、そうしよう」
受付を澄ますと、かくかく中へ入っていく。その受付を済ます際にコレムも、はやて達に軽く挨拶を掛けながらマルセフに続いて入室する。そして3人は、次の2人組で驚きを感じた。
「あれ? 御二方は違う服装なんですか」
「そうじゃな。タキシードというのは、どうも身に合わなんでな。こっちの方がしっくりとくるでな」
「私は、ドレスとか着たことないので……」
東郷と目方である。タキシードやドレスが大半の中で、この2人は共に日本伝統の和服を着用していたのだ。東郷は黒の羽織に灰色の袴という、貫禄ある出で立ちをしている。
一方の目方、こちらも和服で、帯でしっかりと締めている。装飾は派手ではなく控えめな方で、なるべく動きやすさを考慮している様だった。
「十分にお似合いですよ、目方中佐。まさに“和服美人”って言葉が似合います」
「ありがとう、なのはさん」
結婚式など華やかな催し物でしか見ないであろう和服。今もその姿は減少しつつあるが、まさか未来の地球で残されているとは思わないようだった。はやても同じ日本人ながら、目方の和服姿に見とれてしまっている次第だ。
2人の受付が済まされ、中へ入っていく。その後ろ姿を確認した後に、3人してまた話し込む。
「いやぁ、まさか和服で来るとは思わんかったわ」
「本当だね。数百年先の地球だと、科学と進歩してるイメージが強いから。和服の方が段々薄れているって感じもしたけど」
「はやてとなのはは、和服って来たことないの?」
その問いに、2人は着たことは無い、と答える。和服の一種として、浴衣でなら夏に着たことはあるのだが、目方のようなさらに手の込む和服は来た事が無いのだ。
無理もない、彼女らは地球ではなくミッドチルダで生活する事が多くなってからと言うもの、日本文化に接する事が激減したのだ。何よりも、成人式なども欠席せざるを得なかった。
それを考えると、随分と日本離れしたのだろうか、と思ってしまう2人だった。次に来たのは、北野と藤谷ペアだ。
「お世話になるよ」
「よ、よろしく」
「はい、どうぞ」
何故か藤谷はそわそわとしている様子である。
「恥ずかしがらなくともいいだろう、中佐。自信を持っても良いと思うが」
「か、艦長はそうおっしゃいますが……」
(藤谷さんって案外とシャイな人なのかな? 普段はあんなに強気なのに)
なのはが心内で呟く。確かに普段では強気な態度が良く目につく彼女だが、例にもれず彼女もドレスに慣れていない口であったのだ。それを北野が窘める。
その様子は艦長と副長というよりも……。
(恋人同士とちゃうんか?)
本人たちがそれを意識している訳ではないが、そう見えても仕方ない。その2人の次に来たのは、自称、イタリア一の紳士カンピオーニと、重要なストッパー役のクリスティアーノだ。
「ほほぅ、管理局のエース殿がドレスとは……一層美しい。どうです? ご一緒にワインでもゴフッ!!??」
口どきタイムに入った瞬間、彼の背中に衝撃が走る。彼背中には、クリスティアーノの右手が押し当てられている。某必殺仕事人もビックリの早業であった。
その光景をデジャヴであろうかと思ったのははやてだった。ガクリとうなだれる彼を、支える形を取りながら、そして何事も無かったような笑みを、クリスティアーノは浮かべた。
「ごめんない、またこの馬鹿が変な事を言って」
「い、いいえ、大丈夫ですが……寧ろそちらの方が大丈夫ですか?」
やり過ぎではないだろうか、とはやてが思うのも無理はない。受付を終わらせると、控室へと直行するのであった。防衛軍でも異質な2人に驚くなのはとフェイト。
次に来たのはスタッカートとレーグのペア。相も変わらず母性的オーラを放つスタッカートもまた、神秘的な様子だ。方やレーグは何やら緊張している様子。
「そんなに緊張しなくてもいいのに。楽しめないわよ?」
「分かってはいるのですが、この時代の人達と接するとなるとやはり抵抗があります」
「そんなことないですよ、少佐。参加者の方には予めお伝えしていますし、何よりも理解の深いマリエルさんもいますから」
「な、何故そこでアテンザ技師が出て来るのか?」
技術分野同士、気が合う事で有名であるが、本人はあまりその事を自覚してはいないようだ。だが理解してれる人がいるだけで随分と気分も違うのも、事実であろう。
少し時間をおいて、再び転送ポートが動きだす。防衛軍側の参加者が全員入るまで、およそ10分ほどを要したものの、無事に会場へと集まることが叶った。
そして、パーティー開催の知らせをするための、開幕宣言に入る。会場正面にあるマイクへ歩み寄ったのは、マルセフであった。
(何故私が開式の言葉を? 筆者め、自分自身が出てくれば良かろうに)
と誰にやら文句を呟く。それは置いておくとして、マイクの前に立つマルセフへ視線が集中する。大事な始まりでこける訳にもいかないな、と思いつつも口を開いた。
「御集りのみなさん、パーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます。今回は、筆者のお世話になっているサイト、〈シルフェニア〉様の創立7周年記念、そしてクリスマスを兼ねて祝うことになります。今後のさらなる発展と、掲載させて頂いているお礼を込めまして、本挨拶とさせて頂きます。みなさん、今宵はそれぞれの世界の枠を超えまして、存分に語り合い、楽しみあいましょう!」
挨拶の終わりに、一斉に拍手が起きる会場内。すると今度は、司会を務めているらしい、月村すずかが前に出る。片手にはグラスを持ち、中にもシャンパンが注がれている。
「それでは、私の方から音頭を取らせていただきます。皆様、グラスをお持ちください」
すずかの言うとおり、出席者は皆、テーブルに置いてあったグラスを手に取る。大半はシャンパンまたはビールであるが、子供であるキャロやエリオ、ヴィヴィオ、ヨハンネ、さらに紫色のロングヘアーをした少女――ルーテシアや、20歳に到達していないティアナ、スバル等はサイダーあるいはアップル・ジュース等を注いでいた。
全員がグラスを持った事を確認すると、すずかは音頭を取った。
「では、今後のサイト様の発展とクリスマスを祝して……乾杯!!」
「「「乾杯!!!!!」」」
彼女がグラスを前に付き出して乾杯と言うと、会場内の全員もそれにならって乾杯、と言って近場の者同士でグラスをカチリ、と鳴らす。それから一口分だけ口に含んだ。
そこからは各個人で料理に手を付けたり、知り合いと話し込んだりと雰囲気を盛り上げていく。普段ならあり得ない光景だろう。第97管理世界の人間に加え、管理局の人間、そしてもう1つの地球の人間、果ては外宇宙のサイボーグ人間、それに似た戦闘機人、はたまたドラゴン――フリードのことであるが、ユニゾンデバイス……様々だ。
「改めて見ると、壮観ですね。マルセフ提督」
「確かにそうですな、ハラオウン提督。こんな作品だからこそ、でしか成し得られんでしょう」
ワイングラスを片手に話し込むのは、マルセフとリンディである。何かとマルセフはリンディの世話になったこともあり、その仲もだんだんと親密になりつつあるようだ。
「ハラオウン提督には、これまでお世話になりっぱなしでしたな」
「今更、何を仰るんです? こちらだって、逆にお世話になる事もありますよ。それに……義娘も貴方のご指導を貰っていますから」
「お相子、と言ったところですな、ハハハ」
語る2人の様子を遠巻きに見るのは、はやて、すずか、そしてアリサである。懐かしい再会と合わせて話し込んでいた様だが、2人の様子に羨ましいような憧れの様な目で見ている。
「まさに夫婦って感じね」
「そうなんよね。確かに夫婦に見えてまうわ」
「結婚してもああゆう感じなのかしら」
アリサ、はやて、すずか、という順に感想を漏らす。やがては自分らも彼氏――後の夫を持ち、家庭を持つとあのような感じになるのだろうか……と想像する。
3人は共に20歳を迎えている。いまだに彼氏すらいないようだが、果たしてどんな生活模様になるのだろうか? そこまで考えて、ふとアリサはなのはとフェイトの事を思い出す。
「あぁ、なのはちゃんなら、ユーノ君の所にいるで。フェイトちゃんはコレム大佐の所や」
「へぇ……やっぱりなのは、あのユーノとくっ付くのかな?」
「まぁ、恋人同士って感覚は無いみたいだから、どうだろう。友達以上、恋人未満、ていうのかな?」
「すずかちゃんの言うとおりやろうな。なのはちゃんはまだしも、問題はフェイトちゃんや……コレム大佐狙いやろうかねぇ?」
「え? フェイトって年上好きだったっけ?」
無理もない。フェイトはこの年で20歳になったものの、コレムの方は既に30歳を過ぎている。事実上、10歳ちょい上くらいの差があるのだ。疑問に思っても不思議ではない。
だが、その2人の様子は中々に良い雰囲気……とまではいかないものの、親密な感じはしていた。今もフェイトとコレムは楽しげに話し込んでいる。
「なんやろう、私ら取り残されとるんとちゃうか?」
「……“もう”20歳と言われると、そう思っても無理ないか」
「だ、大丈夫だよ。まだ先はあるんだし!」
何故か陰鬱になるはやてとアリサ。それを励ますように、すずかが声をかけている。
「先ほどは言い遅れたが、テスタロッサ一尉のドレス姿、綺麗だね」
「え!? あ……ありがとう、ございます」
突然の綺麗だ、というコレムの褒め言葉にフェイトがやや慌て、頬を赤らめる。恥ずかしさをごまかそうと、グラスのシャンパン口に含んだ。
だが慌てたものだからだろう、思わずむせかえってしまう。
「ケホッ、ケホッ、ケホッ! うぅ……」
「慌てて飲むこともないだろうに……ほら、これで口をふきなさい」
「あ、ありがとうございます」
背中を軽くさすりながら、コレムは胸ポケットから取り出したハンカチをフェイトに手渡す。それを受け取ると、彼女もその行為に甘えて借り、口元を軽く拭う。
少しして咳が収まると、抑えていたハンカチを離してから気づいた。そう、フェイトが付けていた口紅が付いてしまっていたのだ。
「あの、すみません、ハンカチを汚してしまって……」
「気にしなくても平気さ」
結局、赤面の上にさらに赤い色を塗り込めるだけとなったフェイトであった。
「ほほぅ、御神真刀流を極められておるのか」
「昔の話になりますよ。今はしがない喫茶店のマスターです」
武道の話に入り込んでいるのは東郷である。その話し相手になっているのは、高町 なのはの父、高町 士郎である。日本人同士であることもあってか、普通に馴染んでいる。
だが東郷からすれば、士郎の素質を目と身体つきからして見抜いていた。反対に士郎の方は今時の珍しい和服姿に目が留まったためである。
士郎および、妻である桃子は、今回のパーティーに際して、パティシエとしての腕を振るっていた。その証拠に、各テーブルには彼女の力作ともいえるスイーツが並ぶ。
「謙遜する事はあるまいて、はっはっは!」
「そう仰る東郷さんも、何かしら武道をお持ちで?」
「そうさな……これでも剣道をしておったよ。まぁ、防衛軍に入っている以上、そちらに手を付ける事が少なくなったがのう」
「剣道ですか。私の息子と娘もやっていましてね」
「成程、君の武人の血が濃いと見える」
傍ら、妻の桃子は目方と話し込んでいた。
「このお菓子、桃子さんがお作りになったんですか?」
「えぇ。海外へ修行してきた身だから、味にはそれなりに自信はあるのだけど……どうかしら?」
「美味しいです、本当に。向こうだと、これほどのお菓子は中々ないですね」
「ふふ、ありがとう、目方さん」
どちらも敬語で話してはいるが、目方は30代に対して桃子は40代前半である。なのに、桃子の方はまるで歳を感じさせない美貌であった。
お菓子の話から、今度は目方の家族の話へと移り変わり、桃子の方が驚く側になっている。未来にも、神社が存在し続けているのね、等と感想を述べていた。
どうです、今度機会があればそちらのご家族とこちらへ来てみませんか? と桃子は目方に提案する。これに対して目方は遠慮嬉しそうな表情を作る。
「よろしいんですか?」
「えぇ。そちらのご都合もあるでしょうけど、いらっしゃいな」
喜んで、とにこやかな笑顔で返す目方。案外と甘味が好きであったりする彼女にしてみれば、嬉しい誘いであった。家族同士の親交が深まれば尚更良いだろう。
「わぁ、可愛い!」
白く小さなドラゴン――フリードを見て、そう声を上げたのは黒髪のセミロングをした10代半ばの女性、古代 美雪である。動物好きとしてはたまらないであろう。
空想上の生きものでしかないであろうドラゴンは、どちらかと言えば男の子等が好きこむものだろうが、フリードの場合は子犬程の大きさを保っている。
凶暴さよりも可愛さが目立つ。愛くるしいと言わんばかりに、彼女はフリードの頭をやさしく撫でている。フリードもまんざらではないようで、嬉しそうに見えた。
召喚獣という存在は、最初に知り合ったヨハンネから聞かされていた分、抵抗は不思議とない。方やキャロと同じく召喚を主とする少女、ルーテシアは動物ではなく昆虫型だ。
ヨハンネの仲介もあって、今こうして美雪はフリードを目にしていたのだ。その主であるキャロも、同い年のヨハンネから美雪の事を聞かされていた。
獣医を目指しており、何よりも管理局世界の動物たちを目にして見たい、と。中々実現できないかと思われたのだが、今回のようなパーティーもあり、何とか美雪へフリードを見せてあげられたのだ。
その反応の良さに、キャロもヨハンネもホッとした。
「ヨハンネちゃんから聞いたんですけど、美雪さんは獣医を目指しているんですか?」
フリードの主、キャロは美雪に訊ねた。
「うん、まだまだ見習いだけどね。キャロちゃんは、管理局の局員をしているの?」
「はい。自然保護に関する所に所属しているんです。いろんな動物のお世話みたいなことをしてるんですよ」
「そうなんだ、いいなぁ。私もいろんな生き物と触れ合いたい……」
羨ましそうに言いながらも、クイ、クイ、と今度はフリードの顎を撫で上げる美雪。フリードも気持ちよさそうだ。今度は赤髪のツンツンとした少年――エリオが声を掛ける。
「けど、僕は美雪さん達の地球に行ってみたいです」
「そうだね、私も行ってみたいな。私の知らない動物にも会ってみたいです」
「わ、私も……行った事はあるけど、動物さんにはあったことないから……」
エリオとキャロは一度も行ったことのない地球へ憧れを持ち、ヨハンネも手広く地球を見た事が無いゆえに、改めて行ってみたいという願いがあった。
決して無理な話ではない。管理局の中にも、チラホラと地球へ赴く者が出始めているのだ。そして、その逆もしかり。管理局へ赴く防衛軍の人間も増えつつある。
仕事上の関係で赴くらしいが、中には休暇を利用したりするらしい。それでも、相互の直接交流はまだまだ浅く、これからは段々と交流する人間も増える予定だ。
「じゃあ、その時は是非私の勤め先に来て! ……ねぇ、佐渡先生、良いですよね!!」
嬉しそうに問いかける彼女の視線の先には、日本酒を勢いよく飲み干す60代の男性がいた。彼が動物フィールドパークの管理人、佐渡酒造である。
フィールドパークとは言うが、動物病院も兼ねている所だ。
「ウィ……ヒック! なんじゃぁ、美雪ちゃん。そんな事なら、いつでも来てもらいなさい、歓迎するぞぉ〜」
「先生……アマリ飲ミ過ギナイデ下サイ……」
ストップをかけるのは、赤い色をした楕円型の本体に短い手足を付けたロボット、アナライザーだ。2足歩行ではあるが、足裏にキャタピラが付いている。
長年にわたり佐渡をサポートして来た、人格を持つ高性能ロボットだ(本人談)。注意を即された佐渡は、付き合いが悪いぞアナライザー! と言い返しながらも、飲む。
「美雪さん、あれってお酒の勢いで言ってるわけじゃ……」
「大丈夫よ、エリオ君。先生はあれくらいで酔ったりしないの。いつもお酒ばかり飲んでいるからね」
酔いの勢いではないか、と心配をよそに佐渡は酒を煽る。美雪もこの光景は慣れ親しんでいるものだ。病院内であっても、自室では酒を飲むのだ。昔から変わらぬ事である。
「賑やかですわね、貴方」
「あぁ。今まで外宇宙の人間と接して来たが、やはり平和が一番だろうな」
そう言ってパーティーの賑やかな様子を眺めやっている別の2人組、古代 進と古代 雪が見守っていた。そして何よりも、娘である美雪の嬉しい表情が、心を安心させる。
以前は仕事に夢中であったために、娘に嫌われる事もあったのだが、近ごろは彼自身も家族との付き合いを優先させるようにしている。
娘の方も父親の接しようとする態度に少しづつ意識を変えた。母親の宥めもあって、以前よりはかなり絆が深まっている。そしてこの交流会だ。
世界観も広がり、友人も増える。美雪も早速新しい友人を見つけ、楽しそうにしている。美雪だけに限らない、他の者達もそれぞれの親交を深め合っているのだ。
ふと、そこへ声をかけて来る青年がいた。クロノ・ハラオウンだ。そして隣にいるのは彼の妻である、エイミィ・ハラオウン。
「メリークリスマス、古代提督、雪大佐」
因みに雪は防衛軍内部では大佐にある。長らく防衛軍本部の秘書を務めたり、育児休暇を取っていたりしたために、同期の中ではやや遅い昇進具合だ。
しかしそれは彼女にとってどうでもよい事である。それでもなお、30代の女性で大佐というのは多いものではないが。
「メリークリスマス、ハラオウン提督、エイミィ夫人」
古代も返事を返す。クロノは古代との親交はそれ程に深いものではない。しかし、東郷の教えの元で世話になる事も多く、そこから家族ぐるみの付き合いも徐々に進んでいた。
「そうだ、ハラオウン提督に頼みたい事があるんだが……」
「? なんです」
「今度、娘がこっちの管理世界の動物を見に行きたい、と言っていてね。済まないが、君を通して許可を貰えるかね?」
古代はかねがね、娘の羨ましそうな言葉を聞いていた。管理局世界の動物に触れあってみたい、と。簡単に管理局世界へ行けるものではなく、ある程度の許可が必要になるのだ。
とは言うものの許可よりも手筈が必要であろう。そんな彼の願いを、クロノは軽く頷いて了承を示した。
「分かりました。母にも話を通しましょう。せっかくこちらへ来ていただけるんですから、歓迎いたしますよ」
「それで、お二人は美雪ちゃんに同行されますか?」
そう訊ねたのはエイミィだ。美雪が管理局世界へ来ると言うのだから、親である2人も来るのだろうと踏んでいたようだ。古代はためらうことなく言う。
「えぇ。私と雪、美雪と3人で向かおうかと思います。ただ、現地では美雪にも、こちらで出来た友人と親しませたい」
「成程、わかりました。後ほど、詳しい日程をお教えください」
「わかった。決まり次第、連絡しよう」
古代は娘のために今後の予定を空けておかねば、と思いつつも、雪とハラオウン夫妻ら3人と共に話に耽っていった。
この後もパーティー参加者は皆、楽しそうな雰囲気の中で時間を過ごしていった。時間帯も午後10時に迫ると、段々と途中退室する者もチラホラと見受けられるようになった。
特に幼い子供や親がそうだ。キャロ、エリオ、ヨハンネ、ヴィヴィオ、ルーテシアらも早々に退室している。パーティーの締めは、再度すずかが言う事になっていた。
そんな彼女も心なしか顔が赤い。どうやらお酒が少々過ぎた様だ。それでも足取りはしっかりしており、マイク手前ですっころぶ、等という醜態は演じなかったが……。
幕引きがなされ、それに応じて参加者達も、お互いに別れの言葉を言いつつ続々と帰宅していった。
方や、〈ケラベローズ〉要塞はといえば……。
「なんだぁ! もうお終いか!?」
「も……もう、勘弁だ」
地獄絵図だ。あの後、要塞内にはエトスとフリーデ、ベルデルらの艦隊乗組員まで参加、どんちゃん騒ぎと化したのだ。酒を煽り続けて気分は向上、しまいには飲み比べが始まる。
豪酒だと公言する兵士達および将官達は、誰が一番飲めるかなどと騒ぎだし、最終的には10数名も残っていない。殆どが撃沈している状態だ。
その残っている人物と言うのが、なんと参加に反対気味だったベルガーである。どうやら吹っ切れてしまったようだ。他にはゴルック、グデーリアスなど、見るからに酒に強い者だ。
因みにガーウィックは遠巻きからディゲル、ザイエン、ズイーデルと共に、この惨状を眺めやっていた。
「おやおや、総司令官殿も大分きてますな、長官?」
「そうだなぁ、ザイエン。そろそろ止めた方がいいかなぁ?」
「……お前たちの上司だろう、何とかしてくれ」
「ズイーデル提督に同意」
本編での邪険さはどこへやら。ザイエンとディゲルは他人事の様に見やり呟く。それを呆れ顔で眺めるズイーデルに同意するガーウィック。正直、ここまで弾けると思わなかった。
まだまだ飲み続ける生き残り達……いや、3人が堕ちたようだ。屍累々の頂点で杯を掲げるベルガーの姿は、かなりシュールだ。これが、本性か……。
ガーウィックは、この酔いつぶれた部下たちをどうしようか等と考えながら、何気なく日本酒を口に含むのであった。
〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です!
前回の『吸血鬼エリート』に引き続き、7周年記念作品を書かせていただきました。
とは言うものの、やはりグダグダとした展開で終わってしまった……本当はもっとキャラを出そうかと思いましたが、本気でそうしようものなら、全編後編で済むのか……。
本編では出てきていない、元ナンバーズ、ルーテシア、キャロ、エリオ、アルト等々、名前しか出せないキャラも多かった気がします(汗)。
ヤマト側からも、もっと出そうとは思いましたが、さすがに断念せざるを得ず、オリキャラが中心となりました。
本来なら挿絵の1枚でも入れたかったのですが、生憎と私の技術では雰囲気をぶち壊す可能性もあるので、これも断念……。
もしも機会があったら、この様な番外編を書いてみようかと思う次第です。
しかしそうしようにもネタが思いつかないですね……恋愛ものなど、得意ではありませんし、ベターな感じにしかならないでしょう。
やはりシリアスばかり書いているからだろうか……(汗)。
それでは、これにて失礼いたします!!
あ、あとコメントへの返信ですが、本編の方で返させて頂きますので、コメントして下さった方々、申し訳ありません。
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